判例全文 line
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【事件名】編み物動画の“YouTube”公開事件
【年月日】令和3年12月21日
 京都地裁 令和2年(ワ)第1874号 損害賠償請求事件

判決


主文
1 被告らは、原告に対し、連帯して7万4721円及びこれに対する令和2年2月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを100分し、その6を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 被告らは、原告に対し、連帯して118万7227円及びこれに対する令和2年2月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
 本件は、原告が、動画共有サービス「YouTube」(以下、同サービス及びその運営主体を「YouTube」という。また、YouTubeの利用者を「利用者」、利用者のうち動画投稿を行う者を「投稿者」という。)に投稿した動画が、被告らからの著作権侵害に関する通知によって削除されたことは、不法行為に当たると主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、118万7227円(精神的損害100万円、経済的損害7万9297円、弁護士費用10万7930円)及びこれに対する不法行為の日である令和2年2月6日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
1 前提事実(争いのない事実、後掲証拠〔特記のない限り、枝番があるものは枝番を含む。以下同じ。〕及び弁論の全趣旨により認められる事実)
(1)当事者
ア 原告
原告は、A名義で、主に自身が編み物を編んでいる場面や作品等を撮影した動画を、YouTubeに投稿している者である。国家検定である和裁技能士1級を保有している。(争いのない事実、原告本人1頁)
イ 被告
 被告Bは、C名義で、自身が編み物を編んでいる場面や作品等を撮影した動画を、YouTubeに投稿している者である(以下、同名義の投稿者又はこれと同視できる者をCといい、Cが投稿した動画を「被告動画」という。)。(争いのない事実)
 被告Dは、Eという屋号で古美術品や骨董品の売買をしている者である。本訴における被告らの住所は同じである。(争いのない事実、顕著な事実)
 Eは、被告B名義で古物商の許可を受けており、被告Bは、Eの共同経営者であって、Eのウェブサイトの管理を担当している。また、Cは、Eの一部門であり、EにおいてYouTubeからの広告収益を管理している。(争いのない事実、甲3の1・7頁、乙18・5頁、被告D本人10頁)
(2)YouTubeのサービスの概要と著作権侵害通知等についての定め
ア サービスの概要
 YouTubeは、インターネットを介して動画の投稿や投稿動画の視聴などを可能とするサービスである。投稿者に対しては、動画の視聴者数等に応じ、広告収益として金銭が支払われる。(争いのない事実)
イ 著作権侵害通知等
 著作権者は、自身のコンテンツが無許可でYouTubeに掲載された場合、YouTubeに対して、著作権侵害の通知(以下「著作権侵害通知」という。)を提出することができる。同通知は、ウェブフォームに所要の入力を行うことによっても可能である。YouTubeは、適式な著作権侵害通知がされた場合、対象の動画を削除し(ただし、厳密には、当該動画が非公開とされるのみで、完全に削除されるわけではないようにうかがえるが、以下では、特に区別することなく「削除」と表記する。)、その投稿者に対して、著作権侵害の警告(以下「著作権侵害警告」という。)を発する。初回の著作権侵害警告は、事前警告として取り扱われ、一定の教育措置(コピーライトスクール)が講じられるのみであるが、著作権侵害警告が3回された場合、当該投稿者のアカウントと関連付けられているチャンネルが全て停止され、新たなチャンネルを作成することもできなくなり、同アカウントによって投稿された全動画が削除される。著作権侵害警告を解除するには、90日の期限切れを待つか、著作権侵害通知をした者に申立てを撤回してもらうほか、後記の異議申立てをすることによる。なお、YouTubeでの行動のルールを定めた「コミュニティガイドライン」に違反した場合の警告の制度も設けられているが、これは著作権侵害の警告とは異なるものである。(争いのない事実、甲7、8、17、18、乙23)
ウ 異議申立て
 著作権侵害警告を受けた動画の投稿者(又は弁護士等の代理人)は、YouTubeに対し、異議申立てを提出することができる。異議申立ては、動画が間違って削除されたか、取り違えによって削除された場合、又はフェアユースに該当する場合にのみすることができ、インターネット上で、著作権侵害通知の対象となった動画を選択し、所定の操作を行うことにより送信することができる。YouTubeは、適式な異議申立てを受けると、著作権侵害通知をした者に対し、個人情報も含めた異議申立ての全文を転送する。著作権侵害通知をした者には、コンテンツの削除状態を維持するために裁判所への請求を行ったという証拠を提出するまでに10営業日の猶予期間が与えられ、同期間内にその提出がなければ、削除された動画は復元される。(乙1)
(3)原告動画の削除
 原告は、YouTubeにおいて、令和元年8月1日、Fと題する約25分の動画(以下「原告トリニティ動画」という。閲覧用ウェブページのURLにGが含まれ、原告が「原告動画A」と呼称するもの。)を、令和2年2月3日、Hと題する約20分の動画(以下「原告メランジ動画」という。閲覧用ウェブページのURLにIが含まれ、原告が「原告動画@」と呼称するもの。また、以下、両動画を併せて、「原告動画」ということがある。)を投稿した。(甲5、6、56、57)
 被告Bは、令和2年2月6日、YouTubeに対し、原告動画全体についての著作権侵害通知(以下「本件侵害通知」という。)を提出し、その頃、原告動画は、YouTubeから削除された。その後、原告動画は、本件侵害通知の法的要件が欠けており、追加情報の提出もなかったことを理由として、同年8月29日、YouTubeにおいて復元された。(争いのない事実、甲28)
2 争点
(1)本件侵害通知による不法行為責任の成否(争点1)
(2)被告Dの責任の有無(争点2)
(3)損害の発生及びその額(争点3)
(4)過失相殺(争点4)
3 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(本件侵害通知による不法行為責任の成否)について
(原告の主張)
ア 権利利益侵害
 以下のとおり、本件侵害通知は、原告の権利利益を侵害するものである。
(ア)精神的苦痛
 原告は、1つの動画の作成に30時間程度を費やしているところ、本件侵害通知によって、原告動画がYouTubeから削除された。また、自身のチャンネルに警告が表示され続けたことから、3度目の通知によりチャンネルが削除等されてしまうことにおびえたため、動画を投稿することができず、精神的苦痛を被った。YouTubeで収益を受け取ることができるようになるためには、チャンネル登録者数が1000人以上、直近1年間の再生時間が4000時間以上となる必要があり、一般人である原告にとっては、チャンネル自体が削除され、かつ、新しいチャンネルを作成することもできなくなることによる苦痛は、筆舌に尽くし難いものである。
(イ)経済的不利益
 原告は、本件侵害通知によって、原告動画がYouTubeから削除され、広告収益を受け取ることができなかった。
(ウ)著作権侵害をしていないこと
 原告動画は被告らの著作権を侵害するものではない。編み物作品そのものや編み図を著作物として認めた裁判例は存在しないし、原告は、被告動画に依拠せずに原告動画を作成した。
(エ)異議申立てについて
 被告らは、原告が執り得る手段として、異議申立てをすることができたと主張するが、原告は、実際に、弁護士を通じ、3度にわたって異議申立てをした。しかし、YouTubeに対しては、毎日、世界中から膨大な量の著作権侵害通知がされていたという事情のほか、YouTubeの運営会社である「Google」が、令和2年2月頃より、新型コロナウイルス感染拡大防止のためサポートに通常よりも時間を要すると宣明していたように、異議申立ての対応に時間を要したものと考えられる。実際にも、YouTubeにおいては、チャンネルの回復に1か月以上を要した利用者が存在した。
 なお、仮に原告が異議申立てをし、YouTubeにより速やかな対応がされたとしても、最短で10営業日の間、動画は非公開となる。また、異議申立てをすることによってアカウントが削除され得るし、原告の個人情報が被告らに知られる可能性もあったこと、被告らが異議申立てをしないよう警告を発していたことなどからすると、原告にとって異議申立てをすることは、容易なことではなかった。
 YouTubeの仕様の基礎となるアメリカのデジタルミレニアム著作権法(以下「DMCA」という。)によって改正・追加されたアメリカ著作権法512条においては、故意に重大な不実の表示を行う者は、被害を受けた侵害者と主張された者が被った全ての損害を賠償する責任を負うとされているからしても、原告について法律上保護された利益を観念できないとの被告らの主張は失当というべきである。
イ 故意又は過失
(ア)故意
 被告動画のコメント欄の記載(甲12)からすると、被告らは、編み物の作品や編み方が著作物とはならないことを十分に認識していた。被告らと原告との間のメールのやり取り(甲13、14)によると、被告らは、著作権の依拠性に関する検討をしていないことが明らかである。また、被告らは、原告に対するのと同様に、多数の投稿者に対し、著作権侵害通知をしていた。以上の事情によれば、被告らは、原告動画が被告らの著作権を侵害するものではないことを知りながら、本件侵害通知をしたといえる。
 被告らが、原告動画につき、依拠性の検討を何らすることなく、その全体について著作権侵害通知をしたこと、著作物性や依拠性について全く理解していないような発言(甲29)をしていたこと、編み物が著作物にならないことを知りながら、けん制目的で多数人の動画を削除させるなどして、競合関係にある動画の封殺を狙い、警察や裁判という言葉をちらつかせて、示談金の要求をほのめかしていたこと、原告に対する恫喝等を繰り返していること、あたかも自身らのチャンネルが大きな企業として組織によって運営されており、弁護士等の後ろ盾もあるかのように誇張した表現を用いていることからすると、本件侵害通知は、制度を悪用するものというべきである。
(イ)重過失
 著作権侵害通知は、自らが著作権の保有者等であること、対象となるコンテンツの使用が無許可であると確信していること、通知が正確であること、虚偽又は不誠実な通知が法的に不利となり得ると認識していることなどを確認した上で行わなければならない。また、著作権侵害通知がされることにより、対象動画が削除されるだけでなく、投稿者のアカウント停止や全動画の削除といった甚大な被害が生じることになる。したがって、著作権侵害通知をする者は、事実関係を十分調査し、証拠を検討して、通知を相当とする客観的証拠を確認した上で、これをすべき注意義務を負うというべきである。被告らは、かかる確認を一切することなく、本件侵害通知をしたのであるから、重大な過失があるというべきである。
 被告らは、弁理士及び弁護士に相談したと主張するが、被告らの主張を前提とすると、被告らが弁理士らにしたという相談は、原告動画の著作権法違反の点とは何ら関わりのない事項に関するものであって、被告らが、著作権の依拠性に関する相談をしていたとは考えられない。
(被告らの主張)
ア 権利利益侵害
 原告がチャンネルが削除等されることにおびえるなどしたとしても、それは単なる不安感に過ぎず、法律上保護される利益ではない。
 また、利用者間の紛争は、YouTube内の規約により解決する仕組みが設けられているのであるから、こうした仕組みにより解決を図るべきである。原告は、規約に同意してYouTubeを利用していたのであり、異議申立てにより容易に動画を復元することができたのであって、YouTubeの仕組みによって生じた事実上の不利益は、法律上保護される利益とはならない。原告による異議申立てが承認されなかったことは、コンテンツが誤りにより削除された、又はコンテンツが誤認により削除されたといった要件を主張しなかったことによるものと考えられ、その落ち度を被告らに転嫁できる理由はない。現に、被告Bは、同じくYouTubeにおける制度である「ContentID」に関する申立てを受けたことがあるが、異議申立てをしたところ、翌日には収益化が再開されている。
イ 故意又は過失
 被告Bは、原告動画が、編み物の編み方について被告動画と同様の説明をしていたこと、被告動画を参照しなければ、原告動画を作成することができない状況であったことから、原告動画が著作権を侵害していると認識した。著作権侵害通知をするに当たり、客観的証拠の確認が要求されていないことは、通知をする際のチェックリストの内容からも明らかであるが、被告Bは、J弁理士及びK弁護士に相談をし、著作権の依拠性に関する要件につき十分な検討を行った上で、本件侵害通知を行った。
(2)争点2(被告Dの責任の有無)について
(原告の主張)
 被告Bは、被告動画において、自身が会社に所属し、その一部門としてチャンネルを運営しているとか、役員会議や会社の方針で、盗作疑惑に対する法的措置を行うと述べるなどしていた。また、被告Dは、原告代理人や他の利用者に対して、自らが当事者となっていることを認めるやり取りをしている。したがって、被告Dは、Cの共同運営者であり、本件侵害通知に主体的に関与していた。
(被告らの主張)
 被告BがEのウェブサイトを管理していることから、同人は、Cのチャンネルを時折紹介していたが、Cを運営しているのは、あくまで被告Bであり、原告とメールのやり取りをしたり、著作権侵害通知をしたのも被告Bである。
 同人が被告Dと意思を通じたこともない。被告Dが原告以外の利用者とやり取りをしたことはあったが、それは連絡手段となるサービスのアカウントを被告Bが有していなかったからにすぎない。
(3)争点3(損害の発生及び額)について
(原告の主張)
ア 精神的損害100万円
 上記不法行為の態様等からすれば、原告の精神的苦痛を慰謝するための金額は、100万円を下らない。
イ 経済的損害7万9297円
 原告メランジ動画は、公開されていた4日間の広告収益が1463円であり、原告トリニティ動画は、直近3か月(92日)間の広告収益が1766円であった。したがって、1日当たりの収益は、原告メランジ動画について365.75円、原告トリニティ動画について19.19円を下らない。原告動画は、令和2年2月6日から同年8月29日の206日間にわたり削除されていたから、この間に原告が受け取ることができた収益は、7万9297円((365.75円+19.19円)×206日)を下らない。
 なお、著作権侵害通知がされた以上、異議申立てをしたとしても、最低10営業日は動画が非公開となるところ、原告動画の1日当たりの収益合計384.94円(365.75円+19.19円)に10営業日すなわち14日を乗ずると、5389.16円となる。
ウ 弁護士費用10万7930円
(被告らの主張)
 否認ないし争う。なお、投稿動画の視聴者数は、投稿後数日間に最大を数え、その後は減少するという推移をたどる。そうであれば、原告メランジ動画について、投稿直近4日の広告収益が長期間にわたって維持されるものではないし、このことは原告トリニティ動画についても同様である。
(4)争点4(過失相殺)について
(被告の主張)
 原告は、異議申立て通知を行うことなく、漫然と原告動画が削除されるに任せたのであり、相当程度の過失相殺がされるべきである。
(原告の主張)
 原告が、異議申立てをし、過失のなかったことは、上記(1)の原告主張のとおりである。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件侵害通知による不法行為責任の成否)
(1)著作権侵害の有無
 技術や手法といったようなアイデア自体は、著作権法による保護の対象となるものではない。また、それが表現された場合の表現の創作性についても、技術内容を表現しようとすると、その方法は自ずと似通ったものとなる場合が多いと解されるから、多くの場合は創作性があるとはいえないか、それらの表現が著作権法上保護されるとしても、その範囲は比較的狭いものとならざるを得ないと解される。
 このような観点から、被告らの指摘する原告動画と被告動画との類似点等に照らし、本件について検討すると、まず、証拠(甲56、57、乙9)によれば、原告動画及び被告動画は、基本的には、編み物を作成しつつ、その編み方という技術、技法について、映像のほか、口頭又は文章により説明を行うものであると認められる。そして、被告Bの説明(乙10、被告B本人)によると、原告メランジ動画については、原告の「くさり1目で立ち上がって根元の目に細編みを2目します」「前段1目飛ばして次の目に細編みを2目いれます」「1目飛ばして次の目に細編みを2目入れる、を繰り返して一周編みます」であるとか、「前段と同じです」「1目飛ばして次の目に細編みを2目入れる、を繰り返します」といった文章による表現と、被告の「立ち上がりを1目入れ、もう1目を入れた後、1目スキップ(飛ばして)して、その次の目に(細編みを)2目入れる」といった口頭による表現とが、「1目飛ばし、細編み2目入れる」という点などで同じであるという。しかし、両者を対比しても、編み方の説明ないし表現方法として殊更に類似しているとは認められないし、被告動画における説明に思想又は感情が創作的に表現された部分があるとしても、これが原告の説明において再現されているとはいえない(なお、両者の映像も類似しているとはいえない。)。かえって、被告の作成書面(乙10・20ないし22頁)によれば、原告メランジ動画は、被告動画と対比するとかぎ針と糸との位置関係が逆となる技法で編まれていることを指摘することができる。
 また、被告Bの説明(乙10、被告B本人)によれば、原告トリニティ動画については、原告の「鎖1目で立ち上がって」「立ち上がったところで細編み1つ」「細編みしたところに針を入れて、取ってくる。」「そのまま次の目に針を入れて取ってくる。」「更に次の目にも針を入れて取ってくる。」「4本一度に引抜いてくる。」であるとか、「最後だけちょっと違うので気をつけます。」「鎖編みはしないで」「最後の同じ目に細編みします。」といった口頭による表現と、被告動画における表現とが、立ち上がりの説明を短くして、「同じ目」から始め、細編みの目を共有することを強調したり、最後が細編みになることを強調する点などで、同じであるというのであるが、これらについても、編み方の説明ないし表現方法として殊更に類似しているとは認められない。
 以上によれば、原告動画は、被告動画についての著作権を侵害するものではないと認めるのが相当であり、ほかにかかる認定を左右する主張立証は見出せない(なお、被告動画における編み方自体に関して、著作権を認めることができないことはいうまでもない。)。なおも原告動画が被告動画の著作権を侵害するというのであれば、それはもはや、編み方が同じ又は類似するものであれば、その説明方法の如何にかかわらず著作権侵害が発生するというに等しく、そのような主張ないし認識は被告ら独自のものと言わざるを得ない。
(2)被告Bの重過失等
 証拠(甲17、18)によれば、著作権侵害通知をするに際して、侵害されたと思われる作品の説明に加え、自身が著作権者等であること、投稿者によるコンテンツの使用が許可されていないことを確信していること、通知が正確であることを確認した上でこれをしなければならないとされていることが認められる。YouTubeにおけるルールとしてこのような定めがされていること、著作権侵害通知に(異議申立てが認められているにしても)対象動画の削除やチャンネルの停止等の一定の効果が結び付けられていること(前提事実(2))を考慮すると、不法行為法上の義務としても、著作権侵害通知をする者は、著作権侵害の有無について、少なくとも一定の確認等を行った上でこれをすべきであり、これを怠って著作権侵害通知を行った場合、その態様によっては、対象動画の投稿者に対する不法行為が成立し得ると解すべきである。
 そこでさらに検討すると、証拠(甲16、29、33、38、乙21)によれば、被告Bは、自らのチャンネルに投稿した動画において、「パクリ」「盗作」疑惑の例として、器具の紹介といった単なるアイデアにすぎないものについても、先行して動画を投稿した以上は、自身に権利が生じていると述べたり(甲29の1・2、3頁)、投稿した動画におけるコメントにおいて、自らが概要欄で指定した手順が履践されない限り、著作権侵害に該当するなどと述べているほか(甲16)、被告Bの主観によりマナー違反であると考えた場合においても、YouTubeに対して報告をしていたこと(甲38)、原告以外の投稿者に対し、単に対象動画の編み方が同じ又は類似しているとの理由によって、著作権侵害通知をするなどしていたことが認められる(甲33、乙21)。また、証拠(甲28)によれば、本件侵害通知についても、原告トリニティ動画が全体において「著作権、翻訳権の侵害」であり、原告メランジ動画が全体において「編み目(スティッチ)の著作権侵害」であると申告していたことが認められるが、原告動画の一部又は全部について、被告動画との関係において、編み目についての著作権を侵害するものと認める事情はないことは上記認定説示のとおりであり、被告Bの翻訳に関する何らかの権利を原告が侵害したことを認めるべき根拠も何ら見出せない。さらに、証拠(甲14)によれば、被告Bは、原告からの問合せに対して、令和2年2月6日のメールにおいて、「動画が削除されたのはあなたが気づかない間に知的財産を侵害したから」であると断じた上で、原告による著作権侵害については、Cの作品と原告のものが作風において違うことは自認しながら、原告のものがオリジナルではないと述べるにとどまっており、この点も被告Bがいかなる考えで著作権侵害通知を行っていたかをうかがわせるものといえる。その他、他の投稿者に対する被告Bの著作権侵害通知について見ても、証拠(甲16、40の2、50)によれば、被告Bは、令和2年2月21日(なお、本件侵害通知がされたのは、同月6日である。)までに、編み物に関する5つのチャンネルについて、著作権侵害通知をし、特にL名義の利用者の編み物の動画については、3度にわたり著作権侵害通知を行って、同人の投稿動画は、計8つが削除されるに至ったと認められるところ、被告Bは、Lについて「同じ編み方の説明の同じ内容の動画」であることから著作権侵害通知をしたものと述べていること(被告B21頁)、申告理由が「著作権侵害した編み方で編んだ作品を紹介している」とされているものがあること(甲33)からすると、この通知も、編み方が同じであれば著作権侵害があったものとして著作権侵害通知をするとの見解に基づいてされたことがうかがえる。
 以上に鑑みると、被告Bは、編み方が同一又は類似のものを説明する動画であれば、先行して動画を投稿した被告Bの著作権を侵害するものとなるとの独自の見解に基づき、複数の投稿者に対し、繰り返し著作権侵害通知をしていたものと認めるほかはなく、原告に対する著作権侵害通知も、その一環として行われたものと認められる。本件において被告らが主張するような意味で著作権が侵害されるものではないことは上記認定説示のとおりであり、被告Bが、当初から同主張と同様の認識を有していたと推認し得る証拠もないことからすると、同人においては、表現方法の類似があるか否かにかかわらず、あるいは著作権侵害がない蓋然性があると認識した上で、あえて本件侵害通知を行ったもの認めざるをえない。また、証拠(甲12)及び弁論の全趣旨によれば、被告Bは、令和元年6月頃、YouTube上のCの動画のコメント欄において「他のユ―チューバ―さんたちが言ってる著作権というのは、本当は著作権として認められないものが多いと思う。それは弁理士さんや弁護士さんに尋ねたらすぐに分かることなんだ。」などと記載していること等に照らせば、被告Bは、編み物の編み方の動画の著作権侵害の成否については法的な問題があることを認識していたと認められる。
 これに対し、被告らは、弁理士等に相談した上で、編み方の動画での説明につき著作権が生じていると理解したなどと主張する。この点については、本件侵害通知がされた令和2年2月6日の約1か月後の日である同年3月3日付けで、Cのウェブサイトにおいて、著作権に関する主張(編み方に関する表現の著作物性を否定した裁判例はあるが、表現形式〔説明方法〕については、Cに著作権が帰属するなどとと〈ママ〉いうもの。)が掲載されていることは認められる(乙5)。しかし、仮に、被告Bが本件侵害通知の時点までに編み方を説明した動画の著作権侵害に関して弁理士等に相談をしていたとすれば、相談を受けた弁理士等は、専門家の職責として、編み方自体は著作権法において直ちに保護されないという原則論を踏まえた上で、同じ編み方を説明しているというのみでは著作権侵害とはならないとの点を説明していたはずであると考えられるところ、上記認定した事実によれば、本件侵害通知を含む被告Bの一連の言動は、かかる説明を受けていたとは到底考え難いものであるか、あえてこれを逸脱したものと見ざるを得ないものであったといえる。また、上記コメント欄の記載(甲12)も、その内容に照らして、弁護士や弁理士に具体的な相談をしたことを直ちにうかがわせる内容のものとはいえないし、上記記事(乙5)についても、本件侵害通知の後のものであり、本件著作権侵害通知の時までに、被告Bが弁護士又は弁理士に相談した上でそのような説明を受けていたとは直ちに認められない上、仮に、弁理士等から上記記事(乙5)程度の抽象的な説明を受けたのみで、原告動画が被告動画の著作権を侵害すると判断したというのであれば、これは明らかな飛躍というべきであって、著作権法上の問題の有無にかかわらず、あえて自らの主張を貫徹しようとしたものと認めざるを得ない。
 以上によれば、被告Bにおいては、編み物の編み方を説明した動画の著作権侵害の成否について法的問題があることを認識しながら、前記のような独自の見解に基づき、双方の表現方法の同一性又は類似の如何にかかわらず、あえて本件侵害通知を行ったものと認めるほかはない。かかる被告Bの注意義務違反の程度は著しく、少なくとも重過失があったと認めるのが相当である。
(3)小括
 以上の事実関係によれば、本件侵害通知は、後記のとおりの損害との関係において、不法行為に当たると認めるのが相当である。被告らは、原告において異議申立てをすることができたとも主張するが、証拠(甲28・2頁)によれば、YouTubeは、原告に対し、本件侵害通知をした者の住所と電話番号は、同人を提訴する意思がある場合に提供されるので、その意思がある場合は連絡するようにと伝えたことが認められ、これによれば、YouTube自体においても、制度上、異議申立ての成否にかかわらず、訴訟による解決を図ることを排除していないものと解され、さらに上記認定したとおりの被告Bの行為の態様等にも照らすと、異議申立てをすることができたとの一事をもって被告Bにつき不法行為の成立が妨げられるということはできず、被告らの上記主張は採用できない。
2 争点2(被告Dの責任の有無)
 証拠(甲16、29、乙21、被告B本人15頁)によれば、被告Bは、平成31年4月頃(甲29、被告B本人15頁)や令和2年1月16日(乙21)から、繰り返し、Cが会社組織により運営され、役員会議等の判断により方針が決定されているなどと述べていたことが認められる。さらに、証拠(甲30、52、54、59、60)によれば、被告D自身も、令和2年2月7日には既に、Cの社長として、被告Bに返信を送らせていた旨述べ(甲59)、翌日である同月8日までには、M名義の利用者との間で和解契約をしたことを始め(甲60)、繰り返し、Cの責任者又は関係者であることを示す言動をしていたことが認められる。
 以上によれば、被告Dが、本件侵害通知を含む一連の著作権侵害通知について、およそ把握していなかったとは考え難く、むしろ、被告Bが、Eの一部門であるCの活動として、複数名に著作権侵害通知をしていることを認識しつつ、被告Bのそうした行動に助力ないしは加担していたと推認するのが相当である。
 したがって、本侵害通知による不法行為につき、被告Dも、共同不法行為者(ないしは幇助者)として、被告Bと同様の責任を負うと認めるべきといえる。
 これに対し、被告らは、被告Bが著作権侵害通知をしたことで騒動となった後に、初めて被告Dが関与するようになったと陳述等するが、上記認定事実に照らし、にわかに信用できない。また、原告動画は本件侵害通知後、令和2年8月まで削除されていたのに、被告Dは、本件侵害通知後に原告動画を確認し、被告動画との類似性を確認した時期について、復元後とも供述しつつ、本件侵害通知の後間もない騒動が生じた時期かとの質問に対してもこれを肯定するという曖昧な証言をしており(被告D3、7頁)、この点においても信用できない。
3 争点3(損害の発生及びその額)
(1)精神的苦痛に対する損害5万円
 YouTubeにおける動画の投稿が、広告収益という経済的利益を目的とした活動の側面を有していることを踏まえても、動画の投稿・共有やこれを通じた他の利用者との関係によって、人格的な利益が生ずることは否定し難く、動画の削除やチャンネルの停止等により、こうした利益を享受できなくなることや、その可能性が具体的に生ずることにより、投稿者が精神的苦痛を受け、損害を被ることはあり得ると解される。そして、既に説示したとおり、本件侵害通知につき被告らの不法行為が成立すると認められるところ、上記のとおり被告Bが独自の見解に基づいて安易に著作権侵害通知をしていたことも考慮すると、原告は、上記のような意味での精神的苦痛を受け、損害を被ったと認めるのが相当である(被告らは、原告には法律上保護されるべき利益がないとも主張するが、かかる主張は採用できない。)。他方で、原告の感じた精神的苦痛が特に重大であったと認めるに足りる的確な証拠はなく、原告が種々指摘する点を踏まえても、同人に対する慰謝料としては、5万円に限り、これを認めるのが相当である。
(2)広告収益に関する損害1万7929円
 証拠(甲31、32)によれば、原告メランジ動画についての広告収益は、令和2年2月3日から同月6日までの4日間で、合計1463円(1日当たり365.75円)であり、原告トリニティ動画についての広告収益は、令和元年11月6日から令和2年2月6日までの93日間で、合計1766円(1日当たり18.98円)であったことが認められる。また、前提事実(3)によれば、原告動画がYouTubeにおいて削除されていたのは、令和2年2月6日から同年8月29日の206日間である。
 他方で、一般に新しく投稿された動画の方が、より利用者の耳目を集めやすいと考えられることからすると、広告収益は、動画を投稿してから逓減するはずであるという被告主張は排斥し難く、原告メランジ動画の広告収益は、30日間は1日当たり350円、その後は、原告トリニティ動画との対比を考慮して、1日当たり20円の限度でこれを認めるのが相当である。
 そうすると、原告が被った広告収益に関する損害は、1万7929円(〔350円+18.98円〕×30日+〔20円+18.98円〕×〔206日−30日〕)。端数切捨て。)に限り、これを認めるのが相当である(なお、原告動画の削除又は復元の当日分については、一定程度の広告収益が得られている可能性がないではないが、特に上記認定を左右すべき事情ではない。)。
(3)弁護士費用6792円
 以上の損害額合計及び本訴の内容に鑑みれば、本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、上記損害額合計6万7929円の1割である6792円と認めるのが相当である。
(4)合計7万4721円
4 争点4(過失相殺)
 本件侵害通知が上記のとおり重過失によるものであること、原告の損害が上記認定の程度にとどまることからすると、原告に相応の過失がない限り、過失相殺を認めることは、相当とはいえない。
 そこで検討すると、証拠(乙1)によれば、YouTubeにおいて、異議申立ては、著作権で保護されたコンテンツの使用については、明確な説明をするか、自身の動画内のコンテンツが間違って特定されたと思われる場合には、その理由を説明しなければならず、同説明に当たっては、そのコンテンツについて、所有者は誰か、著作権で保護された他者の作品を使用した場合、ライセンス又は許可の証拠を提示できるか、使用方法がフェアユースなどの著作権に対する例外措置によって保護されているか、パブリックドメイン(著作権の存在しない状態と解される。)であるか、といった点に留意する必要があるとされていることが認められる。また、証拠(甲35ないし37、58・6頁)によれば、原告代理人は、令和2年3月5日、「そもそも編み物の編み方そのものは、抽象的な構想又はアイデアにとどまるもので著作物性の根拠となるものではありません(知財高裁平成24年4月25日判決)。また申立人の主張する著作権の内容が判然としていないため具体的に反論することはできないものの、申立人による編み方の説明内容に独創的な表現が存在することを確認できません。」と主張して、異議申立てをしたが、同月8日、YouTubeから、正当な理由が確認できないため異議申立てを受理できないとの回答がされ、更に、同日及び同年4月10日、YouTubeに対し、日本にはフェアユースに該当する規定が存在しないことを指摘し、著作権侵害通知をした者に著作権が存在しない場合も「誤りまたは誤認によって削除された場合」に該当すると主張して、反論のため、権利侵害が主張されている動画の特定を求める旨のメールを送信したことが認められる。
 上記事実関係によれば、確かに、原告代理人による上記異議申立ては、形式的に見れば、原告がコンテンツの所有者であること、すなわち、原告動画を作成したのが原告であること等の説明を欠いているとも考えられ、その限度で、異議申立てに必要となる形式を充足していなかったと解することが可能である。しかし他方において、前提事実(2)、証拠(甲25)及び弁論の全趣旨によれば、YouTubeは、DMCAに則った規律によっていると考えられるものの異議申立てに対し具体的にどのような体制・運営を構築、採用しているかは判然としないところではあるが、一般論としては、弁護士名義の申立てについては、本来的にはより慎重な対応がされるものと考えられるのであり、実際にも、証拠(甲28)によれば、YouTubeは、一旦受理した本件侵害通知について、Cに追加情報の提供を求め、その提出がなかったことから、著作権侵害警告を解除したと認められることにも照らすと、原告代理人からの異議申立てが受理されなかったのが、単にコンテンツの所有者を明示しなかったこと等の不備を理由とするものであったと認めるには足りないというべきである。そうすると、弁護士代理人に委任して異議申立てを行った原告について、損害賠償額を減額することを相当とする程度の過失があったとまでは認められないというべきである(なお、被告らは、被告Bが通知を受けた際にした異議申立てが認められていたことを指摘するが、証拠〔乙15、16、20〕によれば、被告Bが受けた通知は、「ContentID」による通知であって、動画の削除等はされず、著作権侵害通知とは異なる仕組みによるものであると認められるから、被告らの指摘する点は上記認定を左右するものではない。)。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求は上記の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

京都地方裁判所第2民事部
 裁判長裁判官 長谷部幸弥
 裁判官 中山裕貴
 裁判官 浦恩城泰史
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