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【事件名】“flickr”掲載写真の無断複製事件C
【年月日】令和4年4月14日
 東京地裁 令和3年(ワ)第17103号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年2月15日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 山本隆司
被告 B
同訴訟代理人弁護士 田中史郎
同 浦川祐輔


主文
1 被告は、別紙著作物目録記載の写真を複製し、自動公衆送信し、又は送信可能化してはならない。
2 被告は、原告に対し、22万円及びこれに対する平成28年10月12日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用はこれを3分し、その2を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。
5 この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 主文第1項と同旨
2 被告は、原告に対し、33万7554円及びこれに対する平成28年10月12日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、被告に対し、原告が撮影した別紙著作物目録記載の写真(以下「本件写真」という。)を複製したもの(別紙被告写真目録記載の写真。以下「被告写真」という。)を、被告が管理運営するウェブサイト(「甲のドライヘッドスパ・フェイシャル専門店C」(URLは省略)。以下「本件サイト」という。)に掲載して、本件写真に係る原告の著作権(複製権、公衆送信権(送信可能化権を含む。以下同じ。))及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害し、これに因り原告に損害を与えたと主張して、不法行為に基づく損害賠償として、合計33万7554円(ライセンス料相当額23万7554円、慰謝料5万円、弁護士費用5万円)及びこれに対する上記掲載日(不法行為日)である平成28年10月12日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を、また、被告により本件写真の著作権(複製権、公衆送信権)が侵害されるおそれがあると主張して、著作権法112条1項に基づき、本件写真を複製し、自動公衆送信し、又は送信可能化することの差止めを、それぞれ求める事案である。
2 当事者の主張
(1)請求原因
ア 原告は、平成25年9月27日、本件写真を撮影した。本件写真は、被写体の選択レンズ及びカメラの選択、アングル、シャッターチャンス、シャッタースピード及び絞りの選択、ライティング、構図、トリミング等により、原告の思想又は感情を創作的に表現したものであるから、写真の著作物に当たる。
 したがって、原告は、本件写真に係る著作権及び著作者人格権を有する。
イ 被告は、平成28年10月12日、故意又は過失により、別紙URL目録記載@のページにおいて、本件写真と同一である被告写真のデータをサーバに保存等することで、本件写真を複製して公衆送信し、また、本件サイト内の別紙URL目録記載Aのウェブページにおいて、原告の氏名を著作者名として表示することなく、前記ページへのリンクを貼って被告写真を公衆送信した。
 したがって、被告は、故意又は過失により、本件写真に係る原告の複製権、公衆送信権及び氏名表示権を侵害した。
ウ 被告は、令和2年8月8日、原告から被告写真の削除及び損害賠償の支払を求める旨の内容証明郵便を受領し、一旦は本件サイト内での被告写真の掲載を中止した。しかし、被告は、本件写真に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害したことを認めておらず、今後、侵害行為を再開する可能性がある。したがって、被告が本件写真に係る原告の著作権及び著作者人格権を侵害するおそれがあり、これを差し止める必要性がある。
エ 原告は、原告が撮影した写真を営利目的で使用することを許諾する場合、欧米で広く利用されている「fotoQuote」の料金表に従ってライセンス料を請求しているところ、同料金表により計算すると、本件写真に係る原告の著作権(複製権、公衆送信権)が侵害されたことに因り被った著作権法114条3項に基づく損害額は、本件サイトが国内市場向け宣伝用ウェブサイトの場合、2180米ドル(23万7554円(令和3年5月24日現在、1ドルは108.97円))であり、また、本件サイトが地域市場向け宣伝用ウェブサイトであるとしても1272米ドルである。
 なお、原告は、侵害に因り被った損害額として、予備的に業界相場に基づき著作権使用料相当額として15万円を主張する。すなわち、文化庁から著作権等管理団体に指定され、著作権使用料について文化庁の審査を経ている協同組合日本写真家ユニオンの使用料規程が業界相場として利用されるべきである(甲15)。そして、被告による原告写真の利用は、「商用広告目的」の「HPトップページ」に該当し(同10頁)、使用期間は4年であるから、その使用料額は15万円(=6万円+3万円×3年)である。
 また、本件写真に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたことにより原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料額は、5万円である。
 さらに、被告の上記侵害行為により原告が被った弁護士費用相当額の損害は、5万円である。
(2)請求原因に対する認否等
ア 請求原因アについては、不知。
イ 請求原因イについては、否認する。本件サイトを運営しているのは被告ではなく、Dであり、被告写真を掲載したのは同社の何者かであって被告ではない。
 仮に、同社の何者かが行った行為につき、Dが使用者責任を負うとしても、その何者かは著作権法に配慮するために「無料画像素材」と検索して「無料」のカテゴリーにあった本件写真の画像を見つけたのであるから、その何者かにおいても積極的な誤信があり著作権等侵害に係る過失がない。また、原告が米国著作権局に本件写真の著作権登録を行ったのが令和2年4月2日であるところ、同社の何者かが被告写真を投稿したのは平成28年10月12日であり、その前であるから、Dが原告写真の権利関係について正確に把握できる期待可能性もなかった。
ウ 請求原因ウについては、争う。原告は、差し止めの必要があると主張するが、原告が主張する著作権侵害のおそれは、抽象的な可能性をいうものにすぎない。
エ 請求原因エについては、否認又は争う。
 「C」は、「甲・乙・丙のドライヘッドスパ・フェイシャル専門店」と謳っており、「丁区の女性」がターゲット層である。そのため、fotoQuoteの区分は、「地域市場向け宣伝用ウェブサイト」となり、使用許諾料は1272米ドルとなる。これを平成28年10月12日時点でのドル円レートで計算すると、13万8130円となる。そのため、被告の写真使用に対する使用許諾料は、最大でも同額である。
(3)抗弁(権利濫用)
 本件における原告の権利行使は、@クリエイティブ・コモンズ・ライセンス第2版を用いること、A「Flickr」、「Wikipedia」といったサイトに写真をアップロードし、「fotoQuote」の請求書サイトを用い、「Pixsy」、「Copypants」といった会社を用いて写真の利用状況を調査すること、B定型警告書の送付をもって本件写真の市場価値に見合わない高額な損害賠償の支払を要求し、同支払がされなければ訴訟にて更に高額な賠償金を請求すると威嚇し、実際に支払がなされないと、即座に定型訴状をもって更に高額な損害賠償の請求をすること、という特徴@〜Bを充足するため、「コピーレフトトロール」に該当する網羅的かつ濫用的な著作権の不公正行使を行っているものといえる。このような「コピーレフトトロール」は、いわば法の網をくぐって罠にかかり、無料だと信じた無垢な一般消費者から法外な著作権料を徴収する「ビジネス」であり、著作権法が掲げる「文化的所産の公正な利用」に真っ向から反しているものである。
 以上によれば、本件における原告の著作権行使は、権利の濫用に当たり、許されない。
(4)抗弁に対する認否等
 上記に対しては、争う。
第3 当裁判所の判断
1 請求原因アについて
 証拠(甲1、2)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真は、原告が、撮影条件を選択し、被写体の選択及び配置、構図並びに撮影方法を工夫し、シャッターチャンスを捉えて撮影したものであるから、原告の個性が表現されたものということができる。したがって、本件写真は原告の思想又は感情を創作的に表現した「著作物」(著作権法2条1項1号)に該当し、本件写真を創作した原告は「著作者」(同項2号)に該当するので、原告は、本件写真に係る著作権及び著作者人格権を有する。
 したがって、請求原因アが認められる。
2 請求原因イについて
(1)証拠(甲3(枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば、被告は、平成28年10月12日、原告の許諾なく、また、原告の氏名を著作者名として表示することなく、別紙URL目録記載@のURLの画像ファイルとして、被告写真のデータを無線・有線電気通信設備たるサーバに保存し、アップロードの上、公衆に向けて送信し、また、自らが運営管理する本件サイト内の別紙URL目録記載AのURLに係るウェブページにおいて、前記画像ファイルへのリンクを貼って、本件写真と同一である被告写真を掲載した上、公衆に向けて送信したことが認められる。
 したがって、被告は、原告の許諾なく、本件写真を有形的に再製して被告写真とし、原告の氏名を著作者名として表示することなく、被告写真について、公衆によって直接受信されることを目的として、公衆に向けて送信可能化の上、無線又は有線電気通信の送信を行ったということができるから、被告は、本件写真に係る原告の著作権(複製権、公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したと認められる。
(2)また、証拠(甲1、2、4)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、平成26年11月頃、写真投稿サイト「flickr」に、自らの氏名を著作者名として表示して、本件写真を掲載したことが認められる。他方で、著作者の許諾なく本件写真を利用することができると被告が考えたことについて正当な理由が存在したことを認めるに足りる証拠はなく、かえって、証拠(甲1、4)によれば、原告が本件写真を投稿した「flickr」上のウェブページには、「Somerightsreserved」(一部権利留保)と明記されており、これに照らせば、同ウェブページ上で本件写真を閲覧した者は、通常、本件写真を著作者の許諾なく利用することができないと理解するものと認められる。
 そして、被告が本件写真と同一である被告写真を掲載するに当たり、原告の許諾をとることができず、また、原告の氏名を著作者名として表示し得なかったやむを得ない事情は本件証拠上うかがわれない。そうすると、被告が本件サイト内で、原告の許諾なく、また、原告の氏名を著作者名として表示することなく、本件写真と同一である被告写真を掲載したことについて、原告の権利を侵害することにつき予見可能性及び回避可能性が認められるというべきであって、被告には少なくとも過失があったと認めるのが相当である。
(3)これに対し、被告は、本件サイトを運営しているのは被告ではなく、Dであり、被告写真を掲載したのは同社の何者かであって被告ではない旨主張する。しかし、証拠(甲3(枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば、被告写真(本件写真と同一)が本件サイト上に掲載されているところ、本件サイトの「オーナープロフィール」欄には、被告自身の顔写真や氏名とともに、被告自身が、「ドライヘッドスパ&フェイシャルサロンC」をオープンした旨の記載があることが認められ、その他、本件サイトのその他の写真や記載の体裁に照らしても、「ドライヘッドスパ&フェイシャルサロンC」のオーナーである被告が本件サイトを運営し、本件サイト上に被告写真を掲載したものと認めるのが相当である。そして、この認定を覆すに足りる証拠はない。
 また、被告は、被告写真を本件サイト上に掲載した何者かは著作権法に配慮して「無料画像素材」と検索して「無料」のカテゴリーにあった本件写真を見付けたから積極的な誤信があり過失がない、原告が米国著作権局に本件写真の著作権登録を行ったのが令和2年4月2日であるから、それ以前に、原告写真の権利関係について正確に把握できる期待可能性はなかったなどと主張する。
 しかし、上記(2)において説示したことに加え、証拠(甲1、4)及び弁論の全趣旨によれば、原告が本件写真を投稿した「flickr」上のウェブページには、「Somerightsreserved」(一部権利留保)との表示があり、この表示部分をクリックすると、詳細なライセンス条件が表示されることが認められる。これらによれば、原告の許諾なく、また、被告が本件サイト内で原告の氏名を著作者名として表示することなく、本件写真と同一である被告写真を掲載したことについて、被告に少なくとも過失があることは明らかであり、かつ、このことは、事柄の性質上、本件写真の米国著作権登録がされた時期によって左右されるものではない。
 したがって、被告の上記各主張はいずれも採用できない。
(4)以上によれば、請求原因イが認められる。
3 請求原因ウについて
 証拠(甲5(枝番を含む。))及び弁論の全趣旨によれば、被告は、令和2年8月8日、原告から被告写真の削除及び損害賠償の支払を求める旨の内容証明郵便を受領し、その後、本件サイト内での被告写真の掲載を中止したことが認められる。他方、証拠(甲3の2)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、少なくとも平成28年10月12日から令和2年8月頃までの約4年間にわたり、本件サイト内に被告写真を掲載したことが認められ、また、被告は、現在に至るまで、本件サイトに被告写真を掲載した主体が被告であることを否認し、著作権の侵害を争っている。
 以上のような事情を併せ考慮すれば、著作権侵害のおそれは抽象的なものにとどまるとはいえず、被告において本件写真に係る原告の著作権を「侵害するおそれ」(著作権法112条1項)がいまだ認められるというほかない。
 したがって、請求原因ウが認められる。
4 請求原因エについて
 前記のとおり、被告写真は、「ドライヘッドスパ&フェイシャルサロンC」のオーナーである被告がその事業のために本件サイトに掲載したものであり、被告写真の掲載期間は約4年間に及ぶ。また、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告は、自身の写真のライセンスに当たっては、通常、「fotoQuote」の料金表を使用していること(甲6)、「ドライヘッドスパ&フェイシャルサロンC」は丁区の女性を対象とするサロンとされていること(乙1)、上記料金表によれば、地域市場向け宣伝用ウェブサイトに画面の2分の1以下の画像サイズの写真を5年間使用させる内容のライセンス料は、1272米ドルを下回らないこと(甲14)、令和3年5月24日(本件の訴え提起の日の前日)時点における米ドル・円相場の「仲値」が1ドル108.97円であること(甲8)が認められる(最三小判昭和50年7月15日・民集29巻6号1029頁参照)。そうすると、正規の使用許諾契約により本件写真を営利目的で使用する場合、原告は、13万8609円(1272ドル×108.97円=13万8609円(1円未満切捨て))でその利用を許諾することとしていたものと認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。以上に加え、被告は、上記料金表による正規のライセンスを経ずに、約4年間という長期間にわたり被告写真を無断で使用したというべきであること等の本件に顕れた一切の事情を考慮すると、本件写真に係る原告の著作権(複製権、公衆送信権)の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)は、15万円と認めるのが相当である(主位的主張の一部に理由があると認めるものであるが、予備的主張も15万円を超えるものではないため、同予備的主張については判断することを要しない。)。
 また、上記の諸事情に鑑みれば、本件写真に係る原告の著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたことにより原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は5万円、弁護士費用相当額の損害は2万円とそれぞれ認めるのが相当である。
 以上によれば、請求原因エについては、上記説示の限度(合計22万円の限度)で認められ、その余は認められない。
5 抗弁(権利濫用)について
 被告は、本件における原告の著作権の行使は、本件写真のライセンス料が無料であると信じた被告に対し、法外なライセンス料を請求するものであり、これはコピーレフトトロールという概念に該当するもので、権利の濫用に当たる旨を縷々主張する。
 しかし、仮に、被告が、被告写真を掲載した当時、本件写真のライセンス料が無料であると信じていたとしても、そのように信じたことに過失があると認められることは前記2で説示のとおりである上、前記4で説示した本件写真のライセンス料に相当する損害額が明らかに市場価値に見合わないといえるほど高額であるとも認められない。そして、被告の上記主張内容等に鑑みてその他本件全証拠をみても、本件事案の下で、本件における原告の著作権の行使が権利の濫用であることを基礎付けるに足る事情は認められないというべきであって、被告の上記主張は認めるに足りない。
 したがって、被告の主張(抗弁)は認められない。
6 その他、被告は、訴状送達の適法性など縷々主張するが、本件記録に照らし、被告に対する送達はその営業所において適法になされていると認められ、その他の主張も、主張内容等に照らし、いずれも上記説示を左右するものではない。
第4 結論
 以上によれば、原告の損害賠償請求は、被告に対し、損害賠償金22万円及びこれに対する平成28年10月12日(上記損害が発生したと解される被告写真の掲載日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がない。また、原告の差止請求は、被告に対し、本件写真を複製し、自動公衆送信し、又は送信可能化(公衆送信の前段階)することの差止めを求めるものであるので、前記説示に照らして、理由がある。
 よって、主文のとおり判決する。なお、主文第1項に対する仮執行宣言は相当ではないからこれを付さないこととする。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判官 小口五大
 裁判官 稲垣雄大
 裁判長裁判 官田中孝一は、転補のため署名押印することができない。
裁判官 小口五大


(別紙著作物目録省略)
(別紙被告写真目録省略)
(別紙URL目録省略)
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