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【事件名】プロバイダ各社への発信者情報開示請求事件G
【年月日】令和4年3月30日
 東京地裁 令和3年(ワ)第6266号 著作権侵害等に基づく発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年2月2日)

判決
原告 A(以下「原告A」という。)
原告 B(以下「原告B」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 齋藤理央
被告 株式会社TOKAIコミュニケーションズ(以下「被告TOKAI」という。)
同訴訟代理人弁護士 松尾栄蔵
同 村上諭志
同 星野公紀
同訴訟復代理人弁護士 溝端俊介
被告 株式会社NTTドコ モ(以下「被告ドコモ」という。)
同 訴訟代理人弁護士 渡邉峻


主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告TOKAIは、原告らに対し、別紙発信者情報目録記載1の各情報を開示せよ。
2 被告ドコモは、原告らに対し、別紙発信者情報目録記載2の各情報を開示せよ。
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
 本件は、原告らが、ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれるメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)において、氏名不詳者により、原告Aが著作権を、原告Bが著作権法28条に基づく原著作者の権利をそれぞれ有する別紙原告画像目録記載1の画像(以下「本件原告画像」という。)を複製して作成された同目録記載2のプロフィール画像(以下「本件原告プロフィール画像」という。)含む別紙投稿記事目録記載のツイートが無断で投稿されたことにより、本件原告画像に係る原告らの著作権(送信可能化権)が侵害され、かつ、原告Aの名誉が毀損されたことが明らかであると主張して、経由プロバイダである被告らに対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、被告TOKAIに対しては別紙発信者情報目録記載1の情報(以下「本件発信者情報1」という。)の開示を、被告ドコモに対しては同目録記載2の情報(以下「本件発信者情報2」といい、本件発信者情報1と合わせて単に「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1) 当事者
 原告らは、いずれもアニメーターとして活動する者であり、夫婦である(甲5、13)。
被告らは、いずれもインターネットサービスプロバイダ事業を営む株式会社である。
(2) 原告らによる本件原告画像の作成等
ア 原告Bは、配偶者である原告Aと共に焼肉店を訪れた際、原告Aを被写体として、食事の様子を写真撮影した(以下、この写真を「本件原告写真」という。)。原告Aは、スマートフォンのアプリケーションを利用して、本件原告写真に写った原告Aの顔の部分に上書きするように、指で顔のイラストを描いて、本件原告画像を作成した。(甲1、5、13)
イ 原告Aは、本件原告画像を、自身のツイッターアカウントのプロフィール画像として使用している。このプロフィール画像は、ツイッターのタイムライン(個々のツイートが時系列順に表示されるページをいう。)上は、本件原告画像のうち顔から上半身に掛けての部分を中心に円形にトリミングされて成る画像(本件原告プロフィール画像)として表示される。(甲2ないし5、10ないし12)
(3) 氏名不詳者によるツイートの投稿
ア ユーザー名を「C」とする別紙アカウント目録記載のツイッターのアカウント(以下「本件アカウント」という。)において、別紙投稿記事目録記載1及び2の各「投稿日時」欄記載の日時(日本標準時。以下「JST」という。なお、24時制で表記している。)に、それぞれ、同目録記載1及び2の各「投稿内容」欄記載のとおりのツイートが投稿された(以下、前者を「本件ツイート1」、後者を「本件ツイート2」といい、これらを「本件各ツイート」と総称する。)。
イ 本件ツイート1には、別紙投稿記事目録記載3(1)の画像(以下「本件投稿画像1」という。)が添付されている。本件投稿画像1は原告Aのツイートをスクリーンショットとして撮影したものであり、その中には、本件原告プロフィール画像が3か所表示されている(甲3、4)。
 また、本件ツイート2には、同目録記載3(2)の画像(以下「本件投稿画像2」といい、本件投稿画像1と併せて「本件各投稿画像」という。)が添付されている。本件投稿画像2も、原告Aのツイートをスクリーンショットとして撮影したものであり、その中には、本件原告プロフィール画像が1か所表示されている(甲10ないし12、弁論の全趣旨)。
ウ 本件各ツイートは、遅くとも令和2年11月14日までに削除された(甲17)。
(4) 被告らによる本件発信者情報の保有
 被告TOKAIは、本件発信者情報1を、被告ドコモは本件発信者情報2をそれぞれ保有している。
3 争点
(1) 原告らの権利が侵害されたことが明らかであるか(争点1)
ア 本件ツイート1の投稿による権利侵害の明白性(争点1−1)
イ 本件ツイート2の投稿による権利侵害の明白性(争点1−2)
(2) 本件発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか(争点2)
(3) 被告らが「開示関係役務提供者」に該当するか(争点3)
(4) 本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点4)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(原告らの権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(1) 争点1−1(本件ツイート1の投稿による権利侵害の明白性)について
(原告らの主張)
ア 本件原告写真及び本件原告画像の著作物性及び著作権者
(ア) 本件原告写真は、撮影者である原告Bが、あごに右手を当てて肉が焼けたかどうかをしげしげと眺めつつ、左手に持ったトングで肉を裏返そうとしている原告Aの様子を写真全体の上半分に入るように配置するなど、夫婦の楽しい食事の風景や雰囲気を表現できるように写真全体の構図を工夫するとともに、原告Aがトングで肉をつかんだ瞬間というシャッターチャンスを逃さずに撮影したものである。そうすると、本件原告写真には、撮影者である原告Bの個性が表れているから、著作物性が認められる。
(イ) 前記前提事実(2)イのとおり、原告Aは、スマートフォンのアプリケーションを用いて、本件原告写真の顔の部分を隠しつつ、指でイラストを描くことにより、本件原告画像を作成したものである。この点、本件原告画像が、少しすました表情になるように、かつ、長いまつげによって女性の自画像であることが分かるように描かれていること、つぶらな瞳とおちょぼ口をイメージして描かれていること、肌の色として白色の下地を選択し、抽象的かつコミカルな雰囲気で描かれていることなどに照らすと、本件原告画像からは、原告Aの個性を感得することができるから、本件原告画像には著作物性が認められる。
(ウ) 前記(ア)及び(イ)によれば、本件原告画像は、本件原告写真に新たな創作的な部分を付与して作成されたものといえるから、本件原告写真を原著作物とする二次的著作物に当たる。
 したがって、本件原告画像の著作者である原告Aは、本件原告画像に係る著作権を有し(著作権法17条)、本件原告写真の著作者である原告Bは、本件原告画像の利用に関し、原告Aが有するものと同一の権利を専有する(同法28条)。
イ 送信可能化権侵害
 氏名不詳者が、原告らに無断で本件ツイート1を投稿し、本件原告プロフィール画像を3か所含む本件投稿画像1をツイッターのサーバーにアップロードする行為は、原告Aが本件原告画像について有する送信可能化権と、原告Bが本件原告画像について専有する送信可能化権を侵害するものである。
ウ 違法性阻却事由の不存在
(ア) 引用について
a 原告Aのツイートのスクリーンショット画像である本件投稿画像1の分量は、本件ツイート1の本文の分量と同等であるから、主従関係がない。そうすると、氏名不詳者が本件ツイート1を投稿する際に、本件投稿画像1をツイッターのサーバーにアップロードする行為は、そもそも「引用」(著作権法32条1項)に当たらない。
b ツイッターには、唯一の公的な引用手法として、引用リツイート
(第三者のツイートを紹介ないし引用する、ツイッター上の再投稿をいう。)という機能が存在する。引用リツイートにおいては、元ツイート(引用リツイートの引用元となる第三者のツイートをいう。)のアカウント名やプロフィール画像が変更されると、その変更が引用リツイートにも反映され、元ツイートが削除されると、当該元ツイートが引用リツイートにも表示されなくなる。こうした機能により、引用の場面においても、ツイッターのアカウントやツイート投稿を変更したり削除したりする権限をアカウントの管理者や当該ツイートの投稿者に委ねることで、気軽に情報発信をすることを可能にするというツイッターの方針を貫徹することができる。
 しかるに、あるツイートをスクリーンショット画像として撮影し、当該画像を添付してツイートを投稿するという引用の方法によると、元ツイートの発信者がプロフィール画像を変更したり、元ツイートを削除したりしても、そのような変更等は上記スクリーンショット画像には反映されないため、元ツイートの発信者は、元ツイートをコントロールすることができないこととなる。このような事態は、ツイッターの上記方針に反するものであり、気軽な情報発信ができなくなり、表現の自由に対する委縮効果を生じさせる。そうすると、本件投稿画像1をツイッターのサーバーにアップロードする行為は、原告Aが元ツイートを削除したり、アカウント名やプロフィール画像を変更したりすることをできなくさせ、ひいては原告Aの表現の自由を侵害するものである。したがって、氏名不詳者による上記アップロード行為は、「公正な慣行」に明らかに反するものである。
 加えて、本件ツイート1は原告Aを誹謗中傷する目的のものと認められ、引用の目的自体が正当といえない。また、本件投稿画像1に表れている原告Aのツイートは削除されていなかったから、スクリーンショットである本件投稿画像1を本件ツイート1に添付せずとも、引用リツイートの機能を利用して原告Aの上記ツイートを引用することによって、本件ツイート1を投稿する目的を達することはできた。さらに、本件投稿画像1のうち、原告Aのプロフィール画像の部分を墨塗りにしても、投稿の目的は達することができたから、スクリーンショットにより原告Aのツイートを引用する必要性はなかったものである。以上によれば、氏名不詳者が本件各投稿画像を添付して本件各ツイートを投稿する行為が「引用の目的上正当な範囲内」のものとはいえない。
c よって、本件ツイート1の投稿に際して本件投稿画像1を添付する行為が、著作権法32条1項の「引用」として適法となるものではないと認められる。
(イ) 利用許諾について
 原告Aは、本件原告画像がツイッター上で複製、公衆送信されることを、明示的にはもちろん、黙示的にも許諾していなかった。したがって、本件原告画像の利用許諾はなかったと認められる。
エ 小括
 以上の次第で、氏名不詳者が本件ツイート1を投稿し、本件投稿画像1をツイッターのサーバーにアップロードする行為により、原告らの送信可能化権が侵害されたことが明らかであると認められる。(被告TOKAIの主張)
ア 本件原告写真及び本件原告画像の著作物性及び著作権者
(ア) 本件原告画像
 顔を隠すために白塗りし、目と唇を黒で描くという手法は、ごく一般的にみられるありふれた表現にすぎない。また、長いまつげは、一般に女性の特徴的な部分とされていることの一つであるから、女性の顔を表現する際に長いまつげを描くことは普通に行われていることである。さらに、スマートフォン上で指を用いて顔を描こうとすると、指の厚みなどから、細部を表現することはできないため、抽象的な表現とならざるを得ないし、つぶらな瞳やおちょぼ口をイメージして作画しようとした場合、誰が描いても類似した表現にならざるを得ない。そうすると、本件原告画像には原告Aの個性が表れているとはいえない。
 仮に本件原告画像について著作物性を認めると、原告A以外の者がスマートフォン上において指で人物の顔のイラストを描くことを禁止することになりかねず、不当である。
 以上によれば、本件原告画像には著作物性が認められない。
(イ) 本件原告写真
 前記(ア)のとおり、本件原告画像には著作物性が認められないから、本件原告画像について、本件原告写真を原著作物とする二次的著作物に当たるとみる余地はない。したがって、原告らの主張は前提を欠くものであって、理由がない。
 なお、本件原告写真の著作物性についてみても、同写真は単に焼き肉店において原告Aとされる者を撮影したものにすぎないから、著作物性は認められない。
(ウ) 原告らの主張について
 原告らは、写真の構図やシャッターチャンスを的確に捉えたものであることを理由として、本件原告写真には著作物性が認められると主張する。しかし、本件投稿画像1には本件原告プロフィール画像が含まれるのみであるところ、本件原告プロフィール画像には、原告Aが口に右手を持っていく様子も、左手に持ったトングで焼き肉を裏返そうとしている様子も現れておらず、原告らが主張する写真の構図やシャッターチャンスは表現されていないから、原告らの主張には理由がない。
イ 違法性阻却事由の存在
(ア) 引用について
a 本件ツイート1の投稿は、「A’」とのアカウント名の者が、ツイッター上のダイレクトメッセージの画像を捏造して友人を悪人に仕立て上げた行為をたしなめ、ツイッターの適正な運用のためにツイッターの利用者全般に理解や意見を求める目的でされたものであり、報道、批評等の目的があるといえる。このような目的を達成するためには、「A’」とのアカウント名の者が行ったツイートの内容を具体的な証拠として提示するとともに、当該投稿を同人が行ったことを示すため、同人のアイコン画像を引用することが必要不可欠である。
 したがって、本件ツイート1を投稿する際に、本件原告画像を含む原告Aのツイートのスクリーンショット画像である本件投稿画像1を添付した行為は、公正な慣行に合致するものである上、引用の目的上正当な範囲内のものといえるから、著作権法32条1項による引用として適法と認められる。
b(a) 原告らは、本件ツイート1は誹謗中傷目的で投稿されたものであるから引用の目的として正当ではなく、また、本件ツイート1と本件投稿画像1の分量が同等であるから「引用」に当たらないと主張する。
 しかし、前記aのとおり、本件ツイート1は、原告Aの行為をたしなめ、ツイッターの利用者に理解や意見を求める目的でなされたものであって、原告Aを誹謗中傷することを目的とするものではない。
 そして、本件ツイート1にスクリーンショットを添付したのは、ダイレクトメッセージ画像を捏造する行為の実態を明らかにし、投稿内容に説得力を持たせることが主たる目的であることは明らかである。そうすると、本件投稿画像1は、本件ツイート1に対して参考資料を提供するものであり、付従的な性質を有するにすぎないといえるから、「引用」に当たることは明らかである。
(b) 原告らは、ツイッターには引用リツイートという機能が設けられていること、プロフィール写真の部分を黒塗りすることができたこと、引用リツイートにより引用の目的を達しているから、重ねて非公式な引用をする必要性に乏しいことから、本件ツイート1に本件投稿画像1を添付する手法で原告Aのツイートを引用するのは「公正な慣行」に反すると主張する。
 しかし、ツイッターに引用リツイートという機能が実装されたのは平成27(2015)年4月のことであり、比較的新しい機能であるところ、実装される前には、スクリーンショットを引用して情報を共有する慣行が形成され、このような慣行が存在することは、引用リツイート機能が実装された後も同様である。その一方、プロフィール写真を黒塗りする慣行が存在することの証拠はない。さらに、引用リツイート機能が実装された後も、ツイッターは、スクリーンショットを用いた引用を禁止していない。そうすると、引用リツイートによらず、スクリーンショットによる引用を行うことが、ただちに「公正な慣行」に反することにはならない。
 そして、引用リツイートの機能を利用しては達成できない目的を、スクリーンショットを利用することにより達成することができる場合がある。例えば、本件ツイート1においては、スクリーンショットを引用する方法によることにより、原告Aの3個のツイートを同時に1つの投稿画面に表示することができるし、原告Aのツイートが仮に削除されても、スクリーンショットを引用することにより、本件ツイート1が原告Aのどのようなツイートに関して述べているのかを正確に示すことができる。
 以上によれば、本件ツイート1の投稿における原告Aのツイートの引用は、公正な慣行に合致するものといえる。
(c) 原告らは、本件ツイート1が引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものであるとは認められないと主張する。
 しかし、本件ツイート1の目的は前記aのとおりであるところ、引用リツイートを利用しては、上記目的を達成することができない上、被引用ツイートが「A’」とのアカウント名の者の行為であることを示すためには、「A’」を表すアイコンを引用する必要がある。
 また、本件ツイート1の投稿の時点で上記の被引用ツイートが削除されていなかったとしても、その後に同ツイートが削除されてしまうと、同ツイートが表示されないこととなる結果、正常な議論をすることができなくなる可能性が生じるから、同ツイートをスクリーンショットに撮影してアップロードする形により引用する必要がある。これに対し、こうした態様で上記のツイートを引用しても、原告Aには、経済的損害も無形損害も生じないというべきである。
 したがって、本件ツイート1は、引用の目的上正当な範囲内で行なわれたものと認められる。
(イ) 利用許諾について
 原告Aは、自己を示す表示として、ツイッターのアイコンに本件原告画像を用いた。通常、ツイッターを利用する場合、必然的に他者のアイコンを利用する場面があるから、原告Aは、本件原告画像がツイッター上で公衆送信等されることを黙示的に同意していたことが明らかであって、本件原告画像の利用を許諾していたといえる。
ウ 小括
 以上によれば、氏名不詳者が本件ツイート1を投稿し、本件投稿画像1をツイッターのサーバーにアップロードする行為により、原告らの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるとは認められない。
(2) 争点1−2(本件ツイート2の投稿による権利侵害の明白性)について
(原告らの主張)
ア 送信可能化権侵害
(ア) 前記(1)(原告らの主張)アのとおり、本件原告写真及び本件原告画像には著作物性が認められる。そして、氏名不詳者は、本件ツイート2を投稿する際、本件原告プロフィール画像を1か所含む本件投稿画像2をアップロードした。この行為は、本件原告画像を送信可能化するものであるから、原告らの本件原告画像に係る送信可能化権を侵害する。
(イ) 当該送信可能化権侵害について、引用が成立せず、利用許諾が存在せず、違法性阻却事由が認められないことは、前記(1)(原告らの主張)ウのとおりである。
(ウ) そうすると、氏名不詳者が本件ツイート2を投稿し、本件投稿画像2をツイッターのサーバーにアップロードする行為により、原告らの送信可能化権が侵害されたことが明らかであると認められる。
イ 名誉毀損
(ア) 本件ツイート2には、原告Aの実名が旧姓と共にフルネームで記載されているから、本件ツイート2が原告Aに関する投稿であることは明らかである。
 そして、本件ツイート2の本文を一般の読者の普通の注意と読み方を基準にして読めば、あたかも原告Aが、他者のツイートを改ざん、偽造し、ありもしない妄想をエピソードとして付する、被害妄想の強い人物であるかのように記載されていると理解できる。
(イ) 本件ツイート2が摘示する事実は、真実ではない。また、本件ツイート2は、原告Aを誹謗中傷する目的のものと認められるから、その目的には公共性が認められない。
 したがって、前記(ア)の名誉毀損について、違法性阻却事由は存在しないと認められる。
(ウ) そうすると、本件ツイート2は、原告Aの社会的評価を低下させるものであり、原告Aの名誉を毀損することが明らかであると認められる。
(被告TOKAIの主張)
ア 送信可能化権侵害
(ア) 前記(1)(被告TOKAIの主張)アのとおり、本件原告写真及び本件原告画像には著作物性が認められないから、本件投稿画像2のアップロードにより、原告らの本件原告画像に係る送信可能化権が侵害されたとも認められない。
(イ) 本件投稿画像2をアップロードする行為は、著作権法32条1項の「引用」として適法である。すなわち、氏名不詳者が本件投稿画像2をアップロードする行為が「引用」に当たること及び公正な慣行に合致するものであることは、本件投稿画像1に関する前記(1)(被告TOKAIの主張)イ(ア)と同様である。
 また、本件ツイート2の投稿の目的は、「A’」とのアカウント名のアカウントを管理する者による、意味不明で内容が見当外れのリプライやツイート内容の改ざんについて、注意喚起をするというものであるが、そのような目的を達成するために本件投稿画像2を引用することは、本件ツイート1に関して前記(1)(被告TOKAIの主張)イ(ア)で主張した理由と同様に、必要な行為といえるから、引用の目的上正当な範囲内で行われたものといえる。
 したがって、氏名不詳者が、本件ツイート2を投稿し、本件投稿画像2をツイッターのサーバーにアップロードする行為により、原告らの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるとは認められない。
イ 名誉毀損
(ア) 本件ツイート2は、同ツイートの投稿者の意見ないし感想を記載したものであって、これをもって原告Aの社会的な評価が低下したとはいえない。
 これに対し、原告らは,本件ツイート2は、原告Aが他者のツイートを改ざん、偽造し、ありもしない妄想をエピソードとして付する、被害妄想の強い人物であるかのように記載されていると理解できると主張する。しかし、本件ツイート2には原告Aが被害妄想の強い人物であるとの記載はないし、他者のツイートを改ざん、偽造し、妄想作話する旨の記載は、何らの罪も構成しない過去の行動を指摘するものにとどまり、原告Aの人格にことさらに攻撃を加えるものではない。したがって、原告らの上記主張には理由がない。
(イ) 仮に本件ツイート2が原告Aの社会的評価を低下させるものであるとしても、違法性阻却事由がないとは認められない。
 すなわち、ツイートの文章を改ざんして捏造妄想作話するとの事実は、原告Aとツイッター上で交流する予定のある者にとって関心のある事項であり、公共の利害に関する事実である。また、「要注意だよ」という記載からは、注意喚起を目的とすることがうかがわれ、専ら公益を図る目的の投稿といえる。さらに、「これがコピペ改竄の参考だよ」、「なりきりで捏造されたよ」という記載とともに、改ざんや捏造されたものと思われるツイートのスクリーンショットが投稿されていることから、その記載内容が真実であると認められる。
 また、本件ツイート2は、同ツイートの投稿者やその友人が行っていない行為を原告Aの捏造により拡散され、その対抗措置として、原告Aが捏造したツイートをしたことを述べるものあって、対抗言論として認められる範囲内のものである。
ウ 小括
 したがって、氏名不詳者が本件投稿画像2をアップロードしたことにより、原告らの送信可能化権及び原告Aの名誉権が侵害されたことが明らかとは認められない。
(被告ドコモの主張)
 前記(被告TOKAIの主張)アのとおり、本件原告写真及び本件原告画像には著作物性が認められない。
 したがって、氏名不詳者が本件ツイート2を投稿し、本件投稿画像2をツイッターのサーバーにアップロードする行為により、原告らの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるとは認められない。
2 争点2(本件発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するか)について
(原告らの主張)
(1) 原告らは、本件各ツイートの投稿に係るログイン時情報(客観的なアクセスログ)ではなく、本件発信者情報が特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令(以下「省令」という。)1号ないし4号所定のログイン者の契約情報に該当するものとして、それらの開示を請求するものである。
 しかるところ、ログイン行為自体は表現行為とは結び付かないものであるから、プロバイダ責任制限法4条1項に基づく開示請求の可否を判断するに当たっては、真実は侵害情報の発信者でない者に応訴の負担を課する危険性を発信者側の対立利益と解し、発信者情報の開示による権利侵害の回復の機会を保障することを発信者情報開示請求者の対立利益と解した上、これらの対立利益の調整を主眼に置いて、同項及び省令を解釈するべきである。この点、ツイッターにおいては、投稿とアカウントが強く紐づけられ、同一アカウントの投稿は同一人が行うことが予定されていること、ツイッターのアカウントへのログインにはユーザーIDとパスワードが必要であり、アカウントの管理者と投稿者の同一性はパスワードが要求されることによって担保されていることから、いかなる時点のログインであっても、ログイン者と投稿者が異なることは通常は想定されない。そのため、ログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプによって、侵害情報の発信者を誤って特定する危険は発生しない。また、侵害情報の流通に用いられたツイッターのアカウントを共用するなどしていたために生じる応訴の負担については、同一のアカウントを共用していたことなどの人的関係に基づき、発信者側において甘受すべきである。
 したがって、侵害情報となる投稿の前提となった蓋然性のあるログイン時の情報は、投稿直前のログイン時のものにとどまらず、その全てが「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると解するべきである。
(2) また、侵害情報の投稿の通信に用いられた電気通信設備とログインの通信に用いられた電気通信設備が同一であれば、上記各通信の関連性は強固であり、同一の通信と評価して差し支えないといえるから、ログインの通信に係る契約者情報についても、「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するというべきである。
 なお、侵害情報の投稿の通信に用いられた電気通信設備が厳密に特定できなくとも、そのいずれかの電気通信設備を用いて投稿されたことが明らかであれば、権利侵害を受けた者の権利回復を図るという観点からも、立証責任を緩和して、いずれの経由プロバイダに対する発信者情報開示請求についても認められるべきである。
(3) 本件についてこれをみるに、令和2(2020)年6月29日から同年9月16日までの間、本件アカウントへのログインは301回行われたところ、そのうち、被告TOKAIの管理する通信設備を経由して行われたログインは166回、被告ドコモの管理する通信設備を経由して行われたログインは59回に及ぶ。他方、その余のログイン通信の大半はレンタルサーバーで訴外の事業者が運営しているツイッター専用アプリケーション等のログインであるから、発信者による通信ではない。以上に加え、上記期間におけるログインの時間帯とIPアドレスの関係を考慮すれば、本件各ツイートの投稿者は、自宅では被告TOKAIの通信網を、外出時には被告ドコモの通信網を用いて、本件アカウントにログインしていたことが明らかであり、本件発信者情報に係る被告らの契約者は、本件各ツイートの投稿者と同一人物であると推認される。したがって、本件発信者情報は、侵害情報である本件各ツイートの投稿の前提となった蓋然性のあるログイン時の情報といえる。
 また、本件ツイート1の投稿は令和2(2020)年6月29日17時45分(JST)にされたから、同日15時56分35秒(協定世界時。以下「UTC」という。なお、24時制で表記している。)にされた本件アカウントへのログイン行為は、本件ツイート1の投稿と時間的に近接している。この点からも、本件発信者情報は、侵害情報である本件各ツイートの投稿の前提となった蓋然性のあるログイン時の情報といえる。
 さらに、本件アカウントへのログイン行為と本件各ツイートの投稿は、被告TOKAIが本件各ツイートの投稿者に提供した同一のルーター又は被告ドコモが提供した同一のSIMカードを経由して行われたことは明らかである。
 以上によれば、本件発信者情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当する。
(4) 被告TOKAIは、ログイン時の情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当せず、仮に一定の場合にログイン時の情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当し得るとしても当該ログインの機会に侵害情報を流通させたことが立証される必要があると主張する。また、被告ドコモは、ログイン時の情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当せず、仮に一定の場合にログイン時の情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当し得るとしても、侵害投稿の発信の直前のログイン情報に限られると主張する。
 しかし、前記(1)のとおり、ログイン者と侵害情報を流通させた者が同一である蓋然性が認められれば、「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するというべきであって、被告らの上記各主張のような限定を付することには根拠がない。被告らの主張を採用した場合には、ログイン型のSNSにおいては発信者を特定できない事態となりかねない。
 したがって、被告らの上記主張はいずれも理由がない。
(被告TOKAIの主張)
(1) プロバイダ責任制限法4条1項は、情報の流通によって権利侵害が生じた場合において、自己の権利を侵害されたと主張する者に特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求できる権利を創設した半面、発信者のプライバシーや表現の自由、通信の秘密等に配慮し、その権利行使の要件として、権利侵害の明白性はもちろん、発信者情報と権利侵害の強い関連性を厳格に求めることとした。このような同項の立法趣旨に加え、プロバイダ責任制限法が「侵害に係る」、「侵害情報の送信に係る」といった文言を採用していることに照らすと、開示請求の対象となる同項の「発信者情報」とは、開示請求者の権利を侵害したとする情報の発信行為を行った際の発信者に係る情報に限られると解するのが相当である。そうすると、単なるログイン時の通信の発信者の情報については、仮にこれが開示されることにより侵害情報の発信者が特定される可能性があるとしても、権利侵害情報を発信した通信のものではない以上、発信者情報開示請求の対象にはならないというべきである。
 本件発信者情報1は、本件アカウントにログインした際にIPアドレスを割り当てられた契約者に関する情報であり、本件各ツイートが投稿された通信そのものに係る契約者に関する情報ではない。したがって、本件発信者情報1は同項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」には当たらない。
(2) 仮に、ログイン時の情報がプロバイダ責任制限法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たる場合があるとしても、同項の立法趣旨が前記(1)のとおりであることからすると、当該ログインの機会に侵害情報が投稿されたことが立証される必要があるというべきである。
 特に、ツイッターは、その仕様上、パスワードさえ分かれば同時に複数の者が二重にログインし、別人が同時にツイートすることが可能である。
 また、後のログインがされる前に、前のログインが終了しているとは限らない。本件についてみても、本件アカウントが複数人によって共同で利用され、本件発信者情報1に係るログイン行為を行った者とは別の者が本件各ツイートを投稿した可能性があるし、本件各ツイートの投稿が、本件発信者情報1に係るログインより前のログインによってなされた可能性もある。
 また、原告らの請求は、本件発信者情報1が本件各ツイートの投稿の直前のものである必要があるところ、本件発信者情報1は、いずれも本件各ツイートの投稿の直前のものとは認められない。すなわち、本件ツイート1は、令和(2020)年6月29日午後5時45分に投稿されているところ、本件発信者情報1は、同日15時56分35秒(UTC。JSTに直すと、令和(2020)年6月30日零時56分35秒)と、同年8月16日のものである。このように、原告らは、本件ツイート1が投稿されてから約7時間後及び1か月半以上後のログインに係る情報である本件発信者情報1を開示するよう求めるものであり、直前のログインに係る情報の開示を求めるものではない。かえって、原告らの主張によれば、本件ツイート1の投稿の直前のログインはAmazonからのものであること、本件ツイート1の投稿の時から令和2(2020)年8月16日までの間に、被告TOKAI以外の経由プロバイダを経由してされたログインが複数存在することが認められる。
 したがって、本件発信者情報1は本件ツイート1の投稿の直前のログインに係るものではなく、当該ログインを利用して本件ツイート1がされたものであるとは認められない。
 そうすると、本件発信者情報1は同項の「発信者情報」には当たらないというべきである。
(3) 原告らは、本件で原告らが開示を請求する本件発信者情報は、ログイン者の契約情報であって、ログイン時の情報とは区別されるべきであると主張する。
 しかし、原告らの上記主張を前提とすれば、ログイン者の契約情報であれば簡単に発信者情報開示請求が認められることとなると解されるが、侵害情報の流通とログインとの関連性を詳細に検討することなく開示請求が認められるとする解釈は、原告らの独自の見解というほかはなく、失当である。
(被告ドコモの主張)
(1) 前記(被告TOKAIの主張)(1)のとおり、プロバイダ責任制限法4条1項の「発信者情報」とは、開示請求者の権利を侵害したとする情報の発信行為を行った際の発信者に係る情報に限られると解するのが相当であり、単なるログイン時の通信の発信者の情報については発信者情報開示請求の対象にはならないというべきであるから、本件発信者情報2は同項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」には当たらない。
(2) 仮に、ログイン時の情報がプロバイダ責任制限法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たる場合があるとしても、実際の侵害情報の直前のログイン時の情報に限られると解すべきであるところ、本件発信者情報2は本件ツイート2の投稿の直前のログイン時の情報ではないから、「当該権利の侵害に係る発信者情報」には当たらない。
 この点、原告らは、本件発信者情報2に係るログインの通信と本件ツイート2を投稿する通信とがいずれも被告ドコモが提供したSIMカードを用いて行われたことを根拠として、「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当すると主張するものと解されるが、上記各通信が同一のSIMカードを用いて行われたとは認められないから、原告らの主張には理由がない。
(3) 原告らは、本件ツイート2の投稿に関して、被告TOKAIのルーターを通して行われたか、被告ドコモのSIMカードを通して行われたか完全に特定するのは困難であるなどとして、被告らに本件発信者情報の開示を請求するが、いずれの被告の特定電気通信からログインされたかが不明である以上、本件発信者情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当しない。
3 争点3(被告らが「開示関係役務提供者」に該当するか)について
(原告らの主張)
(1) 省令4号及び7号は、メールアドレスや電話番号を発信者情報開示の対象と規定しているところ、メールアドレスや電話番号を登録した際の通信と侵害情報を流通させた際の通信は異なるから、プロバイダ責任制限法4条1項及び省令は、侵害情報を流通させた際の通信そのものでなくても、同項にいう「当該特定電気通信の用に供される」との要件を満たし得ることを前提としていると解される。しかるところ、ツイッターのアカウントは、ログインをしなければ維持することができずに削除されてしまい、ユーザーは同アカウントを用いてツイートを投稿することができなくなる。翻っていえば、同アカウントへログインすることは、同アカウントを維持し、同アカウントを用いて侵害情報であるツイートを投稿するための不可欠の前提となっているといえる。したがって、同アカウントへのログイン行為に係る通信の一つ一つが、侵害情報であるツイートを投稿する際の通信の用に供されているということができる。さらに、いずれのログインが侵害情報であるツイートの投稿の前提となったかを特定することは、何人においても不可能である。
 以上によれば、本件アカウントにログインする行為に係る通信は、いずれも本件各ツイートの投稿に係る通信の用に供するものであるから、同項にいう「当該特定電気通信の用に供される」に該当するものと認められる。
(2) また、前記2(原告らの主張)(2)のとおり、侵害情報の投稿の通信に用いられた電気通信設備とログインの通信に用いられた電気通信設備が同一であれば、それらの通信は同一と評価して差し支えないと解される以上、当該電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者は「開示関係役務提供者」に該当するというべきである。
 なお、権利侵害を受けた者の権利回復を図るという観点からは、侵害情報の投稿の通信に用いられた電気通信設備が厳密に特定できなくとも、そのいずれかの電気通信設備を用いて投稿されたことが明らかであれば、立証責任を緩和して、いずれの経由プロバイダに対する発信者情報開示請求についても認められるべきである。
(3) 本件についてこれをみるに、前記2(原告らの主張)(3)のとおり、令和2(2020)年6月29日から同年9月16日までの間の本件アカウントへのログインの状況によれば、本件各ツイートの投稿者は、自宅では被告TOKAIの通信網を、外出時には被告ドコモの通信網を、それぞれ用いて、本件アカウントにログインしていたことが明らかである。そして、本件ツイート1の投稿以降の本件アカウントへのログインの状況によれば、本件ツイート1の投稿については被告TOKAIが管理するルーターを経由したこと、本件ツイート2の投稿については被告TOKAIが管理するルーター又は被告ドコモが管理するSIMカードを経由したことが、明らかというべきである。
 したがって、被告TOKAIは本件ツイート1の投稿に関する「開示関係役務提供者」に、被告らは本件ツイート2の投稿に関する「開示関係役務提供者」に、それぞれ該当する。
(被告TOKAIの主張)
(1) プロバイダ責任制限法4条1項は、権利を侵害する情報である「当該特定電気通信」の用に供される特定電気通信設備を用いる「特定電気通信役務提供者」に対するものに限り、発信者情報の開示請求を認めている。そうすると、本件において被告TOKAIが「開示関係役務提供者」に当たるというためには、被告TOKAIを経由してログインした者と本件各ツイートを投稿した者が同一人であることのみならず、本件各ツイートが被告TOKAIを経由して行われる必要があるところ、本件各ツイートが被告TOKAI以外の経由プロバイダを経由して投稿された可能性は否定し切れないから、被告TOKAIが、本件各ツイートの投稿の用に供されるサーバーを用いる特定電気通信役務提供者に当たるとは認められない。
 よって、被告TOKAIは「開示関係役務提供者」に当たらない。
(2)ア 原告らは、ツイッターのアカウントにログインをしなければ、同アカウントを維持できないから、本件アカウントへのログイン行為の一つ一つが本件各ツイートの用に供されているとして、被告TOKAIが「開示関係役務提供者」に当たると主張する。
 しかし、長期間ログインがされなかったとしてもツイッターのアカウントが削除されるとは限らないし、仮に削除されても新たにアカウントを作成して投稿すれば足りるのであるから、一つ一つのログイン行為が侵害投稿に寄与しているとは認められない。
イ 原告らは、ログインの通信と侵害情報の流通に係る通信が同一の電気通信設備を利用したものである限り、当該電気通信設備を管理等する経由プロバイダは「開示関係役務提供者」に該当することとなり、本件発信者情報に係る各ログイン時の通信と本件各ツイートの投稿の通信は、被告TOKAIが契約者に貸与したルーター又は被告ドコモが契約者に貸与したSIMカードを利用したものであるから、被告らは「開示関係役務提供者」に該当すると主張する。
 しかし、仮にログイン時の通信に係る発信者情報がプロバイダ責任制限法4条1項に基づき開示される場合があるとしても、それは、ツイッターのように個々の投稿の通信に係るIPアドレス等を保存せず、ログイン時のIPアドレス等しか保存しないサービスにおいて、ログイン時に係る情報を発信者情報開示請求の対象としなければ、開示を請求する者の権利救済が図れないから、例外的に、ログインの機会に侵害情報が投稿されたことが立証された場合に限り、開示が認められるものにすぎない。したがって、原告らが主張するように、発信者情報開示が認められる範囲を無制限に拡張することは許されるべきでない。
 また、ある設備が「特定電気通信設備」(プロバイダ責任制限法4条1項柱書き、2条2号)に該当するためには、特定電気通信役務提供者が管理し、通信の実現のために利用する設備である必要がある。しかるところ、確かに、被告TOKAIは、顧客の要望に応じてルーターを貸与することはあるものの、当該顧客は、貸与されたルーターを利用しなくても、市販のルーターを利用することによっても被告TOKAIのインターネット接続サービスを利用することができるから、被告TOKAIが貸与した当該ルーターが通信の実現のために利用されているとは限らない。そうすると、被告TOKAIは、当該ルーターを管理し、通信の実現のために利用しているものではないから、当該ルーターが「特定電気通信設備」に該当する余地はない。そもそも、本件各ツイートの投稿の通信と本件発信者情報に係るログインの通信が同一のルーターを利用してされたことは立証されていない。
ウ 原告らは、被告らのいずれかの特定電気通信設備を用いて本件各ツイートが投稿されていることは明らかであるとして、被告らに対する本件発信者情報の開示請求はいずれも認められるべきであると主張する。
 しかし、1つのツイートの投稿の通信が被告らの両方の電気通信設備を経由することは論理的にあり得ないから、被告らの双方が「開示関係役務提供者」に該当すると認定されることはあり得ないというべきである。
エ したがって、原告らの前記アないしウの主張にはいずれも理由がない。
(被告ドコモの主張)
 原告らの主張はいずれも争う。
4 争点4(本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)について
(原告らの主張)
 原告らは、本件各ツイートの投稿者に対し、不法行為に基づく損害賠償等を請求する予定であるが、そのためには、被告らが保有する本件発信者情報の開示を受ける必要がある。
(被告らの主張)
 原告らの主張のうち、事実に関する主張は不知であり、法的主張は争う。
 原告らは、本件各ツイートの投稿者の氏名又は名称及び住所のほか、電話番号及び電子メールアドレスの開示を請求している。しかし、氏名又は名称及び住所が開示されれば、上記投稿者に対して損害賠償を請求することができるから、これらに加えて電話番号及び電子メールアドレスの開示を求める必要はない。したがって、原告らには、電話番号及び電子メールアドレスの開示を受けるべき正当な理由は認められない。
第4 当裁判所の判断
1 争点3(被告らが「開示関係役務提供者」に該当するか)について事案に鑑み、争点3から判断する。
(1) 「開示関係役務提供者」の意義
 プロバイダ責任制限法は、4条1項において、「開示関係役務提供者」の意義について「当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者」と定め、「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者」は、「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであ」り(同項1号)、かつ、「当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき」(同項2号)に限り、開示関係役務提供者に対し、当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報の開示を請求することができる旨を規定し、また、同条2項において、開示関係役務提供者がそのような請求を受けた場合には、原則として発信者の意見を聴かなければならない旨を規定する。
 これらの規定の趣旨は、発信者情報が、発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に関わる情報であり、正当な理由がない限り第三者に開示されるべきものではなく、また、これが一旦開示されると開示前の状態への回復は不可能となることから、発信者情報の開示請求につき厳格な要件を定めた上で、開示請求を受けた開示関係役務提供者に対し、上記のような発信者の利益の保護のために、発信者からの意見聴取を義務付けて、開示関係役務提供者において、発信者の意見も踏まえてその利益が不当に侵害されることがないように十分に意を用い、当該開示請求が同条1項各号の要件を満たすか否かを慎重に判断させることとしたものと解される。
 こうした「開示関係役務提供者」の意義及びプロバイダ責任制限法の定めの趣旨に鑑みれば、「開示関係役務提供者」については厳格に解すべきであって、ある特定電気通信役務提供者が「開示関係役務提供者」に当たるというためには、当該特定電気通信役務提供者が用いる特定電気通信設備が侵害情報の流通に供されたことが必要であると解すべきである。
(2) 判断
ア 被告TOKAIについて
(ア) 本件ツイート1の投稿について
 原告らが被告TOKAIに対して開示を求める契約者の情報である本件発信者情報1は、令和2(2020)年6月29日15時56分35秒(UTC)頃及び同年8月16日7時49分52秒(UTC)頃に被告TOKAIから(IPアドレスは省略)という発信元IPアドレスを割り当てられていた契約者に関するものである。
 この点、本件ツイート1が投稿されたのは、同年6月29日17時45分(JST。これをUTCに換算すると同日8時45分となる。)であるから、本件発信者情報1のうち、同日15時56分35秒(UTC)頃に関するものは、本件ツイート1の投稿から7時間余り後のものであり、同年8月16日7時49分52秒(UTC)頃に関するものは、同投稿から48日余り後のものである。したがって、被告TOKAIから上記発信元IPアドレスを割り当てられた通信によるログインの状態下で、本件ツイート1の投稿に係る通信がされたものと認めることはできない。
 また、証拠(甲35、36、39、40、乙5の1)によれば、(IPアドレスは省略)というIPアドレスに係るドメインには「t−com.ne.jp」という文字列が含まれていたと認められるから、被告TOKAIが割り当てるIPアドレスに係るドメインには、この「t−com.ne.jp」という文字列が含まれるものと推認される。そして、当該文字列を含むドメインに係るIPアドレスが割り当てられた通信によって本件アカウントにログインされた時刻は、その大半が17時台から23時台までの間(いずれもUTC)であって、8時台(UTC)は見当たらない。したがって、本件ツイート1が投稿された令和2(2020)年6月29日8時45分(UTC)頃に、被告TOKAIの電気通信設備を経由する通信によって本件アカウントにログインがされたものと認めることはできない。
 かえって、証拠(甲40)によれば、本件ツイート1の投稿の直前のログインに係る通信は「amazonaws.com」を含むドメインのものであると認められ、これは、本件ツイート1の投稿に係る通信が、被告TOKAIの電気通信設備以外の電気通信設備を経由してなされたことをうかがわせる事情といえる。
 以上によれば、被告TOKAIが用いる電気通信設備が本件ツイート1の投稿に供されたことは認められないから、本件ツイート1の投稿について、被告TOKAIが「開示関係役務提供者」に該当するとは認められない。
(イ) 本件ツイート2の投稿について
 本件ツイート2が投稿されたのは、令和2(2020)年9月30日21時33分(JST。これをUTCに換算すると同日12時33分となる。)であるから、本件発信者情報1のうち、同年6月29日15時56分35秒(UTC)頃に関するものは、本件ツイート2の投稿の3か月余り前のものであり、同年8月16日7時49分52秒(UTC)頃に関するものは、同投稿の45日余り前のものであって、ログインから投稿までに相当の期間が経過している。そして、証拠(甲35、36、39、40、乙5の1)によれば、上記の期間において、被告TOKAIのドメインと認められる「t−com.ne.jp」を含むドメイン以外のドメインによるIPアドレスが割り当てられた通信によって、本件アカウントへのログインが相当な回数にわたり繰り返されていることが認められる。
 加えて、前記(ア)のとおり、「t−com.ne.jp」という文字列を含むドメインに係るIPアドレスが割り当てられた通信によって本件アカウントにログインされた時刻は、その大半が17時台から23時台までの間(いずれもUTC)であって、証拠(甲35、36、39、40、乙5の1)によれば、12時台(UTC)のものは同年9月2日12時13分03秒及び12時32分10秒のみであると認められる。
 かえって、証拠(甲35、36、39、40、乙5の1)によれば、令和2(2020)年6月29日から同年9月17日まで、ほぼ毎日、被告らによって割り当てられたものを含む複数のドメインによるIPアドレスIPアドレスが割り当てられた通信によって本件アカウントにログインされていたことが認められるから、同日から本件ツイート2が投稿された同月30日までの間にも、同様に、本件アカウントへのログインが繰り返されたことがうかがわれ、かつ、その中には、被告TOKAI以外の経由プロバイダの電気通信設備を経由してされたものが存在する可能性が相当程度高いといえる。
 以上によれば、被告TOKAIが用いる電気通信設備が本件ツイート2の投稿に供されたと認めることはできないから、本件ツイート2の投稿について、被告TOKAIが「開示関係役務提供者」に該当するとは認められない。
イ 被告ドコモについて
 原告らが被告ドコモに対して開示を求める契約者の情報は、令和2(2020)年9月14日15時57分41秒(JST。これをUTCに換算すると同日6時57分41秒となる。)頃に被告ドコモから(IPアドレスは省略)という発信元IPアドレスを割り当てられていた契約者に関するものである。
 この点、本件ツイート2が投稿されたのは同月30日21時33分(JST。これをUTCに換算すると同日12時33分となる。)であるから、上記の契約者の情報は本件ツイート2の投稿の16日余り前のものであって、本件アカウントへのログインから本件ツイート2の投稿までに相当の期間が経過している。
 そして、証拠(甲35、36、39、40、乙5の1)によれば、上記の期間においては、被告ドコモのドメインと認められる「spmode.ne.jp」の文字列を含むドメイン以外のドメインによるIPアドレスが割り当てられた通信によって、本件アカウントへのログインが相当な回数にわたり繰り返されていることが認められる。
 加えて、証拠(甲35、36、39、40、乙5の1)によれば、本件ツイート2が投稿された12時台(UCT)において、「spmode.ne.jp」の文字列を含むドメインによるIPアドレスが割り当てられた通信により、本件アカウントにログインがされたのは、令和2(2020)年9月2日12時33分06秒、同月8日12時53分19秒及び同月13日12時12分26秒のみであること、かえって、「amazonaws.com」や「sakura.ne.jp」の文字列を含むドメインによるIPアドレスが割り当てられた通信により、12時台(UTC)に相当の回数にわたってログインされたことが認められる。しかも、前記ア(イ)のとおり、令和2(2020)年9月17日から本件ツイート2が投稿された同月30日までの間に、本件アカウントへのログインが繰り返されたことがうかがわれ、かつ、その中には、被告ドコモ以外の経由プロバイダの電気通信設備を経由したものが存在する可能性が相当程度高いといえる。
 以上によれば、被告ドコモが用いる電気通信設備が本件ツイート2の投稿に供されたと認めることはできないから、本件ツイート2の投稿について、被告ドコモが「開示関係役務提供者」に該当するとは認められない。
ウ 原告らの主張について
(ア) 原告らは、侵害情報の投稿の通信に用いられた電気通信設備とログインの通信に用いられた電気通信設備が同一であれば、当該電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者は「開示関係役務提供者」に該当する旨を主張する。しかし、仮に原告らの解釈を前提にしても、前記ア及びイのとおり、本件各ツイートが被告らの電気通信設備を経由して投稿されたとは認められないから、侵害情報の投稿の通信に用いられた電気通信設備とログインの通信に用いられた電気通信設備が同一であるとは認められない。したがって、原告らの上記主張は理由がない。
 さらに、原告らは、侵害情報の投稿の通信に用いられた電気通信設備が厳密に特定できなくとも、そのいずれかの電気通信設備を用いて投稿されたことが明らかであれば、権利侵害を受けた者の権利回復を図るという観点からも、立証責任を緩和して、いずれの経由プロバイダに対する発信者情報開示請求についても認められるべきであるとも主張する。
 しかし、前記(1)のとおり、プロバイダ責任制限法4条1項は、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することを認めたものと解されるから、権利侵害を受けた者の権利回復を図るという観点のみを根拠として、その者の立証責任を緩和し、複数の経由プロバイダのうちいずれかの経由プロバイダの電気通信設備を用いて投稿されたことさえ立証されれば、いずれの経由プロバイダに対しても発信者情報開示請求が認められると解するというのは、相当でないというべきである。原告らの主張は独自の見解というほかはなく、採用の限りではない。
(イ) 原告らは、さくらインターネット株式会社やアマゾンジャパン合同会社が管理する通信網を経由した本件アカウントへのログイン(「sakura.ne.jp」や「amazonaws.com」の文字列を含むドメインによるIPアドレスが割り当てられた通信によるログインを指すと解される。)は、本件ツイート1及び2の投稿者とは異なる別事業者が提供する、本件アカウントと連携したツイッター専用アプリケーションを用いて本件アカウントにログインしたものであって、上記投稿者による通信ではないと主張する。しかし、本件全証拠によっても、原告が主張する上記事実は認められないから、本件各ツイートの投稿の通信に関する前記ア及びイの認定を何ら左右するものではない。
(ウ) したがって、原告らの前記(ア)及び(イ)の主張はいずれも採用することができず、その他原告らが種々主張するところを十分に考慮しても、前記(2)ア及びイの認定を左右するには至らない。
(3) 争点3に関する小括
 以上のとおり、被告TOKAIは本件ツイート1の投稿に関して、被告ら両名は本件ツイート2の投稿に関して、いずれも「開示関係役務提供者」に該当すると認めることはできない。
2 結論
 以上の次第で、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求にはいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 矢野紀夫
 裁判官 佐々木亮


別紙 発信者情報目録
1 被告TOKAI関係
 別紙アカウント目録記載のアカウントにログインした際の別紙IPアドレス目録1(1)記載の発信元IPアドレスを、同目録1(2)記載の各ログイン日時頃に、被告TOKAIから割り当てられていた契約者に関する下記情報。
 (1) 氏名(名称)
 (2) 住所
 (3) 電話番号
 (4) メールアドレス
2 被告ドコモ関係
 別紙IPアドレス目録2(2)記載の日時に同目録2(1)記載の発信元IPアドレスを割り当てられた電気通信設備から同目録第2(3)記載の接続先IPアドレスのいずれかに対して通信を行った電気通信回線の同日時における契約者に関する情報であって、次に掲げるもの。
 (1) 氏名(名称)
 (2) 住所
 (3) 電話番号
 (4) メールアドレス
 以上

別紙 アカウント目録
 ユーザーID (IDは省略)
 ユーザー 名 C
 U R L https:// 以下省略
 以上

別紙 IPアドレス目 録
1 被告TOKAI関係
 (1) 発信元IPアドレス (IPアドレスは省略)
 (2) ログイン日時
 ア 2020年6月29日 15時56分35秒(UTC)
 イ 2020年8月16日 07時49分52秒(UTC)
2 被告ドコモ関係
 (1) 発信元IPアドレス (IPアドレスは省略)
 (2) ログイン日時 2020年9月14日 15時57分41秒(JST)
 (3) 接続先IPアドレス
 (各IPアドレスは省略)
 以上

(別紙原告画像目録―省略)

別紙 投稿記事目録
1 本件ツイート1
 閲覧用URL https:// 以下省略
 画像UR L https:// 以下省略
 投稿日時 2020年6月29日 17時45分(JST)
 投稿内容 「A’さん(ユーザー名は省略)
 DM画像捏造してまで友人を悪人に仕立て上げるのやめてくれませんかね?
 捏造したところで信用の問題で誰も信じないとは思いますけどそんなクソDM直に送るような人でもないんですよ、あんたと違って」
 添付画像 下記3(1)のスクリーンショット画像(本件投稿画像1)
2 本件ツイート2
 閲覧用URL https:// 以下省略
 画像UR L https:// 以下省略
 投稿日時 2020年9月30日 21時33分(JST)
 投稿内容 「ちなみにA’(A)さんに触ると意味不明なクソリプされたりツイート文章を改竄して捏造妄想作話するんで要注意だよ!」
 添付画像 下記3(2)のスクリーンショット画像(本件投稿画像2)
3 添付画像
(1) 本件投稿画像1(画像は省略)
(2) 本件投稿画像2(画像は省略)
 以上
line
 
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