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【事件名】“奨学金制度”記事の類似事件 【年月日】令和4年2月24日 東京地裁 令和3年(ワ)第10987号 著作権侵害損害賠償請求事件 (口頭弁論終結日 令和3年12月24日) 判決 原告 A 被告 B 同訴訟代理人弁護士 樽井直樹 同 倉知孝匡 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 被告は、原告に対し、300万円及びこれに対する令和3年5月18日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 本件は、ジャーナリストを職業としている原告が、中京大学の教授職にある被告に対し、(1)被告の執筆した奨学金に関する雑誌記事等により、原告が執筆した雑誌記事等の著作権(複製権、翻案権)、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)が侵害され、これらは不法行為に当たる、(2)仮に著作権侵害が認められないとしても、被告の雑誌記事等は原告の著作物のデッドコピーであり、これにより、(1)とは別途不法行為が成立するなどと主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、300万円及びこれに対する令和3年5月18日(不法行為後である訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか、末尾の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。証拠番号の枝番は省略する(以下同様)。) (1)当事者 ア 原告は、ジャーナリストを職業としている者であり、後記(2)の雑誌記事等を執筆し、これらの著作権を有している(甲1、3、26、28)。 イ 被告は、中京大学の教授職にある者であり、本件で問題とされている後記(3)の雑誌記事等を執筆した。 (2)原告の各著作物 原告は、「奨学金『取り立て』ビジネスの残酷―『借金漬け』にして暴利貪る」(2012年(平成24年)4月発行の雑誌「選択」100頁。以下「原告雑誌記事」という。甲1)及び「若者の借金奴隷化をたくらむ『日本学生支援機構』―延滞金を膨らませて骨までしゃぶる“奨学金”商法」(2013年(平成25年)10月発行の書籍「日本の奨学金はこれでいいのか!」の「第2章ルポ・奨学金地獄」。以下「原告ルポ」という。甲3)を執筆した著作者として、これらの著作権を有している。 原告雑誌記事のうち、原告が被告の表現において同一ないし類似する部分があると主張する部分は、別紙1の対比表の「原告記述」欄記載のとおりである。また、原告ルポのうち、原告が被告の表現において同一ないし類似する部分があると主張する部分は、別紙2の対比表の「原告記述」欄記載のとおりである(以下、別紙1及び2の各対比表の原告記述を併せて、「原告各記述」ともいう。)。 (3)被告の雑誌記事、書籍等 被告は、次の@ないしKの雑誌記事、書籍等を執筆した。各雑誌記事等のうち、原告が著作権を侵害したと主張する部分は、原告雑誌記事と後記@ないしJの雑誌記事等との関係では、別紙1の対比表の「被告記述」欄記載のとおりであり、原告ルポと後記Kの書籍との関係では、別紙2の対比表の「被告記述(甲14)」欄記載のとおりである(以下、同様に、別紙1及び2の各対比表の被告記述を併せて、「被告各記述」ともいう。)。 @「教育における格差と貧困―『貧困ビジネス化』した奨学金問題から考える」(2013年(平成25年)10月発行の奨学金問題対策全国会議編「日本の奨学金はこれでいいのか!」の「第1章総論」。甲4) A「奨学金制度の現状と課題」(2013年(平成25年)10月12日の大阪弁護士会主催の催しにおけるもの。甲5) B「ブラックバイトと奨学金」(2013年(平成25年)10月14日の「反貧困世直し大集会」におけるもの。甲6) C「ブラックバイト・全身就活・貧困ビジネスとしての奨学金」(2013年(平成25年)12月発行の雑誌「現代思想」所収。甲7) D「奨学金制度はこれでいいのか」(2014年(平成26年)3月発行の雑誌「人間と教育」96頁。甲8) E「現在の奨学金の制度―何が問題なのか」(2014年(平成26年)9月発行の雑誌「ヒューマンライツ」2頁。甲9) F「奨学金返済の重荷と雇用劣化が中間層解体と人口減を深刻化する」(2014年(平成26年)11月発行の雑誌「Journalism」52頁。甲10) G「ブラック企業と結びつく奨学金問題」(2014年(平成26年)11月7日発行の書籍「ブラック企業と奨学金問題―若者たちは、いま」35頁。甲11) H「子どもの貧困―奨学金問題の視点から」(2014年(平成26年7月発行の雑誌「貧困研究」)38頁。甲12) I「奨学金制度の問題点とその改善へ向けて」(2017年(平成29年)3月発行の雑誌「JP総研Research」12頁。甲13) J「格差と貧困を助長する奨学金制度を考える」(2017年(平成29年)2月発行の雑誌「生活協同組合研究」42頁。甲30−2) K「奨学金が日本を滅ぼす」(2017年(平成29年)2月、朝日新聞出版発行。甲14) 2 争点 (1)著作権(複製権、翻案権)、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)の侵害の成否 (2)デッドコピーによる不法行為の成否 (3)損害及びその額 3 争点に関する当事者の主張 (1)争点1(著作権(複製権、翻案権)、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)の侵害の成否)について (原告の主張) ア 原告雑誌記事及び原告ルポのうち、別紙1及び2の各対比表の原告各記述は、いずれも原告の思想又は感情を創作的に表現したものであり、文芸又は学術の範疇に属する著作物である。 被告各記述は、原告各記述と比べて、一見して分かる程度に表現方法が酷似し、文章の構成は同一であり、ほぼ同じ文章も複数あり、全体を通じて、原告各記述の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから、被告は、原告の各著作物につき複製又は翻案をなしたものである。 イ また、被告各記述の作成、公表にあたって、被告が原告各記述に依拠したことは、その表現が原告各記述と酷似していることに加え、その公表時期が原告各記述より遅いこと、被告が原告ルポの所収された書籍「日本の奨学金はこれでいいのか!」の共著者であること、原告の誤記が被告各記述の中にも見られること、原告各記述でしか公表されていない情報が被告各記述にも記載されていること等の事実から明らかである。 ウ したがって、被告各記述は、原告の各著作物に係る著作権(複製権、翻案権)、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)を侵害するものである。 (被告の主張) 原告の上記主張は、争う。 原告各記述に創作性が認められず、原告の各著作物に係る著作権(複製権、翻案権)侵害が認められないことについては、別紙1及び2の各対比表の「被告の主張」欄記載のとおりである。 また、被告各記述は、これまでの被告をはじめとした奨学金問題に取り組む者が調査、発表等をしてきた論文、書籍、公表された資料等に基づいて執筆されており、原告各記述に依拠したものではない。なお、被告が、原告各記述の中にある一部の債権回収会社の回収額と売上げのデータを参照したことがあっても、データには著作物性がない以上、何ら問題はない。 (2)争点2(デッドコピーによる不法行為の成否)について (原告の主張) 仮に、原告各記述に創作性を有する部分がないとしても、被告各記述は、原告各記述と文章の構成が同一であり、かつ具体的表現においても酷似していることからデッドコピーといえ、不法行為の成立は免れない。 (被告の主張) 原告の上記主張は、争う。 著作権法による保護が認められなかった場合における一般不法行為による損害賠償請求に関しては、著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではない。 被告各記述は、これまでの奨学金問題に関する研究や運動の成果、原告各記述と共通する部分を含め客観的に公開されている資料や問合せによって確認することができる事実関係や制度でしかなく、一般的に利用が可能な情報ばかりである。しかも、原告各記述と被告各記述で共通する箇所は、わずか数行程度しかないため、実質的にも原告に不利益を与えないものである。 したがって、著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がないのは明らかであり、不法行為は成立しない。 (3)争点3(損害及びその額)について (原告の主張) ア 著作権侵害200万円 被告各記述を含む著作物の刊行等によって被告が得た印税、原稿料等は150万円を下らない。被告各記述には、原告によって初めて公表された事実が含まれており、研究者である被告の著作物の中で極めて重要な部分を占めている。以上の事情を考慮すれば、被告の著作権侵害による原告の逸失利益は、被告が得た利益の全てというべきである。 また、原告は、被告との間で示談交渉を行うための弁護士費用20万円を支出した上、本件訴訟を提起するにあたっても弁護士に法律相談の範囲で委任しており、これに要する費用を含めると、被告の著作権侵害により原告が負担した弁護士費用は50万円を下らない。 したがって、被告の著作権侵害による原告の損害額は合計200万円を下らない。 イ 著作者人格権侵害100万円 原告は、被告による著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)の侵害又は不法行為により多大な精神的苦痛を受けており、これを金銭に換算すると100万円を下らない。 (被告の主張) 争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(著作権(複製権、翻案権)、著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)の侵害の成否)について (1)原告は、別紙1及び2の各対比表の原告各記述はそれぞれが表現上の創作性を有する著作物であり、同対比表の被告各記述は、原告各記述と比べて、一見して分かる程度に表現方法が酷似し、文章の構成は同一であり、ほぼ同じ文章も複数あり、全体を通じて、原告各記述の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとし、しかも、被告各記述は原告各記述に依拠して執筆されたものであるから、被告は、原告各記述の点において、原告の著作物(原告雑誌記事、原告ルポ)につき複製又は翻案をなしたものである旨主張する。 そこで検討すると、著作物の複製(著作権法21条、2条1項15号)とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいい(最高裁判所昭和50年(オ)第324号同53年9月7日第一小法廷判決・民集32巻6号1145頁参照)、著作物の翻案(著作権法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。しかして、著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(著作権法2条1項1号)、既存の著作物に依拠して創作された著作物が思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には、複製にも翻案にも当たらないものと解される(最高裁判所平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。 このように、複製又は翻案に該当するためには、既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が、著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である(著作権法2条1項1号)。そして、「創作的」に表現されたというためには、厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく、筆者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが、他方、文章自体がごく短く又は表現上制約があるため他の表現が想定できない場合や、表現が平凡かつありふれたものである場合には、筆者の個性が表現されたものとはいえないから、創作的な表現であるということはできない。 したがって、被告各記述を含む被告の雑誌記事、書籍等が、被告各記述に対応する原告各記述との同一性により原告雑誌記事、原告ルポの複製又は翻案に当たるか否かを判断するに当たっては、両者において共通する部分が、思想、感情若しくはアイデア、事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分でないかどうかを検討する必要がある。 そこで、以上の見地から、別紙1及び2の各対比表について個別に検討することとする。 (2)別紙1の対比表について ア 「1−1あ」、「1−5あ」、「1−6あ」、「1−7あ」、「1−10あ」について この箇所の原告記述と被告記述とでは、@奨学金の原資を確保するのであれば、元本の回収が何より重要であること、A日本学生支援機構は2004年以降、回収金をまず延滞金と利息に充当するという方針をとっていること、B日本学生支援機構の2010年度の利息収入は232億円、延滞金収入は37億円に達し、これらの金は経常収益に計上され、原資とは無関係のところにあること、といった点が共通している。 しかし、上記共通点のうち、@は、原告雑誌記事が発行、公表される以前から既に問題になっていた奨学金の金融事業化についての一般的な考察(乙5ないし7)であって、思想又はアイデアに属するものというべきである。AとBは、奨学金の回収方法や日本学生支援機構の収支に関する事実であり、Bの後段の、回収された金と奨学金の原資との関係についての評価は、これもまた@と同様に奨学金の金融事業化についての一般的考察として思想又はアイデアに属するものというべきであって、原告記述と被告記述とは、表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。また、@ないしBの記述順序は同一ではあるが、その記述順序自体は独創的なものとはいえないし、文章の分量も短く簡潔で、表現も特徴のないありふれたものといわざるを得ず、表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。 イ 「1−1い」、「1−2い」、「1−3い」、「1−5い」、「1−6い」、「1−7い」、「1−10い」について この箇所の原告記述と被告記述とでは、@回収された金の行き先のひとつが銀行であり、債権管理回収業者(サ−ビサー)であり、2010年度期末で民間銀行からの貸付残高が1兆円、年間の利払いが23億円であること、Aサービサーについては、同年度で約5万5000件を日立キャピタル債権回収など2社に委託し、16億7000万円を回収し、そのうち1億0400万円が手数料として払われていること、といった点が共通している。 しかし、上記共通点は、いずれも奨学金の回収方法や日本学生支援機構の収支に関する事実であり、原告記述と被告記述とは、表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。また、@、Aの記述順序は同一ではあるが、その記述順序自体は独創的なものとはいえないし、文章の分量も短く簡潔で、表現も特徴のないありふれたものといわざるを得ず、表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。 ウ 「1−2あ」、「1−3あ」、「1−4」について この箇所の原告記述と被告記述とでは、@日本学生支援機構の2010年度の利息収入は232億円、延滞金収入は37億円に達すること、Aこれらの金は経常収益に計上され、原資とは無関係のところにあること、Bこの金の行き先のひとつが銀行であり、債権管理回収業者(サ−ビサー)であること、といった点が共通している。 しかし、上記共通点は、いずれも奨学金の回収方法や日本学生支援機構の収支に関する事実であり、Aの利息等と奨学金の原資との関係は、上記アのBと同様に、思想又はアイデアに属するものというべきであって、原告記述と被告記述とは、表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。また、@ないしBの記述順序は同一ではあるが、その記述順序自体は独創的なものとはいえないし、文章の分量も短く簡潔で、表現も特徴のないありふれたものといわざるを得ず、表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。 エ 「1−8」、「1−9」について この箇所の原告記述と被告記述とでは、@2010年度の利息収入は232億円、延滞金収入は37億円に達し、これらの金は経常収益に計上され、原資とは無関係のところにあること、Aこの金の行き先のひとつが銀行であり、債権管理回収業者(サ−ビサー)であり、2010年度期末で民間銀行からの貸付残高が1兆円、年間の利払いが23億円であること、Bサービサーについては、同年度で約5万5000件を日立キャピタル債権回収など2社に委託し、16億7000万円を回収、そのうち1億0400万円が手数料として払われていること、といった点が共通している。 しかし、上記共通点は、いずれも奨学金の回収方法や日本学生支援機構の収支に関する事実であり、@の利息等と奨学金の原資との関係は、上記アのBと同様に思想又はアイデアに属するものというべきであって、原告記述と被告記述とは、表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。また、@ないしBの記述順序は同一ではあるが、その記述順序自体は独創的なものとはいえないし、文章の分量も短く簡潔で、表現も特徴のないありふれたものといわざるを得ず、表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。 オ 「1−11」について この箇所の原告記述と被告記述とでは、@奨学金の原資を確保するのであれば、元本の回収が何より重要であるが、A日本学生支援機構は2004年以降、回収金をまず延滞金と利息に充当するという方針をとっていること、B日本学生支援機構の2010年度の利息収入は232億円、延滞金収入は37億円に達し、これらの金は経常収益に計上され、原資とは無関係のところにあること、Cこの金の行き先のひとつが銀行であり、債権管理回収業者(サ−ビサー)であり、2010年度期末で民間銀行からの貸付残高は1兆円、年間の利払いは23億円であること、Dサービサーについては、同年度で約5万5000件を日立キャピタル債権回収など2社に委託し、16億7000万円を回収、そのうち1億0400万円が手数料として払われていること、といった点が共通している。 しかし、上記共通点のうち、@は、既に問題になっていた奨学金の金融事業化についての一般的な考察の一部であって、思想又はアイデアに属するものというべきであり、AないしDは、いずれも奨学金の回収方法や日本学生支援機構の収支に関する事実であって、原告記述と被告記述とは、表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。また、@ないしDの記述順序は同一ではあるが、その記述順序自体は独創的なものとはいい難く、表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。 カ 小括 以上によれば、別紙1の対比表の原告各記述と被告各記述とでは、いずれも、表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎない。したがって、別紙1の被告各記述に係る被告の行為は、別紙1の原告各記述を含む原告雑誌記事の複製又は翻案には当たらないというほかない。 (3)別紙2の対比表について ア 「2−1」について この箇所の原告記述と被告記述とでは、@申立てがあると、裁判所は債務者に督促通知を送ること、A通知を受けた側は2週間以内に異議申し立てをすることができること、B異議を申し立てた場合は訴訟に移行すること、C異議がなければ督促内容が確定して、判決と同様の効力を持つこと、といった点が共通している。 しかし、上記共通点は、いずれも支払督促の制度内容に関する事実であって、原告記述と被告記述とは、表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。また、@ないしCの記述順序は同一ではあるが、その記述順序自体は支払督促手続の流れに沿うものであって、独創的なものとはいい難く、文章もごく簡潔で、制度内容を特徴のないありふれた表現で説明したものであり、表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。 イ 「2−2あ」について この箇所の原告記述と被告記述とでは、@日本学生支援機構の会計資料によれば、2010年度の利息収入は232億円であること、A同年度の延滞金収入は37億円であること、B延滞金収入が増加傾向にあること、といった点が共通している。 しかし、上記共通点は、いずれも日本学生支援機構の収支に関する事実であって、原告記述と被告記述とは、表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。また、@ないしBの記述順序は同一ではあるが、その記述順序自体は独創的なものとはいい難く、文章も簡潔で表現も特徴のないありふれたものであり、表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。 ウ 「2−2い」について この箇所の原告記述と被告記述とでは、@利息、延滞金で年間数億円の収入があり、日本学生支援機構の説明によれば、これらのお金の行き先は「経常収益」、つまり「儲け」とされていること、A延滞金の回収をしても、奨学金の「原資」にはならないこと、といった点が共通している。 しかし、上記共通点のうち、@は、日本学生支援機構の収支に関する事実であり、Aは、前記のとおり、既に問題になっていた奨学金の金融事業化についての一般的な考察であり思想又はアイデアに属するものというべきであって、原告記述と被告記述とは、表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。また、@、Aの記述順序は同一ではあるが、その記述順序自体は独創的なものとはいい難く、文章も簡潔で表現も特徴のないありふれたものであり、表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。 エ 「2−2う」について この箇所の原告記述と被告記述とでは、@延滞金に固執すれば原資の回収は遅れるが、これは、回収金をまず延滞金と利息に充当するという方針を実行しているからであること、Aもし、本当に原資を回収したいのであれば、元本から回収すべきであること、といった点が共通している。 しかし、@は、日本学生支援機構の奨学金の回収方法に関する事実であり、また、@、Aのいずれも、既に問題になっていた奨学金の金融事業化についての一般的な考察の域を出るものではなく、思想又はアイデアに属するものというべきであって、原告記述と被告記述とは、表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。また、@、Aの記述順序は同一ではあるが、その記述順序自体は独創的なものとはいい難く、文章も簡潔で表現も特徴のないありふれたものであり、表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。 オ 「2−2え」について この箇所の原告記述と被告記述とでは、それをしないのは、「利益」こそが回収強化の狙いであるという記載部分が共通しているが、共通している部分の文章自体が極めて短く、ここに筆者の何らかの個性を見出すことは困難であり、原告記述と被告記述とは、表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。 カ 「2−2お」について この箇所の原告記述と被告記述とでは、数億円の延滞金と利息収入があり、利息の大半は財政融資資金という政府から借りた金の利払いに充てられること、もうひとつの金の行き先が、銀行と債権管理回収業者(サービサー)であること、といった点が共通している。 しかし、上記共通点は、いずれも、日本学生支援機構の収支に関する事実であり、原告記述と被告記述とは、表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。また、@、Aの記述順序は同一ではあるが、その記述順序自体は独創的なものとはいい難く、文章も簡潔で表現も特徴のないありふれたものであり、表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。 キ 「2−2か」について この箇所の原告記述と被告記述とでは、その共通点自体が直ちに見出し難いものであるが、この点を措くとしても、両者の内容的な共通点は、日本学生支援機構が、銀行からの借入金に対し多額の利払いを行い、またサービサーにもお金が行っているという点であり、日本学生支援機構の収支に関する事実、すなわち表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。 ク 「2−2き」について この箇所の原告記述と被告記述とでは、その共通点自体が直ちに見出し難いものであるが、この点を措くとしても、両者の内容的な共通点は、2012年度の債権回収業務を担当した日立キャピタル債権回収株式会社が21億9545万3081円を回収し、1億7826万円を手数料として受け取ったという点であり、債権回収会社の実績に関する事実、すなわち表現それ自体ではない部分において同一性を有するにすぎない。 ケ 小括 以上によれば、別紙2の対比表の原告各記述と被告各記述とでは、いずれも、表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎないから、別紙2の被告各記述に係る被告の行為は、別紙2の原告各記述を含む原告ルポの複製又は翻案には当たらないというほかない。 (4)まとめ 以上のとおり、被告による原告の複製権又は翻案権の侵害をいう原告の主張はいずれも理由がない。 また、原告は、被告による原告の著作者人格権(氏名表示権、同一性保持権)の侵害を主張するが、そもそも被告による原告の複製権又は翻案権の侵害が認められないことは前記説示のとおりであり、原告の上記主張はその前提を欠くものであって理由がない。 2 争点2(デッドコピーによる不法行為の成否)について 原告は、仮に、原告各記述に創作性を有する部分がないとしても、被告各記述は、原告各記述と文章の構成が同一であり、かつ具体的表現においても酷似していることからデッドコピーといえ、不法行為の成立は免れない旨を主張する。 この点、被告による原告の複製権又は翻案権の侵害が認められないことは前記説示のとおりであるところ、著作権法による保護が認められない場合に別途不法行為が成立するか否かについては、著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である(最高裁判所平成21年(受)第602号、同23年12月8日第一小法廷判決・民集65巻9号3275頁参照)。 しかるに、本件全証拠を精査しても、被告による被告各記述について、これに対応するとされる原告各記述の性質、内容や、原告雑誌記事、原告ルポにおける位置付け等に照らし、著作権法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を侵害するなどの特段の事情があることを具体的に認めるに足りる客観的な証拠は見当たらない。したがって、原告の上記主張には理由がなく、被告各記述について著作権侵害が成立しない場合の別途の不法行為の成立を認めることはできない。 3 結論 以上によれば、原告の請求にはいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 田中孝一 裁判官 小口五大 裁判官 稲垣雄大 (別紙1省略) (別紙2省略) |
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