判例全文 line
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【事件名】KDDIへの発信者情報開示請求事件T
【年月日】令和3年11月12日
 東京地裁 令和3年(ワ)第1936号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年10月8日)

判決
原告 X
同訴訟代理人弁護士 田中圭祐
同 遠藤大介
同 吉永雅洋
同 被告 KDDI株式会社
同訴訟代理人弁護士 今井和男
同 小倉慎一
同 山本一生
同 小俣拓実


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、原告が、インターネット上の短文投稿サイト「ツイッター」において、氏名不詳者による投稿によって原告の名誉権、名誉感情、著作権、営業権が侵害されたなどと主張して、経由プロバイダである被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実)
(1)当事者
ア 原告は、「ABC」との名称を使用し、動画の配信・閲覧サービスである「YouTube」(以下「YouTube」という。)上にて、多数の動画の配信を行う者である。原告は、パチンコやパチスロをしている動画を撮影し、これを編集してYouTubeに動画を配信しており、そのチャンネル登録者数は約32万人、動画総再生数は約2億8000万回となっている。(甲6、7)
イ 被告は、電気通信事業を営む株式会社である(争いのない事実)。
(2)本件各投稿について
 氏名不詳者らは、ツイッター上に、別紙投稿記事目録1記載1、同目録1記載2、同目録3、同目録5記載1、同目録5記載2の各「ユーザー名」欄記載のアカウント(以下、同目録1記載1及び2のアカウントを「本件アカウント1」、同目録3のアカウントを「本件アカウント3」、同目録5記載1及び2のアカウントを「本件アカウント5」といい、これらを併せたものを「本件各アカウント」という。)から、同目録の各「投稿日時」欄記載の日時に、同目録1記載1及び2、同目録3、同目録5記載2の各「内容」欄記載の内容又は同目録5記載1の各「使用画像」欄(ただし、いずれも背景部分を除く。)記載の画像を投稿した(以下、順に「本件投稿1−1」などといい、これらを併せたものを「本件各投稿」という。)(甲1の1〜1の3、弁論の全趣旨)。
(3)ツイッター社からのIPアドレスの開示
 原告は、Twitter、Inc(ツイッター社)から、本件各アカウントからログインした日時とそのIPアドレスの開示を受けた。そのうち、本件アカウント1へのログインに係る情報は別紙ログイン情報目録1記載1及び2のとおりであり、本件アカウント3へのログインに係る情報は同目録3記載のとおりであり、本件アカウント5へのログインに係る情報は同目録5記載のとおりである(以下、上記の各ログインに係る情報を「本件ログイン情報1−1」などといい、これらを併せて「本件各ログイン情報」という。)。
(甲1ないし3)
(4)本件発信者情報について
 本件発信者情報は、別紙ログイン情報目録の各「ログイン日時」欄記載の各日時に、同目録の各「IPアドレス」欄記載の各IPアドレスを被告から割り当てられて、それぞれツイッターの各アカウントにログインした者の氏名又は名称及び住所である。被告は、本件発信者情報を保有している(争いのない事実)。
(5)ツイッターの投稿の仕組み
 ツイッターを利用するには、利用者は、アカウントを登録し、そのアカウント及びパスワードを入力し、ログインした後に投稿する必要がある(弁論の全趣旨)。
2 争点
(1)本件発信者情報が「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるか否か。
(2)本件各投稿による権利侵害の有無
(3)開示を受けるべき正当な理由の有無
3 争点に対する当事者の主張
(1)争点(1)(本件発信者情報が「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるか)
【原告の主張】
 法4条1項の「当該権利の侵害に係る発信者情報」とは、「氏名、住所その他の侵害情報の発信者の特定に資する情報」をいい、権利侵害情報の発信そのものの発信者情報に限定する趣旨ではないと解される。そして、本件各ログイン情報は、侵害情報の送信時ではなく本件各アカウントへのログイン時のものであるが、ツィッターの利用方法に照らせば、ログインするのは当該アカウントの使用者である高い蓋然性が認められる。
 したがって、本件各ログイン情報を送信した際に把握される発信者情報も、侵害情報の前後に関わらず、「発信者の特定に資する情報」として、「当該権利の侵害に係る発信者情報」に当たるというべきである。
【被告の主張】
ア 法4条1項の文言からすれば、開示の対象となる情報は、権利侵害をしたとされる特定電気通信に係る情報のみであり、ログインに係る情報については、権利の侵害に係る投稿の前に、ログインが一つしかないなど、当該ログインを行ったユーザーがログアウトするまでの間に当該投稿をしたと認定できるような場合でなければ、権利の侵害に係る発信者情報には当たらないというべきである。
イ 本件投稿1−1について
 本件ログイン情報1−1及び1−2は、本件投稿1−1の投稿後のログインに係る情報であるため、当該ログインを行った者が本件投稿1−1をしていないことは明らかである。
ウ 本件投稿1−2について
 本件ログイン情報1−1又は1−2に係るログインは、遅い方でもログインから本件投稿1−2までに3日間も経過しており、当該ログインと本件投稿1−2との連続性も認められるほどの近接性はない。そして、本件投稿1−2に係るアカウントには、被告が管理しないプロバイダからのログインもあり、複数のユーザーが本件投稿1−2に係るアカウントにログインしている可能性がある。したがって、本件ログイン情報1−1又は1−2に係るログインを行った者がログアウトするまでの間に本件投稿1−2をしたとはいえず、本件ログイン情報1−1及び1−2は、「権利の侵害に係る発信者情報」には該当しない。
エ 本件投稿3
 本件ログイン情報3は、本件投稿3の後のログインに係る情報であるため、当該ログインを行った者が本件投稿3をしていないことは明らかである。
オ 本件投稿5−1
 本件ログイン情報5は、本件投稿5−1の後のログインに係る情報である可能性が高く、当該ログインを行った者が本件投稿5−1を投稿していない。
 仮に、本件ログイン情報5に係るログイン後に本件投稿5−1がされたとしても、本件投稿5−1に係るアカウントには被告が管理しないプロバイダからのログインもあり、複数のユーザーが本件投稿5−1に係るアカウントにログインしている可能性がある。したがって、本件ログイン情報5に係るログインを行った者がログアウトするまでの間に本件投稿5−1をしているとはいえず、本件ログイン情報5は、「権利の侵害に係る発信者情報」には該当しない。
カ 本件投稿5−2
 本件ログイン情報5は、本件投稿5−2の後のログインに係る情報であるため、当該ログインを行った者が本件投稿5−2をしていないことは明らかである。
キ 以上からすれば、本件各ログイン情報は、いずれも「権利の侵害に係る発信者情報」には当たらない。
(2)争点(2)(本件各投稿による権利侵害の有無)
【原告の主張】
ア 本件投稿1−1
(ア)同定可能性
 本件投稿1−1には、「♯ABC」と記載されており、原告に関する投稿であることを意味することから、本件投稿1−1が原告に向けられたものであることは明白である。
(イ)権利侵害の明白性
 本件投稿1−1は、「ABC」というアカウントのツイート画像を添付した上で、「中身はこんな奴らですよ皆さん」として、原告が添付画像のとおりのツイートをした事実を摘示し、「人間性のカケラも感じません」、「情けない」などと原告を非難するものである。そして、上記添付画像は、原告が緊急事態宣言下でパチスロ店に行ったことを非難するツイートに対して、原告が煽るツイートをしたという画像であるが、これはなりすましアカウントからのツイートである。これを見た者は、原告が緊急事態宣言下でパチスロをしていたことに意見を述べる者に対し、開き直って嫌味な返信をしていると考え、まさに「人間性のカケラも感じない」という印象を原告に持つことは明らかであり、原告の社会的評価を低下させる。したがって、本件投稿1−1は、原告の名誉権を侵害する。
 また、原告の社会的評価が低下すれば、原告の動画を閲覧する者は減少することが明らかであり、また、本件投稿1−1は、事実無根の内容を拡散させ、原告の風評被害の拡大を狙った悪質なツイートであり、原告の営業権を侵害する。
 そして、本件投稿1−1について、違法性阻却事由は存在しない。
イ 本件投稿1−2
(ア)同定可能性
 本件投稿1−2には、「♯ABC」と記載されており、原告に関する投稿であることを意味することから、本件投稿が原告に向けられたものであることは明白である。
(イ)権利侵害の明白性
 本件投稿1−2の「いいねも買って」、「再生数も買って」というのは、YouTubeの動画について、高評価や視聴回数を購入しているという意味であるところ、これはYouTubeの規約上、禁止されている不正行為である。したがって、本件投稿1−2を見た者は、原告が不正な行為をしてYouTube上に多数の動画を配信している者であるとの印象を抱くことは明らかであり、本件投稿1−2は、原告の社会的評価を低下させ、原告の名誉権を侵害する。
 また、本件投稿1−2の「○ね」というのは、その文脈から「しね」という表現と考えられ、本件投稿1−2は、原告に対して、「クズ」、「バカ」というハッシュタグをつけており、コロナにかかって死ねと表現するものといえ、原告の名誉感情を侵害する。
 そして、本件投稿1−2について、違法性阻却事由は存在しない。
ウ 本件投稿3
(ア)同定可能性
 本件投稿3は、原告の公式アカウント「ABC(以下省略)」からなされたツイートに対して、リプライする形でなされたものであり、原告に対してなされたものではあることは明白である。
(イ)権利侵害の明白性
 本件投稿3は、原告に対して、「くたばれ低脳ゴミカス」、「ノミ以下のやつ」、「他界を望む」、「しんどけゴミ」と言い放つものであり、原告の人間としての尊厳を真っ向から否定する表現を多用し、生存を否定するものであり、社会通念上受忍すべき限度を逸脱している。したがって、本件投稿3は、原告の名誉感情を侵害する。
 そして、本件投稿3について、違法性阻却事由は存在しない。
エ 本件投稿5−1
 本件アカウント5は、アカウントのプロフィール部分に原告が使用している自作のイラストを使用しているところ、当該イラストは、原告が創作したイラストであり、原告の思想又は感情が表現された美術の著作物である。そうすると、本件投稿5−1は、インターネット上に上記イラストを掲載しており、これは原告の複製権又は公衆送信権を侵害する。
 そして、本件投稿5−1について著作権侵害についての例外規定の適用もない。
オ 本件投稿5−2
(ア)同定可能性
 本件投稿5−2は、「ABC(以下省略)」というアカウントからであり、いわゆる原告のなりすましのアカウントから投稿されたものであるところ、上記アカウントから投稿されたツイートは全て、原告に関してなされたものと第三者から認識されるため、本件投稿5−2が原告に関してなされたものであることは明らかである。
(イ)権利侵害の明白性
 本件投稿5−2は、原告が「自粛自粛うるせえな、だまって動画再生してればいいんだよ」と原告を非難する者に対して苦言を呈する内容となっている。これを見た者は、原告がもっぱら利益の追求だけを考えている人格に問題のある人間であるという印象を抱くことは明らかであり、原告の社会的評価を低下させ、原告の名誉権を侵害する。
 また、そのような原告の動画を見たいと思う者は当然減少するであろうから、原告の営業権を侵害する。
 そして、本件投稿5−2について、違法性阻却事由は存在しない。
【被告の主張】
ア 本件投稿1−1
(ア)同定可能性
 本件投稿1−1は、投稿の対象について何ら明言しておらず、本件投稿1−1は原告を対象としていない。仮に、本件投稿1−1の対象が「ABC」なる人物であると認識されたとしても、原告の氏名、住所など投稿の対象が原告であると特定できる情報は一切記載されておらず、本件投稿1−1に接した一般の閲覧者は、「ABC」という通称名を認識されるにとどまり、それが原告のことを指すと認識されない。
(イ)権利侵害の明白性
a 本件投稿1−1は、具体的な事実を摘示するものではなく、個人の感想・評価を述べるに過ぎず、原告の社会的評価を低下させるものではない。また、原告の営業に具体的な支障を生じさせておらず、営業権を侵害しない。
b 本件投稿1−1は、YouTube上に多数の動画を配信している原告の評判などを知りたいというニーズに応えるものであり、公益目的及び公共性があり、また、個人の感想・評価を述べるものであり、論評の域を出るものではないことから、違法性阻却事由が存在する。
イ 本件投稿1−2
(ア)同定可能性
 本件投稿1−2の投稿内容には、投稿対象について明記がなく、原告を対象としていない。仮に、本件投稿1−2の対象が「ABC」なる人物であると認識されたとしても、それが原告のことを指すと認識されないのは前記アのとおりである。
(イ)権利侵害の明白性
a 本件投稿1−2のうち、「いいねも買って」及び「再生数も買って」という記載が原告のYouTube動画に関することである旨の記載はなく、極めて抽象的な記載であり、この記載のみで原告の社会的評価は低下しない。また、「○ね」という記載も伏字になっており、「しね」であるとは読み取れず、原告の名誉感情を侵害するものではない。
b 本件投稿1−2も、YouTube上に多数の動画を配信している原告の内情を知りたいというニーズに応えるものであり、公益目的及び公共性がある。また、原告が「ABC」のアカウントで登録者や再生数を購入していないとまでは言えず、さらに、本件投稿1−2は、YouTubeの登録者や再生数を購入しているという内部情報について「買って」という確定的な表現をしており、これを信じるに足りる相当な理由が存在したといえる。したがって、違法性阻却事由が存在する。
ウ 本件投稿3
(ア)同定可能性
 本件投稿3は、投稿対象について明記がなく、その対象が原告であるとは直ちに認識できない。仮に、本件投稿3の対象が「ABC」なる人物であると認識されたとしても、それが原告のことを指すと認識されないのは前記ア(ア)のとおりである。
(イ)権利侵害の明白性
 本件投稿3の投稿内容は、特段の根拠が示されておらず、簡潔で具体性もない表現である。そして、本件投稿3は、原告が緊急事態宣言中にパチスロ店に行ったことを注意する趣旨であると考えられ、合理的な範囲内での注意である。したがって、本件投稿3は、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるとはいえない。
エ 本件投稿5−1
 原告の主張は争う。仮に、原告がイラストの著作者であるとしても、当該イラストには、キャラクターの両脇にAが描かれているが、甲1の2には当該キャラクターの両脇にAが描かれておらず、原告が主張する要素が欠けており、著作権侵害は認められない。
 仮に、上記イラストが原告の著作物であるとしても、本件投稿5−1に係るアカウントは、ツイッターのアイコン画像及びヘッダー画像として使用されており、私的利用(著作権法30条1項)にあたり、本件投稿5−1は原告の複製権を侵害しない。さらに、本件投稿5−1に係るアカウントは、収益目的でイラストを掲載しているわけではなく、悪質な使用方法ではないことからすれば、公衆送信権の侵害は例外的に認められず、又は、原告の公衆送信権の侵害の主張は権利濫用であり失当である。
オ 本件投稿5−2
(ア)同定可能性
 原告は、自らのアカウントが「ABC(以下省略)」であり、同アカウント以外はなりすましであると周知しており、本件投稿5−2に係るアカウントがなりすましであると認識でき、原告とは別の人物による投稿であると認識できる。したがって、本件投稿5−2の対象が原告であるとは認識できない。
 仮に、本件投稿5−2の対象が「ABC」なる人物であると認識されたとしても、それが原告のことを指すと認識されないのは前記アのとおりである。
(イ)権利侵害の明白性
a 本件投稿5−2のみではどのような経緯でこれが投稿されたのか不明であり、これのみで原告が一切反省していないかのような印象を与えることが明らかとはいえず、原告の社会的評価を低下させるものでもない。また、本件投稿5−2により、原告の収益が減少したか不明であり、営業権侵害はない。
b 原告は、本件投稿5−2の記載が原告が一切反省をしていない印象を与えると主張するが、本件投稿5−2の当時、原告が反省の態度を外部に明らかにしていなかった場合には、本件投稿5−2の投稿時に原告が反省していなかったことが真実であると投稿者が信じるにつき相当な理由があるといえ、違法性阻却事由が存在する。
(3)争点(3)(開示を受けるべき正当な理由の有無)
【原告の主張】
 原告は、本件各投稿の発信者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求等の請求をする予定であるが、この権利を行使するためには、本件発信者情報の開示を受ける必要がある。
【被告の主張】
 原告の主張は争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件発信者情報が「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるか否か)
(1)法4条1項は、「権利の侵害に係る発信者情報」とやや幅を持って規定しており、侵害情報そのものから把握される発信者情報だけでなく、侵害情報の送信に関連する発信者情報であれば、これを開示することが認められる場合があると解することができる。そして、法4条の趣旨が加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図るという点にあることに照らせば、侵害情報そのものの送信の前又は後に割り当てられたIPアドレスから把握される発信者情報であっても、当該侵害情報の発信者のものと認められるのであれば、法4条1項の「権利の侵害に係る発信者情報」に当たると解するのが相当である。
(2)本件アカウント1について
ア 本件投稿1−1及び1−2は、本件アカウント1から投稿されたものであるところ、本件ログイン情報1−1及び1−2は、本件投稿1−1の投稿日時の数日後又は本件投稿1−2の投稿日時の数日前に行われたログインに係るログイン情報であり、本件ログイン情報1−1及び1−2は、いずれも本件投稿1−1又は1−2が行われた際に割り当てられたIPアドレスではないといえる。しかしながら、ツイッターを利用するに当たっては、アカウントを登録し、そのアカウントを用いてパスワードを入力し、ログインした後に投稿する必要があり(前記前提事実(5))、当該アカウントにログインする者は、そのアカウントの使用者である蓋然性が高いといえる。そして、本件ログイン情報1−1及び1−2に係るログインをした者は、同一人物として特定されており(弁論の全趣旨)、また、本件アカウント1には同一のIPアドレスから繰り返しログインがされており(甲2の1、20)、他方、本件アカウント1が複数人によって共有されていたことをうかがわせる事情は見当たらない。
 以上によれば、本件ログイン情報1−1又は1−2は、本件投稿1−1又は1−2を投稿した者のものと認めるのが相当であり、本件投稿1−1又は1−2により原告の権利が侵害されたと認められる場合には、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるといえる。
イ 被告は、@本件投稿1−2の投稿前に多数のログインがされていること、A本件アカウント1には被告が管理しないプロバイダからのログインもあることから、本件ログイン情報1−1及び1−2は、「権利の侵害に係る発信者情報」に該当しないと主張する。
 しかしながら、上記@について、本件投稿1−2の投稿前に多数のログインがされていたとしても、本件ログイン情報1−1又は1−2が本件投稿1−2を投稿した者とは異なる者によってされたものと認めることはできず、前記認定を左右するものではない。また、上記Aについて、同一人が複数の端末をそれぞれ異なる経由プロバイダ等と契約して用いたり、所在場所に応じて異なる者が供する電気通信設備を用いたりすることもあることなどを踏まえれば、上記Aをもって、本件アカウント1が複数人によって共有されていたとは認められず、前記認定を左右するものではない。
 被告の上記主張は採用できない。
(3)本件アカウント3について
 本件投稿3は、本件アカウント3から投稿されたものであるところ、本件ログイン情報3は、本件投稿3の投稿日時の3か月以上の後に行われたログインに係るログイン情報であり、本件ログイン情報3は、本件投稿3が行われた際のIPアドレスではない。しかしながら、前記(2)のとおり、ツイッターにおいて、当該アカウントにログインする者は、そのアカウントの使用者である蓋然性が高いといえる上に、本件ログイン情報3により特定された契約者(被告との間でプロバイダ契約を締結した者)は、本件投稿3が正当な批判であると意見を述べており(弁論の全趣旨)、自らが投稿したことを前提に意見を述べているといえる。そして、本件アカウント3が複数人によって共有されていたことをうかがわせる事情もない。
 以上によれば、本件ログイン情報3は、本件投稿3をした者のものと認めるのが相当であり、本件投稿3により原告の権利が侵害されたと認められる場合には「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるといえる。
(4)本件アカウント5について
ア 本件投稿5−1及び5−2は、本件アカウント5から投稿されたものであるところ、本件ログイン情報5は、本件投稿5−1の投稿日時の数時間前若しくは数日後、又は本件投稿5−2の投稿日時の数日後に行われたログインに係るログイン情報であり、本件ログイン情報5は、本件投稿5−1又は5−2が行われた際のIPアドレスではない。しかしながら、前記(2)のとおり、ツイッターにおいて、当該アカウントにログインする者は、そのアカウントの使用者である蓋然性が高いといえる上に、本件ログイン情報5により特定された契約者(被告との間でプロバイダ契約を締結した者)は、本件投稿5−1及び5−2により著作権侵害、名誉権侵害及び営業権侵害は認められないと意見を述べており(弁論の全趣旨)、自ら投稿したことを前提に意見を述べているといえる。そして、本件アカウント5が複数人によって共有されていたことをうかがわせる事情もない。
 以上によれば、本件ログイン情報5は、本件投稿5−1又は5−2をした者のものと認めるのが相当であり、本件投稿5−1又は5−2により原告の権利が侵害されたと認められる場合には、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるといえる。
イ 被告は、@本件投稿5−1の投稿前に多数のログインがされていること、A本件アカウント5には、被告が管理しないプロバイダからのログインもあることから、本件ログイン情報5は、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たらないと主張する。
 しかしながら、上記@について、本件投稿5−1の投稿前に多数のログインがされていたとしても、本件ログイン情報5が本件投稿5−1を投稿した者とは異なる者によってされたものとはいえないから、前記認定を左右するものではない。また、上記Aについて、同一人が複数の端末をそれぞれ異なる経由プロバイダと契約して用いたり、また、所在場所に応じて異なる者が供する電気通信設備を用いたりすることもあることなどを踏まえれば、上記Aをもって、本件アカウント5が複数人によって共有されていることがうかがえるとはいえず、前記認定を左右するものではない。被告の上記主張は採用できない。
2 争点(2)(権利侵害の明白性)
(1)本件投稿1−2について
ア 同定可能性
 本件投稿1−2は、「♯ABC♯クズ♯バカ」と記載した上で、「ABC(以下省略)」のアカウントのツイートをそのアカウント名を判別できるように表示したスマートフォンのスクリーンショット画面を添付して投稿されたものであること(甲1の1)からすれば、本件投稿1−2は、「ABC」に対するコメントと認めることが相当である。そして、原告は、YouTube上において、「ABC」のアカウントを使用して動画を配信している者であり(前記前提事実(1)ア)、そのアカウントでは、「ABC」がパチンコをしているとする動画等が配信されていて、そのような行為をした「ABC」をねぎらうなどするコメントが投稿されるなどしていること(甲8)などに照らせば、本件投稿1−2は、「ABC」のアカウントを使用して動画を配信している個人、すなわち原告を対象とするものというべきである。
 被告は、本件投稿1−2には原告の氏名や住所など投稿の対象が原告であると特定できる情報は一切記載されておらず、「ABC」という通称名が認識されるにとどまり、それが原告のことを指すとは認識されないと主張する。しかし、原告は「ABC」のアカウントを使用してYouTubeに動画を配信している者であり、本件投稿1−2に原告の氏名や住所等の記載がなかったとしても、これに接した一般の閲覧者は、本件投稿1−2が「ABC」として動画を配信している個人である原告を対象とするものと認識するといえる。被告の上記主張を採用することはできない。
イ 権利侵害の明白性
 証拠(甲11)によれば、YouTubeの「虚偽のエンゲージメントに関するポリシー」として、「自動システムを使用して、または何の疑いも持たない閲覧者に動画を示して、視聴回数、高評価数、コメント数、その他の統計数を故意に増やそうとする行為は、YouTubeで許可されていません。」とされており、これに違反した場合には、コンテンツやチャンネルがYouTubeから削除される場合があると定められていることが認められ、YouTubeにおいては、故意に視聴回数や高評価数などの統計数を増やそうとする行為は禁止されているものといえる。
 これを前提に、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準にすれば、本件投稿1−2の「いいねも買って」、「再生数も買って」というのは、「ABC」である原告がYouTubeでは禁止されている故意に視聴回数や高評価数などの統計数を増やそうとする行為をしているとの事実を摘示するものといえる。そうすると、本件投稿1−2に接した一般の閲覧者は、原告がYouTubeで禁止されている不正行為をして動画配信をしているとの印象を抱くものといえ、原告の社会的評価を低下させ、原告の名誉権を侵害するものといえる。
 そして、本件において、原告がYouTubeの視聴回数や高評価数を購入していることをうかがわせる証拠はなく、本件投稿1−2の内容が真実であるとは認められず、違法性阻却事由は存在しない。
 したがって、本件投稿1−2は、原告の名誉権を侵害することが明らかというべきである。
ウ 以上によれば、本件投稿1−2は、原告の名誉権を侵害することから、本件投稿1−1について検討するまでもなく、本件ログイン情報1−1及び1−2は、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるといえる。
(2)本件投稿3について
ア 同定可能性
 本件投稿3は、「ABC(以下省略)」のアカウント(原告の公式アカウント)からされたツイートに対して、リプライする形でされたものであり、その内容も「くたばれ低能ゴミカス」などと、対象となる人物について攻撃するものであること(甲1の3、弁論の全趣旨)からすれば、本件投稿3は、「ABC」に対して向けられたものであると認められる。そして、原告は、YouTube上において、「ABC」のアカウントを使用して動画を配信している者であるなど前記に述べた事情からすれば、本件投稿3は、「ABC」のアカウントを使用して動画を配信する個人である原告を対象とするものというべきである。
イ 権利侵害の明白性
 本件投稿3の内容は、別紙投稿記事目録3の「内容」欄記載のとおりであり、原告に対して、「くたばれ低脳ゴミカス」、「ノミ以下のやつ」、「1日も早い他界を望むわ」、「しんどけゴミ」などとツイートするものである。
 これは、原告が緊急事態宣言中にパチンコ店に行きパチンコをしていたこを批判する趣旨と考えられるものの、原告の人格を直接攻撃するものであり、社会通念上許される限度を超える侮辱行為というべきであり、本件投稿3は、原告の名誉感情を侵害するものといえる。
 そして、本件投稿3について、違法性阻却事由をうかがわせるような事情もない。
 したがって、本件投稿3は、原告の名誉感情を侵害することが明らかというべきである。
ウ 以上によれば、本件投稿3は、原告の名誉感情を侵害することから、本件ログイン情報3は、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるといえる。
(3)本件投稿5−1について
ア 証拠(甲13)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、別紙投稿記事目録5−1の「使用画像(アイコン画像)」欄記載のイラスト(以下「本件イラスト」という。)を作成したことが認められ、本件イラストは、原告のアカウント名であるA、B、Cをモチーフにしたものといえ、創作性が認められ、原告が作成した著作物といえ、原告に著作権が認められる。
 そして、本件アカウント5の利用者は、令和2年4月頃、原告の著作物である本件イラストのうち背景部分を除き、CとBをモチーフにした部分をツイッターのアカウントのプロフィール画像に設定するなどして本件投稿5−1を行っており(甲1の2、弁論の全趣旨)、本件イラストの創作性のある部分をインターネット上にアップロードしたものといえる。そうすると、本件アカウント5の利用者は、本件イラストを複製し、対応するサーバに記録して自動公衆送信し得るようにして送信可能化しており、本件投稿5−1は、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するものといえる。
イ 被告は、本件イラストの利用が、@私的利用に当たること、A悪質な利用方法ではなく例外的に公衆送信権の侵害には当たらないこと、B権利濫用であることから、権利侵害が認められないなどと主張する。
 しかしながら、本件投稿5−1は、ツイッターのプロフィールの画像として本件イラストを掲載するものであり、著作権法30条1項に定める「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内」の使用とはいえず、また、他の権利制限事由に該当するとも認められない。また、原告による公衆送信権侵害の主張が権利濫用であることを基礎付ける事実もない。被告の上記主張を採用することはできない。
ウ 以上によれば、本件投稿5−1は、原告の著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害することから、本件投稿5−2について検討するまでもなく、本件ログイン情報5は、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たるといえる。
3 争点(3)(開示を受けるべき正当な理由の有無)について
 証拠(甲6)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件各投稿をした発信者らに対し、名誉権、名誉感情、著作権(複製権、公衆送信権)侵害等を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求をする意思を有していることが認められるところ、原告が損害賠償請求権を行使するためには、発信者を特定する本件発信者情報について開示を受ける必要があるといえ、その開示を受けるべき正当な理由があると認めることができる。
4 結論
 以上によれば、原告の本件発信者情報の開示を求める請求は理由があるから認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 佐伯良子
 裁判官 棚井啓


別紙 発信者情報目録
 別紙ログイン情報目録1、3、5の各「IPアドレス欄」記載のIPアドレスを、同目録の各「ログイン日時」欄記載の日時頃に使用した者のうち、以下の接続先IPアドレスのいずれかに接続を行なった者に関する情報であって、次に掲げる情報。
@氏名又は名称
A住所
 (接続先IPアドレス)
 (以下省略)
 以上

別紙(以下別紙省略)
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