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【事件名】KDDIへの発信者情報開示請求事件R
【年月日】令和3年10月28日
 東京地裁 令和3年(ワ)第12090号 発信者情報開示等請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年9月17日)

判決
原告 A
被告 KDDI株式会社
同訴訟代理人弁護士 星川勇二
同 星川信行
同 渡部英人
同 佐野雄一
同 工藤慶太


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録(1)及び(2)記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告に対し、原告の著作物である複数の写真が2回にわたり被告の提供する電気通信設備を経由してツイッターというインターネット上のウェブサイトにそれぞれ投稿されたことによって、原告の著作権(複製権、公衆送信権)が侵害されたところ、各損害賠償請求権の行使のために必要であると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項所定の発信者情報開示請求権に基づき、上記の各権利侵害に係る発信者情報である別紙発信者情報目録(1)及び(2)記載の各情報(以下「本件各情報」という。)の開示を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠上容易に認められる事実。証拠は文末に括弧で付記した。なお、書証は特記しない限り枝番を全て含む。以下同じ。)
(1)当事者
 原告は、住所地に居住する個人である。(弁論の全趣旨)
 被告は、電気通信事業等を目的とする株式会社である。(争いがない事実)
(2)投稿記事の存在等
ア(ア)令和3年1月28日午前5時8分頃、ツイッター・インク(以下「ツイッター社」という。)が運営するツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれるメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)のウェブサイトに、別紙投稿記事目録記載1のユーザー名のアカウント(以下「本件アカウント1」という。)により、「…さんの文句言う前に、まず部屋片付けろや/何年そんな状態なの??/よく、これアップ出来たよね/これからは汚宅と呼ばせてもらおう」旨の文章とともに、別紙画像目録記載1から3の各画像(以下、番号に応じて「本件画像1」等という。)が添付されて、別紙投稿記事目録記載1の投稿(以下「本件投稿1」という。)がされた。(甲7)
(イ)原告は、ツイッター社から、本件アカウント1のログインに係るアイ・ピー・アドレス及び日時として、別紙投稿記事目録記載2−1、2−2の各アイ・ピー・アドレス(以下、順に「本件IPアドレス2−1」、「本件IPアドレス2−2」という。)及び各日時の開示を受けた。(甲1〜3、弁論の全趣旨)
 被告は、別紙投稿記事目録記載2−1、2−2の各日時頃に本件IPアドレス2−1、2−2をそれぞれ割り当てられた電気通信設備を用いており、被告から同各日時頃に同電気通信設備を電気通信の用に供された者の氏名又は名称、住所、電話番号(別紙発信者情報目録(1)記載の各情報)を保有している。(甲5、弁論の全趣旨)
イ(ア)令和3年1月29日午前8時43分頃、ツイッターのウェブサイトに、別紙投稿記事目録記載3のユーザー名のアカウント(以下「本件アカウント3」といい、本件アカウント1及び3を併せて「本件各アカウント」という。)により、「パペットマペットしぶといよなぁ/ゴミ屋敷の住人やから免疫力強いんかな?www」という文章とともに、本件画像2が添付されて、別紙投稿記事目録記載3の投稿(以下「本件投稿3」といい、本件投稿1及び3を併せて「本件各投稿」という。)がされた。(甲7)
(イ)原告は、ツイッター社から、本件アカウント3のログインに係るアイ・ピー・アドレス及び日時として、別紙投稿記事目録記載4−1、4−2の各アイ・ピー・アドレス(以下、順に「本件IPアドレス4−1」、「本件IPアドレス4−2」といい、本件IPアドレス2−1、2−2、4−1、4−2を併せて「本件各IPアドレス」という。)及び各日時の開示を受けた。(甲1、2、4、弁論の全趣旨)
 被告は、別紙投稿記事目録記載4−1、4−2の各日時頃に本件IPアドレス4−1、4−2をそれぞれ割り当てられた電気通信設備を用いており、被告から同各日時頃に同電気通信設備を電気通信の用に供された者の氏名又は名称、住所、電子メールアドレス、電話番号(別紙発信者情報目録(2)記載の各情報)を保有している。(甲5、弁論の全趣旨)
2 争点及び争点に関する当事者の主張
 本件の争点は、次のとおりである。
@本件各投稿によって原告の著作権が侵害されたことが明らかといえるか。
A本件各情報が原告の権利の侵害に係る発信者情報であるか。
B原告に本件各情報の開示を受けるべき正当な理由があるか。
(1)争点@(本件各投稿によって原告の著作権が侵害されたことが明らかといえるか。)について
(原告の主張)
 本件各投稿によって、原告の著作権(複製権、公衆送信権)が侵害されたことが明らかである。
 すなわち、原告は、原告自身の裸の上半身とその周囲を被写体として撮影した各写真をツイッターのウェブサイトに投稿したところ、本件各投稿は、原告に無断で、原告が著作権を有する上記各写真を複製し、本件画像1から3としてツイッターのウェブサイトに投稿して送信可能化するものである。
 上記各写真は、原告という人物を特定する思想と感情を創作的に表現したものであって、美術の範囲に属するものである。
 本件各投稿について違法性阻却事由は存在しない。原告は、上記各写真について第三者による複製、公衆送信を許諾したことは一度もないし、ツイッター社の規約でも、ツイッターに投稿された内容を利用するためにはリツイート等所定の方法によりしなければならないとされているのであるから、所定の方法によらずに本件各投稿をした者には故意又は過失がある。また、原告が過去にした投稿は、本件各投稿と事情が異なり、何らの問題もないものである。
(被告の主張)
 原告主張に係る前記各写真には創作性が認められない。前記各写真は、原告を被写体として撮影したものであり、カメラアングルや構図はカメラの機械的作用に依存し他と同様なものとなることに加え、背景や照明に工夫が凝らされているともいえず、撮影者の個性の発露は見られない。
 また、原告は、自ら、前記各写真をツイッターのウェブサイトにアップロードし公開していたものである上、過去に他人の投稿内容を画像として保存してツイッターに投稿したことがあるところ、自らが公開した写真について、第三者による複製や公衆送信等についてあらかじめ許容していたといえ、ツイッターの利用者もそのような認識を持つから、本件各投稿をした者らには本件各投稿に当たり故意、過失はないし、そうでないとしても、原告の請求権利濫用として認められない。
(2)争点A(本件各情報が原告の権利の侵害に係る発信者情報であるか。)について
(原告の主張)
 プロバイダ責任制限法の趣旨に照らせば、侵害情報の送信の後に割り当てられたIPアドレスから把握される発信者情報であっても、権利の侵害に係る発信者情報に該当し得るところ、ツイッターは利用者がアカウント及びパスワードを入力することによりログインしなければ利用できないサービスであり、本件各情報は、いずれも本件各投稿の後の間もない本件各アカウントのログインに係るものであり、本件各投稿を行ったものが本件各アカウントに再ログインしたことが合理的に推認されるのであって、本件各投稿に係る発信者情報であるといえる。
(被告の主張)
 本件各情報は、本件各投稿に係るものではなく、本件各アカウントのログインに係るものである。
 さらに、本件各情報は、本件各投稿よりも後の本件各アカウントのログインに係るものであり、ツイッターにおいて、ログインは必ず投稿に先立つものであるから、投稿よりも後のログインは投稿と関連しないし、侵害情報の発信に係るものともいえない。
 したがって、本件各情報は、本件各投稿に係る発信者情報とはいえず、被告が開示関係役務提供者に該当することもない。
(3)争点B(原告に本件各情報の開示を受けるべき正当な理由があるか。)について
(原告の主張)
 本件各情報は原告の損害賠償請求権の行使のために必要である。
 原告は、発信者情報開示が認められた場合にその後に想定される損害賠償請求について意見を表明したり、裁判手続で当然に公開されるべき発信者のプライバシーには一切つながらない情報を発信したりしたことがあるにすぎない。原告は、本件においても、本件訴訟によって得られた情報を損害賠償請求等のためだけに用いることを考えており、発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をすることは決してない。
(被告の主張)
 原告は、しばしばツイッター等において過激な発言をしたり、別の裁判手続で知り得た他の者の発信者情報として、被告が提供する電気通信設備を経由して投稿がされた事実を公開したりするなどしていることから、原告には発信者情報をみだりに用いて不当に発信者の名誉又は生活の平穏を害する行為をする意図があり、本件各情報の開示を受けるべき正当な理由が認められない。
第3 当裁判所の判断
1 認定事実
 前提事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められる。
(1)原告は、自らの体重の減量に取り組んでいたところ、令和2年8月15日、同年11月30日及び令和3年1月20日に、いずれも自室において、真横から自身の裸の上半身の写真(合計3枚。以下、撮影順に「本件写真1」等という。)を撮影し、同月25日午後10時27分頃、自身のアカウントを利用して、ツイッターのウェブサイトに、本件写真1から3を添付して投稿をした。(甲8)
 原告は、ツイッター社の規約による許諾のほかには、第三者に本件写真1から3の利用を許諾したことはない。
(2)本件アカウント1の利用者は、原告のアカウントによりツイッターのウェブサイトに投稿された本件写真1から3をダウンロードした上、令和3年1月28日午前5時8分頃、ツイッターのウェブサイトに、本件アカウント1により、本件写真1から3を本件画像1から3として添付して本件投稿1をし、これにより、本件写真1から3を複製し、対応するサーバに記録して自動公衆送信し得るようにして送信可能化した。
 本件アカウント1の利用者は、本件投稿1の後、令和3年1月28日午前6時30分頃及び同月29日午前6時21分頃に、被告から、本件IPアドレス2−1、2−2をそれぞれ割り当てられた特定電気通信設備を特定電気通信の用に供されて、本件アカウント1にログインした(以下、これらのログインを「本件各ログイン2」という。))(前記第2の1(2)ア(イ))
 本件アカウント1の利用者は、令和2年12月末頃から令和3年2月上旬頃までの間、被告のほか、ソフトバンク株式会社、ビッグローブ株式会社、アマゾン・テクノロジーズ・インコーポレイテッド、さくらインターネット株式会社から電気通信設備の提供を受けて本件アカウント1にログインしたことがあった。(甲3、乙8)
 本件各ログイン2をした者は、本件投稿1をしたことを否定していない。(乙11)
(3)本件アカウント3の利用者は、原告のアカウントによりツイッターのウェブサイトに投稿された本件写真2をダウンロードした上、令和3年1月29日午前8時43分頃、本件アカウント3により、本件写真2を本件画像2として添付して本件投稿3をし、これにより、本件写真2を複製し、対応するサーバに記録して自動公衆送信し得るようにして送信可能化した。
 本件アカウント3の利用者は、本件投稿3の後、令和3年1月29日午後2時27分頃及び同月30日午前5時19分頃に、被告から、本件IPアドレス4−1、4−2をそれぞれ割り当てられた特定電気通信設備を特定電気通信の用に供されて、本件アカウント3にログインした(以下、これらのログインを「本件各ログイン4」という。))(前記第2の1(2)イ(イ))
 本件アカウント3の利用者は、令和2年12月末頃から令和3年2月上旬頃までの間、被告のほか、大阪中央卸売市場、株式会社オプテージ、さくらインターネット株式会社、ネットオウル株式会社、アマゾン・テクノロジーズ・インコーポレイテッドから電気通信設備の提供を受けて本件アカウント3にログインしたことがあった。(甲4、乙9)
 本件各ログイン4をした者は、本件投稿3をしたことを否定していない。(乙10)
(4)ツイッターのウェブサイトに投稿するためにはパスワードを入力するなどして特定のアカウントにログインすることが必要である。
2 争点@(本件各投稿によって原告の著作権が侵害されたことが明らかといえるか。)について
 本件写真1から3は、いずれも、原告が、自身の体重の減量に取り組む中で、真横から自身の裸の上半身を撮影してツイッターのウェブサイトに投稿したものであり(前記1(1))、原告の腹部の状態とその変化が際立って見えるなどの工夫がされ、構図、カメラアングルの設定等において、原告の思想等を創作的に表現したものであると認められる(甲8)から、いずれも著作物に該当し、原告がその著作権を有すると認められる。
 そして、本件投稿1により本件写真1から3が、本件投稿3により本件写真2が、それぞれ複製され送信可能化されたものである(前記1(2)、(3))ところ、原告は、第三者に本件各写真の利用を許諾したことはなく(同(1)。なお、ツイッターに著作物を投稿したことをもって、ツイッター社の規約に基づかない当該著作物の利用について包括的に第三者に許諾を与えたとはいえず、本件写真1から3が本件各投稿においてツイッター社の規約に基づいて利用されているとは認められない。)、また、上記の各複製及び各送信可能化について、著作権法上の権利制限事由、その他不法行為の成立を妨げる事由の存在は認められない。
 したがって、本件投稿1によって原告の本件写真1から3の著作権(複製権及び公衆送信権)が、本件投稿3によって原告の本件写真2の著作権(同前)が、それぞれ本件各アカウントの利用者の故意又は過失によって侵害されたことが明らかであると認められる。
3 争点A(本件各情報が原告の権利の侵害に係る発信者情報であるか。)
 プロバイダ責任制限法4条1項が「権利の侵害に係る」発信者情報を開示請求の対象としていることからすれば、同発信者情報には、侵害情報の送信そのものに係るもののみならず、侵害情報の送信に関連するものも含むと解するのが相当である。
 そして、本件各情報は、いずれも、本件各投稿から数日以内にされた本件各アカウントのログイン(本件各ログイン2、4)に係るものである。ツイッターのウェブサイトに投稿するためにはアカウントにパスワードを入力するなどして特定のアカウントにログインすることが必要であるところ(前記1(4))、本件各ログイン2、4をした者は、それぞれ、本件投稿1、3をしたことを否定していないのであり(同(2)、(3))、本件で本件各アカウントが複数人によって共用されていることをうかがわせる事情があるとは認められないこと(なお、本件各アカウントの利用者は、それぞれ、被告以外のプロバイダからも電気通信設備の提供を受けて本件各アカウントにログインしたことがあった(同前)が、同一人が、複数の端末をそれぞれ異なるプロバイダと契約して用いたり、所在場所に応じて異なる者が供する電気通信設備を用いたりすることもあることなどを踏まえれば、本件における諸事情の下では、上記の本件各アカウントへのログインに関する事情によって本件各アカウントが複数人によって共用されていることがうかがわれるとはいえない。)等から、本件各ログイン2、4は、本件投稿1、3をした者によってそれぞれされたものと推認するのが合理的であり、本件各ログイン2、4に係る情報は、それぞれ本件投稿1、3すなわち侵害情報の送信に関連するものであると認められる。
 したがって、本件各ログイン2、4に係る本件各情報は、開示関係役務提供者である被告が保有する原告の権利の侵害に係る発信者情報であると認められる。
4 争点B(原告に本件各情報の開示を受けるべき正当な理由があるか。)について
 本件各情報は原告の損害賠償請求権の行使のために必要であり、原告には本件各情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。
 原告は、ツイッターの他の複数の利用者との間で紛争になっており、そのやり取りの中には、相手を罵倒したり、利用者が利用したプロバイダ名を明らかにしたりしたものなどがある(乙10、11)。しかし、それらの行為が相当なものといえるかは別として、これらを踏まえても、原告に、本件各情報を、本件の各権利侵害に係る損害賠償請求権の行使等に必要な限度を超えて、本件各アカウントの利用者の名誉又は生活の平穏を不当に害する行為をするために用いる意図があるとまでは直ちに認めるに足りず、同事情によっても前記の判断は左右されない。
第4 結論
 以上によれば、原告の各請求はいずれも理由があるから、これらを認容すべきである。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 佐伯良子
 裁判官 棚井啓


別紙 各目録(省略)
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