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【事件名】ツイッターへの発信者情報開示請求事件D 【年月日】令和4年1月20日 東京地裁 令和3年(ワ)第5668号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和3年11月9日) 判決 原告 A 同訴訟代理人弁護士 齋藤理央 被告 ツイッター・インク 同訴訟代理人弁護士 吉田燎平 同 中島徹 同 平津慎副 主文 1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 本件は、原告が、氏名不詳者が被告の提供するインターネット上の短文投稿サイトである「ツイッター」に投稿した別紙投稿記事目録記載1ないし5の各投稿(以下「本件各投稿」といい、同目録記載順に、「本件投稿1」などという。)により、原告の著作物に係る公衆送信権が侵害されたことが明らかである旨を主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記した証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実) (1)当事者等 原告は、日本に居住する職業写真家であり、別紙写真目録記載1ないし5の各写真(以下「本件各写真」といい、同目録記載順に「本件写真1」などという。)を撮影した(甲1、5、9、13、17)。 被告は、ツイッターを管理・運営している米国法人である。 (2)本件各写真の著作権 本件各写真は、いずれも写真の著作物であり、原告は、本件各写真を撮影した著作者として、その著作権(公衆送信権〔著作権法23条1項〕)を有する。 (3)氏名不詳者による投稿及び原告の著作権(公衆送信権)侵害 ア 本件投稿1 氏名不詳者は、別紙投稿記事目録記載1の「ツイート日時」において、別紙アカウント目録記載1のアカウント(以下「本件アカウント1」という。)を利用し、原告の許諾を得ることなく、本件写真1を含む記事をツイッターに投稿した(甲2、3)。本件投稿1により、本件写真1に係る原告の公衆送信権(著作権法23条1項)が侵害された。 イ 本件投稿2 氏名不詳者は、別紙投稿記事目録記載2の「ツイート日時」において、別紙アカウント目録記載2のアカウント(以下「本件アカウント2」という。)を利用し、原告の許諾を得ることなく、本件写真2を含む記事をツイッターに投稿した(甲6、7)。本件投稿2により、本件写真2に係る原告の公衆送信権が侵害された。 ウ 本件投稿3 氏名不詳者は、別紙投稿記事目録記載3の「ツイート日時」において、別紙アカウント目録記載3のアカウント(以下「本件アカウント3」という。)を利用し、原告の許諾を得ることなく、本件写真3を含む記事をツイッターに投稿した(甲10、11)。本件投稿3により、本件写真3に係る原告の公衆送信権が侵害された。 エ 本件投稿4 氏名不詳者は、別紙投稿記事目録記載4の「ツイート日時」において、別紙アカウント目録記載4のアカウント(以下「本件アカウント4」という。)を利用し、原告の許諾を得ることなく、本件写真4を含む記事をツイッターに投稿した(甲14、15)。本件投稿4により、本件写真4に係る原告の公衆送信権が侵害された。 オ 本件投稿5 氏名不詳者は、別紙投稿記事目録記載5の「ツイート日時」において、別紙アカウント目録記載5のアカウント(以下「本件アカウント5」といい、本件アカウント1ないし4を併せて「本件各アカウント」という。)を利用し、原告の許諾を得ることなく、本件写真5を含む記事をツイッターに投稿した(甲18、19)。本件投稿5により、本件写真5に係る原告の公衆送信権が侵害された。 (4)被告の発信者情報の保有 被告は、本件各アカウントに係る電話番号(ただし、本件アカウント1及び4に係るものは除く。)及び電子メールアドレス並びに一定の期間に本件各アカウントにログインした際に割り当てられたIPアドレス及び同IPアドレスが割り当てられた電気通信設備から被告の用いる特定電気通信設備に情報が送信された年月日及び時刻(タイムスタンプ)の情報(以下「本件ログイン時IPアドレス等」という。)を保有している。 2 争点 (1)本件ログイン時IPアドレス等の「権利の侵害に係る発信者情報」(法4条1項)該当性(争点1) (2)発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無(争点2) 3 争点に対する当事者の主張 (1)争点1(本件ログイン時IPアドレス等の「権利の侵害に係る発信者情報」(法4条1項)該当性) 〔原告の主張〕 本件ログイン時IPアドレス等も、本件各投稿を行った発信者の特定に資する情報であり、法4条1項に基づく開示請求の対象となる。 ア ログイン時のIPアドレス等が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(法4条1項)に該当すること 法4条1項は、特定電気通信による情報の流通には、権利侵害の容易性、高度の伝ぱ性ゆえの被害の際限なき拡大、加害者特定の困難性等、他の情報流通手段とは異なる特徴があることを踏まえて、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図る旨の規定である。そして、法4条1項は、「権利の侵害に係る発信者情報」と幅を持たせて規定しており、その趣旨は、特定電気通信設備を用いて現実化した権利侵害に対しては、侵害者の姿も見えず、発信者情報の開示が認められないと加害者の絞り込みさえ困難であるという事情に十分に配慮し、侵害情報の送信に限定せず、発信者の特定に資する情報の開示を認めることにより、損害賠償請求などの権利救済を十全にする点にあると考えられる。また、被告が提供するツイッターは、その利用に際してアカウントを登録する必要があり、アカウントの登録には、ユーザIDとパスワードを設定し、ログインの際にはパスワードの入力が求められる。 このように、ツイッターにおいては、パスワードによってログインが厳重に管理・保護されており、近時では、通常使うものとは異なるデバイスからログインを使用すると、登録しているメールアドレスに警告メールが届くなど、セキュリティ対策もより十全となっている。このように、ツイッターに関していえば、そのセキュリティの高さからログインした者が発信者であるという蓋然性が極めて高い状況であり、特定のアカウントにログインしている以上、当該ログインをした者は、発信者と同一人物であることが強く推認される。 これらの法4条の趣旨・規定ぶり、被告の提供するサービスの仕組みやセキュリティの状況からすれば、ツイッターへのログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプ(以下「IPアドレス等」という。)は、「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当する。 イ ログイン時のIPアドレス等が特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令(以下「省令」という。)5号及び8号に該当すること省令5号における「侵害情報に係る」とは、IPアドレスが、単に侵害情報と何らかの関係があることのみならず、侵害情報の発信者の正確な特定に資するものであって、侵害情報の発信者以外の者を誤って発信者と特定する合理的な疑いがないことを意味すると解される。そして、被告が提供するツイッターのアカウントへのログイン時のIPアドレスは、前記のとおりのログイン時のセキュリティの高さ等からして、侵害情報の発信者以外の者を誤って特定する合理的な疑いがないことという基準を満たしており、省令5号が規定する開示の対象となる情報である。 次に、省令8号は、タイムスタンプに係る規定であるが、同号の趣旨は、IPアドレスだけでは、発信者を特定することができないことから、IPアドレスとタイムスタンプとを併せて開示を認めることにより、発信者の特定を実効化する点にあると解される。すなわち、省令5号のIPアドレスが固定的に割り当てられている場合は格別、動的に、固定せずに割り当てを受けている場合には、IPアドレスのみでは、発信者を特定する情報として不足することから、省令8号においてタイムスタンプの開示が併せて認められているのである。そうであれば、省令5号と8号とは、整合的に解釈すべきであり、ツイッターのアカウントへのログイン時のIPアドレスが開示の請求となる発信者情報に該当するのであれば、当該ログインの際のタイムスタンプも同様に、開示対象となるというべきである。 ウ 最新ログイン時IPアドレス等も開示の対象となること 被告が提供するツイッターにおいては、投稿とアカウントが強く紐づけられており、同一アカウントにおいては同一人が投稿を行うことが予定されている。また、ログインには、ユーザIDとパスワードが必要であり、パスワードはアカウント登録者の管理するメールサーバにしか送信されず、ログインする者とアカウント管理者と投稿者の同一性は、パスワードによって担保されている。さらに、通常、ユーザは自身のスマートフォンやデスクトップパソコンなどの各種デバイスにユーザIDとパスワードを保存しておいて、ツイッターサービスを利用しているところ、当該スマートフォンなどの個人使用が前提となるデバイスの管理者が複数いることは想定できない。したがって、投稿直前のログインであっても、本判決確定時点における直近のログイン(最新ログイン)であっても、アカウントにログインをして当該アカウントを使用する者と投稿者が異なる事態は想定できず、最新のログイン時のIPアドレスについて、侵害情報の発信者を誤って特定する合理的な疑いは生じない。したがって、最新ログイン時のIPアドレスも「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」(省令5号)に該当するというべきであり、同時に、最新ログイン時のIPアドレスに係るタイムスタンプも「侵害情報が送信された年月日及び時刻」(省令8号)に該当するというべきである。 以上から、本件ログイン時IPアドレス等については、最新ログイン時のIPアドレス等も含めて「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するということができる。 〔被告の主張〕 原告の上記主張は、争う。 ア ログイン時のIPアドレス等に関する情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(法4条1項)に該当しないこと 法が発信者情報開示請求権を創設するに当たり、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下でのみ発信者情報開示請求を認めている趣旨に加え、法4条1項が、単に「当該開示関係役務提供者が保有する発信者情報」と規定するのではなく、「当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報」と規定していることからすると、発信者情報開示請求において開示が認められるのは、あくまでも「当該権利の侵害」行為、すなわち、請求者が侵害情報であると主張する特定の情報の発信行為に関する情報のみに限定される。 しかるに、アカウントへのログイン行為は、侵害情報の発信行為とは全く別個の行為であり、それゆえ、ログイン行為を行う者の端末から被告のサーバに送信される情報(ログイン情報)も、侵害情報とは全く別の情報であり、かつ、侵害情報とは何の関係もない情報である。 したがって、本件ログイン時IPアドレス等は、そもそも、法4条1項にいう「当該権利の侵害に係る情報」に該当しない。 イ ログイン時のIPアドレス等が省令5号及び8号に該当しないこと 法4条1項は、前記のとおり、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、発信者情報開示請求を認めるものであるが、開示が認められる「侵害情報の発信者の特定に資する情報」の一部を省令に委ねている。かかる委任を受けた省令においては、発信者情報として開示の対象となり得る情報を、例示的に列挙するのではなく、限定的に列挙している。これは、発信者情報の開示には、通信の秘密や表現の自由という重大な権利利益に関する問題が存する上、ひとたび開示されてしまうと、原状回復を図ることが不可能であるという性質を有していることから、訴訟による権利回復を可能にするという発信者情報開示制度の趣旨に照らして、開示請求の対象となる発信者情報を必要最小限の範囲に予め限定するのが相当であるとの立法の趣旨を踏まえたものである。 このような立法の経緯、法の趣旨、限定列挙という規定ぶり等からすれば、安易に省令の規定を拡張解釈して開示請求の対象となり得る情報の範囲を拡大することはできないというべきである。 そして、省令8号が「侵害情報が送信された年月日及び時刻」と定めていることからすれば、同号が開示の対象とする情報は侵害情報送信の年月日及び時刻(タイムスタンプ)のみであると解すべきである。その上、そもそも、発信者の端末から被告のサーバへのログイン情報の送信は、1対1の電気通信であり、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信ではないから、特定電気通信(法2条1号)には該当せず、ログイン時のタイムスタンプは、発信者情報開示請求の対象とはならない。 したがって、ログイン時のタイムスタンプに対する発信者情報開示請求は認められない。 次に、省令5号は、「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」と規定し、「発信者のアイ・ピー・アドレス」とは規定していないものの、これは、省令1号及び2号が、発信者のみならず、「その他侵害情報の送信に係る者」と規定し、発信者が所属する企業や大学が経由プロバイダとの契約者である場合にも契約者情報の開示を認めることを意図しているのと同様に、経由プロバイダのIPアドレスの開示を可能とするために、上記の文言により規定されているに過ぎない。したがって、省令5号は、侵害情報の発信行為に関連する情報、すなわち、侵害投稿時のIPアドレスのみが開示請求の対象となることを規定しているというべきである。このような省令5号の解釈は、省令8号の上記解釈とも整合的である。そもそも、IPアドレスとタイムスタンプは、それぞれ一方のみでは発信者を特定することができず、両者を一体として利用することで初めて発信者の特定に資する情報となり得るものである。このことから、省令8号は、「第五号のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備(中略)から開示関係役務提供者の用いる特定電気通信設備に侵害情報が送信された年月日及び時刻」と規定し、同号の情報が省令5号と一体となる旨を明らかにしている。そうであれば、ログインに係るタイムスタンプが開示の対象とならないのと同様に、ログインの際のIPアドレスについてのみ開示の対象となることは無意味であり、かつ不自然であるから、省令5号は、侵害情報発信時のIPアドレスのみを対象としていると解される。 したがって、ログイン時のIPアドレスに対する発信者情報開示請求も認められない。 ウ 最新ログイン時のIPアドレス等は「権利の侵害に係る発信者情報」に該当しないこと ログイン情報が「権利の侵害に係る発信者情報」に該当する場合があり得るとしても、本件において原告が開示を求める最新ログイン時のIPアドレス等は、開示の対象となる情報ではない。 本件各投稿がされたのは、令和2年11月12日(本件投稿1)、同月7日(本件投稿2)、同年12月18日(本件投稿3、4)及び令和3年3月7日(本件投稿5)であるところ、原告が開示を求める被告が保有するもの全てのログイン時のIPアドレス等は、上記の年月日にされた本件各投稿とは何らの関連性がないものが大半である。特に、最新ログイン時のIPアドレス等は、侵害情報の投稿時から最も離れた時点での情報であり、侵害情報投稿行為との関連性が最も希薄であるといわざるを得ず、省令5号及び8号の文言にも該当せず、発信者情報開示の対象とはならない。 また、本件ログイン情報に本件各投稿の直前のログイン行為に関するIPアドレス等があるとしても、発信者が当該ログイン行為によるログイン状態を利用して本件各投稿をしたかは特定できず、また、そのような経験則も認められないのであるから、本件各投稿の直前のログイン行為に関するIPアドレス等も、開示の対象とはならない。 以上から、本件ログイン時IPアドレス等は、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらない。 (2)争点2(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無) 〔原告の主張〕 原告は、本件各投稿を行った発信者に対して、不法行為に基づく損害賠償等の請求をする予定であるが、この権利を行使するためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要がある。 〔被告の主張〕 原告に本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるかどうかは、不知である。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件ログイン時IPアドレス等の「権利の侵害に係る発信者情報」(法4条1項)該当性)について (1)原告が本件において開示を求める本件発信者情報は、本件各投稿に利用された本件各アカウントを保有する者の電話番号及び電子メールアドレスのほか、本件各アカウントにログインした際に割り当てられたIPアドレス及びそのタイムスタンプに係る情報であり、原告の本件各写真に係る公衆送信権侵害行為を構成する情報の送信時に割り当てられたIPアドレス及びそのタイムスタンプではない。そこで、本件ログイン時IPアドレス等のようなログインする際に割り当てられたIPアドレス及びそれが割り当てられたタイムスタンプが、法4条1項所定の「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するかが問題となる。 (2)法4条1項は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者が開示関係役務提供者に対して開示を請求することのできる情報として、「権利の侵害に係る発信者情報」と規定しており、権利侵害行為そのものに使用された発信者情報に限定した規定ではなく、「係る」という、関係するという意義の文言が用いられていることからしても、「権利の侵害に係る発信者情報」は、権利侵害行為に関係する情報を含むと解するのが相当である。そして、法4条の趣旨は、特定電気通信(法2条1号)による情報の流通には、これにより他人の権利の侵害が容易に行われ、その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し、匿名で情報の発信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという、他の情報流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解され(最高裁平成22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁参照)、かかる趣旨からすると、権利侵害行為そのものの送信時点ではなく、その前後に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報であっても、それが当該侵害情報の発信者のものと認められる場合には、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たると解すべきである。 被告は、ログイン行為と侵害情報そのもの送信行為とは全く異なる性質のものであること等を理由に、法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」には、ログイン時のIPアドレス等を含まないと主張する。 しかし、ログイン時のIPアドレス等であっても、当該ログインが侵害情報の発信者のものと認められる場合には、当該ログイン時のIPアドレス等は侵害情報の送信行為との関連性を有するということができ、したがって、当該ログインに係るIPアドレス等も法4条1項所定の発信者情報に当たるといえるのであるから、被告の上記主張は採用することができない。 また、被告は、法4条1項の委任を受けた省令8号が「侵害情報が送信された年月日及び時刻」と規定していることやログイン情報の送信が1対1の電気通信であって、「特定電気通信」(法2条1号)に該当しないことからすると、ログイン時のタイムスタンプは開示が認められる発信者情報に該当せず、また、省令5号は省令8号と整合的に解釈すべきであるから、省令5号にいうIPアドレスも侵害情報の送信時に割り当てられたIPアドレスのみをいうのであって、ログイン時に割り当てられたIPアドレスを含まないとも主張する。 しかし、省令5号及び8号に開示の対象となる発信者情報の特定を委任した法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」は、権利侵害行為そのものの送信時点ではなく、その前後に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報であっても、それが当該侵害情報の発信者のものと認められるものをも含むと解することができることは前記説示のとおりである。また、省令5号は、法4条1項所定の発信者情報に該当するIPアドレスにつき、「侵害情報に係る」と規定しており、侵害情報の送信の際に割り当てられたIPアドレスに限定する規定ぶりとはなっていないことからすれば、ログインの際に割り当てられたIPアドレスも「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」に該当するというべきである。そして、IPアドレスの開示を受けるだけでは発信者を特定することが不可能ないし極めて困難であって、発信者の特定には、当該IPアドレスを割り当てられた年月日及び時刻(タイムスタンプ)を必要とすることからすれば、省令8号の規定するタイムスタンプは、ログインの際のIPアドレスが割り当てられた電気通信設備からのログイン情報の発信時のものを含むと解するのが相当であるというべきであって、被告の上記主張は採用することができない。また、本件各投稿は不特定の者の投稿・閲覧が認められるツイッター上にされたものであり、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信といえることに照らし、「特定電気通信」該当性を否定する被告の上記主張も採用の限りではない。 (3)続いて、本件ログイン時IPアドレス等から把握される発信者情報が本件各投稿の発信者のものと認められるかどうかを検討する。 弁論の全趣旨によれば、被告が提供するツイッターを利用するには、まず、アカウントを作成する必要があり、アカウントの作成には、ユーザID及びパスワードの設定が必要となること、ツイッターを利用する際は、ユーザID及びパスワードを入力して当該アカウントにログインすることが必要であり、当該アカウントの管理者はスマートフォン等の各種デバイスを利用してツイッターにログインして当該アカウントにツイート(投稿)していることが認められる。このようなツイッターの仕組みを踏まえると、法人や団体においてその営業や事業に利用する場合を除き、複数人が共有して特定のアカウントを利用する可能性は極めて乏しく、また、本件において複数人が本件各アカウントを共有して使用していることをうかがわせる事情は見当たらない。そうすると、本件各アカウントはそれぞれ特定の個人が利用していたものであるというべきであり、本件各アカウントにそれぞれログインした者と本件各投稿の各発信者とは同一の者であると認められ、本件IPアドレス等から把握される発信者情報が本件各投稿の発信者のものということができる。 被告は、本件各投稿がされる前のログイン情報もさることながら、本件各投稿がされた後の情報であって、本判決確定の時点で被告が保有する本件各アカウントへのログインの際のIPアドレス等から把握される情報(最新ログイン時の情報)までをも「権利の侵害に係る発信者情報」ということはできないと主張する。 しかし、前記認定したツイッターの仕組みからすれば、本件各投稿を本件各アカウントの設定者がこれを第三者に譲渡したことがうかがわれるなどの特段の事情のない限り、本件各投稿と開示を求めるログイン時の情報との前後関係、その時間的間隔の程度等を考慮することなく、本件各アカウントにログインした際のIPアドレス等は、本件各投稿による権利の侵害に係る発信者の特定に資する情報に該当するというべきであるところ、本件全証拠に照らしても、上記特段の事情の存在はうかがわれない。 以上からすると、本件各アカウントにログインした際のIPアドレス等の情報は、最新のログインの時のIPアドレス等も「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるというべきである。 そして、被告は、原告の著作権を侵害する本件各投稿に係る侵害情報の発信者と同一の者によるものと認められる各通信を媒介し、その際に割り当てられた本件ログイン時IPアドレス等を保有する特定電気通信役務提供者であるから「開示関係役務提供者」に当たるということができる。 2 争点2(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について 前記前提となる事実のとおり、本件各投稿により、原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたものであることが認められ、原告は、本件各投稿に係る発信者に対して損害賠償等の請求をする予定であることが認められるから、本件ログイン時IPアドレス等並びに本件各アカウントに係る電話番号(本件アカウント1及び4に係るものは除く。)及び電子メールアドレス(本件発信者情報)の開示を受けるべき正当な理由があるといえる。 3 文書提出命令の申立てについて 原告は、本件ログイン時IPアドレス等が法4条1項所定の権利の侵害に係る発信者情報に該当することを証明するために、被告が保有する本件各アカウントの開設時以降に本件各アカウントにログインした際のIPアドレス等を含むアクセスログの文書提出命令の申立て(当庁令和3年(モ)第3128号)をしているが、前記1において説示したところに照らすと、上記アクセスログについて証拠調べの必要性が認められず、これを却下する。 第4結論 以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 田中孝一 裁判官 小口五大 裁判官 鈴木美智子 発信者情報目録 第1 ログイン情報
(別紙アカウント目録省略) (別紙投稿記事目録省略) (別紙写真目録省略) |
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