判例全文 | ||
【事件名】KDDIへの発信者情報開示請求事件V 【年月日】令和4年3月22日 東京地裁 令和3年(ワ)第27005号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和4年2月1日) 判決 原告 A 同訴訟代理人弁護士 山口貴士 被告 KDDI株式会社 同訴訟代理人弁護士 今井和男 同 小倉慎一 同 山本一生 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 本件は、原告が、氏名不詳者によりツイッターに投稿された別紙投稿ツイート目録記載のツイート(以下「本件記事」という。)は、原告が著作権を有する別紙著作物目録記載の記事(以下「原告記事」という。)の内容を無断で公開したものであり、氏名不詳者による本件記事の投稿は原告の原告記事に係る著作権(公衆送信権)を侵害するものであることが明らかであると主張して、上記投稿行為に係る経由プロバイダである被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか、末尾の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者等 ア 原告は、自身が経済評論家として主催する会員制オンラインサロンBの会員向けに電子メールにより記事を配信しており、原告記事もその一つである(甲4)。 イ 被告は、別紙インターネットプロトコルアドレス目録記載のIPアドレスが割り当てられた電気通信設備を管理している電気通信事業者であり、本件発信者情報を保有している。 (2)氏名不詳者は、別紙投稿ツイート目録記載のユーザー名(省略)によるツイッターのアカウント(以下「本件アカウント」という。)により、同目録記載のとおり、原告記事を加工した画像を含むツイート(本件記事)を投稿した(甲4)。 (3)原告は、ツイッターインターナショナルカンパニーから、本件アカウントにログインした際のIPアドレス(別紙インターネットプロトコルアドレス目録記載のIPアドレス。以下「本件IPアドレス」という。)等の開示を受け、その結果、同目録記載の日時及び本件IPアドレスにより特定される通信が、被告を経由プロバイダとする通信であることが判明したことから、被告に対し、発信者情報消去禁止仮処分命令を申し立てたところ、被告は、ログの確認作業によりログを特定し、原告に対し、本案訴訟の判決が確定するまでの間、本件発信者情報を保管する旨を通知した(甲9)。 (4)ツイッターを利用するには、氏名、電話番号又は電子メールアドレスの登録及びパスワードの設定を行い、アカウントの登録をする必要があり、また、自己のアカウントで投稿するためには、当該アカウントにログインする必要がある。 2 争点及びこれに関する当事者の主張 (1)本件発信者情報の「権利の侵害に係る発信者情報」該当性 (原告の主張) ツイッターの利用にはログインが必要であることに照らすと、本件IPアドレスを用いて本件アカウントにログインした者は、本件アカウントにおいて本件記事を投稿した氏名不詳者と同一であるといえるから、本件発信者情報は、法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当する。 (被告の主張) 争う。原告が被告に開示を求めている情報に係るログインの日時は、本件記事の投稿日時よりも約18時間も後である。また、ツイッターの仕組みによれば、同一のアカウントを複数人で共有、管理及び運営することも十分考えられ、パスワードさえ分かれば、アカウントの作成者以外の者でもログインができることも併せ考えると、上記ログイン時の電気通信に係る契約者が本件記事を投稿した蓋然性があるとはいえない。したがって、本件発信者情報は、「権利の侵害に係る発信者情報」には該当しない。 (2)被告の開示関係役務提供者該当性 (原告の主張) 本件IPアドレスを用いて本件アカウントにログインした者は、本件記事を投稿した氏名不詳者と同一であるといえるから、本件アカウントへのログインを媒介した被告は、法4条1項の開示関係役務提供者に該当する。 (被告の主張) 否認又は争う。 (3)権利侵害の明白性の有無 (原告の主張) 原告記事は、原告がBの会員向けに配信した電子メールであり、原告は原告記事の著作者としてその著作権を有している。 氏名不詳者は、本件アカウントにおいて本件記事を投稿したところ、本件記事は、原告に無断で、原告記事を加工した画像を含むツイートであり、本件記事の投稿が原告の著作権(公衆送信権)を侵害することは明らかである。 また、本件記事は、ツイートに際し、原告記事を加工した画像を元に、論評や報道等はしていないし、「4月にこんな事」とあるとおり時事性もなく、出典の明示もしていないから、引用(著作権法32条1項)等により違法性が阻却される余地はない。 (被告の主張) 否認又は争う。 原告記事には、末尾に、「Copyrigh tofcontents (c)(省略)AllRight Reserved.」とあり、著作権は、株式会社Cに帰属すると記載されているから、原告は原告記事の著作権者ではない。 また、本件記事は、「4月にこんな事を言ってましたよ。」と記載されているとおり、原告記事を紹介しているにすぎない。また、「4月にこんな事を言ってましたよ。」という記載と原告記事を加工した画像の文章とは、その文字の大きさ等から明瞭に区別して認識できるし、内容から見ても、原告記事を加工した画像の文章は従たる内容にすぎない。したがって、本件記事に含まれる、原告記事を加工した画像の投稿は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内の引用である。 (4)発信者情報の開示を受けるべき正当の理由の有無 (原告の主張) 原告は、氏名不詳者に対して不法行為に基づく損害賠償等を請求するため、本件発信者情報の開示を求めるものであり、正当理由の要件を充足している。 (被告の主張) 争う。原告記事は、令和3年4月5日に配信されたものであり、本件記事よりも前に広く公表されていたのであるから、本件記事が投稿されたことにより原告に実質的な損害が発生することは想定できず、原告が損害賠償を請求する必要性はないから、本件発信者情報の開示を求める正当理由もない。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(本件発信者情報の「権利の侵害に係る発信者情報」該当性)について (1)前記前提事実において認定したツイッターの仕組みを踏まえると、法人や団体においてその営業や事業に利用する場合を除き、複数人が共有して特定のアカウントを利用する可能性は極めて乏しく、また、本件において複数人が本件アカウントを共有して使用していることをうかがわせる事情は見当たらない。そうすると、本件アカウントは特定の個人が利用していたものであるというべきであり、本件アカウントにログインした者と本件記事を投稿した氏名不詳者とは同一の者であると認められ、本件IPアドレス等から把握される本件発信者情報は本件投稿をした氏名不詳者のものということができる。 (2)被告は、本件発信者情報に係るログインの日時は、本件記事の投稿日時よりも約18時間も後であること等を理由に、本件発信者情報は本件投稿をした氏名不詳者のものとはいえない旨を主張する。 しかし、前記認定したツイッターの仕組みからすれば、本件アカウントの開設者がこれを第三者に譲渡したことがうかがわれるなどの特段の事情のない限り、本件記事の投稿と本件発信者情報に係るログイン日時の前後関係、その時間的間隔の程度等を考慮することなく、本件アカウントにログインした者と本件記事を投稿した氏名不詳者とは同一であるというべきであるところ、本件全証拠に照らしても、上記特段の事情の存在はうかがわれない。 (3)以上からすると、本件アカウントにログインした際の本件IPアドレス等から把握される本件発信者情報は、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるというべきである。 2 争点(2)(被告の開示関係役務提供者該当性)について 前記1で説示したとおり、本件IPアドレスを用いて本件アカウントにログインした者は、本件記事を投稿した氏名不詳者と同一であると認めることができるから、本件IPアドレスによる本件アカウントへのログインを媒介した被告は、法4条1項にいう開示関係役務提供者に該当すると認めるのが相当である。 3 争点(3)(権利侵害の明白性の有無)について (1)証拠(甲4ないし8)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、自身が主催するBの会員向けに配信する電子メールとして、原告記事を作成したものであり、その著作者として原告記事の著作権を有するものと認められ、同認定を覆すに足りる証拠はない。 (2)また、前記前提事実のとおり、本件記事が原告記事を加工した画像を含むものであることからすると、氏名不詳者が本件記事を投稿した行為は、原告の原告記事に係る著作権(公衆送信権)を侵害するものと認められる。そして、当該侵害行為の違法性を阻却する事由の存在もうかがわれないことからすると、氏名不詳者による本件記事の投稿が、原告の原告記事に係る著作権(公衆送信権)を侵害することは明らかであると認められる。 なお、被告は、本件記事は原告記事を紹介するものであるなどとして、本件記事の投稿は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内の引用である旨を主張する。 しかし、本件全証拠を精査しても、氏名不詳者が本件記事を投稿した目的は必ずしも明らかでなく、引用目的に照らして原告記事の利用が公正慣行に合致した合理的に必要なものであったことを示す事情を認めるに足りる証拠もないものである。そうすると、本件記事の投稿が「公正な慣行に合致するもの」であること、「報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるもの」であることの各要件を満たすものであると認めることはできない。 したがって、本件記事の投稿が適法な引用(著作権法32条1項)に当たるものと認めることはできず、被告の上記主張は採用できない。 4 争点(4)(発信者情報の開示を受けるべき正当の理由の有無)について 証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、氏名不詳者に対して原告記事に係る著作権の侵害を理由とする損害賠償請求権等を行使するために、本件発信者情報の開示を請求したものと認められ、同認定を覆すに足りる証拠はない。したがって、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。 5 結論 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 田中孝一 裁判官 小口五大 裁判官 稲垣雄大 (別紙)インターネットプロトコルアドレス目録 省略 (別紙)投稿ツイート目録 省略 (別紙)著作物目録 省略 (別紙)発信者情報目録 別紙インターネットプロトコルアドレス目録記載の送信年月日及び時刻に通信を行った電気通信回線の同日時における契約者に関する情報であって、次に掲げるもの 1 住所 2 氏名 3 メールアドレス 4 電話番号 |
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