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【事件名】無断掲載写真の“損害賠償額”事件
【年月日】令和3年12月23日
 東京地裁 令和3年(ワ)第6692号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年10月26日)

判決
原告 株式会社A(以下「原告会社」という。)
原告 B(以下「原告B」という。)
上記両名訴訟代理人弁護士 笠木貴裕
被告 C
同訴訟代理人弁護士 中野友貴


主文
1 被告は、原告会社に対し、11万円及びこれに対する令和2年7月29日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告Bに対し、5万5000円及びこれに対する令和2年7月29日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は、原告会社に生じた費用の10分の1と原告Bに生じた費用の3分の1と被告に生じた費用の60分の7を被告の負担とし、原告会社に生じたその余の費用と被告に生じた費用の5分の4を原告会社の負担とし、原告Bに生じたその余の費用と被告に生じたその余の費用を原告Bの負担とする。
5 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告会社に対し、128万7000円及びこれに対する令和2年7月29日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告Bに対し、16万5000円及びこれに対する令和2年7月29日から支払済みまで年3分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告会社及びその代表者である原告Bが、被告の管理するウェブサイトに原告Bが撮影した写真が掲載され、原告会社の著作権(複製権、公衆送信権(送信可能化権を含む。))及び原告Bの著作者人格権(氏名表示権)が侵害された旨を主張して、(1)原告会社が、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償金128万7000円及びこれに対する令和2年7月29日(被告が上記写真を掲載していた期間の最終日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求め、(2)原告Bが、被告に対し、不法行為に基づき、損害賠償金16万5000円及び令和2年7月29日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、末尾の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実。証拠番号の枝番は省略する(以下同様)。)
(1)当事者
 原告Bは、フリーランスカメラマンとして活動してきた写真家であり、写真業等を目的とする株式会社である原告会社を設立し、その代表取締役を務めている。
 被告は、ウェブサイト「(ウェブサイト名は省略)」(以下「被告ウェブサイト」という。)を管理している。
(2)原告Bの撮影した写真について
 原告Bは、平成27年8月より以前に、別紙著作物目録記載の写真(以下「本件写真という。)を撮影し、同月頃、原告会社に対し、本件写真の著作権を譲渡した。原告会社は、同月17日、その管理するウェブサイトにおいて本件写真を掲載した(甲2)。
(3)本件訴訟に至る経緯
 被告は、平成29年5月9日から令和2年7月29日まで、原告らに無断で、被告ウェブサイト上に、別紙被告写真目録記載の写真(以下「被告写真」という。)を掲載して公開したが、その際原告Bの氏名を表示しなかった(甲3)。
 原告らは、令和2年11月18日、被告に対し、内容証明郵便により損害賠償請求をしたが、被告からの応答がなかったため、本件訴訟を提起した。
2 本件の主たる争点は、原告らの損害及びその額であり、これに関する当事者の主張は次のとおりである。
(原告らの主張)
(1)原告会社の損害及びその額
 原告会社は、被告による著作権侵害により、次の損害を被った。
ア 著作権侵害に基づく損害額117万円
 原告会社は、原告Bが撮影した写真について、1枚当たり月額3万円を目安にライセンスしている。被告は、平成29年5月9日から令和2年7月29日までの39か月間、被告ウェブサイト上に、本件写真の複製物である被告写真を掲載、公開して原告会社の著作権(複製権、公衆送信権(送信可能化権を含む。))を侵害しており、これに因る原告会社の損害額は上記月額3万円に39か月を乗じた額である117万円を下らない(著作権法114条3項)。
イ 弁護士費用11万7000円
(2)原告Bの損害及びその額
 原告Bは、被告による著作者人格権侵害により、次の損害を被った。
ア 著作者人格権侵害に基づく損害額15万円原告Bが著作者人格権(氏名表示権)侵害により被った精神的苦痛を慰謝するための金額は、その行為態様及び交渉経緯に鑑みれば、15万円を下らない。
イ 弁護士費用1万5000円
(被告の主張)
 原告らの主張は、いずれも否認ないし争う。
 原告ら提出の各請求書(甲4、5)は、いずれも撮影業務、レタッチ業務等に対する対価を含むものであり、この金額がそのまま使用許諾に対する対価であるとはいえず、原告会社のライセンス実績として適切な資料ではない。
 原告ら提出の各請求書(甲6)は、テレビ番組での使用に係る使用料であり、他の媒体に比して高い金額設定がされているから、本件の場合にそのまま適用すべきものではない。また、原告会社のテレビ番組での使用料は、協同組合日本写真家ユニオン作成の使用料規程(乙1。以下「本件規程」という。)の第2章第3節「放送・有線放送」と同程度又は60%程度であり、本件における原告会社のライセンス料は、本件規程の第2章第4節「インタラクティブ配信」に基づき算定すべきである。
 本件規程によれば、使用期間が12か月を超えるときは、次年度より1か月分の使用料で使用できることから、39か月分のライセンス料は5万5000円(=2万5000円(12か月分)+3万円(3か月分))となる。
 著作権法114条3項の趣旨を踏まえ、「侵害し得」を回避する必要があるとしても、原告会社の損害額は8万2500円(5万5000円の1.5倍)を上回るものではない。
第3 当裁判所の判断
1 著作権(複製権、公衆送信権(送信可能化権を含む。))侵害、著作者人格権(氏名表示権)侵害による損害賠償請求権について
(1)本件写真の著作物性、著作権の帰属
 本件写真は、別紙著作物目録記載のとおりのものであり、弁論の全趣旨によれば、職業写真家である原告Bにより撮影されたものであると認められ、被写体につき構図や撮影角度、被写体との距離、シャッターチャンスの捕捉、被写体と光線との関係等について原告Bの個性・独自性が表れているといえ、「写真の著作物」(著作権法10条1項8号)に該当すると認められる。そうすると、原告Bは、本件写真の著作権者として、その著作権(複製権、公衆送信権(送信可能化権を含む。))及び著作者人格権(氏名表示権)を有していたといえる。
 そして、前記前提事実によれば、原告Bは、平成27年8月頃、原告会社に対し、本件写真の著作権(複製権、公衆送信権(送信可能化権を含む。))を譲渡したから、原告会社は、本件写真の著作権(複製権、公衆送信権(送信可能化権を含む。))を有するものと認められる。
(2)被告による著作権(複製権、公衆送信権(送信可能化権を含む。))侵害、著作者人格権(氏名表示権)侵害
 前記前提事実及び証拠(甲2、3)並びに弁論の全趣旨によれば、被告が、平成29年5月9日から令和2年7月29日まで、原告らに無断で、被告ウェブサイト上に、本件写真の複製物である被告写真を掲載して公開したが、その際原告Bの氏名を表示しなかったことが認められる。これによれば、被告が、上記の行為によって、原告会社の本件写真に係る著作権(複製権(著作権法21条)、公衆送信権(送信可能化権を含む。著作権法23条))を侵害するとともに、原告Bの著作者人格権(氏名表示権。著作権法19条1項)を侵害したものと認めるのが相当である。
(3)被告の故意又は過失
 被告が被告ウェブサイト上に被告写真を掲載、公開して原告会社の著作権(複製権、公衆送信権(送信可能化権を含む。))を侵害し、原告Bの著作者人格権(氏名表示権)を侵害したことにつき、被告に少なくとも過失があることについては、当事者間に争いがない(弁論の全趣旨によっても認められる。)。
(4)小括
 以上によれば、原告会社が、被告に対し、不法行為(著作権侵害行為)に基づく損害賠償請求権を有すること、原告Bが、被告に対し、不法行為(著作者人格権侵害行為)に基づく損害賠償請求権を有することが認められる。
2 争点(原告らの損害及びその額)に対する判断
(1)著作権(複製権、公衆送信権(送信可能化権を含む。))侵害について
ア 証拠(乙1)によれば、協同組合日本写真家ユニオン作成の使用料規程である本件規程は、同組合が管理の委託を受けた写真の著作物の利用にかかわる使用料を定めるものであり、一般利用目的(宣伝広告を目的とせず、記事と共に、事柄を説明するために写真の著作物を利用する場合)でウェブページの最初のページ以降のページに写真を掲載する使用料は、12か月以内で2万5000円、1年を超える場合の次年度以降の使用料は1年当たり1万円とされていることが認められる。
 原告Bは写真撮影を業とするカメラマンであり、本件写真は、原告Bが、業務により作成したものといえる。そうすると、原告会社が本件写真の著作権の行使につき受けるべき金銭の額に相当する額(著作権法114条3項)の算定に当たっては、本件規程の内容を参酌するのが相当である。そして、本件規程の内容に加えて、被告が平成29年5月9日から令和2年7月29日までの約39か月間という長期間にわたり、本件規程(許諾があることを前提に1年を超える場合の次年度以降の使用料を低額にしているものと解される。)の本来的適用場面とは異なり、著作権者に無断で被告写真を掲載、公開していたことその他の被告写真の使用態様、本件訴訟の経過等に鑑みれば、原告会社が本件写真の複製、公衆送信等につき受けるべき金銭の額(著作権法114条3項)は、10万円と認めるのが相当である。
イ 原告らの主張について
(ア)原告らは、写真1枚当たり、月額3万円を目安にライセンスしていると主張し、原告会社の取引先に対する各請求書(甲4ないし6)を提出する。
 しかし、甲4、5の各請求書には、「撮影料」との品名で金額の記載があるにとどまり、その他にライセンス料(使用料)やライセンス期間をうかがわせる記載はない。原告会社が撮影の依頼を受けた場合、原告Bは、撮影の準備、撮影、データ作成(レタッチ等)の各業務を行っていること(争いがない)、同時期に作成された、撮影を伴わない写真の使用に関する複数の請求書(甲6)においては、例外なく、「写真使用料」との品名が用いられており、「撮影料」との品名とは区別して使用されていること等の事情も併せ考慮すると、「撮影料」記載の金額全額が、原告会社のライセンス料(使用料)を意味するものであるとは認め難い。また、上記のとおり、ライセンス期間の記載もないことからすると、当該写真がカレンダーや季刊誌に使用されたという事情を考慮しても、「撮影料」記載の金額から直ちに原告会社の月額のライセンス料(使用料)を認定することも困難であるといわざるをえない。
 また、甲6の各請求書は、テレビ放送に使用された写真の使用料に関するものであり、写真が使用された媒体や使用形態が本件とは大きく異なるものといえ、協同組合日本写真家ユニオン作成の本件規程(乙1)においても、テレビ放送された場合とコンピュータネットワーク上に配信された場合とで、使用料を区別して定めている。
 そうすると、原告ら提出の各請求書(甲4ないし6)により、原告会社が写真1枚当たり月額3万円でライセンスしていることを認めるには足りず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
 したがって、原告らの上記主張は採用できない。
(イ)原告らは、仮に本件規程を参照するとしても、本件規程の商用広告利用の写真の使用料を考慮して損害額を算定すべきであると主張する。
 しかし、本件規程の「商用広告利用」とは、「写真に写された物品等を宣伝するために広告として利用する場合」をいうとされている(本件規程の第1章第3条)ところ、被告写真は、被告の管理する被告ウェブサイトにおいて、日本生命のCMに出演している女性が、女優のDに似ていて、誰なのか気になるが、調べてみると女優のEであったという趣旨の文章に添える形で掲載されたものである(甲3)。そうすると、被告写真については、写真に写された物品等を宣伝するために広告として掲載されたものとはいえず、このような写真の使用は、上記「商用広告利用」には当たるとはいえない。
 したがって、原告らの上記主張は採用できない。
(2)著作者人格権(氏名表示権)侵害について
 被告による氏名表示権侵害の態様やその他本件に現れた一切の事情を考慮すれば、氏名表示権侵害によって原告Bに生じた慰謝料としては5万円と認めるのが相当である。
(3)弁護士費用について
 本件事案の性質・内容、本件訴訟に至る経過、本件審理の経過等諸般の事情に鑑みれば、被告の著作権侵害行為及び著作者人格権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、原告会社につき1万円、原告Bにつき5000円と認めるのが相当である。
3 結論
 以上によれば、原告会社の請求は、損害賠償金11万円及びこれに対する不法行為の後の日である令和2年7月29日(被告が上記写真を掲載していた期間の最終日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、原告Bの請求は、損害賠償金5万5000円及びこれに対する不法行為の後の日である令和2年7月29日(前同日)から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、それぞれ理由があるからこれらを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 田中孝一
 裁判官 小口五大
 裁判官 稲垣雄大


(別紙著作物目録省略)
(別紙被告写真目録省略)
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