判例全文 line
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【事件名】ツイッターへの発信者情報開示請求事件C
【年月日】令和3年12月23日
 東京地裁 令和2年(ワ)第24492号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年9月22日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 田中圭祐
同訴訟復代理人弁護士 蓮池純
被告 ツイッターインク
同訴訟代理人弁護士 中所昌司
同森 脇和聡


主文
1 被告は、原告に対し、別紙投稿記事目録1のユーザー名欄記載のアカウントについて、同目録記載1の投稿以前の同アカウントへのログインのうち、令和2年4月3日午前零時(日本標準時)以降のもので最も新しいもののIPアドレス並びに同IPアドレスが割り当てられた電気通信設備から被告の用いる特定電気通信設備に上記ログインに関する情報が送信された年月日及び時刻を開示せよ。
2 被告は、原告に対し、別紙投稿記事目録1のユーザー名欄記載のアカウントについて、同目録記載2の投稿以前の同アカウントへのログインのうち、令和2年4月3日午前零時(日本標準時)以降のもので最も新しいもののIPアドレス並びに同IPアドレスが割り当てられた電気通信設備から被告の用いる特定電気通信設備に上記ログインに関する情報が送信された年月日及び時刻を開示せよ。
3 被告は、原告に対し、別紙投稿記事目録2のユーザー名欄記載のアカウントについて、同目録記載1の投稿以前の同アカウントへのログインのうち、令和2年4月3日午前零時(日本標準時)以降のもので最も新しいもののIPアドレス並びに同IPアドレスが割り当てられた電気通信設備から被告の用いる特定電気通信設備に上記ログインに関する情報が送信された年月日及び時刻を開示せよ。
4 被告は、原告に対し、別紙投稿記事目録2のユーザー名欄記載のアカウントについて、同目録記載2の投稿以前の同アカウントへのログインのうち、令和2年4月3日午前零時(日本標準時)以降のもので最も新しいもののIPアドレス並びに同IPアドレスが割り当てられた電気通信設備から被告の用いる特定電気通信設備に上記ログインに関する情報が送信された年月日及び時刻を開示せよ。
5 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載3(1)及び4の各情報を開示せよ。
6 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
7 訴訟費用は、これを4分し、その1を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。
8 被告のために、この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 請求
 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
第2 事案の概要等
1 事案の要旨
 本件は、原告が、ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれるメッセージ等を投稿することができる情報サービス)において、氏名不詳者により、原告の著作物である別紙原告イラスト目録記載の各イラストに別のイラストを重ね合わせるなどの加工を施して作成された別紙投稿画像目録記載の各画像を含む別紙投稿記事目録1及び別紙投稿記事目録2記載の各ツイートが無断で投稿されたことにより、上記各イラストに係る原告の著作権(複製権及び自動公衆送信権)及び著作者人格権(同一性保持権)が侵害され、原告の名誉が毀損され、かつ、原告の営業権が侵害されたことが明らかであると主張して、ツイッターを運営する被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。なお、別紙発信者情報目録記載3(1)の情報の開示請求と同記載3(2)の情報の開示請求は、選択的である(以下、令和2年総務省令第82号による改正後の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令を単に「省令」といい(ただし、改正後の省令であることを明確にするために「改正後の省令」と記載することがある。)、同改正前の特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令を「改正前省令」という。)。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲証拠(以下、書証番号は特記しない限り枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は、「B」というペンネームを用いて活動するイラストレーターであり、ツイッターを利用して、自身が作成したイラストを販売している(甲9、10)。
イ 被告は、ツイッターを運営し、そのシステムを管理する米国法人である。
(2)原告によるイラストの作成及び公表
 原告は、別紙原告イラスト目録記載の各イラストを作成し、公開した(以下、同目録記載1のイラストを「本件原告イラスト1」といい、その余の同目録のイラストも同様の例による。)。
 原告は、本件原告イラスト1ないし5の著作者であり、その著作権を保有する。
(3)氏名不詳者によるツイートの投稿
ア 別紙投稿記事目録1記載のとおり、ユーザー名を「C’」とするツイッターのアカウント(以下「本件アカウント1」という。)において、同目録の「投稿日時」欄記載の各日時(日本標準時)に、同目録の「投稿内容」欄記載のとおりの本文を有する同目録記載1及び2の各ツイートが投稿された(以下、前者を「本件ツイート1−1」、後者を「本件ツイート1−2」といい、これらのツイートを投稿した氏名不詳者を「本件投稿者1」という。)。
イ 別紙投稿記事目録2記載のとおり、ユーザー名を「D’」とするツイッターのアカウント(以下「本件アカウント2」といい、本件アカウント1と併せて「本件各アカウント」という。)において、同目録の「投稿日時」欄記載の各日時(日本標準時)に、同目録の「投稿内容」欄記載のとおりの本文を有する同目録記載1及び2の各ツイートが投稿された(以下、前者を「本件ツイート2−1」と、後者を「本件ツイート2−2」といい、これらのツイートを投稿した氏名不詳者を「本件投稿者2」という。さらに、本件ツイート1−1、1−2、2−1及び2−2を「本件各ツイート」と総称し、本件各ツイートの投稿を「本件各投稿」という。)。
ウ 本件各ツイートには、別紙投稿画像目録記載のとおりの各画像が含まれている(以下、同目録記載1(1)の画像を「本件投稿画像1−1−1」といい、その余の同目録の画像も同様の例による。)。また、本件各ツイートのタイムライン(個々のツイートが時系列順に表示されるページ)上での表示は、それぞれ別紙タイムライン表示目録記載のとおりである。
(4)被告による本件発信者情報の保有及び被告の「開示関係役務提供者」該当性等
 被告は、本件発信者情報を保有している(弁論の全趣旨)。
 また、被告は、本件各投稿に関して、「開示関係役務提供者」(プロバイダ責任制限法4条1項)に該当する。
3 争点
(1)本件各投稿により原告の権利が侵害されたことが明らかであるか(争点1)
ア 本件ツイート1−1の投稿による権利侵害の明白性(争点1−1)
イ 本件ツイート1−2の投稿による権利侵害の明白性(争点1−2)
ウ 本件ツイート2−1の投稿による権利侵害の明白性(争点1−3)
エ 本件ツイート2−2の投稿による権利侵害の明白性(争点1−4)
(2)本件発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法4条1項)に該当するか(争点2)
ア 別紙発信者情報目録記載1及び2のログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプが「当該権利の侵害に係る」発信者情報たる省令5号の「アイ・ピー・アドレス」及び省令8号の「侵害情報が送信された年月日」に該当するか(争点2−1)
イ 別紙発信者情報目録記載3(1)の電話番号が省令3号の「電話番号」に該当するか(争点2−2)
ウ 別紙発信者情報目録記載3(2)のショートメッセージサービス用の電子メールアドレスとしての電話番号(以下「SMS用電子メールアドレス」という。)が改正前省令3号の「電子メールアドレス」に該当するか(争点2−3)
(3)原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか(争点3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(本件各投稿により原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(1)争点1−1(本件ツイート1−1の投稿による権利侵害の明白性)について
(原告の主張)
ア 複製権及び自動公衆送信権侵害について
(ア)権利侵害の明白性
a 本件ツイート1−1には、原告が作成し、著作権を有する本件原告イラスト1と同一の画像である本件投稿画像1−1−4が添付されている。そして、本件ツイート1−1を投稿する行為により、必然的に、当該画像のデータが被告のサーバーにアップロードされ、当該サーバー上に当該データが有形的に再製されることとなるから、本件投稿者1が本件ツイート1−1を投稿する行為は本件原告イラスト1の「複製」(著作権法2条1項15号)に当たる。加えて、当該行為は、本件投稿画像1−1−4について、公衆によって直接受信されることを目的として、無線又は有線電気通信を行うもののうち、公衆からの求めに応じて自動的に行うものに該当するから、「自動公衆送信」(同項9号の4)に当たる。
b 本件ツイート1−1は、その本文の内容等を踏まえると、原告が、違法なトレースに及んだという事実を指摘するものと理解できるから、本件投稿者1が本件ツイート1−1において本件投稿画像1−1−1ないし1−1−4を添付した目的は、原告が違法なトレースに及んだという事実を指摘し、公表する点にあることがうかがわれる。
 しかし、トレースは、私的複製の範囲にとどまるなどの理由により、適法に行われる場合もあり、一概に違法であると断定することはできないし、そもそも、原告が他者のイラストをトレースして本件原告イラスト1を作成したことは事実ではない。そうすると、本件投稿者1は、著作権侵害の成否について慎重な検討を経ることなく、安易に、事実に反する内容をあたかも真実であるかのように記載した本件ツイート1−1を投稿したものといわざるを得ず、原告は、本件ツイート1−1を含む本件各ツイートの投稿によって、いわれもない盗作の疑いを掛けられ、誹謗中傷を受け、創作活動から身を引かざるを得なくなったという甚大な損害ないし不利益を被ったものである。そうすると、引用の目的は正当とはいえず、本件投稿画像1−1−2ないし1−1−4を掲載して、本件原告イラスト1を引用する必要性は認められない。また、これら画像をツイートに漫然と添付せずとも、本件原告イラスト1が掲載されたウェブサイトのリンクを掲載するなどの他の行為によることは容易であるから、このような観点からも、本件投稿者1が本件投稿画像1−1−4を掲載する必要性は乏しいものというべきである。そうすると、本件投稿画像1−1−4の掲載は、本件原告イラスト1の引用として「引用の目的上正当な範囲内で行なわれるもの」(著作権法32条1項)であるとは認められない。
 また、本件ツイート1−1では、本件原告イラスト1の複製物については出所の明示(著作権法48条1項)がされていないのに対し、比較対象とする画像については出所が明示されているなど、本件投稿者1は、自らの主張に不要な情報を切り捨てた上で、本件投稿画像1−1−1ないし1−1−4を一方的、独善的に添付しているのであって、このような態様による本件原告イラスト1の引用が「公正な慣行に合致するもの」とは認められない。
 以上によれば、本件投稿者1による本件ツイート1−1の投稿が「引用の目的上正当な範囲内で行なわれるもの」であるとも、「公正な慣行に合致するもの」であるともいえないから、著作権法32条1項による引用として適法とは認められない。
 加えて、本件ツイート1−1の投稿は、後記イのとおり、本件原告イラスト1に関する同一性保持権を侵害するものであるから、係る観点からも、著作権法32条1項による引用として適法とは認められない。
 その他、本件ツイート1−1の投稿について、原告による利用許諾等の違法性阻却事由は認められない。
c したがって、本件投稿者1が本件ツイート1−1を投稿したことにより、侵害情報の流通によって本件原告イラスト1に係る原告の複製権及び自動公衆送信権が侵害されたことが明らかであると認められる。
(イ)被告の主張について
 被告は、本件ツイート1−1を投稿する目的は「批評」(著作権法32条1項)に該当するか、これに該当しないとしても引用の目的として正当であると主張する。しかし、前記(ア)bのとおり、引用の目的が正当とは認められない。
 また、被告は、本件ツイート1−1に本件投稿画像1−1−4を添付することが引用として適法であることの根拠として、トレースの疑いを指摘し、検証するために、イラストと比較対象である画像を引用したり、両者を重ね合わせた画像を引用したりすることが広く行われていることを挙げるが、そのような事実は認められない。
 このように、被告の主張は、前提を欠くものであって、理由がない。
(ウ)小括
 以上によれば、本件投稿者1が本件ツイート1−1を投稿したことにより、侵害情報の流通によって原告の複製権及び自動公衆送信権が侵害されたことが明らかであると認められる。
イ 同一性保持権侵害について
(ア)本件ツイート1−1には、原告に無断で、原告が著作者人格権を有する本件原告イラスト1に他のイラストレーターの作品を重ね合わせて作成された本件投稿画像1−1−2及び1−1−3が添付されている。そして、本件ツイート1−1の投稿により、本件投稿画像1−1−2ないし1−1−4がトリミングされて、ツイッターのタイムライン上に表示されている。
 したがって、本件投稿者1が本件ツイート1−1を投稿する行為は、原告の意に反して、本件原告イラスト1を「改変」(著作権法20条1項)するものであるから、同イラストに係る原告の同一性保持権を侵害するものであり、当該権利侵害が「侵害情報の流通によって」(プロバイダ責任制限法4条1項1号)生じるものであることは明らかである。
(イ)また、著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」は、同号が同一性保持権侵害に関する例外規定であることに照らすと、同項1号ないし3号に掲げられた事由と同様の強度の必要性が認められる改変と解するべきである。そして、本件投稿者1が本件ツイート1−1を投稿する行為は、原告が違法なトレースに及んだという事実を軽率に指摘するものであるから、本件投稿画像1−1−2及び1−1−3は、本件原告イラスト1の「やむを得ないと認められる改変」には当たらないと認められる。
(ウ)したがって、本件投稿者1が本件ツイート1−1を投稿したことにより、侵害情報の流通によって原告の同一性保持権が侵害されたことが明らかであると認められる。
ウ 名誉毀損について
(ア)本件投稿者1は、本件ツイート1−1において、本件投稿画像1−1−1ないし1−1−4を添付した上、「ゆるーくトレス?普通にオリジナルで描いてもここまで比率が同じになるかな」と記載した本文を投稿して、原告が違法なトレースによって本件原告イラスト1を作成したとの事実を摘示している。本件投稿者1は、上記事実の摘示により、本件ツイート1−1を読んだ者に対し、本件原告イラスト1はトレースによって他者の著作権を侵害して作成されたものであり、原告は違法なトレースを行う人物であるとの印象を抱かせた。その結果、原告の社会的評価が低下し、よって、原告の名誉が毀損されたものである。
 そして、本件ツイート1−1が摘示する事実が公共の利害に関する事実であるとしても、本件投稿者1が専ら公益を図る目的で同ツイートを投稿したとは認められず、原告が、本件原告イラスト1を作成する際に他者の作品をトレースした事実はないから、摘示された事実は真実ではない。したがって、本件投稿者1が本件ツイート1−1を投稿した行為について、違法性は阻却されない。
 以上によれば、本件投稿者1が本件ツイート1−1を投稿したことにより、侵害情報の流通によって原告の名誉権が侵害されたことが明らかであると認められる。
(イ)被告は、本件ツイート1−1が本件投稿者1の意見ないし論評を表明するものであるという理解を前提とする主張をするが、前記(ア)のとおり、本件ツイート1−1では事実が摘示されているのであり、意見ないし論評を表明するものではないから、前提を欠いた主張である。
 仮に、本件ツイート1−1が、法的な見解を表明するものであり、意見ないし論評の表明に該当するとしても、同ツイートは、原告が第三者の作品を違法にトレースした旨の事実を前提にした意見ないし論評であると認められる。このように、本件ツイート1−1は、原告が違法にトレースした旨の事実の摘示を含む投稿であり、当該事実が原告の社会的評価を低下させるものである以上、その投稿が名誉毀損に該当することは明らかである。
(ウ)被告は、本件ツイート1−1が原告の社会的評価を低下させるとしても、本件投稿者1が同ツイートを投稿する行為について違法性が阻却されると主張する。しかし、前記(ア)のとおり、原告が、本件原告イラスト1を作成する際に他者の作品をトレースした事実はないから、摘示された事実の重要な部分における真実性は存在しないと認められる。
 したがって、本件投稿者1が同ツイートを投稿する行為について違法性は阻却されないと認められるから、被告の主張には理由がない。
エ 営業権侵害について
 原告は、イラストを作成して販売する活動をしているところ、本件投稿者1が本件ツイート1−1を投稿し、あたかも原告がトレースに及んだかのような事実が摘示されたことにより、原告のイラストレーターとしての評判が下落し、原告のイラストの価値が損なわれ、これらを購入する顧客が減少して、イラストの販売による原告の売上や収益が減少した。
 したがって、本件投稿者1が本件ツイート1−1を投稿したことにより、侵害情報の流通によって原告の営業権が侵害されたことが明らかであると認められる。
(被告の主張)
ア 複製権及び自動公衆送信権侵害について
(ア)本件ツイート1−1の目的
a 本件ツイート1−1の本文の内容及び添付された画像によれば、本件投稿者1が同ツイートに本件投稿画像1−1−2ないし1−1−4を添付した目的が、原告がトレースに及んだという疑惑について指摘し、検証を行うことにあることは明らかである。
 この点、原告が自己のイラストを販売するプロのイラストレーターであること、トレースは、第三者の著作権を侵害し、刑事罰の対象にもなり得るものであることに照らすと、本件ツイート1−1が摘示する事項は公共性及び公益性を有するものであるから、本件投稿画像1−1−2ないし1−1−4を添付した上記の目的は、「批評」(著作権法32条1項)に該当するものであるし、「批評」に該当しないとしても引用の目的として正当なものである。
b 原告は、本件投稿者1において、原告が違法なトレースに及んだという事実を軽率に摘示したと主張するが、本件投稿者1は、相当の根拠に基づいて本件ツイート1−1を投稿しているのであって、軽率に著作権侵害の疑惑を指摘したものではない。
 また、原告は違法なトレースをしていないと主張するが、後記ウのとおり、原告が作成した本件投稿画像1−1−4が他者のイラストと相当重なり合っていることなどに照らすと、原告が、他者のイラストを違法にトレースして本件原告イラスト1を作成したことが認められる。
 したがって、原告の主張はいずれも理由がない。
(イ)本件ツイート1−1における引用が公正な慣行に合致するものであること
a あるイラストがトレースにより作成されたかどうかを検証するためには、当該イラストと、比較対象となる画像を引用したり、両者を重ね合わせた画像を作成したりすることが必要である。仮に、こうした画像の利用が禁じられ、文章のみによってトレースの有無を議論しなければならないとすれば、客観的な根拠に基づく判断をすることができず、公正な議論が困難となる。
 この点、本件投稿者1は、上記目的のために、本件原告イラスト1と同一の画像である本件投稿画像1−1−4と、これに比較対象となる画像を重ね合わせた本件投稿画像1−1−2及び1−1−3を本件ツイート1−1に添付したものであるから、「公正な慣行に合致する」(著作権法32条1項)との要件を満たすというべきである。
b これに対し、原告は、出所の表示がないことを根拠に、「公正な慣行に合致する」との要件を満たさないと主張するが、出所の表示は引用の要件ではなく、出所の表示がなくとも、様々な事情を総合考慮した上で「公正な慣行に合致する」との要件が満たされることはあるから、出所の表示がないことの一事をもって当該要件が満たされないとする原告の主張には理由がない。
(ウ)本件ツイート1−1が引用の目的上正当な範囲内で行われたこと
a 本件原告イラスト1と同一の画像である本件投稿画像1−1−4を忠実に添付することは、前記(ア)aの目的を達成するために必要なことである。また、本件投稿画像1−1−2及び1−1−3は、単に本件原告イラスト1と比較対象となる画像を重ねたのみであって、それ以上の加工を加えたものではなく、トレースの有無を検証する上で必要かつ相当なものである。
 そうすると、本件投稿者1が、本件投稿画像1−1−2ないし1−1−4を添付した行為は、前記(ア)aの目的に照らし、「引用の目的上正当な範囲内」(著作権法32条1項)のものである。
b これに対し、原告は、本件ツイート1−1では、必要最小限度の範囲を超えて原告の著作物を使用しているとして、「引用の目的上正当な範囲内」の要件を満たさないと主張する。しかし、引用の必然性や必要最小限性を厳密に要求すると、引用に対する不必要な心理的抑圧要因となりかねず、妥当ではない。本件投稿画像1−1−2及び1−1−3は、前記(イ)aのとおり、単に原告のイラストと第三者のイラストを重ねたものにすぎないし、この方法は、両者のイラストが細部において一致しているかを確かめるのに最も直接的でわかりやすい方法であるから、前記(ア)aの目的に照らして必要かつ相当な行為であり、「引用の目的上正当な範囲内」のものといえる。
(エ)小括
 したがって、本件投稿者1が本件ツイート1−1に本件投稿画像1−1−2ないし1−1−4を添付して投稿する行為は、著作権法32条1項による引用として適法といえるから、上記行為により、侵害情報の流通によって本件原告イラスト1に係る原告の複製権及び自動公衆送信権が侵害されたことが明らかとは認められない。
イ 同一性保持権侵害について
(ア)「改変」(著作権法20条1項)に該当しないこと
a 本件投稿画像1−1−2及び1−1−3は、本件原告イラスト1と第三者の画像が単純に重ねられて作成されたものにすぎず、それ以上に加工がされているものではない。また、本件ツイート1−1の投稿内容及び本件投稿画像1−1−1ないし1−1−4によって、本件投稿画像1−1−2及び1−1−3がイラストを重ねて作成されたことが容易に読み取ることができるから、本件ツイート1−1の読者において、これらの画像自体が原告の著作物であると誤解するおそれはない。
 そうすると、本件投稿画像1−1−2及び1−1−3を作成する行為は「改変」に該当しない。
b 仮に本件投稿画像1−1−2及び1−1−3を作成する行為が「改変」に当たるとしても、これを本件ツイート1−1として投稿する行為は本件投稿画像1−1−2及び1−1−3を作成する行為とは別個のものであるから、本件投稿者1が本件投稿画像1−1−2及び1−1−3をツイッターに投稿する行為は「改変」に該当せず、同一性保持権を侵害する行為にはなり得ない。
c 原告は、本件ツイート1−1の投稿により、原告のイラストがトリミングされ、これにより同一性保持権が侵害されると主張する。
 しかし、著作物としての本質的な特徴を感得させることができないような態様で著作物を用いたにすぎない場合には同一性保持権侵害は成立しないと解されるところ、本件ツイート1−1が表示されているタイムラインにおいて、本件投稿画像1−1−2及び1−1−3は、人物の横顔のイラストにおいてその人物を特徴づける頭部やあごの部分といった重要な部分が表示されておらず、著作物としての本質的な特徴を感得できないものとなっている。したがって、本件ツイート1−1の投稿によってトリミングされたとしても、それは「変更、切除その他の改変」に該当しない。
 また、本件投稿画像1−1−4は、人物の横顔の部分にはトリミングがされていないから、「変更、切除その他の改変」が存在しない。
d このように、本件ツイート1−1の投稿に関して本件原告イラスト1の「改変」に該当する行為は存在しない。
(イ)「侵害情報の流通によって」(プロバイダ責任制限法4条1項1号)に該当しないこと
 プロバイダ責任制限法4条1項1号は、「侵害情報の流通によって」と規定しており、侵害情報それ自体の流通によって直接権利が侵害されることが必要と解されるところ、仮に本件投稿画像1−1−2及び1−1−3を作成する行為が「改変」に当たるとしても、本件投稿者1が改変後の本件投稿画像1−1−2及び1−1−3を添付した本件ツイート1−1を投稿することによって同一性保持権が侵害されるものではなく、同一性保持権は、侵害情報それ自体の流通によって直接侵害される関係にはない。したがって、「侵害情報の流通によって」権利が侵害されたとの要件を満たさない。
(ウ)「やむを得ないと認められる改変」(著作権法20条4項)に該当すること
 本件投稿画像1−1−2及び1−1−3は、本件原告イラスト1が第三者のイラストをトレースして作成されたか否かを検証する目的で作成されたものであるが、トレースに係る検証の対象がイラストであることからすると、トレースがされたか否かを客観的かつ公正に論ずるためには、本件原告イラスト1を比較対象となる画像と重ね合わせるという態様で利用することが不可欠である。しかも、前記(ア)aのとおり、本件ツイート1−1の読者が本件投稿画像1−1−2及び1−1−3を原告の著作物であると誤解するおそれはない。
 そうすると、仮に本件投稿画像1−1−2及び1−1−3を作成する行為が「改変」に当たるとしても、「やむを得ないと認められる改変」に該当するといえる。なお、原告は、原告に無断で上記各画像が作成されていることを根拠に、「やむを得ないと認められる改変」には該当しないと主張するが、無断で利用していることによって当該要件の該当性が否定されるものではない。
(エ)小括
 以上の次第で、本件投稿者1が本件ツイート1−1を投稿したことにより、侵害情報の流通によって原告の本件原告イラスト1に係る同一性保持権が侵害されたことが明らかであるとは認められない。
ウ 名誉毀損について
(ア)本件ツイート1−1は、断定調ではなく疑問調で記載されており、本件原告イラスト1がトレースにより作成された可能性を指摘するものであって、原告がトレースをした旨を述べるものではない。仮に、原告がトレースをした旨を述べるものであるとしても、原告がトレースをした可能性があるとの本件投稿者1の主観的な意見を述べるものにすぎない。
 そうすると、本件ツイート1−1は、原告がトレースをしたとの事実を摘示するものではなく、よって、原告の社会的評価を低下させるものではない。
(イ)仮に、本件ツイート1−1によって原告の社会的評価が低下するとしても、以下のとおり、当該ツイートを投稿する行為には、違法性阻却事由がないとは認められない。
a 本件ツイート1−1は、本件原告イラスト1が、第三者の著作権を侵害するものである可能性について法的な見解を表明したものであり、意見ないし論評の表明と位置付けられる。
 この点、本件原告イラスト1と本件投稿画像1−1−1が存在するという事実は、原告が第三者の著作権を侵害している可能性について意見を述べる前提となる事実であるところ、原告がプロのイラストレーターであることを踏まえると、当該事実は公共の利害に関するものである。また、本件ツイート1−1を投稿する目的は、専ら公益を図ることにあることに加え、本件ツイート1−1において意見ないし論評をする前提としている当該事実は真実であるといえる。さらに、本件ツイート1−1では、本件原告イラスト1と第三者が作成したイラストを引用した上で、全て疑問調で本文を記載しており、原告が第三者の著作権を侵害したと断定的に述べることを避けた表現になっているから、意見ないし論評としての域を逸脱するものではない。
 したがって、本件ツイート1−1については、意見ないし論評としての違法性阻却事由がないとは認められない。
b 仮に、本件ツイート1−1が、原告が本件投稿画像1−1−1をトレースして本件原告イラスト1を作成した事実を摘示するものと解されるとしても、前記aのとおり、当該事実は公共の利害に関するものであるといえるし、本件ツイート1−1を投稿する目的は専ら公益を図ることにあるといえる。さらに、本件原告イラスト1と本件投稿画像1−1−1が、横顔の輪郭の線、耳の形・大きさ・位置及び眉の長さ・大きさ・形状においてほとんど一致していること等を踏まえると、原告が本件投稿画像1−1−1をトレースして本件原告イラスト1を作成した事実は真実であると認められる。
 したがって、本件ツイート1−1が名誉毀損に該当するものであるとしても、違法性阻却事由がないとは認められない。
(ウ)以上によれば、本件投稿者1が本件ツイート1−1を投稿したことにより、侵害情報の流通によって原告の名誉権が侵害されたことが明らかであるとは認められない。
エ 営業権侵害について
 本件ツイート1−1を投稿する行為は、原告の複製権、自動公衆送信権、同一性保持権を侵害せず、名誉毀損も成立しないのであるから、本件ツイート1−1を投稿する行為が原告の営業権を侵害するとも認められない。
 そして、本件ツイート1−1の投稿により原告の営業が支障を来したことについては何ら具体的な主張、立証がないし、仮に何らかの支障が生じたとしても、受忍限度を超えるものとは認められない。
 したがって、本件投稿者1が本件ツイート1−1を投稿したことにより、侵害情報の流通によって原告の営業権が侵害されたことが明らかであるとは認められない。
(2)争点1−2(本件ツイート1−2の投稿による権利侵害の明白性)について
(原告の主張)
ア 複製権及び自動公衆送信権侵害について
 本件ツイート1−2には、原告が作成して著作権を有する本件原告イラスト2と同一の画像を含む本件投稿画像1−2−1が添付されており、前記(1)(原告の主張)アと同様に、本件投稿者1が本件ツイート1−2を投稿する行為は「複製」及び「自動公衆送信」に該当する。
 そして、前記(1)(原告の主張)ア(ア)bと同様の理由に加え、本件投稿画像1−2−2の鏡餅の画像が平凡なものであり、当該画像と類似する画像を作成しても著作権侵害が成立する余地はないといえることを踏まえると、本件投稿者1が本件投稿画像1−2−1を添付することが、著作権法32条による引用として適法とは認められない。その他、原告が本件投稿者1に対して本件原告イラスト2を複製及び自動公衆送信することを許諾したなどの違法性阻却事由は認められない。
 したがって、本件投稿者1が本件ツイート1−2を投稿したことにより、侵害情報の流通によって本件原告イラスト2に係る原告の複製権及び自動公衆送信権が侵害されたことが明らかであると認められる。
イ 同一性保持権侵害について
 本件ツイート1−2には、原告に無断で、原告が著作者人格権を有する本件原告イラスト2と同一の内容を含む本件投稿画像1−2−1と、本件原告イラスト2にインターネット上の鏡餅の写真を重ね合わせて作成された本件投稿画像1−2−3及び1−2−4とが添付されている。そして、本件投稿者1が本件ツイート1−2を投稿することにより、これらの画像がトリミングされてツイッターのタイムライン上に表示されている。
 したがって、本件投稿者1が本件ツイート1−2を投稿したことにより、侵害情報の流通によって本件原告イラスト2に係る原告の同一性保持権が侵害されたことが明らかであると認められる。
ウ 名誉毀損について
(ア)本件投稿者1は、本件ツイート1−2において、本件投稿画像1−2−1ないし1−2−4を添付した上、「トレス常習犯ですわ。」との記事を投稿して、原告がトレースを常習的に行っているとの事実を摘示している。本件投稿者1は、上記事実の摘示により、本件ツイート1−2を読んだ者に対し、原告がトレースを行っているとの印象を抱かせ、その結果、原告の社会的評価が低下し、よって、原告の名誉が毀損された。
 そして、前記(1)(原告の主張)ウと同様の理由により、本件投稿者1が本件ツイート1−2を投稿した行為について、違法性は阻却されない。
 以上によれば、本件投稿者1が本件ツイート1−2を投稿したことにより、侵害情報の流通によって原告の名誉権が侵害されたことが明らかであると認められる。
(イ)被告は、本件ツイート1−2についても、意見ないし論評の表明に当たると主張するが、前記(ア)のとおり、同ツイートは事実を摘示するものであるし、仮に意見ないし論評の表明に当たるとしても、同ツイートには、原告が第三者の作品を違法にトレースした旨の事実の摘示が含まれているというべきであるから、同ツイートにおける意見ないし論評の表明が、本件投稿画像1−2−1及び1−2−2が存在するという事実を前提とするものであって、原告によるトレースの事実を前提としないとする被告の主張は、理由がない。
エ 営業権侵害について
 前記(1)(原告の主張)エと同様、本件投稿者1が本件ツイート1−2を投稿し、あたかも原告がトレースに及んだかのような事実が摘示されたことにより、原告のイラストレーターとしての評判が下落し、原告のイラストの価値が損なわれ、これらを購入する顧客が減少して、イラストの販売による原告の売上や収益が減少した。
 たがって、本件投稿者1が本件ツイート1−2を投稿したことにより、侵害情報の流通によって原告の営業権が侵害されたことが明らかであると認められる。
(被告の主張)
ア 複製権及び自動公衆送信権侵害について
(ア)本件ツイート1−2は、本件ツイート1−1と同様に、原告がトレースを行ったという疑惑について指摘し検証を行うという公共性及び公益性を有する目的で、本件原告イラスト2と同一の本件投稿画像1−2−1を原告作成のものとして、本件投稿画像1−2−2を比較対象となる画像として、本件投稿画像1−2−3及び1−2−4を比較のために重ねた画像として、それぞれ掲載し、本件原告イラスト2を引用するものである。したがって、前記(1)(被告の主張)アと同様の理由により、上記の各画像の掲載による引用は、「公正な慣行に合致する」ものであり、かつ、「引用の目的上正当な範囲内」のものであると認められる。
(イ)原告は、平凡な鏡餅の画像と類似する創作を行っても、著作権侵害等が成立する余地はないから、著作権法32条1項による引用として適法ということはできないと主張する。この主張は、原告が依拠した鏡餅の画像には創作性が認められない以上、原告が本件原告イラスト2を作成する行為には著作権侵害が成立しない旨を指摘するものと解される。
 しかし、本件ツイート1−2の目的は、原告がトレースをしたという疑惑を指摘、検証することにあり、本件投稿画像1−2−1、1−2−3及び1−2−4の画像を掲載して、本件原告イラスト2を引用したのも同様の目的によるのである。そうすると、原告が依拠した画像に創作性がなく、原告の行為に著作権侵害が成立しないとしても、本件ツイート1−2が、著作権法32条1項が規定する引用の要件を満たさないことになるわけではないから、原告の上記主張には理由がない。
(ウ)したがって、本件投稿者1が本件ツイート1−2を投稿する行為は、著作権法32条1項による引用として適法といえるから、上記行為により、侵害情報の流通によって本件原告イラスト2に係る原告の複製権及び自動公衆送信権が侵害されたことが明らかとは認められない。
イ 同一性保持権侵害について
 前記(1)(被告の主張)イと同様の理由で、本件ツイート1−2を投稿する行為により、侵害情報の流通によって原告の本件原告イラスト2に係る原告の同一性保持権が侵害されたことが明らかとは認められない。
ウ 名誉毀損について
(ア)本件ツイート1−2も、前記(1)(被告の主張)ウと同様に、本件原告イラスト2が第三者の著作権を侵害する可能性について、本件投稿者1がその主観的な意見を述べたものにすぎず、このような意見が表明されたとしても、原告の社会的評価が低下したとは認められない。
(イ)仮に、本件ツイート1−2によって原告の社会的評価が低下するとしても、以下のとおり、当該ツイートを投稿する行為には違法性阻却事由が認められる。
a 本件ツイート1−2は、本件原告イラスト2が第三者の著作権を侵害するものである可能性について法的な見解を表明したものであり、意見ないし論評の表明と位置付けられる。
 この点、本件ツイート1−2の本文の内容に加え、同ツイートに本件投稿画像1−2−1及び1−2−2が添付されていることを踏まえると、同ツイートは、本件原告イラスト2と同一の本件投稿画像1−2−1及び第三者が撮影した鏡餅の写真画像である本件投稿画像1−2−2が存在するという客観的な事実関係を摘示した上で、上記の法的な見解を表明したものであるといえる。しかるところ、本件ツイート1−2が公共の利害に関する事実に係るものであり、同ツイートの目的が専ら公益を図るものであることは、前記(1)(被告の主張)ウと同様である。加えて、上記の法的な見解を表明する前提となっている、本件投稿画像1−2−1及び1−2−2が存在するという客観的な事実関係は、前者の画像は原告が作成したイラストと同じものであること、後者の画像は楽天市場で販売されている商品写真として存在することに照らすと、真実であると認められる。そして、本件ツイート1−2は、人身攻撃に及ぶものではなく、本件原告イラスト2と第三者の写真画像を比較して意見を述べるものにすぎず、意見ないし論評としての域を逸脱するものではない。
 したがって、本件ツイート1−2については、意見ないし論評としての違法性阻却事由が認められる。
b 仮に、本件ツイート1−2が、原告が本件投稿画像1−2−2の写真画像をトレースして本件原告イラスト2を作成した事実を摘示するものと解されるとしても、前記aのとおり、当該事実は公共の利害に関するものであるといえるし、本件ツイート1−2を投稿する目的は専ら公益を図ることにあるといえる。さらに、本件原告イラスト2と本件投稿画像1−2−2は、餅、みかん及びみかんの葉の輪郭の線がほぼ完全に一致する点や、鏡餅が茶色の板の上に載っており、当該板の手前側の端を示す水平線と奥側の端を示す水平線とが一致する点において共通すること等を踏まえると、原告が本件投稿画像1−2−2をトレースして本件原告イラスト2を作成した事実は真実であると認められる。
 したがって、本件ツイート1−2が事実を摘示するものであるとしても、違法性阻却事由が認められる。
(ウ)以上によれば、本件投稿者1が本件ツイート1−2を投稿したことにより、侵害情報の流通によって原告の名誉権が侵害されたことが明らかであるとは認められない。
エ 営業権侵害について
 本件ツイート1−2を投稿する行為には、原告の複製権、自動公衆送信権、同一性保持権を侵害せず、名誉毀損も成立しないのであるから、本件ツイート1−2を投稿する行為が原告の営業権を侵害するとも認められないし、前記(1)(被告の主張)エと同様、本件ツイート1−2の投稿により原告の営業が支障を来したことについては何ら具体的な主張、立証がないし、仮に何らかの支障が生じたとしても、受忍限度を超えるものとは認められない。
 したがって、本件投稿者1が本件ツイート1−2を投稿したことにより、侵害情報の流通によって原告の営業権が侵害されたことが明らかであるとは認められない。
(3)争点1−3(本件ツイート2−1の投稿による権利侵害の明白性)について
(原告の主張)
ア 複製権及び自動公衆送信権侵害について
(ア)本件ツイート2−1には、原告が作成し、著作権を有する本件原告イラスト3及び4と同一の画像である本件投稿画像2−1−1及び2−1−2が添付されており、前記(1)(原告の主張)アと同様に、本件投稿者2が本件ツイート2−1を投稿する行為は「複製」及び「自動公衆送信」に該当する。
(イ)本件ツイート2−1の本文は、疑問調により記載されているものの、その表現ぶりに照らすと、上記の疑問調の表現は、単に読者に疑問を投げかけるのではなく、本件投稿者2が、読者に対し、原告が違法なトレースを行っているとの事実を間接的ないし婉曲に摘示するものと理解できる。そうすると、前記(1)(原告の主張)ア(ア)bと同様の理由により、本件投稿者2が本件ツイート2−1を投稿する行為が著作権法32条1項による引用として適法ということはできない。
 その他、本件ツイート2−1の投稿について、原告の許諾等の違法性阻却事由は認められない。
(ウ)したがって、本件投稿者2が本件ツイート2−1を投稿したことにより、侵害情報の流通によって本件原告イラスト3及び4に係る原告の複製権及び自動公衆送信権が侵害されたことが明らかであると認められる。
イ 営業権侵害について
 前記(1)(原告の主張)エと同様、本件投稿者2が本件ツイート2−1を投稿し、あたかも原告がトレースに及んだかのような事実が摘示されたことにより、原告のイラストレーターとしての評判が下落し、原告のイラストの価値が損なわれ、これらを購入する顧客が減少して、イラストの販売による原告の売上や収益が減少した。
 したがって、本件投稿者2が本件ツイート2−1を投稿したことにより、侵害情報の流通によって原告の営業権が侵害されたことが明らかであると認められる。
(被告の主張)
ア 複製権及び自動公衆送信権侵害について
 本件ツイート2−1は、その本文の記載内容に照らし、原告がトレースをして本件原告イラスト1を作成したという疑惑について、原告の画力という側面から検証する目的のものであることは明らかであるところ、こうした目的は、前記(1)(被告の主張)アと同様の理由により、公共性及び公益性を有する。
 そして、上記の目的を達成するために、その主張の根拠を多面的に示すことは必要なことであるから、本件投稿者2が本件投稿画像2−1−1及び2−1−2を添付することは、「公正な慣行に合致する」ものであるし、これらの画像の添付は、上記目的との関係で合理的であるから、「引用の目的上正当な範囲内」のものであると認められる。
 したがって、本件投稿者2が本件ツイート2−1を投稿する行為は、著作権法32条1項による引用として適法といえるから、上記行為により、侵害情報の流通によって本件原告イラスト3及び4に係る原告の複製権及び自動公衆送信権が侵害されたことが明らかとは認められない。
イ 営業権侵害について
 本件ツイート2−1を投稿する行為は、原告の複製権、自動公衆送信権を侵害せず、客観的な根拠を示して「画力の差に違和感を感じませんか?」と疑問を投げかけているにすぎないから、本件ツイート2−1を投稿する行為が原告の営業権を侵害するとも認められない。
 そして、前記(1)(被告の主張)エと同様、本件ツイート2−1の投稿により原告の営業が支障を来したことについては何ら具体的な主張、立証がなく、仮に何らかの支障が生じたとしても、受忍限度を超えるものとは認められない。
 したがって、本件投稿者2が本件ツイート2−1を投稿したことにより、侵害情報の流通によって原告の営業権が侵害されたことが明らかであるとは認められない。
(4)争点1−4(本件ツイート2−2の投稿による権利侵害の明白性)について
(原告の主張)
ア 複製権及び公衆送信権侵害について
(ア)本件ツイート2−2には、原告が作成し、著作権を有する本件原告イラスト5を含む画像である本件投稿画像2−2−2が添付されており、前記(1)(原告の主張)アと同様に、本件投稿者2が本件ツイート2−2を投稿する行為は「複製」及び「自動公衆送信」に該当する。
(イ)本件ツイート2−2に関しても、本件ツイート2−1と同様に、間接的ないし婉曲に原告が違法なトレースを行ったとの事実を摘示するものと理解できるから、前記(1)(原告の主張)ア(ア)bと同様の理由により、本件投稿者2が本件ツイート2−2を投稿する行為が、著作権法32条1項による引用として適法ということはできない。
(ウ)したがって、本件投稿者2が本件ツイート2−2を投稿したことにより、侵害情報の流通によって本件原告イラスト5に係る原告の複製権及び自動公衆送信権が侵害されたことが明らかであると認められる。
イ 同一性保持権侵害について
 本件ツイート2−2には、原告に無断で、原告が著作者人格権を有する本件原告イラスト3における女性の横顔の鼻から口に掛けての個所に赤い長方形の枠を重ねて作成された本件投稿画像2−2―1が添付されている。そして、本件ツイート2−2が投稿されることにより、ツイッターのタイムライン上に、トリミングされた画像が掲載されることとなる。
 したがって、本件投稿者2が本件ツイート2−2を投稿する行為は、原告の意に反して本件原告イラスト3を「改変」するものであるから、同行為により、侵害情報の流通によって同イラストに係る原告の同一性保持権が侵害されたことが明らかであると認められる。
ウ 営業権侵害について
 前記(1)(原告の主張)エと同様、本件投稿者2が本件ツイート2−2を投稿し、あたかも原告がトレースに及んだかのような事実が摘示されたことにより、原告のイラストレーターとしての評判が下落し、原告のイラストの価値が損なわれ、これらを購入する顧客が減少して、イラストの販売による原告の売上や収益が減少した。
 したがって、本件投稿者2が本件ツイート2−2を投稿したことにより、侵害情報の流通によって原告の営業権が侵害されたことが明らかであると認められる。
(被告の主張)
ア 複製権及び自動公衆送信権侵害について
 本件ツイート2−2は、原告がトレースをして本件原告イラスト1を作成したという疑惑について、原告の画力という側面から検証するため、原告が販売している横顔のイラストである本件投稿画像2−2−2を、本件原告イラスト3と同一の画像である本件投稿画像2−2−1と比較するものである。そうすると、前記(1)(被告の主張)ア及び前記(3)(被告の主張)アと同様の理由により、本件ツイート2−2の目的は公共性及び公益性を有するものであり、本件投稿者2が本件ツイート2−2を投稿する行為は、著作権法32条1項による引用として適法といえる。
 したがって、上記行為により、侵害情報の流通によって本件原告イラスト3及び5に係る原告の複製権及び自動公衆送信権が侵害されたことが明らかであるとは認められない。
イ 同一性保持権侵害について
(ア)本件投稿画像2−2−1が、本件原告イラスト3に赤い長方形の枠を重ねて作成されたのは、原告の画力について批評するために、当該イラストの鼻と唇の部分に、本件ツイート2−2の読者を誘導するための表示を必要としたためである。同ツイートの本文には、「左の絵には鼻と唇の間に不自然な山があり「横顔がどうなっているか」という基本的なデッサンを理解していない方が描いたようにしか見えません」との説明文が記載されているから、本件投稿画像2−2−1の赤い長方形の枠が原告の著作物の一部であると誤解するおそれはなく、客観的に原告の人格的利益を侵害するとは認められない。
 したがって、本件原告イラスト3に赤い長方形の枠を追加する行為は、「改変」に該当しない。
(イ)仮に、前記(ア)の行為が「改変」に該当するとしても、加工の態様としては相当な範囲にとどまり、「やむを得ないと認められる改変」に当たる。
(ウ)なお、前記(ア)の行為が「改変」に該当し、「やむを得ないと認められる改変」に当たらないとしても、「侵害情報の流通によって」原告の同一性保持権が侵害されたとは認められないことは、前記(1)(被告の主張)イ(イ)のとおりである。
(エ)以上の次第で、本件投稿者2が本件ツイート2−2を投稿したことより、侵害情報の流通によって本件原告イラスト3に関する原告の同一性保持権が侵害されたことが明らかであるとは認められない。
ウ 営業権侵害について
 本件ツイート2−2を投稿する行為は、原告の複製権、自動公衆送信権を及び同一性保持権を侵害しないのであるから、本件ツイート2−2を投稿する行為が原告の営業権を侵害するとも認められないし、前記(1)(被告の主張)エと同様、本件ツイート2−2の投稿により原告の営業が支障を来したことについては何ら具体的な主張、立証がないし、仮に何らかの支障が生じたとしても、受忍限度を超えるものとは認められない。
 したがって、本件投稿者2が本件ツイート2−2を投稿したことにより、侵害情報の流通によって原告の営業権が侵害されたことが明らかであるとは認められない。
2 争点2(本件発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法4条1項)に該当するか)について
(1)争点2−1(別紙発信者情報目録記載1及び2のログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプが「当該権利の侵害に係る」発信者情報たる省令5号の「アイ・ピー・アドレス」及び省令8号の「侵害情報が送信された年月日」に該当するか)について
(原告の主張)
ア 「当該権利の侵害に係る発信者情報」該当性
 「当該権利の侵害に係る発信者情報」とは、「氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報」(プロバイダ責任制限法4条1項柱書き)をいい、侵害情報の発信そのものの発信者情報に限定されるものではないと解される。そして、ツイッターは、利用者が、ユーザー名やパスワード等を入力することによりログインしなければ利用できないサービスであるから、アカウントにログインした者が、当該アカウントにおけるツイートの投稿者である蓋然性が認められる。したがって、ツイッターのアカウントへのログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプも「侵害情報の発信者の特定に資する情報」として「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するというべきである。
 本件においては、本件アカウント1及び2の投稿の内容やアカウントのプロフィールの記載に照らし、同一のアカウントを複数人が管理していることはうかがわれないから、口頭弁論終結時までの最も新しいログイン時のものを含め、原告が開示を請求するログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプは全て「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当する。
イ 省令5号及び8号該当性
 被告は、省令8号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」という文言を根拠に、同号が開示の対象とする情報は侵害情報の送信時のタイムスタンプのみであると主張する。
 しかし、プロバイダ責任制限法4条1項の趣旨が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図るというものであることにかんがみると、同項の「権利の侵害に係る発信者情報」とは、侵害情報が発信された際に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報に限らず、権利侵害との結び付きがあり、権利侵害者の特定に資する通信から把握される発信者情報をも含むと解される。そうすると、省令8号の「侵害情報」には、侵害情報そのもののみならず、ログイン行為に係る情報等、権利侵害者の特定に資する通信から把握される情報が含まれるというべきである。仮に、省令5号がログイン時のIPアドレスを含むものとし、省令8号がログイン時のタイムスタンプを含まないと解すると、ログイン時のIPアドレスの開示請求が認められても、ログイン時のタイムスタンプの開示請求は認められないこととなるが、IPアドレスに対応するタイムスタンプが存在しない限り、当該IPアドレスに係る発信者の特定はおよそ不可能であるから、上記の帰結は著しく不合理で妥当性を欠くものであって、プロバイダ責任制限法4条1項の上記趣旨に反するものである。
(被告の主張)
ア 「当該権利の侵害に係る」該当性
 (ア)プロバイダ責任制限法が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下でのみ発信者情報開示請求を認めていることに加え、同法4条1項が「当該開示関係役務提供者が保有する当該権利の侵害に係る発信者情報」と定めていることに照らすと、発信者情報開示請求の制度は、侵害情報の発信者に関する情報全てを幅広く開示の対象とするものではなく、あくまでも、請求者が侵害情報であると主張する特定の情報の発信行為に関する情報のみを開示の対象とするものと解される。
 この点、ツイッターのアカウントへのログイン行為と侵害情報の発信行為は、全く別個の行為である。加えて、ログイン行為を行う者の端末から被告のサーバーに送信される情報は、アカウントIDやパスワードなどのログインに必要な情報であって、侵害情報とは全く別の情報であり、侵害情報と何ら関係がない情報である。
 したがって、ログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプは、同項が規定する「当該権利の侵害に係る」発信者情報に該当しない。
(イ)原告は、ツイッターがアカウントにパスワード等を入力するなどしてログインしなければ利用することができないサービスであることから、アカウントにログインした者は当該アカウントにおけるツイートの投稿者である蓋然性が認められるため、ログインに係る情報も「発信者の特定に資する情報」として「当該権利侵害に係る発信者情報」に該当すると主張する。
 しかし、上記のような解釈は、侵害情報の流通によって権利侵害を受けた者の権利の救済を図るという要請と、情報発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密の保護の双方に配慮し、開示の対象となる情報を限定的に列挙したプロバイダ責任制限法4条1項及び省令の趣旨に反するものである。また、ツイッターでは、1個のアカウントに対して複数のログイン状態が競合することが可能であるため、ツイート行為とログイン行為が時間的に近接しているとしても、ツイートが当該ログイン行為によるログイン状態を利用して行われたかどうかは明らかではないから、たとえ本件各ツイートの投稿とログイン行為が時間的に近接しているとしても、当該ログイン行為によるログイン状態の下で本件各ツイートが投稿されたとは断定できない。
 したがって、原告の上記主張には理由がない。
イ 省令5号及び8号該当性
 省令は、開示請求の対象となり得る情報について、必要最小限の範囲の情報のみを限定列挙し、抽象的・包括的な条項を置いていない。そうすると、省令の規定を安易に拡張解釈して、開示請求の対象となり得る情報の範囲を拡大することは、通信の秘密や表現の自由を侵害する結果となりかねず、許されないというべきである。
 しかるところ、省令8号は、「第五号のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備」から、「開示関係役務提供者の用いる特定電気通信設備」に「侵害情報が送信された年月日」と規定しており、同号が「侵害情報が送信された」という文言を採用したことからして、同号が開示の対象とする情報は侵害情報の送信時のタイムスタンプのみであると解すべきことは明らかである。
 また、省令5号は、「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」と規定しているところ、これは、コンテンツプロバイダが保存するIPアドレスが経由プロバイダのIPアドレスであって、発信者自身のIPアドレスではないことから、経由プロバイダのIPアドレスを開示の対象とするために、「発信者のアイ・ピー・アドレス」という文言ではなく「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」という文言を採用したものである。また、IPアドレスとタイムスタンプは、両者を一体として利用することで初めて発信者の特定に資する情報となり得るものであるから、同号は省令8号と統一的に解釈されるべきである。そうすると、省令5号が開示の対象とする情報は、侵害情報の送信時のIPアドレスのみであると解される。
 この点、ログイン行為は、侵害情報とは全く異なる情報を送信する行為であり、侵害情報が送信された時点とは全く異なる時点においてされる行為である。したがって、ログイン時のタイムスタンプは、それによって侵害情報の発信者が特定される面があるとしても、省令8号の「侵害情報が送信された年月日」に該当せず、ログイン時のIPアドレスは、省令5号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」に該当しない。
ウ 開示の対象となり得るログイン時のIPアドレス等の範囲
 仮に、ログイン情報と権利侵害投稿の関連性を検討することにより、一定の範囲のログイン時のIPアドレス等が、プロバイダ責任制限法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」及び省令5号及び8号の各文言に該当し、開示の対象となり得るとしても、被告が保有するログイン時のIPアドレス等の全部が開示の対象になるとはいえず、侵害情報の発信行為と全く関連しないIPアドレス等は、省令5号及び8号に該当しないと解すべきである。少なくとも、本件各ツイートの投稿の後の時点におけるログイン行為に関するIPアドレス等の情報は、当該ログインを利用して本件各ツイートの投稿がなされた可能性が論理的にあり得ない以上、「当該権利の侵害に係る発信者情報」には該当しない。
 本件において、原告は、令和2年4月3日から口頭弁論終結時までのログイン時のIPアドレス等の全ての開示を請求するところ、その中には、本件各ツイートの投稿日と時間的な近接性がなく、何らの関連性も認められないものが含まれているから、原告の上記請求の全部に理由があるとはいえない。
(2)争点2−2(別紙発信者情報目録記載3(1)の電話番号が省令3号の「電話番号」に該当するか)について
(原告の主張)
ア プロバイダ責任制限法4条1項は「特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者」に対し、発信者情報開示請求権を認めているのであるから、同項に基づく発信者情報開示請求権は、侵害情報の送信ではなく、侵害情報の流通によって発生する。そして、侵害情報の流通は、一回的な行為ではなく、特定電気通信による継続的な行為ないし状態であるから、侵害情報の流通が認められる限り、発信者情報開示請求権は不断に発生し続けるものと解される。そして、開示関係役務提供者の発信者情報開示義務は、同項に基づき発信者情報開示請求がされた時点で具体的に生じるものと解される。したがって、改正後の省令が施行される前の時点で送信された侵害情報であっても、改正後の省令が施行された後は、改正後の省令が適用されるというべきである。このことは、令和2年総務省令第82号による改正について、改正前の事案には改正後の省令が適用されないとする経過規定が省令に置かれていないことからもうかがわれる。
 この点、本件各ツイートは削除されておらず、なお不特定多数の者が閲覧可能な状態にあるから、本件各ツイートにより、前記1(1)(原告の主張)及び前記1(2)(原告の主張)のとおりの権利侵害が生じ続けている。したがって、本件各投稿のときに改正後の省令が施行されていないものの、改正後の省令を前提に本件発信者情報の開示を請求するものとなる。そうすると、本件においても、改正後の省令3号により、本件投稿者1の電話番号の開示を請求することができるというべきである。
イ 被告は、本件各投稿が省令の施行前にされたものであり、省令3号は施行前に権利侵害が発生した事案について遡及的に適用されないとして、本件には省令3号が適用されることはないと主張する。
 しかし、原告は、前記アの理由から、本件には改正後の省令が適用されると主張しているのであり、本件に省令3号が遡及的に適用されると主張しているものではないから、省令3号の遡及適用の有無は問題とならない。したがって、被告の主張は前提を欠くものであり、理由がない。
(被告の主張)
ア 本件各ツイートは、省令が施行された令和2年8月31日よりも前の時点において投稿されたものである。そして、省令3号は、改正前に権利侵害が発生した事案に遡及的に適用することはできないと解される。
 したがって、原告の、本件投稿者1の電話番号に関する発信者情報開示請求には理由がない。
イ 原告は、本件はそもそも省令3号の遡及的な適用が問題となる事案ではない旨を主張する。
 しかし、発信者情報開示請求権は、投稿者が特定電気通信設備の記録媒体又は送信装置に侵害情報を記録、入力するという積極的作為に及んだ時点に発生するものであり、その後に刻々と発信者情報開示請求権が発生するものではない。したがって、本件については、本件各投稿がされた時点でそれぞれ発信者情報開示請求権が発生することとなるが、本件各投稿がされた時点では省令3号が施行されていなかった以上、本件において省令3号が適用されるか否かは、省令3号の遡及的な適用が可能か否かによるものといわなければならない。
ウ 原告は、省令の施行前の事案には省令が適用されない旨の経過規定が省令に置かれていないこと等を根拠に、本件においては、改正後の省令3号が適用される旨を主張する。
 しかし、一般に法令の効力は施行以後に限られ、過去の事項には適用されないのが原則であり、例外的に法令の遡及適用が許容されるのは、国民の権利義務に直接関係のない場合等であって、法令の経過規定に特別の規定があるときに限られると解するべきである。この点、省令3号を遡及的に適用した場合には、プロバイダに電話番号の開示義務を新たに課することになる上、発信者の表現の自由、プライバシー、通信の秘密等の権利利益を制約することになるから、国民の権利義務に直接関係のない場合には当たらない。加えて、省令には、改正後の省令を遡及適用する旨の経過規定が置かれていない。
 したがって、本件に省令3号を遡及的に適用することはできないというべきであるから、原告の上記主張には理由がない。
(3)争点2−3(別紙発信者情報目録記載3(2)のSMS用電子メールアドレスが改正前省令3号の「電子メールアドレス」に該当するか)について
(原告の主張)
 プロバイダ責任制限法3条の2第2号の「電子メールアドレス」には、その文言からして、SMS用電子メールアドレスが含まれることが明らかである。
 すなわち、同号は、「電子メールアドレス等」について、「公職選挙法第百四十二条の三第三項に規定する電子メールアドレス等をいう。」と規定するところ、公職選挙法142条の3第3項は、「電子メールアドレス」について、「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第三号に規定する電子メールアドレスをいう。」と規定する。そして、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律2条3号は、「電子メールアドレス」の定義について、「電子メールの利用者を識別するための文字、番号、記号その他の符号をいう。」と規定するとともに、同条1号は、「電子メール」の定義について「総務省令で定める通信方式を用いるものをいう。」と規定し、かかる委任を受けて制定された特定電子メールの送信の適正化等に関する法律第二条第一号の通信方式を定める省令は、上記の通信方式として、「携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方式」(2号)を規定している。以上によれば、公職選挙法142条の3第3項の「電子メールアドレス」には、SMS用電子メールアドレスも含まれることとなるため、プロバイダ責任制限法3条の2第2号の「電子メールアドレス」にも、SMS用電子メールアドレスが含まれることとなる。そして、改正前省令には、3号の「電子メールアドレス」からSMS用電子メールアドレスを除外する旨の規定は置かれていなかった。したがって、プロバイダ責任制限法4条1項による委任を受けて制定された改正前省令3号の「電子メールアドレス」もプロバイダ責任制限法の「電子メールアドレス」と同様に解釈されるべきであるから、改正前省令3号の「電子メールアドレス」にはSMS用電子メールアドレスも含まれることになる。
 よって、本件投稿者1のSMS用電子メールアドレスの開示請求は認められるべきである。
(被告の主張)
 プロバイダ責任制限法4条1項に基づく開示請求の対象を限定列挙した省令には、発信者のSMS用電子メールアドレスは掲げられていない。
 また、SMS用電子メールアドレスは、携帯電話に関する、090等から始まる11桁の番号からなるものであって、携帯電話番号にほかならないから、改正前省令3号の「電子メールアドレス」にSMS用電子メールアドレスが含まれるとする解釈は当該文言に反する。
 そして、前記(1)(被告の主張)アのとおり、省令では、開示の対象となり得る情報のうち必要最小限の情報のみを限定列挙し、抽象的・包括的な規定を置いていないことを踏まえると、安易に省令の規定を拡大解釈して開示請求の対象となり得る情報の範囲を拡大することは許されないというべきであるから、SMS用電子メールアドレスは、改正前省令3号の「電子メールアドレス」に該当しないと解すべきである。
 原告は、プロバイダ責任制限法3条の2第2号、公職選挙法142条の3第3項等の規定を根拠として、SMS用電子メールアドレスが改正前省令3号の「電子メールアドレス」に含まれると主張する。しかし、プロバイダ責任制限法3条の2第2号は、公職選挙法142条の3第3項にある「電子メールアドレス等」の定義を引用するにすぎず、この定義をもってプロバイダ責任制限法における「電子メールアドレス」の定義とすることを規定するものではない。
 したがって、原告の、本件投稿者1のSMS用電子メールアドレスに関する発信者情報開示請求には理由がない。
3 争点3(原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について
(原告の主張)
 原告は、本件投稿者1及び2に対し、不法行為に基づく損害賠償等を請求する予定であるが、そのためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要がある。
(被告の主張)
 事実に関する主張は不知であり、法的主張は争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(本件各投稿により原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について
(1)争点1−1(本件ツイート1−1の投稿による権利侵害の明白性)及び争点1−2(本件ツイート1−2の投稿による権利侵害の明白性)について
ア 認定事実
 前記前提事実並びに証拠(甲1、2、4、9、11、13、17、18、26、27、29、30、42ないし45、48、乙1、2、4、16)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア)本件ツイート1−1及び1−2並びにその前後に投稿されたツイートの内容
 本件ツイート1−1及び1−2並びにその前後には、本件アカウント1において、以下のツイートが投稿されている(甲1、2、17、乙1、2)。
a 2020年(令和2年)4月3日の投稿
(a)「これどうだろうwwゆるーくトレス?普通にオリジナルで描いてもここまで比率が同じになるかな」を本文とし、4枚の添付画像を含むツイート(本件ツイート1−1)。
(b)「絶対目が開いてないのはトレス元に似ちゃうからなのか」を本文とするツイート。
(c)「首の角度は変えてるけど...」を本文とし、2枚の添付画像
(いずれも、女性の横顔を描いた複数のイラストを重ねて作成されたもの。)を含むツイート。
(d)「検証に使った元のイラスト作家さん」を本文とし、ハイパーリンク(参照先として当該記事のURLを設定すること)を含むツイート。
b 2020年(令和2年)4月4日の投稿
(a)「トレス疑惑について@横顔イラストと普段書かれているイラストとの画力の差があったため、既存の絵を検索し当て嵌めたところトレス疑惑が浮上。ラレとして検証に使用した絵はEさんの絵です。「横顔イラスト」で画像検索すると上の方に出てきました。」を本文とし、4枚の添付画像(女性の横顔のうち口元、イヤリング、首、髪の毛等の部分のみが表示されているイラスト、本件投稿画像1−1−1と同一のイラスト及び女性の横顔を描いた複数のイラストを重ねて作成された2枚のイラスト(うち1枚は乙15である。))を含むツイート。
(b)「トレス疑惑についてA」及び「こちらで横顔の目を開いたイラストを公開されていたので、重ねてみたところ大部分が一致。」を本文とし、ハイパーリンク及び4枚の添付画像(いずれも女性の横顔の目元を描いたイラストであるが、うち3枚は複数のイラストを重ねて作成されたもの。)を含むツイート。
(c)「こちらがこの方の普段の絵柄のようです。骨格から目の描き方まで違うのでトレスを疑ってしまいます。」を本文とし、2つのハイパーリンクを含むツイート。
(d)「この横顔イラストは1点3000円〜5000円で販売しているみたいです。ハンドメイド作家さん等使用してる方が沢山います。(プレ企画で当選して使っている方もいます)」を本文とし、1枚の画像(原告が従前イラストを販売していたウェブサイトの画像(甲4の3、乙4の3)である。)を含むツイート。
(e)「余談ですが、販売しているイラスト以外でもトレス疑惑があります。これに関してはご自身の自由なのですが、根拠として載せておきます」、「1枚目:クリィミーマミ公式垢アイコン」、「2枚目:トレス疑惑イラスト」、「3枚目:クリィミーマミ公式アイコンの透明度を下げて重ね合わせ」及び「4枚目:公式アイコン赤疑惑イラスト青」を本文とし、本文が記載するとおりの4枚の画像を含むツイート。
(f)「これでほぼ黒」を本文とし、3枚の画像(「B」というサインの入った画像及び複数の女性の横顔のイラストを重ねて作成された2枚の画像。)を含むツイート。
c 2020年(令和2年)4月5日の投稿
(a)「他のイラストでもトレスしてますね。4枚目は線の色をライトブルーに変えてます。」を本文とし、4枚の画像(仮面を着けた女性の白黒のイラストと「最終回」「ルパンの娘」の文字が記載された2枚の画像、仮面を着けた女性の写真画像及び当該写真画像にライトブルーの線が重ね合わせられて作成された画像(乙16の1)。)を含むツイート。
(b)「この鏡餅も画像検索ですぐ出てきた。トレス常習犯ですわ。Bさん」を本文とし、4枚の添付画像を含むツイート(本件ツイート1−2)。
d 2020年(令和2年)4月6日の投稿
(a)本件投稿者2が4月5日に投稿したツイート(「トレパク疑惑が出ているB(中略)様ですが、アメブロの方にこんな物もありました一部切れていますが右下の署名でB様の作品だとわかります(B様の作品、と呼ぶべきかは微妙ですが...」という本文に、「ビブリア古書堂の事件手帖」などと記載された2枚の画像(乙16の2、16の3)が添付されたツイート)をリツイートしたもの。
(b)「写真のトレスが好きみたいですね。重ねるまでもないのでそのままです。多分クイックスポイトで色取って塗って馴染ませての繰り返しで描いてるんじゃないかなあ。」を本文とし、2枚の画像(男女及び「雪の華」との記載を含む2枚の画像(乙16の4、16の5))を含むツイート。
(c)「うーむ」を本文とし、2枚の画像(男女及び「九月の恋と出会うまで」との記載を含む2枚の画像(乙16の6、16の7))を含むツイート。
(d)「1枚目:公式絵」、「2枚目:公式絵反転輪郭、耳、鼻が一致」、「3枚目:同じく公式絵反転目の形まつ毛の位置等が一致」及び「4枚目:服の肩部分が一致やんわりトレス?」を本文とし、4枚の画像(女の子のキャラクターのイラストであり、うち3枚は、他のイラストと重ねて作成されたもの。)を含むツイート。
(e)「禰豆子はラフの時からトレスでしたね」を本文とし、3枚の画像(女の子のイラストであり、うち1枚は線で描かれた白黒のもの、1枚はカラーで背景とともに描かれたものであり、1枚はこれら2枚のイラストを重ねて作成されたものである。)を含むツイート。
e 2020年(令和2年)4月7日の投稿
 本件投稿者1が4月5日に投稿した「なんかごめん」を本文とし、2枚の画像(イノシシの被り物をした人物のイラストと、同イラストに赤い線が重ねられて作成された画像)を含むイラスト。
(イ)原告によるイラストの販売及び作成状況等
a 原告は、自らが作成したイラストを、ツイッターや、インターネット上のフリーマーケットサービスである「minne」を通じて販売するイラストレーターとして活動していた。また、原告は、芸能事務所に所属し、A’の芸名を用いてナレーターとして活動している。そして、原告は、作成したイラストに、イラストレーターとしてのペンネームである「B」のサインを入れたり、ナレーターとしての芸名である「A’」のマークを入れたりしている。なお、原告は、令和3年7月20日頃、その時点で依頼されているイラストが完成し次第、SNSを通じたイラストの販売を中止する旨の意向を示した。(甲9、11、13、48)
b 原告は、平成30年2月頃、ツイッターを通じて、アクセサリーのハンドメイド作家から、アクセサリーを飾る台紙を描いてほしいという依頼を受け、女性の横顔のイラストを提供したことをきっかけに、様々なハンドメイド作家にイラストを提供するようになった。こうしたイラストは、依頼者の似顔絵を参考に一から作成することもあれば、1回目に候補の下絵として作成したものをベースに用いて作成することもあり、ベースが定まった後は、原告と依頼者との間で、髪色やメイクなどの細部のデザイン等について意見交換を繰り返し、少しずつ作画を変更しながら、イラストを完成させていくという方式を採っていた。その後、原告は、イラストの作成のペースが依頼に追い付かなくなったことから、「minne」上で、あらかじめ作成した複数のイラストのデータを販売する方式を採るようになった。(甲26、27、29、30、42ないし45)
c 原告は、本件原告イラスト1を作成し、販売したが、同イラストを作成した際、本件投稿画像1−1−1のイラストをトレース(既存の絵をなぞって写し取る手法により、新たな絵を作成することをいう。)していない(甲9、26、43)。
d 原告は、本件原告イラスト1及び2の画像を添付したツイートを投稿することを本件投稿者1に許諾したことはない(甲9)。
(ウ)事実認定の補足説明
 前記(イ)cの認定事実に対し、被告は、本件投稿画像1−1−1と本件原告イラスト1を重ね合わせた本件投稿画像1−1−2及び1−1−3は、重なり合いが多いから、原告が本件原告イラスト1をトレースにより作成したと認められる旨主張する。
 そこで、原告イラスト1を作成した際に本件投稿画像1−1−1のイラストをトレースしていない旨の記載がある原告の陳述書(甲9、26、43)の信用性について検討する。まず、証拠(甲18)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件原告イラスト1の線画を保有していることが認められるところ、線画はイラストを作成する過程で描かれるイラストの骨子であることに照らすと、上記事実は、原告が本件投稿画像1−1−1と同じ画像をトレースすることなく本件原告イラスト1を作成したことを裏付けるものといえる。そして、原告の上記陳述書には、本件原告イラスト1を含む、ハンドメイド作家から女性の横顔のイラストの作成を依頼され、提供するまでの作業について具体的に記載されており、かつ、この記載内容に沿って現に依頼者とやり取りしていた様子がうかがわれる(甲29、30、42)。さらに、本件原告イラスト1と同様、女性の横顔のイラストを作成する様子を撮影した動画(甲44)によれば、原告は、本件原告イラスト1と同様の女性の横顔のイラストを作成する技能を身に付けていることが認められ、この事実は、原告が本件投稿画像1−1−1と同じ画像をトレースしなくとも本件原告イラスト1を作成することができたことを裏付けるものといえる。
 以上によれば、他のイラストをトレースすることなく本件原告イラスト1を作成した旨の原告の上記陳述書の記載は十分に信用することができるというべきであり、これに基づいて前記(イ)cの事実を認定することができるから、被告の上記主張は採用することができない。
イ 原告の社会的評価の低下の有無
(ア)ある記事の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該記事についての一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであり(最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)、その基準は、ツイッター上の投稿記事の名誉毀損該当性の判断においても同様に適用されるものであると解される。
 また、名誉棄損には、事実の摘示によるもののみならず、意見ないし論評によるものも含まれるところ、ある表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的に主張、又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当であり(最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)、上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や議論などは、意見ないし論評の表明に属するものというべきである(最高裁平成15年(受)第1793号、第1794号同16年7月15日第一小法廷判決・民集58巻5号1615頁参照)。そして、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであることは、上記の区別に当たっても妥当するものというべきである(前掲最高裁平成9年9月9日第三小法廷判決参照)。
(イ)本件ツイート1−1及び1−2についてみるに、前記ア(ア)の認定事実のとおり、本件投稿者1は、令和2年4月3日から同月7日までの短期間に、18回にわたり、本件ツイート1−1及び1−2を含むツイートを投稿しているところ、これらのツイートは、主として、原告が作成したとされるイラストと第三者が作成したとされるイラストとを重ね合わせて対比した結果、原告がトレースによって本件原告イラスト1を作成した疑惑がある旨を記載したものである。加えて、本件ツイート1−2の本文は「トレス常習犯ですわ。B」というものであり、前記ア(ア)b(f)記載のツイートの本文は「これでほぼ黒」というものであって、いずれも、原告がトレースをしていたことを断定的に記載したものである。
 こうしたツイートの一連の記載内容を踏まえ、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として本件ツイート1−1及び1−2の本文及び添付画像を見れば、本件ツイート1−1は、原告が、他者が作成した本件投稿画像1−1−1をトレースする手法によって本件原告イラスト1を作成したという事項を、本件ツイート1−2は、原告が常習的にトレースによってイラストを作成しているという事項を明示的に主張するものと理解される。そして、これらはいずれも原告に関する事項であり、かつ、証拠等をもってその存否を決することが可能なものであるといえる。したがって、本件ツイート1−1及び1−2は、いずれも、事実を摘示するものと認めるのが相当である。
 そして、原告がイラストレーターとして活動し、作成したイラストを3000円ないし5000円程度で販売していたことを踏まえると、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準とすれば、本件投稿者1が本件ツイート1−1及び1−2を投稿して上記の各事実を摘示することにより、原告のイラストレーターとしての社会的評価が低下したものと認められる。
(ウ)aこれに対し、被告は、@本件ツイート1−1が疑問調で記載されていることを根拠に、本件原告イラスト1がトレースにより作成された可能性を指摘するものであって、原告がトレースをした旨を述べるものではなく、また、Aそうでないとしても、原告がトレースをした可能性があるとの本件投稿者1の主観的な意見を述べるものにすぎず、事実を摘示するものではないから、原告の社会的評価を低下させるものではないと主張する。確かに、本件ツイート1−1は、「ゆるーくトレス?」のように疑問符を付したり、「同じになるかな」のように疑問を読者に投げかけるような表現を用いたりして記載されており、前記(イ)で認定した事実を断定的に摘示した記載ぶりとはなっていない。しかし、前記ア(ア)の一連のツイートを通覧すれば、本件投稿者1は、イラストを重ね合わせて対比した結果、原告がトレースをして本件原告イラスト1を作成した事実に対して相当の確信を持っており、そのような認識を前提に本件ツイート1−1を投稿したことがうかがわれる。そうすると、本件ツイート1−1は、単に原告がトレースにより本件原告イラスト1を作成した可能性がある旨を摘示すること(上記@)又はそうした可能性がある旨の意見を表明すること(上記A)にとどまらず、前記(イ)の事実を明示的に摘示したものと理解するのが相当であって、被告の上記主張は、前提を欠くものである。
 また、被告は、前記(イ)の認定に対し、B本件ツイート1−1は、原告が本件原告イラスト1を作成する行為が第三者の著作権を侵害するものである可能性について法的な見解を表明したものであり、意見ないし論評の表明と位置付けられると主張する。確かに、トレースは他の絵を写し取る手法であるから、他者の著作権を侵害しかねない行為ではあるが、前記ア(ア)の一連のツイートを通覧しても、原告が第三者の著作権を侵害している旨を明示的に記載した箇所はなく、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として本件ツイート1−1の表現を読む限り、本件投稿者1が、同ツイートにおいて、原告がトレースによって本件原告イラスト1を作成した旨を述べていると理解することはできても、そのような原告の行為について著作権侵害が成立する旨の法的な見解を述べているものと理解することはできないというべきである。そうすると、本件ツイート1−1の表現は、証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的に主張するものと理解されるから、意見ないし論評の表明ではなく、事実を摘示するものというべきである。
 したがって、被告の上記各主張は、いずれも採用することができない。
b また、被告は、本件ツイート1−2についても、前記aの各主張と同旨の主張をする。しかし、本件ツイート1−2は、本件ツイート1−1と異なり、疑問符や疑問調の表現を何ら用いておらず、「トレス常習犯ですわ。」などと、原告が単にトレースに常習的に及んでいたことを断定的に記載するものであるから、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として読む限り、トレースの可能性がある旨を述べるものと解する余地はない。そして、前記aで説示したところと同様の理由により、本件ツイート1−2が、法的な見解その他本件投稿者1の意見ないし論評の表明を内容とするものと理解することはできない。
 したがって、被告の上記の各主張は、いずれも採用することができない。
ウ 違法性阻却事由の存否
(ア)事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性がなく、仮に上記証明がないときにも、行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁、最高裁昭和56年(オ)第25号同58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号177頁参照)。
 そして、プロバイダ責任制限法4条1項1号が規定する「侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであるとき」に該当するといえるためには、当該侵害情報の流通によって請求者の名誉が毀損されたことに加え、違法性阻却事由の存在をうかがわせるような事情の存在しないことが必要であり、侵害情報の流通が他人の社会的評価を低下させる事実の摘示を伴う場合には、当該情報の流通が公共の利害に関する事実に係るものであり、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあること、さらに、摘示された事実が真実であることについて、これらをうかがわせるような事情が存在しないことを要するものと解される。
(イ)本件ツイート1−1及び1−2についてみるに、前記ア(イ)cの認定事実のとおり、原告は、本件原告イラスト1をトレースの手法によって作成しなかったと認められるから、本件ツイート1−1及び1−2が摘示する事実は、その重要な部分について真実ではないと認められる。
 以上によれば、本件投稿者1が本件ツイート1−1及び1−2を投稿する行為について、違法性阻却事由が存在することをうかがわせるような事情が存在しないものと認められる。
エ 小括
 以上の次第で、本件投稿者1が本件ツイート1−1及び1−2を投稿することにより、原告の名誉が毀損されたことは明らかであると認められる。
(2)争点1−3(本件ツイート2−1の投稿による権利侵害の明白性)について
ア 複製及び自動公衆送信(送信可能化)の有無
 前記前提事実(3)イのとおり、本件投稿者2は、本件原告イラスト3及び4と同一の画像である本件投稿画像2−1−1及び2−1−2を含む本件ツイート2−1をツイッターに投稿して、上記各投稿画像のデータを被告のサーバーに記録したものであるが、本件投稿者2の上記行為は、本件原告イラスト3及び4を有形的に再製するものといえるほか、「公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体」(著作権法2条1項9号の5)である被告のサーバーに上記各投稿画像のデータを記録し、自動公衆送信し得るようにするものといえるから、本件投稿者2は、本件原告イラスト3及び4を複製及び自動公衆送信(送信可能化)したと認められる。
イ 引用(著作権法32条1項)等の成否
 本件ツイート2−1の内容は、原告がツイッター上でトレースを否定するツイートを投稿したことを受けて、原告が作成したイラストである本件原告イラスト3及び4と同一の画像である本件投稿画像2−1−1及び2−1−2を、「これもまた、B様が描いたイラストです」と本文に明記して添付した上、本文に「横顔のイラストと比較し、画力の差に違和感を感じませんか?」などと記載することにより、原告の上記投稿内容の信用性に疑問を呈するというものであると理解できる。こうした本件ツイート2−1の内容に照らすと、本件投稿者2が本件投稿画像2−1−1及び2−1−2を添付した目的は、原告がトレースをして女性の横顔のイラストを作成したことを疑わせる事情ないし根拠として、原告が作成した本件原告イラスト3及び4の画像そのものを提示して、「画力の差」、すなわち原告がトレースをして作成したと本件投稿者2が主張する横顔のイラストの出来栄えと本件原告イラスト3及び4の出来栄えに差があることを明らかにすることにあるものと認められる。
 しかし、トレースによって作成されたとされる原告のイラストは、女性の横顔を描いたものであるから、仮に、「画力の差」がトレースを疑わせる根拠となり得るとして、かつ、そのことを示すために原告のイラストそのものを提示する必要がある場合があるとしても、上記の目的を達するためには、原告が描いた横顔のイラストのうち構図が同一又は類似のもの同士を比較して「画力の差」の程度を検討すれば足りるというべきである。この点、本件投稿画像2−1−1は、白黒の線画からなる点において、トレースによって作成されたとされる原告のイラストとは異なるものの、女性の横顔を描いた点において構図に共通点があるといえる。これに対し、本件投稿画像2−1−2は、大きく目を開いた女性の正面視を描いたものであって、トレースによって作成されたとされる原告のイラストとは構図が大きく異なる。そうすると、本件投稿画像2−1−1を添付していながら、さらに本件投稿画像2−1−2を本件ツイート2−1に添付する必然性はないといわざるを得ない。現に、本件ツイート2−2では、本件投稿画像2−2−1として、本件投稿画像2−1−1に赤枠を付した画像を添付した上、「特に横顔同士で比較してみてください」として、原告が描いた横顔のイラストの出来栄えの差を特に指摘して、原告がトレースによって女性の横顔のイラストを作成した旨を述べているのであって、このことは、本件投稿画像2−1−2を添付する必然性がないことを示す事情であるということができる。
 以上によれば、著作権法32条の引用として適法とされるためには、その引用が必要不可欠であることまでは要求されないことを十分に斟酌しても、本件投稿者2が、本件ツイート2−1を投稿するに際し、本件投稿画像2−1−2を添付して引用することは「引用の目的上正当な範囲内で行なわれるもの」には該当しないと認めるのが相当である。
 そして、証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件投稿者2に対し、本件原告イラスト3及び4を複製及び自動公衆送信(送信可能か)することを許諾していなかったものと認められ、その他の違法性阻却事由も存在しないと認められる。
ウ 小括
 以上の次第で、本件投稿者2が本件ツイート2−1を投稿することにより、侵害情報の流通によって本件原告イラスト4に係る原告の複製権及び自動公衆送信権(送信可能化権)が侵害されたことが明らかであると認められる。
(3)争点1−4(本件ツイート2−2の投稿による権利侵害の明白性)について
 前記前提事実(3)イ及びウのとおり、本件投稿者2が本件ツイート2−2を投稿することにより、本件ツイート2−2を表示するタイムライン上に、同ツイートに添付された本件原告イラスト5の下部がトリミングされ、同イラストのうち、下2枚の女性の横顔のイラストの目から下の部分が切り取られた画像が表示されるに至っている。そして、弁論の全趣旨によれば、上記の表示は、本件投稿者2による上記投稿に伴って、ツイッターの仕様に従い自動的に表示されたものと認められ、かつ、そのように画像が切り取られることは、原告の意に反するものであると認められる。以上によれば、当該表示は、本件投稿者2が行った本件ツイート2−2の投稿によって惹起されるに至ったものであり、原告の意に反して本件原告イラスト5を「改変」(著作権法20条1項)するものと評価することができ、かつ、これが「やむを得ないと認められる改変」(同条2項4号)とはいえない。
 したがって、本件投稿者2が本件ツイート2−2を投稿することにより、侵害情報の流通によって本件原告イラスト5に係る原告の同一性保持権が侵害されたことが明らかであると認められる。
(4)権利侵害の明白性に関する結論
 以上の次第で、争点1に関するその余の争点について判断するまでもなく、本件投稿者1及び2による本件各投稿により、「侵害情報の流通によって」、原告の「権利が侵害されたことが明らかである」(プロバイダ責任制限法4条1項1号)と認められる。
2 争点2(本件発信者情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」(プロバイダ責任制限法4条1項)に該当するか)について
(1)争点2−1(別紙発信者情報目録記載1及び2のログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプが「当該権利の侵害に係る」発信者情報たる省令5号の「アイ・ピー・アドレス」及び省令8号の「侵害情報が送信された年月日」に該当するか)について
ア プロバイダ責任制限法4条1項は、同項1号及び2号にいずれにも該当するときに限り、「当該権利の侵害に係る発信者情報」の開示を請求することができると定めるとともに、同項によって開示される対象となるべき「発信者情報」の具体的な内容を省令に委任し、これを受けて、省令では、上記開示される対象となるべき発信者情報を限定列挙の方法により規定しているところ、この規定の趣旨は、侵害情報の被害者の権利回復を図る必要性と、発信者のプライバシーや表現の自由、通信の秘密との調和を図ることにあると解される。そして、同項においては、開示の対象となる情報について、権利の侵害に「係る」発信者情報というやや幅を持たせた文言が用いられていることに照らすと、開示請求の対象は、侵害情報が発信された過程で直接把握された発信者情報に限定されるものではなく、侵害情報についての特定電気通信の送信そのものとはいえないログイン行為に関する情報であっても、侵害情報の流通による権利の侵害に関連して把握される発信者情報であり、省令により定められているものであれば、開示請求の対象となると解すべきである。
 また、省令5号が「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」と規定し、侵害情報に「係る」というように、開示の対象となる情報をやや幅をもって規定していることからすれば、侵害情報の発信そのもののIPアドレスだけでなく、侵害情報の発信と密接に関連し、同一人物のものである確度が高い情報のIPアドレスであれば、開示請求の対象となると解すべきである。
 他方、省令8号は、「第5号のアイ・ピー・アドレスを割り当てられた電気通信設備…に侵害情報が送信された年月日及び時刻」として、開示の対象となる「年月日及び時刻」を「侵害情報が送信された」ときのものであることを定めている。このような同号の文言に照らすと、同号は、侵害情報についての特定電気通信の送信そのものの「年月日及び時刻」のみを開示請求の対象とし、ログイン行為に関する特定電気通信のタイムスタンプは同号の「侵害情報が送信された年月日及び時刻」に該当しないとみる余地がある。しかし、省令8号が、「権利の侵害に係る発信者情報(氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報であって総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)」とするプロバイダ責任制限法4条1項柱書きの規定による委任を受けて、「侵害情報の発信者の特定に資する情報」としてタイムスタンプを規定した趣旨については、いわゆる動的IPアドレス(ネットワークに接続するたびに割り当てられる、その都度異なるIPアドレスのこと)の場合等においてはIPアドレスの開示を受けるのみでは発信者を特定することができず、タイムスタンプと併せて開示関係役務提供者に開示請求を行うことによって、発信者の特定に資する場合があることを踏まえたものであると解される。そうすると、省令8号により開示の対象となる「年月日及び時刻」については、省令5号により開示の対象となる「アイ・ピー・アドレス」と統一的に解釈するのが、その法意に沿うというべきである。したがって、省令8号の「年月日及び時刻」は、省令5号の「アイ・ピー・アドレス」と同様、侵害情報の発信と密接に関連し、同一人物のものである確度が高い情報のIPアドレスに係るタイムスタンプを含むものと解するのが相当である。
イ(ア)これを本件についてみるに、前記前提事実(3)のとおり、本件投稿者1は、令和2年4月3日午後10時30分に本件ツイート1−1を、同月5日午前1時31分に本件ツイート1−2をそれぞれ投稿し、本件投稿者2は、同月7日午後7時21分に本件ツイート2−1を、同日午後7時26分に本件ツイート2−2をそれぞれ投稿しているから、本件各投稿以前になされた本件各アカウントへのログインのうち、同月3日午前零時以降のもので最も新しいものであれば、ログイン行為と上記各投稿とが時間的に相当近接しているといえる。以上に加え、ツイッターでは、アカウントにログインしなければツイートを投稿することができない仕組みを採用していること、本件全証拠によっても本件各アカウントが複数人によって管理されていることがうかがわれないことを総合すると、上記の各ログイン行為をした者が、そのログイン状態の下で本件各投稿を行ったものと推認することができる。そうすると、上記の各ログイン行為に係るIPアドレスは、侵害情報の発信である本件各投稿と密接に関連し、侵害情報の発信者と同一人物のものである確度が高い情報と認められるから、省令5号の「侵害情報に係るアイ・ピー・アドレス」に該当すると認めるのが相当である。
 そして、当該ログイン行為に係るタイムスタンプは、省令8号の「年月日及び時刻」として、開示の対象となると認められる。
(イ)原告は、別紙発信者情報目録記載1及び2のとおり、令和2年4月3日から口頭弁論終結時までのログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプの開示を請求する。しかし、侵害情報の発信である本件各投稿と密接に関連し、侵害情報の発信者と同一人物のものである確度が高い情報と認められるのは前記(ア)で認定した限りのものであり、それ以外のIPアドレス及びタイムスタンプについては、本件各投稿と密接に関連し、侵害情報の発信者と同一人物のものである確度が高い情報と認めることはできないから、原告の請求は、前記(ア)で開示の対象になると認定した部分を除き、理由がない。
ウ(ア)前記ア及びイ(ア)の認定判断について、被告は、ツイッターのアカウントへのログイン行為と侵害情報の発信行為は別個の行為であり、ログイン行為で送信される情報は侵害情報とは全く異なるものであるから、ログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプは、プロバイダ責任制限法4条1項柱書きの「当該権利の侵害に係る」発信者情報に該当しないと主張する。
 しかし、ログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプであっても、侵害情報の発信と密接に関連し、同一人物のものである確度が高いものであれば、「当該権利の侵害に係る」発信者情報として、同項に基づく開示請求の対象となる情報に該当すると解すべきであることは前記アのとおりであるから、これに反する被告の主張を採用することはできない。
(イ)また、被告は、プロバイダ責任制限法4条1項及び省令の立法趣旨や規定の内容に照らせば、省令5号及び8号を安易に拡張解釈して、開示請求の対象となり得る情報の範囲を拡大することは、通信の秘密や表現の自由等を侵害する結果となるから、許されないとして、ログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプは、省令5号及び8号所定の情報に該当しないと主張する。
 確かに、侵害情報の被害者の権利回復を図る必要性を過度に重視して、プロバイダ責任制限法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」を殊更に広く解釈することは相当ではない。しかし、前記アのように、開示の範囲を、侵害情報の発信と密接に関連し、同一人物のものである確度が高いものに限られると解釈する限り、省令5号及び8号にログイン時のIPアドレス及びタイムスタンプが含まれ得ると解しても、発信者のプライバシーや表現の自由、通信の秘密と権利を侵害された者の権利救済との利益衡量を図り、発信者情報開示請求に厳格な要件を設けるというプロバイダ責任制限法の趣旨に反する帰結に至ることはないというべきである。
 なお、被告は、省令8号が「侵害情報が送信された年月日及び時刻」と規定していることを根拠に、ログイン行為に係るタイムスタンプは同号に該当しないと主張するが、ログイン時のタイムスタンプであっても同号に該当し得ることは前記アのとおりである。このように解さないと、たとえログイン時のIPアドレスが開示されても、これに対応するタイムスタンプの開示を受けることができないこととなる結果、特に、いわゆる動的IPアドレスの場合では、開示を受けた者において発信者の特定をすることが事実上不可能となるのであって、「侵害情報の発信者の特定に資する情報」として省令5号において「アイ・ピー・アドレス」を、省令8号において「年月日及び時刻」を規定した趣旨を損なうこととなり、著しく妥当性を欠く帰結となる。
(ウ)したがって、被告の主張はいずれも採用することができない。
(2)争点2−2(別紙発信者情報目録記載3(1)の電話番号が省令3号の「電話番号」に該当するか)について
ア 前記前提事実(3)アのとおり、本件投稿者1は、改正後の省令が施行された令和2年8月31日より前の時点である同年4月3日又は同月5日に、本件ツイート1−1及び1−2を投稿したものである。しかし、証拠(甲6)によれば、本件訴えの提起に先立つ仮処分命令の申立てにおいて、原告は、別紙発信者情報目録記載3(1)の電話番号の開示を請求しておらず、本件全証拠によっても、原告が本件訴えの提起の前に上記電話番号の開示を請求したことは認められない。加えて、本件訴えの提起が、改正後の省令が施行された以降の時点である同年9月29日になされたことは当裁判所に顕著である。この点、プロバイダ責任制限法4条1項に基づく発信者情報開示請求権は、その成立要件が全て充足された時点において開示関係役務提供者に具体的な開示義務が発生するものであり、弁論の全趣旨によれば、本件訴えに係る発信者情報開示請求権については、本件訴えの提起による開示請求がされた時点で発信者情報開示請求権が発生したものと認められ、かつ、口頭弁論終結時までに同請求権が消滅したことはうかがわれないから、改正後の省令が適用されるものと認めるのが相当である。
 したがって、原告は、被告に対し、プロバイダ責任制限法4条1項及び省令3号に基づき、同号の「発信者の電話番号」として、本件アカウント1の利用者の電話番号の開示を請求することができる。
イ 被告は、プロバイダ責任制限法4条1項に基づく発信者情報開示請求権は、投稿者が特定電気通信設備の記録媒体又は送信装置に侵害情報を記録、入力するという積極的作為に及んだ時点に発生するものであり、その後に刻々と発信者情報開示請求権が発生するものではないとして、本件については、改正後の省令が遡及的に適用されるかどうかという問題が生じる旨を主張する。
 しかし、プロバイダ責任制限法4条1項に基づく発信者情報開示請求権は、その要件上、被告が指摘する同項1号に係る行為のみによって発生するものではないのは明らかであり、本件については、本件訴えの提起により発信者情報開示請求がなされた時点で、後記3の同項2号の要件を含む本件訴えに係る発信者情報開示請求権の成立要件が充足され、被告に具体的な開示義務が発生すると解され、かつ、口頭弁論終結時までにこれが消滅したことはうかがわれないことは前記アのとおりであり、これに反する被告の上記主張を採用することはできない。
ウ 以上の次第で、原告は、被告に対し、本件アカウント1の利用者に係る電話番号の開示を請求することができる。
 なお、前記第2の1のとおり、原告の被告に対する別紙発信者情報目録3(1)の開示請求と同(2)の開示請求は選択的なものであるから、前者の開示請求に理由がある以上、後者の開示請求に関する争点である争点2−3についての判断を要しない。
(3)発信者情報該当性に関する結論
 このように、本件各アカウントにログインした際のIPアドレス及び当該IPアドレスに係るタイムスタンプについては、前記(1)で説示した範囲に限り、プロバイダ責任制限法4条1項の「発信者情報」に該当する。
 また、前記(2)のとおり、本件アカウント1のアカウントの管理者の電話番号は同項の「発信者情報」に該当する。
 さらに、本件アカウント2のアカウントの管理者の電子メールアドレスは、省令4号の「発信者の電子メールアドレス」に該当し、「発信者情報」に該当する。
3 争点3(原告が本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由を有するか)について
 証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件投稿者1及び2に対し、不法行為に基づく損害賠償等を請求する予定であること、そのためには被告が保有する発信者情報の開示を受ける必要があることが認められる。
 したがって、原告には、発信者情報について、「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法4条1項2号)と認められる。
4 結論
 以上の次第で、原告の請求は、本件各投稿以前になされた本件各アカウントへのログインのうち、令和2年4月3日午前零時(日本標準時)以降のもので最も新しいもののIPアドレス及びタイムスタンプ、本件アカウント1の管理者に係る別紙発信者情報目録記載3(1)の情報並びに本件アカウント2の管理者に係る同目録記載4の情報の開示を求める限度で理由があるからその限度で認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 矢野紀夫
 裁判官 佐々木亮


別紙 発信者情報目録
 別紙投稿記事目録1及び別紙投稿記事目録2記載の各記事を投稿した者に関する情報であって、次に掲げるもの。
1 別紙投稿記事目録1及び別紙投稿記事目録2のユーザー名欄記載のアカウントにログインした際のIPアドレスのうち、令和2年4月3日から口頭弁論終結時までのもので、被告が保有するもの全て。
2 前項のIPアドレスが割り当てられた電気通信設備から、被告の用いる特定電気通信設備に前項のログイン情報が送信された年月日及び時刻。
3(1)別紙投稿記事目録1のユーザー名記載のアカウントの管理者の電話番号。
(2)別紙投稿記事目録1のユーザー名記載のアカウントの管理者の電子メールアドレス(携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方式のもの。)。
4 別紙投稿記事目録2のユーザー名欄記載のアカウント管理者の電子メールアドレス(その全部又は一部においてシンプルメールトランスファープロトコルが用いられる通信方式のもの。)。
 以上

別紙 投稿記事目録1
1 本件ツイート1−1
閲覧用URL https://以下省略
名前
ユーザー名 C’
投稿日時 2020年4月3日 午後10:30
投稿内容 これどうだろうww
ゆるーくトレス? 普通にオリジナルで描いてもここまで比率が同じになるかな
2 本件ツイート1−2
閲覧用URL https://以下省略
名前
ユーザー名 C’
投稿日時 2020年4月5日 午前1:31
投稿内容 この鏡餅も画像検索ですぐ出てきた。
トレス常習犯ですわ。
Bさん
 以上

別紙 投稿記事目録2
1 本件ツイート2−1
閲覧用URL https://以下省略
名前
ユーザー名 D’
投稿日時 2020年4月7日 午後7:21
投稿内容 B様がトレースを否定するツイートをされたようです
それを信じているファンの皆様
一度こちらのイラストを見て下さい
これもまた、B様が描いたイラストです
横顔のイラストと比較し、画力の差に違和感を感じませんか?
2 本件ツイート2−2
閲覧用URL https://以下省略
名前
ユーザー名 D’
投稿日時 2020年4月7日 午後7:26
投稿内容 特に横顔同士で比較してみてください
左の絵には鼻と唇の間に不自然な山があり「横顔がどうなっているか」という
基本的なデッサンを理解していない方が描いたようにしか見えません
B様は他のイラストでも手が描けない方です
それでもトレースしていない、という主張を信じられるでしょうか
 以上

別紙 原告イラスト目録―省略
別紙 投稿画像目録―省略
別紙 タイムライン表示目録―省略
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