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【事件名】フリー素材の“CCライセンス”事件(Flickr)B
【年月日】令和4年5月31日
 東京地裁 令和3年(ワ)第9618号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年3月16日)

判決
 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり


主文
1 被告は、別紙著作物目録記載の写真を複製し、自動公衆送信し、又は送信可能化してはならない。
2 被告は、原告に対し、6万円及びこれに対する令和2年8月17日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、これを11分し、その5を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙著作物目録記載の写真を複製し、自動公衆送信し、又は送信可能化してはならない。
2 被告は、原告に対し、11万円及びこれに対する令和2年8月17日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、被告は、原告の著作物である写真を複製して自身のウェブサイトに無断で掲載し、同写真に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)並びに著作者人格権(氏名表示権)を侵害したと主張して、被告に対し、民法709条及び著作権法114条3項に基づき、11万円の損害賠償及びこれに対する令和2年8月17日(不法行為の日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、被告により同写真の著作権が侵害されるおそれがあると主張して、著作権法112条1項に基づき、同写真を複製し、自動公衆送信し、又は送信可能化することの差止めを求める事案である。
2 前提事実(証拠等の掲示のない事実は、当事者間に争いがない。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む。)
(1)当事者
 原告は、ドイツの写真家である。(甲1)
 被告は、不動産の売買、仲介、賃貸及び管理等を目的とする株式会社であり、屋上テラスを始めとするリゾート邸宅やライフスタイルを提案するウェブサイト「&RESORTLife」(以下「本件ウェブサイト」という。)を運営している。(乙22)
(2)原告写真
 原告は、平成29年7月21日、ドローンを使用して、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズホテルの屋上を空から撮影し、別紙著作物目録記載の写真(以下「原告写真」という。)を作成した。(甲1、2)
 原告は、その後、原告写真を、写真投稿サイトである「Flickr」(以下「本件投稿サイト」という。)に投稿した。
(3)本件投稿サイト
 本件投稿サイトにおいて、原告写真の下には、「Somerightsreserved」の表記があり、同表記部分をクリックすると、「クリエイティブ・コモンズライセンス証」と題するページに移転する。同ページには、次のような記載がある。(甲1、4、弁論の全趣旨)
 「あなたは以下の条件に従う限り、自由に:
 共有−どのようなメディアやフォーマットでも資料を複製したり、再配布できます。翻案−マテリアルをリミックスしたり、改変したり、別の作品のベースにしたりできます。
 営利目的も含め、どのような目的でも。
 あなたがライセンスの条件に従っている限り、許諾者がこれらの自由を取り消すことはできません。
 あなたの従うべき条件は以下の通りです。
 表示−あなたは適切なクレジットを表示し、ライセンスへのリンクを提供し、変更があったらその旨を示さなければなりません。これらは合理的であればどのような方法で行っても構いませんが、許諾者があなたやあなたの利用行為を指示していると示唆するような方法は除きます。」
(4)被告写真
 被告は、令和元年10月頃、訴外株式会社クラウドワークスが提供するインターネット上の業務委託先紹介サービスを使用して、本件ウェブサイトに掲載する記事の作成を委託するフリーランスのライターを検索し、同サービスに「B」の名称でライターとして登録していた者(以下「本件ライター」という。)と同サービス上でメッセージのやり取りを交わした上で、本件ライターに記事の作成を委託することとした。
 被告は、令和2年6月23日頃、本件ライターに対し、本件ウェブサイトに掲載する記の1つとして、有名な屋上テラスをテーマとした記事の作成を委託し(以下「本件委託契約」という。)、同年7月15日頃、本件ライターから記事の納品を受けた。同記事では、海外の有名な屋上テラスの1つとして、マリーナ・ベイ・サンズホテルが写真付きで紹介されており、その写真の1つとして、原告写真の複製写真(以下「被告写真」という。)が使用されていた。(甲3、乙19、20、21、22)
 被告は、同年8月17日、被告写真のデータを含む上記記事のデータをサーバーに保存し、本件ウェブサイトに掲載した。(弁論の全趣旨)
 被告は、同年12月8日、原告から、被告写真の削除及び損害賠償の支払を求める警告書を受け取り、その後、本件ウェブサイトから被告写真を削除した。(弁論の全趣旨)
3 争点
(1)原告写真は著作物に当たるか
(2)原告写真の利用につき原告の同意があったか
(3)被告が原告写真を利用したことにつき故意又は過失があるか
(4)損害額
(5)原告の請求は権利の濫用に当たるか
(6)過失相殺の成否
(7)被告が原告の著作権を侵害するおそれがあるか
第3 争点に関する当事者の主張
(1)原告写真は著作物に当たるか(争点1)
【原告の主張】
 原告は、天候の良好な日の日中に、ツインタワーと屋上プールで有名なマリーナ・ベイ・サンズホテルを被写体に選択し、ツインタワーと屋上プールのみならず同ホテルの全景及び周辺の海と周辺施設との調和を構図とし、プール反対側の上空から、同ホテル上を中心に据えてドローンを使って撮影した。すなわち、原告写真は、原告が撮影日時、撮影時の天候、撮影場所等を選択し、被写体の選択及び配置、構図並びに撮影方法を工夫してシャッターチャンスを捕えて撮影したものであり、原告の個性が表現されたものである。
 したがって、原告写真は創作性を有しており、写真の著作物に該当する。
【被告の主張】
 原告写真は、ドローン技術を用いてマリーナ・ベイ・サンズホテルの屋上プールを空から撮影したものであるところ、ドローン技術を用いてマリーナ・ベイ・サンズホテルの屋上プールを空から撮影すれば、原告写真と同じか類似したものにならざるを得ない。著作権法は、かかる「ありふれた表現」や「ドローン技術を用いて空から同ホテルを撮影する」というアイデアに独占権を付与するものではない。
 したがって、原告写真は、創作性に欠け、著作物に当たらない。
(2)被告による原告写真の利用につき原告の同意があったか(争点2)
【被告の主張】
 原告写真は、本件投稿サイトにおいて、「MarinaBaySands(マリーナ・ベイ・サンズ)」、「Anylicense(一切の許諾)」、「Commercialuseallowed(商用利用可)」で検索した際に顕出したものである。
 したがって、被告による原告写真の利用について原告の同意があったといえる。
【原告の主張】
 原告は、本件投稿サイトにおいて、原告写真の利用を原告の作品である旨のクレジットを表示することなどを条件として許諾している。すなわち、原告写真の利用条件として、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのうち、「Somerightsreserved」のマークを表示し、原告の作品である旨のクレジットを表示する義務などを内容とするライセンス条件を適用することを明記している。しかし、被告は、原告写真の利用に当たり著作者である原告の氏名及び題名を記載しておらず、被告の利用態様は上記利用条件に該当しない。
 したがって、原告は、被告による原告写真の利用に同意していたとはいえない。
(3)被告が原告写真を利用したことにつき故意又は過失があるか(争点3)
【原告の主張】
 被告は、本件ウェブサイトに掲載する記事の作成を外部のライターに委託した場合であっても、当該記事を本件ウェブサイトに掲載するに当たっては、他人の著作権を侵害しないよう、当該記事に含まれる被告写真が他人の著作権を侵害しないかについて自ら確認調査する義務があった。とりわけ、被告は、原告写真に付されたクリエイティブ・コモンズ・ライセンスを確認したにもかかわらず、そこに付されたライセンス条件を無視するか見落とすなどしている。
 したがって、被告が原告写真を利用したことにつき故意又は過失があることは明らかである。
 これに対し、被告は、ライターの実績とライター自身の「これまで他社の著作権に抵触することは一切ない」旨の言質を信用して法令遵守を誓約させたことをもって、当該調査義務の履行であると主張する。しかし、公信力のある情報に依拠する場合は格別、侵害者本人の言質を信用しただけでは確認調査義務を尽くしたことにはならない。また、侵害者本人に法令遵守を誓約させても確認調査義務を尽くしたことにはならない。
【被告の主張】
 被告や本件ライターを含むインターネット利用者一般は、クリエイティブ・コモンズの、形式的な著作権規制に縛られずウェブ上に掲載された作品を広く共有及び再利用できるようにする「コピーレフト」の精神等を信頼し、それに依拠して行動してよいはずである。すなわち、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの最新版である第4版によれば、ライセンシーが違反発見後30日以内に是正すれば自動的にライセンシーの権利が復活するとされているところ、被告及び本件ライターには、「ロイヤリティーフリーとしてアップロードされていた原告写真が、クリエイティブ・コモンズの勧告に反し、敢えて、現行の第4版を用いずに自動終了を目論むコピーレフト・トロールの写真であるか否か」を逐一確認する注意義務はなかった。そのようなことが分かっていれば、被告も本件ライターも原告写真を利用しなかった。
 特に、本件のように、被告が執筆業者(本件ライター)に記事の作成を依頼し受領した記事を自社のホームページに掲載した事案においては、被告が、逐一執筆業者に対し、記事に含まれる各写真の使用のために別途第三者の許諾が必要か否かを調査確認するまでの注意義務を負うものではない。被告は、本件ライターに対し、フリーサイトの画像の選定料1枚500円を対価として、パブリック・ライセンスに基づき無償利用可能である画像の選定を委託しており、このような場合にまで、被告が、更に全画像についてダブルチェックする義務が存するとすれば、受託者を信用して業務委託するというビジネスモデルそのものが成り立たない。
 そもそも、原告主張に係る「Somerightsreserved」という権利留保表記は極小の表記で一般社会常識上気付き得ないものであり、かつ原告主張に係るライセンス条件の記載は日本語として解読不能であるから、本件ライターにも過失はない。
 したがって、被告に故意又は過失がないことは明らかである。
(4)損害額(争点4)
【原告の主張】
 被告による被告写真の掲載期間は、少なくとも令和2年8月17日から同年12月8日までの約4ヶ月である。また、本件ウェブサイトにおける被告写真の掲載は、商用広告目的のHPセカンダリーページである。これを協同組合日本写真家ユニオンの使用料規程(第10頁)に当てはめると、使用料額は4万円である。また、原告は、被告による氏名表示権侵害により5万円相当の精神的損害を被った。加えて、原告は、本訴を提起するに当たり弁護士に依頼せざるを得なかったため、弁護士費用のうち2万円は被告の行為と相当因果関係のある費用である。
 以上のとおり、原告は、合計11万円の損害を被った。
【被告の主張】
 日本国内における原告写真と同等の写真の利用許諾料は数千円から1万円程度であるから、原告主張に係る損害額はわが国の社会通念を逸脱した法外なものといわざるを得ない。
 仮に、協同組合日本写真家ユニオンの使用料規程を前提とするにしても、本件利用目的が「一般利用」に該当することは明らかであり、かつ本件利用態様が「フレーム」ではなく「HPセカンダリーページ」に該当することも自明であるから、原告写真のライセンス料相当額は2万円となる。
 そもそも、著作権法114条3項に基づき損害賠償を請求するのであれば、真実、原告が対等当事者間の公正な商業上の交渉のもと原告写真を他者にライセンスしたことがあるのか、あるとしてそのライセンス料はいくらであったかについて、原告が具体的事実を主張し立証しなければならないところ、原告はかかる主張立証を全くしていない。
(5)原告の請求は権利の濫用に当たるか(争点5)
【被告の主張】
 原告の請求は、証拠捏造をいとわず、虚偽主張を強弁し、支払義務のない不当に高額な請求を行うコピーレフト・トロールの一環であり、権利濫用と評されるべきものである。
 すなわち、原告は、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの最新版である第4版の使用が推奨されているにもかかわらず、敢えて古い第2版を用いて被告に警告書を発し、本件訴訟に及んでいる。コピーレフト・トロールの主たる構成要件は、「敢えて、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの旧版を用いて利用者を欺くこと」にあり、本件請求は当該要件を満たしている。また、原告代理人は、コピーレフト・トロールの典型例とされる人物の代理をしており、同人の代理人として、被告に送った警告書と同様のものを日本の他の利用者に送付している。これらの事情を踏まえると、原告の請求が組織的なコピーレフト・トロールによる権利濫用行為の一環であることは明らかである。
【原告の主張】
 権利の行使が濫用に当るのは、権利行使の目的が不当である場合と、権利行使の結果相手に過大な損害をもたらす場合である。本件訴訟において、原告は不当な目的を持って権利行使をしていない。また、原告は著作権使用料相当額の損害賠償を求めているにすぎず、被告に過大な損害をもたらすものでもない。
 したがって、本件訴訟における原告の権利行使は権利の濫用に当たらない。
 これに対し、被告は、原告がクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの第4版を使用せず第2版を使用したことを指摘するが、写真の利用条件に違反した場合であってもその後に条件違反を治癒しなければ第2版と第4版とで違いが生じることはなく、単純に著作権侵害責任が生じるのであるから、この事情は権利濫用の根拠となるものではない。また、被告は、原告が証拠捏造、虚偽主張及び不当な高額請求を行うコピーレフト・トロールであるなどと主張するが、原告がそのような行為に及んだ事実はなく、権利濫用と評価される余地はない。
(6)過失相殺の成否(争点6)
【被告の主張】
 仮に、被告の過失が認められるとしても、原告はコピーレフト・トロールのスキームをもって故意に被告の過失を誘引したものである。
 したがって、少なくとも過失相殺が適用されるべきである。
【原告の主張】
 日本では、写真家が写真の著作権の侵害に対して訴訟を提起することをビジネスにすることは不可能であって、コピーレフト・トロールが成り立つ余地はない。本件においても、原告がコピーレフト・トロールのスキームをもって故意に被告の過失を誘引したという事実は存在しない。
 したがって、過失相殺が適用される余地はない。
(7)被告が原告の著作権を侵害するおそれがあるか(争点7)
【原告の主張】
 被告は、被告写真の使用が原告の著作権を侵害することを争っている。また、被告が再び被告写真を掲載することには何の障害も存在しない。被告が削除要求に応じたのは、訴訟を回避するためである。すなわち、被告が原告の著作権を侵害する「おそれ」は存続している。
 したがって、被告による著作権侵害を差し止める必要性がある。
【被告の主張】
 被告は、原告からの通知が届いた直後に被告写真を削除した。
 したがって、差止めの必要性は存在しない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(原告写真は著作物に当たるか)について
(1)前記前提事実、証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば、原告写真は、原告が、天候の良好な日の日中に、シンガポール共和国に所在するマリーナ・ベイ・サンズホテルを被写体として、ドローンを使用して、同ホテルの屋上を空から斜めに見下ろす角度で、同ホテルの屋上全体と周囲の景観等との調和を図りつつ撮影したものと認められる。そうすると、原告写真は、撮影の時間帯、撮影時の天候、構図等の選択において、原告の個性が表現されたものというべきである。
 したがって、原告写真は、原告の思想又は感情を創作的に表現した著作物に当たる。
(2)これに対し、被告は、マリーナ・ベイ・サンズホテルの屋上プールをドローンで空から撮影すれば、どれも原告写真と類似したものにならざるを得ないなどと主張して、原告写真の著作物性を争っている。
 しかし、写真の表現方法としては、撮影対象や撮影方法以外にも、構図等の選択において様々な工夫の余地が残されているところ、上記のとおり、原告写真には、それらの選択において原告の個性が表現されているというべきである。被告の上記主張は採用できない。
2 争点2(原告写真の利用につき原告の同意があったか)について
(1)前記前提事実によれば、原告は、本件投稿サイトの利用者が、クリエイティブ・コモンズに規定された条件、すなわち、原告が著作者である旨を表示するという条件を満たす方法で利用する場合に限り、同利用者による原告写真の複製、公衆送信等に同意していたものである。しかして、証拠(甲3)によれば、被告は、被告写真を本件ウェブサイトに掲載するに当たり、原告がその著作者である旨を表示しなかったと認められる。
 その他、原告写真の利用につき原告の同意があったことをうかがわせる事情は認められない。
 したがって、被告による原告写真の利用について、原告の同意があったとはいえない。
(2)これに対し、被告は、原告写真は被告が本件投稿サイトで「一切の許諾」等の条件で検索して顕出したものであるから原告の同意があったといえるなどと主張するが、被告が指摘するような事情が存したとしても、それをもって当然に原告の同意があったことの根拠となるものではない。被告の上記主張は採用できない。
3 争点3(被告が原告写真を利用したことにつき故意又は過失があるか)について
(1)前記前提事実及び証拠(乙19、22)によれば、本件ライターは、本件委託契約に基づいて、本件投稿サイトに掲載されていた原告写真を複製して被告写真を作成し、これを使用して記事を作成したこと、本件投稿サイトでは、原告写真の下に「Somerightsreserved」の表記があり、同表記部分をクリックするとライセンスの条件が記載されたページに移転する仕組みになっていたこと、及び被告が本件ライターから被告写真が掲載された記事の納品を受けた際、被告写真にはその出典が記載されていなかったことがいずれも認められる。これらの事情に照らせば、被告は、本件ライターの記事をウェブサイトに掲載するに際し、本件ライターに被告写真の出典を尋ねるなどして、被告写真が第三者の著作権ないし著作者人格権を侵害するものに該当しないことを確認することが可能であり、それにより同侵害を回避することが可能であったといえ、被告においてはその旨の注意義務が存したものと認められる。
 ところが、証拠(乙19)によれば、被告は、そのような確認をしないまま被告写真を本件ウェブサイトに掲載したことが認められ、被告が第三者の著作権や著作者人格権を侵害することのないように注意を払ったことをうかがわせる事情は認められない。
 したがって、被告には原告写真の利用につき過失があったと認めるのが相当である。
(2)これに対し、被告は、@インターネット利用者はクリエイティブ・コモンズの「コピーレフト」の精神等を信頼してよいはずである、A被告は本件ライターに対してフリーサイトの画像の選定料1枚500円を対価として無償利用可能である画像の選定を委託していた、B本件投稿サイトにおける「Somerightsreserved」の表記は一般社会通念上気付き得ないほど小さな表記であり、「クリエイティブ・コモンズライセンス証」と題するページのライセンス条件の記載は日本語として解読不能であるなどと主張して、被告の過失を争っている。
 しかしながら、証拠(甲1)によれば、本件投稿サイトにおける「Somerightsreserved」の文字は、掲載写真の利用を検討する者が十分認識し得る大きさで表記されている。また、同表記をクリックした場合の移転先のページには、前記前提事実(3)記載のとおりのライセンス条件が記載されており、その内容は、当該写真の利用条件が付されていることを十分認識し得るものといえる(上記B)。また、被告は、「コピーレフト」の精神等を指摘するが、本件投稿サイト等に上記ライセンス条件等が明記されている以上、被告の上記指摘をもって、同ライセンス条件を満たさない態様での著作物の利用を正当化する理由になるものではない(上記@)。さらに、証拠(乙19、21)によれば、本件委託契約では、フリーサイトの画像の選定料が1枚当たり500円と合意されていたことが認められ、記事の製作に当たって第三者の著作権ないし著作者人格権を侵害しないものを利用することが本件委託契約の前提となっていたと推認できるが、そのような前提の下に契約が締結されるのは第三者が作成した著作物の利用が想定される以上当然のことであって、これをもって直ちに、受託者の故意又は過失による第三者の著作権ないし著作者人格権に対する侵害を実効的に抑止し得るような事情に当たるとはいえない。そのため、被告が第三者の著作権ないし著作者人格権を侵害することのないように注意を払ったとはいえない(上記A)。
 したがって、被告の上記主張はいずれも採用できない。
 なお、被告のその他の主張も前記判示を左右するものではない。
4 争点4(損害額)について
 原告写真は、原告が、シンガポールのマリーナ・ベイ・サンズホテルを被写体として、ドローンを使用して、同ホテルの屋上を空から見下ろす角度で、同ホテルの屋上全体と周囲の景観等との調和を図りつつ撮影したもので、構図の選択等において原告の個性が表現されていること、被告が被告写真を本件ウェブサイトに掲載した期間は少なくとも令和2年8月17日から同年12月8日までの4か月弱であること、本件ウェブサイトは、不動産の売買等を目的とする株式会社である被告が広報と販売戦略の一環として立ち上げたものと認められること(乙22)、協同組合日本写真家ユニオンの使用料規程では、写真の著作物を商用広告目的でホームページのトップページ以外のページに掲載する場合の使用料は、3か月以内であれば3万円、4か月以内であれば4万円と規定されていることなど、諸般の事情を考慮すると、本件において原告が原告写真に係る著作権(複製権及び公衆送信権)の行使につき受けるべき金銭の額(著作権法114条3項)は、4万円と認めるのが相当である。
 また、上記諸事情に鑑みれば、原告写真に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたことにより原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は1万円と認めるのが相当であり、弁護士費用相当額の損害は1万円と認めるのが相当である。
5 争点5(原告の請求は権利の濫用に当たるか)について
 被告は、@原告が、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの最新版である第4版ではなく、敢えて第2版を用いて被告に警告書を発し本件訴訟に及んだこと、A原告代理人がコピーレフト・トロールの典型例とされる人物の代理人として警告書を送付したことなどを踏まえると、原告の請求が組織的なコピーレフト・トロールによる権利濫用行為の一環であることは明らかである旨主張する。
 しかしながら、被告の主張によっても、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス第4版における主な変更点は、それまでの約款においてライセンス条件に違反すると利用許諾が自動的に終了するとなっていた部分につき、違反を発見してから30日以内に是正すれば利用許諾が自動的に復活する旨のただし書が追加された点にあるというのであって、違反が継続していた期間の損害賠償責任等について影響するものではない。すなわち、第2版を使用したからといって、著作権者がライセンス条件に違反した利用者に対してライセンス条件に違反していた期間の損害賠償を請求できる範囲等に影響はない。そのため、第4版ではなく第2版を使用したという事情は、原告の請求が権利の濫用に当たることの根拠となるものではない。また、原告代理人がコピーレフト・トロールの典型例とされる人物の代理人として活動していた旨の被告の主張については、これを認めるに足りる客観的・具体的な証拠はない。
 また、被告のその他の主張を踏まえて本件の全ての証拠を検討しても、原告がいわゆるコピーレフト・トロールに該当し、その請求が権利の濫用に当たることの根拠となる事情は認められない。
 したがって、原告の請求が権利の濫用に当たるとは認められない。
6 争点6(過失相殺の成否)について
 前記5記載のとおり、本件の全ての証拠を検討しても、原告がいわゆるコピーレフト・トロールに該当することの根拠となる事情は認められない。また、原告がコピーレフト・トロールのスキームをもって故意に被告の過失を誘引したという事実も認めるに足りる証拠はない。
 したがって、過失相殺に関する被告の主張には理由がない。
7 争点7(被告が原告の著作権を侵害するおそれがあるか)について
 被告は、令和2年12月8日に原告から警告書を受け取り、その後に本件ウェブサイトから被告写真を削除しているが、被告写真の画像データを被告の保有するパソコンから完全に削除するなど、被告が再び本件ウェブサイトに被告写真を掲載することが困難であることを示す客観的な事情を認めるに足りる証拠はない。これに加えて、被告が本件において原告の著作権を侵害した事実を全面的に争い、原告の請求は権利の濫用に当たるなどと主張していることなども考慮すると、被告が原告写真に係る原告の著作権を侵害するおそれが認められるというべきである。
8 結論
 以上のとおり、被告が令和2年8月17日に過失によって原告写真に係る原告の著作権(複製権及び自動公衆送信権)並びに著作者人格権(氏名表示権)を侵害し、原告に合計6万円の損害を与えたこと及び被告が原告の同著作権を侵害するおそれがあることがいずれも認められる。被告が前記各争点についてその他縷々主張する内容は、いずれも前記各判示を左右するものではない。なお、被告は、原告代理人の代理権の欠缺も主張して本件請求の却下を求めているが、原告が提出している訴訟委任状の成立の真正を疑わせる具体的事情を認めるに足りる客観的証拠はなく、同委任状によって原告代理人の訴訟代理権の存在が認められる。被告の同主張は採用できない。
 よって、原告の請求は、6万円及びこれに対する令和2年8月17日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払並びに被告による原告写真の複製、自動公衆送信又は送信可能化の差止めを求める限度で理由があるから、この限度で認容することとして、主文のとおり判決する。なお、主文第1項に対する仮執行宣言は相当ではないからこれを付さないこととする。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判官 鈴木美智子
 裁判官 稲垣雄大
 裁判長裁判 官田中孝一は、転補につき、署名押印することができない。
裁判官 鈴木美智子


別紙 当事者目録
原告 A
同訴訟代理人弁護士 山本隆司
被告 株式会社アイム・ユニバース
同訴訟代理人弁護士 西美友加

別紙著作物目録 省略
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日本ユニ著作権センター
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