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【事件名】海賊版サイト「漫画村」広告掲載事件
【年月日】令和3年12月21日
 東京地裁 令和3年(ワ)第1333号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年10月14日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 平野敬
同 山口貴士
被告 株式会社エムエムラボ(以下「被告エムエムラボ」という。)
被告 株式会社グローバルネット(以下「被告グローバルネット」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 森大輔
同 岡井裕夢


主文
1 被告らは、原告に対し、連帯して1100万円及びこれに対する平成29年11月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 主文と同旨
第2 事案の概要
 本件は、漫画家である原告が、インターネット上の漫画閲覧サイト(以下「本件ウェブサイト」という。)において原告の著作物である漫画が無断掲載されて原告の公衆送信権が侵害されているところ、被告らは本件ウェブサイトに掲載する広告主を募り、本件ウェブサイトの管理者に広告掲載料として運営資金の提供等をすることにより、上記公衆送信権侵害を幇助したと主張して、被告らに対し、共同不法行為者としての責任(民法719条2項、709条)に基づき、損害賠償金1100万円及びこれに対する原告の漫画が本件ウェブサイトに無断掲載された日のうち最も後の日である平成29年11月18日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。)所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は、当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により認められる。)
(1)当事者
ア 原告は、漫画家であり、別紙原告著作物目録記載の各漫画(以下、同目録の「番号」欄記載の1から38までを「原告漫画1」といい、39から53までを「原告漫画2」といい、これらを併せて「原告漫画」という。)を制作した。
イ 被告エムエムラボは、主に、インターネットの広告を取り扱う広告代理業を目的とする株式会社である。
ウ 被告グローバルネットは、インターネットの広告を取り扱う広告代理業を目的とする株式会社であり、被告エムエムラボの親会社である。被告エムエムラボの代表取締役B(以下「B」という。)は、被告グローバルネットの常務取締役を務め、被告グローバルネットの本店事務所の住所地は、被告エムエムラボの支店の所在地として登記されている。
(2)本件ウェブサイトの設置及び閲覧者数等
 平成28年1月頃、「漫画村−無料コミック漫画−」と題するウェブサイト(本件ウェブサイト)が設置された。本件ウェブサイトには、「登録不要で完全無料な最新漫画サイトです。スクロールだけで見やすくDL不要!」などの閲覧を推奨する文章とともに、ウェブサイト上で閲覧可能な漫画が掲載されていた。本件ウェブサイトが有する蔵書数は5万冊以上であり、平成30年3月時点の月間閲覧者数は、延べ1億7000万人に上り、平成29年9月から平成30年2月までの間の閲覧者数は延べ約6億2000万人に上るとの試算もされている。(甲4、5、8)
 本件ウェブサイトは、平成30年4月に閉鎖された。
(3)本件ウェブサイトへの原告漫画の掲載
ア 原告は、別紙原告著作物目録の各「発行年月日」欄記載の各年月日頃に、原告漫画をそれぞれ制作した。
イ 本件ウェブサイト上において、平成29年4月21日から同年5月6日にかけて、原告漫画1のうち1巻、6巻から15巻まで及び24巻が掲載された(甲10)。
 また、平成29年11月18日までに、本件ウェブサイトにおいて、原告漫画2が掲載された(甲11)。
2 争点
(1)被告らの共同不法行為責任の有無(争点1)
ア 被告らの幇助による共同不法行為の成否(争点1−1)
イ 被告らの行為と原告の損害との因果関係の有無(争点1−2)
ウ 被告らの故意又は過失の有無(争点1−3)
(2)原告の損害額(争点2)
3 争点に対する当事者の主張
(1)争点1−1(被告らの幇助による共同不法行為の成否)
〔原告の主張〕
ア 被告ら(被告エムエムラボが子会社、被告グローバルネットが親会社)の行為については、次のとおり、原告漫画の本件ウェブサイトへの掲載行為に関し、幇助による共同不法行為が成立する。
(ア)本件ウェブサイトのような海賊版サイト運営者は、専ら利益のみを目的として海賊版サイトを運営している。現に、本件ウェブサイトの運営者と目されるC(以下「C」という。)は、本件ウェブサイト等の1年分の利益として約6257万円の利益を受けており、他の運営協力者もCから相当額の報酬を得ており、金銭を目的として本件ウェブサイトが運営されていたことは明らかである。
 そして、海賊版サイトの運営資金源は専ら広告収入である。すなわち、一般に、インターネット上のウェブサイトから収益を上げるには、会員制として閲覧者から閲覧代金を徴収するか、広告を掲載して広告主から広告収入を得るかのどちらかであるところ、海賊版サイトを含む違法なウェブサイトの場合、運営者自身が身元を隠す必要があるし、閲覧者もそうしたサイトに個人情報やクレジット番号等の情報を登録することを嫌い、会員制による代金徴収が困難であるため、広告収入に頼ることになる。
(イ)本件ウェブサイトに関し、Cらは、株式会社D(以下「D」という。)をその広告取扱いの窓口(メディアレップ)とし、Dは、被告エムエムラボ(被告グローバルネットはその親会社)その他の広告代理店と契約を結び、本件ウェブサイトにおける広告掲載を受け付けていた。そして、被告らは、広告主に対して自社を通じて本件ウェブサイトに広告を出稿することができることをアピールして営業活動を行い、あるいは、広告主に対して本件ウェブサイトに広告を掲載することを告げずに、広告主から預かった広告掲載料を本件ウェブサイトの管理者に提供するなどして、広告費の支払をしていた。
(ウ)広告業界においては、従前より、インターネット広告が正当なデジタルコンテンツを支える経済的基盤であるという社会的責任と役割に基づき、インターネット上の違法・不当サイトを広告掲載先から排除する取組みがされてきたのであって、海賊版サイトを含む違法サイトに広告費を支出して広告を出稿することは、当該サイトの運営者に資金を提供するに等しく、違法行為を助長すると広く認識されていた。
(エ)これらによれば、被告らにおいて、海賊版サイトである本件ウェブサイトに広告費を支出して広告を出稿する行為は、本件ウェブサイトの運営を容易ならしめ、著作権侵害という犯罪行為にも該当する不法行為を誘発する共同の行為に他ならない。そうすると、被告らがDを通じて本件ウェブサイトに広告を掲載するための広告主を募り、広告費を徴収してこれを本件ウェブサイトに支払う行為は、本件ウェブサイトの著作権侵害の不法行為を共同して幇助するものであることは明らかである。
イ 被告らは、本件ウェブサイトに広告費を支出して広告掲載を行うより前に、原告漫画が本件ウェブサイトに無断掲載されていたことを理由に、被告らの行為が本件ウェブサイトによる著作権侵害の幇助に該当しないと主張する。しかし、本件ウェブサイトにおいて原告漫画が無断掲載されて閲覧可能な状態が作出されているのであるから、かかる状態が削除されない限り、原告の公衆送信権が侵害されている状況が継続しているといえ、被告らの行為が違法な公衆送信可能化状態の維持及び継続を容易にしていることに変わりはなく、被告らに幇助行為が成立すると評価することに何らの問題はない。
〔被告らの主張〕
 原告の上記主張は、否認して争う。
 まず、原告漫画1の6巻ないし13巻は、平成29年5月より前に掲載されている一方、被告らが本件ウェブサイトの広告取扱窓口(メディアレップ)であるDとの間で本件ウェブサイトにおける広告掲載に係る契約を締結したのは同年4月、被告らがDに対して広告費を支払ったのは同年5月以降であるから、本件ウェブサイトにおける原告漫画1の6巻ないし13巻の無断掲載は、被告らが本件ウェブサイトに対して広告費を支払うより前から行われていたものである。そうすると、このような被告らの行為が、本件ウェブサイトの無断掲載行為による著作権侵害(公衆送信権侵害)の成立を容易にするということはできない。
 また、同月以降に行われた原告漫画の無断転載行為に関しても、被告らの広告費の支出行為が社会通念上、一般的、類型的に著作権侵害を招来する現実的危険性を有するとはいえず、これは、幇助に該当しない。すなわち、著作権侵害を物理的に促進する現実的危険性を有する行為とは、無断掲載に用いる著作物を提供する等著作権侵害に直接必要なものを提供する行為であるが、広告費を支出して広告を掲載する行為は、無断掲載行為を行う上で直接必要なものではない。そして、社会通念上、広告収益が広告媒体であるメディアに対して支払われることによって、著作物の無断掲載行為がされるとは言い難く、広告費の支払が著作権侵害の結果を招来することにはならない。仮に、広告費が広告媒体であるメディアに支払われることが著作権侵害を物理的に促進する現実的危険性を有する行為ということになれば、著作権侵害を行う者と取引を行って金銭的な利益を提供した者はすべからく著作権侵害を物理的に促進したということになりかねず、そのような結果が社会通念上不合理であることは明らかである。
(2)争点1−2(被告らの行為と原告の損害との因果関係の有無)
〔原告の主張〕
 原告は、原告漫画を有償で提供していたものであるところ、本件ウェブサイトによる原告漫画の無断掲載により、消費者の購買意欲が低下し、その正規品の売上げが低下したことは経験則上明らかである。そうすると、被告ら(被告エムエムラ0が子会社、被告グローバルネットが親会社)による行為(本件ウェブサイトによる無断掲載の幇助行為)と原告に生じた損害との間には因果関係が存するものであるといえる。
〔被告らの主張〕
 原告の上記主張は、否認して争う。
 被告らは、本件ウェブサイトの運営者とは直接取引を行っておらず、被告エムエムラボが、メディアレップとして本件ウェブサイトとの間に介在していたDとの間で広告掲載に係る契約を締結していたに過ぎないから、被告らがDに支払った広告費のうち、本件ウェブサイトに対して支払われた広告費を区別して算出することは不可能である。そのため、原告漫画の売上減少にどの程度影響を及ぼしたのかは不明であるから、被告らの行為と原告の損害との間に因果関係があるとはいえない。
(3)争点1−3(被告らの故意又は過失の有無)
〔原告の主張〕
ア 故意が認められること
 被告らの行為は、次のとおり、故意による幇助行為に当たるというべきである。
 すなわち、まず、被告エムエムラボ(被告グローバルネットの子会社)は、本件ウェブサイトの運営者との間で広告掲載の契約を締結するに当たり、本件ウェブサイトの表題やURLを提示させ、「運用チーム」の配信設定を手動で行っていたものであるから、本件ウェブサイトについて、これを配信先として登録する際に認識していた。加えて、被告グローバルネットは、広告主に対し、広告の掲載先となるウェブサイトの性質を踏まえて営業活動を行っていた。具体的には、被告グローバルネットは、詐欺的な情報商材を扱う事業者やアダルト関連事業者に対して本件ウェブサイト上での広告掲載を打診していた。また、被告らが広告掲載の媒体として契約を締結していたウェブサイトは、本件ウェブサイトに限らず、漫画や動画を無断掲載する多数の海賊版サイトであり、その中には、大規模な刑事事件及び民事事件に発展した海賊版サイトも含まれており、現に、被告ら自身、当該事件に関して警察から照会を受けることもあった。
 そして、違法な海賊版サイトの管理者と契約を結んで広告を掲載するに当たっては、被告エムエムラボの代表者であり、かつ、被告グローバルネットの常務取締役であるBが決裁者となり、個別に決裁を行っていた。
 これらからすれば、被告らによる本件ウェブサイトに対する広告出稿は、被告らが組織ぐるみで意思決定し、関与していたものであり、被告らに、幇助行為についての故意が認められる。
イ 過失が認められること
 仮に、被告らの行為が、故意による幇助行為に当たらないとしても、被告らの行為は、次のとおり、過失による幇助行為に当たるというべきである。
 すなわち、漫画をウェブサイト上に掲載して閲覧者にこれを閲覧させるようなウェブサイトにおいて、許諾なく漫画を掲載すれば、当然に著作権侵害の結果を招来することは明らかであるところ、本件ウェブサイトのような違法な海賊版サイトに広告及び広告費を提供する行為が上記著作権侵害の結果を招来することについては予見することが可能であって、当該サイトの運営に必要な広告及び広告費を提供するに当たっては、当該サイトの運営者に対し、著作権者との間で使用許諾を得て当該サイトに掲載するなど著作権侵害の結果を招来しないように措置すべき注意義務を負っているといえる。しかるに、被告らは、かかる注意義務に違反して、Dと通じて、広告主から募った広告及び広告費を本件ウェブサイト管理者に提供し、もって、本件ウェブサイトにおける原告漫画の無断掲載行為を助長し、著作権侵害の結果を招来したのであるから、被告らに、幇助行為について、過失が認められる。
〔被告らの主張〕
 原告の上記主張は、否認して争う。
ア 故意が認められないこと
 前記のとおり、被告らの行為は幇助行為に当たらないから、同行為に係る故意も認められないものであるが、仮にこれが幇助行為に当たるとしても、被告らは、平成30年4月13日に第三者から指摘されるまで、本件ウェブサイトが海賊版サイトであることを認識し得なかったのであるから、被告らの行為について故意は認められない。
 この点、確かに、わいせつ画像を転載するサイト、自殺幇助に関するサイト等外形上明らかに違法サイトであると判断できるウェブサイトであれば、被告らも、広告掲載先から除外することは可能かもしれないが、本件ウェブサイトのように、著作物を掲載するウェブサイトの場合、当該ウェブサイトの運営者が、著作権者から著作物の利用許諾を得ているか外形上明らかではないため、著作権侵害の有無を判断することは不可能である。
 また、著作権侵害の有無を判断するために、ウェブサイト運営者に対して、著作権者の許諾を得ているか確認する方法が考えられるが、広告業界の取引関係では、広告主と広告媒体であるメディアとの間に多数の広告代理店が存在し、本件においても同様であって、被告らと本件ウェブサイトの管理者とが直接の取引関係にない以上、被告らが、同運営者に対して著作権者の利用許諾の有無を確認することは、大きな労力を必要とし、現実的に不可能である。
 さらに、被告エムエムラボが運用する広告配信サービスの運用実態は、@メディア登録、A広告枠登録、B広告の配信設定、C広告掲載タグの取得、Dタグをサイトに設置して広告掲載という流れをとり、被告エムエムラボの運用チームは、上記Bの広告配信設定を行う場面において、広告掲載先サイトとして登録するメディアを審査している。しかして、被告エムエムラボが、一日に100を超え、最終的には1万6788ものメディアを広告配信サービスの広告掲載先サイトとして登録している実態をも踏まえると、メディアの審査において、その都度、全てのメディアが著作物の利用許諾を得ているか確認することは困難であり、現実的に不可能といえる。
 このように、被告エムエムラボが審査時点で全ての違法サイトを確認することが不可能であることから、被告エムエムラボの広告配信サービスの利用規約において知的財産権に関して禁止事項を定め、メディアレップに対し、広告掲載先のウェブサイトが違法サイトではないことを申込みの条件の一つとして掲げ、メディアレップにおいて著作権侵害の有無を確認するよう求めている。
 加えて、被告らは、政府が平成30年4月13日に本件ウェブサイトが海賊版サイトであることの指摘をしたため、直ちに内部調査をしたところ、被告らが提供する広告配信サービスを通じて本件ウェブサイトに広告掲載をしていたことが発覚し、広告配信サービスの利用規約に基づき、同月16日までに、海賊版サイトに関与しているおそれのある取引先等との取引を停止する措置を講じている。
 このように、被告らの取引実態や被告らの広告配信サービスの利用規約において知的財産権侵害の提携サイトの登録申込みの禁止条項を設けていたことに加え、本件ウェブサイトが海賊版サイトである旨の指摘がされて以降の被告らの一連の対応等を踏まえれば、被告らにおいて、本件ウェブサイトが海賊版サイトであり、著作物の無断転載行為を行っていることについて認識があったということはできない。
イ 過失が認められないこと
 被告らの行為について、過失は認められない。
 すなわち、上記のとおり、被告らにおいて全ての広告掲載先のメディアに対して著作物の利用許諾を確認することの困難性、現実的可能性の不存在という事情の下で、被告らが広告代理店に対して著作権侵害に関する注意義務を課していること、本件ウェブサイトが海賊版サイトであるとの政府の指摘直後に速やかに広告配信サービスの停止措置を講じていることからすれば、被告らに対して著作権侵害の回避のための注意義務を課する必要性はなく、前述のとおりの業界の取引実態や被告らの広告配信サービスの運用実態からすれば、著作権侵害の回避のための注意義務を履行し得る実行可能性もなく、したがって、被告らに過失も認められない。
 その上、著作権侵害の有無の確認は、メディアの広告窓口である広告代理店においてすべきことであって、被告らやその他の広告代理店に対してメディアの著作権侵害の有無の確認義務を負わせてしまえば、多数のウェブサイトを扱う被告らやその他の広告代理店において、広告掲載に関する大量の取引を円滑に行えなくなってしまい、広告代理店の存在意義がなくなり、広告代理店の権利又は法律上保護された利益を侵害することとなり、全体的に見て、明らかに不当な結果をもたらすことになる。
(4)争点2(原告の損害額)
〔原告の主張〕
ア 売上の減少1000万円
 原告漫画のうち、原告漫画1の累計発行部数は約2000万部、原告漫画2の累計発行部数は約370万部であり、最も価格の安い電子書籍を基準として考えると、前記2つの原告漫画は、いずれも1冊当たり462円である。そうすると、無断掲載された前記2つの原告漫画の総売上げは、109億4940万円を下らない。
 そして、原告漫画の著作者である原告の収入は、これらに印税率を乗じたものであるところ、印税率は、漫画業界において、一般に8%から10%程度であるが、原告は著名な実績を有するベテラン作家であるから、上方の10%を印税率として採用すべきである。
 以上より、無断掲載された原告漫画に係る原告の総売上げは、10億9494万円であるところ、本件ウェブサイトが原告漫画を無断掲載したことにより、消費者の購買意欲が低下するなどして被った原告の損害額が、全体の1%を下ることはない。そうすると、原告が、被告の行為により被った売上減少に係る損害額は、1000万円を下らない。
イ 弁護士費用100万円
 不法行為に当たる被告らの著作権侵害行為については、訴訟上その救済を求める場合における弁護士費用も、被告らの行為と因果関係のある損害というべきであるから、上記アの損害の1割に相当する弁護士費用相当額(100万円)も原告の損害となる。
ウ 遅延損害金
 本件ウェブサイトによる原告漫画の無断転載は、遅くとも平成29年11月18日には行われていたのであって、被告らの著作権侵害行為による損害賠償債務は、同日から遅滞に陥っている。そうすると、被告らは、同日を起算日として損害全体に係る遅延損害金の支払義務を負う。
〔被告らの主張〕
 原告の上記主張は、否認して争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(被告らの共同不法行為責任の有無)について
(1)認定事実
 前記前提事実に加え、証拠(掲記したもの。)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 本件ウェブサイトの設立と運営実態
(ア)本件ウェブサイトは、平成28年1月頃、発行間もない新作を含め5万冊以上の漫画をインターネット上で閲覧することができるサイトとして開設された。開設当時の本件ウェブサイトの画面上には、「無料コミック漫画−完全無料で漫画が読める!!登録一切不要!!」、「登録不要で完全無料な最新マンガサイトです。スクロールするだけで見やすくDL不要!毎日更新中です。お好きなマンガを検索できます。タブから好きな作品をお選び下さい。」との記載がされ、本件ウェブサイト上で各種の漫画を無料で閲覧することができる旨の説明がされ、また、同画面上には、「大量貯蔵の為、検索をご利用下さい。」との記載とともに、本件ウェブサイトに登録されている漫画を検索するための検索バナーが設置されていた。(甲4)
 また、本件ウェブサイトにおいては、出版社により発売された漫画が、発売日の翌日に掲載され、その閲覧が可能にされていることもあった。(甲19)
 さらに、本件ウェブサイトについて、平成29年6月頃のその画面上には、「無料コミック漫画」、「漫画村は無料で単行本・週刊誌が読めるウェブ型マンガビューサイト」との記載とともに、原告漫画1の1巻、6巻から15巻まで及び24巻が掲載され、同年11月頃の本件ウェブサイトの画面上には、原告漫画2が掲載されたほか、原告以外の漫画家の作品も掲載されていた。(甲10、11)
 しかるに、原告漫画を含め、本件ウェブサイトに掲載されている漫画の多くは、著作権者の許諾を得ずに違法に掲載されていた。
(イ)平成30年4月18日付けのNHKが開設しているウェブサイトでは、10代から50代までの幅広い世代が本件ウェブサイトを利用しており、平成30年3月時点の本件ウェブサイトの月間閲覧数が延べ1億7000万、平成29年9月から平成30年2月までの半年間で延べ約6億2000万に上っていること、本件ウェブサイトの運営者は莫大な広告収入を稼いでいたとみられることなどの報道がされた。(甲5)
(ウ)本件ウェブサイトの運営者は、本件ウェブサイトの利用者から本件ウェブサイトに掲載した漫画の閲覧に対する対価や手数料を徴収していなかった。
(エ)本件ウェブサイトに広告を出稿していた企業に対する取材をしたとするインターネット上の情報提供サイト(同年4月15日付けの記事)には、本件ウェブサイトの運営資金は広告収入によって賄われているとみられること、同月14日付けの記事で、本件ウェブサイトに広告が出稿されるまでの流れは、出稿主である事業者(広告主)から広告代理店に出稿依頼がされ、当該広告代理店から本件ウェブサイト上の広告出稿の窓口となっている会社に広告主からの出稿依頼が取り次がれ、最終的に、本件ウェブサイトに広告主の広告が掲載されるものであること、広告主から支払われる広告費は、広告代理店、窓口会社の手数料に充てられるほか、広告を掲載する本件ウェブサイトの運営者に支払われる仕組みとなっていることなどの説明がされていた。(甲6、7)
イ 海賊版サイトに対する政府や広告関係団体の取組み
 広告関係団体においては、平成29年、違法な海賊版サイトが広告費の収入を資金源として運営されていることが社会問題となっているとして、インターネット上の違法・不当サイトを広告掲載先から排除する取組みを始め、当該問題を取り扱う専門部会を設置した。そして、平成30年6月、より実効的な対策を継続的に講じるために恒常的な組織として委員会を設置し、広告業界内で情報共有を進め、違法・不当サイトの排除に取り組むことなどを宣言した。(甲24、25)
 また、政府からも、平成30年4月、本件ウェブサイトを含む海賊版サイトの拡大による漫画、アニメ等の著作物の無断掲載行為に対する緊急対策として、法制度を整備するまでの間、民間事業者が自主的に悪質なサイトをブロッキングできるような制度を検討する方針が示された。(甲34)
ウ 本件ウェブサイトの閉鎖
 本件ウェブサイトは、平成30年4月に閉鎖された。
エ 被告らの広告掲載事業等
(ア)被告らの実施している広告掲載事業の概要
 被告ら(被告エムエムラボが子会社、被告グローバルネットが親会社)が行っている広告掲載事業については、広告主である事業者から入稿された広告をそれぞれ広告代理店に直接取り次ぐ方法と、被告エムエムラボの広告配信サービス(アドネットワーク)を通じて広告代理店に配信する方法とがあった。上記広告配信サービス(アドネットワーク)とは、インターネット広告において、広告媒体となる多数のウェブサイトからなるネットワークをいい、広告主が一つのネットワーク事業者に広告を出稿することにより、多数のウェブサイトで広告を配信することができるサービスであった。
 被告エムエムラボは、アドネットワークによる広告配信サービスに関し、ウェブサイト運営者との間で広告掲載に係る契約を締結するに当たり、自社のホームページ上に「MEDIADU」と題する広告掲載を行うウェブサイト(メディア)を登録するページを設け、当該ウェブサイト運営者にウェブサイトの表題、URL等を入力させ、入力された情報を基に、被告エムエムラボの運用チーム担当者が、これを審査していた。(甲22)
 そして、被告エムエムラボ(子会社)に対してその掲載を依頼された広告は、被告エムエムラボのアドネットワークにより、本件ウェブサイトとの間に介在していたDを経由して、本件ウェブサイトに掲載されていた。また、被告グローバルネット(親会社)に対して広告掲載が依頼された場合においても、その掲載は、同様に被告エムエムラボが設置している「MEDIADU」のシステムを利用して行われていた。
(イ)被告らの本件ウェブサイトに関する営業活動等
 被告グローバルネットは、平成30年3月2日、取引先からの広告掲載先に本件ウェブサイトを追加した場合の予算についての問合せに対し、本件ウェブサイトへの掲載には追加で5万円から10万円で可能であるとの回答をしていた。(甲13)
 また、被告グローバルネットは、同月23日、取引先からの被告グローバルネットの広告メニューの過去の実績についての問合せに対し、「弊社の場合DLBOOKSや漫画村を保有しているのでそこそこ効果はいいかなと思います。」と回答し、その後、同取引先から、被告グローバルネットに対し、広告掲載の打診がされた。(甲12)。
 また、被告グローバルネットの取引先から依頼された広告掲載に関しては、本件ウェブサイトが閉鎖された後である同年4月16日時点で、本件ウェブサイトを含む違法系サイトに65%程度が出稿されている状況にあった。(甲14)
 被告らは、広告事業主から広告費の支払を受け、一定の手数料を受け取った残額を本件ウェブサイトの窓口であったDに提供していた。
オ 原告漫画の発行部数等
 原告漫画の発行部数に関しては、原告漫画1の累計発行部数(紙媒体による書籍、電子書籍及び複数巻を一つにまとめた新装版を含む。以下同じ。)は第1巻の発売がされた平成5年7月から平成24年2月頃までの間で約2000万部、原告漫画2の累計発行部数は第1巻の発売がされた平成25年12月から令和2年1月頃までの間で約370万部であった。(甲18、19)
 原告漫画の1冊当たりの販売価格は462円であって、原告漫画の累計売上額は、およそ109億4940万円となっており、原告漫画は、人気を博し、需要者層に相当程度浸透していた。
 しかして、このような漫画の著作権者が受けていた印税の率としては、一般に、パーセントから10パーセント程度となっていた。
(2)上記認定事実に基づき、以下判断する。
ア 争点1−1(被告らの幇助による共同不法行為の成否)、同1−2(被告らの行為と原告の損害との因果関係の有無)について
(ア)前記認定のとおり、原告漫画を含め、本件ウェブサイトに掲載されている漫画の多くは、著作権者の許諾を得ずに無断で掲載されていたものであり、本件ウェブサイトの運営者が、原告漫画の無断掲載行為によって、原告の原告漫画に係る著作権(公衆送信権)を侵害したものであることが認められる。
 そこで、被告らの行為が、このような原告漫画の無断掲載行為という著作権(公衆送信権)侵害行為を共同して幇助する行為に当たるかについて検討する。
(イ)本件ウェブサイトの運営実態を見ると、本件ウェブサイトの運営者は、5万冊以上もの漫画作品をインターネット上に掲載していたが、原告漫画を含め、本件ウェブサイトに掲載されている漫画の多くを、著作権者の許諾を得ずに無断で掲載する一方、利用者において無料でそれらの漫画を閲覧することができるようにし、発行翌日に新作閲覧ができるようにするなどのこともして利用者の誘引や閲覧数の増大を図り、費用は広告収入で賄う仕組みを作り上げ、本件ウェブサイトの開設から2年後には、月間の閲覧数が1億7000万にも上るなど、本件ウェブサイトの利用者は相当の規模に上っていたことが認められる。
(ウ)そうすると、本件ウェブサイトは、その利用者からの支払によりこれを運営するための経費(本件ウェブサイトが使用するサーバ等、その維持管理に必要となる費用や本件ウェブサイトの運営者等の得る報酬等)を賄うことが構造上予定されず、その規模を増大させることにより、本件ウェブサイト上での広告掲載効果を期待する事業主を増加させ、その運営資金源のほとんどを、広告事業主から支払われる広告費による広告料によって賄う仕組みであったことがうかがわれるのであって、当該広告料収入がほとんど唯一のその資金源であったというべきである。このような本件ウェブサイトの運営実態からすると、本件ウェブサイトに広告を出稿しその運営者側に広告料を支払っていた行為は、その構造上、本件ウェブサイトを運営するための上記経費となるほとんど唯一の資金源を提供することによって、原告漫画を含め、本件ウェブサイトに掲載されている漫画の多くを、著作権者の許諾を得ずに無断で掲載するという本件ウェブサイトの運営者の行為、すなわち、原告漫画の公衆送信権の侵害行為を補助しあるいは容易ならしめる行為(幇助行為)といえるものである。
(エ)しかして、被告らが本件ウェブサイトに広告を出稿し広告料を支払う行為について具体的にみるに、被告エムエムラボと被告グローバルネットとは子会社と親会社の関係にあり、広告の出稿は被告エムエムラボが設置している「MEDIADU」のシステムを利用して行われ、また、「MEDIADU」のアドネットワークの利用者からの問合せに対して被告グローバルネットの従業員が対応しているという実態もある。そして、被告らは、上記「MEDIADU」のシステムを利用して、広告主である事業者から依頼された広告掲載につき、Dを介して本件ウェブサイト上へ掲載するとともに、当該事業主から支払われる広告料をその運営者側に支払っていたのであるから、これらに照らせば、被告らは、客観的にも、主観的にも、共同して本件ウェブサイトへの広告出稿やその運営者側への広告料支払を遂行していたといえ、共同して原告漫画の公衆送信権の侵害行為を容易ならしめる不法行為(幇助行為)を行っていたものといわざるを得ない。そして、被告らのこのような共同不法行為に因って、原告漫画の公衆送信権の侵害行為が助長され容易となり、これに因って、原告が原告漫画の売上減少等の損害を被ったものであるというべきである。
 以上によれば、被告らの行為は、原告漫画の無断掲載行為という著作権(公衆送信権)侵害行為を共同して幇助する行為に当たり、また、被告らの行為と原告の損害との間に相当因果関係が存することが肯定されるというべきである。
(オ)被告らの主張について
a 被告らは、被告らが本件ウェブサイトの窓口となっていたDに対して広告費の支払を始めたのは、平成29年5月からであって、それより前から本件ウェブサイトに原告漫画1が掲載されている以上、本件ウェブサイトにおける原告漫画1の著作権(公衆送信権)侵害を助長したという関係にはないとして、幇助を否定する。
 しかしながら、本件ウェブサイトにおいては、同月以降平成30年4月に閉鎖するに至るまで、原告漫画1が掲載され、原告漫画1に係る著作権(公衆送信権)が侵害されている状態が継続しており、かかる違法状態の継続は、被告らによる広告費の支払によって助長され容易にされていたといえ、これをもって幇助行為と評価することができるというべきである。
 以上によれば、被告らの上記主張は採用することができない。
b また、被告らは、被告らの広告配信サービスの提供が社会通念上、一般的、類型的に著作権侵害を招来する現実的危険性を有する行為とはいえず、幇助に該当しないと主張する。確かに、被告らが広告掲載先とするウェブサイトの全てが違法に著作物を掲載するようなものであるとはいえず、本件ウェブサイトは多数の被告らの取引先の一つに過ぎず、被告らの広告掲載に関する営業活動一般が、一概に著作権侵害を招来する現実的危険を内包するものではないということはできる。しかし、上記説示のとおり、本件ウェブサイトは、原告漫画を含め多くの漫画を著作権者の許諾なく違法に掲載していたのであり、その運営は、広告事業主からの広告料収入をほぼ唯一の資金源としてされていたものであって、そうである以上、本件ウェブサイトとの関係においてみれば、被告らが広告主からの依頼を取り次いで本件ウェブサイトの運営側に広告料を支払うことは、本件ウェブサイトによって行われている著作権侵害行為を助長し、容易にする現実的危険性を有する行為と言わざるを得ない。
 以上によれば、被告らの上記主張は採用することができない。
c 被告らは、本件ウェブサイトとは取引関係がなく、本件ウェブサイトの窓口となっているDに広告料を支払っていただけであり、被告らが本件ウェブサイトに支払った広告料の割合は不明であり、原告漫画の売上減少にどの程度影響したのか明らかではないことを理由に、上記因果関係を否定する。
 しかしながら、被告らから本件ウェブサイトの運営者にどの程度の金額が還流していたのかは不明であるとしても、被告らが事業主の依頼を受けて広告を出稿すべくDを通じて広告料の全部又は一部を本件ウェブサイトの運営者側に支払うことによって、原告漫画の著作権(公衆送信権)侵害行為を助長していたと評価されることには変わりはなく、被告らが挙げる事情は、被告らの広告掲載活動が本件ウェブサイトに原告漫画が掲載されることにより生じる原告漫画の売上減少という損害との因果関係を認めることを否定する事情にはならないことは明らかである。
 以上によれば、被告らの上記主張は採用することができない。
イ 争点1−3(被告らの故意又は過失の有無)について
(ア)続いて、被告らにおいて、上記幇助行為を行うにつき故意又は過失があると認められるかについて検討する。
 前記のように、本件ウェブサイトに関しては、これに掲載されている漫画の多くが著作権の対象であるにもかかわらず、利用者から利用料等の対価を徴収せず、広告料収入をほぼ唯一の資金源として、新作を含む多数の漫画を違法に掲載して利用者に閲覧させているという運営実態が存したものである。また、これに加え、広告業界においては、従前から違法な海賊版サイトがインターネット広告による広告料収入を資金源に運営されているという社会問題に対して早急に対策を強化する必要があるとの認識が広く共有され、平成29年に広告業界団体の中に当該社会問題を取り扱う専門部会が設置されていたものである。さらに、政府も、平成30年4月、漫画やアニメの海賊版サイトが急速に拡大していることの対応が喫緊の課題であり、本件ウェブサイトを含む特定のサイトに対する民間事業者によるブロッキング措置等を含む対策を講じる必要性やその方針を示していたものである。
 そうすると、被告らにおいては、遅くとも被告らが本件ウェブサイトへの広告配信サービスの提供を開始した平成29年5月の時点においては、本件ウェブサイトの属性、すなわち、本件ウェブサイトが著作権者等から許諾を得ずに違法に多数の漫画を掲載している蓋然性を認識していたものであるといえる。しかして、前記認定のとおり、原告漫画は、人気を博し、需要者層に相当程度浸透していたものであるから、このような原告漫画についても、被告らにおいては、著作権(公衆送信権)侵害行為を行っているものであることを予見することが可能であったといわなければならない。そして、被告ら自身、そのような本件ウェブサイトの実態や規模拡大についての認識に基づき、その広告掲載効果が比較的高いものであると考えたからこそ、それを取引先にも伝え、広告配信事業を展開し、広告事業主からの広告掲載依頼を本件ウェブサイトにつなげることにより、自らも営業上の利益を得ていたものであるといえる。一方で、被告らにおいて、Dを通じて本件ウェブサイトに掲載されている原告漫画について著作権使用許諾契約が締結されているか否かを確認することが困難であったことをうかがわせる事情も見当たらず、違法行為を幇助することを回避することは可能であったものである。
 これらに照らせば、被告らとしては、本件ウェブサイトの運営者が、そこに掲載する漫画の著作物の利用許諾を得ているかどうかを調査した上で、本件ウェブサイトへの広告掲載依頼を取り次ぐかどうかを決すべき注意義務を負っていたといわざるを得ない。
 そうであるにもかかわらず、被告らは、その取引先から、本件ウェブサイトへの広告掲載を依頼した場合に要する追加費用について回答しているだけではなく、被告グローバルネットの広告掲載に係る実績への問合せに対して、具体的に本件ウェブサイトを挙げて「そこそこ効果はいいかなと思います。」などと回答して、積極的に本件ウェブサイトへの掲載について営業活動をし(なお、被告らにおいては、本件ウェブサイトを含む違法サイトとされるウェブサイトへの広告出稿率も相応の割合を占めていたことも証拠上うかがえる。)、本件ウェブサイトに掲載されている原告漫画について著作権使用許諾契約が締結されているか否かを確認することを怠ったものである。
 これらによれば、被告らがDを介して本件ウェブサイトに広告を出稿しその運営者側に広告料を支払っていた行為(幇助行為)は、前記注意義務に違反した過失により行われたものといわざるを得ない。
(イ)被告らは、外形上、本件ウェブサイトが著作権侵害をしているかどうかは明らかではなく、また、被告らにおいては広告配信の成果を表す数値を基礎として依頼された広告の掲載先を審査するという審査実態があり、被告らが本件ウェブサイトの運営者と直接取引をしているわけではないこと、被告らは被告らの広告配信サービスを利用する取引先に対して著作権等の侵害行為を行うおそれのあるウェブサイトを広告掲載先に有する場合には取引をしない旨の条項を規約に置いて取引先に注意義務を課していること、仮に被告らが広告掲載先の著作権使用許諾契約の有無を確認しようにも広告代理店は取引先情報を秘匿するという業界の実態などを理由に、本件ウェブサイトが違法に著作物を掲載していることを認識することは困難であるし、著作権者等から使用許諾を得ているかの確認をすることも困難である旨主張する。
 しかしながら、前記説示のとおり、本件ウェブサイトに関しては、これに掲載されている漫画の多くが著作権の対象であるにもかかわらず、利用者から利用料等の対価を徴収せず、広告料収入をほぼ唯一の資金源として、新作を含む多数の漫画を違法に掲載して利用者に閲覧させているという運営実態が存したものである。しかして、被告らが本件ウェブサイトに係る広告配信サービスの提供を開始した時点では、既に海賊版サイトによる著作権侵害が社会問題となっており、広告業界においても、これに対する対策の必要性について認識されていたことを踏まえると、被告らにおいても、外形上、本件ウェブサイトが著作権侵害をしていることを予見することは十分に可能であったというべきである。また、被告らの広告掲載先の審査実態の点は、むしろ、被告らにおいて、自己の利益を優先し、広告掲載先のサイトの適性の検討・確認を怠っていたことを自認するに等しく、また、取引先に対する注意義務を課していたという点も、その内容自体に照らし、幇助行為の注意義務やその懈怠を否定する事情にはならないというほかない。さらに、本件ウェブサイトとの間で直接取引していなかったことや広告代理店から取引先情報を秘匿されるなどといった点も、本件ウェブサイトの窓口となっていたDとの取引があることや違法な海賊版サイトが社会問題として認識されている昨今の事情に鑑みれば、本件ウェブサイトによる著作物使用許諾の確認を困難ならしめる事情ということはできず、また、その確認ができないのであれば、被告らの広告配信サービスによる広告掲載先から本件ウェブサイトを除くという措置を講じることも容易であったというべきである。
 以上によれば、被告らの上記主張はいずれも採用することができない。
2 争点2(原告の損害額)について
(1)財産的損害
 前記認定のとおり、原告漫画1の累計発行部数(紙媒体による書籍、電子書籍及び複数巻を一つにまとめた新装版を含む。以下同じ。)は約2000万部、原告漫画2の累計発行部数は約370万部であり、原告漫画の1冊当たりの販売価格は462円であって、原告漫画の売上額は、およそ109億4940万円となるところ、原告漫画の著作権者であると認められる原告が受けるべき使用料相当額は、原告漫画の上記のような発行部数等に照らし、同売上額の10パーセントと認めるのが相当である。
 ところで、本件ウェブサイトによる原告漫画が無断掲載されたことにより、原告漫画の正規品の売上が減少することが容易に推察され、原告漫画においても、発売日翌日に本件ウェブサイト上にその新作が掲載されていたことによれば、新作が無料で閲覧できることにより、読者の原告漫画の購買意欲は大きく減退するというべきである一方、被告らの行為は、本件ウェブサイトによる原告漫画の違法な無断掲載を、広告の出稿や広告料支払という行為によって幇助したものにとどまること、原告漫画2の上記累計発行部数は令和2年1月頃までのものであって、本件ウェブサイトが閉鎖された平成30年4月より後の期間における原告漫画2の売上げに関して被告らの行為との間の関連性を認めることができないことその他本件に顕れた一切の事情に照らして検討すれば、被告らの本件における行為が原告漫画の売上減少に寄与した割合は、約1パーセントと認めるのが相当である。
 これらの事情に鑑みると、本件ウェブサイトによる原告漫画に係る著作権(公衆送信権)侵害行為を被告らが幇助したことと相当因果関係が認められる原告の損害額は、1000万円(≒109億4940万円×0.1×0.01)と認めるのが相当である。
(2)弁護士費用
 本件訴訟の性質、経緯その他本件に現れた一切の事情を考慮すると、被告らによる著作権侵害の幇助と相当因果関係のある弁護士費用は、100万円が相当である。
第4 結論
 その他も、被告らは縷々主張するが、その主張内容を精査しても、上記認定判断を左右するに足りるものはない。
 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 田中孝一
 裁判官 小口五大
 裁判官 鈴木美智子


(別紙原告著作物目録省略)
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