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【事件名】東京都の「開発事業計画書」事件 【年月日】令和4年3月30日 東京地裁 令和元年(ワ)第25550号 設計図面の複製の差止め等請求事件 (口頭弁論終結日 令和4年1月28日) 判決 原告 株式会社日本ジオ・システムアプローチ 同訴訟代理人弁護士 助川裕 同 佐々木佳高 同 岩田夏樹 同 岡田茂人 被告 地主株式会社 同訴訟代理人弁護士 福岡真之介 同 木楓子 同 俣野紘平 同訴訟復代理人弁護士 清川祐英 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は、原告に対し、10億円及びこれに対する令和元年11月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は、別紙書類目録記載の書類を複製してはならない。 3 被告は、別紙書類目録記載の書類について、変更その他の改変をしてはならない。 4 被告は、別紙図面@に従って、別紙物件目録記載の各土地上に、複合商業施設を建築してはならない。 5 被告は、別紙図面Aに従って、別紙物件目録記載の各土地上に、物流業務施設を建築してはならない。 第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は、原告が、被告に対し、@被告が原告を欺いて別紙書類目録記載の書類(以下「本件企画書」という。)の利用許諾をさせたことは、本件企画書の著作者である原告に対する不法行為を構成するとして、民法709条に基づき、損害金(合計23億8886円3015円のうち10億円)及びこれに対する平成29年法律第44号による改正前の民法(以下同じ。)所定の遅延損害金の支払を求め、A被告が、本件企画書を複製及び改変し、別紙図面@及びAによって表現される建築(以下「本件建物」という。)を複製して、本件企画書に係る原告の複製権及び同一性保持権並びに本件建物に係る原告の複製権を侵害するおそれがあるとして、著作権法112条1項に基づき、本件企画書の複製及び改変並びに本件建物の建築の差止めを求め、B原告が、被告に本件企画書の利用を許諾するなどして、被告が公有地の開発事業の事業予定者として選定されるためのコンサルティング業務を行ったことについて、商法512条に基づき、相当の額の報酬(合計10億8619万6877円のうち10億円)及びこれに対する民法所定の遅延損害金の支払を求める事案である。 なお、不法行為に基づく損害賠償請求(上記@)と商法512条に基づく報酬請求(上記B)は選択的併合の関係にある。 2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者等 ア 原告は、物流・商業施設建設コンサルティング及び緑化事業の請負等を目的とする株式会社である。 イ (ア)被告は、不動産及び施設の売買、賃貸借及び保守管理等を目的とする株式会社である。被告の旧商号は「日本商業開発株式会社」であったが、令和4年1月10日付けで現商号に変更した(甲50)。 (イ)被告は、「JINUSHIビジネス」と称する事業の仕組みを採用している。これは、被告において、転用性の高い土地を取得して事業用定期借地権を設定し、借地権者から賃料を受領するというものであり、被告自身は当該土地上の建物を所有せず、借地権者が建物を建築してテナント事業を営むものである。なお、被告において取得した土地を事業用定期借地権付きで売却する場合もある。(甲6、49、50) (2)東京都の商業・業務施設用地事業者募集の手続等 ア 商業・業務施設用地事業者募集手続の概要 東京都の商業・業務施設用地事業者募集に係る手続の概要は以下のとおりである(甲36)。 (ア)事業応募者は、所定の応募受付日の受付時間内に、応募書類(業務施設用地買受申込書、購入希望価格申出書、事業概要書、建設資金計画書、建設計画書及び企画書等)を東京都に持参して申し込む。なお、企画書には、計画のコンセプト、設計概要その他所定の項目を、所定の留意事項を踏まえて記載することとされている。 (イ)東京都は、受付終了後、審査基準に従い、提出された応募書類等により建設計画や購入希望価格等を総合的に審査し、事業予定者を決定して、審査の結果を各事業応募者に通知する。この場合、審査の参考とするため、計画についてのプレゼンテーションを依頼することがある。 審査項目は、@資格要件、A資力・信用、B基本的事項(購入希望価格及び事業計画)の適格審査、C事業計画及びD購入希望価格であり、@ないしBは適格又は失格の選択制、Cは100点満点の点数制、Dは20点以上の点数制で審査される。 (ウ)事業予定者は、土地売買契約締結日までに、売買代金の10%に相当する額を契約保証金として東京都に納入する。 (エ)事業予定者決定の日から原則として2か月以内に、東京都と事業予定者との間で、土地売買契約を締結する。事業予定者は、同契約締結の日から原則として2か月以内に土地売買代金を納入し、東京都は、土地売買代金納入後に土地を事業予定者に引き渡し、所有権移転登記手続を行う。 イ 販売委託制度の概要 東京都は、東京都の商業・業務施設用地事業者募集の対象となる一部の土地について、公益社団法人東京都宅地建物取引業協会の会員等に宅地の譲受け希望者の紹介あっせんをさせ、所定の委託料を支払うことを内容とする販売委託制度を導入しているところ、その概要は以下のとおりである(甲36)。 (ア)具体的な委託内容は、宅地の譲受け希望者に対する現況説明、公募条件等の譲渡条件説明、宅地の譲受け希望者の確保に向けたあっせん業務、宅地の譲受け希望者からの買受申込書の受付取次業務、紹介あっせん契約の成立に向けた協力業務である。 (イ)受託者からあっせん紹介があった譲受け希望者が譲受人に決定したとき、東京都と当該受託者との間で紹介あっせん契約を締結する。紹介あっせん契約は、東京都が譲受人との間で土地売買契約を締結し、かつ、売買代金が完納され、指定宅地を引き渡したときに成立する。 (ウ)委託料は、売払価格の10億円までの部分につき3%、10億円を超え20億円までの部分につき2%、20億円を超える部分につき1%を乗じた金額の合計額である。 (3)本件開発事業に関する事実経過 ア 別紙物件目録記載の各土地(以下「本件土地」という。)は、昭和41年に建設が開始された多摩ニュータウン開発計画の事業用地(画地番号はG−70)であり、東京都は、同計画の最終残地として、東京都八王子市内に所在する本件土地を所有していた。 イ 八王子市は、平成28年5月19日、本件土地の用途地域を、第一種中高層住居地区及び第二種住居地区から近隣商業地域に変更する旨を告示した(甲20、26、乙12、弁論の全趣旨)。 ウ 東京都は、本件土地を事業画地として複合施設(商業・業務・住宅等)を設置、運営する事業(以下「本件開発事業」という。)の事業予定者を募集する手続を開始することとし、平成29年7月18日、当該事業の募集要項である「多摩ニュータウン事業用地事業者募集要項(G−70)」(乙12)の配布を開始した。なお、上記募集手続は、前記(2)アの東京都の商業・業務施設用地事業者募集の手続と同様の内容で実施されることとされ、前記(2)イと同様の販売委託制度も適用されることとされた。そして、上記募集要項(乙12)には、以下の事項が記載されていた。 (ア)募集要項配布開始平成29年7月18日 (イ)予定価格49億2000万円 (ウ)時点修正後予定価格公表平成29年8月上旬予定 (エ)応募受付日時平成29年10月17日午後1時から4時まで (オ)事業予定者決定通知書送付平成30年1月頃 (カ)仮契約平成30年2月頃 (キ)都議会付議平成30年6月頃 (ク)契約保証金納入土地売買契約締結日まで (ケ)土地売買契約締結都議会で承認された日から原則として2か月以内 (コ)土地売買代金納入土地売買契約締結の日から原則として2か月以内 (サ)土地の引渡し土地売買代金納入後 (シ)所有権移転登記土地代金納入後、東京都が速やかに実施 (ス)事業応募者の資格(抄) a 本件土地を取得し、複合施設を建設、運営する者であること。ただし、自らが複合施設の用に供する施設を建設し、運営することが基本であるが、事業者が複合施設を建設し、事業者以外の者に施設の管理運営を行わせる場合及び事業者が事業者以外の者に土地を貸し付けて(事業用定期借地等)、施設の建設及び管理運営を行わせる場合を含む。 b 当該土地の取得と複合施設の建設及び運営に必要な資力及び信用を有する者であること。 (セ)応募書類 複合施設用買受申込書、購入希望価格申出書、事業概要書、建設計画書及び企画書等。なお、企画書の記載内容は、前記(2)ア(ア)と同様である。 エ 被告は、平成29年10月17日、本件土地の買受申込書(甲44)を東京都に提出した。上記買受申込書は、販売委託制度利用の場合に用いられる書式によるものであり、「紹介斡旋者」の欄には原告の記名押印が存在した。被告は、上記買受申込書とともに、別紙図面@及びAを含む本件企画書を応募書類として、東京都に提出した。 オ 東京都は、被告に対し、平成29年11月22日付けのメールを送信し、平成30年1月25日に本件企画書の内容等に関するプレゼンテーションを行うよう依頼した。その後、東京都は、被告に対し、平成29年12月6日付けのメールを送信し、本件企画書の記載が抽象的で薄いため、上記プレゼンテーションまでに具体的かつ詳細な取組内容を記載した資料を追加提出すること、本件企画書に記載された取組の実現の見込みや根拠を明らかにすること、本件土地の借地権者に上記取組を履行する意思があるのかを確認するため、借地権者を上記プレゼンテーションに同行することを求めた。(甲7) カ 平成30年1月25日、原告代表者及び原告従業員であるA、青野産業株式会社(以下「青野産業」という。)の商業施設企画室室長であるB(以下「B」という。)、つくば建築設計事務所株式会社(以下「つくば建築設計事務所」という。)の設計部長等及び第一設計部所属の従業員、株式会社都市総合計画設計(以下「都市総合計画設計」という。)の代表取締役、レックス・マネージメント株式会社(以下「レックス・マネージメント」という。)のプランナー、被告の従業員であるC(以下「C」という。)らが出席して、東京都に対する前記オのプレゼンテーションが実施された(甲7)。 キ 東京都は、原告に対し、平成30年2月9日付けで、本件開発事業の事業予定者を原告が紹介あっせんした被告に決定した旨を通知した。 ク 被告は、東京都に対し、平成30年3月1日付けで、「平成30年第2回東京都議会定例会において議案が可決された後、土地売買契約を締結することを承諾いたします。」と記載した「承諾書」(甲9)を提出し、被告と東京都との間で、本件土地の売買に関する仮契約が締結された(甲9、12)。 ケ 平成30年6月27日、東京都議会平成30年第2回定例会において、本件土地の売却に関する議案が可決され、東京都が被告に対し本件土地を売却することが正式に決定した。 コ 原告と東京都は、同年9月6日、「宅地分譲に関する紹介斡旋契約書」(甲3)を取り交わし、原告が東京都に対して本件土地の譲受け希望者を紹介・あっせんすることを内容とする契約(以下「本件紹介あっせん契約」という。)を締結した。東京都は、原告に対し、上記契約に基づき、本件開発事業の事業予定者として被告を紹介・あっせんしたことの委託料として1億1026万8000円(税込)を支払った。 サ 東京都と被告は、平成30年9月28日、東京都が被告に対し本件土地を売買価格72億1000万円で売り渡す売買契約を締結した。 この売買契約に係る土地売買契約書(甲15)には、「乙(引用注:被告)は、この土地の買受申込みに際して甲(引用注:東京都)に提出した建設計画書及び企画書に基づき複合施設を建築するものとし、これにより難い場合は、その変更内容について、甲の承認を受けるものとする。」との条項(9条2項。以下「建築義務等条項」という。)及び「乙は、所有権移転の日の翌日から起算して5年を経過するまでの間に」、本件土地の全部又は一部について地上権、賃借権等を設定しようとするとき「は、あらかじめ甲の承認を受けるものとする。」との条項(11条1項(1)。以下「承認条項」という。)が置かれていた。 シ 被告は、東京都に対し、平成30年11月8日付けで、建築義務等条項に基づき、事業計画変更申請を行い、同月20日付けで、東京都から当該事業計画変更の承認を得た(乙4、5)。 ス 被告は、東京都に対し、平成30年11月26日付けで、承認条項に基づき、商業施設部分についてLIXILビバに、物流施設部分について野村不動産に、それぞれ事業用定期借地権を設定することの承認を申請し、東京都は、同年12月28日、上記申請を承認した。 セ 原告は、被告に対し、「本件企画書の利用許諾を撤回する」旨などを記載した平成30年10月17日付けの内容証明郵便(甲16)を送付し、被告は同月18日にこれを受領した。 3 争点 (1)不法行為に基づく損害賠償請求権の存否(争点1) ア 詐欺を理由とする不法行為(主位的請求原因)の成否(争点1−1) イ 契約締結上の過失を理由とする不法行為(予備的請求原因)の成否(争点1−2) ウ 損害の発生、額及び因果関係(争点1−3) (2)著作権又は著作者人格権侵害に基づく差止請求権の存否(争点2) ア 本件企画書等の著作物性(争点2−1) イ 原告が本件企画書等の著作者か否か(争点2−2) ウ 本件企画書の利用許諾の有無(争点2−3) エ 差止めの必要性(争点2−4) (3)商法512条に基づく報酬請求権の存否(争点3) ア 「その営業の範囲内において他人のために行為をしたとき」といえるか(争点3−1) イ 「相当な報酬」の額(争点3−2) 第3 争点に関する当事者の主張 1 争点1(不法行為に基づく損害賠償請求権の存否)について (1)争点1−1(詐欺を理由とする不法行為(主位的請求原因)の成否)について (原告の主張) 原告は、本件開発事業に関し、本件土地の所有者と本件土地上の建物の所有者を分け、東京都から本件土地を買い受けた者は専ら本件土地を所有するのみとし、原告において、実際に事業運営を行う商業施設や物流施設を建設、保有する業者やテナントとなる業者の選定等の差配を行うこととし、これにより本件土地の開発利益を受けるという方針を立てていた。そして、原告は、本件開発事業を実現するため、多大な労力と費用を注ぎ、原告の実績、信用、ノウハウを遺憾なく発揮して、本件企画書を作成したものであり、本件企画書を利用すれば、東京都から本件開発事業の事業予定者に選定され、円滑に本件開発事業を進めることができるものであった。そのため、原告は、上記の方針に適合する者に対してのみ、本件企画書の利用を許諾することとしていた。 この点、被告は、底地を所有して利益を上げることを根幹とする「JINUSHIビジネス」と称する業態を採用していたため、被告が本件開発事業の事業予定者に選定され、本件土地を所有することは、原告の上記方針に沿うものと考えられた。そこで、原告は本件企画書の利用を被告に許諾したものであるが、当該許諾に際して、原告は、被告に対し、平成29年10月3日、本件開発事業においては、原告が建物保有者やテナントの選定を担当し、被告は本件土地を所有するのみであるという条件を提示した上、かかる条件に沿わない限り、被告には本件企画書の利用を許諾しないと繰り返し説明した。これに対し、被告は、本件開発事業において、本件土地を所有するのみならず、本件土地上のテナントの募集や選定等をも行う意思を有していたにもかかわらず、同日、本件開発事業の担当者であるCをして、原告に対し、「全て原告にお任せいたしますので、よろしくお願いします。」、「被告は本件土地を所有するだけで、その他には口を出さない。」などと発言させた (以下「本件被告発言」という。)。原告は、本件被告発言により、被告において、本件開発事業における役割分担に関し、原告が商業施設の建物の保有者の氏名やテナント業者等の選定を行い、被告は本件土地を所有するのみであるとの認識を有しているものと誤信し、本件企画書の利用を許諾したものである。その結果、前記前提事実(3)のとおり、被告は、東京都から本件開発事業の事業予定者に選定された。 しかるに、被告は、上記事業予定者に選定されるや、本件土地を所有するのみならず、原告に無断でテナントの募集や選定をするなどし、原告を本件開発事業から排除するような行動に及ぶようになり、原告は、遅くとも平成30年10月頃までには、本件開発事業から完全に排除され、本来取得できたはずの開発利益を取得することができなくなった。 以上のとおり、本件被告発言は、被告が原告を欺いて本件企画書の利用許諾をさせる行為にほかならず、本件被告発言により、原告は本件開発事業の利益を受けることができなくなったのであるから、被告の原告に対する不法行為が成立する。 (被告の主張) 被告が採用する「JINUSHIビジネス」という業態は、被告が土地を保有するとともに他者に賃貸し、借地人又は借地人から指名を受けた者が当該土地において建物を保有し、被告が地代を受領するというものである。こうした業態においては、地代収入が収益の柱となるから、いかに優良な借地人を探し出すかという観点が非常に重要となり、単に土地を購入してあとは何もしないというものではない。そうすると、被告が、本件開発事業を知ったばかりの状況であるにもかかわらず、原告に対し、土地購入代金に限っても72億円に上る巨額のプロジェクトに関して、書面を取り交わすことなく、「全て原告にお任せします。」とか「土地の所有以外の差配は原告」などと発言することは、被告の業態にも一般常識にも反するものであり、経験則に照らしてもあり得ない。したがって、Cは、平成29年10月3日その他いかなる時点においても、本件被告発言をしていない。 また、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は、原告において、被告が東京都から本件土地を買い受ける協力をしたのに、本件土地について期待していたほどの開発利益を受けられなかったことを問題視してされたものである。しかし、原告は、東京都に対して被告をあっせん紹介したことにより、その委託料として、東京都から1億1026万8000円を受領しており、原告の上記請求は受領済みの多額の上記委託料をはるかに上回る額の開発利益にあずかることを期待してされたものといえるが、そうした期待は法的保護に値しない。 したがって、不法行為に関する原告の主張はいずれも理由がない。 (2)争点1−2(契約締結上の過失理由とする不法行為(予備的請求原因)の成否)について (原告の主張) 前記(1)(原告の主張)のとおり、原告は、本件被告発言によって、本件企画書の利用を許諾させられた。こうした経緯からすれば、上記利用許諾に当たっては、被告に契約締結上の過失が認められる。 (被告の主張) 被告に契約締結上の過失があるとの主張は争う。 (3)争点1−3(損害の発生、額及び因果関係)について (原告の主張) ア 原告は、本件被告発言により、被告において本件土地上の事業に関する差配は原告が行うとの意向を有していたと誤信して、本件企画書の利用を許諾した。仮に本件被告発言がされなければ、原告は被告に対し本件企画書の利用を許諾することはなく、東京都に対し他者を事業予定者として紹介あっせんしていた。そうすると、原告は、本件被告発言により、本件開発事業を通じて本来取得することのできたはずの開発利益等を得ることができず、開発利益相当額及び本件企画書そのものの価値に係る損害を被ったといえる。したがって、本件被告発言と、原告が被った上記各損害との間には相当因果関係がある。 イ そして、原告が被った損害の額は、以下のとおりである。 (ア)開発利益に係る損害について a 損害の発生及び因果関係 前記1(1)(原告の主張)のとおり、原告は、本件開発事業に被告を参入させるに当たり、被告が本件土地の所有権を保有し、原告が本件土地上の建物の建築、テナントの募集等の差配を行うことを想定していた。原告は、被告においても上記想定のとおり合意していたことを前提として、被告が取得した本件土地の一部について被告から定期借地権の設定を受け、商業施設を建設するとともに、同施設のテナントを募集した後、第三者に同施設を売却することによって収益を受けること、すなわち開発利益を上げることを企図していたものである。 このように、原告は、本件開発事業による開発利益を受けることができたにもかかわらず、本件被告発言により上記の開発利益を受ける機会を失い、開発利益相当額の損害を被った。 b 損害額 前記aの開発利益相当額は、以下のとおり算定される。 すなわち、本件開発事業に係る単年度の収支は、テナント家賃収入から、本件土地の地代や維持管理費等の支出を控除した4億6336万円であるところ、テナントには20年間の定期借家契約により前記aの商業施設に入居させることを想定していたため、20年分の収益は計92億6720円となる。 これに対する20年間に生じる金利負担は、16億3373万円(年2%)となる。 この点、原告は、本件開発事業において建築した建物を、テナントを付けた状態でファイナンスリースにより売却することを、大手リース会社との間で合意しており、その売却価格は、上記のとおり年間4億6336万円のテナント家賃収入を20年間得られることを前提に、当該家賃収入の額から上記20年間に生じる金利負担の額を控除して算定されるものとされていた。そうすると、上記建物の売却価格は約76億3000万円となる。 したがって、当該売却価格から、商業施設の建設関連費用(53億9131万9200円)を控除した22億3868万0800円が、原告の開発利益となる。 (イ)本件企画書そのものの価値に係る損害について a 損害の発生及び因果関係 被告は、本件被告発言により、本件企画書を無償で利用しており、原告は、本件開発事業から排除された結果、本件企画書の作成費用を回収する機会を失った。そのため、原告は、本件被告発言により、本件企画書の作成費用(原価)相当額の損害を受けた。 b 損害額 (a)算式 本件企画書の作成費用(原価)は、時給単価と業務時間を掛け合わせて計算される直接人件費に、特別経費、技術料及び諸経費を加算して算出される。ただし、特別経費に当たる費用はない。 (b)直接人件費 本件企画書の作成によって、本件開発事業の設計業務のうち30%が完成したものと評価できる。 そして、本件開発事業の計画のうち「物流」の設計業務の全体では1万7018時間の、「商業」の設計業務の全体では2万4915時間の業務時間を要することが想定されるので、本件企画書の作成までに要する業務時間としては、そのそれぞれ30%に当たる5105時間及び7474時間と認められる。 以上に加え、造成・外構計画についての業務に3040時間を、原告社内業務等に1052時間を要する。 したがって、以上を合計した約1万6620時間が本件企画書の作成に必要な標準業務時間となるから、直接人件費は、時給単価3465円に1万6620時間を乗じた5776万8030円となる。 (c)技術料 直接人件費に0.5を掛けた2888万4015円と算出される。 (d)諸経費 直接人件費に1.1を掛けた6354万4833円と算出される。 (e)合計 以上によれば、本件企画書の作成費用(原価)は、前記(b)ないし(d)の合計1億5018万2215円と算出される。 ウ 以上の次第で、不法行為である本件被告発言と相当因果関係を有する損害の額は、前記イ(ア)及び(イ)の合計額である23億8886万3015円である。 したがって、原告は、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として、上記合計額のうち10億円の賠償を求める(一部請求)。 (被告の主張) ア 開発利益に係る損害について 本件開発事業の計画に係る開発利益に関する原告の主張は、見込みや一般論が散見され、全体として仮定に仮定を重ねたものにすぎない。 そもそも、被告は、「被告が本件土地の所有権を保有し、原告が本件土地上の建物の建築、テナントの募集等の差配を行う」ことについて合意してはいないし、原告には、本件土地上の建物の建築、テナントの募集等の差配をおこなう能力や実績はなかったから、原告に損害が発生したとは認められない。 また、本件土地の転売利益を算定するためには、本件土地が3万6000坪という極めて大規模な土地であることを考慮すべきであり、また、更地ではなく底地としての価値を算定する必要があるところ、原告が算定の基礎としている50ないし100坪程度の商業施設に関する土地は、本件土地とは市場が全く異なるものであるから、本件土地の転売利益算定の基礎とはなり得ない。 さらに、原告の主張では、市況の変化のリスクが全く考慮されていないし、金融機関から借り入れる金員に対する支払利息が全く控除されていない。 したがって、開発利益に係る損害に関する原告の主張には根拠がない。 イ 本件企画書そのものの価値に係る損害について 本件企画書は、東京都が主催する競争入札に応札するために作成された資料であるから、当該競争入札において落札できなかったり、優先交渉権を得たとしても審査により失格になったりした場合には、その全部が無価値のものとなる性質の文書である。 したがって、本件企画書自体に価値があるものとして、本件企画書の原価を計算すること自体が無意味であるし、本件企画書の作成によって本件開発事業の設計業務のうち30%が完成したものと評価できる旨の主張についても根拠がない。 2 争点2(著作権又は著作者人格権侵害に基づく差止請求権の存否)について (1)争点2−1(本件企画書等の著作物性)について (原告の主張) ア 本件企画書の著作物性 (ア)本件企画書は、原告が、本件土地上に大規模な商業施設と物流業務施設を建設し、八王子市に人を呼び込み、地域の産業を発展させるという基本的思想に基づき、東京都の事業予定者選定の手続において承認を受けられるよう、原告固有のノウハウを用いて独自に作成したものであって、本件土地における事業展開の概要を内容とするものである。すなわち、原告は、本件企画書を作成するに当たり、@複合商業施設については、本件土地の社会的利用及び社会貢献という観点から、地域コミュニティの創出、子育て支援及び地域防災の整備・啓蒙について取り上げたほか、地域支援という観点から、コミュニケーション機能を備え、楽しくゆとりあるショッピングセンターを作り出すという目標を取り上げ、A物流業務施設については、人と地球にやさしい施設の創造、最先端技術を集めた施設づくり、地域経済の底支えといった考え方の下、AIの利用、電気自動車の利用、見学会の開催等を予定することについて取り上げた。 以上によれば、本件企画書は、本件土地について、公共財としても評価されるべき性質のものであるから、地域社会の発展や緊密な住民関係の形成、更には長期的かつ継続的な公共財としての利用に応え得る構想の下に利用されるべきであるという原告の思想が、言語、絵画、写真、図面を用いて創作的に表現されたものであるといえる。したがって、本件企画書は、言語、絵画、写真、図形等の複合的な著作物として、著作物性が認められる。 (イ)被告は、本件企画書の内容は一般的な事業計画提案書類の域を超えるものではないなどとして、本件企画書には著作物性が認められないと主張する。 しかし、東京都が本件開発事業の事業予定者を選定する際の評価項目のうち、事業計画の評価は、他の評価項目に比較して圧倒的に高い得点割合を占めていたから、東京都が被告を上記事業予定者に選定したということは、事業計画が記載された本件企画書に表現された前記(ア)の基本的思想が正しいことが承認されたことにほかならない。そして、前記(ア)のとおり、本件企画書においては、上記基本的思想が具体化されるように建物の内容、デザイン及び設置場所が表現されていることに照らすと、本件企画書は、一般的な事業計画提案書類の域を超えるものというべきであり、著作物性が認められる。よって、被告の上記主張には理由がない。 イ 本件建物の著作物性 別紙図面@及びAは、前記ア(ア)の本件企画書の思想を具体的に実現するべく、建物の全体配置とデザインにおいて、単に機能面を追求するのみならず、公共財としての性質に配慮した上で、作成されたものである。 そのため、本件企画書の思想が具体化されるように、本件建物の内容、デザイン及び設置場所が表現された点において、本件建物には、建築の著作物としての著作物性が認められる。 (被告の主張) ア 本件企画書の著作物性 (ア)本件企画書には、開発コンセプト、設計概要、事業スケジュール、施設設置の効果及びマーケット分析等に関する一般的な記載がされているにすぎず、これは、土地の入札案件に当たって作成される一般的な事業計画提案書類の域を出ない、ありふれた内容のものである。 加えて、本件企画書は、東京都が作成した「多摩ニュータウン事業用地事業者募集要項(G−70)」(乙12。以下「本件募集要項」という。)に記載された構成と同様の構成により、同募集要項が指示する事項が記載されたものであって、東京都により、本件企画書の内容が上記募集要項と整合しているかに関してチェックがされ、それに従い何度も修正されながら、東京都が求めるとおりに作成されたものである。 以上によれば、本件企画書は、原告の「思想又は感情を創作的に表現したもの」とはいえず、著作物性は認められない。 (イ)原告は、本件企画書には設計上の「発想」、「配慮」が含まれているなどと種々主張するが、それらはいずれもごく一般的でありふれた設計上の観点にすぎないものであって、表現上の創作性を裏付けることにはならない。 イ 本件建物の著作物性 本件企画書に添付された別紙図面@から観念される商業施設の建物は、四角形の複数の店舗等を平面に並べる形で配置したものにすぎないし、本件企画書に添付された別紙図面Aから観念される物流施設の建物も、四角形の複数の積み下ろしスペース、倉庫、事務所等を、平面に並べる形で配置したものにすぎない。このように、本件建物は、一般的、実用的なありふれた形状の商業施設にすぎず、設計者独自の思想又は感情を表現する造形芸術としての美術性を備えるものではないから、著作物性は認められない。 (2)争点2−2(原告が本件企画書等の著作者か否か)について (原告の主張) 本件企画書の作成には、つくば建設設計事務所、都市総合計画設計、ハンドック・インターナショナル株式会社及びレックス・マネージメント(以下「つくば建設設計事務所等」と総称する。)並びに原告の5者が関与した。 原告は、本件土地の開発計画を立案し、つくば建設設計事務所に対しては本件企画書のうち商業施設及び物流施設の設計図面の制作を、都市総合計画設計に対しては地域社会との共生を目指すという本件開発事業の目的に沿った具体的なプランニングを、ハンドック・インターナショナル株式会社及びレックス・マネージメントに対しては本件土地に建築される商業施設及び物流施設のテナントやリーシング等の事業に関する企画立案を、それぞれ委託し、つくば建設設計事務所等から提出された検討結果を総合的に取りまとめ、本件企画書に落とし込む作業を行った。 そして、慣例によれば、建築計画等の制作において、設計図面等の著作権は、発注者である取りまとめ会社に帰属するから、本件企画書等の著作権は、上記のとおり取りまとめ等を行った原告に帰属することとなる。 したがって、原告は本件企画書等の著作者である。 (被告の主張) 原告は、@つくば建築設計事務所等から上がってきた情報を取りまとめ、本件企画書に落とし込む作業を原告が担ったこと、A慣例によれば取りまとめた会社が著作権を取得することを根拠として、本件企画書の著作者は原告であると主張する。 しかし、上記@については、原告が本件企画書の作成に具体的にどのように寄与したかは明らかではない。仮に、原告が、つくば建築設計事務所等から提供された検討結果を一つの書面に取りまとめ、落とし込む作業をしていたとしても、そのような作業のみによって本件企画書を創作する行為に実質的に関与していたとはいえないから、原告が著作者に当たるとは認められない。 また、上記Aについては、設計図書の著作権が発注者であるとりまとめ会社に帰属する慣例があるとの主張に根拠はなく、仮に当該慣例が存在するならば、施設の建設等の妨げとならないよう、本件募集要項に企画書の著作権の移転に関する規定があってしかるべきであるが、そのような規定は存在しない。 したがって、原告が本件企画書の著作者であるとの主張には理由がない。 (3)争点2−3(本件企画書の利用許諾の有無)について (被告の主張) 原告は、被告に対し、遅くとも本件土地の買受申込書を東京都に提出した平成29年10月17日までには、本件企画書の利用を許諾した。したがって、被告が本件企画書を複製しても、本件企画書に係る原告の複製権を侵害しない。 この点につき、原告は、被告に内容証明郵便(甲16)を送付して上記利用許諾を撤回したと主張するが、原告の一方的な意思表示によって利用許諾を撤回することができないことは明らかである。 (原告の主張) 原告が、被告に対し、本件開発事業のために被告が本件企画書を利用することを許諾したことは認める。 しかし、被告が、本件開発事業から原告を排除するに至ったため、原告は、平成30年10月18日、被告に内容証明郵便(甲16)を送付して上記の利用許諾を撤回した。 したがって、利用許諾に関する被告の主張には理由がない。 (4)争点2−4(差止めの必要性)について (原告の主張) ア 本件企画書の複製並びに複合商業施設及び物流業務施設の建築の差止めの必要性について 前記前提事実(3)サのとおり、本件土地の売買契約書(甲15)には、建築義務等条項が置かれているから、本件開発事業の事業予定者として東京都に選定された被告は、本件企画書に従い、複合商業施設や物流業務施設を建築すべき義務を負っている。 そして、被告においては、本件土地が所在する八王子市と本件開発事業に関する協議を行う際に本件企画書を複製したり、別紙図面@及びAに従って複合商業施設及び物流業務施設を建築したりする蓋然性が高いといえるところ、前者は本件企画書に係る原告の複製権を、後者は本件建物に係る原告の複製権をそれぞれ侵害する行為である。 したがって、被告に対し、著作権(複製権)に基づき、本件企画書を複製することや、別紙図面@及びAに従って本件建物を建築することを差し止める必要性がある。 イ 本件企画書の改変の差止めの必要性について 被告は、本件開発事業を進めるに当たり、建築義務等条項に基づき、本件企画書の内容を変更するなどの改変を行う危険性が高い。しかし、被告が本件企画書を改変する行為は、本件企画書に係る原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害するものである。 したがって、被告に対し、同一性保持権に基づき、本件企画書の改変を禁止する必要性がある。 ウ 被告の主張について 被告は、本件企画書の内容は実用に耐えず、事業計画変更を申請し、当初の事業計画と根本的に異なる内容の計画へ変更されたと主張する。 しかし、東京都議会で可決されたのは、当初の本件企画書に記載された計画の内容を踏襲し、当該計画に「軽微なもの」の範囲内と評価できる程度の変更を加えた計画であって、当初の本件企画書の設計プランと同様のものである。これは、被告による計画変更が再度の変更を余儀なくされたことを意味するものであるから、被告の上記主張は根拠を欠くものである。 (被告の主張) 本件企画書に記載された本件開発事業の計画の内容では、鉄道駅を利用する来場客のアクセス、日陰等の周辺住民に与える影響、交通渋滞や公害(騒音、大気汚染、光害)、場内の動線混乱回避の観点から問題があったため、そのまま採用することができず、建物の配置等を計画し直す必要があった。そこで、被告は、トラックバースの設置箇所及び台数の変更、トラック待機場の増設、乗用車専用の出入口の設置、事務所数の増設、カフェテリアの新設、延べ床面積の増加及び太陽光パネルの削減等をすることとし、被告及び関係者において新たに独自に事業計画を作成した上、東京都に対し、平成30年11月8日付けで、建築義務等条項に基づき事業計画変更を申請した。 これを受けて、東京都は、同月20日付けで当該事業計画変更を承認した。以上の経過により、複合商業施設に関しても、物流業務施設に関しても、当初の事業計画から根本的に異なる内容の計画へと変更されたから、今後、被告が本件企画書を複製したり改変したりする可能性はないし、別紙図面@、Aに従って本件建物が建築される可能性もない。 したがって、本件企画書に係る著作権侵害及び著作者人格権侵害のおそれを根拠とする差止めの必要性は認められない。 3 争点3(商法512条に基づく報酬請求権の存否)について (1)争点3−1(「その営業の範囲内において他人のために行為をしたとき」といえるか)について (原告の主張) ア 不動産売買の仲介、本件企画書の利用許諾及び本件開発事業の事業予定者への応募に関するコンサルティングを業として行う株式会社である原告が、本件土地を目的物とする東京都と被告との間の土地売買契約を仲介し、被告に本件企画書の利用を許諾し、本件開発事業の事業予定者の選定に応募することに関して被告に対するコンサルティングを行ったこと(以下「本件仲介行為」と総称する。)は、「商人」が、「その営業の範囲内において」した行為といえる。 また、東京都は、本件開発事業の担い手としてふさわしい業者に対してのみ本件土地を売却するという意向を有していたところ、本件仲介行為は、東京都に対し、被告が本件開発事業の担い手としてふさわしい資格を有する業者であると紹介することにほかならず、本件仲介行為がなければ、被告は、東京都から本件土地を購入することはできなかったものであるから、本件仲介行為により被告が利益を得たことは、土地売買契約の仲介による反射的効果にとどまるものではない。そうすると、原告による本件仲介行為は、単なる本件土地の売買に関する仲介業務ではなく、「他人」すなわち被告「のために行為をしたとき」に該当するものというべきである。 以上の次第で、原告は、被告に対し、商法512条に基づき、「相当な報酬」の支払を請求することができる。 イ 被告は、原告の本件仲介行為は、本件紹介あっせん契約に基づいてされたものであって、被告の「ために行為をしたとき」に当たらないと主張する。 しかし、本件紹介あっせん契約に係る契約書の締結日は、平成30年9月6日であり、被告と東京都との間で本件土地の売買契約が締結されたのは、同月28日である。これに対し、原告が本件土地の売買契約を仲介し、本件企画書を被告に利用させ、東京都によるヒアリングに同席するなどの東京都への入札に関するコンサルティングをしたのは、平成29年10月12日頃以降であり、被告が東京都から本件開発事業の計画の事業予定者として正式に選定を受けたのは、平成30年2月9日であって、これらは、いずれも本件紹介あっせん契約の締結日よりも前のことである。このように、本件仲介行為の時点においては、原告が東京都と本件紹介あっせん契約を締結していない以上、本件仲介行為は、客観的にみて、被告のために行われたものというほかはない。 また、被告は、原告から本件企画書の利用を許諾されるなどの本件仲介行為によって、東京都から本件開発事業の事業予定者に選定され、大きな利益を得ているのであるから、この点からも、本件仲介行為は、客観的にみて、被告のために行われたものといえる。 そもそも、被告は、原告に対して東京都への紹介あっせんを仲介することを依頼しているから、当該紹介あっせんが成功した場合に原告に対して何らかの対価を支払うべきことを当然に想定していたというべきである。 そうである以上、本件仲介行為が被告「のために行為をしたとき」に当たるとして、原告が被告に対し商法512条に基づく報酬請求をしたとしても、そのような請求が被告にとって不意打ち的であるとはいえず、不当な請求にも当たらない。 したがって、被告の上記主張には理由がない。 ウ 被告は、原告の本件仲介行為は、東京都が定めた販売委託制度に基づき、東京都から、本件開発事業の事業予定者として被告を紹介あっせんしたことに対する委託料を受領するために行われたものとみるべきであるから、被告の「ために行為をしたとき」に当たらないと主張する。 しかし、上記販売委託制度において東京都が委託するのは、紹介あっせん契約の成立に向けた協力業務であり、紹介あっせん契約が成立するのは、東京都が土地の譲受人との間で土地売買契約を締結し、かつ、売買代金が完納されて、不動産が引き渡されたときとされている。そうすると、上記協力業務とは、東京都と譲受人との間の土地売買契約の締結、売買代金の完納及び引渡しに関して協力する業務にほかならない。しかるに、本件仲介行為は、被告に本件企画書を利用させ、被告を本件開発事業の事業予定者として東京都に仲介し、被告を事業応募者として東京都に選定させるべく種々の活動を行い、被告に本件土地を買い受けさせたというものであって、こうした行為が上記協力業務の内容とは異なることは明らかである。 したがって、被告の上記主張には理由がない。 (被告の主張) ア 本件仲介行為が原告の「営業の範囲内」(商法512条)の行為であるとの主張について、事実関係は不知、主張は争う。 イ (ア)本件開発事業は東京都の公募入札案件であり、本件土地が入札の対象となっていることは一般に広く公開されているものである。したがって、そもそも不動産仲介の対象になじまないものであるから、原告は、不動産仲介業者に該当しない。 (イ)原告は、東京都との間で本件紹介あっせん契約を締結しているところ、当該契約上、原告は、東京都に対し、東京都と事業予定者である被告との間で指定宅地すなわち本件土地に関する売買契約を締結できるよう、東京都と被告の双方に協力することとされていた。このように、本件紹介あっせん契約においては、被告に協力することが原告の東京都に対する義務として定められており、原告が当該義務を履行した結果、本件土地の売買契約が成立したにすぎない。 (ウ)前記前提事実(2)イのとおり、本件開発事業の事業予定者の募集について、公益社団法人東京都宅地建物取引業協会の会員が東京都に対して土地の譲受け希望者を紹介あっせんしたときは、東京都が同会員に対し当該紹介あっせんの対価として委託料を支払うことを内容とする販売委託制度が設けられていた。そして、販売委託制度によって販売委託を受けた者は、本件紹介あっせん契約と同様、紹介あっせん契約の成立に向けた協力業務を行うこととされていた。 この点、原告は上記協会の会員であり、原告が、東京都に対し、本件紹介あっせん契約を締結した上、本件開発事業の事業予定者として被告を紹介あっせんする行為についても、上記販売委託制度に則って行われたものである。 そうすると、原告の本件仲介行為は、上記販売委託制度に基づき、東京都から上記委託料を受領するために行われたものとみるべきである。 (エ)原告が八王子市に本件土地の用途地域の変更を認めさせたことや、本件開発事業の地元の折衝をしたことについては、いずれも原告と被告が知り合う前にされた業務であるから、被告のためにした行為とは認められない。 (オ)被告は、原告から本件企画書の利用を許諾されたが、原告と被告との間には、報酬の支払に関して何らの合意もなかった。それにもかかわらず、原告が被告に対し事後的に本件企画書の作成に費やした費用の全てを請求することができるならば、上記費用について知る由もない被告に対して莫大な負担を不意打ち的に負わせることになりかねない。 (カ)以上によれば、本件仲介行為は「他人のために」した行為とは認められないから、原告の被告に対する商法512条に基づく報酬請求権は発生しない。 (2)争点3−2(「相当な報酬」の額)について (原告の主張) ア (ア)原告が東京都と被告との間で不動産売買契約を仲介したことについての「相当な報酬」の額は、通常の不動産仲介手数料である売買契約72億円の3%である2億1600万円と認められる。 (イ)また、原告は、被告に対し、本件企画書の利用を許諾したところ、被告において、本件企画書を利用しなければ、本件開発事業の事業予定者として選定され得なかったことは明らかである。そこで、本件企画書の製作に係る原価を算定すると、1億5019万6877円であるから、上記利用許諾についての「相当な報酬」の額は、同額であると認められる。 (ウ)さらに、被告は、原告から、@Cを伴って東京都庁を訪問し、東京都の担当者と顔合わせを実施する、A本件企画書を添付した買受申出書の提出を許諾する、B被告が事業予定者に選定されるよう本件企画書を継続的に修正する、C東京都が主宰するヒアリングに被告と共に出席して本件企画書の内容を説明する、D地元との折衝を行う、E土地と建物の所有者を分離するという運用を東京都に認めさせるなどのコンサルティングを受け、その結果、被告は、東京都から、本件開発事業の事業予定者に選定された。被告は、原告から上記のコンサルティングを受けなければ、本件開発事業の事業予定者に選定がされることは不可能であった。 そして、一般的なM&A契約の仲介業者の成功報酬の手数料率が事業の売買価格の10%を下らないことを踏まえると、上記のコンサルティングに関する「相当な報酬」の額は、入札価格である72億円の10%である7億2000万円であると認められる。 (エ)そうすると、商法512条の「相当の報酬」の額は、前記(ア)ないし(ウ)の合計額である10億8619万6877円となる。 したがって、原告は、被告に対し、商法512条に基づき、上記合計額のうち10億円の支払を請求する(一部請求)。 イ 被告は、本件企画書の内容が実用に耐えるものではなかったため、被告においては、本件企画書に記載された事業計画を採用していないとして、「相当な報酬」の額を争う。 しかし、前記2(4)(原告の主張)ウのとおり、被告が変更申請した計画案は再変更を余儀なくされ、当初の本件企画書の設計プランと同様の計画を採用せざるを得なかったのであるから、被告の主張は根拠を欠くものである。 (被告の主張) ア 前記(1)(被告の主張)イ(ア)のとおり、原告は、そもそも不動産仲介業者ではないから、被告に対し、不動産売買仲介手数料相当額の金銭を「相当な報酬」として請求することはできない。 イ 不動産の売買金額が多額になる場合には仲介手数料が値引きされることも多いところ、本件土地の売買金額は72億円と多額であるから、不動産売買仲介手数料相当額が不動産の売買金額の3%であることを前提として「相当な報酬」の額の算定をすることには根拠がない。 ウ 本件企画書の内容は実用に耐えるものではなかったため、被告は、本件企画書に記載された事業計画を採用しておらず、被告において新たに設計図を制作せざるを得なかった。 したがって、原告が本件企画書の利用を許諾したとしても、そのことにより原告が被告に対して「相当な報酬」を請求することはできない。 エ 原告は、本件企画書の製作に係る原価が1億5019万6877円であると主張するが、その算定根拠には信用性がないし、設計事務所報酬基準に従って原価を算定することには根拠がない。 オ 前記前提事実(3)コのとおり、原告は、東京都から、本件紹介あっせん契約に基づく委託料として1億1026万8000円を受領しているところ、原告が被告に対し本件仲介行為についてコンサルタント報酬を請求することは、同一業務について報酬を二重取りするものにほかならない。 また、原告は、当該コンサルタント報酬に係る「相当の報酬」の額を、M&A契約の成功報酬の手数料と同等に考えるべきである旨を主張するが、合理性を欠くものである。 カ 以上によれば、「相当の報酬」の額に関する原告の主張には理由がない。 第4 当裁判所の判断 1 争点1(不法行為に基づく損害賠償請求権の存否)について (1)本件被告発言の有無 原告は、平成29年10月3日、Cが原告に対して「全て原告にお任せいたしますので、よろしくお願いします。」、「被告は本件土地を所有するだけで、その他には口を出さない。」などとの発言(本件被告発言)をしたところ、本件被告発言は欺罔行為及び契約締結上の過失を構成するから、被告は不法行為責任を負うと主張する。そして、証人Bは、同日に原告代表者、B、青野産業の代表取締役であるD(以下「D社長」という。)及びCが本件開発事業について打合せをした際、Cが、原告代表者に対し、「JINUSHIビジネス」としての業務は被告が行い、その他の業務に関しては一切を原告代表者に任せると発言した旨を証言し、証人Bの陳述書(甲20、26)にも同旨の記載が存在するところ、証人Bが証言するCの上記発言は、本件被告発言とおおむね同旨のものとみることができるから、以下、証人Bの上記証言の信用性について検討する。 この点、前記前提事実並びに証拠(甲20、40、乙7、証人B、証人C、原告代表者。ただし、認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、青野産業は、原告に対し、本件開発事業の事業予定者に応募する者として被告を紹介し、平成29年10月3日、原告代表者、B、D社長及びCは、本件開発事業に関する打合せを行ったこと、被告が青野産業から本件開発事業について聞いたのは同日のことであったことが認められる。これによれば、被告が本件開発事業の存在を認識し、その参画に関心を持ったのは、上記打合せが行われた当日のことであるから、そのような短時間で、Cが、原告代表者に対し、予定価格にして49億2000万円、実際の入札価格にして72億円もの巨額の費用を支払って購入する本件土地上の建物の所有者及びテナントの選定に関し、一切の業務を原告に委ねる旨を述べるといったことは、被告が借地料を収益と見込んで本件開発事業に参画しようとしていたことを前提とすれば、著しく不合理である。 これに対し、証人Cは、平成29年10月3日に初めて青野産業から本件開発事業について聞かされたものであり、同日に行われた原告代表者らとの上記打合せの際に、本件土地上の建物のテナントの選定等に関する一切の業務を原告に委ねる旨を述べた事実はないと証言するところ、証人Cの上記証言は事実経過として自然で十分に合理性が認められ、全体として信用できるというべきである。そうすると、証人Bの上記証言は、信用できる証人Cの上記証言とも齟齬するものというべきである。 なお、原告代表者の陳述書(甲40)には、平成29年10月3日、Cが原告代表者に対し、本件土地は被告が買い受け、その他の業務は全て原告代表者に任せると言った旨の記載があり、この記載は、証人Bの上記証言に沿うものといえる。しかし、原告代表者は、本人尋問において、同日の打合せの際に建物の所有やテナントの差配は原告の仕事とする旨をCに説明したと供述する一方、原告代理人から「そのような説明に対して、Cさんはどのような反応を示していましたか。」と質問されたにもかかわらず、Cが上記打合せの場で本件被告発言をした旨を明確に供述しなかったものである。このような原告代表者の供述内容及び態度に照らせば、上記陳述書の記載は採用することができないというべきである。したがって、上記記載を根拠として本件被告発言があったと認定することもできないし、上記記載が証人Bの上記証言の信用性を支えるものとみることもできない。 (2)争点1に関する結論 以上の次第で、証人Bの前記(1)の証言は、信用できる証人Cの証言と齟齬する上、その証言の内容自体が不自然、不合理であるから、これを信用するには無理があり、採用することができない。したがって、証人Bの証言から、Cが平成29年10月12日に本件被告発言をした事実も、それ以外の日に本件被告発言と同旨の発言をした事実も認めることはできず、その他当該事実を認めるに足りる証拠はない。 そうすると、当該事実を前提とする被告の欺罔行為及び契約締結上の過失も認められないというべきである。 したがって、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求には理由がない。 2 争点2(著作権又は著作者人格権侵害に基づく差止請求権の存否)について 事案に鑑み、争点2−2(原告が本件企画書等の著作者か否か)及び争点2−4(差止めの必要性)について判断する。 (1)争点2−2(原告が本件企画書等の著作者か否か)について 原告は、本件企画書の作成に際して本件土地の開発計画を立案し、つくば建設設計事務所等から提出された検討結果を総合的に取りまとめ、本件企画書に落とし込む作業を行ったこと、建築計画等の制作において設計図面等の著作権は発注者である取りまとめ会社に帰属する慣例があることから、原告は本件企画書の著作者であると主張する。 しかし、単に計画を立案したというのみではアイデアの提供にとどまるし、他社による検討結果を取りまとめ、本件企画書に落とし込む作業をしたとしても、当該他社の創作的表現を本件企画書に記載したのみでは、当該作業を通じて、本件企画書に原告の思想又は感情を創作的に表現したことにはならないというべきである。そして、本件全証拠によっても、原告が本件企画書等の作成にどのように関与したのかは明らかではないから、本件企画書等が「著作物」に該当するとしても、原告がこれを「創作」したと認めることはできない。したがって、原告が本件企画書等の「著作者」(著作権法2条1項2号)であるとは認められない。 また、原告が主張するような慣例が存在することを認めるに足りる証拠もないから、そのような慣例に基づいて原告が本件企画書等の著作者になると認めることもできない。 以上の次第で、仮に本件企画書等に著作物性が認められるとしても、原告は本件企画書等の著作者であると認めることはできない。 (2)争点2−4(差止めの必要性)について 原告は、被告が本件企画書を複製、改変したり、本件企画書の別紙図面@及びAに従って本件建物を建築したりする蓋然性が高いとして、差止めの必要性があると主張する。 しかし、本件全証拠によっても、被告が実際に本件企画書を複製、改変したという事実は認められない。 そもそも、前記前提事実(3)エのとおり、本件企画書は、募集要項上、本件開発事業の事業予定者として応募するための必要書類として用いられたものであるから、被告が本件企画書等を提出して本件開発事業に応募し、事業予定者として選定された以上、更に本件企画書を複製又は改変して利用する必要性があるとは直ちには認めがたい。 この点、前記前提事実(3)サのとおり、本件土地の売買契約書(甲15)には建築義務等条項が置かれているものの、当該条項で義務付けられているのは企画書に基づいて複合施設を建築すること、すなわち企画書の記載内容に沿って複合施設を建築することにすぎない。そして、建築義務等条項に従い本件開発事業を進めるために本件企画書を複製又は改変することが必須であることを認めるに足りる証拠はない。そうすると、建築義務等条項が存在することから直ちに企画書が複製又は改変される蓋然性があると認めることはできないというべきである。 しかも、前記前提事実(3)シのとおり、被告は、東京都に対し、平成30年11月8日付けで、建築義務等条項に基づく変更を申請し、東京都は同月20日付けでこれを承認している。そして、証拠(乙4)によれば、複合商業施設については、渋滞緩和や公害(騒音、大気汚染、光害)の防止のため、建物の建設場所を敷地東側幹線道路沿いから敷地西側に配置し、幹線道路側に駐車場を配置するという変更が加えられ、物流業務施設については、主なテナントターゲットの変更に伴い、トラックバースの削減、乗用車専用の出入口の追加設置、施設中央部へのカフェテリアの設置、延べ床面積の増加(約4万5700uから約4万9800uへの増加)などの変更が加えられたことが認められる。このような大幅な変更を東京都が承認した以上、被告が、今後、変更前の計画が記載された本件企画書を複製又は改変して使用するといった事態は認め難いというべきである。 以上によれば、仮に原告が本件企画書等に係る著作者と認められるとしても、被告において、本件開発事業を進めるに当たり、本件企画書を複製、改変したり、別紙図面@、Aに従って建物を建築したりなどして、原告の本件企画書等に係る複製権及び同一性保持権を侵害するおそれがあるとはいえないから、差止めの必要性を認めることはできない。 (3)争点2に関する結論 以上の次第で、争点2に関するその余の争点について検討するまでもなく、原告の差止請求(前記第1の2ないし5)には全て理由がない。 3 争点3(商法512条に基づく報酬請求権の存否)について (1)争点3−1(「その営業の範囲内において他人のために行為をしたとき」といえるか)について ア 原告は、原告による本件仲介行為、すなわち、@本件土地を目的物とする東京都と被告との間の土地売買契約を仲介する行為、A被告に本件企画書の利用を許諾する行為及びB被告に対して本件開発事業の事業予定者の選定に応募する行為が、原告「の営業の範囲内において」被告「のために行為をしたとき」に該当する行為であるから、被告に対し、商法512条に基づき、相当な報酬を請求することができると主張する。 しかし、原告は、前記前提事実(3)ウ、エのとおり、東京都が定める販売委託制度に則って、東京都に対し、本件開発事業の事業予定者として被告を紹介あっせんしたものであるから、本件開発事業に関して、前記前提事実(2)イ(ア)の販売委託制度において委託内容とされる業務、すなわち、宅地の譲受け希望者に対する現況説明、公募条件等の譲渡条件説明、宅地の譲受け希望者の確保に向けたあっせん業務、宅地の譲受け希望者からの買受申込書の受付取次業務、紹介あっせん契約の成立に向けた協力業務について、東京都から受託していたものといえる。しかるところ、上記@の仲介行為及び上記Aの利用許諾は、上記のうち、少なくともあっせん業務、受付取次業務及び協力業務に、上記Bのコンサルティング業務は、上記のうち、少なくとも説明業務、あっせん業務及び協力業務に、それぞれ該当すると解される。また、原告と東京都とは本件紹介あっせん契約に際して「宅地分譲に関する紹介斡旋契約書」(甲3)を取り交わしたところ、当該契約書には、原告において、東京都と事業予定者とが本件土地について売買契約を締結できるよう、東京都及び被告双方に協力するものとする条項が定められており(2条1項)、本件仲介行為は、当該条項に定められた「協力」にも該当するものと解される。 以上のように、本件仲介行為がいずれも販売委託制度による委託事項及び本件紹介あっせん契約で定められた条項の範囲内の行為といえることに加え、前記前提事実(3)コのとおり、原告は、東京都と本件紹介あっせん契約を締結し、被告を東京都に紹介あっせんしたことの委託料として東京都から1億1026万8000円(税込)を受領したことを総合すると、原告の被告に対する本件仲介行為は、客観的にみて、被告のためにしたものということはできず、「他人のために」した行為(商法512条)に該当すると認めることはできない。 イ 原告は、本件仲介行為がなければ被告は上記事業予定者として選定されることはなかったこと、被告は本件開発事業により多くの利益を受けたこと、原告は被告から何らの対価を受けていないことから、本件仲介行為は被告のためにした行為と認められると主張する。 しかし、販売委託制度に基づく仲介等の業務がされなければ事業予定者として東京都に選定されることはないという点や、東京都に選定された事業予定者が事業を遂行することにより利益を得るという点は、販売委託制度が利用された事業一般にいえることであるから、原告による本件仲介行為が被告のためにした行為であることを根拠付ける事情とは認められない。 また、原告が被告から何らの対価も受けていないという点についてみても、上記のとおり、被告が本件開発事業を進めることにより利益を受けること自体は販売委託制度から当然に想定される事態であるから、そのことに関して被告から原告に対価の支払がされていないからといって、本件仲介行為が客観的にみて被告のためにした行為とはいえないとの前記アの判断が覆されるものではない。 ウ 原告は、本件仲介行為が本件紹介あっせん契約の締結より前にされたことから、本件仲介行為は被告のためにする意思をもってされたと主張する。 しかし、前記前提事実(2)イ(イ)のとおり、販売委託制度においては、受託者からあっせん紹介があった譲受け希望者が譲受人に決定したときに、東京都と当該受託者との間で紹介あっせん契約を締結することとされており、この紹介あっせん契約は、東京都が譲受人との間で土地売買契約を締結し、かつ、売買代金が完納され、指定宅地を引き渡したときに成立することとされている。したがって、原告と東京都が本件紹介あっせん契約を締結したのが本件仲介行為の後のことであることは、販売委託制度の仕組みからして当然のことであって、本件仲介行為が被告のためにした行為であることを基礎付けるものではない。 エ その他、原告は、本件開発事業の計画の作成等に関して種々の作業を実施した旨を主張するが、いずれも、販売委託制度に基づき東京都から委託された業務の域を出るものとは認められず、よって、被告のためにした行為とは認められない。 (2)争点3に関する結論 以上の次第で、争点3−2について判断するまでもなく、原告の被告に対する商法512条に基づく報酬請求には理由がない。 4 結論 よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 小川暁 裁判官 佐々木亮 別紙 物件目録 1 所在東京都八王子市鑓水二丁目 地番 108番1 地目 宅地 地積 70000.65平方メートル 2 所在東京都八王子市鑓水二丁目 地番 108番4 地目 宅地 地積 49452.25平方メートル 以上 別紙 書類目録 1 本件企画書 表題 多摩ニュータウン事業用地(G−70)事業計画ご提案書類 作成日 2017年10月17日付け 総頁数 80頁 以上 (別紙図面@及びA−省略) |
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