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【事件名】“みんなのカーライフ”ブログ事件
【年月日】令和4年4月14日
 東京地裁 令和3年(ワ)第2859号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年2月15日)

判決
原告 X
原告訴訟代理人弁護士 山本隆司
被告 株式会社カービュー
被告訴訟代理人弁護士 岡伸夫


主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、35万9374円及びこれに対する平成24年12月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 本件は、原告が著作権を有する写真が、インターネット上のウェブサイトに無断でアップロードされたことによって、原告の複製権、公衆送信権及び氏名表示権が侵害されたとして、同ウェブサイトを管理運営している被告に対し、不法行為に基づき、ライセンス料相当損害金、氏名表示権侵害による慰謝料、弁護士費用相当損害金の合計35万9347円及び写真掲載日である、平成24年12月11日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1)原告は、オランダ王国の国籍を有する者である。(弁論の全趣旨)
 被告は、「みんカラ」という名称のウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)を運営する株式会社である。本件ウェブサイトでは、ブログサービスを提供している。(争いなし)
(2)原告は、平成22年6月9日に別紙原告写真目録記載の写真(以下「原告写真」という。)を撮影し、インターネット上のFlickrという名称の写真投稿サイトにおいて、自己の氏名を付して公開した。
 原告写真は、夜間に1台の車両の全体を側方から撮影した写真であり、車両の前照灯が点灯しているほか、前輪のブレーキローターが赤くなっている様子が写っている。
 原告写真は、レンズ・カメラの選択、アングル、シャッターチャンス、シャッタースピード・絞りの選択、ライティング、構図・トリミング等によって原告の思想・感情を創作的に表現した著作物である。(この項について、甲1、弁論の全趣旨)
(3)氏名不詳者(以下「本件投稿者」という。)は、平成24年12月11日、本件ウェブサイトのブログサービスを利用して、「ブレーキパッドの選び方そのD〜パッドテストの参加〜」というタイトルの投稿(以下「本件投稿」という。)をした。
 本件投稿には、文章のほか、原告写真の複製物である写真が含まれており、同写真は、被告が管理するサーバーに蔵置、記録され、自動公衆送信が可能になった(以下、同サーバーに蔵置、記録されて、送信可能になった写真を「投稿写真」といい、同サーバーからの投稿写真の公衆送信を「本件公衆送信」ということがある。)。
 本件ウェブサイトの利用者が本件投稿を閲覧すると、投稿写真を見ることができ、その際、原告の氏名は表示されなかった。(甲3、乙9、弁論の全趣旨)
(4)本件原告訴訟代理人弁護士は、令和2年5月27日付けで、被告に対し、原告の代理人であるとして、投稿写真の削除を求め、被告は、同年6月3日、同代理人に対して、原告の本人確認資料及び同代理人の代理権を証する委任状の提出を求めることなどを記載した書面を送付した。原告は、それへの特段の応答はせず、本訴を提起した。被告は、令和3年1月12日に訴状副本の送達を受けて、本件投稿者に問い合わせをし、本件投稿者は、令和3年1月22日に本件投稿の投稿写真を削除した。被告は、本件ウェブサイトにつき、コンテンツデリバリーネットワークサービスを利用していたところ、同年2月8日、本件投稿者の上記対応を受け、同サービスのキャッシュサーバ―に記録されていた投稿写真のデータも削除した。(甲5、乙9、弁論の全趣旨)
3 争点に対する当事者の主張
(1)被告が原告写真の複製、公衆送信等の主体であるといえるか(争点1)
(原告の主張)
 著作権の侵害に利用可能な設備を第三者に利用可能にする者は、当該第三者による著作権侵害がその者の管理下で行われ、かつ当該著作権侵害から営業上の利益を得る場合には、当該著作権侵害を直接行うものと同視されるべきである。
 本件ウェブサイトの利用規約(以下「本件規約」という。)には、被告が事前に投稿の可否を審査する権限を有すること(本件規約8条1号)が規定されている。また、本件規約によれば、ユーザーには投稿した記事の削除権限が規定されておらず、被告が削除権限を有している(本件規約5条5項)。さらに、被告は、ユーザーが投稿した記事について著作権を取得することになっている(本件規約5条4項)。これらの事情からすると、被告は、物理的管理能力のみならず、法的にも管理権限を有していたといえる。被告が現実にこれらの権限を行使していなかったことは、義務の懈怠を意味するにすぎず、被告の責任は、より大きい。
 被告は、ユーザーの投稿内容を被告がまとめたり、他の箇所に転載することがあることを認めており、このような行為は、ユーザーの通信の媒介を超えており、ユーザーの投稿コンテンツを自己の営業の為に利用する行為である。被告が投稿記事について著作権を取得することは前記のとおりであり、被告は、ユーザーによる投稿コンテンツの利用に対して営業上の利益を得ている。
 また、本件ウェブサイトは、自動車を購入しようとする者などにオンライン雑誌ないしオンライン百科として自動車の情報を提供するものであり、その目的は被告が広告収入を得たり、被告が別途運営している自動車用品のネットオークション・フリマアプリへの招客、被告が別途行う「carview!」広告事業のために運用する「carview!」サイトに本件サイトの会員投稿コンテンツを転載して利用することにあり、被告は、本件サイトを営利目的で運用している。
 以上の事情によれば、被告は、ユーザーによる写真投稿による著作権侵害について管理し、利益を得ていたので、著作権侵害主体としての責任を負う。
 氏名表示権侵害についても同様の理由により被告が侵害主体として責任を負う。
(被告の主張)
 原告写真の複製、投稿写真の公衆送信について、ブログサービスにおける複製、公衆送信の主体は著作物を投稿するユーザーであって、ブログサービスの運営者ではない。
 本件規約には、被告が投稿の可否に関して審査できる権限について記載されているが、これは、違法掲載を繰り返す特定のユーザーについて、何らかの形で事前に違法行為が察知でき、これを阻止できる事態が被告に生じた場合の備えとして規定されているにすぎない。本件ウェブサイトで提供しているブログサービスは、ユーザーが行う投稿がそのまま掲載されることを当然の前提とする仕様となっており(本件規約9条1項、2項、11項参照)、掲載前の事前審査に係る条項(本件規約8条1号)も、このことを前提にしている。実際に、ユーザーが投稿すると、投稿内容が即座にブログに反映させる仕組みになっており、被告は、掲載の可否など審査していない。
 また、被告が本件ウェブサイトで提供しているのはブログサービスであり、ユーザーがいったん投稿された内容稿について自由に変更削除できることは当然の仕様である。実際に、ユーザーは、自身が行った投稿を自由に削除することができ、その内容は即座にブログに反映され、被告による削除の承認等が必要なわけではない。本件規約には被告の削除権限が規定されているが、これは、紛争防止のための規定にすぎない。
 ユーザー投稿を他の用途に利用したいと考えるのは、被告に限らず、投稿サービス、ユーザーコミュニケーションサービス等のSNSサービス共通の関心事であり、ユーザー投稿の著作権の帰属とSNS事業者の利用について何らかの定めがあることは珍しくない。例えば、出版社では、原作者に著作権を残したまま出版を行うことは珍しいことではなく、著作権の帰属と侵害の主体は無関係であり、このことが被告が著作権侵害の主体となることの根拠となることはない。
 以上の事実に加え、被告のサービスには、ユーザーの投稿をいわゆる隠れ蓑に違法掲載を助長する実態はなく、一般的なブログサービスと同じものであり、被告が著作権侵害の主体となることはない。
 また、同様の理由により、氏名表示権侵害について、被告がその主体として責任を負うことはない。
(2)過失(争点2)
(原告の主張)
 被告は、ユーザーが著作権侵害を生じさせる可能性を認識し、かつユーザーによる投稿を事前に審査する権限を有することにより、当該権限を適切に行使して著作権侵害を防止する義務を負っていた。にもかかわらず、被告は、これを意図的に懈怠したのであるから、被告には著作権侵害を招来したことについて過失がある。
 氏名表示権侵害についても同様である。
(被告の主張)
 被告は、ブログ運営者であり、その性質上、法律上も約款上も事前に違法アップロードを防止する義務を負わず、原告写真の複製物である投稿写真が掲載された当時、これが著作権者の許諾を受けずに掲載されたことを認識できなかったのであるから、故意も過失も存在しない。被告に過失があるというためには、原告が、少なくとも被告において何をすればユーザーにおける著作権侵害等を防ぐことができたかを主張立証する必要があるが、原告からはこの点に関する主張すらない。仮に本件につき過失を認めると、SNS事業自体が違法であるから廃業せよというのに等しくなってしまい不当である(ママ)
 氏名表示権侵害についても同様である。
(3)損害
(原告の主張)
ア 原告は、その写真を営利目的で使用する場合、欧米で広く利用されているfotoQuoteソフトの料金表に従ってライセンス料を課している。被告は、投稿写真を日本語による日本市場向けのWeb広告として用いており、500×333ピクセル及び220×146ピクセルの大きさで、平成24年12月11日から少なくとも本訴提起の日である令和2年11月7日まで8年間以上掲載しており、上記ソフトの料金表に従うと、その額は2405米ドルになる。令和2年11月6日時点では、1ドル103.69円であるから、ライセンス料相当額は24万9374円になる。
 また、日本写真家ユニオンの使用料規定に基づいて計算しても投稿写真の掲載は、商用広告目的でHPのトップページに掲載したものであるといえるから、その使用料は上記金額を下らない。
イ 原告は、被告による投稿写真の掲載による氏名表示権侵害によって、5万円相当の精神的損害を被った。
ウ 弁護士費用相当損害金は上記の合計29万9347円の約20%である6万円が相当である。
(被告の主張)
 原告の主張は争う。本件では、原告が原告写真を掲載したflickrと提携関係にある米国著作権執行サービスであるPixsyInc.が、著作権侵害が発見された後に事後的に交渉ツールとしてfotoQuoteを利用することを原告に提案しているにすぎないと考えられるため、これを基準にライセンス料を定めるのは相当ではない。また、本訴によりPixsyが背後で成功報酬(回収額の50%)をとろうとしている部分は、そのサービスが弁護士業と競合しており、国内弁護士費用相当額と二重に評価されるため、国内法の制限やこれを奨励すべきではないという公序良俗の観点からの政策的な配慮による減額が必要である。そもそも、fotoQuoteの料金表は、SNSユーザーの非商用利用を想定しておらず、被告のように連帯保証人のごとく責任を負うにすぎない場合にはそぐわない価格基準である。
 ユーザーが非商用で代替的に用いる販売用素材一般を考えた場合には、PIXTAにおいて1画像無期限で550円から5500円、AdobeStockで見ると画像10個が無期限で3828円であることから、本件に係る損害も、写真1枚当たり、せいぜい無期限で5000円程度が相当である。
第3 当裁判所の判断
1 本件ウェブサイト等について
(1)証拠及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
ア 本件ウェブサイトのトップページの上部には、「みんカラ」、「みんなのカーライフ」、「日本最大級の車SNSサイト」、「クルマに関するレビューや口コミ情報が満載!」との表示がある。その下には、「車種別情報」、「パーツレビュー」、「整備情報」との記載があるタブがあり、それらのタブを選択すると、当該事項のウェブページを表示することができる。また、上記タブの横には、「ブログ」、「イイね!」、「レビュー」、「フォト」、「グループ」、「スポット」などの記載があり、それらを選択すると、当該記載に関するページを表示することができる。(甲12)
 本件ウェブサイトにおいて、「みんカラ(みんなのカーライフ)」は、同じ車を所有しているユーザーや、趣味や価値観を共有できるユーザーが集まり、交流できる、車に特化したSNSです。」と説明されている。(甲10の2)
イ 本件ウェブサイトの会員になるためには、本件ウェブサイトのトップページ等にある「無料会員登録」などの記載をクリックして、会員登録をする。
 その際には、「まずは愛車を登録しよう。」として、特定の車種を登録する必要がある。会員登録をすると、「マイページ」において、「プロフィール」を編集したり、「ブログ」、「フォトアルバム」、「愛車紹介」などへの投稿をしたりすることができる。(甲11)
ウ 本件ウェブサイトのトップページ等で「車種別情報」のタブを選択すると、「メーカー名から探す」、「ボディタイプから探す」などの項目から、特定の車種を選択することができ、そこで特定の車種を選択すると、当該車種に関する記載等があるウェブページが表示される。
エ 本件ウェブサイトで会員登録した会員は、本件ウェブサイトのブログサービスを利用して、文章や画像を投稿することができる。
 会員が、投稿しようとする場合には、文章の入力や投稿しようとする画像を決定する表示のほか、ブログのタイトルの入力や「カテゴリ」を選択するための表示がされる。その「カテゴリ」には、「日記」、「クルマ」、「ニュース」、「パソコン/インターネット」、「音楽/映画/テレビ」、「趣味」、「旅行/地域」、「その他」など十数個のカテゴリがある。
 本件ウェブサイト上で投稿ボタンをクリックすると、被告が投稿の内容等について審査することはなく、即座に投稿された内容がそのまま本件ウェブサイトに反映されて、第三者も閲覧できるようになる。(甲16、20、21、弁論の全趣旨)
オ 本件ウェブサイトのブログサービスを利用した会員の投稿は、以下のウェブページで、以下のように閲覧することができる。
 本件ウェブサイトのトップページの上段の「ブログ」との記載をクリックすると、上部に「ブログ」と記載されたページが表示され、「新着ブログ」との記載の下に新しく投稿された複数の投稿のタイトル又はタイトルの一部と画像が表示される。また、「カテゴリから絞り込む」の項目から「日記」、「クルマ」等のカテゴリを選ぶと、そのカテゴリの投稿のタイトルの全部又は一部、画像、投稿者のユーザー名等(以下、これらを「タイトル、画像、ユーザー名等」ということがある。)を表示させることができる。また、キーワードを入力して、投稿を検索して、その結果を表示することができる。これらにおいて、投稿のタイトルを選択してクリックすると、会員がした投稿が表示される。(甲16)
 本件ウェブサイトのトップページの「車種別情報」との記載をクリックして、特定の車種を選択すると、その特定の車種についてのページが表示される。特定の車種についてのページには、その車種の車両の写真や「ユーザー登録台数」、「本体価格」などが記載されたページがあり、それらは被告が作成したものである。また、そこには、「愛車紹介」、「パーツレビュー」、「クルマレビュー」、「燃費記録」などの表示があり、それぞれを選択すると、その車種について、会員が投稿した愛車紹介の記事などが複数表示される。また、「オーナーのブログ一覧へ」という記載がある。そこをクリックすると、当該車種を愛車登録した会員のブログサービスでの投稿について、タイトル、画像、ユーザー名等の一覧が、新着順に表示される。また、キーワードを入力して、投稿を検索して、その結果を表示することができる。これらで、投稿のタイトルをクリックすると、当該投稿が表示される。(甲12、17)
 その他、本件ウェブサイトのトップページの「パーツレビュー」や「整備手帳」のタブの記載をクリックすると、それに対する会員の投稿が表示される。その投稿における投稿者のユーザー名の記載をクリックすると、その投稿者である会員に関するページが表示され、その「最新ブログ」の欄には、その会員がブログサービスに投稿した投稿のタイトルや投稿日時が表示される。そのタイトルをクリックすると、その会員がブログサービスに投稿した投稿が表示される。(甲19)
カ 本件ウェブサイトの会員は、本件ウェブサイトのブログサービスにした自身の投稿について、本件ウェブサイト上で所定の操作をすることによって自由に削除することができ、操作完了後は、被告の審査等も行われずに、即座にその内容が本件ウェブサイトに反映され、当該投稿は被告が管理するサーバーからは公衆送信されなくなる。(弁論の全趣旨)
キ 本件ウェブサイトの利用規約である本件規約には次の記載がある。(甲4、乙3)
 第5条(本サービスの利用)
 4 ユーザーは、本サービスを利用した投稿情報については、その所有権、著作権(翻訳権その他翻案に関する権利及び二次的著作物利用権を含みます)等、すべての権利は弊社(被告)に帰属すること及び弊社がこれらを編集、加工し、本サービス及びこれに関連する他のサービス上で利用することを承諾します。また、ユーザーは弊社に対し、上記投稿情報に関する著作者人格権を行使しないものとします。
 5 ユーザーは、投稿情報につき、弊社の裁量により掲載の許否、削除が行われることをあらかじめ承諾します。
 第6条(画像・写真の投稿について)
  本サービスの利用において、画像・写真・絵画・その他グラフィカルな素材(以下「本画像」といいます)を含むマテリアルを投稿することによって、ユーザーは以下のことを保証し、表明したものとします。
 (1)ユーザー自身が本画像の著作権者であるか、本画像の著作権者がユーザーに対して、本画像または本画像に含まれるコンテンツや画像を、ユーザーの使用方法及ぶ目的に合致する方法で使用することを許諾していること。
 第7条(投稿に関する禁止事項及びサイトの監視)
  弊社は、安全、安心なサイトを目指してサイトの監視を行っております。本サービスの利用について、たとえば以下のような投稿情報を禁止しています。・・・・
 1 犯罪・権利侵害・不適切な行為
 (4)ユーザーが権利を有し、または権利者からの同意を得ている場合を除いて、弊社または第三者が商標権、著作権、意匠権等の知的財産権、肖像権その他の法的利益(以下、知的財産権等といいます)を有する文章、画像、写真、ソフトウェア、その他を掲載することにより、第三者または弊社の法律上の権利を侵害すること、その他、・・・・・・・・・・。
 第8条(投稿の削除、拒否)
  本サービスの運営に当たり、弊社は以下の権限を有します。本条項は弊社の権限を定めるものであり、義務を定めるものではありません。また、弊社は本条項に定める権限の行使、または、不行使により生じたユーザーの損害に対して、一切の責任を負いません。
 (1)弊社が、掲載前に審査し、理由を明示することなく投稿情報の掲載を拒否する権利
 (2)弊社が、本契約第7条に定めた禁止事項に違反すると判断した投稿情報及びその他弊社が不適当と判断した投稿情報を、予告なく、また、投稿者の了解を得ることなしに削除する権利。
 第16条(弊社の裁量について)
 2 弊社は、サービスの広告・宣伝・利用促進などを目的として、掲載された情報を弊社が管理するウェブサイトやメールマガジンに掲載することができるものとします。
 4 弊社は、ユーザーの投稿情報のうち関連するものを新たな記事としてまとめて本サービス及びこれに関連する他のサービス上で紹介することができるものとします。
 5 弊社は、投稿情報を、編集または加工して、本サービス及びこれに関連する他のサービスのために利用することができるものとします。
ク 被告は、「みんカラ」と呼ぶ本件ウェブサイトで事業を行うほか、広告事業として、「carview!」という名称の事業を行っている。
 被告は、本件ウェブサイトのブログサービスでされた投稿を編集するなどした上で、「carview!」の「レビュー」などのサイトに掲載することがある。(甲13、弁論の全趣旨)
ケ 本件投稿者は、「(省略)」というユーザー名で本件ウェブサイトに会員として登録している者であり、平成24年12月11日、本件ウェブサイトのブログサービスに、「ブレーキバッドの選び方そのD〜パッドテストへの参加〜」と題する投稿(本件投稿)をした。
 本件投稿は、「ブレーキパッドの選び方そのC」までは理屈を述べ、「ブレーキ制動力とはF−μNで表され、ブレーキパッドの特性を表す摩擦係数μが一定である」という仮定で考えてきたこと、しかしまだ知らない世界があると思っていたこと、「パッドテスト」をしないかという話があり、複数のパッドを試したこと、そのテストはパッドによるフィーリングの違いを感じることを目的としておりフルブレーキでローターを真っ赤にするなどということはしていないこと、次回の「ブレーキパッドの選び方そのE」ではそのテストで分かったことを書こうと思っていることなどが記載されているものである。
 本件投稿において、投稿写真は、上記のような文章の冒頭近くに配置されていた。
2 争点1(被告が原告写真の複製、公衆送信等の主体であるといえるか)について
(1)平成24年12月11日にされた本件投稿により、被告が管理運営する本件ウェブサイトのサーバーに原告写真が複製、蔵置されて記録され、自動公衆送信可能になったといえる。
 原告は、平成24年12月11日に行われた本件投稿について、原告写真の複製、公衆送信等の主体が被告であることを理由として、被告に対し損害賠償を請求する。以下、本件投稿について、被告が原告写真の複製、公衆送信等の主体といえるかについて検討する。
 なお、原告は、本件請求は、本件投稿における上記行為に基づくものであり、令和2年5月27日以降における被告の対応等に関する事情を本件請求を基礎付けるものとして主張しないことを明らかにしている。
(2)ア 本件ウェブサイトやそのためのサーバーは被告によって管理、運営されており、被告は、本件ウェブサイトを通じて登録した会員に対して、ブログサービスの会員の投稿を公衆送信する仕組みを提供していることが認められる。
イ(ア) もっとも、本件ウェブサイトのブログサービスにおいて、投稿者は、具体的な内容を決定し、投稿のために必要な文字列データを作成して、画像データを投稿したい場合は画像データも用意し、これを投稿する。
 本件ウェブサイトは、だれでも無料で会員登録して会員となることができるものであり、被告と会員との間には、人的な指揮命令関係はなく、また、本件投稿も含めて、会員に対して投稿の具体的内容について、被告から指示等がされることもない。本件ウェブサイトのブログサービスには、十数個のカテゴリーが設けられているが、それらは「日記」、「クルマ」、「ニュース」、「パソコン/インターネット」、「その他」などというもので、投稿内容を制約するものではない。(前記1(1)エ、弁論の全趣旨)
(イ)投稿者が投稿をした場合、上記データが、自動公衆送信装置といえる本件ウェブサイトのサーバーに複製されて記録され、自動公衆送信可能となり、投稿が公衆送信されて本件ウェブサイトの閲覧者はその投稿を閲覧することができることとなる。これらの複製、公衆送信の前に、被告がサーバーに記録されるデータの内容を検証して、その内容に変更を加えたり、これを停止する仕組みが設けられていることや被告がそれらの内容の検証等をしていることを認めるに足りる証拠はない。
(ウ)本件ウェブサイトは、車をテーマとするもので、被告により、記事等が分類されるなどして運営、管理されている。会員がブログサービスでした投稿も、そのようなウェブサイトの内容の一部を構成し、当該会員についてのウェブページの投稿一覧において、その投稿を閲覧することができるほか、当該会員の愛車登録を媒介として、投稿者が愛車登録した車種についてのウェブページにおけるブログサービスの投稿一覧等において、その投稿を閲覧することができたりする。これらにおいては、その投稿が、ブログサービスでされたものであることやその投稿者の名前(ユーザー名)がウェブページの表示からも明らかになっており、閲覧者は、それがブロブサービスでされた投稿であることやその投稿者の名前(ユーザー名)を認識して、表示されたタイトルをクリックするなどして、投稿を閲覧する。
(3)前記(2)に記載の事情に照らせば、本件投稿は、本件投稿者が、被告の指示等もなく、自由にその内容を決定して投稿したものであり、本件投稿をしたことにより、本件投稿を契機とする被告の特別な行為を経ることもなく本件投稿による複製、公衆送信がされた。上記複製、公衆送信への被告の関与の内容や程度の小ささを考慮すると、本件投稿者は、本件投稿の複製、公衆送信をした者であり、被告はその複製、公衆送信の主体ではないと認められる。
(4)ア 原告は、本件規約において被告が投稿内容を事前に検討し、投稿記事を掲載することを拒否する権限や、投稿された記事を削除する権限があることを指摘し、被告が複製、公衆送信の主体であると主張する。
 しかし、前記のとおり、本件ウェブサイトでは、被告が投稿の内容を検証、変更等する仕組みがあることを認めるに足りず、投稿者がデータをサーバーに記録し、公衆送信するための操作さえ完了すれば、自動的に閲覧ができた。被告が投稿の内容を検証等していれば直ちに被告が複製、公衆送信の主体と認められることになるかは措くとして、少なくとも本件ウェブサイトではそれらの検証等はされていない。このような実際の仕組みを考慮すると、規約上は被告が投稿内容を吟味する権限があるとしても、複製、公衆送信への被告の関与の程度は小さく、その権限をもって、本件について、複製、公衆送信について被告が投稿内容を支配、管理等していると評価することは相当ではなく、規約上の権限は、前記の判断を左右しない。なお、投稿の消去を投稿者が自由にこれを行うことができることからすれば、被告が投稿を削除する権限を有し、かつその投稿が削除されないことをもって、被告の主体的な送信行為があると評価することも相当ではない。
イ 原告は、被告が本件ウェブサイトを運営していること、本件ウェブサイトは、被告作成部分と各投稿によるオンライン百科事典の性質を有すること、被告が本件ウェブサイトの運営により利益を得ていることなどを挙げて、被告が複製、公衆送信の主体であると主張する。
 確かに、本件ウェブサイトは、車をテーマにするものであり、また、ブログサービスの投稿は、本件ウェブサイトの複数のウェブページを介して閲覧することができた。しかし、本件ウェブサイトにおいて、ブログサービスでされた投稿は、投稿者の名前(ユーザー名)と共にブログサービスにおいてされた投稿として表示されるのであり、被告が投稿の内容を検討した上で本件ウェブサイトにおける配置等をすることもない。本件ウェブサイト上の投稿の表示に対する被告の関与も限定的といえ、原告指摘の事情をもって、被告が複製、公衆送信をした事情となるとは認められない。また、前記(2)の事情に照らし、被告が本件ウェブサイトの運営により利益を得ていることは、その判断を左右するものではない。
ウ 原告は、被告が会員の投稿の著作権等知的財産権を取得すること、これを前提に被告が投稿内容を別途、二次利用することが予定されていることを指摘し、被告が複製、公衆送信の主体であると主張する。
 確かに、規約により被告は本件ウェブサイトにおける会員の投稿の著作権等の知的財産権を取得すること、被告はその投稿を削除、編集できること、投稿を編集の上別途利用できることが定められている。しかし、投稿時の複製、公衆送信の行為への被告の具体的関与は前記のとおりであり、また、その後、投稿者は、被告の何らの関与なく、投稿を削除することができる。投稿は、本件ウェブサイトにおいて投稿者の名前(ユーザー名)と共に投稿者がブログサービスにおいてした投稿としてそのまま表示される。これらの複製、公衆送信行為への被告の関与の実態からすると、投稿された内容についての権利の帰属によって、投稿に関する複製、公衆送信の主体が決定されるとは認められない。被告に権利が帰属するとされたことにより被告が投稿内容を何らかの形で利用した記事等を作成した場合に、当該記事等の複製、公衆送信について被告が主体となることがあるとしても、本件投稿について、上記規約は前記判断を左右するものではないとするのが相当と解される。
(5)これまで述べてきたのと同様の理由により、投稿写真を公衆に提示したのは、本件投稿者であり、被告ではないと認められる。したがって、投稿写真が公衆に提示されるに当たり著作者の氏名が表示されていないことについて、被告は氏名表示権侵害の責任を負わない。
第4 結論
 以上のとおりであって、被告は投稿写真に係る複製、公衆送信の主体であるとはいえず、また、被告が氏名表示権を侵害したとはいえない。よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 佐伯良子
 裁判官 仲田憲史


別紙 原告写真目録
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