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【事件名】KDDIへの発信者情報開示請求事件S
【年月日】令和3年10月28日
 東京地裁 令和3年(ワ)第16890号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年9月17日)

判決
原告 株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ(以下「原告ソニー」という。)
原告 株式会社JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント(以下「原告JVC」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 尋木浩司
同 林幸平
同 笠島祐輝
同 前田哲男
同 福田祐実
被告 KDDI株式会社
同訴訟代理人弁護士 今井和男
同 小倉慎一
同 山本一生
同 榊原英里
同訴訟復代理人弁護士 小俣拓実


主文
1 被告は、原告ソニーに対し、別紙発信者情報目録記載1の各情報を開示せよ。
2 被告は、原告JVCに対し、別紙発信者情報目録記載2の各情報を開示せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、原告らが、被告に対し、原告らがそれぞれ製作したレコードを複製したものが被告の用いる電気通信設備を経由して送信されたことによって、原告らが有するレコード製作者の権利(送信可能化権)が侵害されたところ、損害賠償請求権の行使のために必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項所定の発信者情報開示請求権に基づき、上記の各権利侵害に係る発信者情報として、原告ソニーは別紙発信者情報目録記載1の各情報の、原告JVCは同目録記載2の各情報(以下、同目録記載1及び2の各情報を併せて「本件各情報」という。)の開示をそれぞれ求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実。証拠は文末に括弧で付記した。なお、書証は特記しない限り枝番を全て含む。以下同じ。)
(1)原告らは、レコードの製作、販売等をする株式会社である。(弁論の全趣旨)
 被告は、インターネット接続プロバイダ事業等を行う株式会社である。(争いがない事実)
(2)原告ソニーは、Aが歌唱する楽曲を録音してレコード(以下「本件レコード1」という。)を製作し、令和2年8月5日、「a」という名称の商業用レコードを発売した。(甲3、弁論の全趣旨)
 原告JVCは、Bが歌唱する楽曲を録音してレコード(以下「本件レコード2」という。)を製作し、令和2年11月25日、「b」という名称の商業用レコードを発売した。(甲7、弁論の全趣旨)
(3)被告は、プロバイダ責任制限法2条3号所定の特定電気通信役務提供者であり、別紙発信者情報目録記載1及び2記載の各日時頃(以下「本件各日時」という。)に、同目録記載1及び2記載のアイ・ピー・アドレス(以下「本件IPアドレス」という。)を割り当てられた電気通信設備を用いており、被告から本件各日時に同電気通信設備を電気通信の用に供された者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレスの情報(本件各情報)を保有している。(争いがない事実)
(4)ビットトレントという名称のソフトウェアは、P2P(ピアツーピア)方式のファイルの共有及び交換を行うためのソフトウェアである。(甲9)
2 争点及び争点に関する当事者の主張
 本件の争点は、次のとおりである。
@侵害情報の流通によって原告らの各レコード製作者の権利が侵害されたことが明らかといえるか。
A本件各情報が原告らの権利の侵害に係る発信者情報であるか。
B原告らに本件各情報の開示を受けるべき正当な理由があるか。
(1)争点@(侵害情報の流通によって原告らの各レコード製作者の権利が侵害されたことが明らかといえるか。)について
(原告らの主張)
 原告らは、認定調査会社をして調査を行い、本件各レコードを複製することにより作成された各ファイルがビットトレント上で不特定多数人により共有されており、本件各日時に本件IPアドレスを割り当てられた特定電気通信設備を特定電気通信の用に供された者が、本件各日時に上記各ファイルをそれぞれ送信したことを確認した。上記の者は、ビットトレントを使用して上記各ファイルを自己の端末に複製して保存し他の端末に対し送信可能な状態に置いていたものであり、これによって、原告らの各レコード製作者としての権利(送信可能化権)が侵害されたことが明らかである。
(被告の主張)
 調査会社による調査の詳細は明らかではなく、原告らの権利が侵害されたことは明らかではない。
(2)争点A(本件各情報が原告らの権利の侵害に係る発信者情報であるか。)について
(原告らの主張)
 前記(1)(原告らの主張)のとおり、本件各日時に本件IPアドレスを割り当てられた特定電気通信設備を特定電気通信の用に供された者が、本件各日時に本件各レコードを複製して作成した各ファイルをそれぞれ送信したから、本件各情報が原告らの権利の侵害に係る発信者情報であることは明らかである。
(被告の主張)
 調査会社による調査の詳細は明らかではなく、本件各情報が原告らの権利の侵害に係る発信者情報であることは明らかではない。なお、本件各日時は各ファイルが送信された日時にすぎず、送信可能化が行われた日時ではない。
(3)争点B(原告らに本件各情報の開示を受けるべき正当な理由があるか。)について
(原告らの主張)
 本件各情報は原告らの損害賠償請求権等行使のために必要である。
(被告の主張)
 不知。
第3 当裁判所の判断
1 争点@(侵害情報の流通によって原告らの各レコード製作者の権利が侵害されたことが明らかといえるか。)及び争点A(本件各情報が原告らの権利の侵害に係る発信者情報であるか。)について
(1)ビットトレントにおいては、個々の使用者の間で相互に対象となるファイルが共有される。すなわち、ビットトレントにおいて、特定のファイルを入手した使用者は、ファイルの提供者の一覧であるトラッカーに登録され、他の使用者から要求を受けた場合には、自己の使用する端末に保存した当該ファイルを送信して提供することになる。具体的には、特定のファイルをダウンロードし、自己の端末に保存すると、当該端末の電源が入っていてインターネットに接続されている限り、当該ファイルの送信を要求した不特定の者に対し、当該端末に保存された当該ファイルを自動的に送信する状態となる。
 ビットトレントにおいて特定のファイルを得ようとする者は、インデックスサイトと呼ばれるウェブサイトに接続して、当該ファイルのトレントファイルを入手する。そして、トレントファイルに含まれるトラッカーの情報から、当該ファイルの提供者であるピアのアイ・ピー・アドレスを入手し、これに接続して、当該ピアから、当該ピアが使用する端末に保存した当該ファイルの送信を受ける。
(本項につき、甲2、弁論の全趣旨)
(2)プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会は、プロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドラインにおいて、発信者情報の開示を請求する者が、権利を侵害するファイルを送信可能状態に置いていたユーザのIPアドレス、タイムスタンプ等を、同協議会が特定方法の信頼性が認められると別途認定したシステムを用いて技術的に特定し、プロバイダ等が確認した場合には、上記の請求に当たり、IPアドレス等の特定方法が信頼できるものであることに関する技術的資料等の提出を要しないと定めるところ、クロスワープ株式会社(以下「クロスワープ」という。)は、一般社団法人テレコムサービス協会が上記のシステムとして認定した「P2PFINDER」(以下「本件システム」という。)を用いてビットトレント等において公開されているファイルの流通量等を監視している。(甲2、9)
 クロスワープは、本件システムを用いて探索した結果、本件各レコードを複製することにより作成された各ファイルがビットトレントにおいて共有されていることを確認し、上記各ファイルの全体を公開しているピアのものとして特定された本件IPアドレスから、本件各日時頃、上記各ファイルの全体の送信を受けた。上記各ファイルに記録されている各楽曲の歌唱の旋律、歌詞、歌唱方法、歌声、伴奏音楽の楽器構成、演奏方法及び歌唱・演奏のタイミングは、本件各レコードに固定されている各楽曲のものと同一であった。(甲2、3、6、7、10〜13)
(3)原告らが製作した本件各レコードを複製することにより作成された各ファイルが、本件各日時頃、ビットトレントを通じて、本件IPアドレスから送信された(前記(2))ところ、ビットトレントの仕組み(同(1))に照らせば、本件各日時頃に本件IPアドレスを割り当てられた電気通信設備を電気通信の用に供された者が、上記各ファイルが保存された端末をインターネットに接続すること等により、上記各ファイルを自動公衆送信し得るようにしていたことは明らかである。上記の者は、原告らの各レコード製作者の権利(送信可能化権)を侵害したといえ、これにつき、著作権法上の権利制限事由の存在やその他不法行為の成立を阻却する事由の存在を基礎づける事実は認められない。また、上記の者は、上記行為により不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信、すなわちプロバイダ責任制限法2条1号所定の特定電気通信によって上記各ファイルを流通させたものと認められる(同(1)、(2))。
 したがって、特定電気通信による情報の流通によって原告らの各レコード製作者の権利(送信可能化権)が侵害されたことが明らかであるといえ、また、プロバイダ責任制限法2条3項所定の特定電気通信役務提供者である被告が保有する本件各情報は原告らの権利の侵害に係る発信者情報であると認められる。
2 争点B(原告らに本件各情報の開示を受けるべき正当な理由があるか。)について
 本件各情報は原告らの損害賠償請求権等の行使のために必要であり、原告らには本件各情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。
第4 結論
 以上によれば、原告らの請求はいずれも理由があるから、これらを認容すべきである。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 佐伯良子
 裁判官 棚井啓


別紙 発信者情報目録(以下、省略)
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