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【事件名】ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件V 【年月日】令和4年5月26日 東京地裁 令和3年(ワ)第34094号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和4年4月19日) 判決 原告 A 同訴訟代理人弁護士 政平亨史 同 矢部陽一 被告 ソフトバンク株式会社 同訴訟代理人弁護士 梶原圭 同 大重智洋 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文と同旨 第2 事案の概要 本件は、原告が、被告のインターネット接続サービスを介してインターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」に投稿された別紙投稿記事目録記載の記事(以下「本件記事」という。)に貼付された画像(以下「本件画像」という。)は、原告が著作権を有する動画(以下「本件動画」という。)の一部を複製し、送信可能化したものであり、原告の本件動画に係る著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するものであることが明らかであるとして、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の発信者情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。 1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は、当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む(以下同じ。)。) (1)当事者 ア 原告は、「B」の名称でフランチャイズ事業を営む個人である(甲4)。 イ 被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社であり、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信(特定電気通信)の用に供される電気通信設備(特定電気通信設備)を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者(特定電気通信役務提供者)である。 (2)本件画像の投稿 氏名不詳者により、ツイッターに開設された別紙投稿記事目録の「アカウントID」及び「名前・ユーザ名」記載のアカウント(以下「本件アカウント」という。)において、同目録の「投稿日時」記載の日時に本件画像を含む本件記事が投稿された(甲1。以下、ツイッターへの本件記事の投稿を「本件投稿」という。)。 (3)ツイッター社からのIPアドレスの開示 ア 原告は、本件訴訟提起に先立ち、ツイッターインク(以下「ツイッター社」という。)を相手方として、本件アカウントにログインがされた際のIPアドレスのうち一定期間内において同社が保有するもの並びに同IPアドレスを割り当てられた電気通信設備から同社の用いる特定電気通信設備に上記ログイン(以下「本件各ログイン」という。)がされた年月日及び時刻(以下「タイムスタンプ」という。)の各開示を求める仮処分決定を経て、同社からこれらの情報の開示を受けた(甲2)。 イ 別紙ログイン情報目録記載の14個のログインに係る同目録記載のIPアドレス(以下「本件接続元IPアドレス」という。)は、被告が管理し、被告の契約者に割り当てているものである。 (4)ツイッターの仕組み ツイッターを利用するためには、利用者は、ツイッターのアカウントを作成する必要があり、アカウントを作成するためには、名前、電話番号又は電子メールアドレスを登録する必要がある。また、登録したアカウントから投稿等を行う際には、利用者は、当該アカウントに設定したパスワードを入力してログインをする必要がある(甲6)。 2 争点 (1)本件発信者情報の「権利の侵害に係る発信者情報」該当性(争点1) (2)本件投稿による原告の権利侵害の明白性(争点2) ア 本件動画の著作物性及び原告の著作権の有無(争点2−1) イ 複製権及び公衆送信権侵害の有無(争点2−2) ウ 引用の抗弁の成否(争点2−3) (3)発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無(争点3) 3 争点に対する当事者の主張 (1)争点1(本件発信者情報の「権利の侵害に係る発信者情報」該当性) 〔原告の主張〕 ア 本件発信者情報が本件各ログインを行った契約者に係る情報である点本件発信者情報は、本件投稿の際の通信に係る発信者情報ではなく、本件投稿がされている本件アカウントにログインした際の通信に係るものであるところ、法4条1項が開示請求の対象としているのは「当該権利の侵害に係る発信者情報」である。この文言及び特定電気通信を用いて行われた加害者不明の権利侵害行為の被害者の当該加害者に対する正当な権利行使の可能性の確保と、発信者の表現の自由及びプライバシーの確保、これに伴い役務提供者が契約者に対して有する守秘義務等の間の調整を図る法の趣旨に照らすと、開示請求の対象は、当該権利の侵害情報の発信そのものの発信者情報に限定されるということはできない。すなわち、権利侵害行為そのものの送信時点ではなく、その前後に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報であっても、それが当該侵害情報の発信者のものと認められる場合には、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たると解される。 法4条1項の委任を受け、「当該権利の侵害に係る発信者情報」の具体的内容を定めた特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令(平成14年総務省令第57号)も、法4条1項の上記趣旨に即し、権利侵害情報の発信そのものに係る情報に限定する趣旨とは解されない。 これに加え、ツイッターを利用するには、利用者は、氏名、電話番号又は電子メールアドレスの登録及びパスワード設定を行ってアカウントの登録をする必要があり、また、自己のアカウントで投稿を行うには、当該アカウントにパスワードを入力してログインする必要がある。このことに照らすと、ログインするのは当該アカウント使用者である蓋然性が高い。 以上によれば、一定期間内に本件アカウントへログインした際の通信に係る本件発信者情報は、当該侵害情報の発信者の特定に資する情報といえるから、法4条1項の開示請求の対象となる。 イ 原告が特定する本件各ログインに係る接続先IPアドレスが12個である点原告は、被告に対し、本件各ログインに係る通信として、ツイッター社が接続先IPアドレスとして使用している12個のいずれかに被告が管理する本件接続元IPアドレスを使用して別紙ログイン情報目録の「UTC」又は「JST」欄記載の日時に接続した者の発信者情報の開示を求めている。コンテンツプロバイダへのアクセスログの特定は、接続先IPアドレスだけではなく、接続元IPアドレス、タイムスタンプ、URL等種々の情報によって可能であり、必ずしも接続先IPアドレスは必須でない。また、被告においては、本件接続元IPアドレス、タイムスタンプ及びURL又は接続先IPアドレスの3つの組合せによりアクセスログを特定することになると考えられるところ、現時点において、本件各ログインに係る契約者がいずれも同一人であることが強く推認されることからすれば、本件投稿に無関係の者が14回のログイン全てで偶然に重なることは確率的に事実上あり得ない。 そうすると、本件各ログインに係る接続先IPアドレスを12個として特定したとしても、そのことによって、本件接続元IPアドレスを用いて特定される契約者と本件各ログインを行った者との同一性に疑義は生じず、本件発信者情報の特定に何ら問題はない。 〔被告の主張〕 ア 本件発信者情報が本件各ログインを行った契約者に係る情報である点本件各ログインを行った者は本件投稿をした発信者とは限らないから、本件各ログインに係る契約者情報が「権利の侵害に係る発信者情報」(法4条1項)ということはできない。すなわち、本件各ログインは、単に本件アカウントにログインするだけのことであって、原告が原告の著作権が侵害されたと主張する本件投稿を行う際の通信ではない。また、ツイッターのアカウントは複数人で管理・運営することもあり得るのであり、パスワードさえわかればアカウント作成者以外の者でも当該アカウントへのログインが可能であることから、本件各ログインに係る被告の契約者が本件投稿を行った蓋然性が高いとはいえない。さらに、仮に本件各ログインに係る情報が開示請求の対象となる「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するならば、非侵害者の情報が開示され、そのプライバシーや表現の自由、通信の秘密等を害するおそれがあり、相当ではない。 イ 原告が特定する本件各ログインに係る接続先IPアドレスが12個である点被告は、本件各ログインに係る本件接続元IPアドレスを同時に多数の契約者に割り当てている。このため、本件各ログインと紐付く契約者を特定するためには、本件接続元IPアドレス、同アドレスの割当日時の記録(タイムスタンプ)のほか、接続先IPアドレスの特定が必要となる。 ところが、ツイッター社に割り当てられた接続先IPアドレスは多数存在し、クラウドコンピューティングサービスによりこれらが動的に振り分けられ、接続の都度、接続先IPアドレスが異なるという仕組みが採用されていると思われる。その上、ツイッター社が提供するツイッターの利用者は多数いることから、本件各ログインと紐付く契約者を誤って特定しないためには、本件各ログインがツイッターに割り当てられている多数の接続先IPアドレスのうちいずれの1つに接続されたものかを特定する必要がある。 しかるに、原告は、本件各ログインにおいて利用された可能性のある接続先IPアドレスを12個示しているに過ぎず、これを用いて特定される契約者は、本件各ログインを行った者との同一性に疑義があり、この観点からも、本件発信者情報が「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するとはいえない。 もっとも、被告が本件接続元IPアドレス、タイムスタンプ及び12個の接続先IPアドレスを用いて調査した結果、14回の本件各ログインのそれぞれに対応する通信として該当するものは1つであったこと、すなわち、同一時刻に同一の接続元IPアドレス(本件接続元IPアドレス)の割当てを受け、原告が特定する12個の接続先IPアドレスのいずれかに接続した通信が1つであることは認める。 (2)争点2−1(本件動画の著作物性及び原告の著作権の有無) 〔原告の主張〕 本件動画は、原告が「B甲店」を訪れた際に、自らのスマートフォンで同店の前で原告を迎えているスタッフ等を撮影したものである。その際、原告は、被写体の配置、ポーズ、調光、撮影の流れ(ストーリー)等を考えて撮影したことから、その思想等を創作的に、映画の効果に類似する視聴覚的効果を生じさせる方法で表現し、その全体的形成に創作的に寄与している。したがって、本件動画は映画の著作物に該当し、かつ、原告がその著作者であって、著作権を有する。 〔被告の主張〕 不知ないし争う。 (3)争点2−2(複製権及び公衆送信権侵害の有無) 〔原告の主張〕 原告は、本件動画をSNS「インスタグラム」の自身のアカウントに、そのストーリー機能を利用して投稿していたところ、本件投稿の発信者は、本件動画の一部をスクリーンショット機能を用いて複製して本件画像を作成し、これを本件記事に付して投稿した。なお、原告は、本件動画の利用を第三者に対して許諾したことはない。 したがって、本件投稿において本件画像が添付されたことにより、原告が有する本件動画の複製権及び公衆送信権が侵害されたことは明らかである。 〔被告の主張〕 不知ないし争う。 (4)争点2−3(引用の抗弁の成否) 〔被告の主張〕 本件画像は、本件記事の「スタッフ4人平均売り上げ100万ないのに大丈夫かな、、、頑張ってほしいけどこの日の売り上げが気になるw」との記載と共に掲載されている。このため、スタッフが4人いることを示す趣旨で本件画像が掲載されたのであれば、その引用の必要性が認められる。また、本件画像が本件記事の大部分を占めているとしても、本件記事に記載された上記文章は僅か3行で終わるものであるため、仮に本件画像のサイズをこれより小さくして掲載すると、本件画像における描写が読み取れなくなってしまうことになるし、本件記事における上記文章部分も含めて本件記事を全体として見た場合、本件画像の内容を示すことに本題があるものでないことは理解される。さらに、出所の表示は適法な引用の要件ではない上、本件画像の下部には、「@(以下省略)」との文字がそのまま掲載されており、出所の特定は十分に可能である。 以上から、本件記事において本件画像を掲載した行為は、適法な「引用」(著作権法32条1項)に当たり、原告の著作権を侵害しない。 〔原告の主張〕 本件記事のうち、本件投稿の発信者による投稿部分は、「スタッフ4人平均売り上げ100万ないのに大丈夫かな、、、頑張ってほしいけどこの日の売り上げが気になるw」であり、原告の経営する会社が運営するフランチャイズ事業につきネガティブな趣旨を読み取れるものであるところ、当該投稿部分と本件画像との紐付けは不明確であり、本件画像を掲載する必要は乏しい。また、本件記事では、原告のインスタグラムのアカウントを特定する部分が意図的にカットされており、本件画像の出所が明示されていないこと、本件記事全体の主要部分を本件画像が占めていること、インスタグラムのインスタストーリーは24時間で投稿が消えるものであり、当該時間を超える拡散を望まないことが投稿者の合理的意思であることなどからすれば、本件記事における引用の方法及び態様は、引用目的との関係で社会通念に照らし合理的な範囲内のものとはいえない。したがって、本件記事における本件画像の添付は、適法な引用に当たらない。 (5)争点3(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無) 〔原告の主張〕 原告は、本件記事の発信者に対し、原告の権利が違法に侵害されたことを理由に損害賠償請求等を行う予定であり、そのためには、上記発信者の氏名又は名称等の開示を受ける必要がある。 したがって、原告には、被告に対して本件発信者情報の開示を受ける正当な理由がある。 〔被告の主張〕 不知ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件発信者情報の「権利の侵害に係る発信者情報」該当性) (1)法4条1項は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者が開示関係役務提供者に対して開示を請求することのできる情報として、「権利の侵害に係る発信者情報」と規定しているところ、「関係する」という意義の「係る」という文言が用いられていることからしても、「権利の侵害に係る発信者情報」は、権利侵害行為そのものに使用された発信者情報に限定されず、権利侵害行為に関係する情報を含むと解し得る。また、法4条の趣旨は、特定電気通信(法2条1号)による情報の流通には、これにより他人の権利の侵害が容易に行われ、その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し、匿名で情報の発信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという、他の情報流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解される(最高裁平成22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁参照)。このような趣旨に鑑みると、権利侵害行為そのものの送信時点ではなく、その前後に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報であっても、それが当該侵害情報の発信者のものと認められる場合には、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たると解すべきである。 (2)前提事実(前記第2の1(4))のとおり、ツイッターを利用するには、利用者は、パスワードを設定するなどしてアカウントを登録し、ログインの際にはその登録したパスワードの入力を求められる。また、証拠(甲1、7)によれば、本件アカウント(アカウント名「(省略)」)のプロフィール欄には、「経営18年目物販/エステ/飲食/趣味スポーツ、ゲーム。年商15億のまだまだ下流人」との記載があることが認められる。これらの記載からは、本件アカウントは個人が開設して利用しているものであることがうかがわれる。加えて、ツイッター社から開示を受けた本件アカウントへのログイン情報の一部である本件各ログイン情報に係るログインは、比較的短期間(令和3年9月11日〜同月25日(日本標準時))に、昼夜を問わずされていることがうかがわれることをも踏まえると、本件アカウントは、特定の一個人により管理・運用されているものと推認される。他方で、本件アカウントにより行われた本件投稿以外の投稿の内容等をみても、本件アカウントが法人や団体により開設・管理されているなど、複数の者が本件アカウントを使用していたことをうかがわせる具体的な事情は見当たらない。 そうすると、本件接続元IPアドレスを使用して本件アカウントにログインした者は、特定の一個人であると見るのが相当である。これによれば、本件各ログインを行った者と本件投稿を行った者とは同一の者であるということができる。そうである以上、本件各ログインに係る本件発信者情報は、侵害情報である本件投稿の発信者のものと認められるから、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるというべきである。 (3)被告は、@原告が開示を求める本件発信者情報は、本件投稿の際の通信に係るものではなく、本件投稿がされた本件アカウントにログインした際の通信に係るものであり、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらないこと、A本件各ログインと紐付く契約者を誤って特定しないためには、本件各ログインがツイッターに割り当てられている多数の接続先IPアドレスのうちいずれの1つに接続されたものかを特定する必要がある旨を主張する。 しかし、上記@の点については、前記(1)及び(2)のとおりである。 他方、上記Aの点については、弁論の全趣旨によれば、本件各ログインに係る情報として、被告が契約者に割り当てている本件接続元IPアドレス、タイムスタンプ及び12個の接続先IPアドレスをもって原告が特定した通信は、被告による調査の結果、いずれも1つずつであったことが認められる。そうであれば、本件アカウントに同時刻に同じ接続元IPアドレスを利用して接続した者は1名であることが認められ、本件各ログインのそれぞれについて、1つの通信に特定されており、本件記事と無関係の者が捕捉されることはないということができる。 このような事情の下では、原告が12個の接続先IPアドレスを挙げてこのうちのいずれかに接続した通信をもって開示を求める本件発信者情報については、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらないとはいえない。 以上のとおり、この点に関する被告の主張は採用できない。 2 争点2−1(本件動画の著作物性及び原告の著作権の有無)及び争点2−2(複製権及び公衆送信権侵害の有無)について (1)証拠(甲3、4)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、自身の事業である「B」事業及びそのフランチャイジーである甲店の宣伝広告目的で同店舗を訪れた際に同店舗のスタッフが店舗前で原告を出迎えている様子を、自己のスマートフォンを用いて撮影し、本件動画を制作したことが認められる。このような本件動画の撮影内容及び経緯等を踏まえると、本件動画の撮影にあたっては、原告が被写体である店舗、スタッフ等の配置、アングル、動き、撮影の流れ等を自ら決定し、その決定に従って撮影したものであることがうかがわれる。そうすると、本件動画は映画の著作物といえると共に、本件動画の全体的形成に創作的に寄与した者は原告といえるから、原告は、その著作者として著作権(複製権・公衆送信権)を有すると認められる。これに反する被告の主張は採用できない。 (2)本件動画と本件画像とを対比すると、本件画像は、本件動画の一場面(概ね冒頭の0秒頃)と同一のものであることが認められる。すなわち、本件画像は、本件動画の一部と同一のものである。そうすると、本件記事の投稿者は、被告が提供するインターネット接続サービスを利用して本件記事をツイッター上で作成、投稿することにより、本件動画を有形的に再製すると共に、インターネットを通じて本件記事にアクセスした不特定又は多数の者に、本件画像を閲覧できる状態に置いたと認められる。これらは著作物の複製・公衆送信行為に当たる。なお、原告が本件記事の投稿者に対して本件動画の利用を許諾したことをうかがわせる証拠はない。 そうすると、本件投稿により、原告が有する本件動画の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことは明らかというべきである。 3 争点2−3(引用の抗弁の成否)について (1)被告は、本件投稿につき、店舗にスタッフが4人いることを示す趣旨で本件画像を掲載したものであれば引用の必要性があるなどとして、適法な引用に該当する旨主張する。 引用による利用が著作権法32条1項により適法とされるためには、引用して利用することが公正な慣行に合致すると共に、引用の方法や態様が、報道、批評、研究等の引用目的との関係で、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることを要すると解される。 (2)証拠(甲1)によれば、本件記事には「スタッフ4人平均売り上げ100万ないのに大丈夫かな、、、頑張ってほしいけどこの日の売り上げ気になるw」との文章が付されていることが認められる。この文章の趣旨は必ずしも明確とはいえないものの、単にスタッフの人数が4人であることを殊更に指摘することがその趣旨の全部又は一部であるとは考え難い。仮にそのような趣旨であるとしても、その事実の摘示のために本件動画(本件画像部分)を引用する必要性は乏しいといえる。その上、本件画像は本件記事全体の分量の過半を占めており、独立して鑑賞の対象となり得る程度の大きさであるのに対し、上記文章は短文であると共に比較的小さな文字で掲載されている。これらの事情等に照らすと、本件記事における本件動画の引用の方法及び態様は、引用目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるということはできない。また、当該引用が公正な慣行に合致すると見るべき事情もない。 以上によれば、本件記事に本件画像を添付して本件動画を利用したことは、適法な引用に当たるとはいえない。この点に関する被告の主張は採用できない。 (3)そうすると、被告が提供するインターネット接続サービスを利用した本件投稿により、原告が有する本件動画の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことは明らかといえる。また、本件発信者情報は権利侵害に係る発信者情報に該当すると共に、本件投稿に係る経由プロバイダである被告は、開示関係役務提供者(法4条1項)に当たる。これに反する被告の主張は採用できない。 4 争点3(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無) 本件投稿による原告の本件動画に係る著作権(複製権及び公衆送信権)の侵害が認められること及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件投稿をした発信者に対して損害賠償請求等をする予定であることが認められる。そうすると、原告は、その権利行使のために本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる。これに反する被告の主張は採用できない。 第4 結論 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 杉浦正樹 裁判官 小口五大 裁判官 鈴木美智子 別紙 発信者情報目録 別紙投稿記事目録記載の「ログイン情報」に係る各IPアドレスを同各日時(UTC又はJST)頃に使用し、同目録記載の各URL又は接続先アイ・ピー・アドレス(いずれか)に接続した者に関する以下の情報 1 氏名又は名称 2 住所 3 電話番号 以上 (別紙投稿記事目録省略) (別紙ログイン情報目録省略) |
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