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【事件名】CADプログラムの海賊版事件
【年月日】令和3年11月9日
 大阪地裁 令和3年(ワ)第3208号 損害賠償請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年10月15日)

判決
原告 オートデスクインク
同代表者
同訴訟代理人弁護士 村本武志
同訴訟復代理人弁護士 櫛田博之
被告 P1
同訴訟代理人弁護士 増子仁


主文
1 被告は、原告に対し、6000万円及びこれに対する平成30年10月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
3 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要等
1 本件は、機械や構造物の設計、製図等のCAD機能等を有するアプリケーションプログ5ラム(以下「原告製品」という。)の著作権者である原告が、被告は、原告の許諾を受けずに複製された原告製品の海賊版製品(以下「本件海賊版製品」という。)について、インターネットオークションサイト(以下「本件サイト」という。)で入札を募り、落札者に対し、本件海賊版製品を販売したと主張して、著作権(複製権、譲渡権等)侵害の不法行為(民法709条)を理由に、著作権法114条3項に基づき、損害合計11億6059万6750円の一部である6000万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成30年10月25日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(争いのない事実、当裁判所に顕著な事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)原告は、コンピュータ上において機械や構造物の設計、製図等のCAD機能、あるいは文書、閲覧機能を有するアプリケーションプログラムである別紙1「原告製品一覧表」記載の各プログラム(原告製品)の著作権者である(弁論の全趣旨)。
(2)被告は、平成26年頃から、ヤフー株式会社が運営するインターネットオークションサイト「ヤフオク!」(本件サイト)において、本件海賊版製品の入札を募り、落札者に対し本件海賊版製品を販売した(以下「被告販売行為」という。争いがない)。
(3)被告は、令和2年11月18日、被告販売行為の一部を公訴事実とする著作権法違反等の罪により、大阪地方裁判所に起訴され、令和3年2月9日、同裁判所から、懲役1年8月(執行猶予3年)及び罰金50万円の有罪判決を受けた(甲3)。
(4)原告は、令和3年4月6日、大阪地方裁判所に対し、本件訴えを提起した(当裁判所に顕著な事実)。
(5)被告は、令和3年10月15日の第1回弁論準備手続期日において、原告に対し、原告の損害賠償請求権のうち、本件訴え提起の時点で3年が経過しているものについて、消滅時効を援用する旨の意思表示をした(当裁判所に顕著な事実)。
3 争点
(1)被告販売行為による不法行為の成否(争点1)
(2)被告の故意又は過失の有無(争点2)
(3)損害の発生及びその額(争点3)
(4)損益相殺(争点4)
(5)過失相殺(争点5)
(6)消滅時効(争点6)
4 当事者の主張
(1)被告販売行為による不法行為の成否(争点1)について
(原告の主張)
 被告は、本件海賊版製品が原告の許諾を受けずに複製されたものであることを知りながら、本件サイトにおいて、原告の許諾を得ることなく、別紙2の1「原告損害一覧表1」及び同2の2「原告損害一覧表2」の各「商品タイトル」欄記載の原告製品に係る本件海賊版製品の入札を募り、同各「終了日」欄記載の頃、同各「落札価格」欄記載の金額で、同各「入札数」欄記載の回数、各落札者に対し、本件海賊版製品を販売したのであり、かかる被告販売行為は、原告の著作権(複製権、譲渡権等)を侵害するものとして不法行為を構成する。
(被告の主張)
 原告の主張のうち、被告が、平成26年頃から、本件サイトにおいて、本件海賊版製品の入札を募り、落札者に対し本件海賊版製品を販売したことは認め、その余は否認ないし不知。
 原告が主張する別紙2の1「原告損害一覧表1」及び同2の2「原告損害一覧表2」の中には、例えば、同2の1「原告損害一覧表1」のNO.18及びNO.71のように、落札者による落札後に落札がキャンセルになった場合が相当数含まれている。
(2)被告の故意又は過失の有無(争点2)について
(原告の主張)
 被告は、平成26年頃より、被告販売行為を繰り返していたのであり、被告には、原告の著作権を侵害することにつき、故意又は過失がある。
(被告の主張)
 否認ないし不知。
(3)損害の発生及びその額(争点3)について
(原告の主張)
ア 著作権法114条3項に基づく使用許諾料相当の損害
 被告が被告販売行為を行った回数は、別紙2の1「原告損害一覧表1」及び同2の2「原告損害一覧表2」の各「入札数」欄記載のとおりであるところ、原告製品のライセンス料は、同「原告製品価格」欄記載のとおりである。なお、被告は、落札者に対し、原告が許諾した者以外の者によるプログラムの実行を制限するために用いているライセンス認証システムの効果を妨げる不正プログラムを本件海賊版製品と一緒に送付していることから、落札者は実質的に期間の制限なく本件海賊版製品を使用することができる。そのため、永久ライセンス版がある原告製品の価格は永久ライセンス版の価格とし、それがない原告製品の価格は1年ライセンス版の価格としている。
 以上を踏まえて、著作権法114条3項に基づく使用許諾料相当の損害額を計算すると、別紙2の1「原告損害一覧表1」及び同2の2「原告損害一覧表2」の各「原告損害」欄記載の損害額の合計10億5509万6750円となる。
イ 弁護士費用相当の損害
 原告は、本件訴えを提起するため、弁護士に依頼することを余儀なくされた。したがって、弁護士費用1億0550万円は被告による著作権侵害行為と相当因果関係のある損害に含まれる。
ウ よって、原告は、被告に対し、不法行為に基づき、11億6059万6750円の一部である6000万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める。
(被告の主張)
 否認ないし争う。
 著作権法114条3項は、逸失利益の立証の困難性に鑑み、最低限の賠償額として利用料相当額を保障したものであるから、同条項は、ライセンス料やロイヤリティ等の利用料を想定したものである。利用料は複製物の販売価格である定価とは本質的に異なるものである上、通常は前者よりも後者の方が高額であることから、後者に販売数量を乗じた額を損害とするのでは、最低限の賠償額を保障した同条項の趣旨及び文理に反することになる。したがって、原告が主張する算定式に利用料率を介在させるなどの修正をする必要がある。
 また、例えば、原告製品の2015年バージョン以前のものはWindows10には対応していないなど、原告製品と動作環境との適合性や進化するセキュリティソフトとの相性の問題等があるため、購入後のサポートがある原告製品と同様に、本件海賊版製品を期間の制限なく使用できることはあり得ない。したがって、原告製品の永久ライセンス版の価格を使用許諾料の基準とするのは相当でない。さらに、原告製品の期間契約には、1か月、1年及び3年の各期間設定があるところ、契約期間が長くなれば割安になる。したがって、永久ライセンス版が設定されていない原告製品の使用許諾料の基準を1年ライセンス版の原告製品の価格とする必然性はない。
(4)損益相殺(争点4)について
(被告の主張)
 原告は、販売機会の喪失による逸失利益の賠償を求めているから、被告販売行為によって出費を免れた経費相当額、具体的には、営業利益率を乗じた金額か少なくとも変動費目を控除した金額を損害額から控除しなければならない。
(原告の主張)
 否認ないし争う。
 著作権法114条3項は、逸失利益の立証の困難性に鑑み最低限の損害額として利用料相当額を保障することに尽きるものではなく、侵害行為の違法性の程度や市場への影響等の諸般の事情を考慮して算定された、著作権者のライセンス料相当額を賠償の対象とするものである。
 本件は、被告が、原告製品に設定されたライセンス認証を回避する態様で、原告の著作権侵害行為を数年にわたり行うことで、原告製品の販売機会を侵害し、甚大な被害を生じさせたのであり、原告製品の定価をもって、著作権法114条3項に基づく使用許諾料相当額とするのが相当であるから、被告の損益相殺の主張は主張自体失当である。
(5)過失相殺(争点5)について
(被告の主張)
 原告は、遅くとも被告が本件海賊版製品を出品し始めた平成26年頃には、多くの出品者から夥しい数の原告製品の海賊版がネットオークションサイトに出品され、同サイト上を賑わしている状況を認識していたにもかかわらず、何らの措置を講ずることなく漫然とその状況を看過してきた。
 したがって、原告には、自ら損害の拡大に寄与した過失があり、この点について過失相殺がなされるべきである。
(原告の主張)
 否認ないし争う。
 原告の著作権を侵害したのは被告であり、原告は被告の違法行為に何ら関与していない。また、犯罪被害を受けている原告が、全ての侵害行為に対して告訴を行う義務や損害賠償請求を行う義務等はなく、原告が被告の著作権侵害行為による原告の損害を拡大させていることもない。
(6)消滅時効(争点6)について
(被告の主張)
 前記(5)の(被告の主張)のとおり、原告は、遅くとも平成26年頃には、多くの出品者から夥しい数の原告製品の海賊版がネットオークションサイトに出品されていることを認識していたところ、同海賊版を出品することは違法であるから、同サイトに対し、出品者IDと紐付けられた出品者の個人情報を開示するよう求めるなどして容易にこれを知り得る立場にあった。したがって、原告は、被告が本件海賊版製品を出品した当時、被告に対する損害賠償請求が可能な程度に損害及び加害者を認識していたといえる。
 被告は、令和3年10月15日の第1回弁論準備手続期日において、原告に対し、原告の請求のうち、本件訴え提起の時点で3年が経過しているものについて、消滅時効を援用する旨の意思表示をした(前記前提事実(5))。
(原告の主張)
 被告の主張のうち、原告が、遅くとも平成26年頃には、夥しい数の原告製品の海賊版がネットオークションに出品されていることを認識していたことは認め、その余は否認ないし争う。
 民法724条1号の「損害及び加害者を知った時」とは、被害者において、加害者に対する損害賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度にこれらを知った時を意味するものと解するのが相当であり、経済合理性を無視して費用と労力をかけて初めて著作権侵害者を特定できた可能性があったことを意味するものではない。原告は、原告製品の海賊版がネットオークションに出品されていることを抽象的に認識していたが、これによって被告による著作権侵害があることを具体的に予見していたことにはならず、予見可能であったともいえない。
 原告は、令和2年9月18日、大阪府警察から被告が原告の著作権を侵害している事実についての連絡を受けて初めて「加害者及び損害を知った」ところ、本件訴えに係る請求はそれから3年を経過していない。
 なお、本件は、被告が、損害回復に向けた活動を行う原告のリソース、能力に限りがあることを奇貨として違法行為を行ったものであり、そのような被告が、自らの非行を棚に上げ、原告が加害事実を認識し、対処できなかったことを非難して、消滅時効の援用をすることは、権利濫用に当たって許されるものではない。
第3 争点についての当事者の主張
1 被告販売行為による不法行為の成否(争点1)について
 証拠(甲4〜9、12〜16[各枝番を含む。])及び弁論の全趣旨によれば、被告は、海外サイトにおいて、原告製品の海賊版を無料でダウンロードし、本件サイトにおいて、別紙2の1「原告損害一覧表1」及び同2の2「原告損害一覧表2」の各「商品タイトル」欄記載の原告製品に係る本件海賊版製品の入札を募り、同各「終了日」欄記載の頃、同各「落札価格」欄記載の金額で、各落札者に対し、本件海賊版製品を販売したことが認められ、かかる被告販売行為が、原告の著作権(複製権、譲渡権)を侵害し、不法行為を構成することは明らかである。
 これに対し、被告は、原告が主張する別紙2の1「原告損害一覧表1」及び同2の2「原告損害一覧表2」の中には、例えば、同2の1「原告損害一覧表1」のNO.18及びNO.71のように、落札後に落札がキャンセルとなった場合が相当数含まれている旨を主張する。しかし、被告は、前記2つの落札を除き、落札後にキャンセルされた場合について具体的に主張せず、また、前記2つの落札を含め、キャンセルされたことを裏付ける証拠を提出しない。したがって、被告が、被告販売行為を行った後に落札がキャンセルされたことは認めるに足りず、被告の主張は採用できない。
2 被告の故意又は過失の有無(争点2)について
 前記1のとおり、被告は、海外サイトにおいて、原告製品の海賊版を無料でダウンロードし、本件サイトにおいて、落札者を募り、各落札者に対し、本件海賊版製品を販売することを繰り返していたのであり、さらに、前掲証拠によれば、被告は、前記販売の際に、本件海賊版製品に、ライセンス認証を回避し、本件海賊版製品を無期限に使用することができるようにする不正プログラムを添付すると共に、自ら作成したマニュアルも添付して、各落札者に対し、インストールをする際には、インターネット回線を一時的に切断し、セキュリティソフト、アンチウィルスソフトも作業終了まで停止するよう指示していることが認められるのであるから、被告に、原告の著作権侵害についての故意があったことは明らかである。
3 損害の発生及びその額(争点3)について
(1)著作権法114条3項に基づく使用許諾料相当の損害について
ア 証拠(甲1、2、4〜9、18、乙2、3[各枝番を含む。])及び弁論の全趣旨によれば、原告製品は、オンラインストア等で顧客に対し販売されていること、原告製品には、永久ライセンス版と、使用期間を1か月、1年、3年に制限したサブスクリプション版が存在するところ、これらの動作種別は、ライセンス認証時に原告から送付される認証コードの種別により決せられることが認められるが、被告は、前記認定のとおり、本件海賊版製品の落札者に対し、本件海賊版製品と共に、ライセンス認証を回避する不正なプログラム、及びインターネットに接続せずにインストールをすること等を指示するマニュアル等を添付して、落札者をして前記ライセンス認証システムを無効化させ、これによって、落札者は、使用期間の制限なく本件海賊版製品を使用することが可能になったことが認められる。
 これらの事実関係に照らすと、原告製品の永久ライセンス版の定価をもって、原告が原告製品の著作権の行使につき受けるべき価額であると認めるのが相当である。
イ これに対し、被告は、原告製品の定価をもって著作権法114条3項の使用料相当額とすることは、最低限の賠償額を保障した同3項の趣旨及び文理に反する旨を主張する。しかし、被告販売行為により、落札者は、もともとの原告製品の使用期間制限の有無や期間にかかわらず、使用期間の制限なく本件海賊版製品を使用することが可能となるのであり、これによって、原告は、被告販売行為がなければ得られたであろう永久ライセンス版の定価の額に相当する額を得られなかったことになるし、被告販売行為の態様は、本件海賊版製品をライセンス認証を回避しつつインストールすることができるよう販売するという悪質なものであり、その違法性は高く、市場への影響も大きい。
 被告は、原告製品の定価と原告製品の使用料相当額として受けるべき金銭の額とは別である旨を主張するが、原告製品のようなアプリケーションプログラムの販売価格は、その本質において著作物の使用許諾に対する対価というべきであるから、前述のとおり、原告製品の定価をもって、著作権法114条3項が定める著作権の行使につき受けるべき金銭の額と見ることができるのであり、被告の主張は理由がない。
 また、被告は、原告製品と動作環境との適合性や進化するセキュリティソフトとの相性の問題等があるため、本件海賊版製品を期間の制限なく使用できることはあり得ないことから、原告製品の永久ライセンス版の価格を使用許諾料の基準とするのは相当でないこと、あるいは、原告製品の期間契約には、1か月、1年及び3年の各期間設定があるところ、契約期間が長くなれば割安になることから、原告製品のうち永久ライセンス版が設定されていないものについて1年ライセンス版の価格を使用許諾料の基準とするのは相当でないことを主張する。しかし、前述したとおり、被告販売行為により、落札者は、もともとの原告製品の使用期間制限の有無や期間にかかわらず、使用期間の制限なく本件海賊版製品を使用することが可能となるのであり、その時点で原告には原告製品の永久ライセンス版の定価相当額の損害が発生したというべきであって、その後、動作環境等により本件海賊版製品を使用できなくなる可能性があることやもともとの原告製品には期間制限があることなどの事情は、損害額の算定には影響しないと解するのが相当である。
ウ 証拠(甲2の1〜2の18)及び弁論の全趣旨によれば、原告製品の永久ライセンス版の定価は、別紙2−1「原告損害一覧表1」及び同2−2「原告損害一覧表2」の各「原告製品価格」欄記載の価格をくだらないことが認められ、被告販売行為による原告の損害は、同各「原告損害」欄記載の合計10億5509万6750円をくだらない。
(2)弁護士費用相当の損害について
 被告販売行為と相当因果関係のある弁護士費用は、原告が主張する弁護士費用1億0550万円をもって相当と認める。
4 損益相殺(争点4)について
 被告は、原告は、販売機会の喪失による逸失利益の賠償を求めているから、被告販売行為によって出費を免れた経費相当額、具体的には、営業利益率を乗じた金額か少なくとも変動費目を控除した金額を損害額から控除しなければならない旨を主張する。
 しかし、被告が主張する経費の具体的内容が明らかでないし、仮に原告に出費を免れた経費があったとしても、原告製品の使用許諾料相当額として損害賠償の額を算定するに当たり、経費を控除すべき事情は見当たらない。したがって、被告の主張は採用できない。
5 過失相殺(争点5)について
 被告は、原告が、多くの出品者から夥しい数の原告製品の海賊版がネットオークションサイトに出品されている状況を認識していたにもかかわらず、何らの措置を講ずることなく漫然とその状況を看過してきたから、原告には、自ら損害の拡大に寄与した過失があったとして、過失相殺がされるべきである旨を主張する。
 原告が、夥しい数の原告製品の海賊版がネットオークションサイトに出品されている状況を抽象的に認識していたことは当事者間に争いがないものの、そのことから、直ちに原告がこれに対応して何らかの措置を講ずべき義務が生じるものとは認められず、その他、原告に同義務が生じると認めるに足りる証拠はない。したがって、被告販売行為について原告に過失があり、原告が自ら損害の拡大に寄与したということはできないから、被告の主張は採用できない。
6 消滅時効(争点6)について
 被告は、原告が夥しい数の原告製品の海賊版がネットオークションサイトに出品されている状況を認識していたところ、同サイトに対し、出品者IDと紐付けられた出品者の個人情報を開示するよう求めるなどして容易にこれを知り得るから、原告は、被告が本件海賊版製品を出品した当時、被告に対する損害賠償請求が可能な程度に損害及び加害者を認識していたとして、原告の損害賠償請求はその頃から3年の経過により時効消滅した旨を主張する。
 しかし、原告が、夥しい数の原告製品の海賊版がネットオークションサイトに出品されている状況を抽象的に認識したからといって、そのことから、被告に対する損害賠償請求が可能な程度に損害及び加害者を知ったものとは認められない。一方で、証拠(甲17、18)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、令和2年9月18日、大阪府警察から、原告製品の海賊版が本件サイトに出品されていることについて告訴する意思の確認等を受けたことが認められ、原告が、被告が被告販売行為を行っていたことを知ったのはその頃以降であることが推認されるところ、これを覆すに足りる事情はない。そうすると、原告は、少なくとも令和2年9月18日以降に本件訴えに係る損害賠償請求の損害及び加害者を知ったものと認められ、前提事実(4)記載のとおり、原告は、令和3年4月6日、本件訴えを提起したから、本件訴えに係る損害賠償請求権は、訴え提起時において、3年の消滅時効期間が満了していない。
 したがって、被告の主張は採用できない。
7 小括
 以上によれば、原告の請求は、一部請求額である6000万円を超えて認められ、また、原告は、本件訴えにおいて、被告販売行為のうち不法行為成立時期の古いものから一部請求しているものと解されるところ、別紙2−1「原告損害一覧表1」及び同2−2「原告損害一覧表2」の各「原告損害」欄記載のとおり、平成30年10月25日時点において、原告の損害額合計が6000万円を超えていることは明らかである。
 したがって、被告は、原告に対し、6000万円及びこれに対する不法行為の日の後である平成30年10月25日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
第4 結論
 よって、原告の請求は理由があるから認容することとして、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 谷有恒
 裁判官 杉浦一輝
 裁判官 峯健一郎


(別紙省略)
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