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【事件名】プロバイダ各社への発信者情報開示請求事件F 【年月日】令和4年4月18日 東京地裁 令和3年(ワ)第24157号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和4年2月24日) 判決 原告 A 同訴訟代理人弁護士 平野高志 同 伊勢知紘 同訴訟復代理人弁護士 辻井敦 被告 KDDI株式会社 同訴訟代理人弁護士 星川信行 被告 ソフトバンク株式会社 同訴訟代理人弁護士 正田琢也 主文 1 被告KDDI株式会社は、原告に対し、別紙発信者情報目録1記載の各情報を開示せよ。 2 被告ソフトバンク株式会社は、原告に対し、別紙発信者情報目録2記載の各情報を開示せよ。 3 訴訟費用は被告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、原告が、別紙投稿記事目録1及び2記載の各投稿日時に、同各目録記載の各IPアドレスを使用して、インターネット上の電子掲示板「5ちゃんねる」(以下「本件掲示板」という。)のスレッド(URL及びスレッドタイトルは同各目録記載のとおりであり、以下、当該スレッドを「本件スレッド」という。)に同各目録記載の各投稿がされたことで、原告の名誉権、名誉感情、営業権、肖像権又は著作者人格権(同一性保持権)が侵害されたことが明白であり、上記の各投稿を行った各投稿者に対する損害賠償等の請求を行うために被告らの保有する発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、被告KDDI株式会社(以下「被告KDDI」という。)に対しては別紙発信者情報目録1記載の各情報(以下、併せて「本件発信者情報1」という。)の開示を、被告ソフトバンク株式会社(以下「被告ソフトバンク」という。)に対しては別紙発信者情報目録2記載の各情報(以下、併せて「本件発信者情報2」という。)の開示を、それぞれ求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実又は後掲の証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者 ア 原告は、「Bchannel」との名称で主にゲーム実況動画を配信している個人である(甲1、9)。 イ 被告らは、いずれも電気通信事業を営む株式会社である。 (2)氏名不詳者による本件スレッドへの投稿 氏名不詳者によって、本件スレッドには、別紙投稿記事目録1記載の各投稿(その投稿番号、投稿日時及び投稿内容は同目録記載のとおりである。以下、同目録記載1の各投稿を併せて「本件投稿1−1」、同目録記載2の各投稿を併せて「本件投稿1−2」、同目録記載3の投稿を「本件投稿1−3」、同目録記載4の各投稿を併せて「本件投稿1−4」といい、これらを併せて「本件投稿1」という。)及び別紙投稿記事目録2記載の各投稿(その投稿番号、投稿日時及び投稿内容は同目録記載のとおりである。以下、同目録記載1の各投稿を併せて「本件投稿2−1」、同目録記載2ないし4の各投稿を順に「本件投稿2−2」ないし「本件投稿2−4」といい、これらを併せて「本件投稿2」という。)がされた(甲2、弁論の全趣旨)。 (3)開示関係役務提供者該当性 ア 被告KDDIは、本件投稿1について開示関係役務提供者に当たる。 イ 被告ソフトバンクは、本件投稿2について開示関係役務提供者に当たる。 (4)発信者情報の保有 ア 被告KDDIは、本件発信者情報1を保有しており、本件発信者情報1は本件投稿1の通信に関する契約者の情報に当たる(甲4、5、弁論の全趣旨)。 イ 被告ソフトバンクは、本件発信者情報2を保有している。 3 争点 (1)本件投稿1によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか(争点1) (2)本件投稿2によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか(争点2) (3)本件発信者情報2が本件投稿2による侵害に係る発信者情報であるといえるか(争点3) (4)本件発信者情報1及び2の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点4) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件投稿1によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について (原告の主張) (1)本件投稿1−1について ア 同定可能性について 原告は、「Bchannel」との名称で主にゲーム実況の動画配信を行っているところ、YouTubeでのチャンネル登録者数は27.4万人程度と多く著名であり、少なくともYouTube上で「B」との名称でゲーム実況を行っているのは原告以外に見受けられない。 本件スレッドのスレッドタイトル及び本件投稿1−1に「B」との記載があることから、本件投稿1−1が原告に関する投稿であることは明らかである。 イ 権利侵害について (ア)名誉毀損 本件投稿1−1は、原告が「メンヘラ女」であるとの事実の摘示をするものである。メンヘラとは、精神を病んでおり精神的に不安定であることを表す言葉であり、一般的にマイナスイメージを持たれている。 原告に精神疾患はなく、いわゆるメンヘラではない。また、原告が配信する動画において私生活や自分の体調・気分等について話すことはあるが、自分に精神疾患があり、メンヘラである等とは発言したことがない。 よって、原告が「メンヘラ女」であるとの事実の摘示によって、原告の社会的評価が低下することは明らかである。 (イ)名誉感情の侵害 本件投稿1−1には、「取り柄のねえガチの発達そうだしな」と記載されている。「発達」とは発達障害の略語であり、差別的な表現を用いて原告は知的発達がない人物であると強く攻撃するものである。このように、差別的な表現で人格攻撃をするものは、社会通念上許される限度を超える侮辱行為である。 また、女性で、かつメディアに顔を露出することのある原告にとって、容姿等に対する評価はかなり意識する部分であり、「臭そう」「メンヘラ全面に出してる人間はホント気持ち悪いわ」とは強力な侮辱行為であり、社会通念上許される限度を超えている。 したがって、本件投稿1−1が原告の名誉感情を侵害することは明らかである。 (ウ)営業権の侵害 原告の仕事ではイメージが重視されており、マイナスイメージがつけば、チャンネル登録者数の伸び等は減少する。実際に、本件投稿1−1のような悪質な書き込みがされた後では、チャンネル登録者数の伸びが2割程減少するとともに、動画視聴数の低下によって原告の収益率が下がっている。 また、原告は、本件投稿1−1のような悪質な書き込みによって精神的に落ち込むことがあるので、動画の配信ができないこともある。 よって、本件投稿1−1による営業権侵害は明らかである。 ウ 違法性阻却事由の不存在について 前記イ(ア)の通り、原告には精神疾患はない。よって、本件投稿1−1は全く虚偽の事実を摘示するものであって、真実ではない。また、公人でもない原告に対して、専ら嫌がらせや攻撃目的に基づき行われている本件投稿1−1に公共性・公益目的等がないことは明らかであり、違法性阻却事由はない。 (2)本件投稿1−2 ア 同定可能性について 本件スレッドのスレッドタイトル並びに「ゲーム」及び「実況」を含む投稿内容からして、本件投稿1−2が原告に関する投稿であることは明らかである。 イ 権利侵害について (ア)名誉感情の侵害 「一人ニタニタ薄気味悪い笑み浮かべて恥ずかしくならないのかな」との投稿は、動画を配信するとまた同じことを言われるかもしれないとの恐怖心を原告に抱かせるものであり、また精神的ダメージも大きく、社会通念上許される限度を超える侮辱行為である。 「はっきり言って作業所でパンこねてる知恵遅れより生きてる価値ないから」との投稿は、差別的な表現を用いて原告を強く攻撃するものであり、明らかに社会通念上許される限度を超える侮辱行為である。 したがって、本件投稿1−2が原告の名誉感情を侵害することは明らかである。 (イ)営業権の侵害 本件投稿1−1と同様の理由で、本件投稿1−2による原告の営業権侵害は明らかである。 ウ 違法性阻却事由の不存在について 公人でもない原告に対して、専ら嫌がらせや攻撃目的に基づき行われている本件投稿1−2に公共性・公益目的等がないことは明らかであり、必要性相当性もなく違法性阻却事由はない。 (3)本件投稿1−3 本件投稿1−2と同様である。 (4)本件投稿1−4 ア 同定可能性について 本件スレッドのスレッドタイトル及び本件投稿1−4に「B」との記載があることから、本件投稿1−4が原告に関する投稿であることは明らかである。 イ 権利侵害について (ア)名誉毀損 本件投稿1−4は、原告が、自分が出したごみの片付けも一人でできずに親に手伝ってもらっている、20分もしないうちに根を上げて自分の人生を嘆いている等と事実を摘示するものである。かかる事実の摘示によって、原告は、何でも人任せの怠惰な人間で、精神的に不安定等と認識されてしまうことから、原告の社会的評価を低下させるものであることは明らかである。 (イ)名誉感情の侵害 「知性も根気も体力もモラルもありとあらゆる能力が小学生以下の奴」との表現は、原告の人格攻撃に及ぶものであり、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるから、本件投稿1−4が原告の名誉感情を侵害することは明らかである。 (ウ)営業権の侵害 本件投稿1−1と同様の理由で、本件投稿1−3による原告の営業権侵害は明らかである。 ウ 違法性阻却事由の不存在について 原告は、一人暮らしであり、ゴミの片付けは一人で行っている。また、20分もしないうちに根を上げて自分の人生を嘆いたこともないから、本件投稿1−4の投稿内容は全く虚偽の事実であり真実ではない。そもそも、公人でもない原告に対して、専ら嫌がらせや攻撃目的に基づき行われている本件投稿1−4に公共性・公益目的等がないことは明らかであり、必要性相当性もなく、本件投稿1−4に違法性阻却事由はない。 (被告KDDIの主張) (1)本件投稿1−1について ア 同定可能性について 本件スレッドのタイトルには「B」との記述がみられるだけであり、原告の氏名とは全く関係ない名前が表示されているにすぎない。また、原告がYouTubeでチャンネルを開設しているとしても、同チャンネルと本件スレッドとの結びつきは明確でない。 したがって、本件投稿1−1が原告についての投稿であるとは認められない。 イ 権利侵害について (ア)名誉毀損 本件投稿1−1は、「臭そう」、「メンヘラ」、「面倒臭さ」、「気持ち悪い」など、投稿者の感想を述べている投稿といえるが、いずれも、人の短所を指摘するものとしても日常的に用いられる言葉であり、その内容として、いたずらに揶揄、愚弄、嘲笑、蔑視的な表現にわたっているものではない。このような意見・感想を述べる投稿については、一般の読者をして単にそのような意見を持っている人がいると思われるにすぎないものである。 原告は、営利目的でYouTube動画を掲載している以上、これに対して批判的な意見等が多数寄せられることについて、事前に、予想し、また、ある程度認容しているものといえる。 仮に、本件投稿1−1が事実を摘示する投稿であると評価されるとしても、格別に具体的事実や根拠が一切記述されていないことからして、同投稿を閲覧した一般読者は、原告のYouTube動画を閲覧した者が動画の内容に不満を持ち、批判的なことを投稿しているのだろうとの感想を持つにすぎないといえる。インターネット上の掲示板には出所不明の戯言や流言飛語、単なる推測や噂の類が多数出回っていることは顕著な事実であり、その類の投稿がされたとしても、直ちに原告の社会的評価の低下を招くものと評価できない。 よって、原告に対する名誉毀損が明白であるとはいえない。 (イ)名誉感情の侵害 名誉感情は内心の問題であることからして、本件スレッドの他の書き込みの内容や投稿がされた経緯等を考慮した上で、社会通念上許容される限度を超えた侮辱行為であると認められるときに、初めて人格的利益の侵害として名誉感情の侵害が認められるにすぎない。 よって、前記(ア)と同様の理由により、本件投稿1−1について、原告に対する名誉感情侵害が明白であるとはいえない。 (ウ)営業権の侵害 批判的投稿がされ、本件スレッドに多くの投稿がされれば、その話題性から、原告のYouTubeチャンネルの動画視聴数がむしろ上がることも考えられ、少なくとも、本件投稿1−1と動画視聴数の因果関係は不明といわざるを得ない。 よって、本件投稿1−1について、原告に対する営業権侵害が明白であるとはいえない。 (2)本件投稿1−2ないし1−4について ア 同定可能性について 本件投稿1−1と同様に、本件投稿1−2ないし1−4が原告についての投稿であるとは認められない。 イ 権利侵害について 本件投稿1−2ないし1−4は、いずれも、YouTubeの動画を見た投稿者が同動画から抱いた感想を日常的な言葉を用いて投稿したものであり、いたずらに揶揄、愚弄、嘲笑、蔑視的な表現にわたっているものではない。 したがって、本件投稿1−1と同様の理由で、本件投稿1−2ないし1−4についても権利侵害が明白であるとはいえない。 2 争点2(本件投稿2によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について (原告の主張) (1)本件投稿2−1 前記1(原告の主張)(2)の本件投稿1−2と同様である (2)本件投稿2−2 前記1(原告の主張)(2)の本件投稿1−2と同様である。 (3)本件投稿2−3 ア 同定可能性について 本件スレッドのスレッドタイトル並びに「B」及び「配信」を含む投稿内容からして、本件投稿2−3が原告に関する投稿であることは明らかである。 イ 権利侵害について (ア)名誉毀損 本件投稿2−3は、原告は日払いのアルバイトをしながらネットカフェで寝たり公園で寝たりする生活を1年以上続けている、3月終わり頃から夜は公園で配信して朝になったらアルバイトに行っている、節約するために野宿している等との事実を摘示するものである。かかる事実の摘示によって、原告はお金が無く、浮浪者のような生活をしていると認識される。お金が無く浮浪者のような生活をしていることは、一般的にマイナスイメージを持たれていることから、本件投稿2−3は原告の社会的評価を低下させるものであることは明らかである。 (イ)営業権の侵害 前記1(原告の主張)(1)の本件投稿1−1と同様の理由で、本件投稿2−3による原告の営業権侵害は明らかである。 ウ 違法性阻却事由の不存在について 原告のYouTubeでのチャンネル登録者数は27.4万人程度であり、原告は、高い水準で収益を上げており、動画配信に関する収入だけで生活できているので、アルバイトはしていない。かつ、定まった住所に住んでいるので、本件投稿2−3に投稿されている内容は、全く虚偽の事実を摘示するものであって、真実ではない。そもそも、公人でもない原告に対して、専ら嫌がらせや攻撃目的に基づき行われている本件投稿2−3に公共性・公益目的等がないことは明らかであり、違法性阻却事由はない。 (4)本件投稿2−4 ア 同定可能性について 本件スレッドのスレッドタイトル及び投稿された別紙投稿画像目録記載の画像(以下「本件投稿画像」という)が、原告が自ら動画配信サイトにアップロードした原告の顔写真画像を改変したものであることから、本件投稿2−4が原告に関する投稿であることは明らかである。 イ 権利侵害について (ア)肖像権侵害 人は、自己の容貌等を撮影された写真をみだりに公表されない人格的利益(肖像権)を有する。本件投稿2−4は、原告の顔写真を基に、顔を少し太らせるように変形させ、更にひげをつけるという、女性にとって耐え難い精神的苦痛を与える態様の改変を加えたものであり、原告に無断で投稿された。よって、原告の上記人格的利益が違法に侵害されており、肖像権侵害は明らかである。 なお、原告の顔写真は、本件投稿2−4より以前から原告によって動画配信サイトにアップロードされていたものであるが、既に画像が公開されているからといって、このことから、直ちに、その方法に限定なく公開できるとか、公開について被写体である原告が包括的ないし黙示的に承諾していたとみることはできない。本件投稿2−4は、上記のとおり女性にとって耐えがたい精神的苦痛を与える態様の改変を加えたものであり、公開されることについて包括的ないし黙示的に承諾するとは考えられない。よって、原告の顔写真が元々アップロードされていたという事情は、原告の肖像権侵害の成立に影響を与えない。 (イ)同一性保持権侵害 別紙著作物目録の写真(以下「原告写真」という。)は、動画の切り抜きではなく、原告が自ら撮影した原告の顔写真であって、写真の著作物であり、原告がかかる著作物の著作者である。 原告写真は、原告の動画配信のサムネイル画像にすることを目的として撮影されたものであり、被写体である原告は、自分の右手を自分の右頬に添え、顔を少し傾けつつ、唇を少しつぼめるというポーズをとっている。また、当該写真においては、原告の顔の輪郭に沿うように桜の花びらが散っている様子の加工やラメ加工が施されている。このように、原告写真が単に人の顔貌を正面から撮影した写真であり、ありふれた構図で撮影したものといえないことは明らかである。原告によるこのようなポージング及び加工は、被写体である原告自身の資質や魅力を最大限に引き出すために施されたものであり、この点において、原告写真には撮影者である原告の個性が表れているといえるから、原告写真に著作物性が認められることは明らかである。 そうすると、本件投稿2−4は、原告に無断で原告写真に顔を少し太らせてひげと眼鏡をつける等した本件投稿画像を投稿するものであり、著作者の著作物をその意に反して改変をしたといえ、原告写真についての原告の同一性保持権を侵害するものである。 (ウ)営業権の侵害 前記1(原告の主張)(1)の本件投稿1−1と同様の理由で、本件投稿2−4による原告の営業権侵害は明らかである。 ウ 違法性阻却事由の不存在について 公人でもない原告に対して専ら嫌がらせや攻撃目的に基づき行われている本件投稿2−4に公共性・公益目的等がないことは明らかであり、必要性相当性もなく、本件投稿2−4に違法性阻却事由はない。 (被告ソフトバンクの主張) (1)本件投稿2−1 ア 同定可能性について 「B」との記載が特定の人物を指しているかは不明であり、仮に「B」との記載が特定の人物を指しているとしても、そのような呼称を有する者は多数存在すると考えられる。 YouTube上で「B」との名称で動画配信を行っている者が原告以外に存在しないかは何ら立証がされていないほか、YouTube以外の各種動画サイトにおいて「B」との名称で動画を配信する者は多数存在し得ることに鑑みると、本件スレッドのタイトル及び本件投稿2−1における「B」との記載が原告を指すことが明らかであるとはいえない。 したがって、本件投稿2−1が原告についての投稿であることが明らかであるとはいえない。 イ 権利侵害について (ア)名誉感情の侵害 原告は、本件投稿2−1のうち、「一人ニタニタ薄気味悪い笑み浮かべて恥ずかしくならないのかな」、「はっきり言って作業所でパンこねてる知恵遅れより生きてる価値ないから」との記載が原告の名誉感情を侵害すると主張するが、上記の記載は、そもそも各記載の趣旨や具体的な意味内容が不明であるか、又は投稿者の抽象的な意見や感想を述べるにとどまるものである。 したがって、一般閲覧者の通常の注意と読み方を基準とすれば、本件投稿2−1は、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるとは評価できず、原告の名誉感情を侵害するものとはいえない。 (イ)営業権の侵害 本件投稿2−1と原告のチャンネル登録者数の増減や原告の動画配信の頻度との関連性は、何ら客観的な証拠により裏付けられていないほか、前記(ア)のとおり、そもそも本件投稿2−1が原告の名誉感情を侵害するものであるとはいえないことに鑑みれば、本件投稿2−1が原告の営業権を侵害しているとはいえない。 ウ 違法性阻却事由の不存在について 仮に本件投稿2−1が原告の名誉感情及び営業権を侵害するものであったとしても、その記載内容及び投稿態様からすれば、公共の利害に関するものではないこと、公益を図る目的でなされたものではないことが、それぞれ明らかとはいえないから、違法性阻却事由が存在しないことが明らかとはいえない。 (2)本件投稿2−2 本件投稿2−1と同様である。 (3)本件投稿2−3 ア 同定可能性について 本件投稿2−1と同様に、本件投稿2−3が原告についての投稿であるとは認められない。 イ 権利侵害について (ア)名誉毀損 本件投稿2−3には何ら具体的な事実や根拠等が記載されておらず、その記載内容からも明らかなとおり、原告が主張するような具体的事実を摘示するものとはいえない。 また、仮に本件投稿2−3が原告の主張するような事実を摘示するものであるとしても、価値観の多様化した現代においては、日払いのアルバイトをしながらネットカフェで寝たり公園で寝たりする生活を送ることや、節約して野宿することなどの事実によって、その者の社会的評価が低下するとはいえない。 したがって、一般閲覧者の通常の注意と読み方を基準とすれば、本件投稿2−3が原告の社会的評価を低下させ、原告の名誉権を侵害するものとはいえない。 (イ)営業権の侵害 また、本件投稿2−1と同様に、本件投稿2−3と原告のチャンネル登録者数の増減や原告の動画配信の頻度との関連性は、何ら客観的な証拠により裏付けられていないほか、前記(ア)のとおり、そもそも、本件投稿2−3が原告の名誉権を侵害するものであるとはいえないことに鑑みれば、本件投稿2−3が原告の営業権を侵害しているとはいえない。 ウ 違法性阻却事由の不存在について 仮に本件投稿2−3が原告の名誉権及び営業権を侵害するものであったとしても、その記載内容及び投稿態様からすれば、公共の利害に関するものではないこと、公益を図る目的でなされたものではないこと、記載内容が真実ではないことが、それぞれ明らかとはいえないから、違法性阻却事由が存在しないことが明らかとはいえない。 (4)本件投稿2−4 ア 同定可能性について 本件投稿2−1と同様に、「B」との記載が原告を指すことが明らかであるとはいえない。仮に「B」との記載が原告を指すとしても、本件投稿2−4自体に「B」との記載はなく、スレッド内にはスレッドのタイトルとは無関係な投稿がされる可能性が十分にあることに鑑みれば、本件スレッドのタイトルに「B」との記載があることをもって、本件投稿2−4が原告についてのものということはできない。 また、本件投稿画像は、原告の顔写真とされる原告写真と比較しても、相当の加工が施されており、一般閲覧者の通常の注意と読み方をもってこれが原告であると認識することはできない。 したがって、本件投稿2−4が原告についての投稿であることが明らかであるとはいえない。 イ 権利侵害について (ア)肖像権侵害 仮に本件投稿2−4が原告についての投稿であるとしても、前記アのとおり、本件投稿画像が原告の顔写真であると認識することはできない上、仮に原告の主張するとおり本件投稿画像が原告写真を加工したものであるとしても、原告写真は、公開を前提に被写体の同意の下に撮影された写真であり、インターネット上で公開されていること、本件投稿画像の使用について原告の同意が得られていない事実が客観的な証拠によって証明されていないことなどを踏まえると、本件投稿2−4は、社会通念上受忍すべき限度を超えるものとはいえず、肖像権の侵害には当たらない。 (イ)同一性保持権侵害 写真が著作物と認められるためには、被写体の選択、構図、カメラアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉、絞り、明るさなどにおいて撮影者の個性が表れていること、すなわち創作性が認められることが必要であるが、原告写真は、人の顔貌を正面から撮影するという、ありふれた構図で撮影した写真であり、著作物の要件である創作性が認められないから、著作物であることが明らかであるとはいえない。 また、原告写真が原告本人によって撮影されたものか否かも証拠上明らかではなく、原告が原告写真の著作者であること及び原告が原告写真について著作権人格権を保有していることが明らかであるとはいえない。 したがって、本件投稿2−4が原告の同一性保持権を侵害したことが明らかとはいえない。 (ウ)営業権の侵害 本件投稿2−1と同様の理由で、本件投稿2−4による原告の営業権侵害は明らかとはいえない。 ウ 違法性阻却事由の不存在について 仮に本件投稿2−4が原告の肖像権や同一性保持権、営業権を侵害するものであるとしても、本件投稿2−4は、その記載内容及び投稿態様からすれば、公共の利害に関するものでないこと、公益を図る目的でされたものではないこと、記載内容が真実でないことがそれぞれ明らかとはいえないし、また、被撮影者の社会的地位、撮影された被撮影者の活動内容、撮影の場所、撮影の目的、撮影の態様、撮影の必要性等を総合考慮して、被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうか明らかであるとはいえないことなどから、本件投稿2−4について違法性阻却事由が存在しないとは断定できない。 3 争点3(本件発信者情報2が本件投稿2による侵害に係る発信者情報であるといえるか)について (原告の主張) 原告は、本件掲示板を管理するロキテクノロジーインコーポレイテッドから、本件投稿2に用いられたIPアドレス等の開示を受けており、本件投稿2に対応する投稿日時と接続元のIPアドレスは、別紙投稿記事目録2記載のとおりである。これらのIPアドレスは、いずれも被告ソフトバンクが管理するものである。 本件投稿2がされた期間は、令和3年(2021年)4月21日から同月29日であるところ、令和2年11月30日時点の本件掲示板の接続先IPアドレスは、別紙発信者情報目録2記載の5つであり(甲6)、原告代理人弁護士が令和3年7月14日時点の本件電子掲示板の接続先IPアドレスを調査したところ、これらと同じ接続先IPアドレスが確認された(甲7)。 そうすると、本件投稿2がされた期間においても、本件掲示板の接続先IPアドレスは、別紙発信者情報目録2記載の接続先IPアドレスであったと認められる。 したがって、本件発信者情報2は、本件投稿2の投稿の際の発信者情報であるといえる。 (被告ソフトバンクの主張) (1)別紙投稿記事目録2に記載された本件投稿2に係る接続元IPアドレスは、いずれも、特定の契約者が中長期にわたり独占的に使用しているものではなく、複数の契約者が同時に割当てを受けて使用しているものであり、契約者情報を特定するためには、接続元IPアドレスとタイムスタンプに係る情報に加え、投稿時点における接続先IPアドレスに係る情報(本件でいえば、本件投稿2が本件掲示板に投稿された時点における接続先IPアドレス)が必要である。 原告が主張する令和2年11月30日時点(甲6)及び令和3年7月14日時点(甲7)の本件掲示板の接続先IPアドレスについて、これらが正確に検出されたものであるかは明らかではない。また、前者の調査時点(令和2年11月30日)から本件投稿2がなされた時点(令和3年4月21日ないし同月29日)まで約5か月も間が空いていることや、本件投稿2がされた時点から後者の調査時点(令和3年7月14日)まで約3か月も間が空いていることに鑑みれば、本件投稿2がされた時点における本件掲示板の接続先IPアドレスが上記各調査時点の接続先IPアドレスとは異なる可能性は否定できない。 (2)被告ソフトバンクは、原告が主張する本件掲示板の接続先IPアドレスを用いて契約者が特定できるか否かを調査しており、別紙発信者情報目録2記載の接続先IPアドレスを用いた場合、同目録記載の各契約者はそれぞれ1名に特定でき、被告ソフトバンクはその者についての同目録記載の情報(本件発信者情報2)を保有している。 しかしながら、上記の接続先IPアドレスが本件投稿2の時点における本件掲示板の接続先IPアドレスとして正しくない可能性があることは、前記(1)のとおりである。したがって、上記の接続先IPアドレスを用いた特定は誤特定であり、本件発信者情報2は、本件投稿2に紐づく契約者情報ではない可能性があるため、本件投稿2による侵害に係る発信者情報であるとはいえない。 なお、被告ソフトバンクは、本件訴訟提起後に、裁判所の釈明を受けて、実際に複数の契約者が別紙投稿記事目録2記載の各投稿日時において同時に同目録記載の各接続元IPアドレスを割り当てられて使用していたかを調査したが、関連するログが保存期間超過により既に消去されていたため、当該事実の有無は確認できなかった。 4 本件発信者情報1及び2の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点4) (原告の主張) 原告は、本件投稿1及び2の各投稿者に対して、不法行為に基づく損害賠償等の請求をする予定であり、そのためには、被告らが保有する本件発信者情報1及び2の開示を受ける必要があるから、本件発信者情報1及び2の開示を受けるべき正当な理由がある。 (被告KDDIの主張) 原告が損害賠償等の請求をする予定であることは不知であり、その余の主張は争う。 (被告ソフトバンクの主張) 原告の主張については否認ないし争う。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(本件投稿1によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について (1)本件投稿1−1について ア 名誉感情の侵害について (ア)同定可能性について a 証拠(甲2)によれば、本件スレッドのタイトルは「【ゲーム実況】Bアンチスレ【女子♯7】」であり、その冒頭の投稿が「引き続きイエスマンで回りを固めているBの悪い所を書きましょう。」という内容であったことが認められる。これらの記載から、本件スレッドは「ゲーム実況」を行う「B」について否定的な内容の投稿を促す趣旨で作成されたものであると認めることができる。 そして、証拠(甲1、8、9、16)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、「B」の名称を用い、「Bchannel」とのタイトルを付したYouTubeのチャンネルにおいて、主にゲーム実況の動画配信を行っていること、同チャンネルの登録者数は、令和3年6月時点で27.4万人程度と多数であったこと、検索サイト(Google)において「B」及び「ゲーム実況」とのキーワードで検索をすると、令和4年1月時点において、上記チャンネルや原告のツイッターアカウントが上位に表示されることが認められる。 b 前記aの事実に加え、「Bは」との文言から始まる本件投稿1−1の記載内容を考慮すれば、本件投稿1−1は、全体として原告についての投稿であると認めるのが相当である。 (イ)権利侵害の明白性について 本件投稿1−1は、原告である「B」について、「臭そうなメンヘラ女」であり、「取り柄」がない、「面倒臭さが漂ってくる」、「メンヘラ全面に出してる人間はホント気持ち悪いわ」などと記載するものであり、原告が精神的に不安定な状態をいう「メンヘラ」(甲9)であることなどを、侮蔑的な表現を用いて繰り返し記載するものであり、記載内容自体から、社会生活上許される限度を超えた侮辱行為であると認めるのが相当である。 そして、本件においては、上記内容の投稿を許容すべき違法性阻却事由があるとはうかがわれないから、本件投稿1−1によって原告の名誉感情が違法に侵害されたことは明白である。 イ したがって、本件投稿1−1によるその余の権利侵害の明白性について検討するまでもなく、本件投稿1−1によって原告の権利が侵害されたことが明らかであると認められる。 (2)本件投稿1−2について ア 名誉感情の侵害について (ア)同定可能性について 前記(1)ア(ア)aの事実に加え、本件投稿1−2の記載内容が「ゲームの続き」や「実況」との記載を含むものであってゲーム実況に関係するものと認められることを考慮すれば、本件投稿1−2は、全体として原告についての投稿であると認めるのが相当である。 (イ)権利侵害の明白性について 本件投稿1−2は、「寒いだけの何の知性もセンスもユーモアも感じられない実況して」などと原告の実況内容についての批判をするにとどまらず、「一人ニタニタ薄気味悪い笑み浮かべて恥ずかしくならないのかな」、「実生活でも浮いていることは手に取るように分かる」、「生きてる価値ない」などと侮蔑的な表現を用いて原告の人格を否定するような内容を記載したものであり、その記載内容自体から、社会生活上許される限度を超えた侮辱行為であると認めるのが相当である。 そして、本件においては、上記内容の投稿を許容すべき違法性阻却事由があるとはうかがわれないから、本件投稿1−2によって原告の名誉感情が違法に侵害されたことは明白である。 イ したがって、本件投稿1−2によるその余の権利侵害の明白性について 検討するまでもなく、本件投稿1−2によって原告の権利が侵害されたことが明らかであると認められる。 (3)本件投稿1−3について 本件投稿1−2は書き出しが「ゲームの続きを皆が楽しみにしている最中」であるのに対して、本件投稿1−3は書き出しが「Bは皆がゲームの続きを皆が楽しみにしている最中」となっているが、その点を除けば、本件投稿1−2と本件投稿1−3は同じであり、本件投稿1−2と同様の理由で、本件投稿1−3によって原告の権利が侵害されたこと(違法な名誉感情侵害)が明らかであると認められる。 (4)本件投稿1−4について ア 名誉感情の侵害について (ア)同定可能性について 前記(1)ア(ア)aの事実に加え、「Bは」との文言から始まる本件投稿1−4の記載内容を考慮すれば、本件投稿1−4は、全体として原告についての投稿であると認めるのが相当である。 (イ)権利侵害の明白性について 本件投稿1−4は、原告について、「知性も根気も体力もモラルもありとあらゆる能力が小学生以下の奴」と記載し、これは侮蔑的な表現を用いて、原告の人格を攻撃するものといえるから、その記載内容自体から、社会生活上許される限度を超えた侮辱行為であると認めるのが相当である。 そして、本件全証拠によっても、上記内容の投稿を許容すべき違法性阻却事由があるとはうかがわれないから、本件投稿1−4によって原告の名誉感情が違法に侵害されたことは明白である。 イ したがって、本件投稿1−4によるその余の権利侵害の明白性について検討するまでもなく、本件投稿1−4によって原告の権利が侵害されたことが明らかであると認められる。 2 争点2(本件投稿2によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について (1)本件投稿2−1及び2−2について 本件投稿2−1は本件投稿1−3と同じであり、本件投稿2−2は冒頭が「B」ではなく「ボンバーB」となっている点を除けば本件投稿1−3及び本件投稿2−1と同じである。したがって、本件投稿2−1及び本件投稿2−2は、いずれも、本件投稿1−2と同内容の投稿であるから、前記1(2)と同様の理由で、本件投稿2−1及び2−2によって原告の権利が侵害されたこと(違法な名誉感情侵害)が明らかであると認められる。 (2)本件投稿2−3について ア 名誉毀損について (ア)同定可能性について 前記1(1)ア(ア)aの事実に加え、「B」との記載を含む本件投稿2−3の記載内容を考慮すれば、本件投稿2−3は、全体として原告についての投稿であると認めるのが相当である。 (イ)権利侵害の明白性について a 本件投稿2−3の投稿による社会的評価の低下について (a)本件投稿2−3は、その記載内容としては、原告が日払いの給与のアルバイトをしながらネットカフェや公園で寝泊まりする生活を1年以上継続しているとの事実を摘示するものである。これを一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すれば、原告が、決まった住居もなく、不安定な生活を送っているとの認識を抱かせるものであって、原告の社会的評価を低下させる事実を摘示するものといえる。 (b)被告ソフトバンクは、価値観の多様化した現代においては、日払いのアルバイトをしながらネットカフェで寝たり公園で寝たりする生活を送ることや、節約して野宿することなどの事実によってその者の社会的評価が低下するとはいえないと主張する。 しかしながら、本件投稿2−3は、前記1(1)ア(ア)aのとおり、原告に対する否定的な投稿を促す本件スレッドに投稿されたものであり、投稿内容としても、原告が自発的な選択により上記のような生活を継続しているというものではないから、上記の摘示内容が、その一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として原告の社会的評価を低下させるものであることは否定し難い。したがって、被告ソフトバンクの上記主張は採用することができない。 b 違法性阻却事由について 証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば、原告がネットカフェや公園で寝泊まりする生活を1年以上継続しているとの事実は真実ではないと認められる。そうすると、本件投稿2−3の摘示する上記事実は重要な部分において真実ではないということができ、その他、本件投稿2−3について、違法阻却事由の存在をうかがわせる事情は存在しない。 c 小括 よって、本件投稿2−3によって原告の名誉が毀損されたことは明白である。 イ したがって、本件投稿2−3によるその余の権利侵害の明白性について検討するまでもなく、本件投稿2−3によって原告の権利が侵害されたことが明らかであると認められる。 (3)本件投稿2−4 ア 同一性保持権の侵害について (ア)原告写真の著作物性及び著作者について 証拠(甲10、15、17)及び弁論の全趣旨によれば、原告写真は、原告が、動画配信サイト上の自らのウェブページに掲載して使用することを目的として、自らの容姿を撮影したものであり、被写体である原告は、片手を頬に添えるポーズをとった上で、顔を正面に向けつつも写真中央から少しずらした位置に配置して撮影を行い、撮影後に顔の輪郭に沿う位置に花びらの画像を加える加工をして原告写真を完成させたものと認められる。 そうすると、原告写真は、原告において、被写体の配置、構図を工夫して撮影し、撮影後に一部加工をしたものであり、原告の個性が表れているものと認められる。 したがって、原告が撮影した原告写真は、原告の思想又は感情を創作的に表現したものということができるから、著作物(著作権法2条1項1号)に該当し、原告はその著作者(同項2号)であると認められる。 (イ)権利侵害の明白性について 証拠(甲2、11、15)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿画像は、原告写真における原告の顔に、原告が眼鏡を掛け、口ひげ及びあごひげを生やしているように見えるような加工をして、作成したものであると認められ、本件投稿2−4により、このような本件投稿画像が本件スレッドの閲覧者の画面に表示されるようにする行為は、原告の意思に反して、原告の著作物を改変するものであるから、本件投稿2−4によって原告写真についての原告の同一性保持権(著作権法20条1項)が侵害されたものと認められる。 そして、本件において、本件投稿2−4が著作権法20条2項4号の「やむを得ない改変」として許容されるべき事情はうかがわれず、その他、本件投稿2−4について違法阻却事由が存在することをうかがわせる事情は存在しないから、本件投稿2−4によって原告写真に係る原告の同一性保持権が侵害されたことが明白である。 イ したがって、本件投稿2−4によるその余の権利侵害の明白性について検討するまでもなく、本件投稿2−4によって、原告の権利が侵害されたことが明らかであると認められる。 3 争点3(本件発信者情報2が本件投稿2による侵害に係る発信者情報であるといえるか)について (1)証拠(甲2ないし5)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件掲示板の運営者に対して、本件投稿2に係る接続元IPアドレスとタイムスタンプの開示を請求し、別紙投稿記事目録2記載の各投稿日時と各IPアドレス(接続元IPアドレス)の開示を受けたこと、上記各IPアドレスはいずれも上記の各投稿日時において被告ソフトバンクが契約者に割り当てたものであったこと、本件掲示板の接続先IPアドレスについて、神田知宏弁護士(以下「神田弁護士」という。)が令和2年6月1日から同年11月30日までの期間に継続的に調査を行った結果(甲6)と原告代理人弁護士が令和3年7月14日に自ら調査を行った結果(甲7)とが一致し、いずれの調査結果によっても別紙発信者情報目録2記載の5つの接続先IPアドレスが特定されたこと、別紙発信者情報目録2記載の接続先IPアドレスを用いた場合、同目録記載の各契約者はそれぞれ1名に特定できることが認められる。 これらの事情に照らせば、別紙発信者情報目録2記載の接続先IPアドレスを用いて特定した本件発信者情報2は、本件投稿2の通信に関する契約者の情報として本件投稿2による侵害に係る発信者情報であると認めるのが相当である。 (2)被告ソフトバンクは、原告が主張する接続先IPアドレスが本件投稿2の時点における本件掲示板の接続先IPアドレスとして正しくない可能性があり、これらの接続先IPアドレスを用いた特定は誤特定であるから、その特定に係る本件発信者情報2は本件投稿2に紐づく契約者情報ではない可能性があると主張する。 しかしながら、前記(1)の神田弁護士が行った調査に係るウェブページ(甲6)では、接続先IPアドレスを調査した結果のみならず、それを調査する方法についても、Windowsのコマンドプロンプトにおいて「nslookupコマンド」を用いて接続先IPアドレスを取得できることなどが具体的に説明されており、これに対し、被告ソフトバンクは、当該調査及び同様の方法による原告代理人弁護士による調査(甲7)の手法の問題点について具体的に指摘しておらず、本件全証拠によっても、上記の各調査が正しくないことを根拠付ける事情は認められない。したがって、被告ソフトバンクの上記主張は採用することができない。 (3)以上によれば、本件発信者情報2は本件投稿2による侵害に係る発信者情報であると認められる。 4 争点4(本件発信者情報1及び2の開示を受けるべき正当な理由があるか)について 証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件投稿1及び2の投稿者に対して、前記1及び2の権利侵害等を理由とする損害賠償請求等を行う意思を有しており、そのためには本件発信者情報1及び2の開示を受ける必要があると認められるから、法4条1項2号の本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。 5 結論 よって、原告の被告らに対する請求はいずれも理由があるから、これらを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 小川暁 裁判官 矢野紀夫は、差支えにつき、署名押印することができない。 裁判長裁判官 國分隆文 別紙一覧 別紙 発信者情報目録1 別紙 発信者情報目録2 別紙 投稿記事目録1 別紙 投稿記事目録2 別紙 著作物目録 別紙 投稿画像目録 別紙 発信者情報目録1 別紙投稿記事目録1記載の各IPアドレスを、同目録記載の各投稿日時ころに被告KDDI株式会社から割り当てられ、次の接続先IPアドレス(〈省略〉、〈省略〉、〈省略〉、〈省略〉、〈省略〉)のいずれかに接続していた者に関する以下の情報。 @氏名または名称 A住所 B電子メールアドレス 別紙 発信者情報目録2 別紙投稿記事目録2記載の各IPアドレスを、同目録記載の各投稿日時ころに被告ソフトバンク株式会社から割り当てられ、次の接続先IPアドレス(〈省略〉、〈省略〉、〈省略〉、〈省略〉、〈省略〉)のいずれかに接続していた者に関する以下の情報。 @氏名または名称 A住所 別紙 投稿記事目録1 URL:(省略) スレッドタイトル:【ゲーム実況】Bアンチスレ【女子#7】 1(投稿内容が同じものをまとめている。以下同じ。) (1)投稿番号:23 投稿日時:2021/04/21(水)15:11:19.65 IPアドレス:(省略) (2)投稿番号:24 投稿日時:2021/04/21(水)15:15:40.88 IPアドレス:(省略) (3)投稿番号:83 投稿日時:2021/04/22(木)23:29:42.84 IPアドレス:(省略) (4)投稿番号:87 投稿日時:2021/04/22(木)23:42:46.27 IPアドレス:(省略) 【投稿内容】 「Bは臭そうなメンヘラ女w 取り柄のねえガチの発達そうだしな C的な面倒臭さが漂ってくるわ メンヘラ全面に出してる人間はホント気持ち悪いわ」 2 (1)投稿番号:28 投稿日時:2021/04/21(水)17:02:07.67 IPアドレス:(省略) (2)投稿番号:32 投稿日時:2021/04/21(水)18:27:36.23 IPアドレス:(省略) 【投稿内容】 「ゲームの続きを皆が楽しみにしている最中突然新作をやりだし寒いだけの何の知性もセンスもユーモアも感じられない実況して自分では上手いこと言った気分になって 一人ニタニタ薄気味悪い笑み浮かべて恥ずかしくならないのかな 実生活でも浮いていることは手に取るように分かる はっきり言って作業所でパンこねてる知恵遅れより生きてる価値ないから」 3 投稿番号:82 投稿日時:2021/04/22(木)23:29:19.36 IPアドレス:(省略) 【投稿内容】 「Bは皆がゲームの続きを皆が楽しみにしている最中突然新作をやりだし寒いだけの何の知性もセンスもユーモアも感じられない実況して自分では上手いこと言った気分になって 一人ニタニタ薄気味悪い笑み浮かべて恥ずかしくならないのかな 実生活でも浮いていることは手に取るように分かる はっきり言って作業所でパンこねてる知恵遅れより生きてる価値ないから」 4 (1)投稿番号:80 投稿日時:2021/04/22(木)23:28:48.14 IPアドレス:(省略) (2)投稿番号:92 投稿日時:2021/04/23(金)00:15:08.07 IPアドレス:(省略) (3)投稿番号:96 投稿日時:2021/04/23(金)09:36:00.73 IPアドレス:(省略) (4)投稿番号:110 投稿日時:2021/04/23(金)15:30:46.33 IPアドレス:(省略) 【投稿内容】 「Bは自分が出したゴミの片付けも一人で出来ず親に手伝って貰いながら20分もしない内に根を上げて自分の人生がどうのとか嘆く姿は滑稽だな知性も根気も体力もモラルもありとあらゆる能力が小学生以下の奴がいつまで妄想吐いてんだ? 自分でも分ってんだろう 一人じゃ何にも出来ねえ赤ん坊だから今後も何の成功も得られないっ人生って事を」 別紙 投稿記事目録2 URL:(省略) スレッドタイトル:【ゲーム実況】Bアンチスレ【女子♯7】 1(投稿内容が同じものをまとめている。以下同じ。) (1)投稿番号:35 投稿日時:2021/04/21(水)20:22:03.05 IPアドレス:(省略) (2)投稿番号:58 投稿日時:2021/04/22(木)13:16:11.04 IPアドレス:(省略) (3)投稿番号:143 投稿日時:2021/04/26(月)12:27:10.38 IPアドレス:(省略) 【投稿内容】 本件投稿1−3と同じ。 2 投稿番号:129 投稿日時:2021/04/25(日)11:56:05.34 IPアドレス:(省略) 【投稿内容】 「ボンバーBは皆がゲームの続きを楽しみにしている最中突然新作をやりだし寒いだけの何の知性もセンスもユーモアも感じられない実況して自分では上手いこと言った気分になって 一人ニタニタ薄気味悪い笑み浮かべて恥ずかしくならないのかな 実生活でも浮いていることは手に取るように分かる はっきり言って作業所でパンこねてる知恵遅れより生きてる価値ないから」 3 投稿番号:43 投稿日時:2021/04/22(木)01:51:29.62 IPアドレス:(省略) 【投稿内容】 「Bは日払いのバイトしながらネカフェで寝たり公園で寝たりな生活を1年以上続けてる 最近は夜少し暖かくなってきたから3月終わりごろから夜は公園で配信して朝になったらバイト行ってる 毎日バイトがあるわけじゃないしネカフェ使うとお金掛かるから少しでも節約して野宿してる」 4 投稿番号:226 投稿日時:2021/04/29(木)11:15:16.17 IPアドレス:(省略) 【投稿内容】 別紙投稿画像目録記載の画像の掲載 別紙 著作物目録 (省略) 別紙 投稿画像目録 (省略) |
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