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【事件名】ツイッターへの発信者情報開示請求事件E
【年月日】令和3年12月23日
 東京地裁 令和2年(ワ)第19617号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年11月8日)

判決
 当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨。
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、原告が、氏名不詳者がツイッターのアカウントのプロフィール画像としてアップロードした画像は、原告が撮影・加工したオリジナル画像を改変したものであり、同アップロードによって原告の著作権(公衆送信権)又は著作者人格権(同一性保持権)が侵害されたことが明らかであると主張して、ツイッターを運営する被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、同アカウントに係る別紙発信者情報目録記載の電子メールアドレス及び電話番号(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
2 前提事実(証拠等の掲示のない事実は、当事者間に争いがない。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む。)
(1)当事者
ア 原告
 原告は、山岳写真を専門とするネイチャーフォトグラファーとして活動する者である。(甲1、7)
イ 被告
 被告は、インターネットで閲覧可能なウェブサイト「ツイッター」を設置・運営し、そのシステムを管理している会社である。
(2)本件オリジナル画像の作成
 原告は、平成25年10月10日、自宅で、登山用の衣服を着用し、登山用ロープを身に纏い、右手に一眼レフカメラを持ち、左手及び衣服で顔を隠した状態の自分の姿をカメラで撮影して画像を作成し、同画像に画像編集ソフトで背景を変更するなどの加工を施して、別紙著作物目録記載の画像(以下「本件オリジナル画像」という。)を作成し、原告がツイッターで利用していたアカウントのプロフィール画像としてアップロードした。(甲3、6、7、9、10)
(3)本件画像の投稿
 氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)は、令和2年4月13日までに、本件オリジナル画像の原告の顔の部分に1体のキャラクターのイラスト及び「ボク、わかんない。」という文字を合成した別紙投稿画像目録記載の画像(以下「本件画像」という。)を作成し、ツイッターの別紙発信者情報目録記載のユーザー名のアカウント(以下「本件アカウント」という。)のプロフィール画像としてアップロードした(以下「本件アップロード」という。)。(甲3、4、5)
(4)本件発信者情報の保有等
 被告は、本件アップロードに関してプロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に当たり、本件発信者情報を保有している。
(5)本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由
 原告は、本件発信者に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を行使することを予定しており、そのためには、本件発信者を特定する必要があるため、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
 (被告はこの点を争うが、原告において上記のような正当な理由があることについては弁論の全趣旨により容易に認められる。)
(6)省令の改正
 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令(平成14年総務省令第57号)は、令和2年総務省令第82号(令和2年8月31日公布、施行)により改正され、プロバイダ責任制限法4条1項が規定する「侵害情報の発信者の特定に資する情報」として開示が認められる情報として、「発信者の電話番号」(3号)を加える旨の改正(以下「本件改正」といい、本件改正後の同省令を「本件改正後の省令」という。)がされた。
3 争点
(1)権利侵害が明らかであるか(争点1)
【原告の主張】
ア 公衆送信権の侵害について
 本件アップロードによって、本件画像は、本件アカウントのプロフィール画像としてのみならず、本件発信者が本件アカウント上に記事を投稿する都度、当該記事の左上部分に貼付され自動公衆送信されるに至った。本件画像は本件オリジナル画像の複製であるため、本件アップロードによって本件オリジナル画像の公衆送信権が侵害されたことは明らかである。
イ 同一性保持権の侵害について
 本件発信者は、本件オリジナル画像にキャラクターを重ね合わせる等の改変を加えて、本件オリジナル画像に係る原告の著作者人格権(同一性保持権)を侵害した。
【被告の主張】
ア 公衆送信権の侵害について
 本件オリジナル画像は、「原告が、山に登って自然の写真を撮影する活動をしている者である」ということを創作的に表現しているアイコン用の画像であると推察されるところ、本件画像においては、原告の顔の部分に「うさまる」のイラストが重ねられているのだから、本件オリジナル画像の表現の本質部分が失われるに至っている。
 したがって、本件アップロードによって本件オリジナル画像の公衆送信権侵害は成立しない。
イ 同一性保持権の侵害について
 争う。
(2)同一性保持権の侵害は「侵害情報の流通によって」生じたものか(争点2)
【原告の主張】
 画像データの流通は、「侵害情報の流通によって」生じたものといえる。
【被告の主張】
 仮に、改変行為による同一性保持権の侵害が認められるとしても、アカウントの保有者が改変後の画像をツイッターのサーバにアップロードする行為やアップロードされた改変後の画像がツイッターのサーバから一般ユーザーに対して配信されることによって同一性保持権が侵害されるものではないから、同一性保持権は、侵害情報それ自体の流通によって直接権利が侵害されるという関係にない。
 したがって、同一性保持権については、「侵害情報の流通によって」権利が侵害されたとの要件を満たさない。
(3)発信者の電話番号が開示請求の対象となるか(争点3)
【原告の主張】
ア 本件画像は、現在も、本件アカウントのプロフィールアイコンとして使用されており、これにより、原告の公衆送信権は、時々刻々、侵害されている。また、プロバイダにプロバイダ責任制限法4条1項に基づく具体的な開示義務が生じるのは、発信者情報開示請求が行われた時点である。
 したがって、本件口頭弁論終結時に有効な本件改正後の省令が適用されるべきであり、発信者の電話番号は開示請求の対象となる。
イ 仮に、本件改正後の省令が適用されないとしても、発信者の電話番号は、SMSメールアドレスとして、本件改正前の省令3号の「電子メールアドレス」に該当するため、開示請求の対象となる。
【被告の主張】
ア プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求権は、権利侵害情報の記録、入力という積極的な行為に基づき発生するものであるから、その発生時期は、上記積極的な行為が行われた時点である。
 また、同法に基づく発信者情報開示請求権は、同法によって創設的に定められたものであり、電話番号も、本件改正によって新たにその開示請求が認められることとなったものである。
 そして、本件改正について、経過規定その他省令改正を施行日前の事案に適用する旨の規定は一切存在せず、本件改正時の議論において、遡及適用の可否が議論された形跡も全くない。そうである以上、本件改正後の省令を遡及適用することはできないというのが一般的な法制実務から導かれる当然の帰結である。
 実質的にみても、電話番号は、電話番号の保有者に対して通話を発信できる情報であり、悪用可能性が極めて高い情報であるから、発信者のプライバシーに対する影響は、氏名及び住所よりも電話番号の方が格段に大きい。そのため、本件改正前の発信者の行為に本件改正後の省令を適用して電話番号の開示を認めることは、発信者本人にも予測不可能な権利侵害を与えることになり、社会生活の安定性自体を害する。このような観点からも、省令改正の遡及適用を認めることは不当である。
 したがって、発信者の電話番号は開示請求の対象とならない。
イ 省令の立法者である総務省がパブリックコメント回答において公式見解として電話番号を発信者情報開示請求の対象としないことを明確に述べていること、省令は発信者情報として開示請求の対象となり得る情報のうち必要最小限の情報のみを限定列挙したものであること、平成14年当時、プロバイダ責任制限法3条の2及び公職選挙法142条の3は存在せず、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律2条3号の「電子メールアドレス」に携帯電話番号は含まれていなかったこと、一般的な語法として「電子メール」及び「電子メールアドレス」にSMS及び携帯電話番号が含まれるものではないことからすれば、平成14年当時の解釈論として、SMS及び携帯電話番号は省令3号の「電子メール」及び「電子メールアドレス」に該当しないものと解される。したがって、本件改正後の省令4号の解釈論としても、SMS及び携帯電話番号は同省令4号の「電子メール」及び「電子メールアドレス」に該当しないものと解される。
 したがって、発信者の電話番号は開示請求の対象とならない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(権利侵害が明らかであるか)について
前記第2の2(2)に照らせば、原告は、その個性を発揮して作成し創作性を有する本件オリジナル画像を作成した著作者として、本件オリジナル画像に係る著作権(公衆送信権)を有するものと認められる。
 しかるに、証拠(甲4)によれば、本件画像は、本件オリジナル画像の原告の顔の部分(画像全体の面積の8分の1程度の部分)に1体のキャラクターのイラスト及び「ボク、わかんない。」という文字を合成したものにすぎず、それ以外の大部分が本件オリジナル画像と全く同一であり、本件オリジナル画像で特徴的に表現されている原告の姿勢、背景、構図等を明確に覚知することができる。そうすると、本件アップロードは、本件画像のみならず、本件オリジナル画像を公衆送信した行為とも評価することができるというべきである。
 したがって、原告の著作権法28条に基づく権利について検討するまでもなく、本件アップロードによって本件オリジナル画像の公衆送信権が侵害されたことは明らかであると認められる。
 これに対し、被告は、本件画像においては本件オリジナル画像の表現の本質的特徴が失われているなどの旨を主張するが、同主張を、本件画像は本件オリジナル画像と別個の著作物となるに至っている旨の主張と善解するとしても、本件画像は、上記のとおり、その大部分が本件オリジナル画像と全く同一である以上、両者を別個の著作物と評価することはできない。被告の上記主張は、採用できない。
2 争点3(発信者の電話番号が開示請求の対象となるか)について
 原告は、発信者の電話番号が開示請求の対象となると主張し、被告はこれを否定するので、以下検討する。
 プロバイダ責任制限法4条1項による発信者情報開示請求権は、侵害情報の流通がされた時に発生すると解されるが、請求権者による同請求権の行使により開示関係役務提供者が開示義務を負うべき発信者情報の内容は、同請求権の行使の時点で施行されている法令において定められたところに従って決せられると解するのが相当である。
 本件においては、発信者が本件アップロードをしたのは遅くとも令和2年4月13日であって、その時点では、本件改正後の省令は公布・施行されていなかったものの、原告が本件においてプロバイダ責任制限法4条1項による発信者情報開示請求権を行使した時点では、本件改正後の省令は施行されているのであるから、本件において被告が開示義務を負うべき発信者情報の範囲は、本件改正後の省令に基づいて決せられる。そうすると、本件においては、発信者の電話番号は開示請求の対象となるというべきである(なお、発信者の電子メールアドレスについては、本件改正後の省令4号に該当するものとして開示請求の対象となる。)。
 被告は、本件において電話番号を開示請求の対象とすることは、法制実務上通常認められない法令の遡及適用を認めることになり相当ではないなどと主張するが、上記説示したところによれば、本件改正後の省令の遡及適用の問題は生じることはなく、被告の上記主張は採用の限りではない。
3 結論
 以上によれば、本件請求に関しては、その余の争点について検討するまでもなく、プロバイダ責任制限法4条1項所定の要件を全て充足すると認められる。
 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 田中孝一
 裁判官 鈴木美智子
 裁判官 稲垣雄大


別紙 当事者目録
原告 A
同訴訟代理人弁護士 田中一哉
被告 ツイッターインク
同訴訟代理人弁護士 中島徹
同 上田一郎
同 平津慎副
同 細川智史
同 清水美彩惠
同 中所昌司
同 安藤裕実
同 相澤亮
同 小宮慶久
同 何彦徴
同 森脇和聡
同 大岩祐貴
同 椎名紗彩
同 秋山円
同 犬飼貴之
同 山本ゆり
同 吉田燎平
同 五十嵐紀史
同 大野真梨子
同 尾形夏子
同 中村彰男
同 堀川達流
同 松岡亮伍
同 水野幸大

別紙 発信者情報目録
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1 電子メールアドレス
2 電話番号

(別紙著作物目録省略)
(別紙投稿画像目録省略)
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