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【事件名】ニフティへの発信者情報開示請求事件F
【年月日】令和4年2月24日
 東京地裁 令和3年(ワ)第30966号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和4年1月21日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 森島崇行
同 臼坂富士彦
被告 ニフティ株式会社
同訴訟代理人弁護士 谷口悠樹
同 工藤友良


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、原告が、氏名不詳者が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上の投稿サイトに投稿した別紙投稿記事目録記載の各記事(以下「本件各投稿記事」といい、同目録記載第1の記事を「本件投稿記事1」、同目録記載第2の記事を「本件投稿記事2」という。)により、原告の著作物に係る複製権(著作権法21条)及び公衆送信権(著作権法23条)が侵害されたことが明らかである旨を主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
 原告は、本件で問題となっている写真画像を撮影したと主張する者であり、被告は、インターネット接続プロバイダ事業等を目的とする株式会社である。
(2)氏名不詳者による投稿
 氏名不詳者により、別紙投稿記事目録の各「投稿日時」に記載の各日時において、インターネット上の投稿サイトである「インスタB17」及び「インスタB20」(以下、これらを併せて「本件投稿サイト」という。)に本件各投稿記事が投稿された(甲3、4。以下、本件各投稿記事に係る投稿を、「本件投稿1」などといい、これらを併せて「本件各投稿」という。)。
(3)本件各投稿記事の内容
ア 本件投稿記事1には、至近距離で原告の顔が写った画像(以下「本件画像1」という。)とともに、「たまには言葉変えたらいーのに笑ストーリーにあげすぎて文章覚えちゃうwww」とのコメントが付されている(甲3)。
イ 本件投稿記事2には、バッグが写った画像(以下「本件画像2」といい、本件画像1と併せて「本件各画像」という。)とともに、「エルメス持ってないから分からないけど、買ったばかりでも毳毳?あるものなの?毳毳あるだけでも新品に見えなくて苦手w」とのコメントが付されている(甲4)。
(4)被告の本件発信者情報の保有
 被告は、本件各投稿に係る本件発信者情報を保有している。
2 争点
(1)本件各投稿による原告の権利侵害の明白性(争点1)
ア 本件各原画像の著作権が原告に帰属するか(争点1−1)
イ 本件各投稿により、原告の著作物に係る複製権及び公衆送信権が侵害されたことが明らかといえるか(争点1−2)
(2)発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無(争点2)
3 争点に関する当事者の主張
(1)争点1−1(本件各原画像の著作権が原告に帰属するか)
〔原告の主張〕
 本件各投稿記事に添付された本件画像1の原画像(以下「本件原画像1」という。)は、原告が、自らのスマートフォンを用いて、構図、撮影アングル、露光などを工夫し、自らの顔を自撮りした写真に、「T着の服を一生着なきゃいけないとしたらめちゃくちゃ大事にすると思う誰でも!肌も顔もそうだよね(顔文字)」などと文字等を加える加工を施したものであり、原告の思想及び感情を創作的に表現したものであり、原告の著作物である。また、本件画像2の原画像(以下「本件原画像2」といい、本件原画像1と併せて「本件各原画像」という。)は、原告が、自らのスマートフォンを用いて、原告の自宅において、構図、撮影アングル、露光などを工夫し、原告が購入したバッグを撮影し、これに「楽天で買ったピコタンのインバッグが色ぴったりで嬉しい(顔文字)」などと文字等を加える加工を施したものであり、原告の思想及び感情を創作的に表現したものであり、原告の著作物である。
 原告は、本件各原画像を、投稿後24時間公開・閲覧できるサービスであるインスタグラムのストーリーに備わっている写真撮影機能を用いて撮影し、文字入れ加工等を施した後、同ストーリーに掲載して一般に公開したため、現在は、本件各原画像のデータを保有していない。しかし、本件各原画像の素材となっているものが原告の顔や原告のバッグであることや、原告の自宅で撮影されたものであること、加工された文字等の内容、同ストーリーの一般の使用方法等からすれば、本件各原画像が原告の著作物であることは明らかである。
〔被告の主張〕
 本件各原画像が、原告が作成したもので、かつ、原告が一般に公開したものであるならば、原告は、これらを保有しているはずであるのに、これらを保有していないというのであるから、原告が本件各原画像を作成した客観的な証拠はない。原告は、本件各投稿記事に添付された本件各画像に、原告のインスタグラムのアカウントと同一の文字列が記載されていることから、本件各画像が原告のインスタグラムに投稿された画像を複製したものであると主張するが、原告が自身のインスタグラムに投稿することと、本件各画像の元となった本件各原画像を作成することとは別の事象であって、他人が作成した写真に加工を施してインスタグラムに投稿することも可能であることからすると、本件各原画像が原告の作成にかかるものであるということはできない。
(2)争点1−2(本件各投稿により、原告の著作物に係る複製権及び公衆送信権が侵害されたことが明らかといえるか)
〔原告の主張〕
ア 本件各画像は、本件各原画像と同一であり、本件各投稿の発信者が、それぞれ本件各原画像を複製し、本件投稿サイトに投稿したのであるから、本件各投稿により、本件各原画像に係る原告の複製権及び公衆送信権が侵害されたことは明らかである。
イ 被告は、本件各投稿に引用(著作権法32条)の抗弁が成立する旨主張するが、次のとおり、本件各投稿は、単に原告を誹謗中傷するためにされたものであって、適法な引用は成立しない。
 本件各投稿が投稿された本件投稿サイトは、その冒頭から、原告の容姿や生活ぶり、その家族について誹謗中傷する内容の投稿から始まり、既に、1スレッド当たり約1000の投稿を有するものが、25スレッドにまで拡大している。そして、本件投稿サイトに集まる投稿は、原告がインスタグラムに掲載した写真をわざわざ転載して原告に対する誹謗中傷、人格攻撃等の材料を投下し、あるいは、これに加担して面白がっているに過ぎず、何ら創作的な表現活動はない。本件投稿1も、本件画像1に、「たまには言葉変えたらいーのに笑…」とのコメントを付して投稿されており、原告が同じような言葉でインスタグラムのストーリーに投稿しているなどとして、原告を攻撃する他の読者に対して批判材料を与える目的の投稿であって、実際、本件投稿1の後に続く投稿も、原告の容姿に対する更なる誹謗中傷を行っている。加えて、本件投稿記事1は、投稿全体の大部分が本件原画像1を複製した本件画像1で占められており、それに付されたコメントは極僅かである点からしても、適法な引用といえないことは明らかである。
 また、本件投稿2も、本件画像2に、「エルメス持ってないから分からないけど、買ったばかりでも毳毳?あるものなの?…」などとのコメントを付して、原告のインスタグラムの投稿に対して突っ込みを加え、これを揶揄するものであり、他の読者に対して批判材料を与える目的の投稿であって、実際、本件投稿2の後に続く投稿も、「私も思ったうんびゃく万円するバックケバケバなんだね」などと、原告を馬鹿にする誹謗中傷コメントが誘発されている。また、本件投稿記事2は、投稿全体の大部分が本件原画像2を複製した本件画像2で占められており、それに付されたコメントは極僅かである点からしても、適法な引用といえないことは明らかである。
〔被告の主張〕
ア 本件各投稿により、本件各原画像の複製権及び公衆送信権が侵害されたとの原告の主張は、争う。
イ 本件各投稿は、批評のための引用として正当なものである。本件各投稿は、本件各画像に数行のコメントを付す形でされたものであり、引用部分とそれ以外の部分の区別は明瞭であり、その主従も明白である。そして、本件各投稿における原告への批評は、原告が投稿した本件各原画像に向けられたものであるところ、批評を行うためには、本件各原画像を引用する必要がある。加えて、本件各投稿は、「インスタB」と題する本件投稿サイトに投稿されたものであるから、引用元が原告のインスタグラムである旨の明示もされている。
 以上から、本件各投稿は、適法な引用に該当し、原告の著作権を侵害するものではない。
(3)争点2(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)
〔原告の主張〕
 原告は、本件各投稿を行った投稿者に対して不法行為に基づく損害賠償請求等を行う予定であるが、これらの投稿者に係る情報を把握していない。したがって、原告は、上記損害賠償請求等を行うため、本件発信者情報を保有している被告から、本件発信者情報の開示を受ける必要があり、開示を受けるべき正当な理由がある。
〔被告の主張〕
 原告の上記主張は、争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1−1(本件各原画像の著作権が原告に帰属するか)について
(1)証拠(甲3)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿記事1に添付された本件画像1は、原告の顔を接写して作成された写真上に、「どんなにいい化粧品を使っても、土台の肌が綺麗じゃないと綺麗には見えないし、顔って服みたいに飽きたら買い替えるとかできなくて一生付き合わなきゃいけないしね(顔文字)」「T着の服を一生着なきゃいけないとしたらめちゃくちゃ大事にすると思う誰でも!肌も顔もそうだよね(顔文字)」との文字等が加工されていることが認められる。このように、本件画像1は、顔の肌に注意を惹くように撮影された上、顔を服に例えて、顔の手入れの重要性等を訴える内容の文字入れ等が施されたものとなっており、本件原画像1は、本件画像1の体裁や内容等からしてその元となっているものであると認められることからすると、本件原画像1は、その作成者の思想及び感情が創作的に表現されたものであるといえ、著作物性が認められるというべきである。そして、本件画像1の左上部には、原告のインスタグラムのアカウントと同じ文字列の記載があることが認められる(甲5)上、弁論の全趣旨によれば、インスタグラムのストーリー機能には、写真撮影機能や文字加工機能が備わっており、インスタグラムの利用者において、インスタグラムのアプリ上で写真撮影及び文字加工を施して画像を作成し、同画像をスマートフォンなどの端末に保存することなく、そのまま投稿して同画像を公表することが可能であることが認められ、インスタグラムのストーリー機能の利用者は、同機能を利用して簡便に写真を撮影し、撮影した写真に加工を加えて投稿しているものと認められる。かかるインスタグラムの機能やその利用実態及び本件画像1上に認められる原告のアカウントの文字列に鑑みると、本件画像1の元となったと認められる本件原画像1は、原告がインスタグラムのストーリー機能を用いて撮影及び文字加工を施して自身のアカウントに投稿したものと認められ、本件全証拠に照らしてみても、かかる認定を疑わせる事情は見当たらない。
 したがって、本件原画像1は、原告の著作物であると明らかに認められるというべきである。
(2)また、証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿記事2に添付された本件画像2は、バッグを接写して作成された写真上に「楽天で買ったピコタンのインバッグが色ぴったりで嬉しい(顔文字)」との文字等が加工されていることが認められる。このように、本件画像2は、バッグに注意を惹くように撮影された上、同バッグに対する撮影者の気持ちを表すコメントが付されているものとなっており、本件原画像2は、本件画像2の体裁や内容等からして、その元となっているものであると認められることからすると、本件原画像2は、その作成者の思想及び感情が創作的に表現されたものであるといえ、著作物性が認められるというべきである。
 そして、証拠(甲7の3)によれば、原告は、本件投稿2が本件投稿サイトに投稿された令和3年4月6日の約1か月前、本件原画像2のバッグを他のバッグと一緒に撮影した画像を投稿していることが認められ、これに、上記説示のインスタグラムのストーリー機能の利用実態等を併せ鑑みれば、本件原画像2は、原告がインスタグラムのストーリー機能を用いて撮影及び文字加工を施して自身のアカウントに投稿したものと認められ、本件全証拠に照らしてみても、かかる認定を疑わせる事情は見当たらない。
 したがって、本件原画像2は、原告の著作物であると明らかに認められるというべきである。
(3)被告は、原告が本件各原画像を保存していないことから、原告がこれらの著作権を有することが立証できていない旨主張するが、前記認定説示したところに照らせば、被告の主張には理由がないというべきである。
2 争点1−2(本件各投稿により、原告の著作物に係る複製権及び公衆送信権が侵害されたことが明らかといえるか)について
(1)上記1のとおり、本件各原画像は、原告の著作物であり、原告にその著作権が帰属するところ、証拠(甲3、6)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿1の発信者は、原告が自身のインスタグラムのストーリー機能を用いて公表していた本件原画像1を複製し、これを本件投稿記事1に添付して本件投稿サイトに掲載したことが認められる。したがって、本件投稿1により、原告の本件原画像1に係る複製権及び公衆送信権が侵害されたことが明らかと認められる。
 また、証拠(甲4、6)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿2の発信者は、原告が自身のインスタグラムのストーリー機能を用いて公表していた本件原画像2を複製したものに、毛羽が立った部分に注意を惹くように丸印を施し、これを本件投稿記事2に添付して本件投稿サイトに掲載したことが認められる。したがって、本件投稿2により、原告の本件原画像2に係る複製権及び公衆送信権が侵害されたことが明らかと認められる。
(2)続いて、被告は、本件各投稿は適法な引用(著作権法32条)が成立すると主張するので、本件各投稿が適法な引用といえるかを検討する。
 証拠(甲8)によれば、本件投稿サイトは、原告が自身のインスタグラムに投稿した写真等を対象として、その閲覧者において、当該写真等を添付してコメントを投稿する方法で利用されているところ、本件投稿サイトのスレッドの冒頭には、「通称C。実際は思いっきり芋くさい面長顔のそのへんにいる凡顔おばさん。それをアプリで別人加工して盛れる自撮りが大好き。」「突っ込みどころ満載なおもしろCさんのファンレスをぜひ楽しんでw」等の記載があること、本件投稿サイトに寄せられた多数の投稿は、原告が原告の写真を加工しているとか、原告が子供を置いて外食や外出を楽しんでいるとか、原告が見栄を張っているなどと、原告のSNS上の投稿を批判する内容のものが多数投稿されていることが認められる。そして、本件各投稿記事に付されたコメントは、本件投稿1につき「たまには言葉変えたらいーのに笑ストーリーにあげすぎて文章覚えちゃうwww」との内容であり、本件投稿2につき「エルメス持ってないから分からないけど、買ったばかりでも毳毳?あるものなの?毳毳あるだけで新品に見えなくて苦手w」との内容であって、本件投稿サイトに投稿された他の多数の投稿と同様、原告のSNS上の投稿を取り上げてそれを批判するとともに、誹謗中傷あるいは嘲笑する性質のものであると認められ、そうすると、本件各投稿記事における本件各原画像の引用の目的に正当性を認めることはできない。また、本件各投稿記事の体裁は、本件各原画像を複製した本件各画像がその大部分を占めており、かつ、本件各原画像をそのまま複製し、あるいは、そのまま複製したものに丸印を施しているに過ぎない。そうすると、上記のような本件各投稿における写真以外の部分の記載の性質、引用の目的に正当性を認めることができないこと、本件各投稿記事の体裁からして、原告の各著作物(本件各原画像)を引用する合理的必要性は乏しいといわざるを得ず、本件各投稿における本件各原画像の引用が、適法な引用として認められる「正当な範囲」(著作権法32条1項)を超えることは明らかである。
 したがって、本件各投稿について、適法な引用(著作権法32条1項)に当たるということは到底できないというべきである。
(3)以上からすると、本件各投稿が原告の著作物に係る複製権及び公衆送信権を侵害することは明らかであるということができる。
3 争点2(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について
 上記のとおり、本件各投稿により、原告の本件各原画像に係る原告の複製権及び公衆送信権が侵害されたものであることが認められ、原告は、本件各投稿の発信者に対して損害賠償等の請求をする予定であることが認められるから、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 田中孝一
 裁判官 小口五大
 裁判官 鈴木美智子


(別紙投稿記事目録省略)

 別紙発信者情報目録
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 以上
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