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【事件名】BitTorrent“アダルト動画”事件(2)
【年月日】令和4年4月20日
 知財高裁 令和3年(ネ)第10074号 債務不存在確認請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和2年(ワ)第1573号)
 (口頭弁論終結日 令和4年3月9日)

判決
 当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり


主文
1 一審原告ら(一審原告X2、一審原告X5、一審原告X11を除く。)の控訴に基づき、原判決主文1項、3項、4項、6項から10項まで及び12項のうち同一審原告らに係る部分を次のとおり変更する。
(1)一審原告X1の一審被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は3万5668円を超えては存在しないことを確認する。
(2)一審原告X3の一審被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は3万8078円を超えては存在しないことを確認する。
(3)一審原告X4の一審被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は2万4100円を超えては存在しないことを確認する。
(4)一審原告X6の一審被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は2万5546円を超えては存在しないことを確認する。
(5)一審原告X7の一審被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は1万7834円を超えては存在しないことを確認する。
(6)一審原告X8の一審被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は1万5906円を超えては存在しないことを確認する。
(7)一審原告X9の一審被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は5万9892円を超えては存在しないことを確認する。
(8)一審原告X10の一審被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は5万5056円を超えては存在しないことを確認する。
(9)一審原告ら(一審原告X2、一審原告X5、一審原告X11を除く。)のその余の請求をいずれも棄却する。
2 一審被告の控訴をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、一審、二審を通じ、一審原告ら(一審原告X2、一審原告X5、一審原告X11を除く。)と一審被告との間で生じたものは、これを10分してその1を同一審原告らの負担とし、その余を一審被告の負担とし、一審被告の一審原告X2、一審原告X5及び一審原告X11に対する控訴に係る費用は一審被告の負担とする。

事実及び理由
 用語の略称及び略称の意味は、本判決で定義するもののほかは、原判決に従うものとする。また、原判決の引用部分の「別紙「原告らの状況一覧」」、「別紙「損害額一覧表(被告主張)」」をそれぞれ「原判決別紙「原告らの状況一覧」」、「原判決別紙「損害額一覧表(被告主張)」」と改める。
第1 控訴の趣旨
1 一審原告X2、一審原告X5及び一審原告X11を除く一審原告ら(以下「控訴人(一審原告)ら」という。)
(1)原判決中、一審原告X1に関する部分を次のとおり変更する。
(2)一審原告X1の一審被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
(3)原判決中、一審原告X3に関する部分を次のとおり変更する。
(4)一審原告X3の一審被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
(5)原判決中、一審原告X4に関する部分を次のとおり変更する。
(6)一審原告X4の一審被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
(7)原判決中、一審原告X6に関する部分を次のとおり変更する。
(8)一審原告X6の一審被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
(9)原判決中、一審原告X7に関する部分を次のとおり変更する。
(10)一審原告X7の一審被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
(11)原判決中、一審原告X8に関する部分を次のとおり変更する。
(12)一審原告X8の一審被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
(13)原判決中、一審原告X9に関する部分を次のとおり変更する。
(14)一審原告X9の一審被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
(15)原判決中、一審原告X10に関する部分を次のとおり変更する。
(16)一審原告X10の一審被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
(17)訴訟費用は、一審、二審を通じ、一審被告の負担とする。
2 一審被告
(1)原判決中、一審被告敗訴部分をいずれも取り消す。
(2)前項の部分に係る一審原告らの請求をいずれも棄却する。
(3)訴訟費用は、一審、二審を通じ、一審原告らの負担とする。
第2 事案の概要
 本件は、BitTorrentと呼ばれるファイル共有ネットワーク及びBitTorrentを利用するためのクライアントソフトを使用していた一審原告らが、別紙著作物目録記載の著作物(本件著作物)の著作権者である一審被告から、一審原告らが本件著作物の動画ファイルをBitTorrentにアップロード(BitTorrentを通じて、他のユーザーに、自ら使用するクライアント機器等に保存されているデータをダウンロードさせることをいう。以下同じ。)したことにより、本件著作物に係る一審被告の著作権が侵害されたとして損害賠償金の支払請求を受けたことについて、一審原告らが、著作権侵害がないなどと主張して、一審被告に対し、本件著作物に係る著作権侵害に基づく損害賠償債務が存在しないことの確認を求める事案である。
 原審は、一審原告X5及び一審原告X11について一審被告の同一審原告らに対する著作権侵害に基づく損害賠償債務がないことを確認し、一審原告X1について3万6932円、一審原告X2について5万9660円、一審原告X3について3万9367円、一審原告X4について9万4345円、一審原告X6について2万8190円、一審原告X7について8万9835円、一審原告X8について1万6726円、一審原告X9について6万1445円、一審原告X10について5万9738円を超えては存在しないとの限度で一審被告の同一審原告らに対する著作権侵害に基づく損害賠償債務が存在しないことを確認するとの判決をしたところ、控訴人(一審原告)ら及び一審被告が控訴を提起した。
1 前提事実(争いのない事実並びに掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により認定することができる事実)、争点及び当事者の主張は、以下のとおり改め、後記2のとおり当審における当事者の主張を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」の2及び3並びに「第3 争点に関する当事者の主張」に記載するとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決6頁1〜2行目を「BitTorrentは、いわゆるP2P形式のファイル共有のネットワークであり、その概要や利用の手順は、次のとおりである。」と改め、同頁26行目の「〔2頁〕」を削除する。
(2)原判決7頁2〜26行目を次のとおり改める。
「(ア)BitTorrentを使用するには、ファイルをダウンロードするためのBitTorrentの「クライアントソフト」を自己の端末にインストールした上で、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトにアクセスするなどして、目的のファイルの所在等についての情報が記載された「トレントファイル」を取得する。トレントファイルには、目的のファイル本体のデータは含まれないが、分割されたファイル(ピース)全てのハッシュとともに、ピースを完全な状態のファイルに再構築するための情報や、「トラッカー」と呼ばれる管理サーバのアドレスが記録されている。トレントファイルは、いわば、細分化されたピースを復元するための設計図のような役割を果たす。
(イ)ユーザーが入手したトレントファイルを自己の端末内のクライアントソフトに読み込むと、同端末は、トラッカーと通信を行い、目的のファイル(ピース)を保有している他のユーザーのIPアドレスを取得し、それらのユーザーと接続した上で、当該ファイル(ピース)のダウンロードを開始する。トラッカーは、シーダーやリーチャーの接続状態を監視してデータの流れを制御する管理サーバである。
(ウ)ユーザーは、ダウンロードした当該ファイル(ピース)について、自動的にピアとしてトラッカーに登録される仕組みとなっている。これにより、自らがダウンロードしたファイル(ピース)に関しては、他のピアからの要求があれば、当該ファイル(ピース)を提供しなければならないため、ダウンロードと同時にアップロードが可能な状態に置かれることになる。
(エ)ユーザーは、分割されたファイル(ピース)を複数のピアから取得するが、クライアントソフトは、トレントファイルに記録された各ピースのハッシュや、再構築に必要なデータに基づき、各ピースを完全な状態のファイルに復元する。これにより、それまではリーチャーであった当該ユーザーは、以後はシーダーとして機能することになる。」
(3)原判決8頁8行目の「ソフトウェア」を「クライアントソフト」と、同頁14行目の「トラッカーサイト」を「トラッカー」と、同頁15行目の「〔4頁〕」を「〔4枚目〕」とそれぞれ改める。
(4)原判決9頁12〜13行目の「本件ファイル1〜3の一部又は全部を「本件各ファイル」という。」を「本件ファイル1〜3の一部(ピースのみの場合を含む。)又は全部を「本件各ファイル」という。」と改め、同頁24行目の「(乙12の1)」を「(乙11の1、12の1)」と、同頁26行目の「(乙12の2)」を「(乙11の2、12の2)」とそれぞれ改める。
(5)原判決10頁2行目の「(乙12の3)」を「(乙11の3、12の3)」と、同頁4行目の「(乙12の4)」を「(乙11の4、12の4)」と、同頁6行目の「(乙12の5)」を「(乙11の5、12の5)」と、同頁15行目の「(乙13の1)」を「(乙11の1、13の1)」と、同頁26行目の「(乙13の8)」を「(乙11の5、13の8)」とそれぞれ改める。
(6)原判決11頁9行目の「(乙14」の後に、「。なお、A宛ての警告書(乙14の8)が、一審原告X8に対する通知書であることについて当事者間に争いがない。」を挿入する。
(7)原判決12頁3行目の末尾に改行して、「ウ損害の填補(争点2―3)」を挿入し、同頁11行目の「送信可能権」を「送信可能化権」と、同頁18行目の「被告ら」を「一審被告」とそれぞれ改める。
(8)原判決14頁21行目の「当該結果の全て」を「当該結果に対する責任の全て」と改める。
(9)原判決17頁23行目の「サイド」を「サイト」と改める。
(10)原判決18頁3〜4行目の「ユーザーがBitTorrentを起動させていない場合、対象となるファイルがBitTorrent上から削除された場合等」を「ユーザーがBitTorrentのクライアントソフトを起動していない場合、対象となるファイルのダウンロードキャッシュを削除した場合等」と、同頁5〜6行目の「BitTorrentを起動させておく」を「BitTorrentのクライアントソフトを起動しておく」とそれぞれ改める。
(11)原判決18頁10行目及び同頁14行目の「BitTorrent」を「BitTorrentのクライアントソフト」とそれぞれ改める。
2 当審における当事者の主張
(1)争点1−1(著作権侵害の有無)について
(一審被告の主張)
 原判決は、一審原告X5及び一審原告X11について、本件著作物の動画ファイルの一部をダウンロードしたと認めることはできないと判示したが、一審原告X5は本件ファイル2を、一審原告X11は本件ファイル1及び2をそれぞれダウンロードしている。
 一審被告は、MediaServiceGroup、Inc.が開発した著作権侵害検出システムであるTorrentMonitoringSystem(以下「本件システム」という。)により、本件各ファイルの違法アップデート・ダウンロードに関する調査(以下「本件調査」という。)を行った。その結果(乙17)、本件各ファイルの送受信が行われたIPアドレスが判明し、これを基に経由プロバイダを調査し、同プロバイダに対して発信者情報開示請求を行ったところ、本件各ファイルを送受信したIPアドレスに係る契約者が一審原告X5及び一審原告X11であると判明したのである。本件システムの信頼性は高く、その正確性は同一性確認試験(乙20)により立証されている。
 なお、一審被告は、保管していた証拠は全て提出している。一審原告X5及び一審原告X11について、プロバイダに対し、発信者情報開示請求を行った際の開示請求書に添付した資料(乙22)が、同請求を行った弁護士事務所から一審被告代理人に送付されたため、証拠として提出する。また、一審被告は、「IKNOW」というサイトを利用して作成した一審原告らのBitTorrent利用状況一覧(乙15)を提出したが、同サイトは、すべてのアップロード・ダウンロードを把握しているものではないから、乙15に本件著作物のアップロード・ダウンロードの記録がなくとも不自然ではない。
(一審原告ら(一審原告X6及び一審原告X10を除く。)の主張)
 一審被告は、一審原告X5及び一審原告X11について、発信者情報開示請求を別の弁護士事務所が行っており、手元になかったことから乙22を原審で証拠提出しなかったと述べるが、証拠管理方法に疑問なしとしない。また、乙22に対応する発信者情報開示請求書が証拠提出されておらず、他の者の情報と混同している可能性がある。
 一審被告は、乙15について、「IKNOW」というサイトを利用して作成した旨主張するが、一審原告ら代理人の知る「IKNOW」の調査によって表示される情報項目とは内容が異なっており、また、「IKNOW」の調査期間が直近2週間程に限られることとも整合しない。乙11と調査項目が一致していることなどから、乙15も乙11と同じく本件システムによる調査結果である可能性が高いが、そもそも本件システムは信頼性が担保されていない。また、乙15には一審原告らによる本件著作物のダウンロード履歴がないのであるから、一審被告の調査方法ないし調査結果の保存態様には大きな不備があるというほかない。
 そうすると、本件において本件各ファイルをアップロードしたことを認めている一審原告X6及び一審原告X10を除いた一審原告らが、本件各ファイルをアップロードしたことの立証に欠けるというべきである。
(2)争点1−2(共同不法行為性)について
(一審被告の主張)
ア 民法719条1項前段は、いわゆる「加害行為一体型」の紛争に適用されるべきものであり、必ずしも一つの損害であることが前提となっているわけではない。そして、本件では、控訴人(一審原告)らを含む本件著作物を違法にダウンロードしかつアップロードしたユーザーらが、他のユーザーのダウンロード・アップロード行為とあいまって、本件著作物の著作権侵害がなされることを認識しつつ、ダウンロード・アップロード行為を行ったものであり、まさに「加害行為一体型」の紛争に該当するから、民法719条1項前段が適用されるべきである。
イ 控訴人(一審原告)らは、BitTorrentを使用するため、クライアントソフトを自己の端末にインストールした上でインデックスサイトと呼ばれるウェブサイトにアクセスするなどして、目的のファイルの所在等についての情報が記載されたトレントファイルを取得し、これを自己の端末内のクライアントソフトに読み込み、トラッカーと通信を行い、目的のファイル(ピース)を保有している他のユーザーのIPアドレスを取得し、それらのユーザーと接続した上で、当該ファイル(ピース)のダウンロードを開始するとともに、自らがダウンロードした当該ファイル(ピース)を同時にアップロードが可能な状態に置いているものであって、このような手順を踏んで、BitTorrentを利用し、各種ファイルやソフトウェアを入手しているし、BitTorrentのクライアントソフトの画面には、自らがダウンロードしているファイルについての「上り速度」・「アップロード量」等が表示されている(乙6の1・2)。そうすると、控訴人(一審原告)らが、BitTorrentを利用してダウンロードするファイルが同時にアップロードされることを知らないということはあり得ない。
(控訴人(一審原告)らの主張)
ア 民法719条1項前段は、数人が共同の不法行為によって他人に「損害」を加えたときの定めであるところ、損害が複数あるのであれば、加害者が誰であるか、加害者が複数であるならば共同不法行為として加害者らの責任が連帯するか、あくまでその損害ごとに、加害者の責任が判断されなければならない。原判決は民法719条1項前段の成立を認めたが、本件各ファイルについての全てのダウンロードによる損害を一つの損害とするのではなく、各一審原告らの公衆送信の始期から終期までの期間に限って、すなわち損害を区分して損害賠償責任を認定したものであり、その限りにおいて損害が可分であることを認めながら、当該期間のダウンロード数(例えば501回)について、ひとまとめで判断をした。しかしながら、当該期間のダウンロードの全てについて一審原告らの関与があるものではないから、上記原判決の判断は不合理である。
イ 原判決は、一審原告らがBitTorrentの仕組みを十分認識・理解していたと認定したが、事実誤認である。一審原告X1、一審原告X3及び一審原告X7は、パソコンに詳しくなく、無料でファイルがダウンロードできるツールと認識していたにすぎない。一審原告X4、一審原告X6、一審原告X8及び一審原告X10は、BitTorrentにファイルを第三者に送信する仕組みがあることは知っていたものの、積極的にファイルを送信する操作・設定をしなければ、第三者にファイルを送信することはないと認識していた。また、一審原告X9は、アップロードは、ダウンロード終了後にしかされないと誤解していたため、ダウンロード終了時点で直ちにファイルを移動・削除してアップロードしないように気を付けていた。
 したがって、控訴人(一審原告)らは、ファイルを公衆送信したという認識がなく、皆で共同してファイルをアップロードして加害行為をしようとした認識はないから、主観的関連共同性はない。
ウ 仮に共同不法行為が成立するとしても、控訴人(一審原告)らによる公衆送信によって何人がダウンロードしたかは不明であり、控訴人(一審原告)らの公衆送信の始期と終期の間にされたダウンロードによる被害が、誰の公衆送信によるものか不明なのであるから、本件は「共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないとき」に当たり、共同不法行為が成立するというのであれば、民法719条1項後段によるものである。
(3)争点2−1(共同不法行為に基づく損害の範囲)について
(一審被告の主張)
 BitTorrentにおいては、ファイルをダウンロードするユーザーは必然的に、同一ファイルをアップロードするよう設計されている。かかる特徴に照らせば、本件において一審原告らの行った行為は、単に個別のファイルをアップロードしたというものではなく、第一アップロード者が当該ファイルをアップロードして以降、BitTorrentネットワーク内において、連綿と当該ファイルを共有して来た共同行為ということになる。本件においては、第一アップロード者による最初のアップロード以降、一審原告らの行為を含め、権利侵害が一体として生じているところ、原判決はかかる事情を適切に考慮していない。
 そして、一審原告らは、BitTorrentの上記設計(仕組み)を当然に認識・理解してこれを利用していたから、民法719条1項前段の共同不法行為が成立するところ、共同不法行為における因果関係については、「各行為者の行為」と「損害発生」との因果関係までは必要とせず、「共同行為」と「損害発生」との因果関係があれば足りる。本件では、一審原告らの行った共同行為は、第一アップロード者による最初のアップロード以降、社会的にも実質的にも密接な関連をもつ一体として行われている行為であるから、権利侵害も当該最初のアップロード以降一体として生じている。これは、公害訴訟や交通事故訴訟において先行行為者による行為及び損害を含めて後行行為者が共同不法行為者として連帯責任を負うこととパラレルであって(例えば最判平成13年3月13日民集55巻2号328頁)、一審原告らは、自身のアップロード前であっても、先行するアップロード行為によって生じた損害についても連帯して責任を負う。
 したがって、「民法719条1項前段に基づき共同不法行為責任を負う場合であっても、自らが本件各ファイルをダウンロードし又はアップロード可能な状態に置く前に他の参加者が行い、既に損害が発生しているダウンロード行為についてまで責任を負うと解すべき根拠は存在しない」とする原判決には明白な誤りがある。
 加えて、一審被告の被害回復に要する経済的・時間的損失に照らしても、原判決の結論の妥当性に問題がある。
(一審原告らの主張)
 一審原告らは皆、プロバイダ各社から意見照会を受けた時点で直ちに利用を停止したのであるから(甲15。ただし、一審原告X2は意見照会時点ですでに利用を停止していた。)、原判決はアップロードの終期について事実誤認がある。また、原判決は、始期と終期の間の期間についてはアップロードの継続が事実上推定されるとの理解に立っているが、そのような経験則はなく、そもそも、いつからいつまでいかなる侵害行為があったかについて、本来的に不法行為の成立を主張する側が立証すべき事実であって、原判決は立証責任の所在を誤っている。
 BitTorrentの一般ユーザーは数時間でアップロードを終えることが多く、アップロードを毎日24時間継続し続けるケースはまずもって存在しない。こうした実態を踏まえれば、例えば、一審被告がアップロードの開始時点を立証し、加えて後日のある時点のアップロードを立証した場合に(もっとも、本件ではこの点について一審被告の立証がない。)、その2点の間の期間のうちの少なくとも一定期間(例えば全体のうちの0.5割とか1割の期間)についてアップロードが続いたものとして損害を計算する方が実態に近く妥当である。
 また、原判決も判示するとおり、本件では正確なダウンロード数は明らかとなっていない。そうであれば、損害に関する一審被告の立証がないというべきである。
 BitTorrentのネットワークは蜘蛛の巣状に広がっており、ネットワーク内に互いに置換可能な小データがシーダーやピアとして複数(数百以上)散在している。従って、一審原告らが本件各ファイルについて送信可能化していた時期であっても、本件各ファイルをダウンロードする者が必ず一審原告らからダウンロードをするわけではなく、一審原告らが関与していない部分については一審原告らに責任はないというべきであり、損害額は全体の中で一審原告らが少なくとも関与したと考えられる例えば100分の1として算定すべきである。
(4)争点2−2(減免責の可否)について
(控訴人(一審原告)らの主張)
 原判決は共同不法行為の減免責を認めなかったが、前記(2)の(控訴人(一審原告)らの主張)及び(3)(一審原告らの主張)で主張したとおり、共同不法行為の主観的関連共同性がないこと、仮に共同不法行為が成立するにしても民法719条1項前段ではなく後段の問題であると考えられ後段では減免責の反証が許されること、始期と終期の間アップロードがされた事実も継続する経験則もないこと及び送信可能であったと認定される期間ですらダウンロード全体のごく一部にしか原告らの関与がなかったことに照らせば、本件においては減免責が認められるべきである。
(一審被告の主張)
 本件では民法719条1項前段が適用されるのであり、「719条1項前段の加害行為一体型の共同不法行為においては、単なる寄与度の低さを理由に連帯を破ることは、現状では認められていない」(内田貴『民法II(第3版)』539頁)とされているのであるから、本件で減免責の可否は問題とならない。
(5)争点2−3(損害の填補)について
(控訴人(一審原告)らの主張)
 一審被告は、本件著作物をアップロードした可能性がある一審原告ら以外の数十名ないし数百名に対して損害賠償請求書面を送付した。この請求において、送信可能化が問題となる期間は本件と共通する。
 その結果示談をしたものが少なくない数いることは明らかであるところ、その具体的内容は不明であるものの、一審原告ら以外の者が数十名ないし数百名いる以上、一審被告は本件各ファイルそれぞれについて、既に少なくとも10万円を上回る額の弁済を一審原告ら以外の者から受けていることが明らかである。したがって、一審原告ら以外の者の弁済により、控訴人(一審原告)らの一審被告に対する損害賠償債務は消滅した。
(一審被告の主張)
 一審被告は、一審原告らが本件の全損害につき連帯して責任を負うものと考えている。したがって、一審被告が一審原告ら以外の者数名と示談をしたとしても、それにより一審被告の損害が填補されたということにはならない。
 なお、念のため付言するに、控訴人(一審原告)らの主張を前提としたとしても、例えば一審原告X4は誰と連帯債務の関係に立つのか、誰の弁済によって一審原告X4の債務が消滅したと言えるのかが明らかではなく、いずれにせよ控訴人(一審原告)らの主張が認められる余地はない。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所は、別紙「損害額一覧表」の「損害額」欄記載の額の限度で、一審原告らが一審被告に対し、損害賠償債務を負うと認める。理由は、次のとおり改め、後記2に当審における当事者の主張に対する判断を付するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」の1から3までに記載するとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決20頁16行目の「の一部(ピース)」を削る。
(2)原判決21頁21行目冒頭から26行目末尾までを「しかしながら、発信者情報開示請求に対する回答に当たるプロバイダ(株式会社ジェイコム東京又は株式会社ジェイコムイースト)作成の通知書(乙13の4・9)には、一審原告X5又は一審原告X11の氏名及び住所が記載されているものの、どのような権利侵害行為又はどのIPアドレスに関する情報の開示であったのかをうかがわせる記載はなく、また、同通知書に対応する発信者情報開示請求書は証拠として提出されておらず、その他上記各通知書がどのような照会に対する回答であったのかを認めるに足りる証拠はない。そして、一審被告が本件著作物以外にも著作権を有する著作物(動画)を複数保有していたことや、一審被告が、本件著作物についての侵害行為に係るものとして多くのIPアドレスを把握していたと推認されることに照らし、本件著作物以外の著作物や、一審被告の主張するIPアドレスとは異なるIPアドレスに基づく照会に対する回答であった可能性も否定できないことからすると、上記各通知書が、一審被告の主張する本件著作物の著作権侵害に係るものであったと認めるに足りない。また、乙15の5・11には、一審被告が行った、一審原告X5による平成30年6月30日から同年10月20日までの間のBitTorrentの利用状況及び一審原告X11による平成29年7月8日から平成30年8月12日までの間のBitTorrentの利用状況に係る調査結果が記載されているところ、これをみても、一審原告X5及び一審原告X11が、上記各期間に、BitTorrentを利用して本件著作物をダウンロードした事実を認めることはできない。一審被告は、一審原告X5及び一審原告X11が本件著作物をダウンロードしていた事実を裏付ける証拠として、控訴審において「調査結果一覧(抜粋)」(乙17)、「陳述書」(乙19)及び「「別紙IPアドレス等一覧」と題する書面」(乙22)を提出したが、乙17及び乙22は一審被告が調査結果を踏まえて作成した文書であって調査結果そのものではないし、陳述書(乙19)は上記各プロバイダ以外のプロバイダに対する発信者情報開示請求について述べたものであって、本件著作物に係る一審原告X5及び一審原告X11の行為を裏付けるものとはいえない。そうすると、一審原告X5及び一審原告X11が、本件著作物をダウンロードしたと認めるに足りる証拠はないというほかない。」と改める。
(3)原判決22頁11行目の「ファイル」を「本件各ファイル」と改め、同頁21〜22行目の「ファイル」、同頁22行目の「動画ファイル」、同頁24行目の「ファイル」をそれぞれ「本件ファイル1〜3のいずれか」と改める。
(4)原判決23頁1行目の「当然認識・理解して」を「認識・理解し又は容易に認識・理解し得たのに認識・理解しないまま」と改め、6行目の「十分に理解した上で」を「理解した上で又は容易に理解し得たのに理解しないまま」と改め、24行目の末尾に「仮に、一審原告X1らがこの点を認識していなかったとしても、自らがBitTorrentを利用して本件著作物を正当な権利者からダウンロードしているものではないことを当然に認識し得たことからすれば、BitTorrentを利用するに当たり違法な行為をしないよう慎重になるべきところ、雑誌やインターネットに掲載された記事などから容易にBitTorrentの仕組みを知ることができるのであるから、ダウンロードしたファイル(ピース)を送信可能化したことについて少なくとも過失があると認めるのが相当である。」を加える。
(5)原判決24頁24行目の「本件著作物の侵害」を「本件著作物に係る著作権侵害」と改める。
(6)原判決25頁5〜7行目の「既に損害が発生しているダウンロード行為についてまで責任を負うと解すべき根拠は存在しないから、被告の上記主張は採用することはできない。」を「既に完了しているダウンロード行為については、一審原告X1らが本件各ファイルを送信可能な状態に置いた行為との因果関係が認められず、そのようなダウンロード行為についてまで一審原告X1らが責任を負うと解すべき根拠は存在しないから、被告の上記主張は採用することができない。」と改め、同頁11〜12行目の「ソフトウェア」を「クライアントソフト」と改め、同頁25行目の「本件ファイル2」を「本件ファイル2のピース」と改める。
(7)原判決26頁3行目の「(乙11)」を「(乙11、乙13の1〜3・6〜8)」と改める。
(8)原判決26頁15行目から27頁8行目までを次のとおり改め、原判決で引用されている原判決別紙「損害額一覧表」を別紙「損害額一覧表」のとおり改める。
 「証拠(甲15、21、乙13の1〜3・5〜8)によると、一審原告X1は、平成30年9月8日頃にプロバイダからの意見照会書が届いてからすぐBitTorrentのクライアントソフトを削除したこと、一審原告X3は、同月4日頃にプロバイダからの意見照会書を受領した後はBitTorrentのクライアントソフトを起動していないこと、一審原告X4は、同年10月11日頃にプロバイダからの意見照会書が届いてからすぐBitTorrentのクライアントソフトを削除したこと、一審原告X6は、同月19日頃にプロバイダからの意見照会書を受領した後はBitTorrentのクライアントソフトを起動していないこと、一審原告X7は、同年9月15日頃にプロバイダからの意見照会書が届いてからすぐBitTorrentのクライアントソフトを削除したこと、一審原告X8は、同月5日頃にプロバイダからの意見照会書が届いてからすぐBitTorrentのクライアントソフトを削除したこと、一審原告X9は、同月15日頃にプロバイダからの意見照会書が届いてからすぐBitTorrentのクライアントソフトを削除したこと、一審原告X10は、同月13日頃にプロバイダからの意見照会書が届いてからすぐBitTorrentのクライアントソフトを削除したことが認められ、また、証拠(甲20の1、乙13の2)及び弁論の全趣旨によると、一審原告X2は、同年10月24日頃にプロバイダからの意見照会書が届くまでにBitTorrentのクライアントソフトを削除したことが認められる。
 そうすると、一審原告X1らは、別紙損害額一覧表の「終期」欄記載の日をもってBitTorrentの利用を終了し、それより後は、本件各ファイルにつき送信可能な状態にしたことはないものと認めるのが相当であるから、一審原告X1らは、それぞれ、別紙「損害額一覧表」の「期間」欄記載の期間中に、自己以外のユーザーがBitTorrentを利用して本件各ファイルをダウンロードしたことにより生じた損害の限度で、賠償義務を負う。」
(9)原判決27頁11行目の「(乙2〜4、8〜10)」を「(乙8〜10、14)」と、同頁12行目の「595日間」を「596日間」とそれぞれ改める。
(10)原判決27頁21行目冒頭から28頁1行目末尾までを削る。
(11)原判決28頁17行目及び18行目の「のピース」をいずれも削る。
(12)原判決29頁2行目の「(なお、」から4行目末尾までを「(なお、同別紙の「D期間中のダウンロード数」及び「損害額」欄は、1未満を切り捨てたものである。)」と改める。
2 当審における当事者の主張に対する判断
(1)争点1−1(著作権侵害の有無)について
ア 一審原告X5及び一審原告X11について著作権侵害行為があったと認めるに足りる証拠がないことは前記1で訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」の1(1)ウのとおりである。
イ 一審原告ら(一審原告X6及び一審原告X10を除く。)は、同一審原告らが本件著作物をアップロードしたことの立証に欠けると主張するが、訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の2(4)のとおり、一審被告は、BitTorrentを利用して本件著作物をアップロード及びダウンロードしている者のIPアドレスを特定し、プロバイダから、上記IPアドレスに対応する契約者の氏名及び住所の開示を受けていることが認められ、証拠(乙13の2・3・6・7)によると、プロバイダの回答書にIPアドレス並びに一審原告X2、一審原告X4、一審原告X3、A、一審原告X7、一審原告X9の氏名及び住所の記載があり、これら一審原告らの氏名及び住所の開示を受ける過程において、IPアドレスの混同がないことが認められる。なお、Aとの記載が、一審原告X8の行為に係るものであることについては当事者間に争いがない。また、一審原告X1の氏名及び住所が記載された株式会社TOKAIコミュニケーションズからの通知書(乙13の1)には、IPアドレスの記載はないものの、「添付ファイル「接続記録リスト」No.49〜58」との記載があり、同記載は、一審被告作成の「調査結果一覧(株式会社TOKAIコミュニケーションズ)」と題する書面(乙11の1)の49〜58行目に対応するものと推認され、乙11の1の記載からIPアドレスの特定ができることから、IPアドレスの混同がないことが認められる。そうすると、前記(1)のとおり立証がされていないと認められる一審原告X5及び一審原告X11を除き、一審原告ら(一審原告X6及び一審原告X10を除く。)について、本件著作物をアップロードしたことについての立証がされていると認めるのが相当である。
(2)争点1−2(共同不法行為性)について
ア 本件で、一審原告X1らは、本件各ファイルを、BitTorrentを利用して送信可能な状態におくことで、一審被告の著作権を侵害した。ところで、訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の2(3)のとおり、BitTorrentを利用してファイルをダウンロードする際には、分割されたファイル(ピース)を複数のピアから取得することになるところ、後掲の証拠によると、一部のピアのみが安定してファイルの供給源となる一方で、大半のピアは短時間の滞在時(BitTorrentの利用時)に一時的なファイルの供給源の役割を担うものとされるが、一審原告X1らは、常にBitTorrentを利用していたものではないことから、一時的なファイルの供給源の役割を担っていたと考えられること(甲12、15、21)、あるトラッカーが、特定の時点で把握しているリーチャーとシーダーの数は0〜5件程度と、特定時点における特定のファイルに着目した場合には必ずしも多くのユーザー間でデータのやり取りがされているものではないこと(乙2〜4、8〜10)、BitTorrentを利用したアップロードの速度は、ダウンロードの速度よりも100倍以上遅く、また、ファイルの容量に比しても必ずしも大きくなく、例えば本件各ファイルの容量がそれぞれ8.8GB、7.0GB、2.3GBであるのに照らしても、アップロードの速度は平均0〜17.6kB/s程度(本件著作物以外の著作物に関するものを含む。)と遅く、ダウンロードに当たっては、相当程度の時間をかけて、相当程度の数のピアからピースを取得することで、1つのファイルを完成させていると推認されること(甲5、6、乙2〜4、6)がそれぞれ認められる。これらの事情に照らすと、BitTorrentを利用した本件各ファイルのダウンロードによる一審被告の損害の発生は、あるBitTorrentのユーザーが、本件ファイル1〜3の一つ(以下「対象ファイル」という。)をダウンロードしている期間に、BitTorrentのクライアントソフトを起動させて対象ファイルを送信可能化していた相当程度の数のピアが存在することにより達成されているというべきであり、一審原告X1らが、上記ダウンロードの期間において、対象ファイルを有する端末を用いてBitTorrentのクライアントソフトを起動した蓋然性が相当程度あることを踏まえると、一審原告X1らが対象ファイルを送信可能化していた行為と、一審原告X1らが対象ファイルをダウンロードした日からBitTorrentの利用を停止した日までの間における対象ファイルのダウンロードとの間に相当因果関係があると認めるのも不合理とはいえない。
 そうすると、一審原告X1らは、BitTorrentを利用して本件各ファイルをアップロードした他の一審原告X1ら又は氏名不詳者らと、本件ファイル1〜3のファイルごとに共同して、BitTorrentのユーザーに本件ファイル1〜3のいずれかをダウンロードさせることで一審被告に損害を生じさせたということができるから、一審原告X1らが本件各ファイルを送信可能化したことについて、同時期に同一の本件各ファイルを送信可能化していた他の一審原告X1ら又は氏名不詳者らと連帯して、一審被告の損害を賠償する責任を負う。
 なお、控訴人(一審原告)らは、原判決が、一審原告X1らが送信可能化した始期から終期までの期間のダウンロード数をひとまとめで判断したことが不相当である旨主張するが、原判決は、当該期間のダウンロード数をもってひとまとめの損害が生じたと認定したものではなく、1ダウンロード当たりの損害額を認定した上で、当該期間にダウンロードされた本件各ファイルの数を推定して、推定したダウンロード数に応じた損害額を算定しているのであって、この手法は相当である。
イ 控訴人(一審原告)らは、原判決が、一審原告らがBitTorrentの仕組みを十分認識・理解していたと認定したことについて事実誤認であると主張するところ、訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」の1(2)のとおり、控訴人(一審原告)らは、BitTorrentを利用してファイルをダウンロードした場合、同時に、同ファイルを送信可能化していることについて、認識・理解していたか又は容易に認識し得たのに理解しないでいたものと認められ、少なくとも、本件各ファイルを送信可能化したことについて過失があると認めるのが相当である。
 そうすると、控訴人(一審原告)らが、本件著作物の送信可能化に関し、不法行為責任を負うとした原判決の判断は相当である。
(3)争点2−1(共同不法行為に基づく損害の範囲)について
ア 一審被告は、本件各ファイルが最初にBitTorrentにアップロードされて以降の権利侵害の全てについて、一審原告らが責任を負う旨主張するが、一審原告らと本件各ファイルをアップロードしている他の一審原告ら又は氏名不詳者との間に共謀があるものでもないのであるから、一審原告らは、BitTorrentを利用して本件各ファイルのダウンロードをする前や、BitTorrentの利用を終了した後においては、本件著作物について権利侵害行為をしていないのは明らかである。また、本件各ファイルの送信可能化による損害は、1ダウンロードごとに発生すると考えられるところ、一審原告らがBitTorrentの利用をしていない時期におけるダウンロードについてまで、一審原告らの行為と因果関係があるなどということはできない。そうすると、一審原告らは、BitTorrentを利用して本件各ファイルのダウンロードをする前及びBitTorrentの利用を終了した後については、本件著作物の権利侵害について責任を負わないというべきであり、一審被告の上記主張は採用できない。
イ 一審原告X1らによる本件各ファイルのアップロードの終期について、別紙「損害額一覧表」の「終期」欄記載の日(プロバイダからの意見照会を受けた日)と認定できるのは、訂正の上引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」2(3)記載のとおりである。これは、一審原告X1らの陳述書(甲15、20の1)に基づき認定したものであるが、プロバイダからの意見照会を受けたことで怖くなり、BitTorrentのクライアントソフトを削除したり、BitTorrentの利用を控えるのは通常の行動であり、上記各陳述書の内容に不自然な点はない。
ウ 一審原告らは、BitTorrentの利用者が、ファイルのアップロードを24時間継続することはまずないことや、シーダーやピアが数百以上散在していることなどを踏まえ、本件の損害額については、例えば原判決の認定する額の100分の1などとして算定すべきと主張する。しかしながら、前記(1)及び(2)に判示したとおり、一審原告X1らは、BitTorrentを利用して本件各ファイルをダウンロードしてから、BitTorrentの利用を停止するまでの間の本件各ファイルのダウンロードによる損害の全額について、共同不法行為者として責任を負うと認めることが相当である。また、BitTorrentの仕組みに照らすと、本件各ファイルのダウンロードキャッシュを削除するか、BitTorrentの利用を停止するまでの間は、一審原告X1らの端末にダウンロード済みの本件各ファイルが送信可能な状態にあったのであるから、一審原告X1らが本件各ファイルのダウンロードキャッシュを削除したこと又はBitTorrentの利用を停止したことが認められる時点までは、一審原告X1らの不法行為は継続していたと認めるのが相当であり、本件では、一審原告X1らが、別紙「損害額一覧表」の「終期」欄記載の日よりも前の特定の日に、本件各ファイルのダウンロードキャッシュを削除したことを認めるに足りる証拠はない一方で、一審原告X1らが、同別紙の「終期」に記載の日より後はBitTorrentの利用をしていないことが認められるから、同日までの間は、一審原告X1らは、本件各ファイルの送信可能化による不法行為を継続していたと推認することが相当である。
 ところで、一審原告らは、正確なダウンロード数についての立証がない旨指摘するが、正確なダウンロード数は不明であるものの、一審原告X1らが本件各ファイルを送信可能化していた期間におけるダウンロード数は、令和元年10月1日から令和3年5月18日までの間にダウンロードされた数から、別紙「損害額一覧表」の「D期間中のダウンロード数」のとおりに推計することができるから、本件においては、当該ダウンロード数の限度で立証されているというべきである。
(4)争点2−2(減免責の可否)について
 引用した原判決の「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」3記載のとおりである。
(5)争点2−3(損害の填補)について
 控訴人(一審原告)らは、一審被告が一審原告ら以外の者との間で示談をして弁済を受けているから一審原告らの損害賠償債務は消滅した旨主張するが、一審原告ら以外の者が誰であるのか、また、当該第三者がいかなる行為に対するものとして、幾らの賠償金の支払をしたのかについては具体的な主張がなく、また証拠もない。
 そうすると、控訴人(一審原告)らの上記主張は採用できない。
第4 結論
 以上の次第であり、一審原告X1らの請求は、別紙「損害額一覧表」の損害額記載の額を超えて存在しないことを確認する限度で理由があるから、主文のとおり、一審原告X1ら(一審原告X2を除く。)についていずれも原判決を変更し、一審原告X2については控訴を提起していないから不利益変更禁止の原則により一審被告の控訴を棄却するにとどめ、一審被告の控訴人(一審原告)らに対する控訴をいずれも棄却することとし、また、一審原告X5及び一審原告X11については、一審被告に対する損害賠償債務がないことを確認した原判決は相当であるから、同一審原告らに対する一審被告の控訴をいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 本多知成
 裁判官 浅井憲
 裁判官 勝又来未子


(別紙)当事者目録
控訴人兼被控訴人(一審原告) X1(以下「一審原告X1」という。)
被控訴人(一審原告) X2(以下「一審原告X2」という。)
控訴人兼被控訴人(一審原告) X3(以下「一審原告X3」という。)
控訴人兼被控訴人(一審原告) X4(以下「一審原告X4」という。)
被控訴人(一審原告) X5(以下「一審原告X5」という。)
控訴人兼被控訴人(一審原告) X6(以下「一審原告X6」という。)
控訴人兼被控訴人(一審原告) X7(以下「一審原告X7」という。)
控訴人兼被控訴人(一審原告) X8(以下「一審原告X8」という。)
控訴人兼被控訴人(一審原告) X9(以下「一審原告X9」という。)
控訴人兼被控訴人(一審原告) X10(以下「一審原告X10」という。)
被控訴人(一審原告) X11(以下「一審原告X11」という。)
上記11名訴訟代理人弁護士 笹浪靖史
同 吉田佑介
同 関根健太
同 大谷匠
被控訴人兼控訴人(一審被告) 株式会社WILL(以下「一審被告」という。)
同訴訟代理人弁護士 戸田泉
同 角地山宗行
同 籠屋恵嗣

(別紙)著作物目録
作品タイトル:グラビアアイドル究極進化!1年で開発された神BODY!大痙攣イキまくり乱交解禁スペシャル!高橋しょう子
品番:MIDE−465
掲載のURL:https://以下省略
収録時間:240分

(別紙)損害額一覧表
一審原告名 期間 ダウンロード数 E
価格
損害額
(D×E)
始期 終期 @
日数
A
R1.10.1
B
R3.5.18
C
増加量
(B−A)
D
期間中の
ダウンロード数
(C÷596×@)
一審原告X1 H30.6.12 H30.9.8 89 8936 9437 501 74 482 \35,668
一審原告X2 H30.6.4 H30.10.24 143 8936 9437 501 120 482 \57,840
一審原告X3 H30.6.2 H30.9.4 95 8936 9437 501 79 482 \38,078
一審原告X4 H30.6.4 H30.10.11 130 3616 3848 232 50 482 \24,100
一審原告X6 H30.6.4 H30.10.19 138 3616 3848 232 53 482 \25,546
一審原告X7 H30.6.12 H30.9.15 96 3616 3848 232 37 482 \17,834
一審原告X8 H30.6.13 H30.9.5 85 3616 3848 232 33 482 \15,906
一審原告X9 H30.6.2 H30.9.15 106 37896 38806 910 161 372 \59,892
一審原告X10 H30.6.9 H30.9.13 97 37896 38806 910 148 372 \55,056
line
 
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