判例全文 line
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【事件名】イエメン取材動画事件(2)
【年月日】令和4年3月28日
 知財高裁 令和3年(ネ)第10085号 損害賠償請求、同反訴請求控訴事件
 (原審・東京地裁令和元年(ワ)第16700号、令和2年(ワ)第1135号)
 (口頭弁論終結日 令和4年2月14日)

判決
控訴人 X1
同訴訟代理人弁護士 西野優花
控訴人 X2
同訴訟代理人弁護士 永井靖人
被控訴人 Y
同訴訟代理人弁護士 北永久


主文
1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 控訴人X1
(1)原判決中控訴人X1敗訴部分を取り消す。
(2)上記の部分につき、被控訴人の請求を棄却する。
(3)被控訴人は、控訴人X1に対し、1062万0425円及びうち736万1043円に対する平成30年1月23日から、うち325万9382円に対する同年4月11日から、各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 控訴人X2
(1)原判決中控訴人X2敗訴部分を取り消す。
(2)上記の部分につき、被控訴人の請求を棄却する。
第2 事案の概要(略称は、特記しない限り、原判決に従う。)
1 控訴人X1(以下「控訴人X1」という。)(当時大学4年生)とフォトジャーナリストとして活動する被控訴人は、平成30年1月27日から同年2月9日までの間、イエメンに滞在して現地の様子等の動画(本件動画)を撮影し、同月12日に帰国した。なお、控訴人X1は、同年8月25日、紛争地域の取材等を行うジャーナリストである控訴人X2(以下「控訴人X2」という。)と婚姻した。
 本件本訴は、被控訴人において、控訴人X1が、平成31年3月3日及び同月6日の2回にわたり、ウェブサービス内のブログに上記イエメンに滞在中及びその前後に被控訴人からセクシャルハラスメント(セクハラ)又はパワーハラスメント(パワハラ)を受けた旨の本件各記事を投稿し、また、配偶者である控訴人X2が、本件各記事を引用して本件各ツイートを投稿したところ、控訴人X2による本件ツイッターの投稿と控訴人X1による本件各記事の投稿は関連共同して行われたものであり、これらの行為により被控訴人の名誉が棄損され、精神的苦痛を被ったと主張して、控訴人らに対し、不法行為(共同不法行為)による損害賠償請求権に基づいて、慰謝料1500万円及びこれに対する本件各記事又は本件ツイッターの投稿後である、訴状送達の日の翌日(控訴人X1については令和元年7月14日、控訴人X2については同月17日)から支払済みまで民法(ただし、平成29年法律第44号による改正前のもの。以下、単に「民法」という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
 本件反訴は、控訴人X1が、被控訴人に対し、@イエメンに渡航中等において被控訴人からセクハラ又はパワハラを受けたことにより、精神的苦痛を被り、勤務先を休職し、通院を余儀なくされたと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づいて、慰謝料、休業損害及び通院費等の損害合計736万1043円及びこれに対する最初のセクハラ等が開始された日の後である平成30年1月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を、Aイエメン渡航中に撮影された本件動画の著作者は控訴人X1であるにもかかわらず、被控訴人が控訴人X1に無断で本件動画の記録媒体をテレビ局に提供し、本件動画が放映されて、控訴人X1の本件動画に係る著作権(複製権、頒布権)が侵害され、使用料相当額の損害を受けたのみならず、精神的苦痛を被ったと主張して、不法行為による損害賠償請求権に基づいて、使用料相当額及び慰謝料等の合計325万9382円及びこれに対する平成30年4月11日(本件動画が放映された日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。
 原判決は、本件本訴について、本件各記事は被控訴人の社会的評価を低下させるものであり、その中で摘示されている事実について真実性、相当性の抗弁は認められず、また、本件各ツイートは、控訴人X1と共同して被控訴人の社会的評価を低下させるものであり、被控訴人の受けた精神的苦痛を慰藉するには100万円が相当である旨判断して、被控訴人の請求のうち100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で認容し、本件反訴については、セクハラ及びパワハラ行為が行われたと認めることはできず、また、控訴人X1が本件動画の著作権者であるということはできない旨判断して、反訴請求をいずれも棄却した。
 これに対して、控訴人らが本件本訴の敗訴部分について、控訴人X1はこれに加えて全部棄却された本件反訴請求について、それぞれ不服があるとして控訴をした。
2 「前提事実」、「争点」及び「争点に関する当事者の主張」は、原判決28頁24行目の「原告」を「控訴人X1」に、「被告」を「被控訴人」に、29頁21行目の「被告」を「控訴人X1」にそれぞれ改め、後記3のとおり、当審における控訴人らの補充主張を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」第2の1及び、2並びに第3に記載のとおりであるから、これを引用する。
3 当審における控訴人らの補充主張
(1)控訴人X1の主張
ア 各セクハラ行為について
 原判決は、Aの証言及び控訴人X1本人の供述の信用性を否定し客観的証拠がないとして、各セクハラ行為を認定することができない旨判断した。
 しかし、各セクハラ行為を受けたという控訴人X1本人の供述は、Aの証言及び控訴人母の陳述に加え、控訴人X1の心療内科の受診の事実により裏付けられており、変遷もなければ、同控訴人が虚偽の事実を供述する動機もなく、信用することができるものであるし、十分な回避行動をとることができず、一部迎合的な態度を取ったことは、紛争地域であることと被控訴人の怒りを買うことを怖れたためであり、合理的な理由がある。したがって、原判決の事実認定は誤りである。
 なお、詳細については、別紙のとおり。
イ 各パワハラ行為について
 原判決は、被控訴人が、控訴人X1に対して、職務上の地位やこれに準ずる地位にあって優位性を有していたことはないと説示した上で、各パワハラ行為を認定しなかったが、事実認定に誤りがあるか、違法性の評価に誤りがある。
 なお、詳細については、別紙のとおり。
ウ 本件動画の著作者について
(ア)原判決は、控訴人X1が、被控訴人の持参したカメラを渡されて被控訴人が現地を取材しコメントをする様子を撮影するよう依頼され、撮影の開始や終了、アングルについて被控訴人の指示を受けつつビデオカメラを回して本件動画の撮影をしたと認定した上で、同控訴人が本件動画の著作者とは認められない旨判断した。
 しかし、イエメンの入国経験があり、現地の知識を有していたのは控訴人X1だけであって、控訴人X1が、取材をするのに適した場所を訪れて知識を仕入れ、現地住民から話を聞いて、本件動画内で行う内容を説明していたのであり、被控訴人は、取材を行う様子を動画で録画するというアイデアを提案したにすぎないから、被控訴人の依頼によって被控訴人の取材する様子を録画したことは、本件動画の著作者性を左右するものではない。また、控訴人X1は、ビデオカメラを用いて報道や取材を行ったことがないだけで、本件動画の撮影に用いられたビデオカメラが特殊な機材であるといった事情もないから、控訴人X1がビデオカメラの操作方法や撮影方法の基本等について被控訴人から説明や指導を受けた旨の原判決の事実認定は誤りであり、控訴人X1が、被控訴人のビデオカメラを使用して本件動画を録画したことは、著作者性とはおよそ無関係の事情である。さらに、控訴人X1は、本件動画撮影の開始や終了、アングルについて、被控訴人から指示を受けた事実もなく、乙A第23号証の1及び15等のごく一部で被控訴人が合図を出しているにすぎない。
 のみならず、紛争地域であるイエメン滞在中に医療施設や行政機関に対する取材が行われていないことは、大学生であった控訴人X1が本件動画の内容を決定していたことを推認させるものである。
 したがって、控訴人X1は本件動画の著作者でない旨の原判決の判断は誤りである。
(イ)仮に、原判決の事実認定によるとしても、本件動画の撮影を直接行ったのは控訴人X1であり、同控訴人が訪問先についてアイデアを出しており、現地で同控訴人と被控訴人が相談しつつ取材先を決めていたのであり、報道映像の特性に鑑みれば、同控訴人が本件動画の全体的形成に創作的に寄与したといえるから、本件動画は、少なくとも、同控訴人と被控訴人の共同著作物であるといえる。
(2)控訴人X2の主張
 原判決は、控訴人X2が控訴人X1の配偶者であり、本件各ツイートの投稿時期と内容を踏まえ、本件各ツイートは、被控訴人からセクハラ及びパワハラ行為を受けたとの控訴人X1の主張に共感し、被控訴人がセクハラ及びパワハラ行為を行い、その被害者が出ているとの事実を控訴人X2が自ら摘示するものである旨判断した。
 しかし、控訴人X2は、実績のあるジャーナリストであり、本件各ツイートは、控訴人X2のジャーナリストとしての業務に使用されているアカウントから行われているから、本件各ツイートの投稿は、控訴人X2のジャーナリストとしての活動の一端として行われたものである。ジャーナリストが取材を行うべき対象について共感し、それを拡散すべき旨考えたかどうかという問題と、取材対象者の行った行為と自らの取材行為との間に関連共同性が認められるかは全く別問題であり、取材対象者が配偶者であるか否かは関係しない。控訴人X2は、控訴人X1から本件各記事を投稿する前にセクハラについては知らされていないし、本件各記事の草稿を見せられたり相談を受けたりしていない。原判決の説示は、ジャーナリストが取材する際に持つ主観的感情をあたかも取材対象者との間の関連共同性を基礎づける事情としてとらえるものであり、誤りである。
 上記のとおり、本件各記事の投稿と本件各ツイートはそれぞれ独立して行われたものであって、本件各ツイートから読み取ることのできる事実は、通常人をして、「元女子大生」を名乗る者が本件各記事を投稿したという限度にとどまるものか、せいぜい抽象的な印象や感想を述べるものであるにすぎないから、本件各記事は論評の域を出ず、被控訴人の社会的評価を低下させる事実を摘示するものではない。
 したがって、原判決の上記判断は誤りである。
第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、被控訴人の本訴請求については、慰謝料100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があり、反訴請求については、いずれも理由がないものと判断する。
 その理由は、次のとおり原判決を補正し、後記2のとおり当審における控訴人らの補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の第4の1ないし4に記載のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の補正)
(1)34頁12行の「2、3、11頁」を「6、12〜16頁」に、同13行目の「31〜32頁」を「37〜38頁」にそれぞれ改める。
(2)36頁、24行目の「(15頁)」の後に「、控訴人X1(45頁)、控訴人X2(15〜16頁、22頁)」を加える。
(3)40頁21行目の「しかし」から同22行目の「証拠はなく、」までを次のとおり改め、同23行目の「行うことを」の後に「真剣に」を加える。「この点につき、前記1(8)ウのとおり、控訴人X2は、被控訴人から「ヌードを撮らせろと言われた」との話を控訴人X1から帰国数日後に聞いたとするが、いずれにしても、どういった状況の下で被控訴人が上記の話をしたものであるかについては明らかではなく、控訴人X1が主張するような状況の下で被控訴人がしたものとまで推認できるものではないし、」
(4)42頁9行目から10行目の「自認しており、」の後に「こうした事情は、セクハラ行為Cが行われたことについて合理的な疑いを差し挟むべき事情に当たり、」を加える。
(5)43頁6行目の「同様、」の後に「その前後の状況に照らして、セクハラ行為D及びEがあったことについては合理的疑いが生じるものであるし、」を加える。
(6)46頁17行目の「受診するに至った」を「受診し、投薬治療が継続される運びとなった」に、同19行目の「軋轢にあるのであり」を「軋轢等にあると考えるのが自然かつ合理的であり」にそれぞれ改める。
(7)48頁16行目の「主張するが、」から同行末尾までを次のとおり改める。「主張する。しかし、控訴人X2は、被控訴人に「水の入ったペットボトルを投げられた」との話を控訴人X1から帰国数日後に聞いたとするが、いずれにしても、どういった状況の下で被控訴人が上記の行動をしたものであるかについては明らかではなく、控訴人X1が主張するような状況の下で被控訴人がしたものとまで推認できるものではないし、他に控訴人X1主張の事実を認めるに足りる的確な証拠はない。」
(8)52頁5行目の「違法な」を「摘示に係る」と、同24行目の「ペットボトルを投げるなどの」を「、被控訴人からヌードを撮らせろと言われたりペットボトルを投げつけられるなどのセクハラ又は」とそれぞれ改める。
2 控訴人らの当審における補充主張について
(1)本件各セクハラ行為について
 補正して引用する原判決が説示するとおり、控訴人X1が被控訴人から受けたと主張する本件各セクハラ行為については、控訴人X1本人の供述を裏付ける客観的な証拠はない(なお、控訴人X1は、別紙の1(5)のとおり、平成30年3月3日、架電した際には被控訴人は性行為の事実を認めていた旨主張するが、録音データ等の客観的証拠は提出されていない。)。
 ところで、控訴人X1本人の供述及び陳述(乙A55)に沿うものとして、@被控訴人から性的関係を強要された旨を帰国直後に控訴人X1から聞いたとするAの証言(陳述書(乙A56)の記載を含む。)、A帰国直後に同控訴人の母が確認したとする痣の部位や広がりを描いた図を含む陳述書(乙A48)の記載がある。
 しかし、Aは、平成30年2月21日、控訴人X1から、「威圧的な態度をとられて萎縮してしまい望まない性行為をした」と聞いたと証言するにとどまり(証人A(2頁))、どういう状況のもとで被控訴人と性行為に及んだのかについて具体的に証言するものではないし(なお、Aは、控訴人X1がHIV検査を受けたことも聞いたと証言するが、受検結果は証拠として提出されていない。)、帰国から9日後にこうしたことを聞いたという具体的な日時に関しても具体的な根拠等は示されておらず、このような事情を総合すると、控訴人X1主張のセクハラ行為の存在を裏付けるものと評価することはできない。また、原判決が指摘するとおり、控訴人X1の母の陳述書に記載された痣の部位や広がりを描いた図は、控訴人X1本人が同月10日に性行為時に被控訴人から受けたとされる暴行態様と整合しないものであるし、いずれにしても控訴人X1主張のセクハラ行為の存在を直接裏付けるものとはいえない(なお、補正して引用する原判決が説示するとおり、控訴人X1本人の供述等には性的被害に遭ったものとして合理的に理解可能とはいえない点が少なからずあることを改めて付言する。)。その他にも控訴人X1は、同人が心療内科を受診するに至ったことや虚偽の事実で被控訴人を貶める必要性や動機がないこと等、同人の主張の正当性を裏付けるとする事情をるる主張するが、いずれも被控訴人によるセクハラ行為の存在に結びつくものとはいえず、採用し得ない。
 他方、被控訴人は、控訴人X1の主張を否定する陳述(甲19)及び供述をしており、その内容に特に不自然、不合理な点があるとは認め難いから、結局のところ、被控訴人X1の一方的な言い分に基づいて、その主張事実を認めることはできないというほかない。
(2)パワハラ行為について
 控訴人X1は、前記第2の3(1)イのとおり、被控訴人は、控訴人X1に対して明らかに優位性を有しており、本件各パワハラ行為を認定しなかった原判決について、事実認定に誤りがあるか、違法性の評価に誤りがある旨るる主張するが、補正して引用する原判決が説示するとおりであり、そもそもパワハラ構造を基礎付ける優位性が認め難い点は措くとしても、控訴人X1が主張するところのパワハラ行為@ないしKについては、いずれも、その事実を裏付けるに足りる的確な証拠はないか、違法な言動と評価することができるものではないことは、前記(1)の場合と同様である。
 なお、念のために付言すると、路上で怒鳴ったり、壁にペットボトルを投げつけたり、人前でバカにするような発言をしたからといって、その程度や前後の状況等、詳細が明らかでない中で、これらが違法な行為であると即断することはできない。また、控訴人X1は、本件各記事にはパワハラ行為があった旨の事実の摘示があり、社会的評価を低下させるとする一方で、パワハラ行為については仮に事実があるとしてもパワーハラスメントに該当しないとする原判決の判断には矛盾がある旨主張するが、ある行為が証拠上認められるか否かと、それが法的にパワハラ行為であると評価されるものであるか否かは別の問題であるところ、本件各記事内の事実摘示に法的にはパワハラ行為であると評価されない行為が含まれていたとしても、控訴人X1がパワハラ行為であると位置付けて記載している以上は、社会的評価を低下させる記載に当たると理解できるものであるから、原判決には控訴人X1が主張するような矛盾があるとはいえない。
(3)本件動画の著作者について
 控訴人X1は、前記第2の3(1)ウのとおり主張するところ、引用に係る原判決第4の4(1)における説示のとおり、本件動画は、被控訴人が報道番組等において使用してもらうことを企図して撮影されたものであり、イエメンの難民キャンプや反政府勢力の支配都市等の状況が撮影され、また、被控訴人が現地の住民とのやり取りを取材している様子や、被控訴人がその状況についてカメラに向かって日本語で語りかけている様子等が収められているものである。
 被控訴人がイエメンでの入国経験や取材経験もなかったのに対し、控訴人X1は、イエメンでの入国経験があり、難民キャンプも訪れたことがあり、案内人のBとは以前から面識があることから、控訴人X1が、被控訴人から、相談を受けて、訪問先や関係情報等について教示し、また、被控訴人が現地で語っている様子を被控訴人の持参したビデオカメラで撮影したことがうかがわれるものの、本件動画の撮影目的に加え、被控訴人が紛争地域の取材、撮影を行うフォトジャーナリストとして活動していたことからすると、控訴人X1が、訪問先を決定し、撮影する位置を指示したり、撮影中の被控訴人の発言や撮影内容について決定していたとはおよそ考え難く、控訴人X1は本件動画の撮影に当たっての情報提供や補助的な役割を果たしたのにすぎないというべきであるから、控訴人X1が本件動画の全体的形成に創作的に寄与したものと認めることはできない。
 したがって、この点に係る控訴人X1の主張は採用できない。
(4)控訴人X2に関する共同不法行為の成否について
 控訴人X2は、前記第2の3(2)のとおり、本件各記事の投稿と本件各ツイートはそれぞれ独立して行われたものであると主張して、原判決が認定した共同不法行為の成立を争う。
 しかし、引用に係る原判決第4の3(4)において認定した本件各事情に照らせば、本件各記事の投稿と本件各ツイートはそれぞれ独立して行われたものとは認め難く、少なくとも客観的関連性を有するものであり、被告X2は、被告X1と共同して本件各記事を拡散させ、被控訴人の社会的評価を低下させたものと評価すべきである(なお、インターネット上に公開されている記事について共感を覚えて、自らが開設しているアカウント上にその記事にリンクを張ってより広くその記事を第三者に読んでもらうように社会に拡散する行為は、それがジャーナリストによって行われたものであろうがなかろうが、その記事に他人の社会的評価を低下させる事実が摘示されているならば、真実性の証明等がない限り、違法な行為であって、不法行為責任を負うというべきであるから、本件においては、いずれにしても結論に影響はない。)。控訴人X2の上記主張は当を得ない。
3 以上によれば、本訴請求は、控訴人らに対し、100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(控訴人X1については令和元年7月14日、控訴人X2については同月17日)から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があり、また、反訴請求は理由がないから棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。
 よって、控訴人らの本件控訴は理由がないからいずれも棄却すべきであり、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
 裁判長裁判官 菅野雅之
 裁判官 中村恭
 裁判官 岡山忠広


(別紙)
1 各セクハラ行為について
(1)原判決は、Aの証言及び陳述書の内容は、控訴人X1が受けたとされるセクハラ行為の具体的な内容を含むものではない上、控訴人X1がAに対し上記内容を同日に告げたことを客観的に裏付けるに足りる証拠も存しないことを指摘し、また、控訴人X1とAとの関係性にも言及して、同人の証言の信用性を否定した。
 しかし、性被害に遭った控訴人X1の心情からすれば、性的行為の具体的な内容まで詳細に告白することに躊躇を覚えることは何ら不自然なものではなく、また、Aは、控訴人X1から、被控訴人が控訴人X1に対して性的行為をした旨を告白されたと一貫して述べており、Aがあえて被控訴人をおとしめるような虚偽の供述をする理由はなく、告白することが強くためらわれる性被害について、知人の告白そのものを録音するなどして保存することは想定し得ない。むしろ、Aの証言は、控訴人X1がHIV検査を受診したことも含むものであり、性交渉が行われたことは十分に推認することができる。
(2)原判決は、控訴人X1の母が、帰国直後に確認したという控訴人X1の痣の部位や広がりを描いた図(乙A48)には、右肩のみならず両肩から二の腕にかけて広範囲にわたってどす黒い痣が広がっている様子が描かれているが、同図は、被控訴人に右肩を平手で3、4回叩かれ、右肩に噛みつかれた旨の控訴人X1本人の供述と整合しない旨指摘する。
 しかし、被控訴人による暴行は背後からのものであり、受傷部位が肩や背中であることから、控訴人X1が肉眼で痣の状態を確認できる状況にはなく、控訴人X1は、受けた暴行による痛みや感触から暴行の回数と態様を証言しているにすぎず、暴行態様と受傷部位が一致していないからといってセクハラや暴行の事実が否定されるものではないし、体を押さえたり掴まれたりすれば、痣は生じ得るのであり、性行為時の出来事であったことからしても、暴行態様と痣の範囲が異なることをことさら重視することはできない。
 むしろ、背後から暴行を受けた旨の控訴人X1本人の供述と帰国直後の同控訴人の背中に痣があった旨の控訴人X1の母の陳述が一致していることは、本件各セクハラ行為の存在を強く裏付けるものである。
(3)原判決は、控訴人X1が心療内科を受診するに至った原因は、勤務先における仕事上の悩みや夫婦関係の問題、本件各記事の投稿により生じた職場の軋轢にあり、被控訴人のセクハラ行為によって引き起こされたものではない旨説示した。
 しかし、控訴人X1が心療内科を受診したのは平成30年11月以降であり、本件各記事の投稿より前のことである。また、本件各記事の投稿により職場との軋轢が生じたのは事実であるが、それも、被控訴人による本件各ハラスメント行為と控訴人X1の勤務先上司である原田氏に対する働きかけによるものであるし、控訴人X2が陳述するとおり、夫婦関係に軋轢が生じたのも渡航時のストレスが原因であり、現に控訴人X1は、カウンセラーからそのような診断を受けていた。
(4)原判決は、控訴人X1が被控訴人からセクハラ行為の被害に遭ったとすれば、Bに相談して被控訴人とは別の宿泊場所を用意して貰うことが可能であり、同控訴人がそのようにしなかった理由について、Bに言ったら取材が破綻すると思った旨の説明は、合理的とはいい難い旨指摘する。
 しかし、本件各セクハラ行為は、紛争地域であるイエメンに渡航中に行われたものであり、紛争地域にあっては単独行動をとることのリスクのほか、手持ちの現金を被控訴人に渡してしまったことから、控訴人X1は、手持ちの現金がなく移動の選択肢が限られていたことに加え、戦場ジャーナリストにとって生命の危険を投じて行う取材の優先度は極めて高く、結果的に自らの性的自由よりも取材の成否を優先する思考に陥ってしまったことは了解可能な行動であり、原判決の指摘は当たらない。
(5)原判決は、帰国直後の平成30年2月13日、「落ち着いたら西八王子のたこ焼きいこうー」との被控訴人からのメッセージに対し、控訴人X1が「はーい!東京でも報告会やりますか?」と返信を送信したことを指摘するが、帰国直後にはまだ荷物の受渡しと金銭の清算が残っていた上に、控訴人X1は、報告会の内容を把握しておきたかったため応答したにすぎない。なお、被控訴人は、同年3月3日、控訴人X1が架電した際には、性行為の事実を認めていた。控訴人X1は、イエメン共和国への支援をするなら黙っていると告げ(乙A54)、以後、完全に被控訴人からの連絡を遮断した。
(6)原判決は、写真(甲15)には、控訴人X1が笑顔で海水浴をしている様子が写っており、同控訴人が不快感を覚えるようなセクハラ行為がその前後に行われたとはうかがわれないと指摘するが、控訴人X1は、紛争地域で共に行動する人物の機嫌を損ねる行動は避けざるを得ない状況にあったし、一般的にも、ハラスメントの被害者は更なる被害を怖れて表面上迎合的に接してしまうことは知られている。控訴人X1が同じベッドを使用したことについても、拒否した際に被控訴人が激怒する可能性を考慮して、恐怖心から強く反発できなかったのである。
(7)加えて、控訴人X1は、虚偽の事実で被控訴人を貶める必要性や動機はなく、本訴が提起されるまで自身の受けた被害を告発するにとどめ、金銭請求はしていなかった。
2 各パワハラ行為について
(1)原判決は、被控訴人が、控訴人X1に対して、職務上の地位やこれに準ずる地位にあって優位性を有していたことはない旨説示する。
 しかし、企業に所属していたとしても個人名で仕事をすることが多く、フリーランスも多い報道業界にあって、紛争地域での国際報道という分野は特に狭い業界であり、直接の雇用関係や同一組織内になくても十分に職務上の地位に影響を与えることができる。特に、控訴人X1の内定先の上司とも親しいことを被控訴人がことさら表明していた本件においては、被控訴人が明らかに優位性を有していた。
(2)原判決は、控訴人X1が、控訴人X2との連絡手段であるLINEアプリを消去せずに、平成30年1月24日以降も控訴人X2にメッセージを送っていた事実をもって、パワハラ行為@を認定することができないと判断する。
 しかし、紛争地域で自らの命綱である連絡手段を完全に絶つことは通常しない。控訴人X1は、実際に拘束等された際に誰も気が付いてくれない危険性があることから、被控訴人に隠れて何度かアプリをダウンロードし直し、既読を付けては再度アプリを消すということを繰り返していたのであり、平成30年1月24日以降も控訴人X2にメッセージを送っていたからといって、パワハラ行為@の事実を認められないとする理由はない。
(3)原判決は、被控訴人が控訴人X1を怒鳴りつけたとの事実(パワハラ行為A)については認めるに足りる証拠はないと判断したが、Bの陳述書(乙A38)にはパワハラ行為Aの事実に沿う記載があり、パワハラ行為AはBの陳述により認定できるから、原判決の判断は誤りである。
(4)原判決は、パワハラ行為Cに関して、控訴人X1が「何があっても自己責任だと覚悟している」などという内容のメッセージを送ったのは、紛争地域を通過するに当たり、その必要性を理解して送信した旨判断したが、上記内容のメッセージを送信する必要性は控訴人X1にはなく、被控訴人に強要されてそのようなメッセージを送信したと考えるほかないから、原判決の上記判断は誤りである。
(5)原判決は、パワハラ行為DないしIに関して、被控訴人が控訴人X1に女性の紹介を強要していたということはできず、控訴人X1も自発的に友人に連絡するなどして被控訴人に積極的に協力していたと判断した。
 しかし、控訴人X1が被控訴人の同伴相手となる異性探しに積極的に協力するメリットはなく、仮に協力する理由があるとすれば、業界で人脈を持つ被控訴人の要望を無下に断ることが不利益につながる可能性を懸念したからであり、原判決の上記判断は誤りである。
(6)原判決は、ペットボトルを投げつける行為(パワハラ行為B)は業務指導や指示とはおよそ関係がなく、パワーハラスメントに該当しない旨判断したが、ペットボトルを投げつける行為は端的に暴行であり、業務指導であったか否かは不法行為の成否に関係はなく、原判決の上記判断は誤りである。
 また、原判決は、パワハラ行為J及びKについて、被控訴人が当時大学生であった控訴人X1の撮影した写真について率直に辛辣な評価をしたとしても、パワーハラスメント行為に当たらない旨判断したが、写真の評価だけではなく、「こいつすごいガキだからさ」、「こいつバカなんだよ」、「お前が甘ちゃんだからだ」、「お前本当にバカだな」、「物覚え悪いな」、「どんくさい」といった人格否定が含まれており、これらの発言が不法行為に該当することは明らかであって、原判決の上記判断は誤りである。
(7)なお、原判決は、本件各記事には控訴人X1にパワハラ行為をしたとの事実の摘示があり、社会的評価を低下させる旨判断する一方で、本件各パワハラ行為については仮に事実があったとしてもパワーハラスメントに該当しない旨判断しており、判断に矛盾がある。
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