判例全文 line
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【事件名】プロバイダ各社への発信者情報開示請求事件J
【年月日】令和4年3月29日
 東京地裁 令和3年(ワ)第24349号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年2月24日)

判決
原告 X
同訴訟代理人弁護士 臼坂富士彦
同 森島崇行
被告 KDDI株式会社
同訴訟代理人弁護士 今井和男
同 小倉慎一
同 山本一生
被告 ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 波多江崇
同 呉竹辰
同 松岡亮
同 慶太朗
同 林里奈
同 中沢大佑


主文
1 被告KDDI株式会社は、原告に対し、別紙1発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 被告ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社は、原告に対し、別紙2発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、原告に生じた費用の14分の7と被告KDDI株式会社に生じた費用の14分の13を同被告の負担とし、原告に生じた費用の14分の4と被告ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社に生じた費用の3分の2を同被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告KDDI株式会社(以下「被告KDDI」という。)は、原告に対し、別紙3発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 被告ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社(以下「被告ソニー」という。)は、原告に対し、別紙4発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、氏名不詳者がインターネット上の投稿サイトに別紙5及び6の各投稿記事目録記載の各投稿を掲載して、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)及び肖像権を侵害したなどと主張して、経由プロバイダである被告らに対して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、別紙3及び4の各発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠(特記ない限り枝番号含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)当事者
ア 原告は、7歳と4歳の娘を持つ主婦であり、インスタグラムに日常生活における自分や家族、友人、知人らとの写真などを投稿している。上記原告のインスタグラムのフォロワー数は20万人を超えている。(甲9)
イ 被告らは、電気通信事業を営む株式会社である。
(2)本件各投稿
 氏名不詳者は、別紙5及び6の各投稿記事目録の各「投稿日時」欄記載の各日時(日本時間)に、被告らから同目録の各「IPアドレス」欄記載のIPアドレスの割り当てを受けて、インターネット上の掲示板サイト「A」(以下「本件ウェブサイト」という。)に設けられた同目録の各「スレッド」欄記載のスレッドに各投稿をした(以下、別紙5投稿記事目録の第1の投稿を「本件投稿1−1」、同目録第2の1及び2の各投稿を「本件投稿−1」及び「本件投稿1−2−2」、同目録第3の投稿を「本件投稿1−3」、別紙6投稿記事目録の第1の投稿を「本件投稿2−1」、同目録第2の投稿を「本件投稿2−2」、同目録第3の投稿を「本件投稿2−3」といい、これらを併せて「本件各投稿」という。)。
 本件各投稿の内容は、別紙5及び6の各投稿記事目録の各「侵害投稿」欄記載のとおりである(以下、別紙5投稿記事目録の第1の記事を「本件投稿記事1−1」、同目録第2の1及び2の各記事を「本件投稿記事1−2−1」及び「本件投稿記事1−2−2」、同目録第3の記事を「本件投稿記事1−3」、別紙6投稿記事目録の第1の記事を「本件投稿記事2−1」、同目録第2の記事を「本件投稿記事2−2」、同目録第3の記事を「本件投稿記事2−3」という。また、本件投稿記事1−1及び本件投稿記事1−2−1に掲載された画像を「本件写真1」、本件投稿記事1−2−2の中央に掲載された画像を「本件写真2」、本件投稿記事1−3に掲載された画像を「本件写真3」、本件投稿記事2−1に掲載された画像を「本件写真4」、本件投稿記事2−2に掲載された画像の左側のものを「本件写真5−1」、右側のものを「本件写真5−2」、本件投稿記事2−3に掲載された画像を「本件写真6」という。)。(以上(2)について甲3ないし7)
(3)被告らの本件発信者情報の保有
ア 被告KDDIは、別紙1発信者情報目録記載の各情報を保有している(争いのない事実)。
イ 被告ソニーは、別紙4発信者情報目録記載の1ないし4の各情報を保有している(争いのない事実)。
2 争点
(1)本件各投稿による原告の権利侵害の明白性
(被告KDDI関係)
ア 本件投稿1−1、同1−2−1、同1−2−2、同1−3により原告の肖像権が侵害されたことが明らかといえるか否か。
(被告ソニー関係)
イ 本件投稿2−1により原告の肖像権が侵害されたことが明らかといえるか否か。
ウ 本件投稿2−2により原告の肖像権又は著作権が侵害されたことが明らかといえるか否か。
エ 本件投稿2−3により原告の著作権が侵害されたことが明らかといえるか否か。
(2)発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無
3 争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)アないしエ(本件各投稿による原告の肖像権又は著作権侵害の有無)
【原告の主張】
ア 本件投稿1−1
 原告は、インスタグラマーとして多数のフォロワーを有する人物であるものの、一般私人であり、その肖像を無断で使用されることを受忍しなければならない社会的地位にはなく、また、第三者に写真の転載を許諾したこともない。本件投稿記事1−1は、原告について、「通称B。実際は思いっきり芋くさい面長顔のそのへんにいる凡顔おばさん。それをアプリで別人加工し盛れる自撮りが大好き」などと記載する投稿から始まるスレッドの投稿群の中の一部であり、原告の容姿を嘲笑、揶揄する文言が付されたものであって、その肖像の使用につき、正当な目的や必要性がない。そして、本件投稿記事1−1は、原告の個人攻撃をするための手段として、その容貌の誹謗中傷、侮辱の材料として、原告を撮影した静止画である本件写真1を用いており、明らかに社会生活上受忍限度を超える使用態様であり、本件投稿1−1は、原告の肖像権を侵害する。
イ 本件投稿1−2−1
 本件投稿記事1−2−1は、上記本件投稿記事1−1と同様に、原告の容貌や人格について嘲笑する趣旨の投稿に、原告を撮影した動画の静止画である本件写真1を用いており、社会生活上の受忍限度を超えており、本件投稿1−2−1は、原告の肖像権を侵害する。
ウ 本件投稿1−2−2
 本件投稿記事1−2−2は、上記本件投稿記事1−1と同様に、原告の容貌について揶揄する趣旨の投稿に、原告が美容クリニックのインターネット宣伝用に掲載を許諾した原告の施術前後の写真である本件写真2を用いており、社会生活上の受忍限度を超えており、本件投稿1−2−2は、原告の肖像権を侵害する。
エ 本件投稿1−3
 本件投稿記事1−3は、上記本件投稿記事1−1と同様に、原告の容貌を嘲笑する趣旨の投稿に、本件写真1と同じ画像と原告の友人のインスタグラムに掲載されていた写真をトリミングした画像を並べた本件写真3を用いており、社会生活上の受忍限度を超えており、本件投稿1−3は、原告の肖像権を侵害する。
オ 本件投稿2−1
 本件投稿記事2−1は、上記本件投稿記事1−1と同様に、原告の容姿を嘲笑する趣旨の投稿に原告を撮影した動画の静止画である本件写真4を用いており、社会生活上の受忍限度を超えており、本件投稿2−1は、原告の肖像権を侵害する。
カ 本件投稿2−2
(ア)本件投稿記事2−2は、上記本件投稿記事1−1と同様に、原告の容姿を嘲笑する趣旨の投稿に、原告が自らのスマートフォンで自撮りした本件写真5−1と原告が美容クリニックのモニターモデルとして撮影及びインターネット宣伝用に掲載を許諾した本件写真5−2を用いており、社会生活上の受忍限度を超えており、本件投稿2−2は、原告の肖像権を侵害する。
(イ)本件投稿記事2−2の本件写真5−1は、原告が自らのスマートフォンで自撮りした写真であり、構図、撮影アングルなどの点で原告の思想及び感情を創作的に表現したものであり、著作物であると認められ、原告は、本件写真5−1の著作権を有する。
 被告ソニーは、本件写真5−1の利用が適法な引用に当たるなどと主張するが、本件投稿2−2は、原告に対する誹謗中傷を誘発させることが目的であり、引用の目的自体が不当であり、「引用の目的上正当な範囲内」でないことは明らかであり、適法な引用には当たらない。
 したがって、本件投稿2−2は、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害する。
キ 本件投稿2−3
 本件写真6は、原告が自らのスマートフォンで原告の手と化粧品を撮影した写真であり、構図、撮影アングル、露光などの点で原告の思想及び感情を創作的に表現したものであり、著作物であると認められる。
 そして、本件写真6は原告のインスタグラムに掲載したものであること、本件件投稿2−3の日時は、「2021年5月22日11:21」であり、本件写真6には「入院中老けるわけにはいかないから持ってきてもらった」とあるところ、原告は同月20日に入院していたこと、本件写真6に写っている「C」は原告が宣伝している商品であることからすれば、本件写真6は、原告が入院中にベッドの上で撮影したものであり、原告は、本件写真6の著作権を有する。
 被告ソニーは、本件写真6の利用が適法な引用に当たるなどと主張する。しかし、本件投稿2−3は、原告に対する誹謗中傷を誘発させることが目的であり、引用の目的自体が不当であり、「引用の目的上正当な範囲内」でないことは明らかであり、適法な引用には当たらない。
 したがって、本件投稿2−3は、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害する。
【被告KDDIの主張】
ア 本件投稿1−1、同1−2−1、同1−2−2、同1−3に投稿された写真の対象が原告であるか明らかではなく、また、仮に各写真の対象が原告であったとしても、以下のとおり、いずれも原告の肖像権を侵害するものではない。
イ 本件投稿1−1
(ア)原告は、本件写真1の公表に承諾しており、肖像権を放棄している。
 また、原告は、インスタグラマーであり、自己の容貌等についての写真等のインターネットへの公開について、一般人よりも受忍しなければならない社会的地位にあるところ、本件投稿記事1−1の内容は、原告の姿を写した写真と「さわやかだと思います」という投稿者の感想を述べるものにすぎず、原告の名誉やプライバシーを侵害するものではない。そして、インスタグラマーである原告をテーマとして会話をするためには、その話題として本件投稿1−1をする必要性もある。したがって、本件投稿1−1は、社会通念上受忍すべき限度を超えるものではなく、違法な肖像権の侵害があったとはいえない。
(イ)また、インターネット上に写真等を発表した場合には、それに対して肯定的な反応も否定的な反応も存在するのが当然であり、発表者は否定的な反応についてもそれを甘受する義務があるところ、本件投稿1−1は、原告の写った画像に対する当然予想され得る反応として社会通念上許される範囲内でされたものであり、これを違法なものとすること自体失当であり、違法性はない。
ウ 本件投稿1−2−1
 原告は、本件写真1の公表に承諾しており、肖像権を放棄している。また、本件投稿記事1−2−1の表現は、簡潔で具体性もない表現であり、意見を述べたものにすぎない上に、上記イのとおり原告がインスタグラマーであることなどに照らせば、本件投稿1−2−1における本件写真1の掲載が社会通念上受忍限度を超えていることが明らかとはいえず、原告の肖像権を侵害したことが明らかとはいえない。
エ 本件投稿1−2−2
 原告は、本件写真2のインターネット上の掲載に承諾しており、肖像権を放棄している。また、本件投稿記事1−2−2の表現は、簡潔で具体性もない表現にすぎない上に、上記イのとおり原告がインスタグラマーであることなどに照らせば、本件投稿1−2−2における本件写真2の掲載が社会通念上受忍限度を超えていることが明らかとはいえず、原告の肖像権を侵害したことが明らかとはいえない。
オ 本件投稿1−3
 原告は、本件写真3について友人が自らのインスタグラムに掲載することについて承諾しており、肖像権を放棄している。また、本件投稿記事1−3の表現は、投稿者の意見を述べたものにすぎず、かつ簡潔な表現である上に、上記イのとおり原告がインスタグラマーであることなどに照らせば、本件投稿1−3における本件写真3の掲載が社会通念上受忍限度を超えていることが明らかとはいえず、原告の肖像権を侵害したことが明らかとはいえない。
【被告ソニーの主張】
ア 本件投稿2−1、同2−2に投稿された本件写真4、本件写真5の対象が原告であるか明らかでなく、また、仮に各写真の対象が原告であったとしても、以下のとおり、いずれも原告の肖像権を侵害するものではない。
イ 本件投稿2−1
 原告は、商品の宣伝・広告により金銭を得るインスタグラマーであり、そのフォロワー数は22万人を超えており社会的影響力は大きく、肖像の使用を一定程度受忍すべき立場にある。本件投稿2−1は、原告の容姿に関する投稿であるところ、原告の容姿を摘示する場合において、原告の肖像が撮影された写真はその容姿を最も正確かつ簡明に描写することができる手段であると同時に、摘示する容姿に関する評価の根拠となるものといえる。そして、本件投稿2−1は、原告が宣伝・広告する商品に関する正確な情報を提供しようとする公益的な目的で投稿されたものである可能性があり、かつ、その目的のための必要不可欠な最小限度の方法であるといえる。本件投稿2−1における本件写真4は、原告の明示又は黙示の承諾を得てSNS上に投稿された可能性が高く、原告は、本件写真4の肖像権を放棄した可能性があり、また、肖像権の放棄とまで認められないとしても、本件写真4に係る原告の肖像の要保護性は大幅に低いといわざるを得ない。
 以上によれば、本件投稿2−1における原告の肖像の使用が社会生活上受忍の限度を超えるとはいえない。
ウ 本件投稿2−2
(ア)肖像権侵害について
 本件投稿2−2は、原告の容姿に関する投稿であるところ、上記イと同様に、原告の社会的地位・活動内容に鑑みれば、原告は肖像の使用を一定程度受忍すべき立場にある。他方で、本件投稿2−2の投稿者は正当な目的のために必要不可欠な最小限度の方法として原告の肖像を使用しているにすぎず、かつ、使用された原告の肖像は、本件投稿2−2以前の時点で原告の明示又は黙示の承諾の下で公開されたものであり、要保護性が認められないか、少なくとも非常に小さいことからすれば、本件投稿2−2における原告の肖像の使用が社会生活上受忍の限度を超えるとはいえない。
(イ)著作権侵害について
 本件写真5−1は、原告と思しき女性を単に正面から撮影したにすぎず、構図、撮影アングルのいずれの点についてもありふれた表現にとどまっており、創作性が表れているとはいえない。また、原告が本件写真5−1を撮影したことが客観的に明らかとはいえず、原告に著作権が帰属しているとはいえない。したがって、本件投稿2−2により原告の著作権が侵害されたとはいえない。
 また、本件投稿2−2は、「自撮りと全然違います」という主題の例証として、本件写真5−1を引用しており、主従関係がないとはいえず、かつ、明瞭区分性も認められ、「引用」に該当する。また、スレッドに写真を投稿する行為自体が特定の慣行に反する利用態様に該当することはないため、「公正な慣行に合致するもの」といえる。そして、上記写真を掲載した目的は、原告が紹介する商品を購入する消費者にとって重要な関心事を伝達することにある可能性があり、その方法は、原告の承諾の下で公開済みの写真を対照しやすいように並べて掲載するというものであり、目的達成のために合理的かつ必要最小限度の行為であり、「引用の目的上正当な範囲内」といえる。したがって、本件写真5−1の投稿は、適法な引用であり、原告の著作権を侵害しない。
エ 本件投稿2−3
 本件写真6は、商品を単に正面から撮影したにすぎず、構図、撮影アングルのいずれの点についてもありふれた表現にとどまり、創作性が表れているとはいえない。また、原告が本件写真6を撮影したことが客観的に明らかとはいえず、原告に著作権が帰属しているとはいえない。
 また、本件写真6は、原告がステルスマーケティングを意味する「ステマ」を行っているという趣旨の文章と共に投稿されており、上記ウと同様に、「引用」の要件を満たすことから、本件写真6の投稿は、原告の著作権を侵害しない。
(2)争点(2)(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)
【原告の主張】
 原告は、本件各投稿の投稿者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求等を行うために、本件発信者情報の開示を受ける必要があり、開示を受けるべき正当な理由がある。
【被告らの主張】
 原告の主張は争う。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
(1)本件ウェブサイトには、令和元年12月に「インスタD-2X」という原告の実名を付したスレッドが作成され、以降、令和3年6月2日時点までに「インスタD-2X-2」ないし「インスタD-2X-26」などの原告の実名を付した合計27件のスレッド(以下、これらの原告の実名を付したスレッドを「本件スレッド」と総称する。)が作成された。本件スレッドのうちの「インスタD-2X-17」というタイトルのスレッドの投稿番号40の投稿が本件投稿2−1であり、投稿番号461の投稿が本件投稿1−1であり、「インスタD-2X-18」というタイトルのスレッドの投稿番号590の投稿が本件投稿2−2であり、「インスタD-2X-19」というタイトルのスレッドの投稿番号14の投稿が本件投稿1−2−1であり、投稿番号955の投稿が本件投稿1−2−2であり、「インスタD-2X-23」というタイトルのスレッドの投稿番号756の投稿が本件投稿1−3であり、「インスタD-2X-24」というタイトルのスレッドの投稿番号975が本件投稿2−3である。(甲2ないし7)
(2)「インスタD-2X-17」というタイトルのスレッドの冒頭には、「通称B。実際は思いっきり芋くさい面長顔のそのへんにいる凡顔おばさん。それをアプリで別人加工し盛れる自撮りが大好き。(鏡に映る実像をどうやって脳内変換しているのか教えてくれw)主な収入源は詐欺ステマ。フォロワーを騙しても心傷むことなくブランド品を買い漁りたいがためにステマステマステマのオンパレード。(ステマをしないとエルメスもカルティエも買えません!)上品ぶっていても発信される内容は口が悪いし何様発言が多くてほんとイタイ…多摩川を越えての青山セカンドハウス物語〜週末は背景が変わりますwオーダー中のだっさいセンスのインテリアにも乞うご期待!(今はリース家具ってことらしいからw)突っ込みどころ満載なおもしろBさんのファンスレをぜひ楽しんでw」との記載がある(甲2の6、10の2)。
 上記スレッドには、「スタイルは加工なし?」(投稿番号37)、「実物は短足だから足長加工必須だよ」「クリアのサイト見たらわかる」「顔を載せてなくても5等身ぐらいって一目瞭然」「顔長いんだもん」(同38)、「顔むちゃくちゃデカい!」(同39)との記載がある各投稿がされており、それらの投稿の後に、本件投稿2−1(同40)がされた。そして、本件投稿2−1に対して、「>>40これは撮る角度が悪すぎてすごいバランスになってるけど顔の長さは角度の問題でなくてこのまんまだよねww」(同43)、「>>40田舎の寂れたスナックにいるホステスみたいですね」(同44)などの記載がある各投稿がされた(甲3の1)。
 また、上記スレッドには、本件投稿1−1(投稿番号461)もされており、本件投稿1−1に対して、「>>461これこそ本物だ!」(同553)、「>>461Xさんて倖田來未に似てる」(581番)、「ノえぇ――――――――」(同709)などの記載がある各投稿がされた(甲3の2、10の2)。
(3)「インスタD-2X-18」というタイトルのスレッド冒頭には、上記(2)のスレッドの冒頭と同様の記載がある(甲2の7)。
 上記「インスタD-2X-18」のスレッドには、「ほんとになんであんな頭長いの?」(投稿番号582)、本件写真1と共に「ちなみに「実物はさわやか」っていうのはさわやかな人っていう意味ではなくコレからきてるから(笑)」との記載がある投稿(同584)、「>>584え…実物これ?40歳ぐらい?」(同587)との記載等がある投稿がされ、それらの投稿の後に、本件投稿2−2(同590)がされた。本件投稿2−2に対して、「>>590これで満面の笑みで自宅でポーズ決めて一人で自撮りしてるの凄いよね」(同597)などの記載がある投稿がされた(甲4)。
(4)「インスタD-2X-19」というタイトルのスレッドの冒頭には、上記(2)のスレッドの冒頭と同様の記載がある(甲2の8)。
 上記「インスタD-2X-19」のスレッドには、「シジミ目で余白多すぎ」(投稿番号4)、「ここでシジミ目言われてるから、キー!フンガフンガ!で今さらなる加工中なんでしょ笑誰よりも加工しないと、見栄っ張りだから笑悔しくて悔しくて今のままでは投稿できないんでしょ笑自分が一番可愛く写ってないとね」(同6)、「皆で投稿前に加工回ししなかったんだろうか。いつもより加工あまめだよね。」(同8)、「無加工なわけないさわやか見て!」(同12)などの記載がある各投稿がされ、それらの投稿の後に、本件投稿1−2−1(同14)がされた。本件投稿1−2−1に対して、「さわやかの顔の、ほんと怖いw40代後半のおばさんにしか見えないw」(同15)、「>>1446歳くらいに見えた別人だ」(同16)、「>>14ノーマルカメラはこれだもんね」(同162)などの記載がある各投稿がされた(甲2の8、5の1)。
 また、上記スレッドには、「なぜこんな叩かれるんですか?普通に美人だし、恨まれるような事したの?普通に街歩いてたら振り返る様な人だと思う」(投稿番号954)などの記載がある投稿の後に、本件投稿1−2−2(同955)がされた。本件投稿1−2−2に対して、「>>954うん、私も振り返って2度見してしまうと思うw」(同957)などの記載がある投稿がされた(甲5の2)。
(5)「インスタD-2X-23」というタイトルのスレッドの冒頭には、「通称B。実際の顔はシジミ目キンタロー似。そのへんにいる面長の凡顔おばさん。それをアプリで韓国風美女に鬼加工して盛りまくった自分が大好き。(鏡に映る実像をどうやって脳内変換しているのか教えてくれw)主な収入源は詐欺ステマ。フォロワーを騙しても心傷むことなくブランド品を買い漁りたいがためにステマステマステマのオンパレード。(ステマをしないとエルメスもカルティエも買えません!ステマ収入の税金対策にダミー会社も立ち上げてま〜す!)上品ぶっていても発信される内容は口が悪いし何様発言が多くてほんとイタイおばさん…多摩川を越えての青山セカンドハウス物語〜週末は背景が変わりますwオーダー中のだっさいセンスのインテリアにも乞うご期待!(今はリース家具ってことらしいからw)突っ込みどころ満載なおもしろBさんのファンスレをぜひ楽しんでw」との記載がある(甲2の12)。
 上記スレッドには、本件投稿1−3(投稿番号756)がされ、その後に、「光ったプロテだけは同じだねお子さんからもお友達?からもおもしろい人認定されてるし、変な人なんでしょ」(同757)などの記載がある投稿がされた(甲6、10の3)。
(6)「インスタD-2X-24」というタイトルのスレッドの冒頭には、上記(5)と同様の記載がある(甲2の13)。
 上記スレッドには、本件投稿2−3(投稿番号975)がされ、その後に、「>>975ネイル伸びすぎじゃない?w」(同992)などの記載がある投稿がされた(甲7)。
(7)上記(1)ないし(6)の各スレッド以外の本件スレッドの冒頭には、上記のスレッドと同趣旨の記載又は、「セレブに憧れるロバ顔代表、庶民派主婦。ティファニーの指輪の値段自ら公開24万ドヤwww薬事法違反に引っかかりそうで焦り中wB」との記載(「インスタD-2X」の冒頭)、「通称B。実際は思いっきりオカメ顔なのに加工アプリでドヤる自撮り大好きババア。主な収入源は詐欺サプリステマとセンスの悪いオリジナルアパレルブランド。見栄張ってエルメス購入も楽天とかw上品ぶっていても発信される言動は口が悪く勘違いが甚だしいため、ただただイタイ…。そんなツッコミどころ満載な面白すぎるBのファンスレですw」(「インスタD-2X-4」の冒頭)などの記載がされている。(甲2)
(8)本件スレッドには、本件各投稿前の時点において、本件写真1と同様の画像と共に「法令線ないね、、、???」との記載がある投稿(「インスタD-2X」投稿番号826)やこれに対して「なんかクサそう。。。誰?」との返信コメント(同831)、本件写真1と同様の画像と共に「インスタとは別人のさわやかなXさんのことですよwほんとXさんって面白いですよねw」との記載がある投稿(「インスタD-2X4」投稿番号993)、本件写真1と同様の画像と共に「何をどうして他撮りさわやかが自撮りであのかおになるのか教えてほしい」との記載がある投稿(「インスタD-2X-11」投稿番号647)やこれに対して「これまじ?インスタを見慣れてるせいかこれが加工してるように見える。この顔みて実物お綺麗でした□ってDM送る人いるの…?」(同653)や「衝撃!これでどうやったら色んな所でポーズ決めて写真撮って自撮りまでしてマウント取れるの?」(同667)との返信コメント、本件写真1と同様の画像と共に「さわやかは裸眼?」との記載がある投稿(「インスタD-2X15」投稿番号894)やこれに対して「これ最近ですか??igと違いすぎて…」(同897)や「>>894を見てから言おう。これでも弄った後だからね。まだ加工が必要って…」(同961)、「いや〜アプリって本当凄いなと実感」(同971)などの返信コメントが投稿されている(甲2の2、2の3、2の4、2の5)。
(9)本件各写真について
ア 本件写真1は、原告の知人が飲食店において原告を撮影した動画に「初さわやかの人」との文字を加えて同知人のインスタグラムのアカウントにストーリーという24時間限定で公開される態様で掲載された動画の一場面の静止画の画像であり、原告の顔や上半身等が写っている(甲2の2、9、弁論の全趣旨)。
イ 本件写真2は、原告が美容クリニックのモニターモデルとして撮影され、同クリニックのインターネット上での宣伝用掲載を許諾した画像であり、原告の顔が写っている(甲9、弁論の全趣旨)。
ウ 本件写真3は二つの画像を左右に並べたものであり、左側の画像は、本件写真1のうち原告の顔等を残して左右等を切除した画像であり、右側の画像は、原告の友人が原告と友人らを撮影し、原告の友人のインスタグラムに掲載された画像のうち原告の顔等が写っている部分の画像である(甲9、弁論の全趣旨)。
エ 本件写真4は、原告の夫が原告を撮影した動画の静止画の画像であり、原告の夫のインスタグラムのアカウントにストーリーという24時間限定で公開される態様で掲載されたものであり、歩いている原告の顔や全身等が写っている(甲9、14、弁論の全趣旨)。
オ 本件写真5−1は、原告のインスタグラム上に掲載していた原告の顔等が写っている写真の一部の画像である。また、本件写真5−2は、原告が美容クリニックのモニターモデルとして撮影され、同クリニックのインターネット上での宣伝用掲載を許諾した写真であり、原告の顔等が写っている。(甲8の2、9、弁論の全趣旨)
カ 本件写真6は、「C」という文字等が記載されたラベルの付された商品とそれを持っている手の指が撮影された写真の画像に、「入院中老けるわけにはいかないから持ってきてもらった」、「とりあえず早く寝て肌ぴかぴかにする。売店にパック売ってるかな」との文言が加えられた画像である(甲7)。
2 争点(1)ア・イ(本件投稿1−1ないし本件投稿2−1による原告の肖像権侵害)について
(1)人の肖像は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有する。そして、当該個人の社会的地位・活動内容、利用に係る肖像が撮影等されるに至った経緯、肖像の利用の目的、態様、必要性等を総合考慮して、当該個人の人格的利益の侵害が社会生活上の受忍の限度を超える場合には、当該個人の肖像の利用は肖像権を侵害するものとして、不法行為法上違法になると解するのが相当である。
(2)本件投稿1−1について
ア 本件スレッドは、スレッド名に原告の実名を含んだものであり、その各冒頭には原告を揶揄し、誹謗中傷する内容の記載がされ、本件スレッド内の投稿も、原告の写真を貼り付けるなどして原告の容姿を揶揄したり、原告を誹謗中傷したりするなどの内容が多く含まれているといえること(前記認定事実(1)ないし(8))からすれば、本件スレッドは、原告の容姿等を揶揄し、誹謗中傷することを目的として設けられたものであり、そこでの投稿も、その目的を認識した上で、その目的のためにされたものが多いと認められる。
 本件投稿記事1−1は、飲食店において原告を撮影した動画の静止画の画像である本件写真1と共に「さわやかだと思います」とのコメントを付したものである(前記前提事実(2)、認定事実(9)ア)ところ、本件スレッドにおいて、「さわやか」という言葉が本件写真1と共に原告の容姿を揶揄する形でたびたび用いられていること(前記認定事実(8))、本件投稿1−1後にこれに呼応した投稿もされていること(同(2))からすれば、本件投稿記事1−1は、本件スレッドにおける原告の容姿等を揶揄し、誹謗中傷する投稿の一環として、本件写真1と共に「さわやか」という言葉を用いて、原告の容姿を揶揄し、誹謗中傷するものといえる。
 他方、本件スレッドは、原告の容姿等を揶揄し、誹謗中傷することを目的として設けられたものであり、本件投稿記事1−1の前後の投稿記事をみても、本件投稿記事1−1において、本件写真1を用いる必要性は見当たらない。また、本件写真1は、原告の知人のインスタグラムのアカウントにストーリー機能を用いた24時間限定という態様で公開されていたものであり(前記認定事実(9)ア)、原告もその範囲では本件写真が広く一般に閲覧されることを承諾していたとはいえるものの、原告がその範囲を超えて前記のような性質の本件スレッドに掲載することまで承諾していたと認めることはできない。
 これらの事情に鑑みれば、原告がインスタグラム上で自己の写真等を掲載しつつ商品の紹介宣伝等を通じて収益を得ているなどの原告の社会的地位又は活動内容などを考慮したとしても、前記のような性質を有する本件スレッドにおいて、本件投稿記事1−1のような形で原告の肖像を用いることは、原告の社会通念上の受忍限度を超えるものであるというべきである。
 したがって、本件投稿1−1によって、原告の肖像権が侵害されたことは明らかというべきである。
イ 被告KDDIは、本件投稿記事1−1の内容は、原告の姿を写した写真と「さわやかだと思います」という投稿者の感想を述べるものにすぎず、原告の名誉やプライバシーを侵害するものではないなどと主張する。
 しかしながら、本件スレッドにおいて、「さわやか」という言葉が原告の容姿を揶揄する趣旨でたびたび用いられていたことは前記のとおりである。また、本件投稿1−1は、前記のとおり、本件スレッドにおける原告の容姿等を揶揄し、誹謗中傷する投稿の一環としてされたものと位置付けることができ、本件投稿記事1−1が単に投稿者の感想を述べたものとはいえず、原告の容姿を揶揄し、誹謗中傷するものというべきである。このような内容の投稿を原告の容姿等を揶揄し、誹謗中傷することを目的に設けられた本件スレッドに行うことは原告の肖像権を侵害することは前記のとおりである。被告KDDIの上記主張を採用することはできない。
(3)本件投稿1−2−1について
 本件投稿記事1−2−1は、本件写真1と共に「中々香ばしい方ですね(笑)これが真実の姿ですか?」などのコメントを付したものである(前記前提事実(2))ところ、本件スレッドが前記のとおり、原告の容姿等を揶揄し、誹謗中傷することを目的として設けられたものといえること、本件投稿記事1−2−1の前後の投稿記事も原告が自身の写真を加工して投稿しており、実物が劣っていることなどを指摘する趣旨の投稿といえること(前記認定事実(4))からすれば、本件投稿記事1−2−1は、本件スレッドにおける原告の容姿等を揶揄し、誹謗中傷する投稿の一環として、本件写真1と共に上記コメントを用いて原告の容姿を揶揄し、誹謗中傷するものといえる。
 他方、本件投稿記事1−2−1において、本件写真1を用いる必要性は見当たらず、また、前記のとおり、原告が前記のような性質の本件スレッドに本件写真1を掲載することを承諾していたと認めることもできない。
 これらの事情に鑑みれば、原告の社会的地位又は活動内容を考慮したとしても、前記のような性質の本件スレッドにおいて、本件投稿記事1−2−1のような形で原告の肖像を用いることは、原告の社会通念上の受忍限度を超えるものであるというべきである。
 したがって、本件投稿1−2−1によって、原告の肖像権が侵害されたことは明らかというべきである。
(4)本件投稿1−2−2について
 本件投稿記事1−2−2は、原告を撮影したもので美容クリニックのインターネット上での宣伝用掲載を原告が許諾した画像である本件写真2と共に「こういう写真見てから言ってる?w」とのコメントを付したものである(前記前提事実(2)、認定事実(9)イ)ところ、本件投稿記事1−2−2は、原告について「なぜこんな叩かれるんですか?普通に美人だし、恨まれるような事したの?普通に街歩いてたら振り返る様な人だと思う」との投稿に対する応答としてされ、本件投稿記事1−2−2に呼応して原告を揶揄する投稿もされている(前記認定事実(4))。そして、本件スレッドが前記のとおり原告の容姿等を揶揄し、誹謗中傷することを目的として設けられたものといえることに照らせば、本件投稿記事1−2−2は、本件スレッドにおける原告の容姿等を揶揄し、誹謗中傷する投稿の一環として、本件写真2と共に上記コメントを用いて、原告の容姿を揶揄し、誹謗中傷する趣旨のものといえる。
 他方、本件投稿記事1−2−2において本件写真2を用いる必要性は見当たらない。また、本件写真2は、原告が美容クリニックのインターネット上での宣伝のために掲載を承諾していたものではある(前記認定事実(9)イ)が、原告がその範囲を超えて前記のような性質の本件スレッドに本件写真2を掲載することを承諾していたと認めることはできない。
 これらの事情に鑑みれば、原告の社会的地位又は活動内容を考慮したとしても、前記のような性質の本件スレッドにおいて、本件投稿記事1−2−2のような形で原告の肖像を用いることは、原告の社会通念上の受忍限度を超えるものであるというべきである。
 したがって、本件投稿1−2−2によって、原告の肖像権が侵害されたことは明らかというべきである。
(5)本件投稿1−3について
 本件投稿記事1−3に付された本件写真3の左側の画像は本件写真1のうち原告の顔の部分等を残すなどして左右を切除した画像であり、右側の画像は、原告の友人のインスタグラムに掲載された画像のうち原告の顔が写っている部分の画像である。本件投稿記事1−3は、上記のような二つの写真を左右に並べて、「最近加工が過ぎない?同一人物なの?」とのコメントを投稿したものである(前記前提事実(2)、認定事実(9)ウ)。本件スレッドは、前記のとおり、原告の容姿等を揶揄し、誹謗中傷することを目的として設けられたものといえ、また、本件投稿1−3の後に、「>>756光ったプロテだけは同じだねお子さんからもお友達?からもおもしろい人認定されてるし、変な人なんでしょ」との投稿がされており(前記認定事実(5))、本件投稿1−3は、原告を揶揄し、誹謗中傷する投稿を誘発していることに照らしても、本件投稿記事1−3は、本件スレッドにおける原告の容姿等を揶揄し、誹謗中傷する投稿の一環として、本件写真3と共に上記コメントを用いて、原告の容姿を揶揄し、誹謗中傷する趣旨のものといえる。
 他方、本件投稿記事1−3において本件写真3を用いる必要性は見当たらない。また、本件写真3は、原告の知人のインスタグラムに掲載された写真であり(前記認定事実(9)ウ)、原告がその範囲では公開を承諾していたとはいえるものの、原告がその範囲を超えて前記のような性質の本件スレッドに掲載することを承諾していたと認めることはできない。
 これらの事情に鑑みれば、原告の社会的地位又は活動内容を考慮したとしても、前記のような性質の本件スレッドにおいて、本件投稿記事1−3のような形で原告の肖像を用いることは、原告の社会通念上の受忍限度を超えるものであるというべきである。
 したがって、本件投稿1−3によって、原告の肖像権が侵害されたことは明らかというべきである。
(6)本件投稿2−1について
 本件投稿記事2−1は、原告を撮影した動画の一場面の静止画の画像である本件写真4と共に、「>>37スタイルこんな感じ」とのコメントを付したものである(前記前提事実(2)、認定事実(9)エ)。本件投稿2−1は、「スタイルは加工なし?」(投稿番号37)に対する応答としてされており、本件投稿2−1の前後にも原告の容姿を揶揄し、誹謗中傷する内容の投稿がされていること(前記認定事実(2))、本件スレッドは、前記のとおり、原告の容姿等を揶揄し、誹謗中傷することを目的として設けられたものといえることに照らせば、本件投稿記事2−1は、本件スレッドにおける原告の容姿等を揶揄し、誹謗中傷する投稿の一環として、本件写真4と共に上記コメントを用いて、原告の容姿を揶揄し、誹謗中傷する趣旨のものといえる。
 他方、本件投稿記事2−1において本件写真4を用いる必要性は見当たらない。また、本件写真4は、原告の夫のインスタグラムのアカウントに24時間限定という態様で公開されたものであり(前記認定事実(9)エ)、原告がその範囲では公開を承諾していたとはいえるものの、その範囲を超えて前記のような性質の本件スレッドに掲載することを承諾していたと認めることはできない。
 これらの事情に鑑みれば、原告の社会的地位又は活動内容を考慮したとしても、前記のような性質の本件スレッドにおいて、本件投稿記事2−1のような形で原告の肖像を用いることは、原告の社会通念上の受忍限度を超えるものであるというべきである。
 したがって、本件投稿2−1によって、原告の肖像権が侵害されたことは明らかというべきである。
3 争点(1)ウ・エ(本件投稿2−2、2−3による著作権侵害の有無)
(1)本件投稿2−2について
 原告は、本件投稿2−2が原告の肖像権又は著作権を侵害すると選択的に主張することから、以下、本件投稿2−2による著作権侵害の有無について検討する。
ア 前記認定事実(9)オ、証拠(甲8の2、9)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿記事2−2に付された本件写真5−1は、原告が自身のスマートフォンで自らを撮影し、自身のインスタグラム上に掲載していた写真(以下「本件原告写真5−1」という。)について、原告の顔を残す形で左右を切除等した画像であると認められる。本件原告写真5−1は、構図やアングル、露光などを組み合わせた創作的な表現であるといえ、写真の著作物といえ、原告は、本件原告写真5−1の著作権者と認めることができる。そして、本件写真5−1の内容によれば、本件写真5−1から本件原告写真5−1の表現上の本質的特徴を感得することができる。そうすると、本件投稿2−2は、本件ウェブサイト上の本件スレッドに本件写真5−1を投稿するものであるところ、これにより、自動公衆送信装置である対応するサーバーに本件写真5−1を蔵置して記録し自動公衆送信し得るようにしたものであり、原告の複製権及び公衆送信権を侵害するものというべきである。
イ 被告ソニーは、本件投稿記事2−2において本件写真5−1を掲載することは、適法な引用(著作権法32条1項)に当たるなどと主張する。
 しかしながら、本件投稿記事2−2は、本件写真5−1と同5−2を並べて「自撮りと全然違います」というコメントを付したものであり(前記前提事実(2)、認定事実(9)オ)、前記のような本件スレッドの性質や本件スレッドの他の投稿記事の内容を踏まえれば、本件投稿記事2−2は、本件写真5−1を用いて、原告の容姿を揶揄し、誹謗中傷する趣旨のものというべきである。そして、本件投稿記事2−2のコメント部分はわずか10文字であり、本件写真5−1が相当部分を占めていることを併せて考えれば、本件投稿記事2−2において、本件写真5−1を利用することが。「公正な慣行に合致」し「引用の目的上正当な範囲内」で行われたものということはできず、著作権法32条1項の引用が成立するとはいえない。上記被告ソニーの主張を採用することはできない。
ウ 以上によれば、本件投稿2−2は、原告の複製権及び公衆送信権を侵害しており、他に著作権法上の権利制限事由の存在など著作権侵害の成立を阻却する事由も認められない。
 したがって、本件投稿2−2によって、原告の複製権及び公衆送信権が侵害されたことは明らかといえる。
(2)本件投稿2−3について
 本件写真6は、「C」という文字等が記載されたラベルの付された商品とそれを持っている手の指を撮影した写真(以下「本件原告写真6」という。)に文字を入れるなどして加工した画像であるところ、当該画像からは、本件原告写真6を誰が撮影したか明らかではない。
 原告は、本件写真6が原告の入院中に投稿されたものであり、その頃、原告が入院していたこと、また、上記商品が原告が宣伝していた商品であり、原告のインスタグラムに本件写真6が掲載されていたことから、原告が本件原告写真6の撮影者であるなどと主張する。しかしながら、本件写真6の投稿時期と原告の入院時期が重なっていたり、また、原告が宣伝していた商品であったとしても直ちに本件原告写真6の撮影者が原告であるとはいえない。
 また、原告のインスタグラムには、原告の知人やカメラマンなど原告以外の者が撮影した写真も掲載されていると原告が陳述しており(甲9)、原告のインスタグラムに本件写真6が掲載されていたとしても、原告が撮影したと認めるには足りない。以上によれば、上記原告の主張を前提としても、原告が本件原告写真6の撮影者であると認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。
 したがって、原告が本件原告写真6の撮影者であると認めることはできず、他に原告が本件原告写真6の著作権を有していることを認めるに足りる証拠はなく、本件投稿記事2−3が原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害しているということはできない。
4 争点(2)(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)
 証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件投稿1−1ないし2−2をした発信者らに対し、肖像権又は著作権(複製権、公衆送信権)侵害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求をする意思を有していることが認められるところ、原告が損害賠償請求権を行使するためには、発信者を特定する発信者情報について開示を受ける必要があるといえ、その開示を受けるべき正当な理由があると認めることができる。
5 結論
 以上のとおり、本件投稿1−1、同1−2−1、同1−2−2、同1−3、同2−1により原告の肖像権が侵害されたがことが明らかといえ、また、本件投稿2−2により原告の著作権が侵害されたことが明らかといえるところ、被告KDDIは、別紙1発信者情報目録記載の各情報を保有していることが認められ、他方、本件投稿1−3の投稿者に係るメールアドレスを保有していると認めるに足りる証拠はなく、また、被告ソニーは、別紙2発信者情報目録の1ないし4の各情報を保有していると認めることができる。
 よって、原告の請求は、主文の限度で理由があるから認容することとし、その余の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 棚井啓
 裁判官 仲田憲史


別紙1 発信者情報目録
(被告KDDI株式会社関係)
1 別紙5投稿記事目録記載の第1及び第2の各「IPアドレス」を同目録記載の各「投稿日時」(JST)に使用し、同目録記載の各「接続先IPアドレス」に接続した契約者に関する以下の(1)ないし(4)の情報
2 別紙5投稿記事目録記載の第3の「IPアドレス」を同目録記載の「投稿日時」(JST)に使用し、同目録記載の「接続先IPアドレス」に接続した契約者に関する以下の(1)ないし(3)の情報
(1)氏名又は名称
(2)住所
(3)電話番号
(4)メールアドレス
 以上

別紙2 発信者情報目録
(被告ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社関係)
 別紙6投稿記事目録記載の第1及び第2の各「IPアドレス」を同目録記載の各「投稿日時」(JST)に使用し、同目録記載の各「接続先IPアドレス」に接続した契約者に関する以下の情報
1 氏名又は名称
2 住所
3 電話番号
4 メールアドレス
 以上

別紙3 発信者情報目録
(被告KDDI株式会社関係)
 別紙5投稿記事目録記載の各「IPアドレス」を同目録記載の各「投稿日時」(JST)に使用し、同目録記載の各「接続先IPアドレス」に接続した契約者に関する以下の情報
1 氏名又は名称
2 住所
3 電話番号
4 メールアドレス
 以上

別紙4 発信者情報目録
(被告ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社関係)
 別紙6投稿記事目録記載の各「IPアドレス」を同目録記載の各「投稿日時」(JST)に使用し、同目録記載の各「接続先IPアドレス」に接続した契約者に関する以下の情報
1 氏名又は名称
2 住所
3 電話番号
4 メールアドレス
 以上

別紙5 投稿記事目録
(被告KDDI株式会社関係)
第1 スレッド「インスタD-2X-17」
(本件投稿1−1)
 以下省略
第2 スレッド「インスタD-2X-19」
(本件投稿1−2−1)
 以下省略
(本件投稿1−2−2)
 以下省略
第3 スレッド「インスタD-2X-23」
(本件投稿1−3)
 以下省略
 以上

別紙6 投稿記事目録
(被告ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社関係)
第1 スレッド「インスタD-2X-17」
(本件投稿2−1)
 以下省略
第2 スレッド「インスタD-2X-18」
(本件投稿2−2)
 以下省略
第3 スレッド「インスタD-2X-24」
(本件投稿2−3)
 以下省略
 以上
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