判例全文 line
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【事件名】ドキュメンタリー映画「主戦場」事件
【年月日】令和4年1月27日
 東京地裁 令和元年(ワ)第16040号 映画上映禁止及び損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年9月16日)

判決
原告 A(以下「原告A」という。)
原告 B(以下「原告B」という。)
原告 C(以下「原告C」という。)
原告 D(以下「原告D」という。)
原告 E(以下「原告E」という。)
上記5名訴訟代理人弁護士 別紙代理人目録記載のとおり
被告 F(以下「被告F」という。)
被告 合同会社東風(以下「被告会社」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 別紙代理人目録記載のとおり


主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求等
1 被告らは、被告F監督、T・プロダクションズ製作、被告会社配給に係るドキュメンタリー映画「主戦場」(以下「本件映画1」という。)を上映し、又は、第三者に売却、引渡し、賃貸、譲渡、頒布、配給その他一切の処分をしてはならない。
2 被告らは、原告A及び原告Bそれぞれに対し、連帯して、各500万円及びこれに対する令和元年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告らは、原告C、原告D及び原告Eそれぞれに対し、連帯して、各100万円及びこれに対する令和元年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 被告Fは、アマゾンドットコム・インク(アメリカ合衆国ワシントン州シアトル市ノース・テリー410所在。以下「アマゾン」という。)に対し、「Shusenjo:ComfortWomenandJapan’sWaronHistory」という表題の映画(以下「本件映画2」という。)の上映、頒布(譲渡及び貸与)、複製、公衆送信及び送信可能化をしてはならない旨の意思表示をせよ。
5 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告らが、
@被告らは、原告らに対する取材映像等並びに原告B及び原告Dが作成した映像等を利用して本件映画1を製作し、これを上映することにより、原告らに対する取材映像等について原告らが有する著作権及び著作者人格権を侵害し、原告B及び原告Dが作成した映像等について原告B及び原告Dが有する著作権並びに原告Bが有する著作者人格権を侵害したと主張して、それぞれ、各著作権及び各著作者人格権による差止請求権(著作権法112条1項)に基づき、被告らに対し、本件映画の上映等の差止めを求めるとともに(請求の趣旨第1項関係)、
A被告らは、本件映画1の製作、上映により、原告らに対する取材映像等について原告らが有する著作権及び著作者人格権、原告B及び原告Dが作成した映像等について原告B及び原告Dが有する著作権並びに原告Bが有する著作者人格権を侵害した(上記@)ほか、原告らの肖像権、名誉権(声望)、原告Aのパブリシティ権を侵害したと主張して、それぞれ、各不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告らに対し、損害の一部として、原告A及び原告Bにつき各450万円及びこれに対する不法行為より後の日である令和元年8月1日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を、原告C、原告D及び原告Eにつき各50万円及びこれに対する上記同様の遅延損害金の連帯支払を求め、予備的に?原告C及び原告Dは、被告Fは、原告C及び原告Dとの間の各合意に反して本件映画1を製作、上映したと主張して、被告らに対し、各債務不履行による損害賠償請求権に基づき、各50万円及びこれに対する上記同様の遅延損害金の連帯支払を求め(請求の趣旨第2項、第3項関係)、
B被告Fは、本件映画1の製作に当たり原告らを欺罔して取材に応じるという役務の提供をさせたと主張して、被告らに対し、各不法行為による損害賠償請求権に基づき、各50万円及びこれに対する上記同様の遅延損害金の連帯支払を求め(請求の趣旨第2項、第3項関係)、
C被告Fが著作権を有する本件映画2がアマゾンにおいて譲渡、貸与等され、原告らの肖像権、名誉権(声望)が侵害されたと主張して、被告Fに対し、各肖像権及び各名誉権に基づき、アマゾンに対して本件映画2の上映等をしてはならない旨の意思表示をすることを求める(請求の趣旨第4項関係)事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実。証拠は文末に括弧で付記した。なお、書証は特記しない限り枝番を全て含む。以下同じ。)
(1)当事者
ア 原告Aは、アメリカ合衆国カリフォルニア州弁護士の資格を有し、日本国においてテレビ活動、講演、執筆等の活動を行う者である。
 原告Bは、アメリカ合衆国テキサス州において、ジャーナリストとして執筆、動画作成等の言論活動を行う者である。
 原告Cは、国立大学法人東京大学の元教授であり、多数の著作活動を行う者である。
 原告Dは、国際連合と提携・協議する国際的な非政府組織の役員を務める者である。原告Dは、原告Bのマネージャー兼代理人を務めている。
 原告Eは、従軍慰安婦問題に係る運動等を行う組織の代表を務める者である。
イ 被告Fは、「F’」、「F”」などの名前を使用し、動画投稿サイトであるユーチューブに動画を投稿するなどする者である。
 被告会社は、映画、パッケージの企画、配給、宣伝等を目的とする合同会社である。
((1)につき、争いがない事実)
(2)事実経過
ア 被告Fは、平成28年当時、学校法人上智学院上智大学(以下「上智大学」という。)大学院博士課程に所属する学生であり、I(以下「I」という。)教授の指導下で、修士論文に代わる映像作品を製作することとした。(争いがない事実)
イ 被告Fは、前記の修士論文に代わる映像作品の製作のため三十名弱の者に対し取材を行い、その一環として、平成28年6月から平成29年1月にかけて、原告らに対して順次取材を行って、原告らが話をしている状況を原告らの顔等が映るようにして録画録音した(以下、各原告に対する取材の状況の録画録音について、各原告について区別することなく「本件録画」ということがあり、それらを併せて「本件各録画」という。)。(争いがない事実)
 原告らは、それぞれ、本件録画の前又は後に、被告Fに対し、又は、被告Fとの間で、本件録画の映像、音声等(以下、その映像、音声等について、各原告について区別することなく「本件映像」ということがあり、各原告についてのものはそれぞれ原告名を挙げて「原告Aについての本件映像」などといい、各原告についての本件映像を併せて「本件各映像」という。)について、次のとおり、承諾書又は合意書を作成した(以下、原告らが被告Fに対しこれらの承諾書又は合意書によりした、被告Fがその製作する「歴史問題の国際化に関するドキュメンタリー映画」に本件映像を自由に編集して利用することについての許諾を、併せて「本件各許諾」という。)。
(ア)原告Eは、平成28年6月、被告Fが製作する「歴史問題の国際化に関するドキュメンタリー映画」に関し、次の内容を含む承諾書(以下「本件E書面」という。)に署名押印してこれを作成し、被告Fに交付した。(乙1)
@被告Fは、本件録画に係る本件映像を自由に編集して上記の映画に利用できる。
A被告F又はその指定する者は上記の映画の著作権を有する。
B原告Eは、被告F又はその指定する者が、日本国内外において、上記の映画を配給、上映、展示若しくは公共に送信し、又は、上記の映画の複製物を販売、貸与することを承諾する。
(イ)原告Dは平成28年9月に、原告Cは同年10月に、被告Fとの間で、被告Fが製作する「歴史問題の国際化に関するドキュメンタリー映画」に関し、次の内容を含む合意書に、それぞれ署名押印してこれらを作成した(以下、原告Dが作成した合意書を「本件D書面」といい、原告Cが作成した合意書を「本件C書面」といい、後記BからDの合意を番号に応じて「本件事前確認等条項B」等といい、本件事前確認等条項BからDを併せて「本件事前確認等条項」という。)。(甲5、乙4、5)
@被告Fは本件映像を自由に編集して上記の映画に利用できる。
A被告Fは上記の映画の著作権を有する。
B被告Fは、上記の映画の公開前に上記原告らに確認を求め、上記原告らは、速やかに確認する。
C被告Fは、上記の映画に使用されている上記原告らの発言等が同人らの意図するところと異なる場合には、上記の映画のクレジットに、上記原告らが上記の映画に不服である旨又は上記原告らの希望する内容の声明を表示する。
D被告Fは、本件映像を、撮影時の文脈から離れて不当に使用したり、他の映画等の作成に使用したりすることはない。
(ウ)原告Aは平成28年11月に、原告Bは平成29年1月に、被告Fが製作する「歴史問題の国際化に関するドキュメンタリー映画」に関し、次の内容を含む英語による承諾書に、それぞれ署名してこれらを作成し、被告Fに交付した(以下、原告Aが作成した承諾書を「本件A書面」といい、原告Bが作成した承諾書を「本件B書面」といい、本件E書面、本件D書面、本件C書面、本件A書面及び本件B書面を併せて「本件各書面」という。)。(乙2、3)
@被告Fは本件映像及び本件各録画の際に上記原告らが提供した情報、素材の全部又は一部を自由に編集して上記の映画に利用できる。
A被告F又はその指定する者は上記の映画の著作権を有する。
B被告F又はその指定する者は、日本国内外において、上記の映画を配給、上映、展示若しくは公共に送信し、又は、上記の映画の複製物を販売、貸与する。
C被告Fは、本件映像の一体性を保持し、上記原告らの言葉を不正確に伝えたり、文脈から取り出したりしない。
ウ 被告Fは、平成28年12月から平成29年1月に大韓民国(以下「韓国」という。)における撮影を行い、同年3月8日から同年4月8日、クラウドファンディングの方法により資金を調達し、同年9月にアメリカ合衆国における撮影を行った。(争いがない事実)
エ 被告Fは、原告らを取材した映像である本件各映像の一部、その他の者を取材した映像、後記カ記載の映像等を含む外部映像等を利用した上で、被告Fの見解などを述べた、修士論文に代わる卒業制作の映画(以下「本件卒業制作映画」という。)を製作し、平成30年1月10日、上智大学大学院に提出した。(乙20、弁論の全趣旨)
オ 被告Fは、平成30年、F”の名前で、本件映画1(ドキュメンタリー映画「主戦場」)を制作、監督、撮影等し、T・プロダクションズ(TPRODUCTIONSLLC)が製作者となった。(甲2)
 本件映画1は、本件卒業制作映画に、アニメーション、音楽、字幕等を追加し、一部を訂正して製作された合計122分の映画であり、本件各映像の一部や後記カ記載の映像等が本件卒業制作映画と同様に利用されている。(争いがない事実のほか、甲28、乙7、弁論の全趣旨)
カ 原告B若しくは原告D又はその両方は、別紙外部映像等目録記載のとおり、同目録記載1から3、5、6の各映像(動画)、同記載4の写真について、著作権を有している(以下、これらの映像又は写真を同別紙の番号に応じて「本件外部映像等1」などといい、併せて「本件各外部映像等」という。)。これらは、いずれも、原告Bがインターネットにおける動画投稿サイトである「YouTube」(以下、同名称で行われているサイト提供サービスやそのサイトを単に「ユーチューブ」ということがある。)
又はソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)であるフェイスブックに投稿して公表したものである。
 原告Bは、本件外部映像等5、6の著作者である。
 本件映画1には、本件各外部映像等の全部又は一部が用いられている。その用いられた部分及び本件映画1におけるその利用箇所は、それぞれ、別紙外部映像等利用態様の各「被利用著作物」、「利用箇所」記載のとおりである(以下、本件各外部映像等のうち、本件映画1において用いられた部分の映像等を、同別紙の番号に応じて「本件利用映像等1」といい、併せて「本件各利用映像等」という。)。本件各利用映像等の利用態様等は、同別紙の各「利用態様等」記載のとおりである。(争いがない事実のほか、乙7、弁論の全趣旨)
キ 本件映画1においては、冒頭に近い部分で、原告A、原告B、原告C及び原告Dほか一名について、黒色の背景に、順次、上記原告らについての本件映像などから切り取った各顔写真及びこれに修正主義者という意味の「REVISIONISTS」、否定論者という意味の「DENIALISTS」という文字を重ねた映像と共に、英語の音声及び日本語の字幕により、「彼らは「歴史修正主義者」または「否定論者」と呼ばれる。」、「彼らは、慰安婦制度の存在は認めているが現在ある歴史認識を否定し修正のために闘っている。」と言及される(以下、これらの表現を併せて「本件表現1」という。)。また、本件映画1の後半の部分では、英語の音声により、「否定論者と日本会議とを橋渡ししていると思われる人物がいた。彼は、否定論者のほとんどが参加する「「慰安婦の真実」国民運動」の代表者である。」とのナレーションがされて、その人物としてHの名前が挙げられるが、その際、黒色の背景に、原告Eについての本件映像から切り取った顔写真の映像が映され、「運動には、E氏、D氏…らが関わっている」と言及されて運動に参加する者の例として原告Eの名前が挙げられる(以下、原告Eへのこれらの言及を併せて「本件表現2」といい、本件表現1及び2を併せて「本件各表現」という。)。(争いがない事実)
ク 本件映画1は、平成30年10月7日、韓国釜山市において開催された「第23回釜山国際映画祭」で上映された。(争いがない事実)
 また、日本国内においては、被告会社が、権利を取得して本件映画1を配給し、平成31年3月7日から同年4月9日、試写会を開催し、同月20日以降、四十数か所の映画館において順次上映した。(争いがない事実のほか、弁論の全趣旨)
 本件映画1について開設されたウェブサイト(以下「本件ウェブサイト」という。)等において、本件映画1の予告動画(日本語版、韓国語版、英語版の3種類がある。以下、併せて「本件予告動画」という。)が配信されている。本件予告動画には、原告Aについての本件映像の一部が利用されている。(甲19〜21)
ケ 上智大学には、「上智大学「人を対象とする研究」に関するガイドライン」と題する規定(以下「本件規定」という。)が存在する。本件規定においては、個人情報(個人に関する情報のうち、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述により特定の個人を識別することができるもの)並びに個人のデータ等(個人の行動、環境、心身等に関する情報及びデータ等(個人の思考、行動、環境、経済状況及び身体等に係る情報及びデータ並びに人及びヒト由来の材料及びデータ(血液、体液、組織、細胞、遺伝子及び排泄物等)))を収集、採取して行われる「人を対象とする研究」について、上智大学に所属する大学院生を含む研究者は、個人情報や個人のデータ等を収集、採取するときは、対象者に対して、研究目的、研究成果の発表方法など研究計画について事前に分かりやすく説明しなければならず、対象者から書面その他の方法により事前に対象者の自由意志に基づく同意を得なければならないこと、対象者から個人情報や個人のデータ等の開示を求められたときはこれを開示しなければならないこと、対象者が同意を撤回したときは速やかにその情報やデータ等を廃棄しなければならないことなどを定める。(争いがない事実のほか、甲15)
コ 原告らは、令和元年6月19日、本件訴えを提起した。(当裁判所に顕著)
 原告らは、令和元年10月頃、I教授を通じて、被告Fに対し、本件規定に従い、被告Fの研究に参加する旨の同意を撤回する旨の意思表示をした。(甲22〜24、弁論の全趣旨)
 原告らは、令和元年12月26日本件第1回弁論準備手続期日において、本件各書面による意思表示をそれぞれ取り消す旨の意思表示をした。(当裁判所に顕著)
サ 令和3年5月頃、アマゾンがアメリカ合衆国内において運営する電子商取引サイトにおいて、被告Fが監督として表示された本件映画2が、有償で、期限の定めなく又は期限を定めて公衆送信されていた。(争いがない事実のほか、甲43、弁論の全趣旨)
3 争点
 本件の争点は、次のとおりである。
(1)被告らが本件各映像を利用して本件映画1を製作、上映することは、原告らの著作権(複製権、上映権、公衆送信権、頒布権、翻案権、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)、肖像権を侵害し、また、原告Aのパブリシティ権を侵害するか(争点@)。(前記1@、A?に関するもの)
ア 原告らが本件各映像の著作権者であるか(争点@−1)。
イ 本件予告動画は原告Aの肖像の顧客吸引力を利用しているものか(争点@−2)。
ウ 本件各許諾は詐欺により取り消され又は錯誤により無効であるか(争点@−3)。
エ 本件各許諾は本件規定に従い撤回されたか(争点@−4)。
(2)被告らが本件各映像を利用して本件映画1を製作、上映することは、原告らの名誉権(声望)を侵害し、また、著作者人格権(みなし著作者人格権)を侵害するか(争点A)。(前記1@、A?に関するもの)
ア 本件映画1の製作、上映により、原告らの社会的評価が低下したか(争点A−1)。
イ 本件各表現が違法性を欠くものであるか(争点A−2)。
ウ 原告らが本件各映像の著作者であるか(争点A−3)。
エ 本件映画1の製作、上映は、著作者である原告らの名誉又は声望を害する方法により本件各映像を利用するものであるか(争点A−4)。
(3)被告らが本件各利用映像等を利用して本件映画1を製作、上映することは、原告B及び原告Dの著作権(複製権、上映権、公衆送信権、頒布権、翻案権、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)を侵害するか(争点B)。(前記1@、A?に関するもの)
ア 本件各利用映像等の利用が原告Bの許諾に基づくものであるか(争点B−1)。
イ 本件各利用映像等の利用が引用(著作権法32条1項)として適法か(争点B−2)。
(4)被告らが本件利用映像等5、6を利用して本件映画1を製作、上映することは、原告Bの著作者人格権(同一性保持権、みなし著作者人格権)を侵害するか(争点C)。(前記1@、A?に関するもの)
(5)被告Fに、原告C及び原告Dとの間の本件事前確認等条項に違反した債務不履行があるか(争点D)。(前記1A?に関するもの)
(6)被告らの本件映画1の製作、上映の不法行為又は被告Fの債務不履行によって原告らに生じた損害及び額(争点E)。(前記1Aに関するもの)
(7)被告Fが、原告らを欺罔して取材に応じるという役務の提供をさせたか(争点F)。(前記1Bに関するもの)
(8)被告Fの詐欺の不法行為によって原告らに生じた損害及び額(争点G)。
(前記1Bに関するもの)
(9)本件映画2の譲渡、貸与等により原告らの肖像権、名誉権(声望)が侵害され、原告らはこのことにより被告Fにアマゾンに対する意思表示をすることを請求できるか(争点H)。(前記1Cに関するもの)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点@−1(原告らが本件各映像の著作権者であるか)について
(原告らの主張)
 原告らは、それぞれ取材において、各自の思想を視聴者に伝わるように口述したものであり、この口述の仕方、その際の表情、しぐさなどに創作性が認められるのであるから、本件各映像の「制作、監督、演出…を担当してその…全体的形成に創作的に寄与した」著作者であり、著作権者である。これに対し、本件各録画は固定カメラによりされたから、「撮影、美術」に創作的要素は存在しないのであり、被告Fは本件各映像の著作者ではなく、著作権者でもない。
(被告らの主張)
 本件各映像の著作者、著作権者は被告Fであり、原告らは、被告Fが準備した質問に対して自らの考えをカメラの前で述べた実演家にすぎず、本件各映像の著作者でなく、著作権者でもない。被告Fは、原告らに対する取材映像を映画に使用することを着想し、映画に使用することを想定して、本件各映像の構図、陰影、場所などを決め、照明の設置、カメラの操作などを自ら行い、本件各録画の時間や質問の仕方などを工夫して、本件各映像の制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその全体的形成に創作的に寄与した。
(2)争点@−2(本件予告動画は原告Aの肖像の顧客吸引力を利用しているものか)について
(原告Aの主張)
 原告Aは著名人であり、本件予告動画は、原告Aについての本件映像を利用して原告Aの肖像の顧客吸引力を利用したものである。
(被告らの主張)
 否認する。
(3)争点@−3(本件各許諾は詐欺により取り消され又は錯誤により無効であるか)について
(原告らの主張)
 被告Fは、原告らに対する取材映像を利用して商用映画(本件映画1)を製作しようと考えていたが、原告らに対しては、これを秘し、上智大学大学院修士課程の一環である卒業制作のための真摯な学術研究目的の活動であると説明して原告らを欺罔したため、原告らはその旨誤信して被告Fによる取材に応じ、本件各書面を作成した。
 本件各書面による意思表示は、詐欺取消し又は錯誤無効により存在しない。
(被告らの主張)
 原告らは、被告Fに対し、本件各書面によって、本件各映像を映画に利用することについて許諾した。
 被告Fは、本件各映像を用いて修士論文に代わる映画を製作して上智大学に提出した。本件映画1は、この映画と同じ作品である。被告Fは、原告らに対し、製作した映画が良いものになった場合には、映画祭への出品や一般公開をしたい旨を説明した。本件映画1も様々な立場の論者の意見を紹介し史料により事実を実証的に検証するものであって、被告Fが本件各録画に当たり原告らを欺罔した事実はなく、原告らは内容を十分理解した上で本件各書面を作成したから、原告らに錯誤もない。
(4)争点@−4(本件各許諾は本件規定に従い撤回されたか)について
(原告らの主張)
 原告らは、被告Fの卒業制作に関して研究に参加する旨同意し、また、本件各書面を作成したところ、本件規定に従ってこれらの意思表示を撤回したから、本件各書面による意思表示は存在しない。
(被告らの主張)
 本件規定は、上智大学が研究者の任意性、自主性を前提として定めたものにすぎず、本件映画1は、原告らが従前外部に発表していた意見等を言語分析したものであって、本件規定の定める「人を対象とする研究」にも当たらないから、被告Fには、本件映画1の製作、上映に関して本件規定に従う義務はない。原告らは、本件各書面により被告Fとの間で契約を締結したものであり、原告らが一方的に意思表示を撤回することは許されない。
(5)争点A−1(本件映画1の製作、上映により、原告らの社会的評価が低下したか)について
(原告らの主張)
 本件映画1においては、本件各表現のとおり、原告A、原告B、原告C及び原告Dを歴史修正主義者及び否定論者とし、原告Eを否定論者としているところ、これらの言葉は、事実を認めない者を意味し、国際的にはナチス・ドイツによるホロコーストを否定する者を意味するもので、原告らに極めて否定的な評価を与えるレッテルを貼り、原告らの社会的評価を低下させるものである。本件映画1の製作、上映は、原告らの名誉権を侵害する。
 また、本件映画1では本件各映像の各一部のみが利用されており、これらの一部のみでは原告らが本来の主張と異なった主張をしていると捉えられる可能性がある。例えば、原告Cが国際関係において「国家は謝罪してはいけない」と述べた部分について、国内における場合も含むように見せかけられている。
(被告らの主張)
 被告Fは、本件映画1において原告らを歴史修正主義者、否定論者と評価する者がいる旨言及したにすぎず、被告Fが原告らをそのように評価したわけではない。論争が生じている構図そのものが主題となる本件映画1において、論者の立ち位置として論者に対する社会的評価を紹介したとしても、一方的にレッテルを貼ることにはならない。そして、実際、原告らは、国際連合人権委員会やグレートブリテン及び北アイルランド連合王国(以下「英国」という。)の駐日大使から歴史修正主義者と評価されており、被告Fは、原告らについて既にされていた社会的評価の存在を指摘しただけであって、これを低下させていない。
 そもそも、歴史修正主義者、否定論者という言葉は、ナチス・ドイツによるホロコーストを否定する者について使用されることはあるものの、本来は、歴史的な定説や通説を再検討して新たな解釈を示す者や、これらを否定する者を意味するにすぎない。現に、原告Cは、取材の際、被告Fに対し、歴史修正主義者というレッテル語におびえる必要はないと述べていたし、歴史修正主義に積極的意味を付与する者もいる。仮に、本件映画1の視聴者が、原告らの見解を踏まえ、原告らについて「歴史的にあった事実を否定する者」等と評価するとすれば、それは議論の帰結にすぎない。
 本件映画1の編集に不公正なところはなく、一部分のみを切り取ることで言説の文脈を改変させたこともない。原告Cは、国際関係において「国家は謝罪してはいけない」と述べたと主張するが、従軍慰安婦問題は国家とその領域内における人権の問題である。
(6)争点A−2(本件各表現が違法性を欠くものであるか)について
(被告らの主張)
 仮に、本件各表現を含む本件映画1の製作、上映によって原告らの社会的評価が低下したとしても、本件映画1は、従軍慰安婦問題に関する論争の様相を主題とするもので公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあることは明らかであり、原告らが従軍慰安婦問題に係る旧日本軍の責任について否定的な立場を取っており、社会的に歴史修正主義者、否定論者と呼ばれているという本件各表現の前提としている事実は真実である。さらに、仮に、本件映画1において原告らを歴史修正主義者、否定論者と評価しているとしても、原告らは従軍慰安婦問題に係る旧日本軍の責任について否定的な立場を取っており、本件各表現は原告らに対する人身攻撃に及ぶと評価されるものではない。したがって、本件各表現は違法性を欠く。
(原告らの主張)
 本件映画1は商用映画であって、その目的は専ら公益を図ることにはない。また、原告らが歴史修正主義者、否定論者であるという事実は真実ではないし、原告らに歴史修正主義者、否定主義者というレッテルを貼ることは、人身攻撃にほかならず、意見でも論評でもない。
(7)争点A−3(原告らが本件各映像の著作者であるか)について
(原告らの主張)
 前記(1)(原告らの主張)のとおり、原告らは、本件各映像の著作者である。
(被告らの主張)
 前記(1)(被告らの主張)のとおり、原告らは、本件各映像の著作者ではない。
(8)争点A−4(本件映画1の製作、上映は、著作者である原告らの名誉又は声望を害する方法により本件各映像を利用するものであるか)について
(原告らの主張)
 本件映画1は、本件各表現のとおり、原告A、原告B、原告C及び原告Dを歴史修正主義者及び否定論者とし、原告Eを否定論者として、原告らに極めて否定的な評価を与えるレッテルを貼って、原告らの社会的評価を低下させ、また、本件各映像の各一部のみを利用して、原告らが本来の主張と異なった主張をしていると捉えられる可能性があるものとなっている(前記(5)(原告らの主張))。したがって、本件映画1の製作、上映は、原告らの著作物である本件各映像を原告らの名誉又は声望を害する方法により利用するもので著作者人格権を侵害する行為とみなされる。
(被告らの主張)
 被告Fは、本件映画1において原告らを歴史修正主義者、否定論者と評価する者がいる旨言及したにすぎず、本件映画1は原告らの社会的評価を低下させるものではなく、仮に、本件映画1の視聴者が、原告らの見解を踏まえ、原告らについて「歴史的にあった事実を否定する者」等と評価するとすれば、それは議論の帰結にすぎないし、本件映画1の編集に不公正なところはなく、一部分のみを切り取ることで言説の文脈を改変させたこともない(前記(5)(被告らの主張))。したがって、被告らによる本件映画1の製作、上映が、原告らの著作者人格権を侵害したとみなされることはない。
(9)争点B−1(本件各利用映像等の利用が原告Bの許諾に基づくものであるか)について
(被告らの主張)
 原告Bは、被告Fに対し、本件B書面(前記第2の2(2)イ(ウ))により、原告Bについての本件映像における原告Bの発言と同趣旨の内容の本件各利用映像等について自由に編集して利用することを許諾し、又は、少なくとも本件映画1に自由に編集して利用することには異議がないといえる。
(原告Bの主張)
 否認する。本件各利用映像等は、原告Bに無断で本件映画1に利用されている。
(10)争点B−2(本件各利用映像等の利用が引用(著作権法32条1項)として適法か)について
(被告らの主張)
 被告Fによる本件各利用映像等の利用は、本件映画1が従軍慰安婦をめぐる論争を取り扱ったドキュメンタリー映画であり、その一方の見解を紹介し、批評する目的で、既に公表されていたものを、必要最小限の時間に限って採録するものであり、本件映画1が主、本件各利用映像が従という関係にある上、利用箇所またはエンドクレジットにおいて出所を表示するなど、公正な慣行に合致し、かつ、目的上正当な範囲内で行われた引用である。
 なお、本件利用映像等2、3については、原告Bがユーチューブに投稿した映像であることやその題名が、利用されている箇所から明らかであり、視聴者は本件外部映像等2、3にたどり着くことが可能であり、出所の明示があるといえる。
(原告B及び原告Dの主張)
 本件映画1は商用映画であって、批評する目的があるか否かにかかわらず、公正な慣行に合致するとはいえず、正当な範囲内で行われたものともいえない。
 本件利用映像等2、3については、エンドクレジットに出所表示がなく、利用されている箇所においても、著作者名及び題名の全部又は一部が小さく映り込んでいるにすぎない。このような態様での利用によっては出所表示がされたとはいえない。
(11)争点C(被告らが本件利用映像等5、6を利用して本件映画1を製作、上映することは、原告Bの著作者人格権(同一性保持権、みなし著作者人格権)を侵害するか)について
(原告Bの主張)
 本件映画1における本件利用映像等5、6の利用は、原告Bが有する本件外部映像等5、6の同一性保持権を侵害し、また、原告Bの名誉又は声望を害する方法によるもので著作者人格権を侵害する行為とみなされる。
 すなわち、本件利用映像等5は、原告Bが、アメリカ合衆国国立公文書館に問い合わせて得られた公文書に基づき、従軍慰安婦は募集により集められたのであって強制的に徴用された者らではなかったことを説明している場面であるところ、本件映画1においてはこの音声を削除した上、被告Fによる「私が慰安婦問題を調べ始めたときテキサスの白人男性が日本の右派の主張を繰り返しているのが奇妙に映ったそこで他の投稿を観ていたらこれを見つけた」という説明を付して利用されている。このような改変は、原告Bの意に反するものであり、また、あたかも、原告Bが客観的証拠もなく偏った主張を述べているかにすぎないかのような印象を与え、原告Bの名誉又は声望を害する方法により本件外部映像等5を利用するものである。
 また、本件外部映像等6は、「日本におけるレイシズム」と題し、原告Bが、日本における人種差別について殊更に騒ぎ立てる者がいること、もちろん人種差別は好ましくないこと、しかし殊更に日本において騒ぎ立てるのも好ましくないことを述べるものであるところ、本件映画1においては、このうちの一部である、原告Bが、日本における人種差別について殊更に騒ぎ立てる者がいることを述べた部分のみが本件利用映像等6として利用されている。このような切除は、原告Bの意に反するものであり、また、あたかも、原告Bが日本に人種差別が存在すると指摘すること自体を批判しているかのような印象を与え、原告Bの名誉又は声望を害する方法により本件外部映像等6を利用するものである。
(被告らの主張)
 本件映画1においては、本件外部映像等5について、7分18秒にわたる映像等のうち映像のみを10秒間引用し、本件外部映像等6について、3分48秒にわたる映像及び音声を17秒間引用したものである。映像及び音声のうちの一部の映像のみを引用すること自体は、通常、著作者の意に反しない。また、著作権法は同一性保持権と引用をそれぞれ制度として規定したものであるから、著作物の一部引用に伴う改変(削除)は、制度に内在する同一性保持権の制限である。本件外部映像等5、6の一部の引用が適法である以上、引用に伴う改変は当然に想定される。本件利用映像等6については、本件映画1において本件外部映像等6の表現形式上の本質的特徴は感得されない。したがって、本件映画1における本件利用映像等5、6の利用は、同一性保持権を侵害するものではない。
 また、本件利用映像等5が映される際の「テキサスの白人男性が日本の右派の主張を繰り返しているのが奇妙に映った」という説明は、被告Fの意見、論評にすぎず、原告Bを誹謗中傷するものではなく、本件利用映像等6は、原告Bが人種差別を容認しているなどと誤解させる内容ではなく、一般視聴者の普通の注意と観方を基準とすれば、原告Bの名誉や声望を害するとはいえない。したがって、本件映画1における本件利用映像等5、6の利用は、原告Bの名誉又は声望を害する方法によるものではない。
(12)争点D(被告Fに、原告C及び原告Dとの間の本件事前確認等条項に違反した債務不履行があるか。)について
(原告C及び原告Dの主張)
 原告C及び原告Dと被告Fは、本件卒業制作映画に関してそれぞれ本件C書面及び本件D書面に記載された合意をしたところ、被告Fは、原告C及び原告Dに公開前に本件卒業制作映画を確認させることなく、したがって、原告C及び原告Dの不服及び声明を本件卒業制作映画に表示することなく、原告C及び原告Dについての本件映像を撮影時の文脈から離れて利用し、かつ、他の映画である本件映画1に利用して、本件事前確認等条項に違反した。
 被告Fは、原告C及び原告Dに対し、電子メールにおいても、完成した本件卒業制作映画を原告C及び原告Dに確認させ、不服又は声明を付する機会を与える旨約束していた。
 被告Fが、原告C及び原告Dに対して確認のための映像へのハイパーリンクを記載した電子メールを送信したことはあるが、被告Fが本件卒業制作映画を提出した後の平成30年5月のことである(ただし、原告Dは当時この電子メールを確認していなかった。)上、上記のハイパーリンク先の映像は、原告C及び原告Dのそれぞれの取材部分のみであった。
(被告らの主張)
 原告C及び原告Dは、本件事前確認等条項Bが定めるとおり「速やかに確認する」ことを前提に一定の不服表示権を有するところ、本件卒業制作映画は本件映画1と同一の作品であり、被告Fは、平成30年5月21日、原告C及び原告Dに対し、2週間の期限を付して映画に利用した原告C及び原告Dの発言等の部分の映像をそれぞれ送付した。これに対し、原告C及び原告Dから回答はなかったし、映画全体の閲覧の要請もなかった。被告Fは、原告C及び原告Dに対し、釜山国際映画祭の前に連絡し、試写会の前にも案内をした。被告Fが、本件映像を撮影時の文脈から離れて利用したこともない。なお、原告C及び原告Dは、本件事前確認等条項Cに定めるとおり「映画に使用されている原告らの発言等が同人らの意図するところと異なる場合」に不服表示権を有するのであり、本件事前確認等条項において確認する対象として定められているのは「映画に使用されている原告らの発言等」すなわち原告C及び原告Dの取材部分であって、映画全体ではない。
 被告Fに本件事前確認等条項の違反はない。
(13)争点E(被告らの本件映画1の製作、上映の不法行為又は被告Fの債務不履行によって原告らに生じた損害及び額)について
(原告らの主張)
 被告らによる本件映画の製作、上映により、原告らは著作権、肖像権、名誉権、著作者人格権を侵害され、原告Aは更にパブリシティ権を侵害され、これらによって精神的苦痛等を被った。各著作権侵害についての損害額は著作権法114条2項に基づき算定される。また、各肖像権侵害についての慰謝料額は各30万円、各名誉権侵害についての慰謝料額は各30万円、各著作者人格権侵害についての慰謝料額は各30万円が、原告Aのパブリシティ権侵害についての損害額は500万円が相当である。原告らは、これらの合計の一部として、原告A及び原告Bにつき各450万円、原告C、原告D及び原告Eにつき各50万円を請求する。
 また、仮に上記の各不法行為が認められない場合であっても、原告C及び原告Dは、被告Fの債務不履行により各50万円の損害を被った。
(被告らの主張)
 否認ないし争う。
(14)争点F(被告Fが、原告らを欺罔して取材に応じるという役務の提供をさせたか。)について
(原告らの主張)
 被告Fは、I教授、上智大学大学院生2人と共謀の上、韓国のいわゆる元従軍慰安婦の証言が真実であることを前提として、専ら日本国政府及び日本人を糾弾する運動のための政治プロパガンダ映画である本件映画1を製作し、これを商業映画として有料で一般公開することを計画していたにもかかわらず、いずれも保守系論者として著名な原告らに対し、上記計画を秘して、大学院の博士課程を修了するために修士論文に代替する研究として大学に提出する「卒業制作」、「卒業プロジェクト」への協力を求めると称し、あたかも真摯な学術研究目的のみであるかのように装い、「これは学術研究でもあるため、一定の学術的基準と許容点を満たさなければならず、偏ったジャーナリズム的なものになることはありません」、「私が現在手がけているドキュメンタリーは学術研究であり、…公正性かつ中立性を守りながら、今回ドキュメンタリーを作成し、卒業プロジェクトとして大学に提出する予定です」などと虚言を弄して、原告らをしてその旨誤信させ、原告らに対し、被告Fからの取材に応じるという役務を提供させた。
(被告らの主張)
 被告Fは原告らを欺罔しておらず、原告らは本件各映像を利用した映画である本件映画1が映画館等で一般公開される可能性があることを認識していた。
 すなわち、被告Fは、原告らに対し、商業映画としては公開しないとは言っておらず、取材前及び本件各書面作成前に、良い作品になれば映画祭や一般公開等を目指すと説明した。
(15)争点G(被告Fの詐欺の不法行為によって原告らに生じた損害及び額)について
(原告らの主張)
 原告らは、被告Fの欺罔行為により真意に反して取材に応じるという役務を提供させられ、それぞれ、役務提供の対価相当額である各50万円の損害を被った。
(被告らの主張)
  否認ないし争う。
(16)争点H(本件映画2の譲渡、貸与等により、原告らの肖像権、名誉権(声望)が侵害され、原告らはこのことにより被告Fにアマゾンに対する意思表示をすることを請求できるか。)について
(原告らの主張)
 本件映画1のDVDが本件映画2としてアメリカ合衆国のアマゾンにおいて譲渡、貸与等されており、これによって原告らの肖像権、名誉権(声望)が侵害されているところ、被告Fは本件映画2の監督及び著作権者であって、被告Fには上記侵害によって損害が拡大することを防止する義務がある。したがって、原告らは、被告Fに対し、アマゾンに対して本件映画2の公衆送信等をしてはならない旨の意思表示をすることを求める。
(被告Fの主張)
 被告Fは本件映画2の監督として表示されているが、本件映画1と本件映画2の関係を含めその余の事実関係は知らない。
 本件映画2の譲渡、貸与等を行っているのはアマゾンであって被告Fではないから、原告らはアマゾンに対し請求を行うべきである。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 前提事実、証拠(各項末尾に掲記したほか、甲6、7、21、35〜38、41、乙33、38、42、43。原告C、原告D、原告E、被告F、被告会社代表者。ただし、いずれも後記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
(1)取材に至る経過等
 被告Fは、平成19年にアメリカ合衆国の大学において学位を取得した後、語学指導等を行う外国青年招致事業(TheJapanExchangeandTeachingProgramme、JETプログラム)に参加して日本に滞在していたことがあった。被告Fは、動画を作成して、ユーチューブに投稿することがあり、平成25年、「日本の人種差別」と題する動画を作成してユーチューブに投稿した。これに対し、原告Bが上記動画に言及した本件外部映像等6をユーチューブに投稿し、また、そのほか複数の者が反発するなどし、これらのことが被告Fが従軍慰安婦問題に興味を抱くきっかけとなった。(乙7)
 被告Fは、平和学と紛争解決に関心を有していたところ、上智大学グローバル・スタディーズ学部大学院に進学し、その指導教授としてI教授が指定された。
 被告Fは、在学中に従軍慰安婦問題に対する興味を深めるようになり、また、ドキュメンタリー映画が好きであったことや動画の作成経験を有していたことから、修士論文に代わる映像作品として従軍慰安婦問題に関する映画を製作すること、この問題において重要な役割を果たしていると被告Fが考えた者たちに対する取材映像を映画の主たる部分とすることを構想し、最終的に三十名弱の者に対する取材を行った。被告Fが取材を依頼した者の中には、従軍慰安婦問題に詳細な知見を有するとして原告らも評価するJもいたが、同人を含めて数名は取材を断った(甲14)。I教授等は、被告F等学生に対し、映像等を利用する目的で取材を行う場合には、取材対象者から承諾書の提出を受けるよう指導していた。
 被告Fは、良い映画が製作できた場合には映画祭等に応募することも視野に入れていたが、原告らに取材した時点では、配給会社と連絡をして、その配給について話をしていることなどはなかった。
(2)原告Eに対する取材経過等
ア 被告Fは、平成28年5月24日、原告Eに対し、被告Fが上智大学の大学院生であること、平成25年に作成した動画「日本の人種差別」に関して日本の保守系の者から好意的でない反響があったことに続いて、「慰安婦問題をリサーチするにつれ、欧米のリベラルなメディアで読む情報よりも、問題は複雑であるということが分かりました。慰安婦の強制に関する証拠が欠落していることや、慰安婦の状況が一部の活動家や専門家が主張するほど悪くはなかったことを知りました。私は、欧米メディアの情報を信じていたことを認めねばなりませんが、現在は疑問を抱いています。私はユーチューブでチャンネルを持っており、日本の問題に強い関心を持つ欧米人が大勢チャンネル登録しています。私の作った動画から、この問題に関心を持つ視聴者が多いと思いますので、このドキュメンタリー企画においては、私の動画の視聴者と欧米の学術世論に対して、E様がお話できるプラットフォームをご提供できたらと思っております。大学院生として、私にはインタビューする方々を、尊敬と公平さをもって紹介する倫理的義務があります。また、これは学術研究でもあるため、一定の学術的基準と許容点を満たさねばならず、偏ったジャーナリズム的なものになることはありません。…」などとして、原告Eに取材をさせてほしい旨を記載した電子メールを送信した。
 原告Eは、平成28年5月30日、被告Fに対し、取材を受ける旨返信した。被告Fは、同月31日、原告Eからの要請に応じて、被告Fが平成25年に作成した動画「日本の人種差別」のURLと共に、「動画では、その時に重要だと思った問題を取り上げたのですが、非常に大きな誤解を生んでしまいました。…私が現在手がけているドキュメンタリーは学術研究であり、学術的基準に適さなければなりません。よって、公正性かつ中立性を守りながら、今回のドキュメンタリーを作成し、卒業プロジェクトとして提出する予定です。そして、欧米の視聴者も関心を持っていると思います。なので、E様がご意見を発信できる場をご提供できたらと思っています。…」旨記載した電子メールを送信した。原告Eは、被告Fが作成した動画を見た上で、日本語及び英語の動画で発信するのは更に重要になると思うとして、取材に応じる旨返信した。被告Fは、同年6月3日、ドキュメンタリーのテーマが「歴史議論の国際化」であり、「慰安婦問題には多くの国々が現在関わっており、問題の現在の状況を探求するため、主たる行動主体について調査したいと思っています。」と記載した上、質問事項を列挙した電子メールを送信した。
 被告Fと原告Eは、平成28年6月11日に面会することとした。
 被告Fは、平成28年6月8日、原告Eに対し、取材当日に承諾書の作成のために印鑑を持参してほしいとして、承諾書案を添付した電子メールを送信し、原告Eは、承諾書の件も含め了解した旨返信した。
(本項につき、甲10、乙1)
イ 原告Eは、平成28年6月11日、被告F及び他の学生と面会し、本件E書面に署名押印し、被告F等からの約2時間に及ぶ取材に応じた。本件録画においては、被告Fが、照明、カメラの設置、録音録画、原告Eの顔の向きの指示などを行い、原告Eの発言は、被告Fがあらかじめ準備していた質問に答える形でされた。(争いがない事実のほか、乙1)
(3)原告Cに対する取材経過等
ア 被告Fは、平成28年8月11日、原告Cに対し、被告Fが上智大学大学院の学生であること、卒業制作として「歴史論争の国際化」というテーマでドキュメンタリーを製作していること、従軍慰安婦問題に関わっている主な活動家及びその現在の活動について学ぶとともに権威である原告Cからも見解を聞きたい旨記載した電子メールを送信した。原告Cは、被告Fに対し、取材に応じるので候補日を連絡するよう返信した。
 被告Fと原告Cは、同年9月9日に面会することとした。(甲12)
イ 原告Cは、平成28年9月9日、被告F及び他の学生と面会し、被告Fからの約1時間半に及ぶ取材に応じた。本件録画においては、被告Fが、照明、カメラの設置、録音録画、原告Cの顔の向きの指示などを行い、原告Cの発言は、被告Fがあらかじめ準備していた質問に答える形でされた。被告Fは、本件E書面と同内容の承諾書案を示したが、原告Cは承諾書への署名押印を留保した。(争いがない事実)
 原告Cは、その取材の中で、歴史修正主義者について、「歴史上否定できない事実についてなかったかのように言うような歴史を改ざんする許しがたい者」というような意味においては自身は歴史修正主義者ではないが、歴史を「リヴァイズ」ないし「改訂」することは歴史の進歩であって必要なことであり、「リヴィジョニズム」というレッテル語に怯える必要はない、他方、レッテル語を貼って相手を批判して口を封じるということはすべきではなく、事実と論理で議論すべきである、等と述べた。(乙26)
ウ 被告Fは、平成29年9月12日、原告Cに対し、指導教官から、原告Cの承諾書を得ることなくドキュメンタリーを製作することは難しい旨指摘されたこと、承諾書に「製作者は、出演者の姿、声の整合性を保ち、出演者の言葉を誤って伝え、あるいは、文脈から離れて使用することがないことに同意する。」という一文を加えることを提案したいことのほか、「映画をご覧になって、ご自身が不正確に描写されているとお感じになった場合は、ドキュメンタリーの最後に、…異を唱えていらっしゃると付け加えます。しかし、C先生の出演箇所を全て削除することは新しいドキュメンタリーを製作しなければならず、修士を期限までに修了するためには再製作は難しいことをご理解いただきたく存じます。…新しい条件で承諾書に署名頂ければ大変ありがたく存じます。そのほかに、先生の映像を削除する権利以外で追記されたいことがございましたら、お教えいただければ幸いです。」旨記載した電子メールを送信した。また、被告Fは、同月30日、原告Cに対し、本件D書面を添付した上、同内容で合意することを提案する電子メールを送信した。原告Cは、同日、被告Fに対し、本件D書面について「この文書はよくできています。これでよければ署名します。」旨記載した電子メールを送信し、同年10月5日、本件C書面に署名押印し、その後、被告Fに送付した。
(4)原告Dに対する取材経過等
ア 被告Fは、平成28年8月11日、原告Dに対し、被告Fが上智大学大学院の学生であること、修士課程の卒業プロジェクトのため、「歴史論争の国際化」というテーマでドキュメンタリーを製作していること、従軍慰安婦問題に関わっている主な活動家及びその現在の活動を知りたいと思っており、原告D及び原告Bに取材させてほしいことを記載した電子メールを送信した。原告Dは、被告Fに対し、取材に応じる準備があるので候補日を連絡するよう返信した。
 被告Fは、平成28年8月14日、原告Dに対し、候補日を連絡したが、その後、原告Dから連絡がなかったことから、同月24日、原告Dに対し、原告Dから連絡がないのは被告Fが「日本の人種差別」という動画を作成、公開しているユーチューバーであることを原告Dが知ったからではないかと推測しているが、被告Fは「慰安婦問題の調査を通し、この問題が欧米のリベラル系メディアで読むものよりずっと複雑であると理解するに至りました。慰安婦を強制的に集めたものとする証拠文書が著しく欠けており、一部の活動家や研究者の主張するほど慰安婦の状況は悪いものではなかったのではないかということを知りました。ある時点で、私は欧米メディアを信じていたことを認めねばなりません。しかし今は疑問を抱いています。私にはユーチューブチャンネルを通じて、特に日本の問題に関心を寄せる欧米の根強い視聴者がいます。このドキュメンタリー企画を通じ、私の視聴者や欧米の研究者たちとこれらの問題を論じる討論の場を貴殿に提供したいのです。私の作った動画から、彼らは貴殿の見解に興味を抱くと思うからです。大学院生として、私はインタビューする方々を、立場を尊重し公正さをもって紹介する倫理的義務があります。また、これは学術的企画ですので、一定の学術的水準と期待を満たさねばならず、そのことで偏向したジャーナリスティックなものになることを避けるものです。…」旨記載した電子メールを送信した。
 被告Fと原告Dは、取材の日程調整を行った。原告Dは、平成28年9月21日、被告Fに対し、「インタビューの前に、撮影する動画が貴殿のおっしゃった目的以外に使用されないことと、公開前にそれを視聴する権利を有することを確認したく思います。過去に、メディアの中に私が言ったことから特定の観点だけを切り取り、話全体の含意をゆがめて大げさにするものがあったからです。」などと記載した電子メールを送信した。被告Fは、同日、これに対し、「私にはそのような意図はありません。これは、後にも先にも学術的企画で、高いレベルの学術的統一性が要求されるものです。…もしドキュメンタリーが十分に良質なものなら、映画祭や公の場所でもっと大勢の観客に見せるかもしれません。C教授も誤解を招く上映になることについて同様の懸念を示されていたので、公開フォームに文言を付け加えて改訂することにしました。…この電子メールに公開フォーム全文を添付しておきました。また、完成したドキュメンタリーは、公開前に貴殿にお見せできますので、もし私が貴殿について誤解を招いていたり、話の文脈から言葉を取り上げていると思ったなら、映画の最後に貴殿の不服を表明するメッセージを付けます。しかし、ドキュメンタリーが完成してしまったら、貴殿が主要な話の部分になっている場合、映画からその部分を取り去ることは全編作り直しになるのでできなくなります。」旨記載し、合意書案を添付した電子メールを返信した。被告Fと原告Dは、同月26日に面会することとした。
 被告Fは、平成28年9月25日、原告Dに対し、従前送付した合意書案の内容で合意できるかを知らせてほしい旨求めた。原告Dは、同月26日、これに対し、「自分のコメントが偏向なしにストレートに使われることを保証するための保護対策を考える必要があります。」などと記載し、修正した合意書案を添付した電子メールを送信した。これに対し、被告Fは、更に修正した合意書案を添付した電子メールを返信した。
(本項につき、甲11、乙25)
イ 原告Dは、平成28年9月26日、被告F及び他の学生と面会し、最終的に、本件D書面に署名押印し、被告Fからの約2時間に及ぶ取材に応じた。本件録画においては、被告Fが、照明、カメラの設置、録音録画、原告Dの向きの指示などを行い、原告Dの発言は、被告Fがあらかじめ準備していた質問に答える形でされた。(争いがない事実のほか、甲5、乙5)
(5)原告Bに対する取材経過等
ア 被告Fは、平成28年8月11日、原告Dに対し、原告D及び原告Bに対する取材を申し込む電子メールを送信した(前記(4)ア)。原告Bは、同年9月頃、原告Dから取材の申込みがあったことを聞き、原告Dを通じて、被告Fに対し、平成29年1月に訪日する予定であることから、その機会に取材に応じる準備がある旨回答した。被告Fと原告Bは、原告Dを通じて、同月14日に面会することとした。(甲11)
イ 原告Bは、平成29年1月14日、被告Fと面会し、被告Fからの約2時間半に及ぶ取材に応じた。被告Fは、原告Bに対し、映画はまずは学術研究として製作するものであること、出演する慰安婦問題に関する論者のいずれの説明が妥当かは視聴者が判断することになることなどを説明した。本件録画においては、被告Fが、照明、カメラの設置、録音録画、原告Bの向きの指示などを行い、原告Bの発言は、被告Fがあらかじめ準備していた質問に答える形でされた。原告Bは、取材後、被告Fから求められ、本件B書面に署名した。被告Fは、同日、原告Bに対し、本件B書面の画像データを電子メールに添付して送信した。(乙2、9、10)
(6)原告Aに対する取材経過等
ア 被告Fは、平成28年8月29日、原告Aに対し、被告Fが上智大学大学院の学生であること、他の学生と「歴史論争の国際化」についてドキュメンタリービデオを作成しようと考えていること、原告Aは日本に居住する弁護士であることから従軍慰安婦問題について価値ある独特な意見を有すると考えており、原告Aに取材させてほしいことを記載した電子メールを送信した。
 原告Aは、平成28年10月28日、被告Fに対し、取材に応じる準備がある旨返信した。被告Fと原告Aは、同年11月10日に面会することとした。
(本項につき、甲13)
イ 原告Aは、平成28年11月10日、被告F及び他の学生と面会し、被告Fからの約1時間半に及ぶ取材に応じた。本件録画においては、被告Fが、照明、カメラの設置、録音録画、原告Aの向きの指示などを行い、原告Aの発言は、被告Fがあらかじめ準備していた質問に答える形でされた。原告Aは、取材後、被告Fから求められ、本件A書面に署名した。(争いがない事実のほか、乙3)
(7)本件映画1の公開等
 被告Fは、韓国やアメリカ合衆国における撮影を経て、修士論文に代わる本件卒業制作映画を完成し、平成30年1月10日、上智大学大学院に提出した。
 被告F等は、本件卒業制作映画を元に、本件映画1を製作した。本件映画1は、本件卒業制作映画と、内容、構成において同じであるが、鑑賞性を高めるため、本件卒業制作映画に、音楽、アニメーション、字幕等を追加し、一部を訂正するなど、軽微な編集を加えたものである。
 被告Fは、平成30年5月21日、原告Cに対し、「合意書に基づき、映画の中で使用するクリップをお送りします(次のリンクを御参照ください。)。もし、これらのクリップの編集に不服がございましたら、合意書に則り対処いたします。また、このメールに2週間以内に返事がない場合には、使用に同意されたものといたしますので、必ず2週間以内にお知らせいただくようお願いいたします。」旨記載し、本件映画1のうち原告Cの取材に係る部分を蔵置したサーバーへのハイパーリンクを記載した電子メールを送信した。原告Cは、同日、被告Fに対し、「拝見して返事を差し上げます。」と記載した電子メールを返信した。(甲12)
 また、被告Fは、平成30年5月21日、原告Dに対し、「少し前のインタビュー撮影の合意書に基づき、私が映画で使う予定のあなたの映像クリップを添付しました(リンクは以下のとおり)。この映像クリップであなたの言っていることが不正確に伝えられていると感じられましたらお知らせください。合意書に基づき映画のクレジットの前にその旨を表示します。2週間以内にこの電子メールに返事がない場合には、この映像クリップには問題がないものとみなします。」旨記載し、本件映画1のうち原告Dの取材に係る部分を蔵置したサーバーへのハイパーリンクを記載した電子メールを送信した。(乙11)
 被告Fは、平成30年5月頃から、本件映画1を複数の映画祭に応募し、上映を断わってきた映画祭もあったが、同年6月頃、釜山国際映画祭の関係者からの連絡があり、本件映画1は、同年10月7日、釜山国際映画祭で初めて一般に上映された。
 被告会社は、釜山国際映画祭で本件映画1を鑑賞した被告会社代表者の知人から本件映画1を紹介されて、その後、本件映画1を配給、上映することとし、権利を取得して、平成31年3月以降、日本国内で本件映画1を上映した。(甲2)
(8)原告らに対する告知等
 被告Fは、本件映画1の釜山国際映画祭での上映、日本国内における上映に先立ち、次のとおり、原告らに対しこれらを告知した。
ア 被告Fは、平成30年9月30日、原告Eに対し、「インタビューをさせていただいたドキュメンタリー映画に関しまして、…10月7日に釜山国際映画祭において公開されるはこびとなりました。…漏洩を避けるためと著作権の観点から公開前に映像をお送りすることはできませんが、もし、釜山国際映画祭にお越しいただけるのでしたら、映画祭への入場券をこちらで手配させていただきます。この映画は、将来的に日本と韓国での上映がされる可能性があります。」旨を記載した電子メールを送信した。
 被告Fは、平成31年2月28日、原告Eに対し、本件映画1が同年4月20日に東京都内において日本公開となることが決まったこと、配給会社から事前の試写会について案内する予定であることを連絡する旨の電子メールを送信した。
 原告Eは、本件映画1を鑑賞した。
(本項につき、甲10)
イ 被告Fは、平成30年9月30日、原告Cに対し、「インタビューさせていただいたドキュメンタリー映画に関しまして…10月7日に釜山国際映画祭で世界初公開のはこびとなりました。…漏洩を避けるためと著作権の観点から公開前に映像をお送りすることはできませんが、もし釜山国際映画祭にお越しいただけるのでしたら、映画祭への入場券をこちらで手配させていただきます。この映画は、将来的に日本と韓国での上映がされる可能性があります。」などと記載した電子メールを送信した。
 被告Fは、平成31年2月28日、原告Cに対し、本件映画1が同年4月20日に東京都内において日本公開となることが決まったこと、配給会社から事前の試写会について案内する予定であることを連絡する電子メールを送信した。被告会社は、原告Cに対し、試写会の招待状を送付した。
 原告Cは、令和元年5月1日、本件映画1を鑑賞した。
(本項につき、甲12、乙4、16、23)
ウ 被告Fは、平成30年9月30日、原告Dに対し、「インタビューさせていただいた映画が、10月7日に釜山国際映画祭で世界初公開のはこびとなりましたことをお知らせしたく存じます。…漏洩の問題と著作権のため、試写用版はお送りできませんが、釜山での上映の入場券をご希望であれば、私の方で手配させていただきます。今後、日本、韓国で更なる上映があることを期待します。」などと記載した電子メールを送信した。
 原告Dは、平成30年10月2日、被告Fに対し、「おめでとうございます!…釜山へは行けそうにないですが、ご招待ありがとうございます。日本で観るのを楽しみにしております。公開前に、確認のために私どもが視聴することに合意を結んだのを覚えておられますか。私どもはインタビューを誤用された経験があるため、これは重要なことであります。」などと記載した電子メールを返信した。これに対し、被告Fは、「5月21日に、映画の中の貴殿の箇所を見ていただくため、リンク先をメールしております。」などと返信した。原告Dは、「たぶん、以前のメールはジャンクとして削除されました。もう一度お送りいただけますでしょうか。」などと送信した。被告Fは、同年10月2日、「こちらが貴殿の動画箇所の新しいリンク先です。…再度、もしあなたが誤った場面があると感じるのであれば、映画のクレジットの前にメッセージを入れることは可能ですが、少し前に映画祭に作品を送ってしまっているため、それをするのは映画祭の後になります。メッセージをご希望なら、基本的に「D氏はこの映画は誤って紹介されていると感じている」となります。…リンクは10月5日にはずします。」などと記載し、本件映画1のうち原告Dの取材に係る部分を蔵置したサーバーへのハイパーリンクを記載した電子メールを送信した。原告Dは、ハイパーリンク先の映像を確認した。
 原告Dは、平成30年10月、被告Fに対し、被告Fが原告らについて「極右」という言葉を使用して言及した韓国の新聞記事を読み、レッテル貼りをされたと感じたなどとして、釈明を求める旨の電子メールを送信した。被告Fは、これに対し、被告F自身は原告らなどについて「一部に歴史修正主義者と呼ばれる人々」、「いわゆるナショナリストの歴史修正主義者」等と述べたにすぎず、新聞記者が被告Fが述べたとおりに記事を書くことは保証しかねるなどと返信した。
 被告Fは、平成31年2月28日、原告Dに対し、本件映画1が同年4月20日に東京都内において日本初公開となることが決まったこと、配給会社から事前の試写会の招待状を送付することを連絡する電子メールを送信した。原告Dは、これに対し、「映画完成おめでとうございます。招待をありがとうございます。…映画を楽しみにしています。」などと記載した電子メールを返信した。被告会社は、原告Dに対し、試写会の招待状を送付した。原告Dは、同月4日の試写会に参加した。
 原告Dは、平成31年4月13日、被告Fに対し、本件映画1を観たこと、原告らの側の取材内容を相手側に提示してこれに反論させている一方、原告らの側には反論の機会を与えられておらず、また、原告らの側には8人しか取材しておらず、相手側には18人も取材しており、公正とは程遠いこと、映画全体が、情報操作や一方的主張に満ちており、原告Dが意図していたものと全く違っている等として、映画の配給を停止するよう求める旨の電子メールを送信した。
(本項につき、甲11、乙11、16)
エ 被告Fは、平成30年9月30日、原告Bに対し、「インタビューさせていただいた映画が10月7日に釜山国際映画祭で世界初公開されることをお知らせしたいと思います。…漏洩の可能性と著作権のために、この映画の試写用版をお送りすることはできませんが、もし釜山での上映会のチケットをご希望であれば、喜んで手配させていただきますので、お気軽にお問合せください。今後、日本と韓国で上映されることを期待しています。」などとし、以後の上映会についての情報が確認できるとして、本件ウェブサイトへのハイパーリンクを記載した電子メールを送信した。
 被告Fは、平成31年2月28日、原告Bに対し、本件映画1が同年4月20日に東京都内において日本公開となることが決まったこと、原告Dに対し事前に試写会の招待状を送付する予定であり、原告Bが訪日している場合には原告Dと共に試写会に参加できることを連絡する電子メールを送信した。原告Bは、被告Fに対し、「うまくいくように願っています。」などと返信した。
(本項につき、乙24)
オ 被告Fは、平成30年9月30日、原告Aに対し、「インタビューさせていただいた映画が10月7日に釜山国際映画祭で世界初公開されることをお知らせしたいと思います。…漏洩の可能性と著作権のために、この映画の試写用版をお送りすることはできませんが、もし釜山での上映会のチケットをご希望であれば、喜んで手配させていただきますので、お気軽にお問合せください。今後、日本と韓国で上映されることを期待しています。」などとし、以後の上映会についての情報が確認できるとして、本件ウェブサイトへのハイパーリンクを記載した電子メールを送信した。
 被告Fは、平成31年2月28日、原告Aに対し、本件映画1が同年4月20日に東京都内において日本公開となることが決まったこと、配給会社から事前の試写会の招待状を送付する予定であることを連絡する電子メールを送信した。被告会社は、原告Aに対し、試写会の招待状を送付した。
 原告Aは、本件ウェブサイトに公開されていた本件予告動画(日本語版)を視聴した上、平成31年3月4日、SNSであるツイッターに、本件映画1について「予告編解禁!ドキュメンタリー映画『主戦場』、日本緊急公開決定!!」などと投稿した。
 原告Aは、平成31年3月18日、本件映画1の試写会に出席した。令和元年6月20日付け毎日新聞には、原告Aは、試写会後、同社の取材に対し、本件映画1について、「取り上げる意味のない人物の発言を紹介している」という批判を加えた一方、原告Aに対する取材部分に関し「まともに取り上げてくれています。それは大丈夫です」と話したと記載されている。
(本項につき、甲19、乙6、13、16、22)
(9)その後の経過等
 原告らは、令和元年5月30日、本件映画1の上映の中止を求める記者会見を開催した。これに対し、被告Fは、同年6月3日、緊急会見を行った。(甲3、30)
(10)本件映画1について
ア 本件映画1は、被告Fが従軍慰安婦の問題において重要な役割を果たしていると考えた人物を取材した映像、被告Fが韓国、アメリカ合衆国で取材した映像、ニュース映像や本件外部映像等の外部映像等、公文書等の文書や条文の文言についての画面等をつなげるなどした上で、被告Fの声によるナレーションを挿入するという形式により構成されている。
 具体的には、本件映画1は、従軍慰安婦問題に関し、従前の一定の言説である、「20万人」存在した、「強制連行」された、「性奴隷」であったという3つの観点について、映画において議論を深めていくことが示された上で、上記各観点に関する異なる立場の者の取材映像を対置して、それらの者の見解を紹介し、関係する文書も紹介するなどした上で、上記各観点について被告Fがナレーションや画面での表示により一定の見解を示すなどするものであり、また、原告らと概ね立場を同じくすると考えられる者の見解が主張される背景であると被告Fが考える事情を探ったりするものである。
 本件映画1には、原告らと概ね立場を同じくすると考えられる者が8人、原告らと概ね立場を異にすると考えられる者が18人登場する。
 本件映画1のナレーションが被告Fによるものであることは、本件映画1の最後に映される、文字が続く部分(以下「エンドクレジット」という。)やプログラムなどにおいて明らかにされており、また、一人称が用いられている部分もあることから明らかであった。ナレーションは英語でされており、日本語の字幕が付されている(本判決で以下摘示するナレーションの内容は、原則として日本語の字幕によるものである。また、英語で話している者の説明内容や英語の画面表示についても同様である。)
 本件映画1のより具体的な内容、構成等は、概ね以下のイからキのとおりである。
イ 「主戦場」とのタイトル画面に続いて、従軍慰安婦問題について話す原告Bの動画である本件利用映像等1が映され、ナレーションにおいて、原告Bを、アメリカ合衆国において従軍慰安婦問題に関する動画の投稿等を行っているアメリカ人男性として紹介し、また、原告Bの動画である本件利用映像等6が映され、その動画とその後の出来事が被告Fが従軍慰安婦問題に興味を抱くきっかけとなったことが説明される。
ウ 上記イに続き、アメリカ合衆国のニュース番組など、複数の英語等のテレビの番組において、「20万人の女性」について、「拉致」、「誘拐」され、「性奴隷」にされたなどと述べられている映像が映される。
 それに続いて、原告A、原告B、原告C及び原告Dほか一名について、黒色の背景に、順次、上記原告らについての本件映像などから切り取った各顔写真及びこれに修正主義者という意味の「REVISIONIST」、否定論者という意味の「DENIALISTS」という文字を重ねた映像と共に、「彼らは「歴史修正主義者」または「否定論者」と呼ばれる」などとの紹介がされ、「彼らは慰安婦制度の存在は認めているが現在ある歴史認識を否定し修正のために闘っている」とのナレーションがされる(本件表現1)。
 そして、原告らへの取材を録画等した映像である本件各映像が映され、「まず、「性奴隷」の誤解を解くことですね。あと、「20万人」の誤解を解くことですね。あと、「強制連行」の誤解を解くことですね。この3つですね。」(原告E)、「今までね、歴史、一応、こういう解釈で歴史を見てきたと。しかし、それは新しい史実、史料が発掘されると、そのことによって今までの見方が変わってくる。「事実はこうだった」、「真実はこうだった」ということが分かって、それで新しい事実が分かってくると、そのことによって歴史が改訂される。」(原告C)、「かつて私は20万だったかどうかはともかく、実際に起こったのだろうと信じていました。朝日新聞が真実だと言っていましたし、まあ、そうかなと納得していました。ですから、朝日新聞がこの問題に関して、自社の記事を全て撤回すると発表したことは衝撃的でした。怒りを覚えました。」(原告A)、「米軍が慰安婦に聞き取り調査をした重要な一次資料があります。これには、彼女たちが実際は単なる売春婦で、十分な報酬を得ていたと書かれています。」(原告A)等と、従前の一定の言説に対し疑問を示す原告らの見解が紹介される。
 そして、ナレーションにおいて、「これは、今まで学んだことと異なっていたので、当然、詳しく調べることにした。確かに、彼の言うとおりだ。実際に、慰安婦は売春婦だと明示した米国の戦争報告書が存在する。元慰安婦の証言はしばしば一貫性がないとも言われ、強制的に慰安婦にしたと証明する文書もない。当然ながら懸念を強く抱いてこの問題をもっと追究せねばと思った。」と述べられる。
 また、アメリカ合衆国における従軍慰安婦像の設置をめぐる動き等が取り上げられるなどした上で、「ここでもう少し深く議論の核心にせまっていこう」「性奴隷だったのか」「強制連行だったのか」「さらに本当に20万人もいたのか」とのナレーションがされる。
エ 「20万人」と記載された画面の後、20万人という数字に信用性がないことを述べる、原告Aについての本件映像や原告Dについての本件映像が映される。また、従軍慰安婦の数について、推定の根拠を述べるKの映像が映されるなどする。
 そして、ナレーションにおいて、従軍慰安婦の人数についての「数字は明らかに両陣営から政治的意図をもって利用されてきた修正主義者たちはこの数字の算出方法を理解していないようだ慰安婦の数についての実際のデータは存在しないよって概算の言及には注意が必要だ」と述べられる。
 なお、被告Fは、本件映画1の全体にわたって、ナレーションにおいて、従軍慰安婦問題に関し原告らと概ね立場を同じくすると考えられる者を「修正主義者」と、原告らと概ね立場を異にすると考えられる者を「人権活動家」などと概括的に呼称している。
オ 「強制連行」と記載された画面の後、平成19年、当時のL内閣総理大臣が旧日本軍が従軍慰安婦を強制連行したという証拠文書はないと答弁したことが述べられ、L内閣総理大臣が「官憲が家に押し入っていって、人さらいのごとく連れて行くという強制性はなかった」旨答弁する場面の映像が映される。
 その後、強制には、自由意思でないこと、だまされた場合も含まれるなどと語るMの映像が映されるなどする。また、当時の日本の刑法の条文や、21歳未満による売春が禁止されていた1921年の条約(婦人及児童ノ売買禁止に関スル国際条約)の条文が映され、「S氏の証言に話を戻すと甘言があった事実と当時の年齢から違法であったことがわかる」とのナレーションがされる。
 また、詐欺はしばしば売春目的で女性を集める手口として使われたことを述べ、問題はそれを行ったのが、政府や旧日本軍であったか、業者であったかであることや、強制についての証拠は存在せず、後記のインドネシアの件は認識され正当に罰せられたことを述べる原告Aについての本件映像、旧日本軍が商社に慰安所を作りたいと述べ、商社の出先がブローカーに頼んで人を集めるが、そのブローカーがだました例はあったと思うこと、強制的なことがあったことを知った時点で、旧日本軍又は政府からそれを取り締まるようにとの命令が出ていて、その文書もあることを述べる原告Dについての本件映像、旧日本軍は責任がないことを述べる原告Eについての本件映像が映されるなどする。
 その後、オランダ政府の報告書が映され、「同報告書は慰安所には200〜300人のヨーロッパ人女性がおりそのうちの65人は確実に強制連行だと述べている」とのナレーションがされる。その上で、「人権活動家からするとインドネシアの件は動かぬ証拠だ。朝鮮人女性が強制連行された証拠はないかもしれないが、国際批判のリスクを冒してまで白人女性を連行したことを鑑みると、アジア人女性にもしたことは想像に難くない。加えて、証拠文書の不在には理由がある。これは、東京からの暗号文書で、外交を損なう文書の焼却処分を命じている。戦争中の軍の記録のうち70%が焼却、廃棄されたと日本の防衛研究所幹部は推定している。記録がないことは強制連行を否定する理由にはならない。国際法の定義には詐欺も含まれる。朝鮮人慰安婦の場合も詐欺の存在は否定されていない。」とのナレーションがされる。
 また、本件映画1では、後記カのまでの間に「謝罪」と記載された画面の後に、日本国の責任に関する映像が映される場面があり、その中で、原告Cについての本件映像が映されたりする(後記5(3)ウ)
カ 「性奴隷」と記載された画面の後、従軍慰安婦が性奴隷ではなく売春婦であったこと、自由であり、実際多額の金を稼いでいたことを述べる原告Aについての本件映像や、従軍慰安婦に家を5軒買えるくらいの貯蓄があったことを述べる原告Dについての本件映像が映され、従軍慰安婦の銀行預金口座の明細書が映される。
 そして、米国戦争情報局の日本の捕虜尋問報告書No.49の「慰安婦たちは売春婦又はプロの非戦闘従軍者にすぎない」旨記載されている部分が映される。また、従軍慰安婦が日本人と一緒に野球の試合観戦やピクニックにも行っていたと述べる原告Bについての本件映像が映され、上記報告書のその旨が記載された部分が映され、従軍慰安婦はお金があり、蓄音機を買ったりしたことを述べる原告Cについての本件映像が映される。また、上記報告書には、女性たちはシンガポールに楽な仕事があると言われて連れていかれ、どういう仕事かということを正確に聞いていなかったということが記載されていることを述べるKの映像が映され、その部分の報告書が映される。さらに、20人の従軍慰安婦のリストについて、従軍慰安婦になった時点で12人が未成年者であったことを述べるNの映像が映されたり、奴隷とは、人が別の人によって全部を支配されることをいい、お金をもらっていたかは関係ないと述べるOの映像が映されたりする。
 その後、「責任」と記載された画面の後の映像において、「修正主義者たちは、慰安婦制度が完全に合法だったとする。この理屈は、当時存在した公娼制度に依拠している。しかし…日本は1921年の人身売買条約に違反していた。これは21歳以下の女性の強制徴用を禁止。もちろん、誘拐や甘言も含む。…国際法学者曰く…日本の軍関係者の関与があったことで条約の適用が可能だという。…さらに、日本は、1930年のILO強制労働条約に批准していた。女性の強制労働も禁止されていた。日本政府は緊急事態を理由に免除を主張するが、ILOの専門家委員会は慰安婦制度に真の緊急性はなかったと判断した。最後に、日本は奴隷制度廃止条約に未批准だったが、開戦時には既に慣習法として確立しており、批准の有無にかかわらず遵守すべき国際規範だった。慰安婦が制度化で全面支配に置かれていたことから日本がこの国際条約に違反したといえるだろう。よって、合法だったという議論は成立し難い。…」などというナレーションがされる。
キ その他、本件映画1では、「意図」や「日本会議」、「つながり」などと記載された画面が示され、それらに関する映像が映される。
 それらでは、原告らと概ね立場を同じくすると考えられる者の見解が主張される背景であると被告Fが考える事情等が映されるが、その際、原告Bが従軍慰安婦像を見に行った時のことについて言及する原告Bについての本件映像の途中で、同映像中の原告Bの発言音声に重ねて、本件利用映像等7を利用して、原告Bが従軍慰安婦像を見に行った様子を撮影した映像が挿入される。また、否定論者と日本会議をつなぐ人物がいるようだというナレーションとともにそのつなぐ人物としてHの名前が挙げられ、その際、原告Eについて、黒色の背景に、原告Eについての本件映像から切り取った顔写真の映像と共に、否定論者の例として言及されている(本件表現2)。
(本項につき、甲2、28、乙7)
2 原告らに対する取材と本件各映像の本件映画での利用及び許諾
 原告らは、いずれも被告Fから取材についての依頼を受け、これを承諾してその取材を受け、被告Fはその状況を録画等した(前記1(2)〜(6))。そして、本件映画1には、原告らに対する取材の状況を録画等した本件各映像が利用されているところ、原告らは、前記第2の2(2)イ、前記1(2)〜(6)のとおり、いずれも、被告Fが本件各映像を自由に編集してその製作する「歴史問題の国際化に関するドキュメンタリー映画」に利用することができる旨の文言を含む本件各書面に署名等した。
 したがって、原告らは、被告Fの依頼を承諾して取材を受け、また、本件各書面により、被告Fが、原告らに対して行った取材の状況を録音録画(本件各録画)した本件各映像を、上記映画に自由に編集して利用することを許諾(本件各許諾)した。
3 本件各許諾は詐欺により取り消され又は錯誤により無効であるか(争点@−3)、及び、被告Fが、原告らを欺罔して取材に応じるという役務の提供をさせたか(争点F)について
(1)原告らは、被告Fは、政治プロパガンダ映画である本件映画1を制作し、これを商業映画として有料で一般公開することを計画していたにも関わらず、あたかも真摯な学術研究目的であるかのように装うなど前記第2の4(14)(原告らの主張)のとおり欺罔行為を行い、原告らをその旨誤信させて原告らに取材に応じるという役務を提供させたと主張する(争点F関係)。また、原告らは、本件各許諾について、被告Fは、原告らに対する取材映像を利用して商用映画(本件映画1)を製作しようと考えていたが、原告らに対しては、これを秘し、上智大学大学院の修士課程の一環である卒業制作のための真摯な学術研究目的の活動であると説明して原告らを欺罔したため、原告らはその旨誤信して、本件各書面を作成したものであり、本件各書面による本件各許諾は、詐欺取消し又は錯誤無効により存在しない旨主張する(争点@−2関係)。
 以下、原告ら主張の被告Fの欺罔行為の有無について、検討する。
(2)ア原告らは、大学院生である被告Fから、卒業制作として大学院に提出するドキュメンタリー映画の製作に協力してほしいと頼まれたことや、製作された映画が商用映画になるとは説明を受けていなかったことから、取材に協力し、また、本件各映像の利用について本件各許諾をした旨の供述等をする(原告C、原告D、原告E、甲6、7、35〜38、41)。
イ 被告Fが、原告らに対して取材に協力するよう求めた際の説明の内容等は、原告Eについて前記1(2)ア、原告Cについて同(3)ア、原告Dについて同(4)ア、原告Bについて同(5)ア、原告Aについて同(6)アのとおりである。
 被告Fは上記の際、上智大学大学院の学生であることを述べて、「歴史問題の国際化」についてドキュメンタリーを作成していてそのために取材をさせてほしいことを述べた。また、その際、それが学術研究であること、卒業プロジェクトであることを述べたりもしたこともあった。
(3)ここで、被告Fは、前記依頼の当時、実際に上智大学大学院の学生であって、修士論文に代わる映像作品として従軍慰安婦問題に関する映画を作成することとし、その映画ではこの問題において重要な役割を果たしていると考えた者たちに対する取材映像を映画の主たる部分とすることを構想し(前記1(1))、この問題において重要な役割を果たしていると考える原告らへの取材を行い、その際の映像である本件各映像を用いて、本件卒業制作映画を完成して、これを修士論文に代わるものとして上智大学大学院に提出した(同
(7))。そして、被告Fは、本件卒業制作映画に、音楽、アニメーション、字幕等を追加し、一部を訂正するなど、軽微な編集を加えて鑑賞性を高めて本件映画1としたものであり、本件映画1は、本件卒業制作映画と、内容、構成において同じであって(前同)、本件各書面にいう被告Fが製作する「歴史問題の国際化に関するドキュメンタリー映画」(前記第2の2(2)イ)に該当する。
 被告Fは、当初から良い映画が製作できた場合には映画祭に応募することを視野に入れてはいたが(この点は後記(4)で検討する。)、上記のとおり、本件各映像を利用して被告Fが製作した映画である本件卒業制作映画は、実際に修士論文に代わるものとして大学院に提出されたのであり、本件映画1も本件卒業制作映画と内容、構成において同じものである。したがって、被告Fが、原告らに取材を依頼したり本件各書面の作成を求めたりした際に、上智大学大学院の学生として行うものであり、学術研究として作成されるものであることを述べるなどしたこと自体は、被告Fが虚偽を述べたとはいえない。
(4)被告Fは、当初から良い映画が製作できた場合には映画祭等に応募することも視野に入れていた。もっとも、原告らに取材をした時点では、具体的な映画の配給が決まっていたわけではなく、その後、本件映画1を応募したもののその上映を断った映画祭もあった(前記1(1)、(7))。
 被告Fは、原告E及び原告Dに対しては、同原告らが、被告Fの開設するユーチューブチャンネルの登録者など欧米の視聴者や研究者、学術世論に対して意見を発信できる場所を提供したいなどとして取材を申し込んでおり(同(2)ア、(4)ア)、本件映像が大学への提出以外にも使用されることがあることを述べていた。
 そして、被告Fは、原告E、原告B及び原告Aとの間では「被告F又はその指定する者が、日本国内外において、映画を配給、上映、展示若しくは公共に送信し、又は、映画の複製物を販売、貸与することができる」旨が記載されている書面を、原告C及び原告Dとの間では「映画の公開前に、同原告らに確認を求める」旨が記載されている書面を交わした(本件各書面)(前記第2の2(2)イ、前記1(2)〜(6))。
 原告らが署名押印した本件各書面は、文言上、被告Fが製作する映画について、「配給」、「上映」、「販売」されることがあることや、「公開」されることがあることを前提とするものである。原告C書面及び原告D書面は、原告Cが当初被告Fが示した承諾書案への署名を留保したり、原告Dが過去にメディアから特定の観点だけを切り取られたりしたことなどを述べて被告Fと合意書案の修正についてのやりとりをした上で、原告C及び原告Dが署名押印したものであり、映画が公開される場合における被告Fの義務等が具体的に定められているものである。本件各書面の上映や公開が、商用としての上映、公開を含まないことをうかがわせる記載はない。
 そして、被告Fが、原告らに対して取材を申し込み、また、本件各書面への署名押印を求めるに当たって、本件各映像を利用して製作する映画が一般に、場合によっては商用として、公開される可能性が排除されると述べたことは認められないし、被告Fがその可能性を秘匿したと認められる状況も認められない。
 また、その後、被告Fは、本件各映像を利用して製作した本件映画1が映画祭で上映されたり、日本国内で上映されたりすることについて、自ら事前に原告らに知らせていた。すなわち、被告Fは、平成30年9月30日には、本件各映像を利用して製作した本件映画1が釜山国際映画祭において上映される予定であること、将来日本と韓国で更に上映される可能性があることを各原告に対して告知し、平成31年2月28日には、本件映画1が日本国内において上映される予定であることを、各原告に対し事前に告知した(前記1(8))。そして、上記の告知に対して、いずれの原告らからも一般に又は商用として公開されることについて許諾をしていないなどとの抗議がされることはなかった。むしろ、原告D及び原告Bは被告Fに対し祝意を表し、原告Dは試写会に参加し(同ウ、エ)、原告Aは、ツイッターに本件映画1の日本国内における公開等を宣伝する好意的な投稿をしたほか、試写会に参加して毎日新聞社の取材に感想を述べるなどした(同オ)。その後、原告らは、本件映画1の上映中止を求めるようになったが、それは、本件映画1が日本国内において上映されるようになり、原告らがそれぞれ本件映画1を鑑賞しその内容を認識した後、又は、その内容を認識してから少し経過した後である平成31年4月から令和元年5月頃からである(同(8)、(9))。
 以上のとおり、被告Fは、原告らに取材を依頼した際、製作した映画を映画祭に応募することも考えていたが、具体的な映画の配給についての話はなかったところ、原告らとの間でも、取材の結果を一般に公開する話が出たこともあった。また、原告らと被告Fとの間の本件各書面には、製作した映画の配給、上映や公開についても記載されていた。本件各書面に記載された映画の上映や公開が商用での公開を含まないことをうかがわせる記載もない。
 被告Fが、取材の依頼の際や本件各書面への署名押印の依頼に当たり、商用を含む公開の可能性を排除したり、その可能性を秘していたりしたとは認められない。また、被告Fは、映画祭や日本国内での本件映画1の上映に先立ち、その上映を原告らに告知し、原告らもそれに抗議をすることはなかった。
 これらによれば、被告Fが、製作した映画が原告らに対する取材の時点から一般に、場合によっては商用として公開されることがあることを秘していたということはできず、被告Fが原告ら主張の欺罔行為を行ったとは認められない。原告らは、本件各映像を利用して製作される映画が一般に、場合によっては商用として公開される可能性をも認識した上で、被告Fに対し本件各許諾をしたものと認められる。
(5)以上によれば、被告Fが、原告らに対して取材を申し込み、また、本件各書面への署名押印を求めるに当たって、原告らが主張する欺罔行為によって原告らを欺罔したとは認めるに足りず、本件各許諾をするに当たって原告らに錯誤があったとも認めるに足りない。
 したがって、本件各許諾は詐欺により取り消され又は錯誤により無効であるか(争点@−3)、及び、被告Fが、原告らを欺罔して取材に応じるという役務の提供をさせたか(争点F)について、原告らの主張には理由がない。
4 本件各許諾は本件規定に従い撤回されたか(争点@−4)について
 原告らは、令和元年10月頃、被告Fに対し、本件規定に従い、被告Fの研究に参加する旨の同意を撤回する旨の意思表示をした(前記第2の2(2)ク)。しかし、本件規定は、研究の対象者が個人情報や個人のデータ等を収集、採取して行われる「人を対象とする研究」に関するものであり、本件の映画の製作、上映に適用されるべきものであるとは直ちには認められない。
 また、本件各許諾は本件各映像を映画の製作に当たって利用することに関してされた個別の許諾といえるもので、原告らが被告Fの研究に参加する旨の同意を撤回する旨の意思表示をしたからといって、被告Fに対する本件各映像の利用についての個別の許諾である本件各許諾が遡って無効になるものとは認められず、被告Fによる本件映画1における本件各映像の利用が違法となるとはいえない。
 よって、この点についての原告らの主張には理由がない。
5 本件映画1の製作、上映により、原告らの社会的評価が低下したか(争点A−1)、本件各表現が違法性を欠くものであるか(争点A−2)、及び、本件映画1の製作、上映は、著作者である原告らの名誉又は声望を害する方法により本件各映像等を利用するものであるか(争点A−4)について
(1)本件各表現について
 本件表現1においては、原告A、原告B、原告C及び原告Dについて、修正主義者、否定論者という意味の英語の文字とともに「彼らは「歴史修正主義者」または「否定論者」と呼ばれる」などと紹介がされ、本件表現2においては、原告Eについて、否定論者の例として言及がされている(前記第2の2(2)キ、前記1(10)ウ、キ)。
(2)歴史修正主義、否定論に対する評価等
ア 原告Cは、平成9年、日本歴史修正協議会主催の講演会において、「教科書が教えない歴史―自虐史観を超えて」等と題する講演を行った。(乙40)
イ ニューヨークタイムズ誌は、平成26年3月、インターネット上のウェブサイトに、「L氏の危険な修正主義」と題し、「L総理大臣…による修正主義的歴史の使用は、既に東シナ海及び南シナ海の領土問題における中国の挑戦的な姿勢により軋轢が生じている地域における危険な挑発行為である。」、「彼は…戦争の歴史も歪曲している。…政権は、日本軍によって性奴隷状態を強制された韓国女性に対する謝罪を再検証すると述べた。」等と記載された論考を掲載した。(乙28)
ウ 原告Eは、平成26年7月、国際連合人権委員会に参加した際、非政府組織の構成員から「歴史修正主義者」と言われた。(甲6)
エ 読売新聞社は、平成27年1月、アメリカ合衆国議会調査局作成に係る報告書を引用し、当時のL内閣総理大臣について、「談話で、…村山談話や、いわゆる従軍慰安婦問題でおわびと反省の意を表明した…河野談話を見直せば、日韓、日中関係が極端に悪化するだけでなく、日米の温度差も表面化せざるを得なくなる」、アメリカ合衆国ではL内閣総理大臣に対し「歴史修正主義的といった評価がつきまと」い、懸念は払しょくされていない等と記載された記事を掲載した。(乙29)
オ 原告らを、「歴史修正主義者」、「否定論者」と評価する者が存在する。たとえば、アメリカ合衆国ニューヨーク州ニューヨーク市に拠点を置く、NYCアンティファという組織は、平成27年3月、原告E、原告D、原告Bについて、「歴史修正主義者」、「否定論者」であるなどとして抗議を行った。(争いがない事実のほか、甲37)
カ ジャパンタイムズ誌は、平成27年4月、英国元駐日大使執筆に係る、「日本の厄介な歴史修正主義者たち」と題し、ドイツの「新聞社の特派員が、過去にL政権の歴史修正主義に対して批判的な記事を書いたときに、フランクフルトの日本総領事が、…記事に対する抗議を行った。具体的にどれだけの人数の慰安婦が大日本帝国軍の兵士のために奉仕することを強制されたかについて数字を確定することは不可能だろうが、この忌まわしい営みが広く行われていたことについては圧倒的な数の証言が存在する。…日本の歴史修正主義者たちは、南京虐殺についても事実を受け入れることを拒絶している。…日本の歴史修正主義者たちのふるまいは、私にはナチスやソ連のコミュニストが駆使したオーウェル的な二重表現や二重思考を思い起こさせる」などと記載された論考を掲載した。(乙18)
キ P一橋大学教授は、歴史学研究会編集に係る平成29年5月発行の「第4次現代歴史学の成果と課題・第3巻歴史実践の現在」(績文堂出版株式会社)に、「歴史学にとって過去の見直し(リヴィジョン)は不断の営みであり、歴史修正主義(リヴィジョニズム)と名乗り・名づけられてきた研究潮流は、海外の史学史にいくつも例がある。しかし、小論で扱う歴史修正主義は、それらとは異なる言説および政治社会的風潮を指す固有名詞であり、ヨーロッパではホロコースト(ナチス・ドイツによるユダヤ人絶滅政策)、アジアでは南京事件と日本軍「慰安婦」問題を核心の問題とする、過去の戦争と暴力をめぐる加害責任を否定・虚構視あるいは相対化しようとする言説群を指す。否定論(ネゲイショニズム)・否定者(ディナイアー)あるいは相対主義(レラティヴィズム)と言い換えられる場合も多い。日本では、1990年代半ばに始まった自由主義史観研究会および新しい歴史教科書をつくる会…による歴史教育に対する右からの政治的参加を源流として生み出されてきた言説群が…歴史修正主義と呼ばれ批判されてきた。」などと記載された論考を掲載した。(乙27)
ク アメリカ合衆国議院調査局が、令和元年1月に改訂した「日米関係:議会の課題」と題する報告書には、「Lの過去の発言には、大日本帝国が他のアジアに侵略と被害をもたらしたとする言説を否定する日本の歴史についての修正主義的な見解を擁することを示唆するものもある。」などと記載されている。(乙29)
ケ 産経新聞社は、令和2年4月、Q東京大学名誉教授が執筆する「主権認識に挑戦する「不正検定」」と題する論考を掲載した。そこには、「「新しい歴史教科書をつくる会」編集の中学校用歴史教科書に向けての文科省の異常な敵意の発露…」という事件が発生していて、その重大性を原告Cが数日前に紙面で伝えたことが記載され、また、「ここに見られるのは…教科書調査官の質の劣化と偏向…に加えて、現在世界的に認証を得つつある歴史修正主義から敗戦利得権者達に向けられた、その暗黒面暴露への恐怖である。歴史教育の領域に於ける文科省官僚のこの腐敗は、…惨禍を教育界にもたらすであらう。」と記載されている。(乙19)
コ インターネットウェブサイト上のgoo辞書においては、歴史修正主義者の意味は、「@歴史の定説や通説を再検討し、新たな解釈を提示しようとする歴史研究者。A歴史上の事象について、学術的に検証され、一般的にも広く定着している理解や解釈を否定し、自分の思想や価値観に基づく歴史認識を強硬に主張する人を批判的にいう語。」であるとされている。(乙34)
(3)本件映画1の製作、上映により、原告らの社会的評価が低下したか(争点A−1)、本件各表現が違法性を欠くものであるか(争点A−2)について
ア 本件表現1は、形式的には、原告A、原告B、原告C及び原告Dについて、歴史修正主義者、否定論者と評価する者が存在することを指摘するものであるが、被告Fは、本件映画1の全体にわたって、自らの声によるナレーションにおいて、従軍慰安婦問題に関し原告らと概ね立場を同じくすると考えられる者を「修正主義者」と概括的に呼称し、本件表現2では、原告Eについて否定論者の例として言及している。これらの表現は、原告らが歴史修正主義者、否定論者と評価されていることを踏まえて、論争の対立軸を明快にするために採用された側面があるとは認められる(前記1(10)、甲28、乙7)ものの、本件映画1についての一般的な視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準とすれば、本件各表現において原告らについて「歴史修正主義者」、「否定論者」と紹介、言及する部分は、原告らの呼称として用いられているのであり、それらの語が概念的、評価的なものであることも考慮すると、原告らに対する被告Fの意見ないし論評でもあると理解するものというべきである。
 「歴史修正主義者」という言葉は、歴史上の事象について、学術的に検証され、一般的にも広く定着している解釈等を否定し、自分の思想や価値観に基づく歴史認識を強硬に主張する人を批判的にいう意味などでも使用され(前記(2)コ)、従軍慰安婦問題等について論じる場面などでは、一定の事実を否定する者に対する評価として、「否定論者」という言葉と共に、批判的な意味を含めて用いられている(同イ、エ〜ク)。他方、「歴史修正主義者」という言葉は、歴史の定説等を再検討し、新たな解釈を提示しようとする者という意味で用いられることもあり(同コ)、例えば、原告Cは、被告Fからの取材においても、この意味において歴史を改訂することは進歩であって必要なことであると述べるなどもしていた(前記1(3)イ)。
 本件映画1は、冒頭に近い部分において、従軍慰安婦に関し、「20万人の女性」について、「拉致」、「誘拐」され、「性奴隷」にされたなど述べられる複数のテレビ番組の映像の後に、「20万人」、「強制連行」、「性奴隷」という3つの観点に関する従前の一定の言説はいずれも根拠なく流布されたものであるとして疑問を示す原告らについての本件各映像を映し、その後、上記各観点に関し、20万人という従軍慰安婦の数には根拠がなく、従軍慰安婦が強制連行された事実や性奴隷であったという事実はない旨の原告らの見解を含め、異なる立場の者の取材映像を対置してつなげるなどするものである。このうち、「20万人」について、被告Fは、「慰安婦の数についての実際のデータは存在しない」などとしていて、これは従軍慰安婦の数が20万人であることに根拠がないとする原告らの見解も踏まえたものとなっている。また、「強制連行」、「性奴隷」について、被告Fは、証拠がないことは強制連行を否定する理由にはならないこと、国際法において詐欺も強制連行に含まれること、全面支配下に置かれていれば奴隷といえることを挙げるなどして、従軍慰安婦が合法であったとはいえないとする見解を述べている。もっとも、これらは、朝鮮人女性の強制連行についての証拠はないとする原告らの言説を前提とするものであり、また、本件映画1では、「慰安婦たちは売春婦又はプロの非戦闘従軍者にすぎない」旨記載された米国戦争情報局作成の報告書等の史料等が存在することを同史料等を15映すことで示し、原告らが見解を述べる際に挙げた、従軍慰安婦が金員を得ていたことや外に出歩いていたことについても銀行預金口座の明細書や上記報告書等の史料の当該部分を映してその根拠を示している。
 以上によれば、本件映画1においては、原告らの見解、解釈を否定する者の映像も映され前記のとおりの被告Fの見解が示されるものの、被告Fは、本件映画1において、原告らについて客観的な史料等もなくむやみに歴史的事実を否定する者とは表現しておらず、原告らがその立場の前提とする点の一部は前提とし、また、原告らの説明内容について根拠となる史料が存在することを示すなどしている。「歴史修正主義者」等との言葉は多義的なものであるところ、前記の本件映画1の構成等も考慮すると、本件映画1についての一般的な視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準とすれば、一般的な視聴者は、「歴史修正主義者」、「否定論者」と呼称された原告らについて、歴史の定説等を再検討し新たな解釈を提示しようとしている者というような意味で理解することを超えて、客観的な史料等が全くないにもかかわらず、自分の思想や価値観に基づく認識を強硬に主張している者といった意味まで含めて否定的に評価するとは限らない。このことに照らせば、本件各表現の在り方や、本件映画1において本件各映像の一部のみが用いられていること(前記第2の2(2)オ)など原告らが指摘する点を考慮しても、本件映画1における本件各表現は原告らの社会的評価を低下させるものとは認められない。
イ もっとも、本件映画1は、冒頭に近い部分において、複数のテレビ番組の映像の後に、原告A、原告B、原告C及び原告Dほか一名について、黒色の背景に、順次、上記原告らについての本件映像などから切り取った各顔写真及びこれに修正主義者、否定論者という意味の英語の文字を重ねた映像と共に、「彼らは「歴史修正主義者」または「否定論者」と呼ばれる」などとの紹介がされる本件表現1が続き、原告らが複数の番組において報道された内容とは異なる主張していることを印象付ける作りとなっている(前記1(10)、乙7)。
 仮に、一般的な視聴者が、このような部分から強い印象を受けたり、その他の映像等から、本件映画1において「歴史修正主義者」、「否定論者」と呼称された原告らについて、歴史的事実を否定する者といった否定的な評価をすることがあり、原告らの社会的評価が低下することがあったとしても、原告らを「歴史修正主義者」、「否定論者」と呼称することは、原告らの言動等について意見ないし論評を表明する行為といえるところ、本件映画1の製作、上映は、従軍慰安婦問題という、現状において歴史的、社会的、政治的に様々な言説が存在する問題を扱うものであって、公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出たものであると認められ、かつ、意見ないし論評の前提としている事実の主要な点である、原告らが、20万人存在したという従軍慰安婦の数には根拠がなく、従軍慰安婦が強制連行された事実や性奴隷であったという事実はないという、従来の一定の言説とは異なる見解を明らかにしていることは真実であり、本件各表現が、原告らに対する人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱するものともいえないから、本件映画1の製作、上映は、名誉権侵害としての違法性を欠くものであると認められる。
ウ また、本件映画1においては、原告Cが国家は謝罪してはならない旨述べた原告Cについての本件映像が利用されている箇所の前後において、アメリカ合衆国大統領が太平洋戦争中に収容された日系アメリカ人に対する補償に係る法律の成立に当たり「ここで過ちを認め国家として法の下の平等と公正に尽くすことを再確認します」等と述べた映像が利用されている(乙7)。ここで、このような映像のつなげ方に照らせば、被告Fは、本件映画1の上記の表現により、アメリカ合衆国大統領の上記の発言について原告Cの見解と論点、場面を同じくし比較対象可能なものと評価した上、これを踏まえて原告Cの見解を批判的に評価したものと認められる。
 ここで、原告Cについての本件映像の上記部分は、原告Cの見解を提示するために、原告Cが自らの見解を述べている部分をそのまま利用したものであって、そこで述べられた内容自体が原告Cの見解と異なっているとは認めるに足りない。また、被告Fは、上記のように映像をつなげることで、アメリカ合衆国大統領の上記の発言は、原告Cが述べた見解と、論点、場面を同じくし比較対象可能なものであり、これとの対比で原告Cの見解を批判的に評価することが相当であるという見解を示したといえる。これは、議論があり得る点についての被告Fの見解であり、原告Cがそれと異なる見解を採っているとしても、被告Fが上記見解を採ったこと自体は、原告Cの品性、徳行、名声、信用等という人格的価値に関係するものではなく、一般的な視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準とすれば、本件映画1の上記の表現により、原告Cの人格的価値についての社会的評価が低下するものとは認められない。
エ 以上によれば、被告らが本件各映像を利用して本件映画1を製作、上映することにより、原告らの名誉権(声望)を侵害したとは認められない。
(4)本件映画1の製作、上映は、著作者である原告らの名誉又は声望を害する方法により本件各映像を利用するものであるか(争点A−4)について
 前記(3)で述べたところに加え、本件映画1において、本件各映像は、概ね、20万人存在したという従軍慰安婦の数には根拠がなく、従軍慰安婦が強制連行された事実や性奴隷であった事実はないという原告らの見解を提示するために利用されており(前記1(10))、これらが原告らの見解と異なって不当に利用されているなどということもなく、本件各表現の在り方や、本件映画1において本件各映像の一部のみが用いられていること(前記第2の2(2)エ)を考慮しても、本件映画1において利用されることにより本件各映像の趣旨が損なわれるものとは認められない。そうすると、原告らが本件各映像の著作者であるか否か(争点A−3関係)にかかわらず、被告らが本件各映像を利用して本件映画1を製作、上映することが、本件各映像の著作者の名誉又は声望、すなわち、著作者がその品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的な評価を害する方法によるものとは認めるに足りない。
6 本件各利用映像等について
(1)本件各外部映像等の著作権者は、別紙外部映像等目録記載のとおり、原告B若しくは原告D又はその両方であり、本件外部映像等5、6の著作者は原告Bである。
 本件映画1には、本件各外部映像等の一部又は全部が、別紙外部映像等利用態様記載のとおり、本件各利用映像等として用いられている。本件映画1における本件各利用映像等は、その内容や利用態様に照らし、構図、撮影タイミング等を工夫し、編集加工等を施すなどした本件各外部映像等の創作性ある部分を用い、その本質的特徴を感得することができるものと認められる。
 被告Fは、本件映画1を製作するに当たり、本件各外部映像等の一部又は全部を複製して本件各利用映像等を作成し、被告会社は、日本国内において、本件各利用映像等を含む本件映画1を配給し、上映するなどした。
(2)本件映画1において本件各利用映像等が利用された時間は、順に42秒間(動画)、3秒間(静止画)、3秒間(動画)、3秒間(静止画)、10秒間(動画)、17秒間(動画)、5秒間(動画)である。なお、本件映画1は合計122分である。本件各利用映像等について、それらの基となった本件各外部映像等の長さは、別紙外部映像等目録、別紙外部映像等利用態様記載のとおり、順に4分52秒、2分42秒、5分56秒、静止画、7分18秒、3分48秒、4分52秒である。
(3)本件利用映像等1から6は、本件映画1において、冒頭に近い部分で、「主戦場」というタイトル画面に引き続く一連の内容の映像として利用されている。
 すなわち、タイトル画面に引き続き、原告Bが、従軍慰安婦像が設置された場所を訪ね、その像を背景に「アメリカの都市の公園に置かれるのは不名誉です、無関係な問題にアメリカを巻き込もうとする困ったやつらがいる。」などと話している本件利用映像等1が映される。そして、その映像の次に、原告Bが写っている静止画であり「U」などの表示がある本件利用映像等2が映され、これらに重なる形で、原告Bの氏名を述べて「U’として知られるユーチューバーだ」とのナレーションがされる。また、原告Bが従軍慰安婦問題に関して投稿した動画である本件利用映像等3が映されるのに重なる形で「彼は日本の右翼の見解を支持―日本の右派にもてはやされている」とのナレーションがされ、原告Bが写っており日本で撮影された写真である本件利用映像等4が映されるのに重なる形で、「2011年以来毎年訪日―著書を売り込む後援会ツアーをしている」とのナレーションがされる。そして、原告Bが従軍慰安婦問題に関して投稿した動画である本件利用映像等5がされるのに重なる形で、「私が慰安婦問題を調べ始めたときテキサスの白人男性が日本の右派の主張を繰り返しているのが奇妙に映った」、「そこで他の投稿をみていたらこれを見つけた」とのナレーションがされ、そのナレーションに続いて、原告Bが、日本にいたアメリカ人が投稿した動画について話す映像である本件利用映像等6が映される。その後、そこで原告Bが話題とした動画が被告Fが作成した「日本の人種差別」という動画であるとのナレーションがされ、被告Fが作成した「日本の人種差別」と題する動画が動画投稿サイトに掲載されている画面等が映されるなどし、「これに右派ネオ・ナショナリストが反応…これが慰安婦問題に関心をもったきっかけだ」というナレーションがされる。
 なお、本件利用映像等1と本件利用映像等2は連続する映像である。本件利用映像等2と本件利用映像等3の間(2秒間)には、本件外部映像等2を含む、原告Bが従軍慰安婦について投稿した動画の一覧を表示する動画投稿サイトの画面が静止画として用いられている。本件利用映像等3と本件利用映像等4の間(2秒間)には、原告Bが従軍慰安婦について投稿した動画の一覧を表示する動画投稿サイトの画面がその画面をスクロールする形で映される。本件利用映像等4と本件利用映像等5の間(14秒間)には、原告Bの著書の表紙が映されたり、原告Bが日本語を話さず、原告Dがマネージャーであることがナレーションで説明され、原告Bと原告Dが映った写真が映されたりする。本件利用映像等5と本件利用映像等6は連続する映像である。
(4)本件利用映像等7は、本件映画1の後半部分において、原告Bが、被告Fの取材を受けて、室内で、従軍慰安婦像を見に行ったことに関連する話をしている映像である原告Bについての本件映像の途中で、原告Bの取材における発言に重ねて映されるものである。本件利用映像等7は、本件外部映像等1のうち、原告Bが、従軍慰安婦像を訪れた場面が映っているものである。本件利用映像等7を途中に映す原告Bについての本件映像に引き続き、従軍慰安婦像に対する原告Bの上記行動を批判するRの映像が映される。
(5)本件利用映像等1から3、5は、本件映画1の映像によって、それらが動画投稿サイトであるユーチューブに投稿された動画又はその一場面の静止画であることを認識することができる。また、それらの映像には、いずれも原告Bが映っていて、本件映画1の当該利用箇所において、その動画の題名が映っており、投稿者やそのアカウント名が原告Bであることも映っているものもある。ナレーションは原告Bをユーチューバーと紹介している。本件利用映像等6は、原告Bが投稿した動画である本件利用映像等5の後に、「そこで、他の投稿を観ていたら、これを見つけた」とのナレーションに引き続いて映される、原告Bが話をしている動画である。
 本件外部映像等1、5について、本件映画1のエンドクレジットの「利用した映像及び写真の出所」において、原告Bの氏名、動画の題名、ユーチューブにおいて投稿された動画であることの記載がある。また、本件外部映像等4について、上記「利用した映像及び写真の出所」において、原告Bの氏名やフェイスブックに投稿された写真であることなどの記載がある。
7 本件各利用映像等の利用が原告Bの許諾に基づくものであるか(争点B−1)について
 被告らは、本件各利用映像等の利用について、原告Bの許諾があった旨主張する。
 原告Bは、被告Fとの間で、被告Fが製作する「歴史問題の国際化に関するドキュメンタリー映画」に関し、被告Fが本件映像及び取材の際に原告Bが提供した情報、素材の全部又は一部を自由に編集して利用できる旨の内容を含む本件B書面を作成した(前記第2の2(2)イ(ウ)@)。
 しかし、原告Bが、取材の際、被告Fに対し、原告Bが著作権を有する本件利用映像等1から3、5、6を提供したとは認めるに足りない。本件利用映像等1から3、5、6の内容が本件映像における原告Bの発言と同趣旨であるからといって、そのことをもって、本件利用映像等1から3、5、6の利用が本件B書面によって許諾されているとはいえない。このほか、原告Bが、被告Fに対し、本件利用映像等1から3、5、6の利用を許諾したと認めるに足りる証拠はない。
 以上によれば、原告Bが、被告Fに対し、本件利用映像等1から3、5、6の利用を許諾したとは認められない。
8 本件各利用映像等の利用が引用(著作権法32条1項)として適法か(争点B−2)について
(1)本件各利用映像等は、前記6(3)や別紙外部映像等利用態様の利用態様等によれば、被告Fの作品である本件映画1において、本件映画1の映像によって原告Bの名前で動画投稿サイトに投稿された動画の一部であることが分かったり、ナレーションで原告Bの動画であることが説明されたり、前後の映像とは異なる場面であったりすることなどから、いずれも、もともと被告Fにより作成されたものではないと認識することができるもので、他人の著作物として区別して用いられたものといえる。また、本件映画1は、従軍慰安婦に関する特定の観点について原告Bを含む異なる立場の者への取材映像を含む各種映像を用いるなどした上で被告Fが一定の見解を示すなどするものである(前記1(10))ところ、本件各利用映像等は、上記観点に関する映像等に先立って被告Fが従軍慰安婦問題について関心を持ったきっかけとなった動画やその動画を作成した人物について紹介、参照したり(本件利用映像等1から6)、取材した人物の映像を映す途中で同人の発言に関係する行動を紹介、批評したり(本件利用映像等7)する目的のために利用されたものである。これらからすると、本件各利用映像等は、被告Fの作品である本件映画1において、紹介、参照、批評の目的のために区別して用いられたといえるもので、引用して利用されたということができる。
(2)前記(1)のとおり、本件利用映像等1から6は、従軍慰安婦の問題を扱う本件映画1において、被告Fがこの問題について関心を持ったきっかけとなった動画やその動画を作成した人物を紹介、参照する目的で利用されたものであるところ、本件利用映像等6は、上記のきっかけとなった動画の一部であり、本件利用映像等1は、その動画を作成した人物が従軍慰安婦について述べている動画の一部である。上記目的とこれらの動画の利用は関連性がある。そして、それらにおける原告Bの発言内容を知る必要があることを考慮すると、本件利用映像等1や本件利用映像等6の長さは、目的との関係で合理的な範囲のものといえる。また、原告Bについて、その呼称や来日することがあること、従軍慰安婦に関する動画を投稿していることについて紹介、参照する目的と、それらに関する映像等である本件利用映像等2から5を利用することは関連性があり、また、それらの利用時間は短いなど、上記目的との関係で合理的な範囲で利用されたといえる。本件利用映像等3、5は、本件外部映像等3、5の一部(3分47秒から3分50秒の間、1分39秒から1分49秒の間)のうち、音声を削除して映像の部分のみを利用したものであるが、上記の目的との関係で、本件利用映像等3、5として利用されたのは、合理的な範囲のものといえる。
 本件利用映像等1から3、5、6は、本件映画1の映像、ナレーションから、原告Bが動画投稿サイトであるユーチューブに投稿した動画であることを認識することができ、また、本件映画1の映像等から動画の題名を認識することができるか、本件映画1のエンドクレジットの記載により、その元となった映像が原告Bがユーチューブに投稿した動画であることやその題名を認識することができる。本件利用映像等4は、本件映画1のエンドクレジットの記載から原告Bのフェイスブックに投稿され公開されている写真であることが明らかにされている。これらから、歴史上の事実に関する問題を扱う映画である本件映画1において、本件利用映像等1から6の出所を認識することができる。
 本件各外部映像等はインターネットの動画投稿サイト等で公開された動画、写真である。本件映画1における上記のような態様による本件利用映像等1から6の利用が、原告B及び原告Dが著作権を有する本件各外部映像等の利用を妨げたり、本件各外部映像等について有する利益を害したりするような事情も認められない。
 以上によれば、本件利用映像等1から6は本件映画1において引用して利用されたところ(前記(1))、上記のとおりの引用の目的、利用の方法、態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作権者の著作権者に及ぼす影響等を考慮すると、本件利用映像等1から6の利用は、公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行われたものであると認められる。
(3)前記(1)のとおり、本件利用映像等7は、原告Bが、被告Fの取材を受けて従軍慰安婦像を見に行ったときのことについて言及する原告Bについての本件映像の途中に、本件映像における原告Bの発言に重ねて、取材を受けた原告Bが従軍慰安婦像に関して現にしている発言に関係する原告Bの行動を紹介、批評する目的で利用されたものである。取材の対象である原告Bが取材において現にしている発言に関係する原告Bの行動を紹介、批評する目的と、その発言に直接関係する行動が映っている本件利用映像等7の利用は関連性があり、その長さも5秒(動画)で比較的短く、また、その行動を紹介等するためには音声は必要なく、本件利用映像等7として利用された部分は、上記目的との関係で合理的な範囲のものといえる。
 本件利用映像等7の元となった本件外部映像等1は、本件映画1のエンドクレジットの記載により、原告Bがユーチューブに投稿した動画であることやその題名が明らかにされていて、歴史上の事実に関する問題を扱う映画である本件映画1において本件利用映像等7の出所を認識することができる。
 本件外部映像等1はインターネットの動画投稿サイトで公開された動画であり、本件映画1における上記のような態様による本件利用映像等7の利用が、原告B及び原告Dが著作権を有する本件外部映像等1の利用を妨げたり、本件外部映像等1について有する利益を害したりするような事情も認められない。
 そうすると、本件利用映像等7は本件映画1において引用して利用されたところ(前記(1))、上記のとおりの引用の目的、利用の方法、態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作権者の著作権者に及ぼす影響等を考慮すると、本件利用映像等7の利用は、公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行われたものであると認められる。
(4)原告B及び原告Dは、本件映画1は商用映画であるから、本件各利用映像等の利用が、公正な慣行に合致するとはいえず、正当な範囲内で行われたものともいえないと主張する。しかし、商用映画で利用されたことのみを理由として他人の著作物の利用が公正な慣行に合致せず正当な範囲内で行われたといえなくなるものではなく、当該映画において他人の著作物が利用された目的を含む諸事情を考慮して、引用が公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行われたといえるかが判断されるといえる。本件映画1について、本件各利用映像等の利用が、公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内で行われたことは、前記(3)のとおりである。
 また、上記原告らは、本件利用映像等2、3については、エンドクレジットに出所表示がなく、本件映画1においても、著作者名及び題名の一部又は全部が小さく映り込んでいるにすぎず、出所表示がされたとはいえないと主張する。
 確かに、本件利用映像等2、3について、エンドクレジットに本件外部映像等2、3の題名や原告Bの氏名等の表示はされていない。しかし、本件利用映像等2、3は、原告Bに関する本件利用映像等1、5などと一連の部分として短時間用いられたものであるところ、それらが原告Bが動画投稿サイトであるユーチューブに投稿した動画であることやその題名を本件映画1の映像等から認識することができることから、上記原告ら指摘の事情は、本件利用映像等2、3の利用が引用として適法であるとの判断を左右するものではない。
9 争点C(被告らが本件利用映像等5、6を利用して本件映画1を製作、上映することは、原告Bの著作者人格権を侵害するか)について
(1)ア 本件利用映像等5は、原告Bが著作者である本件外部映像等5の一部について、音声を削除して映像を用いるものである。原告Bは、それによって、原告Bが客観的証拠もなく偏った主張を述べているかにすぎないかのような印象を与え、原告Bの名誉又は声望を害する方法による利用であり、また、原告Bの同一性保持権を侵害すると主張する。
イ 本件外部映像等5の本件利用映像等5に対応する部分では、原告Bが、従軍慰安婦が募集により集められた者であって、強制的に徴用された者ではなかったことを、アメリカ合衆国の公文書を画面に映し出しながら説明している。
 本件映画1においては、本件外部映像等5の音声は削除されており、上記公文書が画面に示されていて、原告Bが文書を手にして何らかの説明をしていることは認識できるものの、上記のような説明内容自体は伝わらない。
 本件映画1においては、その後、「慰安婦たちは売春婦又はプロの非戦闘従軍者にすぎない」旨記載された米国戦争情報局作成の報告書等の史料が存在することが提示されている(前記1(10)カ)。
ウ 著作物の利用によって、著作者が人格的価値について社会から受ける客観的評価である名誉又は声望が害された場合、その利用は著作者人格権を侵害するとみなされる。
 本件映画1における本件利用映像等5は、被告Fが従軍慰安婦問題について関心を持ったきっかけとなった動画を作成した人物を紹介、参照する目的で利用されたものである。本件利用映像等5に重ねて「私が慰安婦問題を調べ始めたときテキサスの白人男性が日本の右派の主張を繰り返しているのが奇妙に映った」とのナレーションがされているが、これは、一般的な視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として、上記被告Fが従軍慰安問題について関心を持ったきっかけとなった動画を作成した人物を紹介等するに当たり、日本においてされているのと同様の主張を、外国にいる人物がしていることに対する被告Fの感想を述べているといえるものである。原告Bが客観的な証拠もなく主張をしているとは述べられていないし、一般的な視聴者がそのように受け取るとは認められない。本件利用映像等5では原告Bが英文の文書を手にもって説明している様子が映っており、むしろ、その映像を見たものは、原告Bがその文書に基づく説明をしているものと理解できるのであり、本件利用映像等5から、原告Bが客観的な証拠もなく偏った主張を述べているにすぎない等と受け止められるとは認められない。その他、本件映画1において上記のような態様で引用されることにより原告Bが社会から受ける客観的評価である名誉又は声望が害される事情も認められない。
 そうすると、被告らが本件外部映像等5を利用して本件映画1を製作、上映することが、本件外部映像等5の著作者としての原告Bの名誉又は声望を害する方法によるものとは認められない。
エ 被告Fは、本件外部映像等5の一部(1分39秒から1分49秒の部分)について、音声を削除して、本件利用映像等5を作成した。
 本件利用映像等5は本件外部映像等5の一部を切除して作成されたものであるところ、本件利用映像等5は、引用の目的との関係で合理的な範囲のものであることなどから、本件映画1におけるその利用は引用として適法である(前記8(2))。本件映画1において、本件利用映像等5は、殊更に元となった著作物の全部であると認識されるような態様で利用されているものではない。また、本件利用映像等5について、前記ウのとおり、著作者が社会から受ける客観的評価である名誉等を害する事情があるとは認められない。本件利用映像等5の作成は、「やむを得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)であり、原告Bの同一性保持権を侵害するとは認められない。
(2)ア 本件利用映像等6は、原告Bが著作者である本件外部映像等6の一部を用いるものである。原告Bは、それによって、本件外部映像等6のうち、日本における人種差別について殊更に騒ぎ立てる者がいることを述べた部分のみが利用されていて、この切除は原告Bの意に反するものであり、また、原告Bが日本に人種差別が存在すると指摘すること自体を批判しているかのような印象を与え、原告Bの名誉又は声望を害する方法による利用であり、また、原告Bの同一性保持権を侵害すると主張する。
イ 本件外部映像等6は、本件映画1において利用された本件利用映像等6の部分に続いて、原告Bが、要旨、被告Fによれば、被告Fが日本で教えている高校生はアメリカ合衆国に人種差別があると認識しているというが、アメリカ合衆国における人種差別が専ら白人によるものであるというのは報道機関等一部の者が作出した虚構であり、アメリカ合衆国における人種差別は全ての肌の色の人に対して存在すること、また、人種差別はアメリカ合衆国や日本のみではなく全ての国において存在すること、人種差別や差別は誤りであるが、人間の中に自然に存在する部分でもあり、悪いことだと認識してそれを正していくことが必要であること、人種差別が存在する国というアメリカ合衆国の印象は、アメリカ合衆国によって自由を与えられながらアメリカ合衆国を嫌っている一部の者によって作出されているものであること等を述べるものである(甲33)。
ウ 上記イのとおりの本件外部映像等6の内容によれば、本件外部映像等6を通じてみると、原告Bが主に主張したかったことが述べられているのは、本件映画1における利用された本件利用映像等6に続く部分であったといえる。
 もっとも、一般的な視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として本件利用映像等6における原告Bの指摘から原告Bが人種差別を許容している等と受け止めるとは認められない。また、本件利用映像等6における原告Bの指摘は本件外部映像等6における原告Bの主張と矛盾するものではなく、本件映画1において引用されることにより本件外部映像等6の趣旨が損なわれるものではないと認められる。
 そうすると、被告らが本件利用映像等6を利用して本件映画1を製作、上映することが、本件外部映像等6の著作者としての原告Bが社会から受ける客観的評価である名誉又は声望を害する方法によるものとは認められない。
エ 本件利用映像等6は、本件外部映像等6の一部(0分10秒から0分27秒の部分)である。
 本件利用映像等6は本件外部映像等6の一部を切除して作成されたものであるところ、本件利用映像等6は、引用の目的との関係で合理的な範囲のものであることなどから、本件映画1におけるその利用は引用として適法である(前記8(2))。本件映画1において、本件利用映像等6は、殊更に元となった著作物の全部であると認識される態様で利用されたものではない。また、本件利用映像等6について、前記ウのとおり、著作者が受ける客観的評価である名誉等を害する事情があるとは認められない。本件利用映像等6の作成は、「やむを得ないと認められる改変」(著作権法20条2項4号)であり、原告Bの同一性保持権を侵害するとは認められない。
10 争点D(被告Fに、原告C及び原告Dとの間の本件事前確認等条項に違反した債務不履行があるか。)について
 被告Fは原告C及び原告Dとの間で、本件C書面及び本件D書面により、被告Fは映画の公開前に同原告らに確認を求め、同原告らは速やかに確認することなどを内容とする本件事前確認等条項に合意した(前記第2の1(2)イ(イ))。
 被告Fは、本件事前確認等条項に従い、平成30年5月21日、原告C及び原告Dに対し、編集に不服がある場合には、本件事前確認等条項Cに従い、同原告らが映画に不服である旨の記載をするので、2週間以内に知らせてほしいとして、本件映画1のうち同原告らの取材についての部分を蔵置したサーバーへのハイパーリンクを記載した電子メールをそれぞれ送信した(前記1(7))。これに対し、原告Cは、同日、見た上で返事をする旨の返信をした(同前)。また、原告Dは、同年9月30日、被告Fから釜山国際映画祭における上映の告知を受けた際に、祝意を表するとともに、本件事前確認等条項Bに基づき事前に映像を確認したい旨申し出たため、被告Fは、同年10月2日、再度、本件映画1のうち原告Dの取材に係る部分を蔵置したサーバーへのハイパーリンクを記載した電子メールを送信し、原告Dは、同月5日までにハイパーリンク先の映像を確認した(同(8)ウ)。原告C及び原告Dは、原告Cにおいては釜山国際映画祭や日本国内における本件映画1の上映の予定について、原告Dにおいては日本国内における本件映画1の上映の予定について、被告Fから事前に告知を受けたが、平成31年4月から令和元年5月頃に本件映画1の上映の中止等を求めるようになる(同(8)ウ、(9))まで、被告Fに対し、本件事前確認等条項の義務が履行されていない等の抗議をしたことはなかった。なお、本件映画1は、本件卒業制作映画に軽微な編集を加えて鑑賞性を高めたものであり、本件卒業制作映画と内容、構成において同じであって、本件各書面にいう被告Fが制作する「歴史問題の国際化に関するドキュメンタリー映画」に該当する(前記2(1)イ)。
 本件事前確認等条項B(被告Fは、映画の公開前に原告らに確認を求め、原告らは、速やかに確認する。原文は「甲は、本映画公開前に乙に確認を求め、乙は、速やかに確認する」(甲4、5))において、原告C及び原告Dに、自身に関する本件映像の利用箇所の確認する権利を留保したものであるか、映画全体を確認する権利を留保したものであるかは文言上は必ずしも明確ではない。
 もっとも、上記のとおり、本件映画1の一般公開前に(なお、被告Fは、本件卒業制作映画を修士論文に代えて上智大学大学院に提出したが、これをもって本件事前確認等条項Bにいう「公開」に当たるとは認めるに足りない。)、被告Fは、実際に本件映画1のうち原告C及び原告Dへの取材に関する部分について開示をして、本件事前確認等条項に定められた被告Fの義務を果たすためにも、2週間以内に返事をしてほしい旨が記載されたメールを送信し、原告C及び原告Dは、それに対して、確認する旨返事をしたり、実際に映像を確認したりした。そして、原告C及び原告Dは、それらの対応のほかに、被告Fに対して、映画全体を確認する必要があるとの申出を含む何らかの申出等をすることはなかった(前記1(7))。
 仮に、本件事前確認等条項Bが、映画全体を確認する権利を留保したものであると解されたとしても、原告C及び原告Dは、被告Fから本件事前確認等条項に定められた被告Fの義務を果たすために速やかに返事をするように促された上で、自らの取材に関する部分についてのみの開示を受け、それに対する返事等をしたが被告Fに対して何らの申出等をしなかったのであり、このような事情を考慮すると、その後、原告C及び原告Dが、映画公開前に本件事前確認等条項Bに定められた義務の履行がされていなかったと主張することは許されないというべきである。
 次に、本件事前確認等条項C(被告Fは、映画に利用されている原告らの発言等が同人らの意図するところと異なる場合には、映画のクレジットに、原告らが映画に不服である旨又は原告らの希望する内容の声明を表示する。)は、本件事前確認条項Bにおける原告C及び原告Dの速やかな確認を前提とするものであって、原告C及び原告Dは、被告Fからの確認の求めに対して何らの申出等をしなかったのであるから、仮に、本件事前確認等条項Bが、映画全体を確認する権利を留保したものであると解されたとしても、被告Fが本件映画1を完成、公開するに当たり、原告C及び原告Dが本件映画1に不服である旨などを表示しなかったからといって、原告C及び原告Dが、被告Fが本件事前確認等条項Cの義務を履行しなかったと主張することは許されないというべきである。
 さらに、本件映画1において、原告C及び原告Dについての本件映像は、概ね、20万人存在したという従軍慰安婦の数には根拠がなく、従軍慰安婦が強制連行された事実や性奴隷であったという事実はないという同原告らの見解を提示するために利用されていて(前記1(10))、これらが、原告C及び原告Dの見解と異なるなど本件撮影時の文脈から離れて不当に利用されていると認めるに足りない(前記2(2)イ、ウ)。また、本件映画1は、本件C書面及び本件D書面にいう被告Fが製作する「歴史問題の国際化に関するドキュメンタリー映画」に該当する(同(1)イ)から、被告Fが原告C及び原告Dについての本件映像を他の映画等の作成に利用したとも認めるに足りない。したがって、被告Fが本件事前確認等条項D(被告Fは、本件映像を、撮影時の文脈から離れて不当に使用したり、他の映画等の作成に使用したりすることはない。)の義務に違反したとは認められない。
 以上から、被告Fに本件事前確認等条項に違反した債務不履行があったとは認めるに足りない。
11 争点H(本件映画2の譲渡、貸与等により原告らの肖像権、名誉権(声望)が侵害され、原告らはこのことにより被告Fにアマゾンに対する意思表示をすることを請求できるか。)について
 令和3年5月頃、アマゾンがアメリカ合衆国内において運営する電子商取引サイトにおいて、本件映画2が、有償で、期限の定めなく又は期限を定めて公衆送信されていた(前記第2の1(2)ケ)。
 もっとも、本件各証拠によっても、本件映画2の内容は必ずしも明らかではない。なお、仮に、本件映画2の内容が本件映画1の内容とほぼ同内容のものであった場合、その公衆送信等が原告らの肖像権、名誉権を侵害するものとは認めるに足りないことは、前記2のとおりである。
 この点に関する原告らの主張は、その余を判断するまでもなく、理由がない。
第4 結論
 以上によれば、(1)被告らが本件各映像を利用して本件映画1を製作、上映することが、原告らの著作権、肖像権を侵害し、また、原告Aのパブリシティ権を侵害するか(争点@)については、本件各許諾がされたところ、本件各許諾は詐欺により取り消された又は錯誤により無効であるとはいえず(争点@−3前記3)、本件各許諾が本件規定に従い撤回されたとも認められない(争点@−4前記4)ため、原告らが本件各映像の著作権者であるか(争点@−1)や本件予告動画が原告Aの肖像の顧客吸引力を利用しているものか(争点@−2)にかかわらず、原告らの主張には理由がなく、(2)被告らが本件各映像を利用して本件映画1を製作、上映することが、原告らの名誉権(声望)を侵害し、また、著作者人格権(みなし著作者人格権)を侵害するか(争点A)については、本件各映像を利用した本件映画1の製作、上映により、原告らの社会的評価が低下したとは認められず(争点A−1前記5)、本件各表現が違法性を欠き(争点A−2前記5)、著作者である原告らの名誉、声望を害する方法により本件各映像を利用するものとも認められない(争点A−4前記5)ため、原告らが本件各映像の著作者であるか(争点A−3)にかかわらず、原告らの主張には理由がなく、(3)被告らが本件各利用映像等を利用して本件映画1を製作、上映することが、原告B及び原告Dの著作権を侵害するか(争点B)については、その利用が引用として適法であると認められる(争点B−2前記8)ため、原告らの主張には理由がない。また、(4)被告らが本件利用映像5、6を利用して本件映画1を製作、上映することが、原告Bの著作者人格権(同一性保持権、みなし著作者人格権)を侵害するか(争点C)については、前記9のとおり、(5)被告Fに、原告C及び原告Dとの間の本件事前確認等条項に違反した債務不履行があるか(争点D)については、前記10のとおり、(6)被告Fが、原告らを欺罔して取材に応じるという役務の提供をさせたか(争点F)については、前記11のとおり、(7)本件映画2の譲渡、貸与等により原告らの肖像権、名誉権(声望)が侵害され、原告らはこれにより被告Fにアマゾンに対する意思表示をすることを請求できるか(争点H)については、前記12のとおり、いずれも原告らの主張には理由がない。
 そうすると、その余を判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却すべきである。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 佐伯良子
 裁判官 棚井啓


別紙 代理人目録
原告5名訴訟代理人弁護士 池勝彦
青山定聖
荒木田修
上野晃
尾崎幸廣
樫八重真
勝俣幸洋
田中平八
田中禎人
田辺善彦
中島繁樹
中野浩和
中間貴志
馬場正裕
浜田正夫
原洋司
二村豈則
堀健造
牧野芳樹
増田次郎
松本藤一
三ツ角直正
森統一
山口達視
横山賢司
被告両名訴訟代理人弁護士 岩井信
小畑明彦
前原一輝
原田學植
韓泰英
奈良泰明
 以上


別紙 外部映像等目録

 題名 ComfortWomenhonorattemptstodefeatUSA
 公開場所 省略
 映像長さ 4分52秒
 著作権者 原告B及び原告D

 題名 Traveling省略UJapanboundtotheLandoftheRisingSunApril2012
 公開場所 省略
 映像長さ 2分42秒
 著作権者 原告B
 静止画 省略

 題名 ComfortWomenstatuevs.theMayorofOsaka
 公開場所 省略
 映像長さ 5分56秒
 著作権者 原告B

 撮影月 平成23年5月
 撮影場所 文教市民センター
 公開場所 省略
 著作権者 原告D
 写真 省略

 題名 ComfortWomenthetruthbetold
 公開場所 省略
 映像長さ 7分18秒
 著作権者 原告B

 題名 RacisminJapan
 公開場所 省略
 映像長さ 3分48秒
 著作権者 原告B
 以上


別紙 外部映像等利用態様
1 被利用著作物本件外部映像等1(動画)の0分02秒から0分44秒の部分
利用箇所 本件映画1の3分00秒から3分42秒の間(乙7の1による表示。以下同じ。42秒間)
利用態様等 本件映画1の上記箇所では、インターネットの動画投稿サイトであるユーチューブのウェブページが映されており、そのサイトの画面中央の投稿された動画の再生画面で、本件外部映像等1の一部(動画である本件外部映像等1の時間的な一部であり、その部分については映像及び音声の全体が用いられている。)である本件利用映像等1が再生されている。
上記の再生画面の下には、その動画の題名が本件外部映像等1の題名であることや、投稿者(アカウント名)が原告Bであることが表示されている。そのサイトの動画が再生されている画面の横には、縦に、投稿された別の動画に関する小さな静止画やその題名等が並んでいる。
本件利用映像等1は、原告Bが、従軍慰安婦像が設置されたアメリカ合衆国カリフォルニア州グレンデール市を訪ね、像を背景として、「アメリカの都市の公園に置かれるのは不名誉です、無関係な問題にアメリカを巻き込もうとする困ったやつらがいる。日米関係を悪化させるだけだ。…問題を正そうと私たちはここに来ました」等と述べているものである。
本件映画1において、本件利用映像等1が音声と共に再生されており、その映像や原告Bの声を認識することができる。
本件利用映像等1の後半から、これに続く本件利用映像等2に重ねて、原告Bの氏名を紹介し、「U’として知られるユーチューバ―だ」と述べるナレーションがされる。
本件映画1のエンドクレジットの「利用した映像及び写真の出所」(additionalfootageandstillsfrom…)に、原告Bの氏名、本件外部映像等1の題名、ユーチューブに投稿された動画であることの記載がある。
2 被利用著作物 本件外部映像等2(動画)の2分38秒の部分の静止画
利用箇所 本件映画1の3分42秒から3分45秒(3秒間)
利用態様等 本件映画1の上記箇所では、インターネットの動画投稿サイトであるユーチューブのウェブページが映されており、そのサイトの画面中央の投稿された動画(本件外部映像等2)の一場面の静止画である本件利用映像等2が、徐々にクローズアップされる。
利用箇所の当初は、動画投稿サイトの画面において本件利用映像等2(静止画)の全体やその動画の題名として本件外部映像等2の題名の一部が表示されている。
本件利用映像等2は、原告Bが大きく映っていてその下に「U」等と表示されているものである。
本件映画1において、静止画である本件利用映像等2の表現を認識することができる。
本件映画1の上記箇所では、本件利用映像等1から続く、「U’として知られるユーチューバ―だ彼は慰安婦について日本の右翼の見解を支持―」というナレーションがされる。
3 被利用著作物 本件外部映像等3(動画)の0分06秒から0分09秒の部分
利用箇所 本件映画1の3分47秒から3分50秒(3秒間)
利用態様等 本件映画1の上記箇所では、インターネットの動画投稿サイトであるユーチューブのウェブページが映されており、そのサイトの画面中央の投稿された動画の再生画面で、本件外部映像等3の一部(動画である本件外部映像等5の時間的な一部であり、その部分については映像の全体が用いられているが音声は削除されている。)である本件利用映像等3が再生されている。その再生画面の下には、その動画の題名として本件外部映像等3の題名や、その投稿者(アカウント名)が原告Bであることが表示されている。そのサイトの動画が再生されている画面の横には、縦に、投稿された別の動画に関する小さな静止画やその題名等が並んでいる。
本件映画1の上記箇所において、本件利用映像等3が再生され、その映像やそこに映っている原告Bが何かを説明していることは認識することができるが、原告Bの声は削除されている。
上記箇所では、本件利用映像等2の利用部分から続く、「彼は慰安婦について日本の右翼の見解を支持―日本の右派にもてはやされている」というナレーションがされる。
4 被利用著作物 本件外部映像等4(写真)の全部
利用箇所 本件映画1の3分52秒から3分55秒(3秒間)
利用態様等 本件映画1の上記箇所では、本件外部映像等4が画面全体に表示される(本件利用映像等4)。
本件利用映像等4は、原告Bが日本を訪れた際の、原告Bほかが写っている写真であり、背景には、「東京・大阪講演会&ファンの集いWelcometoJapan.U」などと記載された幕が写っている。
本件利用映像等4に重ねて、「2011年以来毎年訪日−著書を売り込む講演会ツアーをしている」とのナレーションがされる。
本件映画1のエンドクレジットの「利用した映像及び写真の出所」に、原告Bの氏名、ソーシャルネットワーキングサービスであるフェイスブックに投稿された公開写真(publicphoto)であることの記載がある。
5 被利用著作物 本件外部映像等5(動画)の1分39秒から1分49秒の部分
利用箇所 本件映画1の4分09秒から4分19秒の箇所(10秒間)
利用態様等 本件映画1の上記箇所では、インターネットの動画投稿サイトであるユーチューブのウェブページが映されており、そのサイトの画面中央の投稿された動画の再生画面で、本件外部映像等5の一部(動画である本件外部映像等5の時間的な一部であり、その部分については映像の全体が用いられているが音声は削除されている。)である本件利用映像等5が再生されている。
その再生画面の下には、その動画の題名が本件外部映像等5の題名であることや、投稿者(アカウント名)が原告Bであることが表示されている。そのサイトの動画が再生さ
れている画面の横には、縦に、投稿された別の動画に関する小さな静止画やその題名等が並んでいる。
本件外部映像等5で利用されたのは、原告Bが、従軍慰安婦が募集により集められた者であって、強制的に徴用された者でなかったことを、アメリカ合衆国の公文書を画面に映し出しながら説明している部分である。
本件映画1において、上記部分の動画が再生されて、原告Bが書類を手に持ちながら何かを説明していることを認識することはできるが、音声は削除されている。その映像に重ねて、「私が慰安婦問題を調べ始めたときテキサスの白人男性が日本の右派の主張を繰り返しているのが奇妙に映った」、「そこで他の投稿を観ていたらこれを見つけた」とのナレーションがされる。
本件映画1のエンドクレジットの「利用した映像及び写真の出所」に、原告Bの氏名、本件外部映像等5の題名、ユーチューブに投稿された動画であることの記載がある。
6 被利用著作物 本件外部映像等6(動画)の0分10秒から0分27秒の部分
利用箇所 本件映画1の4分19秒から4分36秒の箇所(17秒間)
利用態様等 本件外部映像5に重ねたナレーションによる「そこで他の投稿を観ていたらこれを見つけた」との言及に続いて、本件外部映像等6の一部(動画である本件外部映像等6の時間的な一部であり、その部分については映像及び音声の全体が用いられている。)である本件利用映像等が再生される。
本件利用映像等6は、原告Bが、被告Fがユーチューブに投稿した動画について「日本にいる男性のビデオで…英語を教えているアメリカ人なんだが日本に人種差別があるってさ日本に人種差別があるのにみんな気づいていないだとさ!」と述べているものである。
本件映画1において、本件利用映像等6が音声と共に再生されており、その映像や原告Bの声を認識することができる。
本件映画1のエンドクレジットの「利用した映像及び写真の出所」に、原告Bの氏名、本件外部映像等6の題名、ユーチューブに投稿された動画であることの記載がある。
7 被利用著作物 本件外部映像等1(動画)の3分17秒から3分22秒の部分
利用箇所 本件映画1の1時間25分49秒から1時間25分54秒の箇所(5秒間)
利用態様等 原告Bについての本件映像の間に、本件外部映像等1の一部(動画である本件外部映像等1の時間的な一部であり、その部分については映像の全体が利用されているが、音声は削除されている。)である本件利用映像等7が利用されている。
本件利用映像等7は、原告Bが、従軍慰安婦像を訪れて、その横に紙袋を持って座っているなどする場面が映っているものである。
本件映画1において、本件利用映像等7は、音声を削除して再生されていて、音声は認識できないが、映像は認識できる。
本件利用映像等7は、従軍慰安婦像を見に行ったときのことについて言及する原告Bについての本件映像の途中に、本件映像における原告Bの発言に重ねて利用されている。
上記の原告Bについての本件映像において、原告Bは、従軍慰安婦像を見に行ったときのことについて「アメリカにこんなジョークがあります。「魅力的でない異性とセックスをする時は頭に紙袋をかぶせなくちゃな」とね。だから慰安婦像を見に行ったとき私は紙袋を持っていきました。それがふさわしいと思ってね。ブサイクのガラクタは紙袋がお似合いだってね。」などと述べている。
本件映画1のエンドクレジットに、原告Bの氏名、本件外部映像等1の題名、ユーチューブに投稿された動画であることの記載がある。
 以上
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日本ユニ著作権センター
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