判例全文 line
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【事件名】漫画「ウチムスマザコン」事件
【年月日】令和4年3月30日
 東京地裁 令和2年(ワ)第12803号 著作物の独占的利用権に基づく侵害差止等請求事件(第1事件)、
 令和3年(ワ)第2271号 損害賠償請求事件(第2事件)
 (口頭弁論終結日 令和4年2月16日)

判決
原告 X1
原告 X2
原告ら訴訟代理人弁護士 太田真也
被告 Y
同訴訟代理人弁護士 安藤絵美子


主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 第1事件
(1)被告は、別紙著作物目録記載の各著作物について、複製、自動公衆送信及び送信可能化してはならない。
(2)被告は、別紙被告公開著作物目録記載1ないし4の各著作物をいずれも削除せよ。
(3)被告は、原告らに対し、353万9228円及びこれに対する令和2年8月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)仮執行宣言
2 第2事件
(1)被告は、原告らに対し、150万円及びこれに対する令和3年2月17日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
(2)仮執行宣言
第2 事案の概要等
1 事案の概要
(1)原告らは、「ラジオへんすて」という名称のサークルの共同運営者であるところ、自らが企画したクラウドファンディングのプロジェクト(以下「本件企画」という。)のために、漫画家である被告に対し、別紙著作物目録記載1の著作物(以下「本件漫画1」といい、本件漫画1を含め、「ウチのムスコがマザコンになった理由」という題名で被告が作成又は公開した漫画を「ウチムスマザコン」と総称する。)及び同記載2の著作物(以下「本件漫画2」といい、本件漫画1と併せて「本件各漫画」という。)などの作成を依頼し、被告との15間で、原稿作成依頼契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
(2)第1事件
 原告らが、被告は、本件契約を締結するに当たり、原告らに対し、本件各漫画につき、著作権法63条1項に基づく独占的利用許諾をする旨の合意(以下「本件合意」という。)をしたにもかかわらず、これに違反して、本件各漫画と同一の内容である別紙被告公開著作物目録記載の各著作物(以下「被告公開著作物」と総称する。なお、被告公開著作物の具体的な内容は、次に掲げる被告公開著作物一覧@ないしDのとおりである。)を公開したと主張して、著作権法112条に基づき、本件各漫画の複製、自動公衆送信及び送信可能化の差止め並びに被告公開著作物1ないし4の削除を求めるとともに、被告には、本件合意に違反して、被告公開著作物をインターネット上のウェブサイト等において公開した行為による債務不履行のほか、本件企画に関して委託した業務に関し、次に掲げる本件各債務不履行一覧@ないしGの各債務不履行(以下、順に「本件債務不履行1」ないし「本件債務不履行8」といい、併せて「本件各債務不履行」という。)があると主張して、損害賠償金353万9228円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和2年8月16日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
(被告公開著作物一覧)
@被告のブログに公開された、本件漫画1の末尾に収録されている4コマ漫画「ありし日の失敗」(被告公開著作物1及び3)
A被告のブログに公開された、本件漫画1の末尾に収録されている4コマ漫画「ありし日の失敗2」(被告公開著作物載2)
Bインターネット上のサービスであるpixivに公開されたウチムスマザコン(被告公開著作物4)
C株式会社イースト・プレス(以下「イースト・プレス」という。)から発行されたウチムスマザコンの単行本(被告公開著作物5)
D被告のツイッターアカウントに投稿された本件漫画2の一コマ(被告公開著作物6)
(本件各債務不履行一覧)
@本件企画において発行する同人誌の原稿につき、依頼した内容と異なる原稿を提出したこと及び履行期限までに原稿を提出しなかったことによる債務不履行(本件債務不履行1)
A本件漫画2につき、履行期限までに原稿及びネームを提出しなかったことによる債務不履行(本件債務不履行2)
B本件漫画1につき、事前の合意に反し、既存の公開済みの作品を提出したとこと、依頼した内容と異なる原稿を提出したこと及び履行期限までに原稿を提出しなかったことによる債務不履行(本件債務不履行3)
C本件漫画1につき、履行期限までにネームを提出しなかったことによる債務不履行(本件債務不履行4)
D本件企画の宣伝用の漫画につき、履行期限までに原稿を提出しなかったことによる債務不履行(本件債務不履行5)、
E本件企画に関し、通常一般に非公開であるべき機密情報を漏えいしたことによる債務不履行(本件債務不履行6)、
F本件企画のイベントである打上げへの参加を直前にキャンセルしたことによる債務不履行(本件債務不履行7)
G本件漫画2のうちの1コマをツイッターにおいて公開したことによる債務不履行(本件債務不履行8)
(3)第2事件は、原告らが、第1事件の係属中に、被告が、本件企画に参加した他の漫画家9名に対し、「独占的利用権を許諾(譲渡)するということは、著作者(作家)であっても自分の著作物(作品)を一切使えない」などと記載された文書を送付したことが不正競争防止法2条1項21号にいう「虚偽の事実」の告知に該当すると主張して、被告に対し、同法4条に基づき、損害賠償金150万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である令和3年2月17日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による金員の支払を求める事案である。
2 前提事実(後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実をいう。なお、本判決を通じ、証拠を摘示する場合には、特に記載しない限り、枝番を含むものとする。)
(1)当事者
ア 原告らは、「ラジオへんすて」という名称のサークルの共同運営者である。
イ 被告は、漫画家であり、本件各漫画の作者である。
(2)本件企画
ア 本件企画は、「ラジオへんすて」の5周年を記念して企画されたものであり、いわゆるクラウドファンディングの手段により資金を募った上で、「ラジオへんすて」と関係のある漫画家に漫画原稿の作成を有償で依頼し、それらを収録した1冊のコミック本(乙7。以下「本件コミック」という。)を制作し、資金を提供した支援者(以下、単に「支援者」という。)に配布することなどを主たる目的とするものである。
 そして、本件企画においては、支援者に対する返礼品として、支援金額に応じ、本件コミックのほか、「絆」というタイトルの同人誌(以下「同人誌「絆」」という。)、本件企画に参加した漫画家の作品に対する思いや意気込みを収録したCD、お礼状、本件コミックの表紙のイラストを用いたグッズ等の配布や、漫画家が同席する打上げ(以下、単に「打上げ」という。)への招待といった各種の特典が設けられていた。そして、原告らは、漫画家に対し、本件コミックに収録される原稿の作成や提供以外にも、上記のような各種特典の提供に関しても、任意かつ無償の協力を求めていた。
イ 本件企画は、支援金につき目標金額及び募集期間を設定するものであり、募集期間中に集まった支援金が目標金額に満たなかった場合には、「プロジェクト不成立」となり、支援金は全額、支援者に対して返金される一方で、漫画家は、本件コミックのために提供した漫画原稿に係る原稿料の支払を受けることはできないこととされていた。
(以上につき、甲2の1、甲11の1〜6、乙7、28、弁論の全趣旨)
(3)被告によるウチムスマザコンの公開
 被告は、平成29年6月27日以降、現在に至るまで、pixivにおいて、ウチムスマザコンを公開している(被告公開著作物4。なお、ここで公開されているウチムスマザコンを、特に「pixiv版」という。)。
(4)本件契約の締結
 原告らと被告は、平成29年7月28日、本件契約を締結した(ただし、本件契約の具体的内容については、後述のとおり、当事者間に争いがある。)(弁論の全趣旨)。
(5)本件企画の経過
 「ラジオへんすて」は、平成29年9月1日、募集期間を2か月間、目標金額を157万円と設定の上、本件企画の募集を開始したところ、同年10月28日に、支援金額が募集金額を上回り、本件企画は「サクセス」となった(乙28)。
(6)本件コミックの発行
 原告らは、平成29年12月頃、本件漫画1を含め、本件企画に参加した10名の漫画家による作品を収録した本件コミック「ThankU」を発行し、その頃、支援者に配布した(乙7、弁論の全趣旨)。
(7)原稿料の支払
 原告らは、平成29年12月22日、被告に対し、本件漫画1に対する原稿料として、32万6976円を支払った(甲5)。
(8)SNS等における被告の投稿
ア 被告は、平成29年11月1日、自らのツイッターアカウントにおいて、「作家は誰しもが、その紙の上の世界にリンクして執筆作業をしている。そのオンとオフの切り替えが上手くできなくて、ツイッターに出て来れませんでした。こんなになってまで何故描く必要があるか?その答えは、みなさんが支援してくださったへんすてクラウドファンディングの本に載ることになるでしょう」と投稿した(甲10の1)。
イ 被告は、平成29年11月1日、自らのツイッターアカウントにおいて、「伝えようとしたいことが伝わらず言いたいように言われ、葛藤を抱えながらのダイブは精神を削り取りました。矛盾と理不尽の中で、くじける思いもしましたがあと2Pなのでトンネル出るまで頑張ります。クラウドファンディングの応援ありがとうございました。そして遅ればせおめでとうございます。」と投稿した(甲10の1)。
ウ 被告は、平成29年12月29日、ツイッターのいわゆる鍵アカウントにおいて、「更にそのお金は作家にいきませんからねー。」と投稿した(甲10の2)。
エ 被告は、平成30年7月12日、自らのブログにおいて、「実は、この半年間は弁護士さんにお世話になっています。昨年参加した同人誌のトラブルに巻き込まれて現在も弁護士を通して対応を検討中です。上記対応中のため詳細は控えますが、心身共に疲弊しており一日でも早く上手い着地点に収まることを願っております。」と投稿した(甲10の3)。
(9)ウチムスマザコンの書籍化
 被告は、平成30年3月26日、イースト・プレスを発行者として、ウチムスマザコンの単行本(被告公開著作物5)を発行した(乙54、弁論の全趣旨。なお、この単行本に収録されたウチムスマザコン(全126ページ)を、特に「イースト・プレス版」という。)。
(10)被告による本件漫画2の一コマの投稿
 被告は、平成30年2月5日、被告公開著作物6記載のとおり、本件漫画2のうちの一コマを他の画像とともに、被告のツイッターアカウントにおいて投稿したが、同投稿は、現在は削除されている(甲4の6、弁論の全趣旨)。
(11)本件訴訟の提起等
ア 原告らは、令和2年5月25日、当庁に本件訴訟(第1事件)を提起した(当裁判所に顕著な事実)
イ 被告代理人は、第1事件が当裁判所に係属中の令和2年11月17日頃、本件企画に参加した9名の漫画家に対し、「照会書」と題する書面(以下「本件照会書」という。)を送付した。
 本件照会書の内容は、漫画家がそれぞれ本件コミックのために提供した作品について、「ラジオへんすて」に対し独占的利用権を許諾(譲渡)したか否かを尋ねるものであり、その本文中には、次のような記載が存在する。
(ア)「独占的利用権を許諾(譲渡)するということは、著作者(作家)であっても自分の著作物(作品)を一切使えない(出版、インターネットやツイッターでの表示、同様の作品や登場人物の絵を公表することも含む)ということを意味しています。作家の先生方がへんすてに独占的利用権を許諾(譲渡)したか否かについてお教え下さい。また、関連事項もお答えいただければ幸いです。」
(イ)「お忙しいところ大変恐縮ですが、何卒、著作権者の権利擁護のため、ご協力を賜りたくお願い申し上げます。」
(以上につき、乙8〜16、第2事件の甲3)
(12)被告によるウチムスマザコンの一部公開
 被告は、現在、自らのブログにおいて、被告公開著作物1ないし3を公開している。
第3 争点
1 本件各漫画に係る独占的利用許諾契約の成否(争点1)
2 本件各債務不履行の有無
(1)同人誌「絆」の原稿提出に係る債務不履行の有無(本件債務不履行1)(争点2)
(2)本件漫画2の原稿提出に係る債務不履行の有無(本件債務不履行2)(争点3)
(3)本件漫画1の原稿提出に係る債務不履行の有無(本件債務不履行3)(争点4)
(4)本件漫画1のネームの提出に係る債務不履行の有無(本件債務不履行4)(争点5)
(5)宣伝用漫画原稿の提出に係る債務不履行の有無(本件債務不履行5)(争点6)
(6)機密情報の漏えいに係る債務不履行の有無(本件債務不履行6)(争点7)
(7)打上げのキャンセルに係る債務不履行の有無(本件債務不履行7)(争点8)
(8)本件漫画2の無断公開に係る債務不履行の有無(本件債務不履行8)(争点9)
3 「虚偽の事実」の告知の有無(争点10)
4 原告らの損害(争点11)
5 差止めの必要性(争点12)
第4 争点に対する当事者の主張
1 争点1(本件各漫画に係る独占的利用許諾契約の成否)について
(原告らの主張)
(1)本件企画の趣旨
ア クラウドファンディングとは、企画者が実現したい企画を有しているものの、それを実現するための資金がない場合に、支援者に対し、当該企画に対する思いや熱意、発案の理由などとともに、当該企画が実現した場合のリターン(返礼品)を提示した上で資金を募るものであり、先行投資型の資金調達手段である。
 当該企画に魅力を感じた支援者が、当該企画に対する支援として資金を拠出し、募集期間内に集まった資金の合計額が当初設定された目標金額に到達した場合には、企画者は当該企画を実行し、支援者に対して返礼品を提供する必要がある。これに対し、募集期間内に得られた資金が目標金額に満たなかった場合には、当該企画は白紙となり、それまでに集まった資金は全額支援者に返却する必要がある。
 したがって、企画者が自らの企画を実現させるためには、支援により得られるメリットやレアリティー(市場におけるプレミア価値をいう。以下同じ。)を明らかにした上で、支援者に対し、当該企画の魅力を積極的にアピールする必要がある。
イ 本件企画は、「ラジオへんすて」の発足から5周年を記念して、漫画を収録したコミック(本件コミック)やCD等の頒布物を制作・発行することを主たる目的とする企画であるところ、当該漫画がインターネット上で全て公開されているのであれば、支援者は、あえてお金を出して支援する必要はないと感じてしまうため、本件企画に当たっては、「本件コミックでしか読めない内容が含まれる」という公約を掲げる必要があった。
 そして、本件コミックに収録した漫画を他の出版社で書籍化したり、インターネット上で公開したりすることにより、上記のような公約を破ることは、支援者が支援を行った理由を失わせるものであり、詐欺行為にも受け取られかねないため、企画者の信用を失墜させ、さらには、支援金の払戻しなどの損害賠償問題に発展するおそれがある。
(2)本件合意の成立
ア 合意に至る経緯
(ア)5月10日の打合せ(以下、平成29年の出来事については、月日のみを記載する。)
 被告は、5月10日当時、ウチムスマザコンを自分のツイッターに投稿していたところ、それまで被告はSNS上にアップロードした連載作品を最後まで完結させたことがなかった。
 そこで、原告X2は、ウチムスマザコンが未完のまま終わることがないように応援したいという気持ちから、被告に電話で連絡を取り、本件企画に参加してウチムスマザコンを完結させ、コミックとして出版することを提案した。その際、原告X2は、被告に対し、クラウドファンディングのシステムや本件企画の趣旨、契約内容や本件企画への参加条件等について説明し、ウチムスマザコンをpixivやツイッターで全て公開し、支援をしなくても無料で読める状態にしてしまうと、支援者に対するレアリティーを提供することができなくなるため、本件企画への参加条件が失われてしまうことを伝えた。
 これに対し、被告は、「pixivで公開するのは、全話じゃなくて、ウチムスの話の結末は、クラウドファンディングで出版するコミックだけで読めるようにしましょう。続きが気になったら支援して。みたいな」などと述べ、参加条件を理解したため、原告らは、被告の本件企画への参加を承諾した。
 また、原告X2は、「ラジオへんすて」のスタッフで、平成28年に他界した「人妻づま子」というハンドルネームの女性についての漫画(本件漫画2)の作成を依頼したところ、被告はこれを承諾した。原告X2は、プロット(原作)は原告X2において作成した上で、被告が作画を担当することや、本件コミック以外での公開は認められないことを説明したが、被告も、本件企画の趣旨を理解して参加することになったものである。
(イ)5月30日の松本市での打合せ
 原告らは、被告がその後もpixivやツイッターでウチムスマザコンの公開を続けていたことから、被告がこのまま全話を公開してしまうのではないかという懸念を抱き、5月30日、長野県松本市の喫茶店にて被告との打合せ(以下「5月30日の打合せ」という。)を行った。
 原告X2は、5月30日の打合せにおいて、被告に対し、再度、ウチムスマザコンの全話をpixivやツイッターで公開してしまうと、本件企画のレアリティーが失われるため、本件企画への参加条件が失われることや、本件企画はpixivで公開した作品をそのまま本に収録するというものではないことなど、本件企画におけるレアリティーの必要性について説明した。これに対し、被告は、ウチムスマザコンの全話をインターネット上で公開したとしても、「はなまるきょうだい」という漫画を付加することにより、レアリティーを維持することができるなどと提案したが、原告X2はこれに応じなかった。
 これを受けて、被告は、pixivでウチムスマザコンのラストを未公開とすると、既存の読者が辛い気持ちになってしまうため、pixivでもラストは公開するが、その代わりに、話の途中を一部未公開にすることで本件企画のレアリティーを提供することができると提案した。これに対し、原告X2は、本意ではなかったものの、辛うじてレアリティーが維持できると考えたことから、同提案を受け入れ、本件企画への被告の参加を承諾することとした。
(ウ)被告による公開
 被告は、6月20日、原告らに対し、「「ウチムスマザコン」は、あと10頁で、60頁構成の全ページが描き終わる。ひとまずネット版では、残り10ページ中の、5〜6ページを公開して終わる予定で、ラジオへんすてクラウドファンディングのコミックになるときに、残り10ページ中の4〜5ページ分を追加エピソードとして収録し、ここでしか読めない特典的につける。」という内容の進捗報告をしたため、原告らは、被告が5月30日の打合せどおりに作業を進めているという認識を持った。
 しかしながら、被告は、6月27日、原告らに対する事前の連絡なく、ウチムスマザコンにつき、全60ページ(pixiv版)をpixivで公開した。
(エ)イースト・プレスでの書籍化
 被告は、6月29日、原告らに対し、イースト・プレスからウチムスマザコンの書籍化のオファーを受けた旨を報告したため、原告らは、被告には本件企画への参加意思がないものと受け止め、本件企画への参加は辞退した上で、他社で書籍化をすることを求める趣旨で、「他でもコミックス化できるのは喜ばしいことで応援しています。」と返事をしたが、原告X2が原作者となり、被告が作画を担当する「づま子のキセキ」は別なので、締切日は10月末日ぐらいであることを伝えた。
 これに対し、被告は、原告らに対し、@他社での書籍化の場合には、ほぼ書き直しになるため、本件コミックに収録される漫画(以下、本件コミックに収録されるウチムスマザコンを、特に「本件コミック版」という。)の原稿とは別物になることに加え、Apixiv版の一部を削除し、その部分に、本件コミックに収録されるまでの流れを新規で掲載することを提案した。
 原告らは、本件企画に関しては、支援したからこそ得られるレアリティーが重要であり、本件コミックでしか読めない内容が含まれている必要があることなどを再度確認したところ、被告は、重ねて、上記@・Aの点を約束したため、原告らは、本件企画への被告の参加を引き続き承諾することとした。
 これを受け、被告は、同月30日、イースト・プレスの担当者に送ったメールの写しを原告らにもスカイプで共有したが、そこには、@他社出版社で書籍化の際は書き足し・書き直しがある、A他社出版社で書籍化の際には、ラジオへんすてクラウドファンディングコミック用に提出したものと同じ原稿は載せない、B他社出版社で書籍化の際には、ラジオへんすてクラウドファンディングコミック用に提出したエピソードから削った上で、別エピソードを追加の形で収録するとの記載がある。
(オ)7月13日の電話打合せ及びその後の被告の対応
 被告は、7月13日にも、原告らと電話で打合せを行い、上記Aの点を約していたが、その数日後に、原告らに対し電話をして、途中のページの差替えではなく、本件コミック版には、60ページの後に書き下ろしを付けるなどと、再度合意内容を変更する旨の提案を一方的に行った。しかし、原告らは、それだと60ページで一旦話が完結してしまう上に、既にネットで公開済みの60ページ分については一切変化がないことになるため、当該60ページ分にはレアリティーがあるとはいえないと考え、被告に対し、本件コミックに収録するのは新規で書き下ろす4ページ分に限られる旨を伝えた。
 これに対し、被告は、64ページ分の原稿料が必要であると主張し、強い不満を表明したため、原告X2は、本意ではなかったものの、被告との間で、本件コミックが発行されるまでの間に、pixiv版60ページにつき、非公開とするか、又は削除や内容の差替えを行うなどして、本件コミック版のレアリティーを確保することを条件として、本件コミックに64ページ全体を収録することを合意した。
(カ)アンケートの実施
 原告らは、新規書き下ろし分の4ページの内容に少しでもレアリティーを付加できるようにするため、7月14日から同月20日までの間、当時既に公開されていたウチムスマザコンの読者に対し、どのような内容の漫画が収録されれば購入・支援したいと感じるかについてのアンケート調査を実施した。
 その後、原告らは、同月28日、被告に対し、上記アンケート調査の結果を報告した。
(キ)7月20日の打合せ
 原告X2は、7月20日、スカイプで、被告に対し、同月28日の打合せに関し、事前に質問事項等を伝えた上で、後から合意内容が覆ることのないように、充実した打合せを行い、契約内容をきちんと確認したいとの意向を伝えた。その際、被告からは、イースト・プレスでの書籍化の際には、ページ数が120ページになるため、全部書き直しになる旨の説明があった。
(ク)7月28日の打合せ
 原告ら及び被告は、7月28日、松本駅内の喫茶店において、本件企画についての打合せ(以下「7月28日の打合せ」という。)を行った。
 その際、原告X1は、被告に対し、本件企画の規約を印刷した書面(甲2の1)を読み上げながら説明した。そして、原告らは、被告に対し、改めて、他の出版社でウチムスマザコンを書籍化し、本件コミックのレアリティーを維持することができないのであれば、ウチムスマザコンという作品で本件企画に参加することは差し控えるよう伝えた。
 これに対し、被告は、@イースト・プレスに提出するウチムスマザコンの原稿(イースト・プレス版)は、新たに書き直す予定であり、本件コミック版原稿とは別物となるため、本件コミックのレアリティーは損なわれない旨や、A本件コミック版の分量は60ページであるのに対し、イースト・プレス版の分量は120ページであるため、本件コミック版をそのまま使用することはできない旨を原告らに説明した。
イ 合意の成立
 以上のとおり、原告らは、被告に対し、前記(1)のような本件企画の趣旨を伝え、本件企画のために作成した作品については、レアリティーが重要であるため、原告らが独占的に使用することができるものであることや、被告において同じ内容のものをインターネット上で公表したり、他社から出版したりするのであれば、レアリティーが失われるため、本件クラウドファンディング企画への参加を辞退するよう説明したところ、被告は、他の出版社等で出版等をする場合には、「違いを楽しむもの」や「全ページ書き直し」になるため、レアリティー(プレミア価値)は損なわれないことを約束したものである。
 なお、ここでいう「違いを楽しむものになる。」、「全ページ書き直し」とは、全く同一内容の著作物ではないこと、すなわち、いわゆるデッドコピー(違いを明確に認識できないものや、見た目が同一となるもの、一部表現が変わっても意味合いが変わらないもの)状態ではないことを意味する。
 そして、被告は、本件企画の趣旨を理解した上で、7月28日、原告らとの間で、本件企画へ参加し、@本件各漫画の原稿を作成し、原告らに提出する旨の契約(本件契約)を締結するとともに、A被告自身も本件各漫画を利用することができなくなり、仮に被告において、本件各漫画をインターネットで公表したり、他の出版社から発売したりするなど、本件企画のレアリティーを失わせるような行為をした場合には、原告らにおいて当該行為について差止めや削除を請求することができることを当然の前提として、原告らに対し、本件各漫画を独占的に利用することを許諾する旨の合意(本件合意)をした。
ウ 被告の主張に対する反論
 被告は、本件合意の成立を否認するが、次のとおり、その主張には理由がない。
(ア)被告は、本件合意の存在を裏付ける書面が存在しない旨主張するが、上記のとおり、被告は、一旦合意した内容を幾度となく反故にしており、原告らが新たな合意内容を証拠として残そうとすると、「漫画家Y´を信じてください。」などと言い、原告らを威圧して証拠となる書面等の作成を阻止したため、契約書が作成できなかったものである。
(イ)被告は、原告X2において、ウチムスマザコンがイースト・プレスから書籍として出版される予定であることに対し、何ら異議を述べなかった旨主張するが、被告は、「他社の書籍化の場合は、ほぼ書き直し」、「他社出版社で書籍化の際には、ラジオへんすてクラウドファンディングコミック用に提出したものと同じ原稿はのせない」と述べており(甲2の6)、イースト・プレスから同一の著作物が出版される予定とは伝えていない。
 むしろ、被告は、同一の著作物が書籍化されると、原告らに提出する本件漫画1のレアリティーが失われることを認識していたからこそ、原告らに対し、両者は別物になる旨説明していたものである。
(ウ)原告らは、7月28日の打合せの際に、被告に対し、「他社出版社でウチムスマザコンを書籍化することで、ラジオへんすてクラウドファンディングコミックのレアリティーを守れない状態になるなら、ウチムスマザコンという作品での参加はしないでください。」と伝えたところ、被告は、「他社出版社で提出するウチムスマザコンの原稿はラジオへんすてクラウドファンディングに提出する原稿とは別物になり、同じ表現でも書き直しになるので、ラジオへんすてクラウドファンディングに提出する原稿のレアリティーは損なわれない。」、「ラジオへんすてクラウドファンディングコミックでの60頁は、他社出版社版ではより詳細に書き直しになるので、120ページ構成になり、ラジオへんすてクラウドファンディングコミックへ提出した原稿を、そのまま他社出版社で使うことはできないので安心してほしい。」などと説明した。
(エ)被告は、原告らがイースト・プレスでの書籍化を応援していた旨主張するが、原告らは、被告が6月27日、事前の合意に反してウチムスマザコン全60ページをpixivで公開したことに加え、同月29日、他の出版社から書籍化のオファーを受けた旨報告してきたことから、被告には本件企画に参加する意図がないものと受け止め、本件企画にはウチムスマザコンを提出しないという前提で、書籍化を勧める内容の返信をしたものである。
(オ)原告X2が「ウチムス漫画に感じたから、広く伝えたい」とのメッセージを送信したのは、前後の文脈に照らせば、ウチムスマザコンという作品に対する敬意から、同作品の良さが世の中に広く知られること自体は喜ばしい旨を伝えるものにすぎず、レアリティーを失わせるような行為を許容する趣旨ではない。
 また、原告らは、他社で書籍化したとしても、支援者やラジオへんすての不利益にはならない旨の被告の回答を受けて、本件企画への被告の参加を了承した上で、「書籍化のお話は、普通にチャンスですので、「うまく進めて」下さい!へんすてでY´先生の漫画を独占したい気持ちや、先にだしたいとかはないです。」などと述べたものであり、被告が本件コミック版原稿と同一内容の漫画を他社で出版することを許容していたものではない。
(カ)被告は、原告X2が10月20日、被告に対し、「ブログから抜粋して書くことわかりました」と伝えたことを根拠に、公開済みの作品を提出することを許容していた旨主張する。しかしながら、「ブログから抜粋して書く」というのは、前後の文脈に照らして、「被告のブログから、文章や絵画によって表現されたアイディア(ネタ)をヒントにして新たに書き下ろす」という意味であり、ブログに掲載されている既存の漫画をそのまま収録するという意味に解することはできない。
(キ)被告は、32万6976円の原稿料で著作権を譲渡することなどあり得ない旨主張するが、原告らが被告から受けたのは、著作物の独占的利用権であって、著作権の譲渡ではない。原告らと被告との間の独占的利用許諾契約により、著作者である被告が行えなくなるのは、当該著作物と全く同一内容の著作物をインターネット上で公表したり、他の出版社から発売したりするといった当該企画におけるレアリティー(プレミア価値)を喪失させるような行為のみである。
(3)被告による本件合意違反
 被告は、本件合意に反して、本件漫画1については、インターネット上のウェブサイトやpixivで公開したほか、公開したpixivのURLをツイッターにて拡散したりし、また、イースト・プレスにて書籍化されたウチムスマザコンの宣伝に当たっても、公開先のpixivのURLを投稿したり、被告がツイッターにおいて熱中症に関する漫画を公開した際にも公開先のURLのQRコードを掲載したりしているほか、書籍としても出版している。また、本件著作物2については、ツイッターで公開している。
 したがって、原告らは、本件合意に基づき、被告に対し、本件各漫画につき、差止め及び削除を求めるものである。
(被告の主張)
(1)本件企画の趣旨
 被告は、本件企画の趣旨について、原告らから具体的な説明を受けていない。
(2)本件合意に至る経緯
ア 5月10日の打合せ
 原告らは、5月10日、被告に対し、「ラジオへんすて」の活動5周年を記念するクラウドファンディングを企画していること、その企画内容として、@漫画家への感謝とお礼の気持ちを込めて、本当に描きたいものをテーマにしてコミックを制作することや、Aラジオへんすてメンバーであった人妻づま子の生きた軌跡を知ることで、「いのち」と向き合う契機とすることを考えている旨を伝えた。
 その上で、原告らは、被告に対し、ウチムスマザコンのコミック化を提案し、被告としても、原稿を提供するという大枠については承諾したが、当時、それ以外には具体的な条件は何ら決まっていなかった。そして、詳細については追って話し合うこととされ、同日の時点では、インターネットで公開可能な範囲や原稿料については明確な提案も合意もなく、被告は、原告らから、インターネットで全てを公開した場合には本件企画に参加することができないという説明は受けていない。そもそも、被告は、原告らから、「レアリティー(プレミア価値)」という言葉も聞いていない。
 もとより、原告らは、被告に対し、著作物の独占的利用権の設定を求めることなどなく、本件企画に参加して原稿を提供することが、当然に当該原稿に係る著作物の独占的利用権を許諾することになるといった説明もなかった。
イ 5月15日のやり取り
 原告X1は、5月15日、被告に対し、クラウドファンディングを成立させるためには、多くの人にクラウドファンディングについて知ってもらった上で、多くの人に参加してもらうことが何よりも重要である旨のメッセージを送信した。
 これを受けて、被告は、原稿を提出しても、クラウドファンディングが不成立になればコミック化は実現されず、原稿料の支払も受けられないという不安定な依頼であることを理解した。
ウ 5月26日ないし28日のやり取り
 原告X2は、5月26日、被告に対し、「全てのページをネットで公開予定でしょうか?」、「大体なんページくらいになりそうでしょうか」とのメッセージを送信した。
 これに対し、被告が、全てのページを公開する予定であることや、ページ数は現時点では40ページであるが、最終的には50ページになる予定であることに加え、本件コミックへの収録が難しいようであればその旨伝えてほしい旨回答すると、原告X2は、「お金を落としたいと思っていただける内容にしていかないといけない部分もありますので、また相談させてください。」などと答えたが、インターネットで公開してはならないなどとは述べず、かえって、「はなまるきょうだい」をおまけとして付けるという被告の提案に対し、「前向きに皆に話してきますね!」、「さっそく話したら、ウチマザと同じ題材で明るい話題なら、読者もホット出来て楽しめるのでは?と意見来ています。まずは見てみたいと意見出ているので、プレゼンできそうなところ(今ある分全部でも大丈夫です)頂けましたらチームにお見せしますね!」と、リターン品としての本件コミックでは「おまけ」が読めるようにする方向で計画を進めていった(乙1)。
 また、原告X2は、同月28日には、被告に対し、「この漫画を同人誌(自主出版)することは誰にも何処にもご迷惑はかからないという認識で進めて良いのですね?」と更に質問をし、被告が、「はい、誰にもどこにも迷惑かかりません。著作権は私です!」と回答すると、原告X2は、「わーい!良かったです!」とのメッセージを送信し、ほかに公開が続くことを前提にやり取りを行った。
エ 5月30日の打合せ
 被告は、5月30日の打合せにおいて、原告X2から、本件企画が「ラジオへんすて」初の企画であり、返礼品の制作を考えていることや、できる範囲で参加してほしいことなどを伝えられたものの、その打合せの内容は、本件企画を成功させるための意見交換や、本件漫画2の内容等を和やかに協議するというものであり、原告らから具体的な参加条件や契約内容を示され、被告がこれを承諾するというような場面はなかった。そのため、同日の時点では、参加条件や契約内容は未確定であった。
 また、被告は、原告らから、インターネットでウチムスマザコンを公開すると、本件企画には参加できなくなることや、著作権の扱いについての説明を受けておらず、独占的利用権という言葉も出ていない。そして、被告が「はなまるきょうだい」を「おまけ」として追加することを提案し、原告X2がこれを却下したという事実も存在しない。
オ 被告による公開
 被告は、6月20日、原告X2に対し、「ウチムスマザコンも遺すところあと10Pです。ひとまずネット版では5〜6Pで終わる予定で、へんすてブックになるときに加筆ぶんとして追加EPを特典的につけたいと思っています。」などと、インターネット版の公開をすることを伝えた(乙1〔14頁〕)。当時、被告としては、本件コミック版として追加のエピソード漫画を収録することを考えていた。
 その上で、被告は、同月27日、pixivでウチムスマザコンを全てアップロードし、公開した。この時点でも、本件企画への参加のための具体的な条件等は合意されておらず、インターネットに公開しないという合意も存在しなかった。
カ 他の出版社での書籍化
 被告は、6月29日、原告X2に対し、イースト・プレスから書籍化の提案があったことを伝えたところ、原告X2は、「大丈夫ですよ〜」、「へんすてよりも先に発表になる場合は、いつになるかわかった時点で教えてください。」などと回答した。
 これを受けて、被告は、原告X2に対し、本件企画の開始時期や本件コミックの刊行時期を尋ねたところ、原告X2は、「外部に伝えることは、確定事項でないため慎重にお願いいたします」、「「Y´先生が責任を持って大丈夫と言える」のでしたら、仮ではありますがスケジュールをお伝えさせていただきますね。」などと述べた上で、本件企画の開始が8月某日であり、本件コミックの刊行は12月某日であるという仮のスケジュールを示した。
 そして、被告は、原告X2に対し、「あとは、へんすてさんサイドが、書籍化は困るかどうか…」と、再度書籍化についての意向を確認したが、原告X2は、「他でもコミックス化できるのは喜ばしいことで応援しています。「ウチムス」の書籍化は当初からへんすて側で止めたりとかはありません(づまさんの漫画は別)」と回答した(乙2)。
 また、原告X2は、「へんすてでの書籍発表前とか後とかはあまり問題視しておらず、「気持ち次第」です。前に発売したとしても、ソチラも応援することがへんすてクラウドファンディングの宣伝にもなるし、後から発売なら、ソチラのコミックス化も宣伝しつつやってゆきますし、気持ちのよい企画でしたら問題はないと思います。」、「簡単に言えば「ウチムス漫画に感じたから、広く伝えたい」なので、ほかでのコミックス化はむしろ喜ばしいことです。ただ、先方の存在は我々にとっては未知ですので、後々もめる事が無い様にちゃんと考えて行きたいです。」などとも述べるなどしており、同一内容の著作物が書籍化されることについて全く異存はなく、イースト・プレスとトラブルにならないようにしてほしいとだけ述べた(乙2)。
キ 7月13日の電話打合せ
 被告は、7月13日に電話で打合せをしたかは記憶がないが、前記のとおり、6月29日の時点で、本件コミック版とイースト・プレス版は、pixiv版と同一のものであることにつき、原告X2から承諾を得ていた。その上で、被告は、本件コミック版には、本件企画限定の原稿を追加する方法を考え、この頃、それを原告らに伝えたことはある。
 もともと、ウチムスマザコンをコミック化することが本件企画の出発点であり、4ページのみを書き下ろして本件コミックに収録するというのは、本件企画の本来の内容と全く異なるものであるほか、この時点では、そもそも原稿料の詳細が不明な状態であり、被告が60ページ分の原稿料の支払にこだわる意味がない。
ク 7月20日の電話打合せ
 被告は、7月20日頃、同月28日の打合せについての連絡を受けたことはあるが、同打合せが「しっかりとした契約内容の確認」の場であるという説明は受けていない。
ケ 7月28日の打合せ
 7月28日の打合せの内容は、当事者間で何も書面化されなかったものの、原告らは、被告に対し、既にインターネットで公開中のウチムスマザコンの原稿60ページを8月中に提供することを依頼し、被告はこれを承諾した。また、原告らと被告は、60ページの原稿に加え、本件コミック用に追加の原稿を収録することについて話し合い、詳細は未定であったものの、被告は、アンケート結果を反映した内容の原稿を提供するという理解をした。
 これに伴い、原告らは、被告に対し、本件企画の宣伝漫画や販売促進用ノベルティあとがきの原稿(同人誌「絆」のことを指すものであるが、当時、被告は「販売促進用ノベルティあとがき」という認識しかなく、詳細は把握していなかった。)も無償で作成する必要がある旨を伝えた。
 そして、被告は、原告らから、契約内容の詳細を記した書面を渡されておらず、2枚程度の用紙を見せられたが、その内容は記憶にない。また、原告らが契約内容を後日メールで送信することにつき、被告が拒否をしたという事実は存在しない。この点につき、被告は、後日、原告らから、正式な依頼確認書や契約書等の書面が郵送で送られてくるものであると考えていた。
(3)本件合意の成立
ア 被告が、原告らから、本件各漫画の原稿の作成を依頼されたことは事実でるが、被告は、原告らに対し、本件各漫画の独占的な利用を許諾したという事実は存在しない。
 もとより、原稿の作成依頼を承諾したからといって、それに付随して、著作物である当該原稿についての独占的な利用を許諾することにはならない。
イ 被告が本件各漫画に対し独占的な利用の許諾をしていないことは、次の事実からも明らかである。
(ア)著作者が自らの著作物に係る著作権を譲渡し、その結果、著作者自身も当該著作物を利用することができなくなるという重大な効果を伴う合意をするのであれば、契約書を作成するのが通常であるが、本件においては、そのような書面は何ら作成されていない。
(イ)被告は、原告らから、原稿料として32万6976円を受領したが、著作権者が自分の生命ともいうべき著作物に係る著作権について、その程度の金額で譲渡したり、独占的利用権を付与したりするということは考えられない。
(ウ)原告X2は、5月26日、被告から、本件漫画1の全てのページをインターネットで公開する予定である旨伝えられた際にも、異議を述べることなく、本件漫画1を同人誌として出版することの可否を確認しており、被告との間で、本件漫画1に係る著作権が被告にあることや、本件漫画1が他で公開される予定であることを前提としたやり取りを行っている(乙1〔9〜12頁〕)。
(エ)原告X2は、被告から、ウチムスマザコンがイースト・プレスから書籍として出版される予定であることを伝えられた際にも全く異議を述べておらず、むしろ、「大丈夫ですよ〜」、「他でもコミックス化できるのは喜ばしいことで応援しています、「ウチムス」の書籍化は当初からへんすて側で止めたりとかはありません。」、「簡単に言えば「ウチムス漫画に感じたから、広く伝えたい」なので、ほかでのコミックス化はむしろ喜ばしいことです。」、「書籍化のお話は、普通にチャンスですので、「うまく進めて」下さい!へんすてでY´先生の漫画を独占したい気持ちや、先にだしたいとかはないです。」などと述べていた(乙2)。
(オ)原告X2は、被告から、ウチムスマザコンの原稿につき、被告のブログから抜粋して作成すると伝えられたことに対し、10月20日、「ブログから抜粋して書くこと分かりました」と了承していた。
(カ)原告X2は、平成30年1月11日、イースト・プレスの編集長に連絡を取っているが、その際、原告らがウチムスマザコンについての独占的利用権を有するなどとは全く述べず、むしろ、同月12日は、本件漫画1が掲載された本件コミックの在庫数を伝え、その扱いについて伺いを立てている。
(キ)被告代理人が、漫画家9名に対して、作品についての独占的利用権を原告らに許諾したか否かを問い合わせたところ、8名から、許諾していないという回答があった。唯一「許諾した」と回答した漫画家も、本件コミックに収録された原稿と同一のキャラクターが登場する「冷蔵庫物語」という作品を電子書籍化しており、実際には、原告らに対し、自らの作品についての独占的利用権を許諾していたとはいい難い状況である。
(4)本件合意違反
 本件各漫画につき、被告が自動公衆送信及び送信可能化していることは認める。もっとも、被告は、本件各漫画を書き直しており、厳密には複製には当たらない。
2 争点2(同人誌「絆」の原稿提出に係る債務不履行の有無)(本件債務不履行1)
(原告らの主張)
(1)契約の成立
ア 原告らと被告は、7月28日、被告が漫画原稿を次に掲げる内容で作成し、原告らに提出する旨の契約を締結した。
(ア)期限:10月末日
(イ)内容:本件コミックに提出した作品にちなんだ経緯や、作家自身のエピソード等、コミックと併せて読んだときに更にレアリティーを感じるような、読者にとって魅力的な内容にすること。
(ウ)分量:10ページ以下
(エ)原稿料:無償
イ 上記の契約内容は、被告が原告らに対し、7月31日にスカイプで送信したメッセージにおいても、「販売促進用ノベルティあとがき本10P以下で10月末UP」と記載されていることからも明らかである(甲2の4)。
(2)不完全履行(本件債務不履行1−1)
 被告は、11月10日、原告らに対し、漫画原稿を提出したが、同漫画原稿は、「ファンディングがスタートしても、うまく意思の疎通ができないことで行き違ったり注意されたり、色々しんどかったです。」と本件企画の悪口を人妻づま子さんのイラストとともに書いたものであり、「読者にとって魅力的な内容にする」という債務の本旨に従った内容ではなかった。
 その後、被告は、11月12日に全く異なる内容の原稿を提出したが、同原稿は、原告らの要望に沿う内容ではなく、債務の本旨に従った内容ではなかったため、不完全履行に当たる。
(3)履行遅滞(本件債務不履行1−2)
 被告は、9月27日、インターネット上での自らの不用意な発言や拡散により炎上騒ぎを起こしたが、その動向の確認等に気を取られた結果、原稿作成に着手するのが遅くなった。
 また、被告は、既に提出期限を徒過した11月1日になって、原告らに対し、「同人誌用寄稿原稿(ページ数把握していません)」などと告げ(甲34)、原稿の提出を更に遅らせた。そのため、原告X1は、11月2日、やむを得ず、その時点からでも被告が参加可能な原稿量として、被告に対し、スカイプで、1ページだけ描くことを依頼したところ、被告もこれを了承した(甲9の2〔1頁目〕)。また、原告X2は、同月5日、被告に対し、ツイッターのダイレクトメッセージで、進捗状況の確認及び催促を行った(甲9の2〔2頁目〕)。
 上記のとおり、被告が11月10日に提出した原稿は債務の本旨に従った内容ではなかった。そのため、原告X1は、同月11日、被告に対し、再三、通話により問い合わせを行い、相談の申出をしたものの、被告はこれらを拒否した上で、同月12日、「内容を変更した差替え用の原稿をスカイプに送りました」と一方的に告げた上で、新たな原稿のデータを提出したが、当初の期限であった10月末日を12日も徒過したものであり、履行遅滞に当たる。
(被告の主張)
(1)契約の成立
 原告らは、7月28日の打合せにおいて、被告に対し、販売促進用ノベルティあとがきの原稿(10ページ以下)を無償で作成し、10月末日を目安に提出することを依頼したが、その内容は未確定であり、被告は、原告らからの具体的な提案を待って作成することとした。
(2)履行遅滞に当たらないこと(本件債務不履行1−2)
ア 期限の延長
 原告X2は、10月31日、被告に対し、同人誌「絆」の原稿の提出期限が11月10日である旨連絡した(乙6〔13〜14頁〕)。
 そして、被告は、11月1日、原告らに対し、「づま子のキセキ」の原稿を提出した後、「未提出は・加筆4P同人誌用寄稿原稿(ページ把握していません)」などと、ぺージ数を把握していない旨を伝えた。これに対し、原告X1は、同月2日、「同人誌原稿につきましては、コミック原稿と同じA5サイズで1ページお描きいただきたいと思います。」(乙5)と返信した。
イ 原稿の提出
 被告は、11月10日、原告らに対し、同人誌「絆」の原稿1ページを提出しており、履行遅滞には当たらない(乙5〔最終頁〕)。
 そして、被告は、同月12日、修正した原稿を提出しているが、そもそも修正の必要性はなかったものであり、10日の時点で履行を行っている。
(3)不完全履行に当たらないこと(本件債務不履行1−1)
ア 10日に提供した原稿
 被告が原告らに対して提出した原稿(甲7)には、原告らの悪口に当たるような記載は存在しない。同原稿は、本件企画や故人である人妻づま子に対する被告の感謝の気持ちを記述するとともに、漫画家として、「死」を表現するに当たっての苦しみや葛藤を述べたものであり、原告らの主張する「読者にとって魅力的な内容にする」という債務の内容を前提としても、債務の本旨に沿ったものであり、不完全履行には当たらない。
イ 12日に提供した原稿
 被告は、この原稿について、原告X1から通話を求められたため、「修正であればどのあたり修正すればよろしいかお教えいただければ、やりますのでよろしくお願いします!」(乙6〔22頁〕)と返信したものの、原告X1は、繰り返し通話を求めた。これに対し、被告は、通話時間を確保できなかったため、DM(ダイレクトメッセージ)の送信を依頼したものの、原告X1は応じなかった。そこで、被告は、全く異なる原稿を作成してみて、その原稿でも問題があるようであれば、再度原告らの望む原稿内容について指示を受けようと考え、11月12日、差替えの原稿を原告らに提供した(乙5〔最終頁〕)したところ、原告X1は11月14日、「同人誌原稿につきまして、差替えの物をウチムス加筆原稿の修正分と共に再度ご送付いただきました事、ありがとうございます。」(乙6〔24頁〕)と異議なく受領した。
 したがって、仮に10日の原稿が債務の本旨に従ったものでなかったとしても、12日に提供した原稿は債務の本旨に従ったものである。
3 争点3(本件漫画2の原稿提出に係る債務不履行の有無)(本件債務不履行2)
(原告らの主張)
(1)契約の成立
ア 原告らと被告は、7月28日、被告が、本件漫画2を次に掲げる内容で作成し、原告らに提出する旨の契約を締結した。
(ア)期限:原告X2が8月中にネーム案を作成した上で、被告が、それを基に漫画的な絵に描き起こしたネームを9月中に提出し、原告らによる確認を経た上で、完成原稿を10月中に提出する(甲2の3)。
(イ)内容:故人である「人妻づま子」の闘病の様子や生きた証を漫画として収録する。
イ 上記契約の内容は、原告らが被告に対し、同月31日にスカイプで送信したメッセージにおいても、「づまんが9月中にネームUP10月中UP」と記載されていることからも明らかである(甲2の4)。
(2)履行遅滞
ア ネームの提出の遅滞(本件債務不履行2−1)
 被告は、9月5日、原告X1に対し、ツイッターで、「づま子のキセキに取り掛かるのは早くて来週になる」などと伝えていたが、その後、被告は、同月27日に起こした炎上騒ぎの結果、原稿作成に着手するのが遅くなり、結果として、ネームの提出が遅れることとなった。
 そして、被告は、同日、原告X2から進捗確認のための電話連絡を受けると、「他の仕事が忙しいので、9月中に提出する予定だった「づま子のキセキ」のネーム提出が遅れそう。」などと述べたほか、いつまでに提出できるかという原告X2の質問に対し、「10月中旬には提出する。」と回答した。その後、10月20日になっても被告からネームが提出されず、連絡もなかったため、原告X2が被告に対し、ツイッターのダイレクトメッセージにより進捗状況を問い合わせたところ、被告は、「づまさんマンガに関しては、現段階プロットを練っている状況です。」と回答した(甲37)。
 最終的に、被告は、10月25日、原告らに対し、ネームを提出したが、当初の期限である9月末日を25日も徒過したものである。
イ 完成原稿の提出の遅滞(本件債務不履行2−2)
(ア)上記ネームには、原告X2の作成したネーム案とは異なり、抗がん剤の影響で、女性である「人妻づま子」の頭髪が全くないなど、故人への配慮を欠いた描写があったため、原告X2は、被告に対し、黒い帽子を被った描写にするよう修正を依頼した(甲29の1〜3)。
 そして、被告は、11月18日、原告らに対し、ツイッターのDMにより完成原稿を提出したが(甲38)、当初の期限である10月末日を18日も徒過したものであり、履行遅滞に当たる。
(イ)被告は、11月9日までに原稿を提出した旨主張するが、本件契約締結当初の提出期限は、ネームにつき9月、完成原稿につき10月であった。このことは、被告自身が、7月31日には、スカイプで「づまんが9月中にネームUP10月中UP」と提出期限を確認していることからも明らかである。
(被告の主張)
(1)契約の成立
 原告らと被告は、7月28日の打合せにおいて、本件漫画2つき、原告X2がまずネーム案及び人妻づま子に宛てた手紙(以下「ネーム案等」という。)を作成することになったが、原告X2によるネーム案等の提出期限は明確に定められず、そのため、被告の提出期限も定められていなかった。
(2)履行遅滞
ア 期限延長の合意
 原告X2は、8月8日、被告に対し、スカイプで「づまさんまんがのネーム、話合いながら作ってますのでもう少しお待ちください!」とのメッセージを送信した。これに対し、被告は、同日、原告X2に対し、「はい!どちらにしろ15日くらいまでは手が付けられないので、大丈夫です。がんばります〜」と返信し、事実上、ネーム提出の期限を8月中旬頃まで待ち、その後、被告において原稿の作成に着手することとなった。
 その後、原告X2は、9月1日、被告に対し、ネーム及び手紙等を送信したが、送信されたネームの内容は、実際にはネームと呼べる状態のものではなかったほか(乙23)、手紙についても、「これに関する返答は、感想や質問を含め一切お受けできません。づまさんの漫画を魂を込めて書かれるのに必要だと信じ、書きます。」と冒頭に記載されており(乙24)、被告としては、原告X2の心情を汲み取りながらネーム作成に取り掛かるしかなかった。
 加えて、被告は、原告らから、既に提出済みのウチムスマザコンの原稿60ページについて、原告らからの指摘を受けた修正作業を行う必要があったことや、9月には本件企画が開始したことを受け、原告らから頻繁に宣伝活動の依頼があり、被告も宣伝方法についてのアイディアを考えたり、宣伝活動を行ったりする必要があったことから、漫画を作成する時間的な余裕がなくなっていた。
 そこで、被告は、原告らに対し、印刷会社への納期に間に合わせるための最終期限を教えてほしいと申し入れ、スケジュールを再調整した結果、遅くとも9月末日までには、本件漫画2のネームの提出期限を10月中、完成原稿の提出期限を11月10日とすることを合意した。5これを受けて、原告X1は、10月1日、被告に対し、本件コミックの原稿(ただし、ウチムスマザコン60ページは既に提出済み)、本件漫画2の原稿、同人誌「絆」用の原稿及びコミック表紙カットイラスト完成版の締切りが11月10日である旨伝えている(乙6〔13〜14頁〕)。
イ 期限内の提出
 被告は、10月25日及び26日、原告X2に対し、「づま子のキセキ」のネームを提示したが(乙1、25)、原告X2から、主として頭髪の長さに関して修正依頼を受けたため、修正を行った上で(乙26、27)、11月1日、完成原稿を提出した(乙5、7)。
 これに対し、原告らは、被告が11月18日に、本件漫画2の原稿を提出したというが、これは提出済みの本件漫画2の完成原稿に対し、原告らが修正を相談し(乙6〔24〜26頁〕)、修正期限を同月20日と指定したことを受け(乙6〔27頁〕)、同月19日の朝に修正原稿を送ったものである。
4 争点4(本件漫画1の原稿提出に係る債務不履行の有無)(本件債務不履行3)
(原告らの主張)
(1)契約の成立
 原告らと被告は、7月28日、被告が、本件コミックに掲載する本件漫画1の原稿につき、pixivで既に公開されていた60ページ分の原稿に加え、新規書き下ろし4ページ分を次の内容で作成し、原告らに提出する旨の契約(本件契約)を締結した。
ア 期限:内容や構図が確認できる状態のネームを、9月末日まで(スタッフによる確認後に修正等が発生することを加味した期限)
イ 内容:以下の内容につき、各1ページずつ
@病気を乗り越え、元気になった現在の息子の様子
A現在の娘の様子
B息子が闘病中の家族の様子。本編では夫のことがあまり触れられていないので、出していく。
C「ウチムス」を完結することができた経緯として、クラファンコミックに収録することになった経緯
ウ レアリティー:本件企画の趣旨(前記1(原告らの主張)(1)参照)に照らし、レアリティーを有していること
エ 原稿料:1頁当たり最低3500円程度で、64ページ分
(2)不完全履行
ア 既存の公開済みの作品を提出したこと(本件債務不履行3−1)
 被告は、10月26日、原告らに対し、コマ割りも手書きであり、絵画部も線画だけの乱雑で下書きのような状態の原稿を、完成原稿として提出したが(甲8の1)、同原稿は、@被告が、創作漫画ではボツや打切りが続いているときに、エッセイ漫画を描いている同業者の話を聞いて、自分もエッセイ漫画を描いてみようと思ったことや、苦労話を内容とするものであり、上記(1)イ記載の内容とは異なるものであったほか、Aそもそも、被告のツイッターアカウントで公開済みの既存のものであり、レアリティーを有していなかった。そこで、原告らは、被告に対し、契約内容を再度説明した上で、契約内容に従った原稿を再提出するよう依頼した。
 また、原告X1は、11月2日にも、被告に対し、スカイプで連絡をし、上記(1)イの内容につき確認をしたところ、被告はこれを了解した。
 その後、被告は、ネームを提出しないまま、11月9日になって、原告らに対し、完成原稿を提出した。同原稿の3ページ目は、「その後のY´家@ファミリー(ありし日の失敗1・2)」というタイトルの4コマ漫画であったが、その内容は、既存の作品であり、かつ、現在も被告のブログで公開されており、レアリティーを欠くものであるから、債務の本旨に従ったものではなく、不完全履行に当たる。
イ 3ページ目の完成原稿が提出されていないこと(本件債務不履行3−2)
 完成原稿として提出された追加4ページ分の3ページ目は、「その後のY家@ファミリー(ありし日の失敗1・2)」というタイトルの、家族4人が豆まきをしている漫画であり、事前に合意された「息子が闘病中の家族の様子。本編では夫のことがあまり触れられていないので、出していく」という内容とは全く異なるものであった。
(3)履行遅滞(本件債務不履行3−3)
 被告は、9月27日に自らが起こした炎上騒ぎの結果、原稿作成に着手するのが遅くなった。そのため、期限である同月末を過ぎても被告から連絡がないので、原告X2は、10月2日、被告に対し、電話で進捗状況について確認をしたところ、被告は、「内容を濃くしているので、9月末には間に合わない」との理由で、ネームの確認期限を延長するよう求めてきた。
 これを受けて、原告らは、ネームの提出期限を10月16日まで延長したものの、同日を過ぎても、被告からネームは提出されず、連絡もなかったことから、同月20日、被告に対し、進捗状況の報告を求めたところ(甲9の3〔1頁目〕)、被告は、「ウチムスマザコンの新規書き下ろし4ページに関してはブログの育児ネタを抜粋してかくつもりです。」などと、まだ提出できるものがない状態である旨回答した。
 そして、原告X2は、10月26日、被告に対し、電話でその後の進捗状況を確認したところ、被告は、「後から他社出版社の月刊誌の企画のゲスト原稿を入れちゃって、その原稿で忙しいから、ラジオへんすてクラウドファンディングの原稿は全く手つかずの状態。ラジオへんすてクラウドファンディングコミックだけの新規書き下ろしの4ページは、確認用のネームすら未着手。全くやっていない。」と笑いながら回答したため、原告X2は、これ以上の延滞は困るなどと抗議をした。
 さらに、原告X1は、11月2日にも、被告に対し、再度、スカイプで進捗状況の確認及び催促を行ったが(甲9の3〔2頁目〕)、同月5日になっても原稿が提出されなかっため、原告X2は、同日、被告に対し、進捗状況の確認及び催促を行った(甲9の7〔3頁目〕)。
 その後、被告は、11月9日になってようやく、本件漫画1の完成原稿を原告らに提出したが、当初のネームの提出期限であった9月末日から39日も徒過しており、履行遅滞に当たる。
(被告の主張)
(1)契約の成立
ア 7月28日の打合せでは、被告が、原告らに対し、既にインターネットで公開中のウチムスマザコンの原稿60ページを提出することについて合意が成立したほか、本件コミック版用に、同60ページ以外にも原稿を追加することを話し合ったものの、その詳細は未定であった。
 なお、この頃、原告らと被告との間で、4枚程度の追加原稿を提供する打
合せをしたものの、詳細は未定であり、被告としては、アンケート結果を反映させた内容の原稿を提供するという理解であった。
イ 原告X2は、9月29日、被告に対し、本件ホームページ内にウチムスマザコンの中から印象的なカットを紹介のために掲載し、その下にpixivのURLを掲載し、更にそのリンクの下に「クラウドファンディングだけの追加ページ4pが納められることを追記」することを提案した。これに対し、被告は、「4p」とは書かずに、単に「加筆あり」とだけ記載することを提案したところ、その内容で進めることとなった。
 このように、原告らは、自ら既にウチムスマザコンが公開されているpivivのURLを本件ホームページに掲載することを提案している上に、追加ページについても、4ページとすることが絶対条件であったわけではなく、要するに、加筆部分を設けて「違いを楽しめるようにする」予定であった。
ウ 原告らは、公開済みの作品を提出したことが債務不履行である旨主張するが、原告X2は、被告から、ウチムスマザコンの原稿につき、被告のブログから抜粋して作成すると伝えられたことに対し、10月21日、「ブログから抜粋して書くこと分かりました。追加4Pの打ち合わけ、・息子さん・娘さん・家族・へんすての事でそれぞれ1Pずつでお願いいたします!」と了承していた。
エ 原告X1は、11月2日未明、被告に対し、「加筆4P」の内容として、「加筆1P目:現在の息子さんのお話2P目:現在の娘さんのお話3P目:息子さんが闘病中だった際の、ご家族のお話4P目:ウチムスマザコンとへんすてについてのお話」と送信し(乙5)、「家族の事」として依頼していた加筆部分(3頁目)について、唐突に「息子さんが闘病中だった際の、ご家族のお話」という内容に一方的に変更するよう告げた。
 これに対し、被告は、原告X2から、追加分の内容については、「ハッピーED(エンディング)の後の楽しい話が読みたい」というアンケートが大多数であった旨報告を受けていたところ(乙5)、闘病中の辛い話を追加エピソードとすることはアンケート結果にも打合せ内容にもないことであったこと、家族の事としてはブログの育児漫画を掲載することで了承を得ていたことから、この箇所については誤りであると認識した。
 その後、原告X2は、11月5日、ウチムスマザコン追加分4Pについて、「息子さん、娘さん、ご家族、へんすて各1P」と記載しており、3枚目は「ご家族」という表記に戻った。
(2)不完全履行
ア 既存の公開済みの作品の提出(本件債務不履行3−1)
 被告は、11月9日、原告らに対し、加筆4頁分の原稿を提出した(乙5)。これらにも、ブログから抜粋した「その後のY´家@ファミリー(ありし日の失敗1・2)」が含まれていたが、ブログから抜粋することも、内容を「追加4Pの打ち合わけ、・息子さん・娘さん・家族・へんすての事」とすることも、10月21日の原告らからの依頼内容に沿う内容であった。
 なお、原告らは、被告が10月26日に被告が加筆した4頁について、甲8号証の1を完成原稿として納品したと主張しているが、このような不鮮明なものを完成原稿として提出するはずなどない。そのため、甲8号証の1は追加エピソードとして作成したものとは考えられない。
イ 3ページ目の完成原稿が提出されていないこと(本件債務不履行3−2)
 被告は、11月9日、原告らに対し、加筆4ページ分の原稿を提出した(乙5)が、これについて、原告X2は、「大変なページの修正、追加ページ分の4P受け取らせていただきました。AくんとBちゃんのその後が元気であると知れて嬉しいページでした。」とのメッセージを送信したほか(乙5〔最終頁〕)、原告X1も、「ウチムスマザコンの原稿修正分と・加筆4Pの原稿のご提出、ありがとうございました。」というメッセージ送信しており(乙6〔20頁〕)、その内容について何ら異議を述べていない。
(3)履行遅滞(本件債務不履行3−3)
 原告X2は、10月30日、被告に対し、本件コミック本の原稿(本件漫画1の追加ページ分及び本件漫画2の原稿)の締切りは11月10日である旨伝えているほか(乙6〔13、14頁〕)、原告X1も、10月31日、被告に対し、ウチムスマザコンの原稿、「づま子のキセキ」の原稿、同人誌「絆」用の原稿及びコミック表紙カットイラスト完成版の締切りが11月10日である旨伝えている。
 そして、被告は、11月9日には、追加ページ分を含めたウチムスマザコンの原稿を提出しているのであるから、履行遅滞には当たらない。
5 争点5(本件漫画1のネームの提出に係る債務不履行の有無)(本件債務不履行4)
(原告らの主張)
(1)契約の締結
ア 被告は、前記4(原告らの主張)(1)のとおり、7月28日、原告らに対し、本件漫画1の新規書き下ろし4頁分について、その内容や構図が確認できる状態のネームを9月末日までに提出することを了承していた。(甲11の1〜4)。
 その後、8月15日頃に、原告X2は、本件企画の返礼品として、祝賀会でネームのコピーをプレゼントしたいことや、その場合、被告の負担が増えることなく、支援者の得られるレアリティーが増えることなどを相談したところ、「負担が増えないなら良い。」と被告が了承したため、この時点で、9月末日までにネームを提出することに係る契約が成立したものである。この本件コミックに収録された完成原稿のネームを集めたネームコピー本は、本件コミックと比較して楽しむこともできるなど、高額コースの支援者にとって非常にレアリティーの高い特典であった(ママ)
 そして、原告らは、9月1日の本件企画の公表時から、本件企画の高額コースの支援者に対する返礼品として、祝賀会に参加した支援者に対し、「ネームコピー本」を贈呈することを明らかにしており、そのことは、本件企画の委託会社である「CAMPFIRE」(以下、単に「CAMPFIRE」という。)のシステムを利用して、原告らが作成した本件企画に係るホームページ(以下「本件ホームページ」という。)にも記載されている。
イ 被告は、プレゼント用のネームを無償提供することは、10月20日になって初めて知らされた旨主張する。しかしながら、被告は、9月12日、原告X1に対し、スカイプで「ファンディングのTOPにでてきたときに、パッと内容が解りにくいな?という気がしました(バナー)」とのメッセージ送信していることからも、本件ホームページの内容を確認していたといえる。
 また、原告らは、9月13日、被告に対し、本件ホームページを一緒に確認しながら、「祝賀会コース」の支援者に対し、ネームコピー本を贈呈することについて説明している(甲11の3)。
 さらに、原告X1は、11月2日にも、被告に対し、本件漫画1の新規書き下ろし分についての確認及び催促を行った際に、「また、この加筆4P目のへんすてに関するネームを、祝賀会で参加者にプレゼントさせていただくネームコピー本にまとめさせていただきます。」と伝えたところ、被告からは、「ネーム了解しました。」との回答があった(甲9の7〔2頁〕、甲30の1、2)
(2)債務不履行
 前記4(原告らの主張)(2)及び(3)のとおり、被告は、期限を過ぎてもネームを提出せず、最終的に、11月9日になって、被告は本件漫画1の完成原稿を提出するに至ったが、結局、ネームが提出されることはなかった。これにより原告らは、祝賀会に参加した支援者に対し、本件漫画1のネームを贈呈することができなかったのであり、被告の上記行為は債務不履行に当たる。
(被告の主張)
(1)契約の締結
ア 7月28日の打合せでは、被告が、原告らに対し、既にインターネットで公開中のウチムスマザコンの原稿60ページを提出することについて合意が成立したほか、本件コミック用に、同60ページ以外にも原稿を追加することを話し合ったものの、その詳細は未定であった。
 なお、この頃、原告らと被告との間で、4枚程度の追加原稿を提供する打合せをしたものの、詳細は未定であり、被告としては、アンケート結果を反映させた内容の原稿を提供するという理解であった。
イ プレゼント用のネームを提供することについては、被告は、10月20日に初めて知らされたものであり(乙6〔5〜6頁〕)、8月15日の時点で原告らの主張するような契約が成立したという事実は存在しない。また、期限について明確に合意したという認識はない。
 すなわち、原告X2は、同日、被告に対し、ツイッターのダイレクトメッセージで「打ち上げに絡む原稿のお話イベント「祝賀会」参加者さまに、各先生方のネームをコピー本としてまとめたものをお渡しする事になっております。(連絡がちゃんといっていませんでしたらすみません)ですので、デジタルでしたら、ネームやプロットの時点で一度データを保存しておいて欲しいです。その時点でコチラに送って下さっても大丈夫です。」と伝えた(乙6〔5頁〕)。
 これに対し、被告は、事前にネームの提供について聞いておらず、本件漫画1についてはネームがなく、「づま子のキセキ」についてはネームを掲載することに抵抗がある旨返信したところ(乙6〔6頁〕)、原告X2は、本件漫画1の追加分のうち、ラジオへんすてに関するページのみをネームとして提出することを提案した(乙6〔8頁〕)。
 その後、原告X1は、11月2日、被告に対し、加筆4ぺージ分のうち4ページ目(ウチムスマザコンとへんすてについてのお話)をネームとして、ネームコピー本に収録する旨を伝え(乙5)、被告もこれを承諾した。
(2)債務不履行
 被告は、11月9日、ネームを提出しており、債務不履行はない(乙5〔13頁〕)。
6 争点6(宣伝用漫画原稿の提出に係る債務不履行の有無)(本件債務不履行5)
(原告らの主張)
(1)契約の締結
ア 原告らと被告は、7月28日、被告が、「ラジオへんすてクラウドファンディングの宣伝漫画」(以下「宣伝用漫画」という。)の原稿を次の内容で作成し、原告らに提出する旨の契約を締結した(甲9の5)。
(ア)期限:8月18日
(イ)内容:被告のファンやツイッターのフォロワー対して、ラジオへんすてクラウドファンディングの開催や、被告がラジオへんすてクラウドファンディングでの企画に参加するという宣伝と、被告のファンやツイッターのフォロワーが応援したくなる内容
(ウ)原稿料:無償
イ 被告は、宣伝用漫画については正式な依頼を受けた記憶がない旨主張するが、上記の契約内容は、被告が7月31日、スカイプで送信したメッセージにおいても、「ファンディングまんが(無償)8/18公開」と記載されていることからも明らかである(甲2の4)。
 なお、宣伝用漫画については、7月20日の打合せの際に、被告自身から提案を受けたため、7月28日の打合せの際に、原告らが正式に作成を依頼したものである。
(2)履行遅滞(本件債務不履行5)
 被告は、他社との契約を優先した結果、8月18日の締切りまでに原稿を提出しなかったものであり、履行遅滞に当たる。結局、現在に至っても、被告からは原稿が提出されていない。
(被告の主張)
(1)契約の締結
 被告は、宣伝用漫画について、正式に作成依頼を受けた記憶はない。すなわち、原告らは、7月28日の打合せにおいて、被告に対し、ファンディング漫画を無償で作成することになる旨や、ファンディング漫画は8月18日に公開予定である旨を伝えたものの、その内容は未確定であり、被告としては、原告らからの具体的なページ数の指定や提案を待って作成することとした。
 その後、原告らも、被告に対し、ファンディング漫画について提出を促したり、進捗を問い合わせたりしていないことからも、ファンディング漫画の提出に係る契約は成立していない。
(2)履行遅滞(本件債務不履行5)
 上記のとおり、契約が成立していない以上、履行遅滞となる余地はない。
7 争点7(機密情報の漏えいに係る債務不履行の有無)(本件債務不履行6)
(原告らの主張)
(1)契約の締結
 被告は、原告らとの間で、本件契約を締結しているところ、同契約は、本件企画に付随するものである以上、被告は、同契約に基づき、本件企画に関し、通常一般的に非公開であるべき情報を外部に漏えいしない債務を当然に負っていたというべきである。
(2)心情の公表による機密漏えい(本件債務不履行6−1)
ア 経緯
 被告は、9月20日に、被告自身のインターネット動画配信中に、ラジオへんすてクラウドファンディングスタッフに無断で、本件企画の応援キャラクターなるものを作成し(甲26)、同月23日に、原告らに対して事後報告するとともに、本件企画の公式キャラクターにするよう要求してきたが、原告らは、他の漫画家も参加している中、被告が独断で作成したキャラクターを公式に採用すると、他の漫画家のファンに対し、被告をひいきにしているという悪い印象を与えかねないと考え、これを断った。
 また、原告らは、9月27日に発生した炎上騒ぎに関し、被告に対し、自分本位の行動は控えるよう依頼したほか(甲28)、被告から提出された本件漫画2の原稿作成に関し、頭髪のない姿ではなく、黒い帽子を着用した描写にするよう原稿の修正を依頼した(甲29の1〜39)。
イ 投稿内容
 被告は、上記の一連の経緯に立腹し、11月1日、被告自身のツイッターアカウントにおいて、次のような投稿を行った(甲10の1)。
(ア)「作家は誰しもが、その紙の上の世界にリンクして執筆作業をしている。そのオンとオフの切り替えがうまくできなくて、ツイッターに出て来れませんでした。こんなになってまで何故描く必要があるか?その答えは、みなさんが支援してくださったへんすてクラウドファンディングの本に載る事になるでしょう。」
(イ)「伝えようとしたいことが伝わらず言いたいように言われ、葛藤を抱えながらのダイブは精神を削り取りました。矛盾と理不尽の中で、くじける思いもしましたがあと2Pなのでトンネル出るまで頑張ります。クラウドファンディングの応援ありがとうございました。」
ウ 債務不履行に当たること
 上記投稿は、読者が本件企画限定のコミックを手に取り、その内容を実際に読む前に、被告が作画担当をした作品につき、原案の作者である原告X2や、企画責任者である原告らに連絡・相談もなく、「あと2Pなのでトンネル出るまで頑張ります。」という制作側の進捗状況を許可なく投稿したり、「精神的に追い込まれるような辛い内容の漫画を描いた」、「矛盾や理不尽な思いをさせられながら描いた」、「漫画に関して言いたいように言われながら描いた」という、虚偽の事実を摘示したりしたことにより、原告らが「コミック制作に参加した漫画家を精神的に追い詰め損害を与えている」などの事実と異なる誤解を与えるものであり、一般的に、読者にとって期待する内容でないことは明らかであることはもちろん、本件企画のレアリティー(プレミア価値)を有するコミックの内容という、通常一般的に非公開であるべき情報を漏えいするものであるから、債務不履行に当たる。
(3)原稿料の有無の公表による機密漏えい(本件債務不履行6−2)
ア 投稿内容
 被告は、12月29日、自身のツイッターアカウントにおいて、フォロワーであるクラウドファンディングの支援者に対し、「そのお金は作家にいかない」などとして、企画限定コミック以外の返礼品については原稿料が支払われないという、企画参加者しか知り得ない契約内容を明らかにする投稿をした(甲10の2)。
イ 債務不履行に当たること
 上記投稿は、本件クラウドファンディング企画参加者しか知りえない契約内容であって、通常一般的に非公開であるべき情報を漏えいするものであるから、債務不履行に当たる。
(4)トラブルの公表による機密漏えい(本件債務不履行6−3)
ア 投稿内容
 被告は、平成30年7月9日、自身が企画したファンとの交流イベントであって、ラジオへんすてクラウドファンディングの支援者も多数参加したバーベキュー会で、口頭でのトラブルに対する「告白」を行ったことや、その「告白」に対して「ネット上で発言できない苦しさを理解してもらえ」たなどとして、被告がトラブルに対する告白を行ったことを、自身のツイッターアカウントにおいて発信した(甲40)。
 さらに、被告は、同月12日には、自身のブログ「鹿日記」において、「ご報告」というタイトルの記事を投稿し、「この半年間は弁護士さんにお世話になっています。」、「昨年参加した同人誌のトラブルに巻き込まれて現在も弁護士を通して対応を検討中です。」などと記載し、そのブログのURLを自身のツイッターアカウントにおいて、上記投稿を広く外部に漏えいする目的で発信した(甲41)。
イ 債務不履行に当たること
 上記投稿は、示談の話が進行中であるというような通常一般的に非公開であるべき機密情報を外部に漏えいしたものであるから、債務不履行に当たる。
(被告の主張)
(1)契約の締結
 被告は、そもそも本件企画に関し、機密情報を保持する旨の契約は締結しておらず、原告らの主張するような機密情報を保持する義務など負っていない。
(2)心情の公表による機密漏えい(本件債務不履行6−1)
 被告は、いかなる機密情報も漏えいしていない。また、被告の投稿内容は、本件コミックの内容について、読者に悪い先入観を生じさせるようなものではない。一般的に考えても、漫画家が努力して漫画の制作に取り組んでいる現状を読者に伝えることは、読者の期待を高めることはあっても、悪い印象を与えることはない。
(3)原稿料の有無の公表による機密漏えい(本件債務不履行6−2)
 被告はいかなる機密情報も漏えいしていない。
(4)トラブルの公表による機密漏えい(本件債務不履行6−3)
 被告はいかなる機密情報も漏えいしていない。
8 争点8(打上げのキャンセルに係る債務不履行の有無)(本件債務不履行7)
(原告らの主張)
(1)契約の締結
ア 原告らは、本件企画において、漫画家という特別な存在と一つのテーブルを囲み、密接な距離で会話をすることができるほか、その場限定の特別な返礼品を得られるなどの特別な権利を返礼品として設定していた。
 そして、原告らは、7月28日の打合せにおいて、打上げに関し、被告に対し、「今回のクラウドファンディングでは、高額コースのリターン品として、そのコースをご支援いただいた方々と、コミック本に作品で参加してくださった先生方を交えた「打ち上げ」を企画しております。」、「具体的には、支援者の方との飲食による懇親・会場でのリターン品の直接手渡し・コミックへのサインを考えております。さらに最高額コースの支援者の方に関しては、先生方の作品のキャラのイラストもお願いできればと思います。」などとして、甲2の1(6ページ目)を読み上げながら説明した。
 これに対し、被告は、「その日に合わせてスケジュールを空けます。」と述べ、打上げ及び祝賀会の双方に参加することを了承したため、原告らと被告との間では、同日、被告が祝賀会及び打上げに参加する旨の契約が成立した(甲2の3)。
イ その後、祝賀会及び打上げのイベントが12月16日に開催されることが決まった。
(2)債務不履行
ア 被告は、本件企画に対する募集期間が終了した後の11月30日、「長距離移動の時間の問題がある。」という理由で、打上げへの参加を突如キャンセルした。
 しかしながら、クラウドファンディングの性質上、一人でも支援者が発生している状態で、販売内容を事後的に追加したり、撤回したりすることは、支援者がクラウドファンディングによって得られるレアリティーを損なう行為として、許容されるものではない。しかるに、被告は、既に本件企画の支援者が生じている状態で、事後的に打上げへの参加をキャンセルしたのであり、その行為は債務不履行に当たる。
イ 被告は、「当日の長距離移動の時間の問題がある」ことをキャンセルの理由としていたが、打上げの翌日に家族とともに都内で遊んでいる様子をツイッターに投稿していることからしても(甲11の8及び9)、実際はイベント当日は都内近郊に滞在しており、被告によるキャンセルに正当な理由がないことは明らかである。
 また、被告は、本件企画に関与した漫画家全員が参加したわけではない旨主張するが、当初から祝賀会及び打上げに不参加の意思を表明していた漫画家には参加義務がないのは当然である。そして、被告以外には、参加する旨合意しておきながらキャンセルした漫画家は存在しない。
 さらに、被告は、原告らも被告の参加については調整中として公表していたはずであるなどと主張する。しかしながら、本件企画のホームページ上には、「★現時点でのご参加決定先生」という項目に被告の名前を掲載しており、被告の参加は確定的なものとして公表している。なお、「+先生方のスケジュール調整中です」という記載は、現時点で参加が決定した漫画家以外の漫画家も、今後の調整次第では参加する可能性があることを示したものにすぎない。
(被告の主張)
(1)被告は、祝賀会については参加したものの、祝賀会後の打上げへの参加は辞退した。もっとも、いずれについても、契約上の義務はなく、本件企画に関与した作家全員が参加したものではない。
 すなわち、本件企画に参加した漫画家10名のうち、祝賀会に参加した者は7名(欠席3名)、打上げに参加した者は4名(欠席6名)であったところ、原告らは、被告以外の欠席者に対しては、損害賠償を求めていないことからしても、打上げへの参加が法的な拘束力を持つものではないことは明らかである。
(2)原告らも、参加者については調整中として公表していたものであり、影響は生じていない(甲11の4)。なお、原告らは、被告が打上げをキャンセルしておきながら、都内で遊んでいた旨主張し、甲11の8及び9を提出するが、これは打上げの日のものではない。
9 争点9(本件漫画2の無断公開に係る債務不履行の有無)(本件債務不履行8)
(原告らの主張)
(1)契約の締結
 原告らと被告は、前記1(原告らの主張)(1)のとおり、7月28日、本件合意を締結した。これにより、被告は、原告らに対し、本件企画の返礼品である本件コミックに収録された漫画のレアリティーが損なわれないようにするために、同漫画は本件企画の支援者だけが読めるようにする債務を負っていた。
(2)債務不履行
 被告は、平成30年2月5日、被告自身のツイッターアカウントにおいて、本件コミックに収録されている本件漫画2の一コマを、原告らに無断で公開した。これは、支援者以外の不特定多数者に本件企画の返礼品を公表するものであり、そのレアリティーを失わせるものであるから、債務不履行に当たる。
(被告の主張)
 原告らの主張するような本件合意は成立していない。
10 争点10(「虚偽の事実」の告知の有無)
(原告らの主張)
 被告は、第1事件の係属中に、本件コミックに作品を提供した漫画家9名に対し、本件照会書を送付したが、本件照会書には、次のとおり、原告らの営業上の信用を害する虚偽の事実が記載されている。
(1)虚偽の事実
 本件照会書には、「独占的利用権を許諾(譲渡)するということは、著作者(作家)であっても自分の著作物(作品)を一切使えない(出版、インターネットやツイッターでの表示、同様の作品や登場人物の絵を公表することも含む)ということを意味しています。」との記載がある(以下「本件記載部分」という。)。しかしながら、第1事件において原告らが主張している「独占的利用権」により、被告を含めた漫画家が行うことができなくなるのは、提出した著作物と全く同一内容の著作物をインターネット上で公開したり、他の出版社から発売したりするといった本件企画のレアリティーを喪失させるような行為のみであり、「全ページ書き直し」や「違いを楽しむものにする」ことにより、レアリティーを損なわないように配慮すれば、自分の著作物を使用することは可能であるほか、「同様の作品や登場人物の絵」を公表することは制限されていないから、上記記載は虚偽である。
(2)営業上の信用を害すること
 本件照会書には、「お忙しいところ大変恐縮ですが、何卒、著作権者の権利擁護のため、ご協力を賜りたくお願い申し上げます。」との記載も存在するところ、この部分と併せて本件記載部分を読むと、あたかも原告らが、著作者による著作物の使用を広範に制限して、著作者の著作権を侵害しているような印象を与えるから、本件記載部分は、原告らの「営業上の信用を害する」虚偽の事実であることは明らかである。
(被告の主張)
 原告らの主張する「違いを楽しむもの」となっているか否かや、「全く同一の内容」であるか否かの判断は、結局は原告らの主観によるものであり、著作権譲渡や独占的利用権許諾の効果として、自己の著作物の公表が結果的に妨げられることには変わりはない。実際にも、原告らは、本件コミックに収録された本件漫画1とページ数や体裁等が全く異なるイースト・プレス版原稿についても同一の著作物であると主張している。
 したがって、本件記載部分は虚偽ではない。
11 争点11(原告らの損害)
(原告らの主張)
(1)第1事件に関する損害 353万9228円
ア 本件合意違反による債務不履行に基づく損害 157万1029円
 本件各漫画は、本来、本件企画の返礼品として、支援者しか読めない性質のものであったところ、被告がインターネット上のウェブサイトやpixivにおいてこれらを公開したことや、イースト・プレスを通じて本件漫画1を発行したことなどにより、原告らは、これらを本件企画の返礼品として頒布することにより得ることのできた利益を失った。
 これによる損害額は、次の(ア)ないし(エ)の合計157万1029円となる。
(ア)原稿料(59ページ分) 26万0721円
(イ)市場価値相当分 18万9154円
(ウ)経済的信用が毀損されたことによる損失 68万9154円
(エ)弁護士費用 43万2000円
イ 本件各債務不履行に基づく損害 196万8199円
 原告らは、被告の本件各債務不履行により、次のとおり、合計196万8199円の損害を被った。
(ア)本件債務不履行7に基づく損害 5万5987円
 被告が打上げへの参加をキャンセルしたことにより、打上げに参加する権利のうち、被告が参加することにより発生するレアリティーに相当する市場価値が喪失したところ、その額は5万5987円となる。
(イ)本件各債務不履行に基づく損害 191万2212円
 被告の本件各債務不履行により、原告らは、本来必要のない対応や業務等を余儀なくされたところ、それらの負担を金銭に換算すると、151万2212円に相当する。
 また、上記の対応や業務により原告らが被った精神的苦痛を慰謝するに足りる慰謝料の額は、40万円を下らない。
(2)第2事件に関する損害 150万円
 被告は、本件コミックに作品を提供した漫画家9名という、今後も原告らが制作活動を継続するに当たって協力関係が必要となる相手に対し、虚偽の告知をしたものであり、原告らの営業上の信用は著しく毀損されたものである。したがって、被告の不正競争行為により原告らが被った損害の額は、150万円を下らない。
(被告の主張)
 争う。
12 争点12(差止めの必要性)
(原告らの主張)
 被告は、現在も、インターネット上のウェブサイトにおいて、本件漫画1を複製の上、自動公衆送信及び送信可能化を継続しており、原告らからの再三の注意や警告にも全く応じない。そして、本件合意に基づく原告らの独占的な利用権に対する侵害行為の停止又は予防のためには、被告に対し、本件漫画1の複製、自動公衆送信及び送信可能化を差し止める必要があるほか、既にインターネット上のウェブサイトに公開されている被告公開著作物1ないし4の各著作物をいずれも削除する必要がある。
(被告の主張)
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 前記前提事実に加え、証拠(後掲証拠のほか,原告ら2名及び被告の各本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる(なお、特に記載がない限り、以下の月日はいずれも平成29年のものである。)。
(1)5月10日の打合せ
 原告X2は、5月10日、被告に対し、スカイプを通じ、「ラジオへんすて」の活動5周年を記念するクラウドファンディングを企画していること、その企画内容として、@漫画家への感謝とお礼の気持ちを込めて、「本当に描きたいもの」というテーマと、A「ラジオへんすて」のメンバーであった「人妻づま子」が亡くなったことを受け、「いのち」というテーマを掲げたコミック本の制作を検討していることを伝えた。
 その上で、原告X2は、被告に対し、本件企画への参加を求めるとともに、被告が当時、pixivで少しずつ公開を続けていたウチムスマザコンを完成させた上で本件コミックに収録することや、「人妻づま子」についての漫画の原稿を作成することを打診したところ、被告もこれを承諾した。
 その後、原告及び被告X2は、同月11日には、詳細について協議をするため、同月30日に松本市内で打合せをすることとした。(以上につき、甲1の1、乙1〔7、8頁〕、乙58)
(2)5月15日のダイレクトメッセージによるやりとり
 原告X1は、5月15日、被告に対し、改めて、本件企画の内容を紹介するダイレクトメッセージを送付した。
 同メッセージは、クラウドファンディングの手法により費用を調達した上で、「ラジオへんすて」の5周年を記念したコミックを制作することや、クラウドファンディングを成功させるためには、SNS上のファンに対し、クラウドファンディングの紹介や説明を恒常的に発信することが重要であることを説明した上で、被告に対し、「Y´先生にはまずCFの概要や意義を深くご理解していただき、その上でSNS上のファンの方々に向けて、現時点からCFのご紹介やご説明を恒常的に発信していただきたく思います。」と依頼するものであり、本件コミックに収録した漫画に係る権利関係についての記載や、本件コミックに収録した漫画の原稿が以後他の場所では公開できなくなることなどについての言及は一切存在しない。
 これに対し、被告は、月末に原告X2と打合せをする予定であるため、その際に詳細を詰めていきたいと考えている旨返信した。
(以上につき、乙4〔1〜4頁〕、58)
(3)5月26日のダイレクトメッセージによるやり取り
 原告X2は、5月26日、被告に対し、ウチムスマザコンにつき、@全てのページをインターネット上で公開予定であるのか、A最終的に全部で何ページ程度になる予定であるのかを尋ねる内容のダイレクトメッセージを送ったところ、被告は、@エッセイ部は全て公開であるが、本件企画に対しては、別途「はなまるきょうだい」という漫画の原稿を提供することができること、A現時点では40ページであるが、最終的には50ページになる予定であることを回答した。
 これに対し、原告X2は、ページ数については了解可能であるが、「はなまるきょうだい」を別途提供することについては検討中であることや、漫画の内容については、支援者が支援したいと思えるもの、お金を落としたいと思えるものにする必要があると考えていることを伝えた上で、ウチムスマザコンについては、「ネット公開の時にカットされた別視点等でのお話や、お姉ちゃんの様子など、ご家族サイドの様子が知れたり、ニコニコエピソード(現在のAくん)などの、ウチマザに関するオマケが読めると嬉しいなと思います。」とのメッセージを送った。
 これを受けて、被告は、「おまけエピソード入れるのもokです。」とのメッセージを返信した。
(以上につき、乙1〔9〜11頁〕)
(4)5月30日の打合せ
 原告X2と被告は、5月30日、松本市内の喫茶店において打合せを行った(5月30日の打合せ)。
 同打合せにおいては、本件コミック本に収録するウチムスマザコンのページ数を暫定的に60ページとすること、本件漫画2については、手紙形式で現在から過去に時間軸が移動するような内容とすること、その他にも各種のリターン品の制作を検討中であるところ、被告としては、参加できる範囲で参加すればよいことが確認された。
 なお、原告X2作成に係る打合せノートには、本件コミックに収録した漫画に係る権利関係についての記載や、本件コミックに収録した漫画の原稿が以後他の場所では公開できなくなることなどについての言及は一切存在しない。
(以上につき、甲2の2、乙4、21、22、58)
(5)本件企画の内容
 原告らは、5月頃、本件企画への参加を求める漫画家に宛てて送信するメールの原案を作成した。
 同原案には、原稿の内容として、「先生方が、いま本当に描きたいもの」、「いのち」という二つのテーマを中心に据えることが記載されているほか、本企画の支援者に対するリターン品として配布するために、参加する漫画家に対し、@本件コミック本用の原稿、ACD用意気込み・経緯等の音声収録、B同人誌用漫画・文章、Cお礼状用サイン、Dイベント参加、Eイベント時の支援者に対する応答(サイン・イラスト)を依頼する旨が記載されているものの(なお、原稿料の支払が発生するのは、上記@のみである。)、提出した原稿については、以後作者の側において使用できなくなる旨の記載は一切存在しない。
(以上につき、甲2の1、弁論の全趣旨)
(6)6月20日のダイレクトメッセージによるやり取り
 被告は、6月20日、原告X2に対し、「ウチムスマザコンも遺すところあと10Pです。ひとまずネット版では5〜6Pで終わる予定で、へんすてブックになるときに加筆ぶんとして追加EPを特典的につけたいと思っています。」とのダイレクトメッセージを送った。これに対し、原告X2は、「ネット公開、本用、ありがとうございます。」と返信した。(乙1〔13〜14頁〕)
(7)被告によるウチムスマザコンの公開
 被告は、6月27日、ウチムスマザコン全60ページをpixivにアップロードして公開した。これに対して、原告らが被告に対し、事前の合意内容と異なるなどと異議を述べることはなかった(弁論の全趣旨)。
(8)イースト・プレスによる書籍化
 被告は、6月28日、イースト・プレスから、ウチムスマザコンの書籍化についての申し出を受けた(弁論の全趣旨)。
 これを受けて、被告は、6月29日、原告らに対し、書籍化のオファーを受けたこと、書籍化した場合には同人誌の発表に先行する可能性があることなどを伝えた上で、「ラジオへんすて」として、ウチムスマザコンを書籍化することに問題があるか否かを尋ねた。
 これに対し、原告X2は、「他でもコミックス化できるのは喜ばしいことで応援しています。「ウチムス」の書籍化は当初からへんすて側で止めたりとかはありません(づまさんの漫画は別)」とのメッセージを送った。
 これを受けて、被告は、「同人誌として60P(現状ネットにあるもの)を同人誌として出すという条件であちらにも相談してみようと思います。おそらく、書籍化の場合ほぼ書き直しの予感ですw」、「書籍化することを見込んだ内容を加筆する・・・ウチムスのEPを削り、この話が作られるにいたるまで、ここの載るまでの流れを同人誌に載せるなどの方法もあると思うので、ちょっと考えてみたいと思います。」、「案のほうは、本当に案なので、今は流してもらっても大丈夫です。」とのメッセージを送った。(乙2)
 これに対し、原告X2は、「他の場所で書籍化するにあたってのへんすてとしてのポイントは、・この企画に関わる人に迷惑をかけたり思いを踏みにじるような事にならないか?・書籍の売り上げを伸ばす目的での悪意ある「発売日操作」出し抜きとかでなければ、僕らは普通に喜べますし、応援できます。へんすてでの書籍発表前とか後とかはあまり問題視しておらず、「気持ち次第」です。」、「簡単に言えば「ウチムス漫画に感じたから、広く伝えたい」なので、ほかでのコミックス化はむしろ喜ばしいことです。」などと返信した。
 これを受けて、被告は、原告X2に対し、オファーを受けたのは、自らが漫画家となる契機を作ってくれたイースト・プレスの初代担当者からであること、同担当者からは、8年間、いつか一緒に仕事をしたいといわれ続けていたこと、発売日操作や出し抜きなどは考えていないことなどを伝えたところ、原告X2は、「書籍化のお話は、普通にチャンスですので、「うまく進めて」下さい!へんすてでY´先生の漫画を独占したい気持ちや、先にだしたいとかはないです。そのようなお方でしたら安心ですので、そちらも頑張って進めて下さいませ。」と返信した。
 その後、被告は、6月30日、原告X2に対し、イースト・プレスの担当者に送ったメッセージの一部を抜粋したものを送信したが、その内容は、同人誌として発行したものを書籍化することの可否を確認するものであり、「書籍化の歳は書き足し・書き直しがあると思います。同人誌では、ネット現状のもの、またはエピソードを削った上で別エピソード追加の形で収録する予定です。(書籍化の際には同じ原稿はのせない予定です)先方からは、同人誌にのっている作品でも問題なく書籍化を進めていただきたい、書籍化の件は全力で応援させていただきたい、たくさんの人に作品を知ってほしいとお言葉をいただいております。」との記載がある。
(以上につき、乙2〔1〜8頁〕、58)
(9)7月28日の打合せ
 原告らと被告は、7月28日、松本駅付近の喫茶店にて打合せを行なった(7月28日の打合せ)。
 同打合せでは、ウチムスマザコンについて、現在58頁であるが、本件コミックに収録する際には、新規に4ページ分(以下「追加4ページ分」という。)を追加すること及びその内容はアンケートで決めることが確認されたほか、イースト・プレス版は表現等で書き直しがあること、分量は120頁になる予定であることなどが話し合われた。その上で、原告らは、被告に対し、ウチムスマザコンの原稿(60頁)を8月中に作成・提出することを依頼し、被告はこれを承諾した。
 また、本件漫画2については、8月中に原告X2から被告に対し、原案を提出し、9月中に被告が原告X2に対し、原稿を提出することとなった。
 以上に加え、原告らは、被告に対し、無償での作業として、@宣伝用漫画の原稿の作成や、A同人誌「絆」の原稿を10月末日までに作成・提出すること、B祝賀会及びその後の打上げへの参加、CLINEスタンプの作成、D支援者へのお礼状に印刷するサインデータを8月中に提供することを依頼し、被告はこれらをいずれも承諾した。
 なお、7月28日の打合せで決定した事項につき、原告らと被告との間で書面が作成されることはなかった。また、原告X2作成に係る打合せノート(甲2の3)には、本件コミックに収録した漫画に係る権利関係についての記載や、本件コミックに収録した漫画の原稿が以後他の場所では公開できなくなることなどについての言及は一切存在しない。
(以上につき、甲2の3、乙4、58)
(10)アンケートの結果
 原告X2は、7月28日、被告に対し、アンケートの結果を報告したが、その内容としては、ハッピーエンディングの後の楽しい話が読みたいという声や、ウチムスマザコンの後日談が読みたいという声が多く寄せられていた(乙5〔1〜2頁〕)。
(11)7月31日のメッセージ
 被告は、7月31日に、原告X2に対しメッセージ(以下「7月31日のメッセージ」という。)を送り、原告らに提出すべき原稿等につき、以下のとおり確認を求めたところ、原告X2は、「抜けありません!」と返信した。(乙5〔2頁〕)
・サインデータ 8月中UP
・ウチムス本文60P 8月中UP
・ファンディングまんが(無償) 8/18公開
・販売促進用ノベルティあとがき本 10P以下で10月末UP
・スタンプデータ はやいとこUP
・づまんが 9月中にネームUP10月中UP
(12)クラウドファンディング開始に至るまでのやり取り
ア 8月8日
 被告は、8月8日、原告X2に対し、お礼状に印刷するサインのデータを提供した。
 また、原告X2は、8月8日、被告に対し、「づまさんまんがのネーム、話し合いながら作っていますのでもう少しお待ちください!」とのメッセージを送信した。これに対し、被告は、「はい!どちらにしろ15日くらいまでは手がつけられないので、大丈夫です。がんばります〜」と返信した。
(以上につき、乙5〔3〜4頁〕、58)
イ 8月17日
 被告は、8月17日、原告らに対し、制作したLINEスタンプのデータを送信した。これに対し、原告X2は、お礼を述べるとともに、「こちらの、手紙とネーム遅れてすみません」「いそぎます!」とのメッセージを送信した。
 また、被告は、同日、本件漫画1(追加4ページ分を除いたもの。以下「本件漫画1本体」という。)の原稿を提出した。この原稿は、pixiv版の原稿をベースとしつつ、被告の息子が入院中に被告が病室でネットラジオを聴くシーンについて、その画面に「へんすて」という文字とへんすてキャラクターの絵を描いた上で、「へんすてわ!今夜も元気なX2´です!」、「X1´さん挨拶挨拶!」などと、ラジオ番組における原告らの発言を記載するという修正を加えたものであった。
(以上につき、甲3の1〔43枚目〕、乙5〔4頁〕、7〔原告漫画の22枚目〕、58)
ウ 8月26日
 原告X1は、8月26日、被告に対し、漫画家の「C」を本件企画に参加させることにつき、被告から声をかけることを依頼し、被告はこれを了承した。(乙4〔12頁〕、58)
エ 8月28日
 原告X1は、8月28日、被告に対し、スカイプで追加の音声を収録することを依頼した。(乙4〔16頁〕、58)
(13)クラウドファンディングの開始
 「ラジオへんすて」は、9月1日、本件企画に対する支援の募集を開始した。募集期間は2か月間と設定され、本件のホームページにおいて、本件企画の返礼品が公開されたが、その中には、祝賀会及び打上げに関し、次のよ5うな記載が存在する。(甲11、乙28、58)
ア 「記念祝賀会参加権2017年12月16日(土)都内で開催予定」については、「現時点でのご参加決定先生」として、他の5名の漫画家とともに被告の名前が掲載されているほか、「+先生方のスケジュール調整中です」、「※参加決定の先生のスケジュールにより急遽不参加となってしまった場合は別途リターンを検討しております」(甲11の2、11の3)
イ 「漫画家先生と打ち上げ参加権2017年12月16日(土)記念祝賀会後開催予定」については、「打ち上げ参加漫画家先生全員のサインもしくは先生1名に裏表紙にその場でイラスト描き下ろし企画あり」、「現時点でのご参加決定先生」として、他の3名の漫画家の名前とともに、被告の名前が掲載されているほか、「+先生方のスケジュール調整中です」、「参加先生全員のイラストを目の前で自分のコミック背表紙裏に描いて貰え手渡しして頂けます。参加先生全員&シークレット先生の寄せ書きサイン色紙、少人数対面式個室で濃密なお時間を!参加支援者さまご自身で先生方にご質問できます」(甲11の4)
(14)クラウドファンディング開始後のダイレクトメッセージでのやり取り
ア 9月1日
 原告X2は、9月1日、被告に対し、本件漫画2の素材として、「てがみ」、「プロット」及び「へんすてメンバー画像(づまさん作)」を送信した。これを受けて、被告は、漫画を作成するための素材としては不十分であると感じたものの、本件漫画2の作成に取り掛かることとした。(乙5〔6頁〕、23、24、58)
イ 9月5日
 被告は、9月5日、原告X1に対し、「づまんがにとかかるのは速くて来週です・・・」と伝えた。(乙4〔19頁〕)
ウ 9月11日
 原告X1は、9月11日、被告に対し、本件企画及び「ラジオへんすて」のホームページに掲載するためのイラストの提供や、ツイッターやSNSにおけるフォロワーに対する情報拡散を依頼した。(乙4〔21〜26頁〕、58)
エ 9月12日
 原告X1は、9月12日、被告に対し、CAMPFIREに共有するための本件企画用の宣伝イラストを提供するよう求めた。(乙4〔26頁〕、58)
オ 9月15日
 原告X1は、9月15日、被告に対し、本件企画のホームページ等において被告を表示するための画像として、被告のツイッターアイコンの画像を使用することについての許可を求めたところ、被告はこれを承諾した。(乙4〔29〜30頁〕、58)
カ 9月20日及び26日
 原告X1は、9月20日及び26日の2回にわたって、被告に対し、@ツイッターで本件企画について投稿する際に、本件企画のホームページのURLを添付することや、A被告のブログ等において、被告の思いとともに本件企画を紹介することを依頼した(乙4〔30〜35頁〕、58)
キ 9月29日
 原告X2は、9月29日、被告に対し、ウチムスマザコンから印象的なカットを取り出して本件企画のホームページ内に掲載した上で、その画像の下にpixivのURLを掲げるとともに、追加4ページ分が収録されることを記載することを提案した。これに対し、被告は、4ページと明示するのではなく、加筆部分があることを記載することを提案したところ、原告X2もこれを了承し、同日のうちに同提案を実行に移した。(乙5〔8〜10頁〕、28、58、原告X2〔15〜17頁〕)
ク 10月20日及び21日
 原告X2は、10月20日、被告に対し、祝賀会及び打上げに関し、祝賀会は12月16日の12時から16時まで、打上げは同日の16時から19時の予定であること、祝賀会のみに参加することも可能であること、祝賀会については同伴者1名まで無料とすること、回答期限は10月25日までであることを伝えるとともに、打上げの際に被告のために用意するドリンクについて、被告独自の名前を付けることを依頼したところ、被告はこれを承諾した。
 また、原告X2は、10月20日、被告に対し、@本件各漫画の進捗状況を確認するとともに、A宣伝のために使用できる原稿の送付や、B「連絡がちゃんといっていませんでしたらすみません」とした上で、祝賀会の参加者に対しネームをコピー本としてまとめたものを配布する予定であるため、ネームやプロットの時点で一旦データを保存しておくこと、C本件コミックの表紙の線画を10月中に提出することを求めた。
 これに対し、被告は、@については、「追加ページに関しては、ブログの育児ネタを抜粋してかくつもりです!」と伝えたほか、Aについては、既に原稿を提出済みであること、Bについては、初めて聞いた話であり、本件漫画1についてはもともとネームがなく、本件漫画2のネームを掲載することには抵抗があること、Cについては、「応援キャラのめいちゃん」を描くことを伝えた。
 これを受けて、原告X2は、10月21日、「ブログから抜粋して書く事分かりました。追加4Pの打ち合わけ、・息子さん・娘さん・家族・へんすての事で、それぞれ1Pずつでお願いいたします!」と返信した。
(以上につき、乙6〔1〜8頁〕、58)
ケ 10月25日及び26日
 被告は、10月25日、原告らに対し、本件漫画2のネームを提出した。
 これに対し、原告X2は、同月26日、被告に対し、髪の毛のない描写は受け入れられないなどとして、修正を依頼した。
 これを受けて、被告は、同日、修正内容につき原告X2とスカイプで打合せをした上で、修正したネームを提出したところ、原告X2もその内容を了解した。
(以上につき、乙2〔10頁〕、5〔12頁〕、25〜27、58)
コ 10月28日
 原告X2は、10月28日、被告に対し、本件企画が目標金額に到達したことを報告した(乙6〔10頁〕、28)。
サ 10月30日
 原告X2は、10月30日、被告に対し、「11/10の締め切りまで残りの日数も少なくなってまいりましたが、お体ご自愛くださりつつ、執筆のお願いをさせていただけましたら幸いです。」とのメッセージを送信した。
 これに対し、被告は、「進捗づまんが5pです。今しばらくお待ちくださいませ。」と返信した(乙6〔13頁〕)。
シ 10月31日
 原告X1は、10月31日、被告に対し、「・コミック本の原稿・同人誌にご寄稿いただける原稿・コミック表紙カットイラスト完成版」の締切りが11月10日であることを確認する内容のメッセージを送った。(乙6〔14頁〕)
ス 11月1日及び2日
 被告は、11月1日、原告らに対し、本件漫画2の完成原稿を提出するとともに、その時点で未提出の原稿は、@本件漫画1の追加4ページ分、A同人誌「絆」の原稿であるという認識を示すとともに、同原稿のページ数は把握していないことを伝えた。
 これに対し、原告X2は、11月2日、被告に対し、@本件漫画2につき、技術的な修正の可能性を指摘しつつも、被告に原稿作成を依頼することができたことに対する謝意を述べるとともに、A追加4ページ分の内容につき、次のとおり記載した上で、4ページ目については、祝賀会で参加者にプレゼントするネームコピー本にまとめる予定であることや、B同人誌原稿の分量については、A5サイズで1ページであることを伝えた。
・加筆1P目:現在の息子さんのお話
2P目:現在の娘さんのお話
3P目:息子さんが闘病中だった際の、ご家族のお話(以下、このページを単に「3ページ目」という。)
4P目:ウチムスマザコンとへんすてについてのお話(以下、このページを単に「4ページ目」という。)
(以上につき、乙5〔12〜13頁〕、58)
セ 11月5日
 原告X2は、11月5日、被告に対し、未提出の原稿等が次のとおりであることにつき確認を求めた(乙6〔17頁〕、58)。
・本原稿、ウチムスマザコン追加分4P(息子さん、娘さん、ご家族、へんすて各1p)
・同人誌原稿
・祝賀会参加者プレゼント用ネーム(ウチムスマザコン追加ページより)
ソ 11月7日
 原告X1は、11月7日、被告に対し、既に提出済みであった本件漫画1本体につき、技術的な修正箇所を指摘した。これに対し、被告は、「修正部ふくめ加筆ぶんとあわせ10日にUPします。」と返信した。
 また、被告は、11月7日、原告X1に対し、祝賀会については同伴者1名とともに参加予定である旨を伝えたところ、原告X1もこれを承諾した
(乙4〔36頁〕、6〔18〜20頁〕、58)。
タ 11月9日
 被告は、11月9日、「加筆4P+修正分は以下になります。」、「加筆分のネーム原稿です」とのメッセージとともに、原告X2に原稿のデータを提出した。
 これに対し、原告X2は、同日、「追加ページ分の4P受け取らせていただきました。AくんとBちゃんのその後が元気であると知れて嬉しいページでした。」と返信した。
(以上につき、乙5〔13頁、14頁〕、58、弁論の全趣旨)。
チ 11月10日
 被告は、11月10日、原告らに対し、「同人使用の1Pです。よろしくお願いします。これで全てUPです。」とのメッセージとともに、同人誌「絆」の原稿(甲7)を送付した。
 また、原告X1は、11月10日、被告に対し、本件漫画1の修正分及び追加4ページ分の完成原稿の提出につき謝意を述べた上で、追加4ページ分の4ページ目につき、技術上の修正点を指摘した。
 さらに、原告X1は、被告に対し、同人誌「絆」の原稿の内容につき緊急で相談したいことがあるとして、スカイプでの通話を求めた。これに対し、被告は、忙しいため通話に必要な時間が確保できないとして、要件をダイレクトメッセージで伝えるよう求めたが、原告X1は、文章では伝えにくい内容なので口頭で話をしたいとして、これに応じなかった。
(以上につき、甲7、乙5〔14頁〕、6〔20〜24頁〕、58)
ツ 11月12日
 被告は、原告らと相談ができない状況の中、11月12日、「かひつ04の修正と、同人誌用の差し替え1Pです。」とした上で、追加4ページの分の4ページ目の修正原稿及び同人誌「絆」の修正原稿(乙31)を提出したところ、原告X1は、同月14日になって、これらの修正原稿の提出に対し謝意を示した。(乙5〔14頁〕、6〔24頁〕、31、58)
テ 11月18日及び19日
 原告X1は、11月18日、被告に対し、本件漫画2につき、技術上の修正事項を指摘した上で、同月20日までに修正した原稿を提出するよう依頼した。
 被告は、これを受けて、11月19日、修正した原稿を再提出したところ、同日、原告X1から、原稿の提出につき謝意を示された。
(以上につき、乙6〔24〜27頁〕、58)
(15)被告による打上げへの参加の辞退
 「ラジオへんすて」は、11月27日、被告に対し、「祝賀会」の詳細を告知する内容のメールを送信した。
 これに対し、被告は、11月30日、原告らに対し、当日の長距離移動の時間の問題があるとして、祝賀会には参加するものの、打上げについては参加を辞退する旨のメッセージを送付したが、原告らからは、特段の反応はなかった。
(以上につき、甲11の7、甲42、弁論の全趣旨)
2 争点に対する判断
(1)争点1(本件各漫画に係る独占的利用許諾契約の成否)
ア 本件合意の成否
(ア)著作者は、著作者が自身も利用できない独占的許諾利用契約を締結する場合には、その後の著作者の表現、創作活動等にも重大な影響を与えることになるから、経験則上、その許諾に係る利用方法及び条件を明記する契約書を取り交わすのが自然であるといえる。それにもかかわらず、前記認定事実によれば、原告ら及び被告は、本件合意に関する契約書その他の書面を一切作成していないことが認められる。しかも、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、被告との間で、5月頃から11月頃までの間、多数のメッセージを送受信しているにもかかわらず、被告に対し、本件合意によって被告が本件各漫画を今後利用することができなくなることを伝えていた事実を認めることはできず、原告らが7月28日に被告に交付したと主張している書面(甲2の1)にも、5月30日の打合せ及び7月28日の打合せの際に原告X2が作成したノート(甲2の2及び3)にも、上記事実の記載を認めることはできない。
(イ)また、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、@そもそも、原告らが被告に本件企画への参加を打診した時点で、ウチムスマザコンは、既にその一部がインターネット上で公開されていたのであり、本件コミックには既存の作品を収録することが、当事者間においても当然の前提となっていたこと、A被告は、5月26日、原告X2に対し、ウチムスマザコンについては全て公開する予定である旨を伝えているところ、これに対し、原告X2は特段異議を述べていないこと、B被告は、6月20日にも、原告らに対し、「ウチムスマザコンも遺すところあと10Pです。ひとまずネット版では5〜6Pで終わる予定で、へんすてブックになるときに加筆分として追加EPを特典的につけたいと思っています。」などとして、ウチムスマザコンを引き続きインターネット上で公開しつつ、本件コミック版については、特典として追加のエピソードを加筆する予定であることを伝えているところ、これに対し、原告X2は、「ネット公開、本用、ありがとうございます。」などと謝意を述べていること、Cその後、被告は、6月27日、ウチムスマザコンの全体(60ページ)をpixivにアップロードしているが、原告らは、これに対し、特段異議を述べていないこと、D原告X2は、6月29日、被告から、ウチムスマザコンを単行本として出版することの可否を尋ねられた際に、これに対して異議を述べず、かえって、「書籍化のお話は、普通にチャンスですので、「うまく進めて」下さい!へんすてでY´先生の漫画を独占したい気持ちや、先に出したいとかはないです」と伝えるなどして、むしろ、ウチムスマザコンの単行本化を後押しするような発言をしていること、E被告は、同日、原告X2に対し、現状としてインターネットで公開されている60ページを本件コミック版として出版する予定である旨伝えたほか、6月30日にも、「同人誌では、ネット現状のもの、またはエピソードを削った上で別エピソード追加の形で収録する予定です。」と伝えたところ、原告X2は、これらに対しても特段異議を述べていないこと、F原告らは、本件企画の募集期間中、本件ホームページにpixivへのリンクを張っており、自ら、本件ホームページを閲覧した者がウチムスマザコン(pixiv版)を読める状態に置いていたこと、以上の各事実が認められる。
 上記認定事実によれば、原告らが本件企画への参加を被告に打診した時点から一貫して、原告らと被告との間では、被告がウチムスマザコンをインターネットで公開することを前提としたやり取りが行われていたのであり、しかも、原告らが本件合意をしたと主張する時期の前後には、被告は、ウチムスマザコン全60ページをpixivにアップロードして公開するとともに、イースト・プレスからウチムスマザコンの書籍化の申出を受け、被告は、原告らにこれらを伝えていたことが認められる。そうすると、被告は、当初から自身がウチムスマザコンを一切利用できないような独占的利用許諾契約を締結する意思がなかったものと認めるのが相当である。そして、原告らも、被告がウチムスマザコンをインターネット上で公開したり、別の出版社から書籍化したりすることを許容していたのであり、かえって、原告X2は、被告から上記書籍化の相談を受けた際に、「書籍化のお話は、普通にチャンスですので、「うまく進めて」下さい!へんすてでY´先生の漫画を独占したい気持ちや、先にだしたいとかはないです。」と述べるなど、被告に対し、本件各漫画を独占する意図がないことを伝えた上、むしろ、これを後押しするような発言をしていたことが認められる。そうすると、原告らの主張は、本件合意に至る経緯と矛盾するものといえる。
(ウ)これらの事情の下においては、本件合意の内容及び本件合意に至る経緯に照らしても、本件合意を認めるのは相当ではないというべきである。
 本件を実質的にみても、本件企画は、漫画家への感謝とお礼の気持ちを込め、漫画家を応援するという趣旨を含むものであり、本件企画に参加した漫画家の表現活動を制約するような本件合意は、そもそも、その趣旨に反するものであり、被告本人尋問の結果を踏まえても、被告は、本件合意がこのような制約を伴うものであれば、本件企画に参加することはなかったものと認められる。
イ 原告らの主張に対する判断
(ア)原告らは、本件合意を裏付ける書面が作成されていないのは、被告は何度も合意内容を反故にしていたところ、原告らが合意内容を証拠として残そうとすると、被告が「漫画家Y´を信じてください。」などと述べ、原告らを威圧して書面等の作成を阻止したためである旨主張する。
 しかしながら、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、原告らが、被告に対し、書面等の作成を求めていたことすら認めることはできず、まして、被告が、原告らを威圧して書面等の作成を阻止したことを認めることはできない。
 したがって、原告らの主張は、採用することができない。
(イ)a 原告らは、本件合意をするに当たり、本件企画のレアリティーを失わせるような行為をしないことを当然の前提として、原告らに独占的な利用権を設定する旨の合意(本件合意)をした旨主張する。
 しかしながら、レアリティーという言葉自体が日本語として極めて漠然としたものであり、原告らも、「ここでしか読めない」、「違いを楽しむもの」、「プレミア価値」、「書き直しに当たるかどうか」などと言葉を変えて曖昧に説明するにとどまり、その定義をこれ以上明確にすることができない。そうすると、著作者が自身も利用できない独占的許諾利用契約の条件としては、明らかに合理性を欠くものであり、表現、創作活動を制約するものとしてそれ自体不相当なものといえるから、漫画家としての被告がこのような条件に合意したというのは、極めて不自然である。のみならず、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、被告との間で、5月頃から11月頃までの間、多数のメッセージを送受信しているにもかかわらず、原告らが、被告に対し、レアリティーという言葉を使用していた事実すら認めることができず、原告らが7月28日に被告に交付したと主張している書面(甲2の1)にも、5月30日の打合せ及び7月28日の打合せの際に原告X2が作成したノート(甲2の2及び3)にも、レアリティーという言葉は一切記載されていない。現に、原告X2自身も、本人尋問において、レアリティーという言葉を使用していなかったことを認めるに至っている(原告X2本人32頁)。そうすると、原告らの主張は、前記判断を左右するものとはならない。
b 仮に、原告らの主張を前提として、本件企画のレアリティーを失わせるような行為をしない旨の合意があったとしても、次のとおり、そもそも、被告が上記行為をしたものとは認められない。
@ 被告公開著作物4及び5(本件漫画1関連)について
 証拠(乙7、54)及び弁論の全趣旨によれば、本件コミック版とイースト・プレス版を比較すると、両者には同一のコマも多数存在するものの、本件コミック版は60ページであるのに対し、イースト・プレス版は120ページであり、本件コミック版にはないコマが全体にわたって多数追加されていること、とりわけ、イースト・プレス版は、本件コミック版とは異なり、4章構成を採用した上で、最終章である4章には、病気から回復した後の息子の様子が30ページ以上も新規に追加されたものであるから、明らかに書き直しに当たるといえること、しかも、イースト・プレス版は、同じレイアウトのコマであっても、絵のタッチが修正されていたり、吹き出しが追加されたり、文字のデザインが変更されていたりするものも多く、全体として、随所において書き直しが行われたこと、本件漫画1には、pixiv版には存在しない追加4ページ分が加えられていること、以上の事実が認められる。
 上記認定事実によれば、本件コミック版は、イースト・プレス版との対比において、上記のような書き直しや修正箇所の分量を踏まえると、いわば「ここでしか読めない」ものであり、イースト・プレスにおいて発行された被告公開著作物5は、原告らの主張を前提としても、本件漫画1のレアリティーを損なうものと認めることはできない。また、本件漫画1は、pixiv版には存在しない追加4ページ分が加えられていることからすると、pixiv版との対比においても、いわば「ここでしか読めない」ものであり、pixivにおいて公開された被告公開著作物4は、原告の主張を前提としても、本件漫画1のレアリティーを損なうものと認めることはできない。
 なお、原告らは、追加4ページ分の一部につき、事前の合意と異なる内容の原稿が提出されたという理由で、別途、本件債務不履行3−2を主張するものの、同主張も採用することができないことは、後述のとおりである。
A 被告公開著作物1ないし3(本件漫画1関連)について
 弁論の全趣旨によれば、被告公開著作物1ないし3は、追加4ページ分の3ページ目の原案であることが認められるところ、原告の主張を前提としたとしても、追加4ページ分のそれ以外のページは公開されていないのであって、追加4ページ分全てを新規に書き下ろす旨の合意が成立したとは認めるに足りる的確な証拠はない。そうすると、本件企画を支援して本件コミックを入手しない限り、本件漫画1に収録されている追加4ページ分全てをみることはできないのであるから、全体として、いわば「ここでしか読めないもの」であるということができる。
 したがって,被告公開著作物1ないし3も、本件漫画1のレアリティーを損なうものであるとは認められない。
B 被告公開著作物6(本件漫画2関連)について
 前記認定事実によれば、被告がインターネットに公開したのは、本件漫画2の1コマにすぎないところ(被告公開著作物6)、当該部分が自由に閲覧可能であるとしても、本件企画を支援して本件コミックを入手しない限り、本件漫画2全体を読むことができないのであるから、原告らの主張を前提としても、本件漫画2は、全体として、いわば「ここでしか読めないもの」であるということができる。
C したがって、原告らの主張は、仮に原告らの主張を前提としたとしても、いずれも採用することができない。
(ウ)原告らは、被告にウチムスマザコンの単行本化を勧めたのは、被告が6月27日にウチムスマザコンを無断で公開したことに加え、同月29日には単行本化のオファーを受けたことを報告してきたことから、原告らにおいて、被告には本件企画に参加する意図がないと受け止めたためである旨主張する。
 しかしながら、6月27日の公開以前から、被告が原告らに対し、ウチムスマザコンの公開を前提とした発言をしており、原告らもそれを踏まえた対応をしていたことは、上記において説示したとおりである。のみならず、前記認定事実によれば、被告が同月29日に原告X2に送ったメッセージには、単行本化をする場合に本件企画から辞退する旨言及したものは一切存在せず、むしろ、被告は、「同人誌として60P(現状ネットにあるもの)を同人誌として出すという条件であちらにも相談してみようと思います。」、「書籍化することを見込んだ内容を加筆する」、「ここに載るまでの流れを同人誌に載せるなどの方法もあると思う」などとして、本件コミックにもウチムスマザコンを収録することを前提とする内容のメッセージを複数送っていることが認められる。しかも、前記認定事実によれば、原告X2は、悪意をもって発売日を操作する目的でなければ、本件コミックと書籍化の先後関係は問題ではないなどとまで述べており、本件コミック版とイースト・プレス版が併存することを前提とした対応を行っていることが認められる。そうすると、原告らの主張は、上記の経過と異なる前提に立って主張するものにすぎない。
 したがって、原告らの主張は、採用することができない。
(エ)原告X2は、本件コミックが出版されるまでにpixiv版の公開を中止することで、本件コミックのレアリティーを回復させることにつき、原告らと被告との間で合意が成立していたと供述し、原告らはその旨主張する。
 しかしながら、前記認定事実によれば、原告らと被告との間では多数のメッセージのやり取りが行われているにもかかわらず、pixiv版の公開を中止することに言及されたものは一切存在しないことが認められることからすると、原告X2の供述は、信用性が低いものと認められる。
 したがって、原告らの主張は、採用することができない。
(オ)その他に、原告らの主張及び証拠を改めて検討しても、原告らの主張は、具体的な裏付けを欠くもの又は本件合意に至る経緯に矛盾するものというほかない。原告らの主張の実質は、結局のところ、本件各漫画につき、被告に対し、本件コミック版に収録されたものと少しでも重複する漫画や画像の公開を禁止しようとするものである。このような行為は、漫画家としての被告の表現活動を著しく制約するものであり、かえって漫画家を応援するという本件企画の趣旨にも抵触するともいえる。これらの事情に鑑みても、原告らの主張は、いずれも採用することができない。
(2)争点2(同人誌「絆」の原稿提出に係る債務不履行)(本件債務不履行1)について
ア 本件債務不履行1−1(不完全履行)について
 原告らは、被告は、同人誌「絆」に掲載する原稿に関し、「読者にとって魅力的な内容にする」債務を負っていたにもかかわらず、被告が実際に提出した原稿(甲7)には、「ファンディングがスタートしても、うまく意思疎通ができないことで行き違ったり注意されたり、色々しんどかったです。」と本件クラウドファンディング企画の悪口が記載されており、これが債務不履行に当たる旨主張する。
 しかしながら、「読者にとって魅力的な内容」の原稿を作成することは、それ自体抽象的かつ主観的な内容であることに加え、本件企画を実行する原告らと、本件企画が応援する一漫画家として参加した被告との関係に照らしても、損害賠償責任を負うような法的債務ではなく、本件企画を成功させるための努力目標を確認する趣旨にとどまると解するのが相当である。仮に、被告が「読者にとって魅力的な内容」の原稿を作成する債務を負っていたとしても、原告らが指摘する上記の記載は、その前後の文脈と併せて読めば、被告が原稿を作成するに当たって問題に直面しながらも、最終的にそれらを乗り越えて完成させたという経緯の一部を記載したものであることが認められ(甲7)、このように漫画家が創作活動に当たって感じた困難や葛藤を読者に対して率直に吐露することが、直ちに「読者にとって魅力的な内容」ではないと認めることはできない。
 したがって、原告らの主張は、採用することができない。
イ 本件債務不履行1−2(履行遅滞)について
 原告らは、被告は10月末日までに原稿を提出すべき債務を負っていたにもかかわらず、当該期限を徒過して11月12日に原稿を提出したことが履行遅滞に当たる旨主張する。
 そこで検討するに、前記認定事実によれば、@7月28日の打合せにおいて、被告において担当すべき各作業及びその提出期限が確認され、同人誌「絆」の原稿の提出期限については、10月末日であるとされたこと、Aもっとも、上記各作業は、本件企画に関し被告が最終的に行うこととなった全ての作業を網羅したものではなく、実際にも、原告らは、7月28日以降も、被告に対し、本件企画への参加を他の漫画家に勧誘するよう依頼をしたり(8月26日)、追加の音声収録を求めたりしたほか(8月28日)、その後も、本件企画のホームページ等に掲載するための宣伝用イラストの提供や、本件企画を宣伝する内容の投稿を被告のツイッターで行うこと(9月11日、12日)、ブログ等で本件企画に対する思いを記載すること(9月20日、26日)、コミック表紙の線画の提出(10月20日)など、継続的に各種の作業を依頼していること、Bその上で、原告X2は、10月30日、被告に対し、「11/10の締め切りまで残りの日数も少なくなってまいりましたが、お体ご自愛くださりつつ、執筆のお願いをさせていただけましたら幸いです。」とのメッセージを送っていること、C原告X1は、10月31日、被告に対し、「・コミック本の原稿・同人誌にご寄稿いただける原稿・コミック表紙カットイラスト完成版」の締切りが11月10日である旨報告していること、以上の各事実が認められる。
 上記認定事実によれば、原告らと被告との間では、7月28日の時点では、10月末日までに同人誌「絆」の原稿を提出すべきことが確認されたものの、当該期限は、飽くまで、同日の時点で想定されていた被告の作業を前提とした暫定的なものであり、その後、被告に対する追加の作業依頼等も生じる中、被告の作業の進捗状況にも配慮した上で、遅くとも10月30日の時点までには、最終的な原稿の提出期限を11月10日とする旨の合意が成立したものと認めるのが相当である。
 そして、前記認定事実によれば、被告は、上記の合意を前提として、11月10日には、原告らに対し、同人誌「絆」の原稿を提出したことが認められる。
 そうすると、同人誌「絆」の原稿の提出につき被告に履行遅滞があったということはできず、原告らの上記主張は採用することができない。
(イ)これに対し、原告らは、11月10日に提出された原稿(甲7)は債務の本旨に従ったものではなく、最終的に完成原稿が提出されたのは同月12日である旨主張するものの、同月10日に提出された原稿の内容が債務の本旨に沿ったものであることは、前記において説示したとおりである。
 したがって、原告らの主張は、採用することができない。
(3)争点3(本件漫画2の原稿提出に係る債務不履行の有無)(本件債務不履行2)
 本件事案に鑑み、まず、上記イと同種の争点である本件債務不履行2−2から検討する。
ア 本件債務不履行2−2(完成原稿の提出に係る履行遅滞)
(ア)原告らは、被告は、10月末日までに本件漫画2の原稿を提出すべき債務を負っていたにもかかわらず、当該期限を徒過して11月18日に原稿を提出したことが履行遅滞に当たる旨主張する。
 そこで検討するに、前記認定事実によれば、@本件漫画2については、7月28日の打合せにおいて、原告X2が8月中に作成したネーム原案に基づき、被告が作画を担当することとなったこと、A被告は、7月31日の時点で、「づまんが9月中にネームUP10月中UP」とのメッセージを送っていること、Bその後、原告X2は、9月1日に上記ネーム原案を被告に提出したこと、C原告らは、9月以降も、被告に対し、本件企画の宣伝用イラストの提供を始めとする各種作業を追加的に依頼していたこと、D被告は、10月25日、原告X2に対し、本件漫画2のネームを提出したものの、原告X2は、同月26日、頭髪のない「人妻づま子」の描写は受け入れられないという理由で、被告に修正を依頼したこと、Eその後、原告X2は、10月30日、被告に対し、11月10日が締切りであることを確認する内容のメッセージを送っていること、F被告は、同月1日、上記の修正依頼を反映した原稿を再提出していること、G原告X2は、同月2日に同原稿を受領した際に、技術的な修正の可能性を指摘しつつも、被告に原稿の作成を依頼できたことに対する謝意を述べたこと、以上の各事実が認められる。
 上記認定事実によれば、原告らと被告との間では、7月28日の時点では、10月末日までに原稿を提出すべきことが確認されたものの、当該期限は、飽くまで、同日の時点で想定されていた被告の作業を前提とした暫定的なものであり、その後、被告に対する追加の作業依頼等も生じる中、被告の作業の進捗状況にも配慮した上で、遅くとも10月30日の時点までには、最終的な原稿の提出期限を11月10日とする旨の合意が成立したものと認めるのが相当である。
 そして、上記認定事実によれば、被告は、まず10月25日に本件漫画2のネームを提出した上で、11月1日には、原告X2による修正依頼を踏まえた原稿を提出し、これに対し、原告X2は、技術的な修正な可能性を指摘しつつも、被告に原稿作成を依頼できたことに対する謝意を述べていることからすると、被告は、遅くとも同日の時点で債務を履行したものと認めることができる。
 そうすると、本件漫画2の原稿提出につき、被告に履行遅滞があったということはできない。
 したがって、原告らの主張は、採用することができない。
(イ)これに対し、原告らは、最終的に本件漫画2の完成原稿が提出されたのは11月18日であった旨主張する。
 確かに、前記認定事実によれば、原告X2は、同日に被告に原稿の修正を依頼しており、被告は翌19日に、これを受けた修正原稿を提出しているものの、同依頼は、同月1日に原稿を受領した際に留保していた技術上の修正点に関するものにすぎず、作品の実質的な内容の変更を求めるものではない。したがって、原告らの上記主張は、被告が11月1日の時点で債務を履行したという前記認定を左右するものとはいえない。
 したがって、原告らの主張は、採用することができない。
イ 本件債務不履行2−1(ネームの提出に係る履行遅滞)
 原告らは、被告は、9月末日までに本件漫画2のネームを提出すべき債務を負っていたにもかかわらず、当該期限を徒過して10月25日にネームを提出したことが履行遅滞に当たる旨主張する。
 しかしながら、前記認定事実によれば、本件漫画2のネームの提出は、原告らにおいて原稿の概要を事前に確認しておくことにより、原告らの希望に沿った内容の原稿が期限内に提出されることを担保するにすぎないものであることが認められる。このような事情を踏まえると、仮に原告ら主張に係る合意があったとしても、当該合意は、被告が原稿を期限内に提出さえすれば、ネームの提出期限を格別問題とするものではなかったと解するのが相当である。そして、被告が本件漫画2の原稿を期限内に原告らに提出したことは、上記において説示したとおりである。
 したがって、原告らの主張は、採用することができない。
(4)争点4(本件漫画1の原稿提出に係る債務不履行の有無)(本件債務不履行3)
ア 本件債務不履行3−1(不完全履行)
 原告らは、被告が、本件漫画1のレアリティーを維持するために、追加4ページ分の全てにつき、新規に書き下ろす旨の債務を負っていたにもかかわらず、3ページ目について公開済みの作品の原稿を提出したことが債務不履行に当たる旨主張する。
 しかしながら、争点1において説示したとおり、仮に原告らの主張を前提としたとしても、追加4ページ分に係る合意は、本件漫画1を「ここでしか読めない」内容にするために、pixiv版にはない追加4ページ分を収録するという内容の限度であって、それ以上に、追加4ページ分全てを新規に書き下ろす旨の合意が成立したことを認めるに足りる的確な証拠はない。
 そして、3ページ目については、被告が既にブログにおいて公開していた既存の漫画と同一の内容であることは当事者間に争いがないものの、それ以外の3ページについては、本件コミックの収録に当たって、被告が新規に書き下ろしたものであることが認められる(弁論の全趣旨)。そうすると、追加4ページ分を全体としてみると、「ここでしか読めないもの」であるといえるから、債務不履行に当たるものと認めることはできない。
 したがって、原告らの主張は、採用することができない。
イ 債務不履行3−2(不完全履行)
 原告らは、追加4ページ分のうち3ページ目については、「闘病中の家族の様子」をテーマにする旨の合意があったのに、被告が、闘病中ではない家族の様子を内容とする原稿を提出したことが債務不履行に当たる旨主張する。
 そこで検討するに、前記認定事実によれば、@追加4ページ分の内容は、アンケートの結果を参照して決めることとなったこと、Aアンケートでは、ハッピーエンディングの後の楽しい話が読みたいという声や、後日談が読みたいという声が多数寄せられたこと、Bその後、原告X2は、10月21日には、追加4ページ分の内訳として、「・息子さん・娘さん・家族・5へんすての事」というメッセージを送っていること、C原告X1は、11月2日には、被告に対し、3ページ目の内容につき、「息子さんが闘病中だった際の、ご家族のお話」というメッセージを送っているものの、原告X2は、11月5日、追加4ページ分の内容につき、「息子さん、娘さん、ご家族、へんすて各1p」というメッセージを送り直しており、ここでは「家族が闘病中」という限定は一切していないこと、D原告X2は、11月9日、被告から追加4ページ分の原稿を受け取った際に、その内容について何ら異議を述べることなく、むしろ肯定的な評価をしていること、以上の各事実が認められる。
 上記認定事実によれば、原告らと被告との間では、遅くとも10月20日までには、アンケートの結果を踏まえた上で、追加4ページ分のうち3ページ目の内容としては、「家族」をテーマにするという限度で合意が成立したものと認めるのが相当であり、上記認定に係る経過を踏まえると、それ以上に、「闘病中の家族」をテーマとする旨の合意が成立したとまで認めることはできない。そうすると、原告らの主張は、上記経過に整合するものとはいえず、具体的な裏付けを欠くものといえる。
 したがって、原告らの主張は、採用することができない。
ウ 債務不履行3−3について(履行遅滞)
 原告らは、被告は9月末日までに本件漫画1の原稿を提出すべき債務を負っていたところ、当該期限を徒過した11月9日に原稿を提出したことが履行遅滞に当たる旨主張する。
 しかしながら、7月28日の打合せにおいて設定された各原稿の提出期限は飽くまで暫定的なものであり、これらが確定的な履行期限であったということができないことは、上記において説示したとおりである。そして、前記認定事実によれば、その後、@原告X2は、10月30日、被告に対し、「11/10の締め切りまで残りの日数も少なくなってまいりましたが」とのメッセージを送っていること、A原告X1も、10月31日、被告に対し、「コミック本の原稿」の締切りが11月10日である旨報告していることが認められる。そうすると、上記認定事実によれば、本件漫画1の原稿につき、遅くとも10月30日までには、最終的な提出期限を11月10日とする旨の合意が成立していたものと認めるのが相当である。
 そして、前記認定事実によれは、被告は、11月9日には、追加4ページ分を含め、本件漫画1の原稿を全て提出していることが認められるから、本件漫画1の原稿の提出につき、被告に履行遅滞があったということはできない。
 したがって、原告らの主張は、採用することができない。
(5)争点5(本件漫画1のネームの提出に係る債務不履行の有無)(本件債務不履行4)
 原告らは、被告が本件漫画1の追加4ページ分について、その内容や構図が確認できる状態のネームを9月末日までに提出する旨の債務を負っていたにもかかわらず、ネームを提出しなかったことが債務不履行に当たる旨主張する。
 そこで検討するに、前記認定事実によれば、@原告らが被告に交付したと主張する書面(甲2の1)においては、ネームの提出が内容とされていないこと、A上記と同様に、7月31日のメッセージにおいても、ネームの提出についての言及がないこと、B原告X2は、10月20日になって、被告に対し、「連絡がちゃんといっていませんでしたらすみません」と断った上で、祝賀会の参加者に対しネームをコピー本としてまとめたものを配布する予定であることを伝えていること、Cこれに対し、被告は、コピー本については初めて聞いた旨返答したところ、原告X2は、追加4ページ分のうち、「ラジオへんすて」に関するページ(4ページ目)のみのネームを提出することを提案したこと、D被告は、11月9日には「加筆分のネーム原稿です」というメッセージとともに、原告らに対し、データを送信しているところ、原告らは、これに対してネームが含まれていない旨指摘していないこと、E被告は、同月10日に同人誌「絆」の原稿を原告らに提出した際にも、「これで全てUPです。」とのメッセージを送っているのに対し、原告らは、ネームの提出が未了である旨の指摘を一切していないこと、以上の各事実が認められる。
 上記認定事実によれば、7月28日の打合せにおいては、ネームの提出については話題になっておらず、原告らは、10月20日になって被告にネームの提出を依頼したこと、これを受けて、被告は、ネームの提出を承諾するとともに、4ページ目のネームを提出することになったこと、その際、提出期限は明確に定められなかったものの、被告は、他の原稿の提出期限と同様、11月10日を提出期限と考えた上で、同月9日にはネームを提出し、原告らも異議なくその提出を受け入れたことが認められる。
 これらの事情の下においては、原告らと被告との間では、10月末頃に、ネームの提出期限については、11月10日とする旨の黙示の合意が成立したものと認めるのが相当であり、当該合意を踏まえ、被告は、11月9日の時点でネームを提出したものといえる。
 したがって、原告らの主張は、採用することができない。
(6)争点6(宣伝用漫画原稿の提出に係る債務不履行の有無)(本件債務不履行5)
 原告らは、7月28日の打合せにおいて、被告は8月までに宣伝用漫画を提出する旨合意したにもかかわらず、これを提出しなかったことが債務不履行に当たる旨主張する。
 そこで検討するに、前記認定事実によれば、@7月30日のメッセージには、宣伝用漫画を8月18日に提出する旨の記載が存在すること、Aその一方で、7月28日の打合せにおいて、宣伝用漫画の内容につき詳細を協議した形跡はなく、その後も、原告らと被告との間で行われた多数のメッセージにおいても、宣伝用漫画としてどのようなものを作成するかについて、一切話題となっていないこと、B原告らは、本件各漫画や同人誌「絆」の原稿を始めとするその他の提出物に関しては、進捗状況や締切りを確認する内容のメッセージを再三にわたって送っているのに対し、宣伝用漫画については一度も催促をしておらず、8月18日を経過した後も、期限を徒過した旨の指摘をしていないこと、C原告らは、8月18日以降、被告に対し、宣伝用イラストの提供や、SNSやブログ等における宣伝を依頼し、被告はこれらの依頼に対応していたこと、以上の各事実が認められる。
 上記認定事実によれば、宣伝用漫画については、7月28日の打合せにおいて、一旦は被告において作成することとされたものの、その打合せの内容は、全体として飽くまで暫定的なものであったことは、前記において説示したところである。その後、宣伝用漫画については、その詳細について協議が行われることのない状況が続く中、原告らの関心は、宣伝用漫画の作成よりも、その他の宣伝方法に移っていったことが認められ、被告もそのような原告らの関心の移行に対応して、個別の宣伝依頼に応じていたことが認められる。
 これらの事情の下においては、宣伝用漫画の作成依頼は、飽くまで暫定的なものであって、上記認定に係るその後の事情を踏まえると、被告は、8月18日以降、宣伝用漫画を作成する債務を負うものではなかったと認めるのが相当である。
 したがって、原告らの主張は、採用することができない。
(7)争点7(機密情報の漏えいに係る債務不履行)(本件債務不履行6)
 原告らは、本件契約の締結に伴い、被告は、本件企画に関し、通常一般的に非公開であるべき情報を外部に漏洩しない義務を負っていた旨主張する。
 しかしながら、前記に認定した事実によっても、原告らと被告との間の多数のやり取りの中で、上記義務を合意した事実を認めることはできず、その他に、被告が原告らに上記義務を負うことを合意したと認めるに足りる証拠はない。
 そもそも、被告は、本件企画に漫画家として参加したにすぎず、原告らにおいて被告が漏洩したと主張する内容も、およそ法的保護の対象となる機密情報ということはできず、原告らの主張は、失当というほかない。
 したがって、原告らの主張は、採用することができない。
(8)争点8(打上げのキャンセルに係る債務不履行)(本件債務不履行7)
ア 原告らは、被告が12月16日に開催された打上げに参加すべき義務を負っていたところ、11月30日になって参加をキャンセルしたことが債務不履行に当たる旨主張する。
 そこで検討するに、前記認定事実によれば、@打上げは、12月16日の16時から19時までであり、祝賀会と併せて参加すると、12時から19時まで拘束されるものであるにもかかわらず(乙6〔2頁〕)、参加は無償であり、交通費も被告自身が負担するものとされていること、A被告が祝賀会や打上げへの参加を表明するに当たって、書面は作成されておらず、また、一旦参加を表明すると、以後のキャンセルは許されない旨の説明は受けていないこと、B本件企画の募集は9月1日に始まっており、10月28日に終了しているところ、原告X2は、同月20日の段階においてもなお、被告に対し、「祝賀会には参加するが、打上げには参加しない」という選択も可能である旨伝えていること、C被告が11月30日に原告らに対し、打上げへの参加につきキャンセルの意向を伝えた際にも、原告らは特段異議を述べていないこと、以上の各事実が認められる。
 上記認定事実によれば、原告らは、被告に対し、飽くまで、被告の好意に依拠する形で打上げへの参加を依頼したものにすぎないのであって、上記の経過を踏まえても、被告が一旦参加を表明したことをもって、原告らと被告との間で、その不参加につき債務不履行責任を負うような合意が成立したとまで認めることはできない。
 したがって、原告らの主張は、採用することができない。
イ これに対し、原告らは、クラウドファンディングの性質上、支援者が生じている状態で、販売内容を事後的に変更することは、レアリティーを損なう行為として許容されない旨主張する。
 しかしながら、原告らと被告との間で、原告ら主張に係る合意が成立したことを認めることができないことは、上記において説示したとおりである。仮に、原告らの主張を前提としても、本件企画において応援する一漫画家が、打上げへの参加を事後的にキャンセルすることにより支援者に対するレアリティーが失われるのであれば、支援者から支援金を受け取る立場にある原告らにおいて、キャンセルに備えた対策を講じれば足りるともいえるから、上記において説示した事情を踏まえると、原告らの主張は、上記判断を左右するものとはいえない。
 したがって、原告らの主張は、採用することができない。
(9)争点9(本件漫画2の無断公開に係る債務不履行の有無)(本件債務不履行8)
 原告らは、被告が、原告らとの間で本件合意を締結していたにもかかわらず、本件漫画2の原稿の一コマをインターネット上で公開したことが債務不履行に当たる旨主張する。
 しかしながら、原告らと被告との間で、本件合意を締結した事実が認められないことは、前記において説示したとおりである。そうすると、原告らの主張は、前提を欠くものである。したがって、原告らの主張は、採用することができない。
(10)争点10(「虚偽の事実」の告知の有無)
 原告らは、「独占的利用権を許諾(譲渡)するということは、著作者(作家)であっても自分の著作物(作品)を一切使えない(出版、インターネットやツイッターでの表示、同様の作品や登場人物の絵を公表することも含む)ということを意味しています。」との記載部分(本件記載部分)が不正競争防止法2条1項21号にいう「虚偽の事実」に当たる旨主張する。
 そこで、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、本件照会書は、本件企画に参加した漫画家に対し、@第1事件においては、漫画家が原告らに対し、自身の著作物につき「独占的利用権を許諾」したか否かが争点となっているという経緯として説明した上で、Aそのような権利を原告らに許諾したという認識があるか否かを尋ねるものであるところ、「独占的利用権の許諾」という語の意味が一義的には明確でないことを踏まえ、B回答者の便宜を図るために、被告ないし被告代理人において、第1事件における原告らの請求内容や主張内容を踏まえ、その解釈を示したものであることが認められる。
 そうすると、本件記載部分は、原告らの主張内容等を踏まえ、独占的利用権の意義を説明するものとして誤ったところはなく、「虚偽の事実」に当たるという余地はないというべきである。
 これに対し、原告らは、レアリティーを損なわないように配慮すれば、自らの著作物を使用することは可能であるから、本件記載部分が虚偽である旨主張する。しかしながら、原告ら主張に係る本件合意の内容は、それ自体不明瞭なものである上、少なくとも被告が本件漫画2の一コマのみをアップロードした行為によっては、上記にいうレアリティーを損なうものとは当然いえないはずであるのに、原告らは、上記行為ですら、本件合意に反する旨主張するものである。そうすると、原告らの主張する「独占的利用権の許諾」というのは、文言上も実質上も著作者自らがその著作物を一切使えないことを意味するものといえるから、本件記載部分が「虚偽」であるとは認められない。
 したがって、原告らの主張は、採用することができない。
(11)小括
 その他に、原告らが提出する準備書面及び書証を改めて検討しても、上記において説示した本件の事実経過に鑑みると、前記各判断を左右するものとはいえない。したがって、原告らの主張は、いずれも採用することができない。
 以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告らの請求は理由がない。
3 結論
 よって、原告らの請求は理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 中島基至
 裁判官 齊藤敦
 裁判官 小田誉太郎は差支えのため,署名押印することができない。
裁判長裁判官 中島基至


(別紙)著作物目録
1 著作物名 「ウチのムスコがマザコンになった理由(ワケ)」
 発行日 平成29年10月28日
 著作者 被告
 発行者 ラジオへんすて(原告ら)
2 著作物名 「づま子のキセキ」
 発行日 平成29年10月28日
 原作・企画 ラジオへんすて(原告ら)
 著作者 被告
 発行者 ラジオへんすて(原告ら)

(別紙)被告公開著作物目録
1 被告公開著作物1
 著作物名「 ウチのムスコがマザコンになった理由(ワケ)」
 掲載場所 http://以下省略
2 被告公開著作物2
 著作物名 「ウチのムスコがマザコンになった理由(ワケ)」
 掲載場所 http://以下省略
3 被告公開著作物3
 著作物名 「ウチのムスコがマザコンになった理由(ワケ)」
 掲載場所 http://以下省略
4 被告公開著作物4
 著作物名 「ウチのムスコがマザコンになった理由(ワケ)」
 掲載場所 https://以下省略
5 被告公開著作物5
 著作物名 「ウチのムスコがマザコンになった理由(ワケ)」
 発行者 株式会社イースト・プレス
6 被告公開著作物6
 著作物名 「づま子のキセキ」のうち、下記の画像の青色の枠内の部分
 掲載場所 Twitter
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/