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【事件名】ツイッター掲載写真のトリミング事件
【年月日】令和4年4月15日
 東京地裁 令和3年(ワ)第23928号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年2月16日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 久保俊之
被告 B


主文
1 被告は、原告に対し、24万円及びこれに対する令和2年7月24日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを5分し、その3を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
4 本判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、60万円及びこれに対する令和2年7月14日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、被告に対し、被告が、別紙原告写真目録記載1の写真(以下「原告写真1」という。)をトリミングして同被告写真目録記載1の写真(以下「被告写真1」という。)を、同原告写真目録記載2の写真(以下「原告写真2」という。)をトリミングして同被告写真目録記載2の写真(以下「被告写真2」という。)を、それぞれ作成し、原告の氏名を表示することなく、ツイッターに被告写真1の掲載を含む投稿をし、インスタグラムに被告写真1及び2の掲載を含む投稿をしたことにより、原告写真1及び2に係る原告の著作者人格権(同一性保持権及び氏名表示権)を侵害したと主張して、不法行為に基づき、合計60万円(慰謝料50万円及び弁護士費用10万円)及びこれに対する令和2年7月14日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告は、令和2年7月14日、原告写真1及び2を撮影した(甲1の2、3)。
 原告写真1及び2は、「写真の著作物」(著作権法10条1項8号)に該当する。
(2)原告は、令和2年7月14日、原告のツイッター上のアカウントにおいて、原告写真1及び2の掲載を含む投稿をした(甲2)。
(3)ア 被告は、遅くとも令和2年7月24日までに、スマートフォンのアプリケーションを使用して、原告写真1の上下左右をトリミングして正方形にし、右下に白文字の筆記体で「B以下省略」と記載した被告写真1を作成した(甲4ないし7)。
イ 被告は、遅くとも令和2年7月24日までに、スマートフォンのアプリケーションを使用して、原告写真2の上下左右をトリミングして正方形にした被告写真2を作成した(甲6、7)。
(4)ア 被告は、令和2年7月24日、ユーザー名を「B以下省略」、アカウント名を「B以下省略」とする被告のツイッター上のアカウントにおいて、原告の氏名を表示することなく、被告写真1の掲載を含む投稿(以下「本件投稿1」という。)をした(甲5、弁論の全趣旨)。
イ 被告は、令和2年7月24日、ユーザー名を「B以下省略」、アカウント名を「B以下省略」とする被告のインスタグラム上のアカウントにおいて、原告の氏名を表示することなく、被告写真1及び2の掲載を含む投稿(以下「本件投稿2」という。)をした(甲6、弁論の全趣旨)。
ウ 被告は、令和2年7月24日、ユーザー名を「B以下省略」、アカウント名を「B以下省略」とする被告のインスタグラム上のアカウントにおいて、原告の氏名を表示することなく、被告写真1及び2の掲載を含む投稿(以下「本件投稿3」という。)をした(甲7)。
(5)原告は、令和2年7月27日、被告に対し、被告写真1及び2の使用を中止することを求めるメッセージを送信した(甲10)。
 被告は、同日、上記メッセージを受けて、本件投稿1ないし3をいずれも削除した(乙1、弁論の全趣旨)。
3 争点
(1)同一性保持権侵害の成否(争点1)
(2)氏名表示権侵害の成否(争点2)
(3)損害額(争点3)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(同一性保持権侵害の成否)について
(原告の主張)
 写真の縦横比及び構図は、写真の創作性及び特徴において重要な意味を有するところ、被告は、原告の許諾を受けることなく、横長の構図である原告写真1及び2の各中央部を正方形にトリミングしたことにより、原告写真1及び2に係る原告の同一性保持権を侵害した。
 被告は、インスタグラムの仕様に合わせるために、原告写真1及び2をトリミングしたと主張するが、インスタグラムにおいては、平成27年8月以降、正方形以外の画像であっても投稿することは可能であり、「やむを得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)にも該当しない。
(被告の主張)
 被告は、原告写真1及び2の中央位置はそのままにし、インスタグラムの仕様に合わせて、原告写真1及び2を正方形にトリミングしたにすぎず、原告写真1及び2の創作性及び特徴を害したものではない。
 また、上記トリミングは、「やむを得ないと認められる改変」に該当する。
(2)争点2(氏名表示権侵害の成否)について
(原告の主張)
 被告は、原告写真1をトリミングし、右下に白文字の筆記体で「B以下省略」と記載した被告写真1を作成し、ツイッター及びインスタグラムにこれの掲載を含む本件投稿1ないし3をした。本件投稿1ないし3がされたツイッター等のアカウントのユーザー名(「B以下省略」等)からすると、本件投稿1ないし3を見た者は、被告写真1の著作者はアカウントの保有者である被告と理解するのが通常であるから、原告写真1に係る原告の氏名表示権が侵害されたといえる。
 また、被告は、原告写真2をトリミングした被告写真2を作成し、インスタグラムにこれの掲載を含む本件投稿2及び3をした。本件投稿2及び3を見た者は、被告写真2に著作者が表示されていないとしても、被告写真2の著作者はアカウントの保有者である被告と理解するのが通常であるから、原告写真2に係る原告の氏名表示権が侵害されたといえる。
(被告の主張)
 原告写真1及び2には、原告に著作権があることを示す原告のウォーターマークの記載はなく、被告がこれを削除したわけではない。
 被告は、被告写真1に「B以下省略」とウォーターマークを記載したが、これは被告のアカウント名でも本名でもないから、これによって被告写真1の著作権者が被告であると理解されるとはいえない。
(3)争点3(損害額)について
(原告の主張)
ア 被告が、原告写真1をトリミングし、原告写真1に係る原告の同一性保持権を侵害したことにより、原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料額は、20万円を下らない。
 また、被告が、原告写真2をトリミングし、原告写真2に係る原告の同一性保持権を侵害したことにより、原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料額は、20万円を下らない。
イ 被告が、ツイッター及びインスタグラムに被告写真1の掲載を含む本件投稿1ないし3をし、原告写真1に係る原告の氏名表示権を侵害したことにより、原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料額は、1投稿当たり2万円(合計6万円)を下らない。
 また、被告が、インスタグラムに被告写真2の掲載を含む本件投稿2及び3をし、原告写真2に係る原告の氏名表示権を侵害したことにより、原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料額は、1投稿当たり2万円(合計4万円)を下らない。
ウ 本件訴訟を追行するのに要する弁護士費用相当額は、10万円を下らない。
(被告の主張)
 原告が主張する損害は、精神的損害を含め、財産損害に対する賠償、すなわち、写真の使用料相当額の支払によって回復されるのが通常である。写真の使用料相当額は、画像素材サイト「PIXTA」における金額が基準となり、原告写真1及び2の場合、その被写体からすると、合計6600円(税抜き)を下回るというべきである。
 また、損害が発生するほどの精神状態であれば、原告は、本件投稿1ないし3がされた後の令和2年8月2日に、山の上から撮影した写真を掲載し、「良き朝を迎えております」などと記載したツイートを投稿することはできなかったはずであるから、原告が金銭をもって慰謝すべき精神的苦痛を被ったと認めることはできない。
 さらに、本件においては、慰謝料の算定根拠が明らかにされていない。被告は、原告に対し、これを明らかにするよう求めてきたが、原告から明確な回答はない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(同一性保持権侵害の成否)について
(1)前記前提事実(1)のとおり、原告が撮影した原告写真1及び2は「写真の著作物」(著作権法10条1項8号)に該当するから、原告は、原告写真1及び2に係る同一性保持権を有するところ、前記前提事実(3)のとおり、被告は、原告写真1の上下左右を正方形になるようにトリミングして被告写真1を、原告写真2の上下左右を正方形になるようにトリミングして被告写真2を、それぞれ作成したものである。
 したがって、被告は、原告写真1及び2に係る原告の同一性保持権を侵害したと認めるのが相当である。
(2)これに対して、被告は、原告写真1及び2の中央位置はそのままにし、インスタグラムの仕様に合わせて正方形にトリミングしたものであり、原告写真1及び2の創作性及び特徴を害したものではないし、「やむを得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)に該当すると主張する。
 そこで検討するに、原告写真1及び2は、列車が川に架かる鉄橋を走行する様子を、列車をほぼ中心に据え、周囲に霧のかかった川及び連なる山々を配置し、列車と比較して周囲の川及び山を大きく写すような横長の構図で撮影されたものであり、これらの点について創作性を認めることができる。そして、被告写真1及び2は、上記のような原告写真1及び2の上下左右をトリミングして正方形にし、それらに写し出された左右の山を大きく切り取ったものである。そうすると、被告が被告写真1及び2を作成したことにより、原告写真1及び2について、その著作者である原告の意に反し、上記のとおり創作性の認められる表現部分に実質的な改変が加えられたことは明らかであって、これが原告写真1及び2の創作性及び特徴を害さないものということはできない。
 また、本件全証拠によっても、被告が被告のインスタグラム上のアカウントにおいて掲載するために原告写真1及び2をトリミングすることについて、正当な理由を基礎付ける事実は認められないから、被告による上記改変が「やむを得ないと認められる改変」に該当するとは認められない。
 したがって、被告の上記主張は採用することができない。
2 争点2(氏名表示権侵害の成否)について
(1)前記前提事実(1)のとおり、原告が撮影した原告写真1及び2は「写真の著作物」に該当するから、原告は、原告写真1及び2に係る氏名表示権を有するところ、被告は、前記前提事実(3)のとおり、原告写真1及び2をそれぞれトリミングして被告写真1及び2を作成した上、前記前提事実(4)のとおり、被告のツイッター上のアカウントにおいて、原告の氏名を表示することなく被告写真1の掲載を含む本件投稿1をし、また、被告のインスタグラム上のアカウントにおいて、原告の氏名を表示することなく被告写真1及び2の掲載を含む本件投稿2及び3をしたものである。
 したがって、被告は、原告写真1及びに2に係る原告の氏名表示権を侵害したと認めるのが相当である。
(2)これに対して、被告は、原告写真1及び2には原告に著作権があることを示す原告のウォーターマークの表示はなく、被告がこれを削除したものではないし、被告写真1に記載された「B以下省略」は被告のアカウント名でも本名でもないから、これによって被告写真1の著作権者が被告であると理解されるとはいえないと主張する。
 しかし、氏名表示権とは、「その著作物の公衆への提供若しくは提示に際し、その実名若しくは変名を著作者名として表示し、又は著作者名を表示しないこととする権利」(著作権法19条1項)をいうところ、前記前提事実(4)のとおり、被告写真1及び2の掲載を含む本件投稿1ないし3において、原告の氏名は表示されていなかったものであり、原告写真1及び2に原告の氏名が記載されていなかったからといって、原告が、原告写真1及び2を公衆に提示するに際し、自身の氏名を著作者名として表示しない意思を有していたということはできず、本件全証拠によっても、そのような意思を有していたとは認められない。
 したがって、被告が指摘する上記事情はいずれも前記(1)の認定判断を左右するものではなく、被告の上記主張は採用することができない。
3 争点3(損害額)について
(1)前記1(2)のとおり、原告写真1及び2は、列車が川に架かる鉄橋を走行する様子を、列車をほぼ中心に据え、周囲に霧のかかった川及び連なる山々を配置し、列車と比較して周囲の川及び山を大きく写すような横長の構図で撮影されたものであり、被告写真1及び2は、原告写真1及び2の上下左右をトリミングして正方形にし、それらに写し出された左右の山を大きく切り取ったものである。
 上記によれば、被告が原告写真1及び2に加えた改変は、写真の縦横比、構図及び写し出された対象を変更するものであり、これにより原告写真1及び2と被告写真1及び2とでは異なる印象を与える結果となったものであるから、改変の程度は大きいといえる。他方で、列車が川に架かる鉄橋を走行する様子を写し出した原告写真1及び2の中心部分は、被告写真1及び2において改変は加えられていない。これらの事情に加えて、本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、原告が原告写真1及び2に係る同一性保持権を侵害されたことにより受けた精神的苦痛に対する慰謝料額は、各5万円(合計10万円)と認めるのが相当である。
(2)前記前提事実(4)及び(5)のとおり、被告は、被告のツイッター及びインスタグラム上のアカウントにおいて、原告の氏名を表示することなく、被告写真1及び2の掲載を含む本件投稿1ないし3をしたものであるが、その期間は、令和2年7月24日から同月27日までの4日間と、それほど長いものではない。他方で、被告は、前記前提事実(3)ア及び(4)のとおり、自身の名字の一部分である「B以下省略」を、上記アカウントのユーザー名及びアカウント名に用いていたところ、原告写真1に原告の氏名を表示しないというのにとどまらず、右下に、被告が著作者であることを示すように見える「B以下省略」と記載した被告写真1を作成し、これをツイッター等に掲載したものであり、権利侵害の態様は悪質といわざるを得ない。
 以上に加え、本件訴訟に現れた一切の事情を考慮すると、原告が本件投稿1ないし3により原告写真1及び2に係る氏名表示権を侵害されたことにより受けた精神的苦痛に対する慰謝料額は、被告写真1の掲載を含む本件投稿1につき2万円、被告写真1及び2の掲載を含む本件投稿2につき4万円、被告写真1及び2の掲載を含む本件投稿3につき4万円(合計10万円)と認めるのが相当である。
(3)これに対して、被告は、@原告が主張する損害は、精神的損害を含め、写真の使用料相当額の支払によって回復されるのが通常である、A原告は、本件投稿1ないし3の後、山の上から撮影した写真を掲載して「良き朝を迎えております」などと記載したツイートを投稿しており、金銭をもって慰謝すべき精神的苦痛が生じたとは認められない、B原告は、慰謝料の算定根拠を明らかにしていないと主張する。
 しかし、上記@については、被告の前記1(1)及び2(1)の各行為により、原告写真1及び2に係る原告の著作者人格権である同一性保持権及び氏名表示権が侵害され、原告はこれにより精神的苦痛を被ったものであり、原告に生じた精神的損害は、写真の使用料相当額の支払によって慰謝される性質のものではない。
 また、上記Aについては、原告が被告の指摘するようなツイートを投稿していたとしても、これをもって、原告が被告の前記1(1)及び2(1)の各行為により精神的苦痛を被っていないとは認められない。
 さらに、上記Bについて、慰謝料の額は、諸般の事情を考慮して、裁判所が裁量により定めるものであるから、原告は、その判断の基礎となる事情を主張立証すれば足りるというべきである。
 したがって、被告の上記各主張はいずれも採用することができない。
(4)以上によれば、原告が被告の前記1(1)及び2(1)の各行為により被った精神的苦痛に対する慰謝料額は、合計20万円である。
 そして、これに対する弁護士費用相当額の損害は、4万円と認めるのが相当である。
 また、遅延損害金の起算日は、被告が前記1(1)及び2(1)の各行為を行った令和2年7月24日と認めるのが相当である。
第4 結論
 したがって、原告の請求は、被告に対して24万円及びこれに対する令和2年7月24日から支払済みまで年3%の割合の金員の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 小川暁
 裁判官 矢野紀夫は差支えのため署名押印することができない。
裁判長裁判官 國分隆文


(別紙)原告写真目録
 省略
 以上

(別紙)被告写真目録
 省略
 以上
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