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【事件名】NTTぷららへの発信者情報開示請求事件E
【年月日】令和3年12月16日
 東京地裁 令和3年(ワ)第23107号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年11月19日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 神原元
被告 株式会社NTTぷらら
同訴訟代理人弁護士 松尾翼
同 小杉丈夫
同 西村光治
同 橋慶彦


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、原告が、原告の著作物である写真について被告の提供する電気通信設備を経由してインターネット上のウェブサイト(ツイッター)に投稿されたことによって、原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたところ、損害賠償請求権の行使のために必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項所定の発信者情報開示請求権に基づき、上記の権利侵害に係る発信者情報である別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件各情報」という。)の開示を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実。証拠は文末に括弧で付記した。なお、書証は特記しない限り枝番を全て含む。以下同じ。)
(1)当事者
 原告は、aの名前で署名運動を立ち上げるなどの活動を行っている者である。(弁論の全趣旨)
 被告は、電気通信事業等を目的とする株式会社である。(争いがない事実)
(2)投稿記事の存在等
ア 令和3年3月4日午前6時56分(協定世界時)頃、ツイッター・インク(以下「ツイッター社」という。)が運営するツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれるメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)のウェブサイトに、「(省略)」というアカウント(以下「本件アカウント」という。)により、別紙投稿記事のとおりの、短文や画像(以下「本件画像」という。)等からなる投稿(以下「本件投稿」という。)がされた。(甲1)
イ 原告は、ツイッター社から、本件アカウントのログインに係るアイ・ピー・アドレス及び日時として、別紙IPアドレス目録記載のアイ・ピー・アドレス(以下「本件IPアドレス」という。)及び日時等の開示を受けた。(甲5、6、9〜11)
 被告は、被告から別紙IPアドレス目録記載の日時頃に本件IPアドレスを割り当てられた電気通信設備を電気通信の用に供されていた者の氏名又は名称、住所(本件各情報)を保有している。(争いがない事実)
2 争点及び争点に関する当事者の主張
 本件の争点は、次のとおりである。
@本件投稿によって原告の著作権が侵害されたことが明らかといえるか。
A本件各情報が原告の権利の侵害に係る発信者情報であるか。
B原告の本件各情報の開示を受けるべき正当な理由があるか。
(1)争点@(本件投稿によって原告の著作権が侵害されたことが明らかといえるか。)について
(原告の主張)
 本件投稿によって、原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかである。すなわち、原告は、原告自身の上半身を被写体として撮影した写真をインスタグラムのウェブサイトに投稿したところ(以下、この投稿された写真を「本件写真」という。)、本件投稿は、原告に無断で、原告が著作権を有する本件写真に加工を加えて、本件画像としてツイッターのウェブサイトに投稿して送信可能化したものである。
 本件写真は、露光、陰影の付け方、被写体である原告自身の腕を上げた体勢に顕著な性と創造性が認められ、原告の思想と感情を表現した著作物である。
 本件写真には原告の氏名が付されているから原告は同写真の著作者であると推定され(著作権法14条)、また、実際、原告は、上記のとおり本件写真を撮影した者であり、同写真の著作権を有する。
 原告は第三者に本件写真の利用を許諾したことはなく、この他本件投稿について違法性阻却事由は存在しない。
(被告の主張)
 本件写真について、原作品に氏名等が著作者名として表示されているとはいえないから著作権法14条の推定は及ばず、原告が本件写真の著作権者であることは明らかでない。
(2)争点A(本件各情報が原告の権利の侵害に係る発信者情報であるか。)について
(原告の主張)
 ツイッターは特定のアカウントにログインしその状態で投稿をするものであり、投稿(侵害情報の送信)の前提としてログイン情報が送信されるから、投稿によって権利が侵害された場合、ログイン情報も権利の侵害に係る情報に該当する。
(被告の主張)
 本件各情報はツイッターを利用するためのログインに係る情報であり、本件投稿をした者との関連性が不明である。
(3)争点B(原告に本件各情報の開示を受けるべき正当な理由があるか。)について
(原告の主張)
 本件各情報は原告の損害賠償請求権の行使等のために必要であり、原告には本件各情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
(被告の主張)
 否認する。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 前提事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
(1)原告は、令和3年3月1日、身体の手入れについて話題にする趣旨で、自室において、三脚に設置した携帯電話のカメラ機能を利用し、自身の上半身を撮影し、色合いや明るさを調節して、本件写真を作成し、同日、インスタグラムというインターネット上の投稿サイトに、自身のアカウントを利用して、身体の手入れについての私見とともに本件写真を投稿した。(甲2〜4、12)
 原告は、第三者に本件写真の利用を許諾したことはない。
(2)本件アカウントの利用者は、令和3年3月3日午前8時15分頃(協定世界時)、被告から、本件IPアドレスを割り当てられた電気通信設備を電気通信の用に供されて、本件アカウントにログイン(以下「本件ログイン」という。)をした。(前記第2の1(2)イ)
 本件画像は、本件写真を含むインスタグラムにおける前記(1)の原告の投稿を画像として保存した上で、本件写真に創作的付加に至らない程度の加工のみを施して作成されたものである。本件アカウントの利用者は、令和3年3月4日午前6時56分頃(協定世界時)、本件画像を添付して本件投稿をし、これにより、公衆送信用記録媒体に本件画像の情報を記録して自動公衆送信し得るようにして送信可能化した。(甲1、5)
(3)ツイッターのウェブサイトに投稿するためにはパスワードを入力するなどして特定のアカウントにログインすることが必要である。
2 争点@(本件投稿によって原告の著作権が侵害されたことが明らかといえるか。)
 本件写真は、原告が、身体の手入れについて話題にする趣旨でインスタグラムに投稿したものであり、原告の身体の状態が際立って見えるよう、自ら撮影、作成したものである(前記1(1))。これによれば、本件写真は、構図、カメラアングルの設定、色合いや明るさの調節等において原告の思想等を創作的に表現したものであって著作物に該当し、原告がその著作権を有すると認められる。
 そして、本件投稿により本件画像が送信可能化されたものである(前記1(2))ところ、原告は、第三者に本件写真の利用を許諾したことはなく(同(1))、また、上記送信可能化について、著作権法上の権利制限事由、その他不法行為の成立を妨げる事由の存在は認められない。
 したがって、本件アカウント利用者の故意又は過失による本件投稿によって原告の本件写真の著作権(公衆送信権)が侵害されたことが明らかであると認められる。
3 争点A(本件各情報が原告の権利の侵害に係る発信者情報であるか。)について
 プロバイダ責任制限法4条1項が「権利の侵害に係る」発信者情報を開示請求の対象としていることからすれば、同発信者情報には、侵害情報の送信そのものに係るもののみならず、侵害情報の送信に関連するものも含むと解するのが相当である。
 そして、本件各情報は、本件投稿の約23時間前にされた本件ログインに係るものであり、ツイッターのウェブサイトに投稿するためにはパスワードを入力するなどして特定のアカウントにログインすることが必要であること(前記1(2)、(3))、本件アカウントが複数人によって共用されていることをうかがわせる事情は認められないこと等から、本件ログインは、本件投稿をした者によってされたものと推認するのが合理的であり、本件ログインに係る本件各情報は、本件投稿すなわち侵害情報の送信に関連するものであると認められる。
 したがって、本件ログインに係る本件各情報は、開示関係役務提供者である被告が保有する原告の権利の侵害に係る発信者情報であると認められる。
4 争点B(原告に本件各情報の開示を受けるべき正当な理由があるか。)について
 本件各情報は原告が著作権侵害の不法行為について損害賠償請求権を行使等するために必要であり、原告には本件各情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求は理由があるから、これを認容すべきである。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 佐伯良子
 裁判官 仲田憲史


別紙(発信者情報目録、IPアドレス目録、投稿記事省略)
 以上
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