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【事件名】“flickr”掲載写真の無断複製事件D
【年月日】令和4年5月19日
 東京地裁 令和3年(ワ)第18876号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年3月15日)

判決
原告 X
原告訴訟代理人弁護士 山本隆司
被告 株式会社251CAREeR
被告訴訟代理人弁護士 戸田順也


主文
1 被告は、原告に対し、6万円及びこれに対する平成30年2月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し、その4を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
5 原告のために、この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙著作物目録記載の写真を複製し、自動公衆送信し、または送信可能化してはならない。
2 被告は、原告に対し、26万円及びこれに対する平成30年2月8日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 仮執行宣言
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 被告がその写真を加工等して被告の運営するウェブサイトに掲載したことについて、原告の複製権及び公衆送信権の侵害に当たると主張して著作権法112条1項に基づく差止めを求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償として、複製権及び公衆送信権侵害によるライセンス料相当額、氏名表示権侵害及び同一性保持権侵害による慰謝料、弁護士費用並びに不法行為の日以降の日である平成30年2月8日から支払済みまでの平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1)ア 原告は、スウェーデン王国の国籍を有する者である。(甲9)
イ 被告は人材派遣業及び有料職業紹介業等を目的とする株式会社である。(争いなし)
(2)原告は、平成26年12月15日、別紙「著作物目録」記載の写真(以下「原告写真」という)を撮影した。原告写真は、日本の一万円紙幣と千円紙幣を表向きや裏向きなどを入り混ぜながら重ねて置き、その状態を上から撮影したものである。原告写真は、構図、レンズ・カメラの選択、アングル、シャッターチャンス、シャッタースピード・絞りの選択、ライティング等により、原告の思想・感情を創作的に表現しており、写真の著作物に該当する。(甲1、10、弁論の全趣旨)
(3)原告は、平成26年12月、原告写真を、写真投稿サイトであるFlickrという名称の写真投稿サイトで公開した。その際、原告写真について、タイトルを「Japanese10000and1000YenBills一万円札千円札」(以下「本件タイトル」という。)とし、作成者を示す欄に「Japanexperterna.se」(以下「本件名称」という。)と表示されるようにするとともに、著作権者としての一部の権利を留保することを意味する「Somerightsreserved」の文言及びクリエイティブコモンズライセンス(以下「CCライセンス」ということがある。)で定めている特定のロゴが付されていた。そのロゴをクリック等することにより、上記文言及びロゴで示される原告写真の使用条件は、原作者のクレジット(氏名、作品タイトルなど)を表示し、写真を改変した場合には元の作品と同じCCライセンスで公開することを主な条件として営利目的での二次利用も許可されるというものであることを知ることができた。(甲1、4、弁論の全趣旨)
(4)被告は、インターネット上の各種記事を紹介する、「251MEDIA」という名称のウェブサイト(以下「被告サイト」という。)を運営している。被告は、遅くとも平成30年2月8日までに原告写真を複製し、別紙URL目録記載1のURLにおいて別紙被告写真目録の写真(以下「被告写真」という。)が表示されるように被告写真のデータを対応するサーバーに記録してこれを自動公衆送信し得るようにし、被告写真を公衆送信した。被告写真は、原告写真の左右を一部切除したものであった。また、被告は、被告サイトにおける別紙URL目録記載2、3のURLのウェブページ(以下、両ウェブページを総称して「被告各ウェブページ」という。)において、同目録記載1のURLに対するリンクを設定し、被告各ウェブページを閲覧すると被告写真が表示されるようにした。被告写真が表示されるに当たって、本件タイトル及び本件名称を表示するための措置は執られず、本件タイトル及び本件名称が表示されることはなかった。
(5)被告は、原告からの警告を受け、令和2年10月30日に被告各ウェブページを公開しないようにする設定をし、利用者に被告各ウェブページが表示されないようにした。また、被告は、本件訴訟の訴状の送達後、別紙URL目録記載1のURLの被告写真のデータを削除して、被告写真に係る公衆送信がされないようにした。(弁論の全趣旨)
3 争点に対する当事者の主張
(1)被告が、被告写真の掲載に当たり著作権者から許諾を得ていたか(争点1)
(被告の主張)
 被告のウェブ担当者は、被告サイトの構築に当たって権利者からの許諾を受けたフリー素材のみを用いており、原告写真も、当時、正当な権利者から許諾されたフリー素材であることを確認して被告サイトに掲載した。
(原告の主張)
 被告の主張は否認する。
(2)損害(争点2)
(原告の主張)
ア 著作権侵害
 被告によって、原告の複製権、公衆送信権が侵害された。著作権法114条3項所定の損害賠償を算定するに当たっては、文化庁から著作権等管理団体に指定され、著作権使用料について文化庁の審査を経ている協同組合日本写真家ユニオン(以下「写真家ユニオン」という。)の使用料規程が利用されるべきであり、被告による原告写真の利用は、同規程が定める「商用広告目的」の「トップページ」での利用に該当し、使用期間は3年間を超えるから、その使用料相当額は、12万円とされるべきである。
イ 著作者人格権侵害の慰謝料
 被告は、原告の同意を得ずに原告の氏名(ペンネーム)を著作者として表示せず、また、写真の左右を切除した。この行為により、被告は、原告の氏名表示権及び同一性保持権を侵害しており、これに係る慰謝料としては10万円が相当である。
ウ 弁護士費用
 ア、イに係る損害額からすると、弁護士費用相当損害金は4万円が相当である。
(被告の主張)
ア 著作権侵害について
 写真家ユニオンは、「職業写真家としての実績を示す写真資料(3年間で3社5点)」のある「職業写真家」であることが加入資格になっており、相当高度な実績のあるプロ写真家の団体である。原告は写真家であるとしても第三者に有償でライセンスしたことすらない無名のアマチュアにすぎないから、写真家ユニオンの使用料に係る規程は適用されるべきではない。当初、原告は、写真の使用料について「fotoQuoteソフトの料金表に従ってライセンス料を課している」と主張し、その証拠として、請求書や着金の証拠を提出した。これに対して被告が、それらは原告が請求額を設定した警告文書を送付し、一部の者が争いを避けるために解決金として金銭を支払ったものをライセンス実績と称しているにすぎないと指摘したところ、原告は、争点を絞るとして上記主張立証から逃げようとした。これからすると、原告がアマチュアにすぎないことが明らかである。
 日本においては、アマチュア写真家であっても、ピクスタ株式会社が運営する「PIXTA」を利用すると、画像を提供したクリエイター会員が販売報酬を得ることができるが、その額は最大サイズであるXLサイズの写真の単品販売であっても、2310円を上回らない。
 さらに、原告写真は、CCライセンスに基づき無償で配布されており、原告が原告写真から現実に受けている金額はゼロなのであるから、原告が受けるべき金銭の額はゼロであるというべきであり、そうでなくとも上記2310円よりもさらに減額されるべきである。
イ 人格権侵害について
 氏名表示権は、その実名もしくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利であり、第三者の実名又は変名を表示することについての権利は含まれない。原告は、「Japanexperterna.se」の表示等をすることを条件に原告写真の公衆への提供や提示を認めていたところ、「Japanexperterna.se」は第三者であるジャパンツアーズ社のブランドなのであるから、第三者の変名であり、原告の実名でも変名でもない。したがって、被告が「Japanexperterna.se」を表示しなかったからといって、原告の氏名表示権を侵害するものではないし、仮に侵害するとしても、原告は別人名義で原告写真を公開しているのであるから、その別人名義が省かれたからといって原告自身の名誉・声望には何ら影響を及ぼさないのであり、原告に精神的苦痛は生じないし、発生するにしても極めて軽微である。
 同一性保持権侵害について、原告は、「Japanexperterna.se」の表示等をすることを条件に原告写真を改変することも認めているのであり、改変されたこと自体について精神的苦痛を受けるわけではない。
(3)差止めの必要性(争点3)
(原告の主張)
 被告は、原告からの警告を受けて被告各ウェブページにおける被告写真の掲載を中止したが、被告は侵害を認めておらず、本件訴訟の提起まで被告写真につき別紙URL目録記載1のURLに係る公衆送信は続けていたのであるから、被告による侵害を差し止める必要がある。
(被告の主張)
 原告の主張は争う。被告は、原告の警告後、被告各ウェブページについて、公開しないようにする設定をして、その後公開していない。また、別紙URL目録記載1のURLに係る部分は、画像ファイルが被告のサーバーではなく、アマゾンウェブサービスのサーバー上にあったことから、手違いにより残存してしまったにすぎず、本件訴訟の訴状の送達を受けてそのことに気が付くと直ちに削除した。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(被告が、被告写真の掲載に当たり著作権者から許諾を得ていたか)
 被告は、被告写真を掲載するに当たり、著作権者から許諾を得ていたと主張するが、原告はこれを否認しており、被告主張の許諾を認めるに足りる証拠はない。また、原告は、原告写真の掲載につき、CCライセンスを付していたが、被告はその許諾条件を満たしていなかったのであるから、被告が被告ウェブサイトに被告写真を掲載することについてCCライセンスに基づき許諾を得ていたと認めることはできない。
 よって、被告が原告写真を複製し、それを公衆送信することについて許諾を得ていたとは認められない。
2 争点2(損害)
ア 著作権侵害について
 被告は、原告写真を複製し、それを公衆送信していたところ、前記1で説示したとおり、それらについて原告の許諾を得ていたとは認められないから、原告の複製権、公衆送信権を侵害したと認められる。
 被告サイトは、インターネット上の各種記事を紹介する商用目的のサイトである。被告各ウェブページは、それぞれ、「お金」という単語が含まれている記事(執筆者は被告ではない。)のタイトル及び当該記事に対する被告の編集長によるコメントが表示された上で、当該記事へのリンクが設定してあるものである。被告写真は、いずれも被告各ウェブページの冒頭に表示され、そのサイズは714×596ピクセルで、被告各ウェブページのデザイン上の横幅とほぼ一致するサイズとなっている(甲3)。
 原告は、本件において、写真家ユニオンの使用料規程が利用されるべきであると主張する。
 写真家ユニオンの使用料規程は写真家ユニオンが管理の委託を受けた写真の使用料を定めるもので、写真家ユニオンは職業写真家であることなどを加入資格とするものであるところ(甲12、乙7)、原告が写真家ユニオンの加入要件を満たさないこと及び写真撮影で生計を立てている者ではないことについては当事者間に争いはない。また、原告は、被告各ウェブページは写真家ユニオンの使用料規程のトップページに該当すると主張するが、被告サイトにおいては、URLがhttp:(省略)のウェブページ(以下「まとめページ」という。)において、被告サイトが紹介する各記事のタイトル等が「今週のイチメン」、「文章のサプリメント」、「図解はアート」などのカテゴリー別に表示され、同タイトル等に設定されたそれら各記事についての紹介記事へのリンクをクリックすると、被告各ウェブページを含む各紹介記事が掲載されたウェブページが表示されるのであり、当該各紹介記事が掲載されたウェブページのURLは、まとめページのURLの下層に位置する(乙6)。このことからすると、被告サイトにおいて、まとめページが上記規程が想定するトップページであることがうかがえる一方で、被告各ウェブページが同トップページに当たるかは明らかではなく、上記規程ではセカンダリーページの料金は12か月分が5万円、その後1年ごとに2万円である(甲12)。
 本件において、原告は、最終的に、原告写真を含む原告が撮影した写真について、ライセンス実績があることやそれを前提とする主張は行わない。
 被告は、原告写真が許諾条件さえ満たせば無料で使用できるものであったのだから、著作権侵害に係る経済的損害は生じないと主張する。しかし、特定の使用条件に従った場合に当該著作物の使用料を無料にしていたとしても、それ以外の使用態様について当該著作物を当然に無料で使用できるとはいえない。
 これらの事情を総合的に考慮すると、原告には著作権侵害に係る損害が発生し、その額は4万円と認めるのが相当である。
イ 著作者人格権侵害について
 被告は、被告写真を掲載するにあたって、原告の使用条件に従わず、そうでありながら、原告の氏名や変名も含めた原告が著作者であることを示すいかなる表記もしなかったのであり、原告の氏名表示権を侵害したといえる。もっとも、本件名称が特定の会社に関係するものであることがうかがえること(甲10、乙1)を考慮すると、原告は、一定の使用条件を満たした場合には、原告写真の撮影者が原告であるとして公開されることへの関心が特に強かったとまでは認められない。
 また、被告は、原告の使用条件に従わず、そうでありながら、原告写真の左右を一部切除したのであり、被告は原告の同一性保持権を侵害したと認められる。しかし、原告は、一定の使用条件を満たした場合には原告写真が改変されることを許容していた。また、原告写真は、日本の一万円紙幣と千円紙幣を表向きや裏向きなどを入り混ぜながら重ねて置き、その状態を上から撮影したものであるところ、本件における改変は、原告写真の左右を一部切除するといったもので、原告写真の特徴との関係で改変の程度は小さい。
 これらの事情に鑑みると、原告の氏名表示権侵害及び同一性保持権侵害の人格権侵害の慰謝料は合計1万円と認めるのが相当である。
ウ 弁護士費用
 ア、イで認定した原告の損害額からすると、弁護士費用相当損害金は1万円が相当である。
3 差止めの必要性(争点3)
 前提事実で認定したとおり、被告は、原告から被告写真の掲載が原告の著作権を侵害するとの警告を受け、被告各ウェブページを公開しないようにする設定をした。さらに、被告は、本件訴訟の訴状の送達後、別紙URL目録記載1のURLの被告写真のデータも削除した。被告は、原告から警告を受けた段階で被告写真のデータを削除しなかったのは手違いによるものであると主張しているところ、被告写真のデータが被告各ウェブページとは別のサーバーによって保存されていたこと、このことを本件訴訟の訴状の送達を受けて知ると直ちにこれを削除したこと、被告各ウェブページが公開されなくなることにより被告写真が被告各ウェブページで表示されることはなくなるのであり、被告が別紙URL目録記載1のURLにおいて被告写真を公開することには何ら利益がなかったことなどの事情に照らせば、被告が同目録記載1のURLの被告写真のデータを削除しなかったのは、意図的なものではなかったと推認できる。
 以上の事情を考慮すると、現時点において、被告に対し、原告写真の複製、公衆送信の差止めを命じる必要性はないというべきである。
第4 結論
 よって、原告の請求は、複製権、公衆送信権、氏名表示権、同一性保持権侵害の不法行為に基づき合計6万円及びこれに対する遅延損害金を請求する限度で理由があり、その余の請求にはいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 仲田憲史
 裁判官 棚井啓は、転補のため署名押印できない。
裁判長裁判官 柴田義明


(別紙)著作物目録
(別紙)被告写真目録
(別紙)URL 目録
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http://jucc.sakura.ne.jp/