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【事件名】ツイッターへの発信者情報開示請求事件F
【年月日】令和4年1月20日
 東京地裁 令和3年(ワ)第1352号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年12月9日)

判決
 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、氏名不詳者によって、原告の著作物である写真と同一又はこれを加工した写真がツイッターに投稿され、これによって原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであると主張して、ツイッターを運営する被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、被告が保有する同氏名不詳者に係る電子メールアドレス及び電話番号(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
2 前提事実(証拠等の掲示のない事実は、当事者間に争いがない。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む。)
(1)本件元画像の投稿
 原告は、令和2年5月29日、東京タワーの下で、ブルーインパルスが飛行する様子を写真撮影し、同写真の下部に半透明のアルファベット文字で原告の氏名等を表示させた別紙写真目録記載の画像(以下「本件元画像」という。甲3)を作成し、ツイッターに本件元画像を添付した記事を投稿した。(甲4、5)
(2)本件各投稿
ア 氏名不詳者(以下「本件投稿者」という。)は、令和2年5月29日、本件元画像と同一の画像を作成し、ユーザ名が「@(以下省略)」であるアカウント(以下「本件アカウント」という。)を用いて、ツイッターに同画像を添付した記事(別紙投稿記事目録記載1の記事)を投稿した(以下「本件投稿1」という。)。(甲1)
イ 本件投稿者は、本件元画像に、原告の氏名等の表示を削除する、左右を反転させるなどの編集を加えた画像を作成し、令和2年5月30日、本件アカウントを用いて、ツイッターに同画像を添付した記事(別紙投稿記事目録記載2の記事)を投稿した(以下「本件投稿2」といい、本件投稿1と総称して「本件各投稿」という。)。(甲2)
(3)ユーザ名の変更
 本件投稿者は、本件各投稿をした後、本件アカウントのユーザ名を「@(以下省略)」に変更した。(弁論の全趣旨)
(4)本件発信者情報の保有
 被告は、ツイッターを管理・運営する法人であり、本件各投稿に関してプロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たり、本件発信者情報を保有している。
(5)省令の改正
 プロバイダ責任制限法4条1項の発信者情報を定める省令(平成14年総務省令第57号)は、令和2年総務省令82号(令和2年8月31日公布、施行)により改正され、「発信者の電話番号」(3号)が加えられた(以下「本件改正」といい、本件改正前の同省令を「本件改正前の省令」、本件改正後の同省令を「本件改正後の省令」という。)。
(6)本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由
 原告は、本件投稿者に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することを予定しており、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。(弁論の全趣旨)
3 争点
(1)権利侵害が明らかであるか(争点1)
【原告の主張】
 本件各投稿に添付された各画像は、本件元画像と同一又は僅かに編集された画像であるから、本件各投稿によって本件元画像についての原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明らかである。
【被告の主張】
 不知ないし争う。
(2)発信者の電話番号が開示請求の対象となるか(争点2)
【原告の主張】
ア 本件で適用されるべき省令は、口頭弁論終結時において有効な本件改正後の省令であるから、同省令3号によって発信者の電話番号が開示請求の対象となる。
イ 仮に、本件改正後の省令が適用されないとしても、発信者の電話番号は、SMS方式による電子メールアドレスとして、本件改正前の省令3号の「発信者の電子メールアドレス」に当たるから、開示請求の対象となる。
【被告の主張】
ア プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求権は、権利侵害情報の記録、入力という積極的な行為に基づき発生するものであるから、その発生時期は、上記積極的な行為が行われた時点である。
 また、同法に基づく発信者情報開示請求権は、同法によって創設的に定められたものであり、電話番号も、本件改正によって新たにその開示請求が認められることとなったものである。
 そして、本件改正について、経過規定その他省令改正を施行日前の事案に適用する旨の規定は一切存在せず、本件改正時の議論において、遡及適用の可否が議論された形跡も全くない。そうである以上、本件改正後の省令を遡及適用することはできないというのが一般的な法制実務から導かれる当然の帰結である。
 実質的にみても、電話番号は、電話番号の保有者に対して通話を発信できる情報であり、悪用可能性が極めて高い情報であるから、発信者のプライバシーに対する影響は、氏名及び住所よりも電話番号の方が格段に大きい。そのため、本件改正前の発信者の行為に本件改正後の省令を適用して電話番号の開示を認めることは、発信者本人にも予測不可能な権利侵害を加えることになり社会生活の安定性自体を害する。このような観点からも、省令改正の遡及適用を認めることは不当である。
 したがって、発信者の電話番号は開示請求の対象とならない。
イ 省令の立法者である総務省がパブリックコメント回答において公式見解として電話番号を発信者情報開示請求の対象としないことを明確に述べていること、省令は発信者情報として開示請求の対象となり得る情報のうち必要最小限の情報のみを限定列挙したものであること、平成14年当時、プロバイダ責任制限法3条の2及び公職選挙法142条の3は存在せず、特定電子メール法2条3号の「電子メールアドレス」に携帯電話番号は含まれていなかったこと、一般的な語法として「電子メール」及び「電子メールアドレス」SMS及び携帯電話番号が含まれるものではないことからすれば、平成14年当時の解釈論として、SMS及び携帯電話番号は省令3号の「電子メール」及び「電子メールアドレス」に該当しないものと解される。そして、省令4号の文言は、それ以降全く改正されていない。したがって、本件改正後の省令4号の解釈論としても、SMS及び携帯電話番号は省令4号の「電子メール」及び「電子メールアドレス」に該当しないものと解される。
 したがって、発信者の電話番号は開示請求の対象とならない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(権利侵害が明らかであるか)について
 証拠(甲3、4)によれば、本件元画像は、原告が、青空を背景とした東京タワーを下から仰ぎ見る構図で、その上空をブルーインパルスが飛行するタイミングで写真を撮影し、その写真の下部に自らの氏名等を表示させたものであり、撮影対象や構図等について独自の工夫がされたものであると認められる。そのため、本件元画像は、原告の思想又は感情を創作的に表現した著作物に当たるというべきである。
 一方、前記前提事実及び証拠(甲1、2)によれば、本件投稿1は、本件元画像と同一の画像をツイッターに投稿したものであり、また、本件投稿2は、本件元画像に僅かな編集を加えただけの画像をツイッターに投稿したものであって、同画像においては、本件元画像における本質的な特徴が維持され、同画像からは本件元画像の表現上の本質的特徴を明確に覚知することができる。
 したがって、本件各投稿は、いずれも、原告の本件元画像についての著作権(公衆送信権)を侵害するものであることが明らかであると認められる。
2 争点2(発信者の電話番号が開示請求の対象となるか)について
 原告は、発信者の電話番号が開示請求の対象となると主張し、被告はこれを否定するので、以下検討する。
 プロバイダ責任制限法4条1項による発信者情報開示請求権は、侵害情報の流通がされた時に発生すると解されるが、請求権者による同請求権の行使により開示関係役務提供者が開示義務を負うべき発信者情報の内容は、同請求権の行使の時点で施行されている法令において定められたところに従って決せられると解するのが相当である。
 本件においては、本件投稿者が本件各投稿をしたのは令和2年5月29日及び同月30日であって、それらの時点では、本件改正後の省令は公布・施行されていなかったものの、原告がプロバイダ責任制限法4条1項による発信者情報開示請求権を行使した時点では、本件改正後の省令は施行されているのであるから、被告が開示義務を負うべき発信者情報の範囲は、本件改正後の省令に基づいて決せられる。そうすると、本件においては、本件投稿者の電話番号は開示請求の対象となるというべきである(なお、本件投稿者のSMTP方式による電子メールに係る電子メールアドレスについては、本件改正後の省令4号に該当するものとして開示請求の対象となる。)。
 被告は、本件において電話番号を開示請求の対象とすることは、法制実務上通常認められない法令の遡及適用を認めることになり相当ではないなどと主張するが、上記説示したところによれば、本件改正後の省令の遡及適用の問題は生じることはなく、被告の上記主張は採用の限りではない。
3 結論
 以上によれば、本件請求に関しては、その余の争点について検討するまでもなく、プロバイダ責任制限法4条1項所定の要件を全て充足すると認められる。
 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 田中孝一
 裁判官 鈴木美智子
 裁判官 稲垣雄大


別紙 当事者目録
原告 A
同訴訟代理人弁護士 岸本雄介
同 葛山弘輝
被告 ツイッターインク
同訴訟代理人弁護士 中島徹
同 上田一郎
同 平津慎副
同 細川智史
同 清水美彩惠
同 中所昌司
同 安藤裕実
同 相澤亮
同 小宮慶久
同 森脇和聡
同 大岩祐貴
同 椎名紗彩
同 秋山円
同 犬飼貴之
同 山本ゆり
同 吉田燎平
同 五十嵐紀史
同 大野真梨子
同 尾形夏子
同 中村彰男
同 堀川達流
同 松岡亮伍
同 水野幸大

別紙 発信者情報目録
 ユーザー名「@(以下省略)」(旧ユーザー名は、「@(以下省略)」)に関する情報であって、次に掲げるもの
1 SMTP方式による電子メールに係る電子メールアドレス
2 SMS方式による電子メールに係る電子メールアドレス
 以上

(別紙写真目録 省略)
(別紙投稿記事目録 省略)
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