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【事件名】GMOインターネットへの発信者情報開示請求事件D
【年月日】令和3年12月21日
 東京地裁 令和3年(ワ)第17321号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年11月9日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 田中圭祐
同 吉永雅洋
同 遠藤大介
同 蓮池純
同 神田竜輔
被告 GMOインターネット株式会社
同訴訟代理人弁護士 松井将征
同 川ア友紀
同 八木優大


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、原告が、氏名不詳者が被告の提供するインターネット接続サービスを経由してインターネット上の投稿サイトに投稿した別紙投稿記事目録記載1及び2の各記事(以下「本件各投稿記事」といい、同目録記載順に、「本件投稿記事1」、「本件投稿記事2」という。)により、原告の著作物に係る複製権及び公衆送信権(送信可能化権を含む。)、原告の名誉権、プライバシー権並びに名誉感情が侵害されたことが明らかである旨を主張して、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記した証拠(枝番のあるものはそれらを含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
 原告は、「B」というペンネームを用いて漫画家として、あるいは「C」というペンネームを用いて同人作家としての活動をしている者である。
 被告は、インターネット接続プロバイダ事業等を目的とする株式会社である。
(2)氏名不詳者による投稿
 氏名不詳者により、別紙投稿記事目録記載1及び2の各「投稿日時」において、ツイッター上に、本件各投稿記事が投稿された(甲1。以下、本件各投稿記事に係る投稿を、「本件投稿1」及び「本件投稿2」といい、これらを併せて「本件各投稿」という。)。
 本件投稿記事1には、別紙投稿記事目録記載1の「使用画像1」欄記載の長方形の枠内の画像(以下「本件画像1」という。)及び「使用画像2」欄記載の2枚の画像(以下、同画像のうち、丸い枠内の画像を「本件画像2」といい、長方形の枠内の画像を「本件画像3」といい、本件画像1ないし3を併せて「本件各画像」という。)が貼付されている(甲1、6)。
2 争点
(1)本件発信者情報の「権利の侵害に係る発信者情報」(法4条1項)該当性(争点1)
(2)本件各投稿による原告の権利侵害の明白性(争点2)
ア 本件投稿1による原告の著作物に係る複製権及び公衆送信権侵害の有無(争点2−1)
イ 本件投稿1に係る適法な引用の成否(争点2−2)
ウ 本件投稿1による原告の社会的評価の低下の有無(争点2−3)
エ 本件投稿1に係る真実性の抗弁の成否(争点2−4)
オ 本件投稿2による原告の名誉感情の侵害の有無(争点2−5)
カ 本件投稿2による原告のプライバシー侵害の有無(争点2−6)
(3)発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無(争点3)
3 争点に対する当事者の主張
(1)争点1(本件発信者情報の「権利の侵害に係る発信者情報」(法4条1項)該当性)
〔原告の主張〕
ア 本件で原告が開示を求める本件発信者情報は、本件各投稿の送信時に割り当てられたIPアドレス及びタイムスタンプではなく、本件各投稿に用いられた別紙投稿記事目録の「ユーザー名」欄に記載されたアカウント(以下「本件アカウント」という。)にログイン(以下「本件ログイン」という。)した際に割り当てられたIPアドレス(以下「本件IPアドレス等」という。)等から把握される発信者情報(以下「本件ログイン情報」という。)である。
イ 法4条1項柱書が規定している「権利の侵害に係る発信者情報」は、権利侵害情報の発信そのものの発信者情報に限定するものではなく、権利侵害と関連性があり、権利侵害者の特定に資する通信に係る発信者情報を含むものと解すべきである。
 そして、ツイッターは、利用者がアカウント及びパスワードを入力することによりログインしなければ利用できないサービスであることからすると、本件ログインを行ったのは、本件アカウントの使用者である蓋然性が高いことが認められる。加えて、本件アカウントはアカウント名を「D」とし、プロフィール欄には「Dです」との自己紹介がされていること、本件アカウントのツイートには、「YOIの事は当時知らな」(かった)旨の自然人の主観的な認識を示す記載があることからすると、本件アカウントが何らかの団体によって管理・運営されている様子はなく、個人によって管理されているものと考えられ、他方で、本件アカウントが複数人で共有されていることをうかがわせる事情も見当たらないことからすると、本件アカウントは一人の特定の個人が管理しているというべきである。
 そして、本件投稿2は令和3年1月27日午後4時39分に、本件投稿1は同年2月8日午前0時27分にそれぞれされているところ、本件ログイン情報は、同年1月27日午後6時04分のものであって、本件各投稿の間に挟まるような形でされており、時間的な間隔も、本件投稿2から約1時間30分後、本件投稿1の約11日前のものであり、本件ログインと本件各投稿日時との間には時間的近接性が認められる。
 以上からすると、本件ログイン情報から把握される情報は、本件各投稿の発信者の特定に資する通信に該当するといえるから、本件発信者情報は「権利の侵害に係る発信者情報」に当たる。
〔被告の主張〕
 原告の上記主張は、争う。
 ログイン情報が「権利の侵害に係る発信者情報」に該当する場合があるとしても、被害者の救済の必要性と権利侵害投稿の発信者以外の者の通信の秘密やプライバシー等の保護のバランスを考慮すれば、ログインと権利侵害行為に当たる投稿の送信との時間的前後関係を考慮する必要があるというべきである。
 そして、本件各投稿は、ツイッターへの投稿であるところ、ツイッターであるからといって、一人の特定の個人がツイッターのアカウントを管理しているとは限らない。原告は、本件アカウントのプロフィール欄に「Dです」との自己紹介があること、「YOIの事は当時知らな」(かった)などと個人の主観的な認識を示す記載があること等を指摘して、本件アカウントは一人の特定の個人により管理しているというが、これらの事情が、本件アカウントが一人の特定の個人によって管理されていることの根拠となるのか疑問である。
 加えて、本件ログインは、本件投稿1の11日前にされており、時間的に近接しているともいえない。
 そうすると、本件ログイン情報は、本件各投稿との関連性が認められず、本件発信者情報は「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらない。
(2)争点2−1(原告各イラストに係る複製権及び公衆送信権侵害の有無)
〔原告の主張〕
ア 複製権及び送信可能化権が侵害されたこと
 原告は、別紙原告著作物目録記載1ないし3の各イラスト(以下、同目録記載順に、「原告イラスト1」などといい、これらを併せて「原告各イラスト」という。)を制作しており、原告各イラストの著作権者である。
 本件投稿1における本件画像1は、原告自身のツイッターアカウントのヘッダーに使用している原告イラスト1と同一であり、同本件画像2は、原告自身のツイッターアカウントのアイコンに使用している原告イラスト2と同一であり、同本件画像3は、原告自身のツイッターアカウントのヘッダーに使用している原告イラスト3と同一であるところ、原告は、本件各投稿記事に原告各イラストを使用することを許諾したことはない。
 本件各投稿は、インターネット上に本件各画像を掲載する上で、サーバへのアップロードを必然的に伴い、当該サーバに著作物を有形的に再製しているから、原告の原告各イラストに係る複製権を侵害している。
 また、サーバへのアップロードは、公共の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に情報を記録するものであるから、送信可能化に該当し、本件各投稿は、原告の公衆送信権を侵害する。
〔被告の主張〕
 原告が原告各イラストを制作したことについては、不知である。原告各イラストは、オリジナル作品の作者の著作権を侵害している可能性があり、原告の原告各イラストに係る著作権の要保護性には疑義がある。
(3)争点2−2(本件投稿1に係る適法な引用の成否)
〔被告の主張〕
 本件投稿記事1は、原告がオリンピック等のイベントにおけるロゴマークを無断で使用したことを指摘する内容であり、公共性及び公益目的が存するから、原告各イラストの使用について、必要性や相当性が認められ、適法な引用(著作権法32条1項)の要件を満たしている。
〔原告の主張〕
 被告の上記主張は、争う。
 本件投稿記事1において、原告各イラストを引用して利用する必要性及び相当性は認められない。
(4)争点2−3(本件投稿1による原告の社会的評価の低下の有無)
〔原告の主張〕
ア 同定可能性(原告に対するものであると認められるか。以下同じ。)
 本件投稿記事1は、「B」、「PN「C」」などと原告が作家としての活動の際に使用している名称を記載した上、原告の管理するツイッターアカウントを複数記載している。そして、「違法行為や問題発言(アカ消し改名)で注意喚起歴有」という記載とともに、約4年前に原告について立てられた「5ちゃんねる」のスレッドのタイトルである「【五輪ロゴ不正使用】GGG/B【YOI同人〜」及びリンクのURLを記載している。なお、この「YOI同人」とは、アニメ「ユーリonICE!!!」の同人誌を指す。
 かかる本件投稿記事1の記載から、「B」という作家が、五輪ロゴ不正使用という違法行為を行い、その作家は「C」という名称でも活動を行っていることが読み取れる。そして、原告は「B」や「C」という名称を用いて作家として活動し又は活動していたのであるから、本件投稿記事1が原告に向けられたことは明らかである。
イ 社会的評価の低下
本件投稿記事1は、これを閲覧した者に対し、原告が違法行為を行ったとの印象を与え、原告の社会的評価を低下させることは明らかである。
〔被告の主張〕
 原告の上記主張は、争う。
(5)争点2−4(本件投稿1に係る真実性の抗弁の成否)
〔被告の主張〕
 本件投稿記事1の記載は、原告によるオリンピック等のイベントにおけるロゴマークの使用について、同人作家等のクリエイターに対して注意を促すという重要な社会的意義を有するといえる。
 したがって、原告がロゴマークを無断で使用したことは真実であり、かつその指摘は公共の利害に関する事実に当たり、または公益を図る目的でされたと認められる余地があり、真実性の抗弁が成立するから、本件投稿1は違法とはいえない。
〔原告の主張〕
 被告の上記主張は、争う。
 本件投稿記事1は、約3年半前にされた、公人ではなく一私人に過ぎない原告による行為について摘示するものであるから、公共性、公益性はおよそ認められない。
 したがって、本件投稿1につき、名誉権侵害に対する真実性の抗弁が成立しないことは明らかである。
(6)争点2−5(本件投稿2による原告の名誉感情の侵害の有無)
〔原告の主張〕
ア 同定可能性
 本件投稿記事2は、冒頭で「ツイステトレジェイ」とか「『C』さん」と記載している。「ツイステ」とは、「ツイステッドワンダーランド」というスマホアプリゲームの通称であり、「トレジェイ」とは、同ゲームに登場する二人のキャラクターのカップリングを意味する。
 そして、原告は、上記のとおり、作家活動の際に「C」という名称を用いており、トレジェイを描いた同人誌やイラストを創作したり、100人を超える参加者や多数の販売スタッフを有する同人誌即販会などのイベントに参加をしたりしており、そこでは、対面で、同人誌を販売している。そうすると、かかるイベントに参加した不特定多数の読者や同業者には、「C」が原告であることは知られており、本件投稿記事2の閲覧者のうち少なくとも一部の者は、本件投稿記事2の対象が原告であることを同定することが可能である。
イ 名誉感情の侵害
 本件投稿記事2には、ツイッターのダイレクトメッセージと思われるやり取りのスクリーンショット画像が貼付されている。氏名不詳者から本件アカウントの管理者に対して送られた一つ目のメッセージにおいて、「Cさんに注意してもまともに取り合おうとしないのは事実ですね。専スレによると前ジャンルの時からマロ晒しして笑いものにするのが好きな性格みたいですから。」と記載されている。なお、この「マロ晒し」とは、匿名のメッセージ送受信サービス「マシュマロ」において、原告に対して送られてきたメッセージを送信者に無断で不特定の者にさらすことをいい、「前ジャンル」とは原告が以前に他のジャンルの作品に係る同人作品を創作していた時からという意味であると解される。
 これらを踏まえると、上記記載は、原告が注意してもまともに取り合おうとしない人物であって、第三者から注意を受けても、これを顧みないのみならず、注意を行った第三者を嘲り笑うことを好む人物であると述べるものである。
 そして、本件投稿記事2に記載された箇条書きの部分には、「指摘には誠意ない対応と鍵アカで晒す」人物であるとの指摘を行っている。このように、本件投稿記事2には上記記載の内容を要約した記載があることから、上記記載のとおりの性格を有する者であることを間接的に述べるものである。また、本件投稿記事2に貼付されたツイッターのダイレクトメッセージと思われる上記画像には、上記記載を含むメッセージに対して本件アカウントの管理者が「そんな事があったんですね」「ちなみにこのDMのスクショをそちらのお名前伏せてツイートしてもいいですか?」と返信している部分も含まれている。このようなメッセージのやり取りを含めて本件投稿記事2に貼付することは、原告が上記記載のとおりの性格であることを間接的に述べるものである。
 以上のような本件投稿記事2は、これを読む者をして、原告が第三者から注意を受けてもこれを顧みないだけでなく、注意を行った第三者を嘲り笑うことを好む人格であり、原告が著しく誠実さを欠く人物であるとの印象を抱かせるものであって、社会通念上許容される限度を超える侮辱に当たることは明らかである。
〔被告の主張〕
 本件投稿記事2は、投稿者が原告の対応に不満を感じていることを、第三者とのやり取りを踏まえ、「指摘には誠意ない対応と鍵アカで晒す」と表現した意見の表明である。本件投稿記事2には、罵詈雑言等はなく、意見の表明として社会通念上許される限度を超えておらず、名誉感情の侵害はない。
(7)争点2−6(本件投稿記事2による原告のプライバシー侵害の有無)
〔原告の主張〕
 本件投稿記事2は、上記(6)で主張したとおり、原告についての記事であることは明らかである。
 そして、本件投稿記事2は、原告について「40代独居」と述べている。「40代」や「独居」といった個人情報は、私生活上の事柄であり、一般に他者に知られたくない事柄であり、原告は、作家としての活動に際し、年齢や一人暮らしであるか否かを公表していない。加えて、原告は、女性であって、対面式のイベントに参加することも多く、一般人の感受性を基準にして原告の立場に立った場合、年齢や一人暮らしであることを公表されることにより、心理的な負担、不安を覚えることは明らかである。
 したがって、本件投稿記事2は、原告のプライバシーを侵害することが明らかである。
〔被告の主張〕
 原告と何ら関係性がない第三者が、原告の年齢や一人暮らしであることを投稿したとしても、通常、読み手は、当該第三者の単なる憶測と判断するから、本件投稿記事2の記載から、私生活上の事実又は私生活上の事実らしく受け取られるおそれはない。
 したがって、本件投稿記事2は、原告のプライバシーを侵害しない。
(8)争点3(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)
〔原告の主張〕
 原告は、本件各投稿記事の投稿者に対して、不法行為に基づく損害賠償等の請求をする予定であるが、この権利を行使するためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要がある。
〔被告の主張〕
 原告に本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるかどうかは、不知である。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件発信者情報の「権利の侵害に係る発信者情報」(法4条1項)該当性)について
(1)法4条1項は、特定電気通信による情報の流通によって自己の権利を侵害されたとする者が開示関係役務提供者に対して開示を請求することのできる情報として、「権利の侵害に係る発信者情報」と規定しており、権利侵害行為そのものに使用された発信者情報に限定した規定ではなく、「係る」という、関係するという意義の文言が用いられていることからしても、「権利の侵害に係る発信者情報」は、権利侵害行為に関係する情報を含むと解するのが相当である。そして、法4条の趣旨は、特定電気通信(法2条1号)による情報の流通には、これにより他人の権利の侵害が容易に行われ、その高度の伝ぱ性ゆえに被害が際限なく拡大し、匿名で情報の発信がされた場合には加害者の特定すらできず被害回復も困難になるという、他の情報流通手段とは異なる特徴があることを踏まえ、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解され(最高裁平成22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁参照)、かかる趣旨からすると、権利侵害行為そのものの送信時点ではなく、その前後に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報であっても、それが当該侵害情報の発信者のものと認められる場合には、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たると解すべきである。
(2)これを前提に、本件発信者情報が「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するかを検討する。
 弁論の全趣旨によれば、ツイッターを利用するためには、利用者はパスワードを設定してアカウントを登録する必要があること、当該アカウントを利用してツイート(投稿)するためには、パスワードを入力してログインすることが求められることが認められる。そして、証拠(甲13)によれば、本件各投稿に用いられた本件アカウントのアカウント名は「D」であって、本件アカウントのプロフィール欄には「Dです」との自己紹介文が記載され、また、本件アカウントの本件各投稿に係るツイート以外のツイートの内容には「YOIの事は当時知らないしCさんにマロ送った事もない」といった記載がされていることが認められ、これらの記載内容は、個人の認識や行動に関するものであることが推測される。加えて、ツイッター社から開示された本件アカウントのログイン情報(甲11)によれば、令和3年1月27日から同年2月8日までの間に行われた本件アカウントへのログインは、少なくとも合計7回、昼夜を問わずに行われていることが認められる。これらの事実からすると、本件アカウントは特定の一個人によって管理されていることが推認される。他方で、本件全証拠をみても、本件アカウントが法人や団体において管理され、複数の者が本件アカウントを使用していたことをうかがわせる事情は見当たらない。
 そうすると、本件IPアドレスを使用して本件アカウントにログインした者は、特定の一個人であるといえ、本件ログインを行った者と本件各投稿を行った者とは同一ということができ、本件発信者情報は「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるというべきである。
 これに対し、被告はるる主張するが、上記説示に照らし、採用の限りではない。
2 争点2−1(本件投稿1による原告の著作物に係る複製権及び公衆送信権侵害の有無)について
(1)原告各イラストの著作権の帰属について
 証拠(甲4、7〜9)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、令和3年1月20日、原告イラスト1を制作し、令和2年8月7日、原告イラスト2を制作し、同年11月30日、原告イラスト3を制作したこと、原告各イラストは、いずれも原告の個性が顕れており創作性が認められること、原告は、原告各イラストを自己のツイッター(ツイッターインクが提供しているインターネット上の投稿サイト)のアカウントのアイコンやヘッダーとして利用していることが認められる。
 そうすると、原告は著作物たる原告各イラストを創作した著作者であって、原告が原告各イラストの著作権を有すると認められる。被告は、原告各イラストは、オリジナル作品の作者の著作権を侵害している可能性があるなどと主張するが、当該オリジナル作品の存在や同作品の著作者が他にいることをうかがわせるなどの原告各イラストが原告の創作した著作物であることを否定する事情は本件全証拠をみても認められず、上記の認定を覆すに足りる証拠はない。
(2)複製権及び公衆送信権侵害の有無について
 本件投稿記事1に貼付された本件各画像と原告各イラストを対比すると、本件画像1は原告イラスト1の一部と、本件画像2は原告イラスト2の一部と、本件画像3は原告イラスト3の一部と全く同一のものであり、本件各画像から原告各イラストの本質的特徴を感得できるものと認められる。
 このように、本件各画像は、原告各イラストの一部と全く同一のものであり、原告各イラストの本質的特徴を感得できるものであるから、本件各投稿記事の投稿者は、被告が提供するインターネット接続サービスを利用して本件各画像を貼付した本件投稿記事1をツイッター上で作成、投稿することにより、原告各イラストを有形的に再製するとともに、本件各画像を含む本件投稿記事1をインターネット回線を通じて自動的に送信し得る状態に置き、インターネット上に投稿して公衆送信に当たる行為をしたことが認められる。
 したがって、本件投稿1によって、原告が有する原告各イラストの複製権及び公衆送信権が侵害されたことが認められる。
 これに対し、被告はるる主張するが、上記説示に照らし、採用の限りではない。
3 争点2−2(適法な引用の抗弁の成否)について
 被告は、本件投稿記事1は、原告がオリンピック等のイベントにおけるロゴマークを無断で使用したことを指摘する内容であり、公共性及び公益目的が認められ、原告各イラストを引用する必要性や相当性があるとして引用の抗弁(著作権法32条1項)が成立する可能性がある旨主張する。
 しかしながら、被告の上記主張が、原告各イラストの利用が「引用の目的上正当な範囲内」のものに当たることをいう趣旨のものであるとしても、本件投稿記事1の記載内容からして、その記載の趣旨・目的の公共性は認めがたく、仮に、原告がオリンピック等のイベントのロゴマークを無断で使用した事実を指摘するためのものであったとしても、本件各画像との関連性は不明であるといわざるを得ない。そうすると、原告各イラストを利用する必要性及び相当性も認められず、上記事実を本件投稿記事1の態様で摘示することが、「引用の目的上正当な範囲内」のものということはできない。
 したがって、著作権法32条1項のその他の要件について検討するまでもなく、本件投稿記事1において原告各イラストを利用することは、適法な引用には当たらないというべきである。
 以上からすると、本件投稿1は、原告が著作権を有する原告各イラストの複製権及び公衆送信権を侵害することが明らかであるということができる。
 これに対し、被告はるる主張するが、上記説示に照らし、採用の限りではない。
4 争点2−3(本件投稿1による原告の社会的評価の低下の有無)について
(1)同定可能性について
 本件投稿記事1には、冒頭において、「違法行為や問題発言(アカ消し改名)で注意喚起歴有現在ツイステのトレジェイ」との記載があり、これに続いて、「【五輪ロゴ不正使用】GGG/B【YOI同人〜」との記載や「PN『C』」「別名『B』」との記載に加え、原告が管理するツイッターのアカウントが掲載されている。
 そして、証拠(甲4)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、以前に「B」との名称を用いて漫画家として活動していたこと、また、「C」というペンネームを用いて同人作家としての活動を行っていること、「ツイステッドワンダーランド」と題するスマホアプリゲームの通称として「ツイステ」が用いられていること、同ゲームには「トレジェイ」と名付けられたキャラクターが登場するところ、原告がこのキャラクターを描いた同人誌やイラストの創作活動をしていること、これらについて、一般にも一定程度知られていたことが認められる。これらからすれば、本件投稿記事1は、これを読む者の普通の注意と読み方を基準とすれば、原告に対する記事であると認識させるものであるということができる。
(2)社会的評価の低下について
 本件投稿記事1には、上記のとおりの冒頭の記載に加え、「オリンピック・パラリンピックに関する知的財産等の無断使用および不正使用ないし流用は法的にも罰せられます。」との表題の警告文を複写した画像が添付されている(甲1の1、6の3)。かかる画像と本件投稿記事1の「【五輪ロゴ不正使用】」との記載とを併せると、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件投稿記事1は、原告が五輪ロゴを不正に使用したとの事実を摘示するものであると認めることができ、原告が不正にロゴを使用するような人物であるとの印象を与え、原告の社会的評価を低下せしめるものということができる。
 これに対し、被告はるる主張するが、上記説示に照らし、採用の限りではない。
5 争点2−4(本件投稿1に係る真実性の抗弁の成否)について
 被告は、本件投稿記事1は、原告によるオリンピック等のイベントにおけるロゴマークの使用について、同人作家等のクリエイターに対して注意を促すという重要な社会的意義を有するところ、原告がロゴマークを無断で使用したことは真実であり、かつその指摘は公共の利害に関する事実に当たり、または公益を図る目的でされたと認められる可能性があり、名誉毀損に対する真実性の抗弁が成立し、違法性が阻却される旨主張する。
 事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、上記行為には違法性がなく、不法行為を構成しないと解される(最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号1118頁参照)。しかして、弁論の全趣旨によれば、本件投稿記事1が指摘する原告による上記ロゴマークの使用の事実は、本件投稿1から約3年半前の出来事であって、原告は上記使用の事実が問題であると自覚して以降、上記ロゴマークが記載された商品の在庫の破棄、問題箇所を削除したものへの刷り直しをし、販売済みの商品については、購入者に対して返品を依頼して返金し、新品の送付に無償で応じる等の対応をしたことが認められる。そうすると、原告による上記ロゴマークの使用の事実は、本件投稿1の時点では、既に社会的関心が薄れていたものと認められ、そうであるにもかかわらず、本件投稿記事1には、「違法行為…で注意喚起歴有」とか「【五輪ロゴ不正使用】」との記載とともに約4年前に原告について立ち上げられた投稿サイトのスレッドのタイトルとリンクが掲載されていることからすると、本件投稿記事1は、原告が数年前にオリンピックのロゴマークを使用したということを誹謗中傷する目的で投稿されたものと認めるのが相当であって、専ら公益を図る目的でされたものということはできない。また、原告は漫画家あるいは同人作家として活動している者であるものの、あくまで私人として上記活動をしているのであって、公人としての立場にある者ではないことが認められることからすると、本件投稿記事1に記載された内容は、公共の利害に関する事実に係るものであるとも認められない。
 したがって、本件投稿1に関しては、事実の公共性、目的の公益性が認められず、真実性の抗弁は成立しないから、本件投稿記事1による原告の名誉が毀損されたことは明らかである。
 これに対し、被告はるる主張するが、上記説示に照らし、採用の限りではない。
6 争点2−5(本件投稿2による原告の名誉感情の侵害)について
(1)同定可能性について
 前記4(1)で認定したとおり、原告は、「C」というペンネームを用いて同人作家としての活動を行い、また、スマホアプリゲーム「ツイステッドワンダーランド」のキャラクター「トレジェイ」の同人誌やイラストの創作活動を行っており、また、弁論の全趣旨によれば、原告は、参加者が100人を超え、複数の同業者が集まるイベントにも参加して「トレジェイ」の同人誌やイラストの販売活動を行っており、原告が一定の知名度を有することが認められる。これらからすると、「ツイステトレジェイ」、「『C』さん」との記載のある本件投稿記事2は、これを読む者の普通の注意と読み方を基準とすれば、原告に対する記事であると認識させるものであるということができる。
(2)名誉感情の侵害の有無
 証拠(甲1の2、10)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿記事2には、「指摘には誠意ない対応と鍵アカで晒す」との記載とともに、ツイッターのダイレクトメッセージのやり取りが表示された画面のスクリーンショットが写された画像が貼付されていること、また、同画像には、匿名の者から、「Cさんに注意してもまともに取り合おうとしないのは事実ですね。専スレによると前ジャンルの時からマロ晒しして笑いものにするのが好きな性格みたいですから。」との内容を含むメッセージの送信があり、これを受信した者において、「そんな事があったんですね」「このDMのスクショをそちらのお名前伏せてツイートしてもよいですか?」とのメッセージを返信している様子が写されていること、「マロ晒し」とは、「マシュマロ」と称する匿名のメッセージサービスにおいて受信したメッセージを、当該メッセージの送信者に無断で不特定の者にさらす、明らかにするとの意で用いられていることがそれぞれ認められる。
 これらによれば、本件投稿記事2は、原告が第三者からの指摘に対し、誠実に対応せず、第三者からのメッセージを無断で公表して嘲笑することを好む性格であると指摘し、これを読む者をして、原告が第三者から注意や指摘を受けても、自らを顧みず、むしろ、当該第三者を嘲り笑う対象とするような不誠実な人物であるとの印象を抱かせるものと認められ、このような内容の記載は、原告に対する、社会通念上許される限度を超える侮辱行為に当たるものと認められる。
 そして、本件全証拠をみても、本件投稿記事2の上記記載を正当化するような事情は見当たらず、本件投稿記事2が原告の名誉感情を違法に侵害する行為であることは明らかである。
 これに対し、被告はるる主張するが、上記説示に照らし、採用の限りではない。
7 争点2−6(本件投稿2によるプライバシー侵害の有無)について
(1)同定可能性について
 上記3(1)で認定したとおり、本件投稿記事2は、これを読む者をして、原告に対する記事であると認識させるものであるということができる。
(2)プライバシー侵害の有無について
 本件投稿記事2には、「40代独居」との事実が記載されているところ、「40代」という年齢に関係する記載や「独居」といった事情は、私生活上の事柄であり、一般私人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合に公開を欲しない情報といえる。そして、原告の漫画家等としての活動を考慮しても、かかる事項をみだりに公開される理由はなく、本件投稿記事2が原告のプライバシーを侵害することが認められる。
 そして、本件全証拠をみても、上記の私生活上の事柄を公表されない法的利益よりも、本件投稿記事2のような態様で上記事実を摘示する理由(必要性、相当性等)の方が優越することをうかがわせる事情は認められず、本件投稿記事2が原告のプライバシーを侵害することが明らかであると認められる。
 これに対し、被告はるる主張するが、上記説示に照らし、採用の限りではない。
8 争点3(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について
 上記のとおり、本件各投稿により、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)、名誉権、名誉感情及びプライバシーが侵害されたものであることが認められ、原告は、本件各投稿記事の投稿者に対して損害賠償等の請求をする予定であることが認められるから、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 田中孝一
 裁判官 小口五大
 裁判官 鈴木美智子


(別紙)ログイン情報目録 省略
(別紙)投稿記事目録 省略
(別紙)原告著作物目録 省略
(別紙)発信者情報目録
 ログイン情報目録IPアドレス欄記載のIPアドレスを、同目録ログイン日時欄記載の日時頃に使用した者に関する情報であって、次に掲げる情報。
@ 氏名又は名称
A 住所
B 電子メールアドレス
 以上
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