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【事件名】東山魁夷の版画無断複製事件(刑)
【年月日】令和4年3月9日
 東京地裁 令和3年特(わ)第2235号、同第2346号 著作権法違反被告事件

判決


主文
 被告人を懲役3年及び罰金200万円に処する。
 その罰金を完納することができないときは、金1万円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
 この裁判が確定した日から4年間その懲役刑の執行を猶予する。

理由
(罪となるべき事実)
第1 被告人は、Aと共謀の上、法定の除外事由がなく、かつ、著作権者の許諾を受けないで、別表記載のとおり、平成29年1月中旬頃から平成30年12月中旬頃までの間、奈良県大和郡山市(住所省略)所在の株式会社B工房作業所内において、Cほか6名が著作権を有する美術の著作物である版画「D」ほか4作品につき、リトグラフ技法により紙に印刷するなどして合計7枚を複製し、もって前記各著作権者の著作権を侵害し、
第2 被告人は、株式会社E美術(以下、「E」という。)の代表取締役であるが、法定の除外事由がなく、かつ、著作権者の許諾を受けないで、平成30年2月5日、東京都中央区(住所省略)Fホールにおいて、Gに対し、前記Cほか6名が著作権を有する美術の著作物である版画「H」の複製物1枚を、著作権者の許諾を受けないで複製されたものであることの情を知りながら、E名義で代金33万円で販売して頒布し、もって前記各著作権者の著作権を侵害する行為とみなされる行為を行い、
第3 被告人は、Eの代表取締役であるが、法定の除外事由がなく、かつ、著作権者の許諾を受けないで、令和2年7月2日、同区(住所省略)貸会議室Iにおいて、株式会社J美術の代表取締役であるKに対し、前記Cほか6名が著作権を有する美術の著作物である版画「L」の複製物1枚を、著作権者の許諾を受けないで複製されたものであることの情を知りながら、E名義で代金40万円で販売して頒布し、もって前記各著作権者の著作権を侵害する行為とみなされる行為を行った。
(量刑の理由)
 本件は、美術商として美術品の売買等を行っていた被告人が、版画の修復作業等の職人であった共犯者とともにMの作品5点について合計7枚を著作権者に無断で複製し(判示第1)、また単独で、無断で作品2点の複製物を代金合計73万円で販売して頒布した(判示第2及び第3)という著作権法違反の事件である。
 被告人らは、平成20年頃から、著作権者に無断で有名画家の作品の版画を複製し、美術商である被告人が販売していたものであり、本件各犯行は長期間にわたって職業的・常習的に行われた犯行の一環である。そして、本件各偽作版画は、極めて精巧に作成されており、版画市場に流通するに至っている。著作権者の利益を大きく害しており、強い非難を免れない。
 被告人と共犯者の関係等についてみると、被告人が複製する作品を定め、オークション等で入手した真作を共犯者に渡して複製を依頼していたものであり、被告人は主導的立場にあったものである。また、共犯者から受け取った偽作版画については、被告人が倉庫で管理する中で、適宜販売していたもので、被告人は偽作版画の複製から販売による利益獲得まで全ての過程を掌握していた。
 以上からすれば、被告人の刑事責任は重いが、一方で、被告人は、事実関係を認めた上で、反省し、著作権者に対する被害回復にも努め、N県立美術館M館に対しては1400万円の寄付をしており、一部の著作権者は、被告人の厳罰までは望んでいない。そして、被告人に前科前歴がないこと、被告人の妻が監督を誓約していること等も考慮すれば、本件で直ちに実刑判決とするのは躊躇されることから、主文のとおりの懲役刑を科した上で、その執行は猶予するが、この種事犯が経済的にも不合理であることを示すために、主文のとおりの罰金刑を併科するのが相当と判断した。
(求刑懲役3年及び罰金200万円)

令和4年3月23日
 東京地方裁判所刑事第16部
 裁判長裁判官 小林謙介
 裁判官 向井志穂
 裁判官 足立洋平
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