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【事件名】ソネットへの発信者情報開示請求事件K
【年月日】令和4年3月18日
 東京地裁 令和3年(ワ)第27488号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年2月9日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 清水陽平
被告 ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 浦中裕孝
同 深沢篤嗣
同 野口大資


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、電気通信事業等を営む被告に対し、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)によって、ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれる140文字以内のメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)のウェブサイトに別紙投稿記事目録記載の各投稿(以下「本件各投稿」という。)がされたことから、原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)が侵害されたとして、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を求める事案である。
2 前提事実
(1)当事者
ア 原告は、「B」の名称を使用し、「B競馬予想ch」というYouTubeチャンネルにおいて、自ら撮影及び編集をした動画の配信をしている者である。(甲2)
イ 被告は、電気通信業等を営む株式会社であって(弁論の全趣旨)、プロバイダ責任制限法上の特定電気通信役務提供者に該当し、別紙IP等目録1及び2記載のIPアドレスを保有している。
(2)原告による動画配信
ア 原告は、令和元年11月5日、前記YouTubeチャンネルにおいて、自らの著作物であり、その著作権を有する「【競馬検証】2万円の高額予想に丸のりしたら○○万円!!【驚愕】」と題する動画(以下「本件動画」という。)を投稿配信した。(甲2、3)
イ 本件動画の内容は、原告が、競馬予想情報サイト「グロリア」から2万円で購入した情報に基づき勝馬投票券を購入したことを示した上、当該レースを観戦する原告の様子を映し、結果的に20万円以上の払戻金を得られたという経過を報告するなどするものであった。
(3)本件発信者による投稿
ア 本件発信者は、令和3年3月13日午後3時53分頃及び午後3時54分頃、本件各投稿として、それぞれ「B´検証用動画ダイジェスト1」又は「B´検証用動画ダイジェスト2」との文言とともに、本件動画を抜粋した動画2本(以下「本件各投稿動画」という。)を被告の特定電気通信設備を経由してツイッターに投稿した。(甲1、4)
イ 本件発信者は、令和3年3月13日午後3時56分頃、ツイッターとは別のウェブサービスを利用し、「女性競馬YouTuber「B´」が後撮り動画で高額競馬予想販売サイトへ誘導していた件の考察」と題する記事(以下「乙3記事」という。)を投稿した上、本件動画を「抜粋した動画」であるとして、本件各投稿の内容を掲載した。(乙3)
ウ 乙3記事は、本件動画が、前記レースを「リアルタイム」に観戦している様子を記録したものではなく、当該レースの結果が出た後、録画VTRを利用した「後撮りの台本動画」であって、原告が、「リアルタイムであるかのように見せて視聴者を騙し」、「高額な競馬予想販売サイトへ誘導し」ているとして、これを批判するものであった。
エ なお、本件各投稿は、そのアカウント名及びユーザー名を「C」とするものであったが、本件発信者は、乙3記事を「D」の名義で投稿しており、また、原告との間では、ツイッターにおいても、「D´」とのアカウント名及びユーザー名を用いていた。(甲1、乙3)
(4)乙3記事に係る発信者情報開示手続等(乙4)
ア 原告は、東京地方裁判所に対し、債務者をnote株式会社として、乙3記事に係る発信者情報について、仮処分命令の申立てをした。
イ 原告と本件発信者は、令和3年8月11日、@本件発信者が、同月15日限り、乙3記事を削除し、A原告が、その削除後7日以内に、前記アの申立てを取り下げること、B原告が、乙3記事について、note株式会社に対する発信者情報開示請求をしないと確約することなどを内容とする合意(以下「本件合意」という。)をした。
ウ 本件合意に係る合意書には、各代理人弁護士の事務所住所及び氏名は記載されているが、本件発信者の住所氏名は記載されていない。
エ 本件合意に係る合意書には、原告の本件発信者に対する損害賠償請求権などの債権債務を清算する旨の条項は存在しない。
(5)本件各投稿に係る発信者情報開示手続等
ア 東京地方裁判所は、令和3年8月12日、ツイッターを運営するツイッター・インクに対し、ユーザー名を「E」とするアカウントにログインされた際のIPアドレス及びタイムスタンプのうち、令和3年3月1日以降の保有するもの全ての仮の開示を命じた。(甲6)
イ ツイッター・インクは、令和3年8月17日、原告に対し、前記アに係る情報として、別紙IP等目録1及び2の内容の情報を開示した。(甲7ないし9。ただし、甲9のうち「甲第7号証」との記載2か所は、いずれも「甲第8号証」の誤記であると解される。)
ウ 被告は、自らの特定電気通信設備を別紙IP等目録1及び2記載のIPアドレス等から特定される別紙発信者情報目録記載の通信の用に供しており、当該通信に係る発信者情報を保有している。その発信者情報は、本件発信者に係る情報であった。(弁論の全趣旨)
3 争点
(1)権利侵害の明白性(争点1)
(2)開示関係役務提供者該当性(争点2)
(3)正当な理由の有無(争点3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(権利侵害の明白性)について
(原告の主張)
(1)本件動画は、原告が著作権を有する著作物であるが、本件発信者は、本件各投稿によって、これを不特定多数に送信したのであるから、本件動画に係る原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明白である。また、本件各投稿動画は、本件動画を抜粋したものであったから、本件動画に係る原告の著作者人格権(同一性保持権)が侵害されたことも明白である。
(2)これに対し、被告は、本件各投稿動画が乙3記事と実質的に一体のものであるとして、これが適法に「引用」されたものであると主張する。
 しかし、本件発信者が、乙3記事において、本件動画を検証したかったのであれば、乙3記事内に動画を埋め込めば足りる。それにもかかわらず、乙3記事と本件各投稿動画は、別の媒体に投稿されたものであり、これが著作権法32条1項の「正当な範囲内」の利用であるとはいえない。
 また、本件各投稿は、出所を明示していない点でも、適法な「引用」とはいえない。本件各投稿のみを閲覧する者にとって、本件各投稿と乙3記事とを関係あるものとして理解し得ないからである。そもそも、乙3記事に表示されていたものが、本件各投稿であるかも明らかでない。
(3)また、被告は、本件各投稿動画は、本件動画を検証するという目的のために、「やむを得ないと認められる改変」をしたにすぎないと主張する。
 しかし、本件動画を抜粋せずとも、「動画の何分何秒の位置で」などと特定することは可能である。また、本件各投稿動画が、適法な「引用」の要件を満たさないことは、上記(2)のとおりである。したがって、これを「やむを得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)に該当するとはいえない。
(被告の主張)
(1)本件発信者は、乙3記事において、本件動画が「後撮り」であることを検証するために、本件各投稿動画を引用したものである。そして、以下の検討によれば、これは著作権法32条1項の要件を満たす適法な「引用」であるというべきであるから、本件各投稿によって、原告の公衆送信権が侵害されたことが明らかであるということはできない。
ア 本件発信者は、乙3記事の掲載時に、本件動画が既に非公開となっていたことから、その複製物を自らインターネット上にアップロードし、乙3記事の閲覧者において、本件動画を閲覧し得るようにする必要があったと考えられる。したがって、本件各投稿動画の利用は、乙3記事の目的との関係において、「正当な範囲内」といえる。
イ 本件各投稿動画は、本件動画が「後撮り」であることを検証するという目的に必要な範囲に限るため、これを短く編集したものにすぎず、本件動画の趣旨や内容を改変等するものではない。また、乙3記事の本文において、その出所も明示されている。したがって、本件各投稿は、本件動画の利用方法及び態様として、合理的なものである。
ウ 本件各投稿動画は、短く編集されたものであり、本件各投稿に、閲覧者の興味を引くような文言が付されているわけでもないから、原告の競馬予想に係る動画を視聴しようとする者が、あえて本件各投稿動画を視聴するとは考えられない。したがって、本件各投稿は、本件動画の著作権者たる原告の地位や収益に特段の影響を与えるものではない。
エ 原告は、乙3記事に本件各投稿動画を埋め込むことも可能であったことなどを指摘する。しかし、適法な「引用」というためには、「正当な範囲内」であり、それが必要最小限度の利用であることまでは要求されないのであるから、原告指摘の代替手段があるからといって、本件各投稿が適法な「引用」に当たることは妨げられない。
(2)また、本件各投稿動画は、前記の引用の目的との関係で必要な範囲に限るため、本件動画を編集したにすぎず、その内容及び意味を大きく変更するものでもない。そして、以下の検討によれば、これは著作権法20条1項4号の「やむを得ないと認められる改変」に該当するというべきであり、原告の著作者人格権を侵害することが明らかなものであるとはいえない。
ア 本件動画は12分を超えるものであるが、動画というものは再生時間が長いと視聴されにくくなる。必要な個所を「何分何秒」などと特定することは可能であるが、煩雑な操作を要求することになる上、「後撮り」であることが分かりにくくなってしまう。むしろ、適法な「引用」をするという観点から、その目的に必要な範囲内で適切な要約や抜粋をする方が妥当な利用形態といえる。したがって、本件動画を利用する目的との関係において、これを短縮したものを利用する必要性があったといえる。
イ 本件各投稿動画は、本件動画の複数の部分を複製し、そのまま結合したものにすぎず、音声を差し替えたり、色味を変更したりする改変はしていない。文章の要約においては、原著作物と異なる新たな文章を創作することになっても、「やむを得ない改変」であるとされるのが通常であり、言語の著作物を学校の試験問題等に抜粋利用し、文化祭等で一部上演することなども同様であるとされていることと比較しても、本件各投稿動画における改変の程度は、極めて低いものであるということができる。
2 争点2(開示関係役務提供者該当性)について
(原告の主張)
(1)本件各投稿が利用したツイッターは、「ログイン型投稿」と分類されるサービスであり、投稿の前提となるログインに係る通信は記録される一方、個別の投稿に係る通信は記録されていない。このような場合に、ログイン時の情報が開示の対象とならないとすると、「ログイン型投稿」のサービスでの被害回復が不可能になるという不当な結論となる。
(2)そもそも、プロバイダ責任制限法4条1項は、「当該特定電気通信の用に供される」と規定し、「当該特定電気通信の用に供された」とは規定していないから、当該特定電気通信の用に供されていれば、ログイン後の通信に係る情報であっても、発信者情報の開示の対象になるというべきである。
 また、ツイッターにおいては、ログインという前提行為がなければ侵害情報の流通をすることはできないのであるから、実際に侵害情報が流通している以上、ログインという通信についても、「当該特定電気通信の用に供される特定電気設備」が用いられていることになる。
 したがって、侵害情報の投稿の前にログインがされた場合はもとより、投稿後にログインがされている場合であっても、その通信には当該特定電気通信設備が用いられている蓋然性があるから、それらの通信を媒介した者は、「開示関係役務提供者」に当たるというべきである。
 そして、別紙IP等目録1及び2記載のIPアドレスは本件各投稿後のログインに係るものであるが、同一のIPアドレス及びリモートホストが長く使用されており、本件各投稿の際にも当該IPアドレスが使用された蓋然性は高いといえる。したがって、被告は「開示関係役務提供者」に当たる。
(3)なお、被告は、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の一部を改正する法律(令和3年法律第27号。以下「令和3年改正法」という。)の規定に基づく主張をするが、未施行の法律であり、これに基づいた議論をするべきではない。
(被告の主張)
(1)プロバイダ責任制限法4条1項は、発信者情報が、発信者のプライバシー及び匿名表現の自由、通信の秘密との関係で保護されるべき情報であることに鑑み、厳格な要件を満たす場合に限り、特定電気通信役務提供者の守秘義務を解除したものであるから、その要件は厳密に考えるべきである。
 また、令和3年改正法は、ログイン型投稿に係る発信者情報開示の規定を追加したが、その対象は、「侵害情報送信に係る特定電気役務が利用し、又はその利用を終了するため」(同改正後のプロバイダ責任法5条3項)の通信のみに限られていることとの整合性も指摘することができる。
 そうすると、投稿後のログインの際に割り当てられたIPアドレスから把握される発信者情報は、侵害情報の投稿とログインとの間に時間的接着性がある等の特段の事情がない限り、プロバイダ責任制限法4条1項の発信者情報の開示の対象とならないと解するのが相当である。
(2)これを本件についてみるに、本件各投稿は、令和3年3月13日にされたものであるのに対し、原告が開示を求める発信者情報は、同年6月3日以降のログインの際に割り当てられたIPアドレスに係るものであるから、両者に時間的接着性がないことは明らかである。
 また、本件各投稿に係るアカウントには、原告が問題とするIPアドレス以外にも多数のIPアドレスからログインがされているから、原告が問題とするIPアドレスから把握される発信者情報と本件各投稿との間には、開示請求の対象とするだけの関連性がないということもできる。
 したがって、原告が開示を求める発信者情報は、本件各投稿との間に関連性を有さず、プロバイダ責任制限法4条1項の開示請求の対象となるものではないから、ログインに係る情報を媒介したにすぎない被告は、同項の「開示関係役務提供者」に当たらない。
3 争点3(正当な理由の有無)について
(原告の主張)
(1)原告は、本件発信者に対し、原告の有する著作権及び著作者人格権の侵害を理由とする損害賠償請求をするための準備をしており、また、再度の投稿に係る差止めの請求をすることも考えている。したがって、原告は、被告に対し、本件各投稿に係る発信者情報の開示を求める「正当な理由」(プロバイダ責任制限法4条1項2号)を有している。
(2)なお、被告は、本件合意の存在を指摘する。しかし、本件合意は、本件各投稿とは別の媒体に掲載された乙3記事について、note株式会社に対する発信者情報開示請求等をしないことを約したものにすぎない。そのため、乙3記事とは別個の権利侵害である本件各投稿について、被告に対する発信者情報開示請求をすることは、何ら本件合意に矛盾しない。
(被告の主張)
 原告は、本件合意において、本件発信者に対し、乙3記事に係る発信者情報の開示請求をしないことを確約している。それにもかかわらず、原告が、乙3記事に包含される本件各投稿に係る発信者情報の開示を求めることは、この確約を潜脱するものであって、その合理的な必要性を認め難い。また、本件合意が存在することからすれば、原告は、既に本件発信者が誰であるかを知っていると考えられる。そうすると、原告が、その発信者情報の開示を求める「正当な理由」はないというべきである。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(権利侵害の明白性)について
 被告は、本件各投稿動画が、乙3記事に適法に「引用」(著作権法32条1項)されたものであるとして、本件各投稿によって、原告の権利が侵害されたことが明らかであるとはいえないと主張する。
 そこで検討するに、前記前提事実、証拠(甲1、乙3、4)及び弁論の全趣旨によれば、本件発信者は、本件各投稿として、本件各投稿動画をツイッターにアップロードした後、ツイッターとは別のウェブサービスを利用して、乙3記事を投稿したこと、本件各投稿は、「B´検証用動画ダイジェスト1」又は「B´検証用動画ダイジェスト2」という記載とともに、本件各投稿動画を掲載するのみであって、当該動画の内容を批評等したり、その出所の明示等をしたりする記載は何ら存在しないこと、他方、本件発信者は、乙3記事においては、本件動画の「抜粋」であるとして、本件各投稿をその記事中に表示させるようにした上、「この動画を見て後撮り(レース動画がVTRである事)の根拠がお分かりになりますでしょうか」などと記載したこと、ただし、証拠上本件各投稿動画のサムネイルは、乙3記事において表示されず、これに対するリンクのみが表示されていること、以上の事実が認められる。
 上記認定事実によれば、本件各投稿動画は、本件各投稿としてツイッターにアップロードされたものであるところ、乙3記事との間でリンク等によって関連付けられているものの、ツイッター上の各投稿は、そのサービスとしての性質上、それ自体が独立に閲覧の対象となることを当然に予定するものであるといえる。これらの事情を踏まえると、本件各投稿動画は、ツイッターとは別のウェブサービスを利用して掲載された乙3記事とは、独立に公衆送信されていると認めるのが相当である。そうすると、本件各投稿動画は、乙3記事との関係において、適法に「引用」されたものということはできない。
 また、本件各投稿動画が、少なくとも本件各投稿との関係においては、一体的に公衆送信されていると把握されるとしても、上記認定事実によれば、本件各投稿は、「B´検証用動画ダイジェスト1」又は「B´検証用動画ダイジェスト2」という記載とともに、本件各投稿動画を掲載するのみであって、当該動画の内容を批評等したり、その出所の明示等をしたりする記載は何ら存在しないことが認められ、しかも、乙3記事に対するリンクなど、乙3記事の記載を補足する手掛かりもないことが認められる。これらの事情を踏まえると、本件各投稿動画は、本件各投稿との関係においても、適法に「引用」されたものということはできない。
 したがって、被告の主張は、いずれも採用することができない。その他に、その違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情を見出すことはできず、本件各投稿によって、少なくとも原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである。
2 争点2(開示関係役務提供者該当性)について
(1)前記前提事実(1)イ、(3)ア及び(5)並びに弁論の全趣旨によれば、本件発信者は、令和3年3月13日、ツイッター上に本件各投稿をした後、同年6月3日以降も、被告が提供する特定電気通信設備を利用し、別紙IP等目録1及び2記載のIPアドレス及びタイムスタンプ等から特定される別紙発信者情報目録記載の通信によって、本件各投稿をしたツイッターのアカウントにログインしていたことが認められる。そうすると、当該通信に係る発信者情報は、原告の権利を侵害した発信者を特定する情報であり、プロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」であるといえる。
(2)これに対し、被告は、プロバイダ責任制限法4条の趣旨や令和3年改正法との関係を指摘し、本件各投稿のような侵害情報の投稿とログインとの間に時間的接着性がある等の特段の事情がない限り、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらないと解すべきであるという趣旨の主張をする。
 しかしながら、同条の趣旨は、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにある(最高裁平成21年(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁参照)。そうすると、アカウントにログインした者が、権利の侵害に係る情報を送信したと認められる場合には、そのログインの際の通信に係る発信者情報は、これが権利の侵害に係る情報の送信の直前直後のログインであるといったような時間的接着性がなくても、「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するものと認めるのが相当である。令和3年改正法によって、ログインの際の通信に係る発信者情報の開示に係る規定が整備されたことは、少なくとも同法施行前のプロバイダ責任法の解釈を左右するものとはいえない。
(3)したがって、被告の主張を十分に踏まえても、上記のとおり、別紙発信者情報目録記載発信者情報は、原告の権利を侵害した発信者を特定する情報であり、プロバイダ責任制限法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」であるといえるから、被告は、同項の「開示関係役務提供者」に該当するというべきである。
3 争点3(正当な理由の有無)について
(1)前記1のとおり、本件各投稿は、原告の著作権(公衆送信権)を侵害するものであるが、証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対し、著作権侵害を理由とする損害賠償請求をする予定であると認めることができる。したがって、原告は、被告に対し、本件各投稿に係る発信者情報である別紙発信者情報目録記載の発信者情報の開示を求める「正当な理由」(プロバイダ責任制限法4条1項2号)を有するというべきである。
(2)これに対し、被告は、原告が、本件発信者に対し、乙3記事に係る発信者情報の開示請求をしないことを確約していることを指摘し、原告が、乙3記事に含まれる本件各投稿に係る発信者情報の開示を求めることは、当該確約を潜脱するものであり、「正当な理由」がないと主張する。
 しかし、前記前提事実(4)イのとおり、本件合意は、本件発信者が、乙3記事を削除し、原告が、乙3記事について、note株式会社に対する発信者情報開示請求をしないと確約したものにすぎず、本件各投稿について、被告に対する発信者情報開示請求をしないことまで合意したものではない。
 また、本件各投稿の内容が乙3記事に利用されているとしても、前記前提事実(3)エのとおり、両者は投稿名義が異なるのであるから、本件合意の時点において、乙3記事に係る合意によって、本件各投稿に係る関係も清算されることが当然の前提となっていたものと認めることはできない。
 しかも、本件合意は、乙3記事の削除と仮処分申立ての取下げに関する規定を定めながら、前記前提事実(4)エのとおり、両者間の損害賠償請求権に係る清算条項等の規定を定めていないのであるから、本件合意によっても、原告が、本件各投稿に係る損害賠償請求権を行使することについて、何ら妨げられるものではない。
 実質的にみても、乙3記事は、これによる「名誉又は信用の毀損」(乙4)などの権利侵害の明白性が問題となるものであって、その削除のみで当面の目的を達成したとも考え得るのに対し、本件各投稿は、前記1のとおり、その著作権侵害が明白なのであるから、別個に権利行使する合理性もあるといえる。
 なお、被告は、原告は、既に本件発信者が何人であるかを知っているはずであるとも主張するが、原告自身がこれを否定している上、前記前提事実(4)ウに掲げる事情を考慮すれば、本件発信者は、氏名住所の開示を避けることを前提として、乙3記事の削除に応じるなどしたと考えるのが自然であるから、被告の主張は、その前提を欠くものであり、採用することができない。
(3)そうすると、原告が、被告に対し、本件発信者の発信者情報の開示を求めることが、本件合意を潜脱するものであるとはいえず、その必要性及び合理性が認められるといえる。したがって、被告の主張を踏まえても、前記(1)の結論を左右するには至らない。
4 結論
 以上によれば、原告は、被告に対し、本件発信者の発信者情報の開示を求めることができ、その他に、被告の提出する準備書面及び本件全証拠を改めて精査しても、この結論を左右するものはない。
 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 島基至
 裁判官 吉野俊太郎
 裁判官 小田誉太郎


(別紙)発信者情報目録
 別紙IP等目録1及び2に係るタイムスタンプ(JST)に同目録記載のIPアドレスを割り当てられた電気通信設備から、別紙接続先IPアドレス目録記載の接続先IPアドレスのいずれかに対して通信を行なった電気通信設備の契約者に関する次の情報
1 氏名または名称
2 住所
3 電話番号
4 メールアドレス

(別紙)IP等目録1
 (以下略)

(別紙)IP等目録2
 (以下略)

(別紙)接続先IPアドレス目録
 (以下略)

(別紙)投稿記事目録
閲覧用URL (略)
スクリーンネーム C´
ユーザー名
投稿日時 2021年3月13日15:53
投稿内容 B´検証用動画ダイジェスト1(写真・略)
閲覧用URL (略)
スクリーンネーム C´
ユーザー名
投稿日時 2021年3月13日15:54
投稿内容 B´検証用動画ダイジェスト2(写真・略)
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