判例全文 | ||
【事件名】訪日外国人向けWEBサイトの投稿写真事件 【年月日】令和4年4月14日 東京地裁 令和3年(ワ)第13623号 著作権侵害差止等請求事件 (口頭弁論終結日 令和4年2月10日) 判決 原告 X 同訴訟代理人弁護士 山本隆司 被告 ジャパン・トラベル株式会社 主文 1 被告は、別紙著作物目録記載の写真を複製し、自動公衆送信し、又は送信可能化してはならない。 2 被告は、原告に対し、7万円及びこれに対する平成30年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 原告のその余の請求を棄却する。 4 訴訟費用は、これを20分し、その9を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。 6 原告のために、この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求 1 主文1項と同じ。 2 被告は、原告に対し、33万9092円及びこれに対する平成30年10月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 仮執行宣言 第2 事案の概要 本件は、原告が著作権を有する写真がインターネット上のウェブサイトに無断でアップロードされ、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)、著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)が侵害されたとして、同ウェブサイトを管理運営等している被告に対し、原告写真の複製・自動公衆送信等の差止め並びに損害賠償金33万9092円及びこれに対する不法行為日である平成30年10月6日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠(特記ない限り枝番号含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実) (1)当事者(争いのない事実) ア 原告は、スウェーデンの写真家である。 イ 被告は、旅行に関する情報提供サービス及びそのコンサルティング業務等を目的とする株式会社である。被告は、「JapanTravel」と題するウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)を運営している。(以上(1)について、争いのない事実) (2)原告写真について(争いのない事実、甲1) 原告は、平成26年3月24日、別紙著作物目録記載の写真(以下「原告写真」という。)を撮影し、同月中に、原告の氏名(ペンネーム)を付して公表した。原告写真は、「北野天満宮の梅の木」と題する記事の写真であり、北野天満宮において、紅梅が手前にあり、奥には着物を着た女性2名が参拝する風景を撮影したものである。 原告写真は、被写体の構図、レンズ・カメラの選択、シャッターチャンス、シャッタースピード、絞りの選択等により、原告の思想、感情を創作的に表現した写真の著作物である。 (3)被告各写真について(争いのない事実、甲3、弁論の全趣旨) ア 別紙被告写真目録1及び同目録2記載の各写真(以下、同目録1記載の写真を「被告写真1」、同目録2記載の写真を「被告写真2」といい、併せて「被告各写真」という。)は、いずれも原告写真に基づき作成され、被告写真1は原告写真の左右を一部切除したものである。被告各写真は、原告写真の創作性ある部分を利用し、その表現上の本質的特徴を感得できる。被告各写真は、平成30年10月6日頃、本件ウェブサイト内の別紙URL目録記載1及び2に対応する被告が管理運営するサーバーに記録され、公衆への送信が可能となった。被告各写真は公衆に対して送信され、当該ウェブページを閲覧すると、被告各写真を見ることができ、その際、原告の氏名は表示されなかった。 また、別紙URL目録記載3のウェブページには、「財布を探さずに京都を探検」という題名の記事(以下「本件記事」という。)が掲載されており、その末尾には、6枚の写真が表示されていて、そのうちの1枚は被告写真1であった。これは、別紙URL目録記載1に対応するサーバーへのリンクが設定されて表示されたものであった。その表示の際にも原告の氏名は表示されなかった。 イ 被告は、令和2年10月19日、原告から被告各写真の削除等を求める警告書を受領し、その後間もなく、本件ウェブサイトから被告各写真を削除した。 2 争点 (1)複製及び公衆送信等の主体 (2)差止めの必要性 (3)不法行為の成否及び損害額 3 争点及びそれに対する当事者の主張 (1)争点(1)(複製及び公衆送信等の主体)について 【原告の主張】 ア 本件ウェブサイトは、本件ウェブサイトの会員から公衆に向けた発信を媒介するサービスを提供することを目的とするものではなく、被告の営業を支援するために会員から観光地情報の提供を受けて、被告の旅行会社業務を推進することを目的とするものであるそして、被告が会員に記事執筆を委託する関係にあり、被告は、会員の投稿記事を一旦受け取り、審査の上、承認したもののみを本件ウェブサイトに掲載していた。 以上によれば、被告が、本件ウェブサイトに被告各写真を複製して、これを本件ウェブサイトから公衆送信したというべきである。 イ また、原告は、原告写真にその氏名(ペンネーム)を記載して公表したところ、被告は、原告の氏名(ペンネーム)を著作者として表示せず、また、別紙URL目録記載1のウェブページにおいて原告写真の左右を切除しており、被告は、氏名表示権及び同一性保持権を侵害した。 【被告の主張】 ア 本件ウェブサイトは、被告従業員によって責任編集される部分と会員による投稿記事部分の2種類の記事で構成されているところ、被告各写真は、会員により投稿されたものであり、利用者が会員登録を行って、投稿規定に従って利用者の意思によって投稿しているものであり、被告が作成を指示したり編集したりしていない。 また、被告の投稿規定には、被告が編集等を行うことができる旨の規定があるが、これは、第三者に対する誹謗、中傷等の社会的に許容できないことを内容とするコンテンツの投稿を防止するために用意されたものであり、被告が投稿の変更を強制又は管理したことは、削除通知と盗作が検出された場合を除けば、ない。また、被告は、サービスの運営者として記事を編集しておらず、投稿内容の確認及び編集は、被告社員が直接行うのではなく、会員のボランティアによって、編集、翻訳等が行われており、被告は関与していない。被告各写真の投稿者も被告から経済的利益を得たり、また、指示等を受けたりしておらず、自発的に投稿したと述べている。 以上によれば、被告は、被告各写真の掲載に関与しておらず、複製及び公衆送信の主体ではない。 イ また、原告は、原告写真にその氏名(ペンネーム)を記載して広報しているところ、会員は、投稿規定に違反し自己が撮影した写真であるかのようにして、トリミングした原告写真を記事に掲載したものではあるが、被告は、それを会員の著作物であると信じており、原告写真を改変したものであることを知らなかった。被告には、氏名表示権侵害及び同一性保持権侵害は成立しない。 (2)争点(2)(差止めの必要性) 【原告の主張】 被告は、原告からの警告を受けて被告各写真の掲載を中止したが、被告は侵害を認めておらず、今後侵害を再開するおそれがあることから、被告による侵害を差し止める必要性がある。 【被告の主張】 原告に対する著作権侵害は既に解消されており、差止めの必要性はない。 (3)争点(3)(不法行為の成否と損害額) 【原告の主張】 ア 被告には、他人の著作権等を侵害しないように注意すべき義務があることから、被告は、会員から提供された記事をサーバーに複製し又は公衆送信するに当たって、他人の著作権を侵害しないように注意する義務があり、被告は、その注意義務を果たすために必要な事前審査権・編集権を明示的に保有している。被告は、事前に審査する権限を適切に行使して著作権侵害を防止する義務を懈怠しており、ユーザーによる著作権侵害を招来したことに対して少なくとも過失がある。したがって、被告には不法行為が成立する。 イ 損害額 (ア)正規のライセンス料18万9092円 原告は、第三者に対し、その写真を営利目的で使用する場合、fotoQuoteソフト(以下「本件ソフト」という。)の料金表に従ったライセンス料を課していることから、本件ソフトに基づいてライセンス料を定めるべきである。被告は、被告写真1を300×200ピクセル、被告写真2を800×398ピクセルの大きさで、平成30年10月6日から少なくとも令和2年10月16日まで2年以上掲載しており、その正規ライセンス料は、18万9092円を下らない。 (イ)慰謝料 10万円 (ウ)弁護士費用 5万円 【被告の主張】 原告の主張は争う。被告は、通常、無料で商用利用できる既存写真ストックのウェブサイトから写真を選んで掲載し、また、適切な写真がない場合には、安価な写真ストックサイトから購入することから、写真の使用料は無料であり、原告の主張は失当である。 第3 当裁判所の判断 1 本件ウェブサイト等について (1)証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。 ア 本件ウェブサイトの「JapanTravel.comについて」と題するウェブページには、「JapanTravel.comは日本を訪れる旅行者が最初に閲覧し、旅行の情報を入手できる最大のウェブサイトです。」「50人の地域パートナーおよび30、000人のコミュニティライターによる、15言語対応のネットワークのおかげで、私たちは急成長を遂げることができ、日本最大の観光ガイドになりました。」「JapanTravel.comは、日本各地の最新情報、素晴らしい旅行の計画・予約・準備に役立つ観光情報、情報源、地図、ツールを提供しています。」「ジャパントラベルは、日本の魅力を世界に発信するメディアであり、その他コンサルティングビジネスおよび第二種旅行業登録の訪日専門トラベルエージェンシーを運営」と記載されている(甲10の1)。 イ 本件ウェブサイトの構成 (ア)本件ウェブサイトのトップページの上部のタグ部分には、@「ホテルを予約する」、A「広告について」、B「カテゴリー」、C「目的地」、D「予約」、E「ログイン」、F「新規登録」、G「検索」などの項目の記載、本文部分には、H「日本の観光情報」、I「ジャパン・トラベルでできること」、J「ジャパン・トラベル特集」、K「おすすめ記事」、L「最新記事」、M「都道府県特集」、N「ジャパン・トラベルのコミュニティー」などの項目の記載がある(甲14の1)。 (イ)本件ウェブサイトのトップページの上部のタグ部分の項目 上記@「ホテルを予約する」をクリックすると、ホテルを予約するための検索サイトに遷移する(甲16の1、弁論の全趣旨)。 上記A「広告について」をクリックすると、被告の会社情報のウェブページに遷移し、「ジャパン・トラベルにできること」として、「インバウンド専門旅行会社経験豊富な外国人・日本人スタッフがカスタマイズツアーを主力としたインバウンドツアーをサポートします。」、「インバウンドマーケティングバナー広告、記事広告、特集ページ制作など発信したい情報をユーザーに届けます。」、「訪日外国人メディア「JapanTravel.com」インバウンドメディア掲載記事数国内No1、15か国語で日本魅力を世界に発信しております。」などの記載がされている(甲16の2、弁論の全趣旨)。 上記D「予約」をクリックすると、「ホリデー」、「チケット」、「ツアー」、「アクティビティ」、「シティ自転車レンタル」、「オーダーメイドの旅」などの項目が表示され、上記「ホリデー」の項目をクリックするとホテル又は飛行機を予約するための検索画面に、上記「チケット」の項目をクリックすると鉄道切符や施設入場券等の購入画面に、上記「ツアー」の項目をクリックすると各種パッケージツアーの購入画面に、上記「アクティビティ」の項目をクリックすると体験型ツアーの購入画面に、上記「オーダーメイドの旅」の項目をクリックするとオーダーメイドの旅の予約画面にそれぞれ遷移する(甲10の3ないし10の8、16の5、弁論の全趣旨)。 (ウ)本件ウェブサイトのトップページの本文部分の項目 上記Hの「日本の観光情報」には、観光地の写真とその名称、記事執筆者の名前が記載されており、その下には、「宿泊施設」、「活動」、「文化」、「飲食」、「ナイトライフ」、「ビューティ・スパ」、「ショッピング」、「交通アクセス」のカテゴリーが記載されており、当該観光地の写真又はその名称部分をクリックすると記事画面に遷移し、また、「宿泊施設」をクリックすると宿泊施設の検索画面と宿泊施設の投稿記事が表示される(甲14の1、14の2、14の7、弁論の全趣旨)。 上記I「ジャパン・トラベルでできること」には、@「バイク(バイクシェアで日本を探索しましょう)」、A「コミュニティ(日本に対する「好き」をみんなに伝えましょう)」、B「ツアーズ(ツアー/アクティビティ予約)」、C「マップ(マップで日本を再発見)」との記載があり、上記A「コミュニティ(日本に対する「好き」をみんなに伝えましょう)」をクリックすると「会員になる」と記載したウェブページに遷移し、「日本旅行の思い出や訪れた場所を共有してポイントを貯め、商品を交換しましょう!」、「記事を書くごとに、あるいはコメントをするたびにポイントが貯まり、そのポイントを還元して賞品と引き換えることができます。」などと記載されており、上記B「ツアーズ」をクリックすると各種有料ツアーを案内するページに遷移する(甲14の1、14の4、14の5、弁論の全趣旨)。 上記N「ジャパン・トラベルのコミュニティー」には、「ジャパン・トラベルのライターになろう」との記載があり、当該記載をクリックすると、記事の投稿によってポイントと賞品(リワード)が与えられることが記載されている。上記「リワード」のウェブページには、「JapanTravelに会員登録して商品をもらおう」、「日本での体験や行った場所をジャパン・トラベルで共有し、ポイントを獲得して商品をもらおう。」、「JapanTravelは、使えば使うほど多くの特典がもらえるウェブコミュニティです。」、「JapanTravel.comのサイト上でログイン、コメント、記事作成などをするたびに、商品と交換できるポイントが獲得できます。」、「すべての会員が、ジャパン・トラベルのオンライン商品ストアで還元できるポイントを獲得することができます。」などの記載と共に、「ポイント交換システム」や「ポイント獲得方法」について記載されており、記事投稿者には500ポイントが付与され、「rewardsstore」(賞品ストア)には、当該ポイントをamazonのギフトカード等への交換が可能であることなどが記載されている。(甲14の1、11の1ないし11の3) ウ 本件ウェブサイトにおける会員による記事について (ア)本件ウェブサイトに会員登録した会員は、本件ウェブサイトに掲載される記事を被告に送信することができる。本件ウェブサイトで、会員が記事を被告に送信する場合、会員が自ら記載した記事本文の文章や掲載したい写真を確定すると、その書き込み内容を確認する画面が表示されたが、当該画面のトップには、「この記事は下書きの状態です。完成次第提出してください。地域パートナーがチェックして承認の手続きを行います。」と記載されていた。その画面で、会員が「提出」のタブをクリックすると写真を含む記事のデータが被告に送信される。当該記事は、承認がされるまで、送信した会員に対しては「未承認」というステータスが表示され、本件ウェブサイトの一般の閲覧者は、当該記事を閲覧等することはできない。被告には、「地域パートナー」と呼ばれる者(以下「被告地域パートナー」という。)がいるところ、会員が被告に送信した記事は、被告パートナーが承認した場合に、本件ウェブサイトの一般の閲覧者がその記事やそれについての写真を閲覧することができるようになる。被告地域パートナー等は、会員が送信した記事の内容確認、編集、翻訳等を行っている。(甲17ないし19、乙5、弁論の全趣旨) (イ)被告の会員規約には、「ジャパン・トラベルは利用者コンテンツを審査し、編集しおよび監視する。」と規定されている(甲12)。 エ 本件記事について 本件記事は、本件ウェブサイトの会員であるA(以下「本件投稿者」という。)によって、平成30年10月6日頃までに被告に送信されたものであり、「財布を探さずに京都を探検」、「京都での「低コスト」な1日旅程」という題が付されている。本件記事は、冒頭に多数の鳥居が並んでいる光景の写真が表示され、その下に、ポルトガル語で記載された20段落以上ある文章が表示され、その末尾に、京都に関係があると考えられる6枚の写真が表示され、その1枚が本件写真1である。また、その下に京都の場所を示す地図が表示される。(甲3の1) 2 争点(1)(複製、公衆送信等の主体)について (1)平成30年10月6日頃、被告が管理運営する本件ウェブサイトのサーバーに被告写真1及び被告写真2が蔵置、記録され、自動公衆送信可能になったといえる。原告は、これらについて、被告が、複製、公衆送信を行ったと主張する。 (2)ア 本件投稿者は、原告写真の複製物であり被告各写真を本件記事の文章とともに被告に送信した。 イ もっとも、本件投稿者が被告に上記送信をしたことにより、直ちに、被告各写真が公衆送信されることになったとは認められない。 本件ウェブサイトでは、会員が被告に送信した記事を被告地域パートナーが承認して、初めて、その記事を本件ウェブサイトの一般の閲覧者が閲覧できるようになる(前記1(1)ウ)。本件投稿者が被告に送信した被告各写真を含む本件記事についても、被告の地域パートナーが、その内容等を審査して、それを承認したことにより、その承認後、被告各写真や本件記事を本件ウェブサイトの一般の閲覧者が閲覧できるようになったと推認することができる。 ウ 被告は、旅行に関する情報提供サービス及びそのコンサルティング業等を目的とする株式会社であり(前記前提事実(1)イ)、本件ウェブサイトには、「ジャパントラベルは、日本の魅力を世界に発信するメディアであり、その他コンサルティングビジネスおよび第二種旅行業登録の訪日専門トラベルエージェンシーを運営」(前記1(1)ア)、「「インバウンド専門旅行会社 経験豊富な外国人・日本人スタッフがカスタマイズツアーを主力としたインバウンドツアーをサポートします。」(同イ(イ))と記載されていること、本件ウェブサイトを通じて、ホテル又は飛行機を予約したり、鉄道切符や施設入場券、各種パッケージツアー、体験型ツアーを購入したり、オーダーメイドの旅の予約をしたりすることができること(同イ(イ)(ウ))からすれば、本件ウェブサイトは、会員から記事の送信を受けて、その記事を表示することで観光地の情報を提供しつつ、それを利用してツアーの企画などの旅行関連事業を行うことも目的としたものといえる。したがって、本件ウェブサイトは、被告の旅行関連事業の営業のために設けられているという性質も有するといえる。 (3)本件ウェブサイトでは、被告が利用者コンテンツを審査し、編集等する旨の規定が設けられている(前記1ウ)だけではなく、実際に、会員が記事を被告に送信しても、被告地域パートナーの承認がない限り当該記事は本件ウェブサイトに掲載されず、会員が被告に送信した写真は、被告地域パートナーが承認という作業をすることによって、自動公衆送信装置といえるサーバーに蔵置、記録され、送信可能化されるに至り、公衆送信されることになったといえる。また、前記ウによれば、本件ウェブサイトは、被告が行う旅行関連事業の営業のために設けられているという性質も有するといえる。会員による記事の送信は、そのような被告のための記事の提供という面も有していた。被告地域パートナーは、本件ウェブサイトにおいて、会員から送信された記事の内容について、上記のとおりの本件ウェブサイトの目的に沿うものであるかやその目的との関係でその質を維持するものであるかなどを広く審査して、承認の可否を決定し、また必要な修正を行っていたと推認でき、また、これらの作業を被告の営業のために被告の履行補助者として行っていたと認められる。 これらによれば、本件投稿者が被告に送信した被告各写真は、被告の履行補助者である被告地域パートナーが被告の営業のために内容を広く審査して承認という作業をしたことによって、サーバーに蔵置、記録され、送信可能化されるに至り、公衆送信されたといえる。これらを考慮すると、被告が、被告各写真の複製、公衆送信をしたと認めることが相当である。 (4)被告の主張について 被告は、@記事の修正等をする被告地域パートナーはボランティアであること、A被告各写真の投稿者は、被告から経済的利益を得たり、また、指示等を受けておらず、任意に被告各写真を投稿したことを挙げて、被告は、複製、公衆送信の主体ではないなどと主張する。 ア 上記@について、被告地域パートナーがボランティアであったとしても、本件ウェブサイトは被告の旅行関連事業の営業のために設けられているという性質も有し、被告地域パートナーによる記事の承認等は、そのような被告の営業のために行われるものと推認できることを併せて考えれば、被告地域パートナーは、被告からの直接の報酬の支払を受けていなかったとしても、被告の履行補助者とみるのが相当である。 したがって、被告の上記@の主張を採用することはできない。 イ 上記Aについて、本件ウェブサイトが前記のとおり被告の営業目的のために設けられているという性質も有し、また、被告各写真についても、他の記事と同様に、被告地域パートナーが内容を広く審査して承認し、公衆送信されるようになったと認められることに鑑みれば、被告各写真が被告に対して送信されたのは会員の自由な意思に基づくものであったとしても、被告各写真を複製し公衆送信したのは被告とみるのが相当である。 したがって、被告の上記Aの主張も採用することはできない。 (5)著作者人格権侵害について 前提事実(3)のとおり、本件ウェブサイトにおいて、原告の氏名(ペンネーム)を表示せずに被告各写真が表示され、また、別紙URL目録記載1のウェブページにおいて原告写真の左右が切除されていたと認めることができる。 これらと、本件ウェブサイトにおいて被告各写真が掲載されるに至る過程に照らせば、前記と同様の理由により、被告は、原告の氏名表示権及び同一性保持権を侵害したといえる。 (6)以上によれば、被告は、原告が保有する原告写真の複製権及び公衆送信権を侵害し、また、氏名表示権及び同一性保持権を侵害したといえる。 3 争点(2)(差止めの必要性) 前記2(3)のとおり、被告は原告の複製権及び公衆送信権を侵害したと認めることができるところ、被告は、上記各侵害を否定していることに照らせば、被告が被告各写真の掲載を取りやめたことを考慮したとしても、差止めの必要性は認められる。 したがって、原告の被告に対する原告写真の複製、自動公衆送信等の差止請求は理由がある。 4 争点(3)(不法行為の成否及び損害額) (1)不法行為の成否 被告に著作権(複製権及び公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)の侵害が認められることは前記2のとおりであるところ、被告は、本件ウェブサイトへの被告各写真の掲載に当たって、他人の著作権、著作者人格権を侵害しないように注意すべき義務があるにもかかわらず、これを怠った過失を認めることができ、被告には不法行為が成立するといえる。 (2)損害額 ア 著作権(複製権及び公衆送信権)侵害について (ア)証拠(甲21)によれば、協同組合日本写真家ユニオン作成の使用料規程(以下「本件規程」という。)は、同組合がその管理の委託を受けた写真の著作物の利用に係わる使用料を定めるものであること、インタラクティブ配信の場合(写真の著作物をデジタル記録媒体に複製し、利用者がコンピュータネットワークと受信装置を用いて著作物を選択的に利用することができるように配信して使用する場合)において、「商用広告目的」の「HPセカンダリーページ」、「使用の期間」2年間の使用料額は、7万円となることが認められる。 本件において、原告は、日本写真家ユニオンの会員ではない(乙11、弁論の全趣旨)ものの、原告は、スウェーデンの写真家であること(前記前提事実(1)ア)、原告写真の内容や被告による使用態様等に照らせば、原告写真の使用料相当額の算定に当たり、本件規程を参酌するのが相当である。 本件ウェブサイトは、被告の旅行関連事業の営業目的の性質を有するものであり、被告各写真は商用目的で利用されていたといえ、その使用期間も約2年間にわたるものであった(前記前提事実(3))。他方、実際に一般の閲覧者が被告各写真を閲覧するのは本件記事の末尾の表示といえるところ、それは、京都に関連する6つの写真のうちの1つとして表示されたものであり(甲3の3)、本件記事に占める割合も小さい。このような被告各写真の使用目的や使用期間、使用態様に加えて、原告写真の内容などその他一切の事情を考慮すれば、原告が著作権の行使につき受けるべき金銭の額(著作権法114条3項)は、4万円と認めるのが相当である。 (イ)原告は、本件ソフトの料金表に従って写真のライセンス料を課していると主張し、これを裏付ける陳述書(甲6)がある。しかし、原告の写真家としての活動実態は明らかではない上に、本件ソフトの料金表に基づいた具体的なライセンス実績も明らかではないことからすれば、原告の使用料相当額の算定に当たり、本件ソフトの料金表を参酌するのは相当ではない。 (ウ)被告は、無料又は安価な写真ストックサイトなどから写真を入手又は購入することから、写真の使用料は無料であるなどと主張するが、被告は、被告各写真を本件ウェブサイトに掲載して現に使用していたことからすれば、被告の上記主張を前提としても、被告は、実施料相当額の損害賠償責任を負うべきであり、その金額としては上記のとおりと認めるのが相当である。被告の上記主張は採用できない。 イ 著作者人格権(氏名表示権及び同一性保持権)侵害について 被告には氏名表示権及び同一性保持権侵害が認められるのは前記3のとおりである。もっとも、同一性保持権侵害について、原告写真は別紙著作物目録記載のとおり、北野天満宮にて紅梅を手前に、奥には着物を着た女性2名が参拝する風景を撮影したものであるところ、被告写真1は、その左右部分である上記梅の花と木の一部を切除したものであり、改変の程度は小さい。 このような同一性保持権侵害の態様や程度に加えて、氏名表示権侵害の態様や本件に現れた一切の事情を考慮すれば、氏名表示権侵害及び同一性保持権侵害によって原告に生じた慰謝料としては2万円と認めるのが相当である。 ウ 弁護士費用 本件事案の性質・内容、本件訴訟に至る経過、本件審理の経過等諸般の事情に鑑みれば、被告の著作権侵害行為及び著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額の損害は、1万円と認めるのが相当である。 5 結論 以上によれば、原告の請求は、原告写真の複製、自動公衆送信等の差止請求、損害賠償金7万円及びこれに対する不法行為日である平成30年10月6日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 柴田義明 裁判官 仲田憲史 裁判官 棚井啓は、転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 柴田義明 別紙 著作物目録 撮影者: X 撮影日: 2014年3月24日 題名:「Plum trees at the Kitano Tenmangu」 米国著作権登録番号:VA 2-209-450 公表 URL:(省略) 別紙 被告写真目録1 複製先:(省略) 別紙 被告写真目録2 複製先:(省略) 別紙 URL目録 1(省略) 2(省略) 3(省略) 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