判例全文 line
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【事件名】貴船神社の広報写真事件
【年月日】令和3年10月28日
 大阪地裁 令和2年(ワ)第9699号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結の日 令和3年9月13日)

判決
原告 P1
同訴訟代理人弁護士 片山琢也
被告 貴船神社
同代表者代表役員
同訴訟代理人弁護士 中隆志
同 紀啓子
同 堀田康介


主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、別紙写真目録1記載の写真データを、インターネット上の被告ウェブサイト(http://kifunejinja.jp)に掲載してはならない。
2 被告は、別紙写真目録1記載の写真データを、自動公衆送信又は送信可能化してはならない。
3 被告は、別紙写真目録2記載の写真データを、インターネット上の被告ウェブサイト(http://kifunejinja.jp)及び被告YouTubeサイト(https://www.youtube.com/user/kifunejinja)から、抹消せよ。
4 被告は、その占有する別紙写真目録1記載の写真データを廃棄せよ。
5 被告は、原告に対し、3009万円及びこれに対する令和2年11月4日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、被告が保有する別紙写真目録1記載の写真のデータ(以下「本件写真」という。)は原告が著作権を有する著作物であって、被告に無償で利用を許諾したものであるから、原告が利用許諾を解約した後に、被告が本件写真のうち別紙写真目録2記載の写真のデータ(以下「本件使用写真」という。)をインターネット上に掲載した行為は、本件使用写真に係る原告の著作権(公衆送信権)の侵害であると主張して、被告に対し、著作権に基づく本件写真のインターネット上の掲載、自動公衆送信、送信可能化の差止め(著作権法112条1項)及び抹消、廃棄(同条2項)を求めると共に、著作権法114条3項に基づく損害賠償として3009万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(令和2年11月4日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(証拠を掲げていない事実は、争いのない事実又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実である。)
(1)原告は、職業的な写真家として活動している個人である。
 被告は、貴船神社の祭祀を行うことなどを目的とする宗教法人である。
(2)原告は、平成27年ころから、貴船神社の社殿、風景、行事等を撮影した本件写真を被告に提供し、被告は、本件写真を、ウェブサイト、SNS、動画配信サイト等に使用し、被告の広報宣伝資料として利用した。
(3)原告は、令和元年9月13日付けメールにより、被告に対し、同月末日までに、ウェブサイト等から、本件写真をすべて削除すること等を求めた。
(4)被告は、令和元年9月末日経過後も、被告のウェブサイトにおいては令和2年11月23日まで、YouTubeの被告のアカウントサイトにおいては同年12月2日まで、それぞれ本件使用写真を展示するなどして使用していた(乙6、7、31)。
3 争点
(1)本件利用許諾に基づく利用許諾の終期(争点1)
(2)差止及び抹消、廃棄の必要性(争点2)
(3)損害額(争点3)
4 当事者の主張
(1)本件利用許諾に基づく利用許諾の終期(争点1)
(原告の主張)
ア 本件利用許諾の内容
 原告は、平成27年頃、被告に対し、原告の撮影した貴船神社の写真のデータを提供し、期限及び使用の目的の定めなく、無償で利用することを許諾した(以下「本件利用許諾」という。)。
イ 本件利用許諾の締結の経緯
 原告は、平成26年2月頃、被告の広報担当者であったP2と出会い、親交を深める中で、P2から、P2では貴船神社の魅力的な写真が撮影できないので原告に広報用の写真を撮影してほしい旨の依頼を受け、本件利用許諾をした。
 原告は、P2の相談を受けて被告の広報業務全般に係るアイデアを出しており、原告自身のSNSに貴船神社に関する写真を投稿していたのは、被告の広報のためにP2と相談して決めた戦略に基づくものであった。
ウ 本件解約告知の経緯
 令和元年9月、P2が貴船神社の境内で飲酒をしたことを理由に被告を退職することとなったため、原告は、これを被告に抗議し、本件利用許諾は友人であるP2に協力するためのものであったことから、同月13日付けメールにより、被告に対し、同月末をもって本件利用許諾を解約する旨を告知した(以下「本件解約告知」という。)。
エ 使用貸借規定の類推適用
 本件利用許諾は、原告の知的財産である本件写真を、無償で被告に使用収益させ、契約が終了したときは使用収益を終了することを約する契約であるから、使用貸借に類似する契約であり、民法(平成29年改正以前のもの。以下同じ。)597条3項を類推適用するべきである。
 本件利用許諾においては、使用収益の目的が明確に合意されていないから、原告はいつでも契約の解約を告知することができる。使用収益の目的があるとしても、原告が本件利用許諾を締結した動機は、友人であるP2に協力するためであり、本件利用許諾における使用収益の目的はP2の力になることであったから、P2が被告を退職した時点で、その退職が妥当であるか否かに関係なく、原告の目的は達成不能となり、本件利用許諾は本件解約告知により終了した。
オ 解約の正当理由
 本件利用許諾の前提となる信頼関係は、原告とP2の間の個人的関係に基づくもので、被告はその恩恵を間接的に受ける立場であった上、原告は無償で大量の著作物を提供し、無償でSNSで被告の宣伝も行っていたが、原告は本件利用許諾から得るものはなにもないのであり、このような事実関係の下で、原告が信頼関係の基礎としていたP2が退職した後も、やむを得ない事情や信頼関係の破壊行為等の事情がなければ解約できず、被告に対し無償での著作物の提供を強いられるというのは社会通念に照らして不合理である。
 原告は、令和元年9月13日に本件解約告知をした後は、新たな写真等を提供せず、原告は、本件解約告知の際に、原告が提供した全ての写真・動画を明示してその使用停止を要求し、要求事項が守られなかった場合は権利侵害とみなして法的手続きをとると通知し、令和2年10月に本件訴訟を提起しているのであり、令和元年9月末日の時点で原告と被告との間の信頼関係は取引関係を継続することができない程度に損なわれ、その修復が困難であったといえるから、原告による本件解約告知には正当な理由があり、本件利用許諾は令和元年9月末日をもって終了したといえる。
 原告が本件解約告知をしたのは令和元年9月13日であるが、ウェブサイトやYouTubeからデータを削除する作業は数時間あれば可能であり、被告はP2や巫女が撮影した何万点もの写真を保有しており、別写真に差し替えることも可能であったから、同月末日までに対応することは可能であった。
 P2は、被告に18年間勤務しており、令和元年8月下旬に貴船神社本宮中段で崇敬者数名と飲酒したが、貴船神社内で飲酒することは厳禁とされていなかったにもかかわらず、宮司(被告代表者)から懲戒解雇に値すると言われ、実際には二段階の降格と減給の処分を受ける予定だったものであり、P2からこの経緯を聞いた原告は、不当な処分を行った被告に強い怒りを感じ、友人であるP2をないがしろにする被告に対して自らの著作物を無償で提供し続けることは不可能であると判断したのであるから、本件解約告知には正当な理由がある。
(被告の主張)
ア 本件利用許諾の内容
 本件利用許諾は、原告が被告に対し、原告が提供した本件写真をウェブサイトやSNS等に使用して、被告の広報資料として利用することを、期限の定めなく、無償で許諾するものである。
イ 本件利用許諾の締結の経緯
 被告は、平成27年頃、原告から貴船神社が好きであるので自分が撮影した写真を利用してもらいたい旨の申出があったため、本件利用許諾を締結した。
 他方、本件利用許諾は、貴船神社の社殿や一般には撮影することを許可していない一部の行事の写真を撮影することを原告に認め、原告がこれを写真家としての宣伝広告のために利用することを許諾するものでもあった。
ウ 本件利用許諾の解約の経緯
 原告は、P2が被告を退職した経緯について納得がいかないことを理由として、報復感情に基づいて、一方的に本件利用許諾の解約を告知した。
エ 使用貸借規定の類推適用
 原告は、本件利用許諾に民法の使用貸借に係る規定が類推適用されると主張するが、有体物の占有移転を前提とする使用貸借と、権利者の権利不行使を本質とする著作権の利用許諾は、法的性質が全く異なるものであり、類推の基礎を欠く。
 仮に、使用貸借の規定が類推適用されるとしても、本件利用許諾には本件写真を被告の広報資料として利用するとの目的の定めがあるのであり、原告が本件解約告知をした時点では、被告における広報資料としての使用及び収益は終わっていないから、本件利用許諾は終了しない。
オ 解約の正当理由
 本件利用許諾には期限の定めがなく、被告及び原告の信頼関係に基づいて継続的な契約関係が続いていたことからすると、その解消にはやむを得ない事由や信頼関係を破壊する行為が必要である。
 しかし、原告が本件解約告知をした理由は、P2が退職を余儀なくされたことに対する報復のためであり、P2の退職は被告とP2との間の問題であって、原告と被告との間の本件利用許諾を解消するにあたってのやむを得ない事由や信頼関係を破壊する行為に当たらない。被告は、原告の撮影した写真を無償で利用できるからこそ、一般人に撮影を許諾していない行事等の撮影を認め、原告自身のウェブサイト等で公開することを認めていたものであって、一方的に原告側の利用許諾のみを解消することはできない。
 P2は、令和元年8月24日のみならず、平成26年3月、平成27年4月、平成29年8月及び平成30年8月にも飲酒を原因として口頭での注意処分を受け、平成26年にSNS上で宮司の悪口等の不適切な投稿をしたことを理由に降格及び減給処分を受けていたものであり、被告とP2との間における法的問題が本件利用許諾に影響を与えることはない。
 仮に原告の解約にやむを得ない事由があったとしても、本件写真の内容は、四季折々の境内の写真、行事の写真等であるから、1年を通して撮影が必要なものである。本件利用許諾の内容、性質からすれば、解約により即時に本件利用許諾が終了すると、写真の差替えが必要となり、不測の事態となるから、予告期間が必要というべきであり、プロカメラマンにおいて各季節における再撮影が必要であり、掲載する写真を変更するとウェブサイトの構成も変更する必要があるから、最終の季節の写真の選定・掲載事務の期間を考えると1年強の期間が必要である。
 したがって、本件利用許諾の解約には、予告期間が少なくとも1年6か月は必要というべきであり、原告による解約の効果は令和3年3月13日の経過により生じる。
 被告は、令和元年11月1日、写真撮影やウェブサイトの制作を含む被告のブランディング、PR等に係る業務委託契約を締結して業務委託費を支払って写真撮影を進め、令和2年11月23日、ウェブサイトのリニューアルを完了し、同年12月2日、YouTubeの被告のアカウントサイトにおいても本件使用写真を用いない形に変更したから、それ以降は本件使用写真を利用していない。
(2)差止及び抹消、廃棄の必要性(争点2)
(原告の主張)
 被告は、本件解約告知後も、被告のウェブサイトに本件使用写真を掲載し続けていた。
 被告は、被告のウェブサイト上では本件使用写真を別の写真に差し替えているが、令和3年2月28日時点で、本件写真のデータ自体はサーバ上に残されており、被告次第でいつでも利用できる状態にある。
 被告は、動画配信サイトYouTubeの被告のアカウントにおいて、かつて本件写真の一部をつなげた動画を配信しており、本件訴訟提起時点で視聴できない状態であったが、令和3年1月17日時点でも「非公開」の状態であって削除はされておらず、被告次第でいつでも配信を再開できる。
(被告の主張)
 被告は、本件解約告知を受けて、紛争状態にある原告との関係を解消することとし、令和2年11月23日の新嘗祭の撮影により1年間の写真がそろったことから、同日、被告のウェブサイトをリニューアルし、同年12月2日、YouTubeの被告のアカウントサイトも変更し、本件使用写真を一切使用しないこととした。また、被告は、同月8日、保有していた本件写真のデータを全て削除した。
 被告において、P2がウェブサイトを担当していたことから、他の職員においてウェブサイトの構成内容の理解が不足していたため、サーバ上のデータの削除が未了であったが、原告の指摘を受けて、令和3年3月5日に削除した。
 したがって、被告において原告の著作権を侵害しておらず、侵害するおそれもない。
(3)損害額(争点3)
(原告の主張)
ア 使用料相当額(著作権法114条3項)
 被告は、本件利用許諾の解約後である令和元年10月1日から令和2年9月末日までの間、本件使用写真171点を使用しており、原告の写真の使用料は、1点1シーズン(3か月)掲載する場合で約4万円であるから、171点×4万円×4シーズン×1.1(消費税)=3009万円(1万円未満切り捨て)が相当である。
 原告は、10年程度、1点1シーズン4万円の写真使用料の支払いを受けており、プロである原告が撮った写真は、素人であるP2が撮った写真と比べて相応の価値がある。
イ 集客効果
 原告が被告に無償提供していた写真には集客効果があり、貴船神社を訪れる観光客が激増し、被告の売上も増加した。
 被告は、本件写真と観光客の増加は無関係であると主張するが、原告の写真による集客効果については、P2や被告代表者の息子らも認めていた。
(被告の主張)
 本件は、被告が原告撮影の写真を無断使用した事案ではなく、本件利用許諾の解約の経緯や解約理由の成否に争いがある状態で本件使用写真の利用が続けられたものである。被告は、原告からの解約申出を受け、原告の著作物を利用しない方法での広報を行う方針を早期に決め、ウェブサイトの刷新に向けて行動し、本件利用許諾の解約が無効であるとの認識で暫定的に本件使用写真の掲載を続けていたにすぎず、現実に原告に損害は生じず、それまで本件利用許諾が何ら問題なく続いていた状態が、そのまま継続していたにすぎない。本件利用許諾は無償なのであるから、損害額も無償に近いものと考えるべきであり、原告が報復感情をもって被告に請求していることも考えれば、使用料相当額は限りなく低く、数万円から数十万円にとどまる。
 画像素材の販売業者であるペイレスイメージズ株式会社における購入価格は税込み440円から5500円であり、最低額で計算すれば、440円×171点=7万5240円となり、使用料相当額はせいぜい数万円から10万円程度にとどまることは明らかである。原告が主張する写真1点4万円という金額は、一方的に決めているものであって、仮に本件利用許諾でかかる金額が提示されていれば、被告は契約を締結しないし、ポスターとウェブサイトに掲載する写真は大きさや利用目的、対象などが異なり、被告は宗教法人であって営利企業ではないから、営利目的の広報写真とは性質が異なる。
 原告は、本件使用写真に広報効果があったと主張するが、訪日外国人等の観光客の増加によって貴船神社の来訪者も増加したものであり、原告の写真との因果関係はない。
第3 当裁判所の判断
1 本件利用許諾に基づく本件使用写真の利用権の存続期間(争点1)について
(1)認定事実
 証拠(甲2〜4、19、20、乙1〜8、27、31(以上につき、各枝番を含む)、証人P3、原告本人)によれば、以下の事実が認められる。
ア 本件利用許諾締結の経緯
 原告は、平成26年2月頃、写真撮影のために貴船神社を訪れ、被告の神職(権禰宜)であり、広報担当者であったP2と知り合った。
 P2は、被告のウェブサイトの管理を担当しており、ウェブサイト作成業者に委託して自らが撮影した神社の行事の写真を掲載するなどしていたが、プロの写真家である原告に撮影してもらった写真を利用することで、被告の広報活動に役立てようと考え、平成27年6月頃、原告に広報用の写真の提供を依頼した。
 原告が無償での写真の撮影及び提供並びにウェブサイト等の被告の広報活動での使用を承諾したことから、その頃から、被告は、P2を介して原告から原告が撮影した写真の提供を受けるようになり、被告のウェブサイト等に原告が撮影した写真を掲載するようになった。これと同時に、被告は、原告が貴船神社の社殿や行事等を撮影する際には、一般人には認められない位置や時間帯での撮影を許可することがあった。
 P2は、原告に対し、継続的に写真や動画を利用した被告の広報活動について相談しており、年間を通じて被告の主要な祭典や神事の写真の撮影等を依頼し、原告の撮影した本件写真を平成29年頃に行われた被告のウェブサイトのリニューアルやYouTubeの被告のアカウントの動画等に活用するなどし、原告は無償かつ期限を定めずに、被告に対し、本件写真の利用を許諾した。
 原告は、自己のSNSにおいて原告が撮影した貴船神社の社殿や行事等の写真を投稿し、被告の頒布品等を紹介したり、被告の行事や祭事等を告知したりすることもあった。
 被告のウェブサイトでは、順次、既存の写真が原告の撮影した写真に更新された結果、ほとんどが原告の撮影した写真となった。
イ 本件利用許諾の解約告知の経緯
 P2は、令和元年8月24日、貴船神社の境内で、崇敬者と飲酒していたところ、被告代表者から口頭で注意を受けた。
 被告代表者は、同月25日、P2の行為は懲戒解雇に値する旨を述べ、同月末頃、P2に対し、降格及び減給処分に付する旨を通告したところ、P2は、被告に対し、同年9月30日をもって被告を退職したい旨の、同年8月30日付け退職届を提出した。
 原告は、同年9月9日、P2を含む被告の神職らと慰労会を開き、P2が被告を退職することになったことを聞き、被告の禰宜であり原告とも交流のあったP4も被告を退職することになったことなども聞いた。
 原告は、被告の宮司である被告代表者親子が被告を私物化し、P2と原告が協力した広報活動によって被告が得た利益を横取りしようとして、P2らを退職に追い込んだものと考え、同月13日、被告にメールを送り、被告代表者の対応に抗議し、被告代表者親子が被告を支配する体制に反対するとして、被告に対し、同月30日までに被告が保有する原告が撮影した全ての写真及び動画の削除、ウェブサイトのフォトギャラリー、YouTubeの動画等の写真使用媒体全ての削除、原告の写真を使用したポスターやパンフレットの撤去、JRや京阪電鉄等への写真削除の連絡等を要求し、同年10月1日以降、何らかの発行媒体に原告が撮影した写真が使用されていれば、写真貸出先が削除依頼に応じなかった場合であっても著作権侵害とみなして警察に被害届を提出し、刑事事件として扱われるため、原告の抗議に応じなければ、告訴後に被告代表者は逮捕となる旨を告げ、「オレはこの対応をするのは初めてではありません。」「器の小さい宮司が人を不幸にする。オレはそれが許せない。」「これはオレの報復です。」などと告知した。
ウ 本件解約告知後の経緯
 原告は、令和元年9月19日、被告に対し、和解案と称して、原告が提供した貴船神社の春夏秋冬の景観や神事・祭典などの写真を一式で税別4000万円で著作権込みで原告から被告に売却することを提案し、この和解案に応じなければ被告内部の写真や外部に提供した写真を全て削除することを要求し、被告が提案を拒否し、全ての写真を削除することになれば、これから被告の広報活動が1年間以上停止することでメディアも離れていくことになると告知した。
 被告は、同年10月3日付けの書面で、本件利用許諾の解約にはやむを得ない理由や本件利用許諾についての信頼関係を破壊する行為が必要となるので、原告の解約告知には法的理由がなく、同年9月30日までに原告から提供を受けた写真・動画を削除する要求には応じられないこと、四季に関する写真・動画は1年をかけて撮影し、差し替える予定であること、外部企業に提供した写真や一般公衆に配布済みの配布物の写真については対応しないことを回答し、京都弁護士会に和解あっせんの申立てを行う予定であることを通知した。
 被告は、同月4日、京都弁護士会紛争解決センターに、原告を相手方とする和解のあっせん申立てを行ったが、原告は、同月10日付けの書面で、被告に対し、和解のあっせんを拒否する意思を表明すると共に、刑事事件として争うとして、各メディアに被告を刑事告訴することを伝えたなどと告知した。
 原告は、同年11月14日以降、被告代理人弁護士からの通知を受け取らず、同月28日、被告代理人に対し、メールで、被告代理人からの接触を拒否する旨を通知した。
エ 被告による本件使用写真の削除等
 被告は、令和元年11月1日、株式会社カンバス(以下「カンバス」という。)及びP5との間で、カンバスに対しブランディング、PR、コミュニケーション戦略に関する助言、提案等、P5に対し貴船神社等の写真撮影等を業務委託する契約を締結した。
 被告は、令和元年12月27日、業務委託契約に基づく年間写真撮影料を支払った。
 被告は、カンバスに業務委託して被告のウェブサイト等において本件使用写真を使用しないようリニューアル作業を進め、令和2年11月23日の新嘗祭の撮影により1年間の写真がそろったことから、同日、被告のウェブサイトのリニューアルを完了し、本件使用写真を掲載しないようにした。また、同年12月2日、YouTubeの被告のアカウントサイトにおいても、本件使用写真を掲載しないようにした。
 被告は、同月8日、保有していた本件写真のデータを削除したが、本件使用写真のデータが被告のウェブサイトやYouTubeのサーバ上に残っている状態であったため、令和3年3月5日に被告のウェブサイトのサーバ上から、同月12日にYouTubeのサーバ上から、それぞれ本件使用写真のデータを削除した。
 被告は、本訴訟の令和3年5月10日付け準備書面3において、原告から提供を受けた本件写真の使用は終了したとして、原告に対し、本件利用許諾を解約する旨の意思表示をした。
(2)本件利用許諾の内容
 前記認定事実によれば、本件利用許諾は、原告が継続的に被告の協力の下で貴船神社の年中行事等の写真を撮影して被告に提供し、被告において提供を受けた写真をウェブサイトやSNS等に使用して、被告の広報あるいは宣伝に利用する一方で、原告においても前記写真を適宜SNSで利用し、原告の宣伝広告に役立てることを、無期限かつ無償で承諾することを内容とする包括的な合意と解される。
 原告は、本件利用許諾により原告が受ける利益はないと主張するが、被告の協力により一般参拝者では撮影困難な構図の写真を撮影することができ、被告の広報写真に採用されていることを実績とすることができる点で、一定の利益があることは否定できない。
 そうすると、本件利用許諾は、単に原告が過去に撮影した写真の利用を個別に一時的に許諾するものではなく、継続的に撮影した多数の写真を、相互に広報、宣伝に利用することを前提とした複合的な合意といえるものであって、民法上の使用貸借契約の規定を単純に類推適用するのは相当ではない。
 また、本件利用許諾は、終了が想定されておらず、原告も被告も、必要がなくならない限り永続的に本件写真を利用可能であるものと認識していたものであって、これを前提に、原告は被告の協力の下で多数の写真を撮影し、被告は、平成27年6月頃から令和元年8月頃までの約5年間にわたって、原告の助言も受けつつウェブサイトやSNSで本件写真を利用した広報活動を展開し、その結果、原告が撮影し被告に提供した本件写真は1033点に及び、被告のウェブサイトにおいて大半を原告が撮影した写真が占めることとなったものである。
 これらの事情からすれば、本件利用許諾は、無償であるとはいえ、双方の活動又は事業がその継続を前提として形成されることが予定され、長期間の継続が期待されていたということができ、個別の事情により特定の写真について利用を停止することは別として、本件写真全部について、一方的に利用を直ちに禁止することは、当事者に不測の損害を被らせるものというべきであって、原則として許容されないものというべきである。
 もっとも、本件利用許諾は、信頼関係を基礎とする継続的なものであるから、相互に、当初予定されていなかった態様で本件写真が利用されたり、当初予定されていた写真撮影の便宜が提供されないなど、信頼関係を破壊すべき事情が生じた場合には、催告の上解除することができると解される(民法541条)。また、本件利用許諾が、原告が著作権者である本件写真を、期限の定めなく無償で利用させることを内容とするものであることを考慮すると、上記解除することができる場合にはあたらない場合であっても、相手方が不測の損害を被ることのないよう、合理的な期間を設定して本件写真の利用の停止を求めた上で、同期間の経過をもって本件利用許諾を終了させることとする解約告知であれば、許容される余地はあるものと解される。
(3)原告による本件解約告知について
 前記(1)の認定事実によれば、原告は本件写真を提供し、被告はこれを広報宣伝に利用するという関係が5年間にわたって継続され、本件利用許諾に関する特段の紛争はなかったところ、原告がP2より被告を退職する話を聞いたことを契機として、令和元年9月13日、突如、被告に対し、本件写真の削除や第三者に提供した写真の削除等を要求し、これに応じなければ刑事事件となり、被告代表者が逮捕されるなどと告知したものである。
 さらに、原告は、被告に対し、和解案と称して4000万円の支払を要求し、これに応じず本件写真を削除することになれば、被告の広報活動が1年以上停止してメディアも離れていくことになると告知し、被告からの交渉や京都弁護士会での和解あっせんを拒否し、本件訴訟を提起したものであり、その際、本件利用許諾を解約する理由は、被告に対する報復である旨述べている。また、原告が被告に報復するのは、P2らから聞いた話により、被告代表者親子が被告を私物化し、P2らを退職に追い込んだと認識しているからだというのである。
 そうすると、原告が被告に対し本件写真の削除等を要求したことについて、被告が本来の目的以外に本件写真を利用した等、本件利用許諾それ自体に関する内容で、原告と被告との間の信頼関係が損なわれたとすべき事情は何ら主張されていないことになる。
 また、原告は、P2に対する被告の扱いについて多々主張するところ、前記認定したところによれば、原告とP2の関係は、本件利用許諾のきっかけないし動機ではあっても、本件利用許諾自体は原告と被告との間に存するのであって、被告がP2の雇用を継続することが、本件利用許諾存続の条件とされているわけではない。
 原告は、令和元年9月末日の時点で原告と被告との信頼関係は修復困難な状態まで損なわれていたから、解約には正当な理由があると主張するが、同月13日以前に、本件利用許諾に関し、原告と被告との信頼関係が損なわれたとは認められないし、P2の退職は、上述のとおり、本件利用許諾に関わるものではないから、これによって原告と被告との信頼関係が損なわれたということはできない。
 結局のところ、本件解約告知は、友人であるP2が退職を余儀なくされたことを快く思わない原告が、被告を困惑させ、あるいは被告に損害を与えることを目的としてしたものというほかないから、正当な理由があるとは認められない。
(4)本件利用許諾に基づく利用許諾の終期について
 前記認定のとおり、本件利用許諾は期限の定めのないものであるが、被告の広報活動に利用するという目的の定めはあり、本件解約告知の時点で、被告はその目的に従って本件写真を利用していたのであるから、民法597条3項の類推により直ちに本件利用許諾が終了するとの原告の主張は失当である。
 また、前記(2)のとおり、本件利用許諾は、一方的に解約の告知をした場合であっても、相手方において不測の損害を回避するに足りる予告期間を経ることで終了すると解することも可能であるところ、前記(1)のとおり、本件写真は、年間を通じて貴船神社の神事等を撮影したものであって、同様の写真を撮影するためには1年以上の期間を要するものと認められるし、被告のウェブサイト等の広報媒体は、本件利用許諾の継続中に原告の助言を受けつつ大半を本件使用写真を利用するものとして構成されていたから、被告においてこれらの媒体を本件写真を使用しない形式で再構築する作業にも、相応の期間を要するものといえる。さらに、原告の本件写真の削除等の要求は、それまで良好な関係が続いていた中で突如として行われたものであるから、被告において、原告の真意を確認し、交渉の余地を探る等の対応を検討するためにも相応の期間を要するものといえる。
 これらの事情を考慮すると、原告が一方的に解約告知をした場合に、本件利用許諾の終了に至る予告期間としては、原告が削除等を要求した令和元年9月13日から1年3か月後の令和2年12月12日までを要すると認めるのが相当である。
 原告は、ウェブサイトやYouTubeからデータを削除する作業は数時間あれば可能であり、被告はP2や巫女が撮影した多数の写真を保有していたから、令和元年9月末日までに対応することが可能であると主張する。
 しかしながら、P2や巫女が撮影した写真とプロカメラマンである原告が撮影した写真の質が異なるのは明らかであり、前記(1)ウのとおり、原告自身も、原告の写真を全て削除することになれば被告の広報活動が1年間以上停止することになると考えていたものである。また、前記(3)のとおり、原告の本件解約告知の目的が被告を困惑させ、損害を与えることであったことからすれば、被告においてウェブサイト等の広報媒体の質が下がることを甘受すべきものとすることは相当ではなく、被告において損害を回避するに足りる合理的な期間としては、プロカメラマンによる本件使用写真と同種の写真撮影を前提に算定すべきものである。
(5)以上によれば、本件解約告知によっては、本件利用許諾の効力は、令和2年12月12日以前に消滅することはないところ、被告は、同年11月23日に被告ウェブサイトにおいて本件使用写真の掲載を停止し、同年12月2日にYouTubeの被告アカウントサイトにおいても本件使用写真の掲載を停止したのであるから、被告において本件使用写真に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害したものとは認められない。
 なお、被告が本件使用写真のデータを被告のウェブサイトやYouTubeのサーバ上から削除したのは令和3年3月5日ないし同月12日であるが、被告のウェブサイト等からのリンクはなく、単にサーバ上にデータが残存していたに過ぎず、データファイルの所在を知らない第三者がアクセスすることはできないから、この状態をもって被告が公衆送信権侵害行為をしたということはできない。
 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告の被告に対する著作権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求権は認められない。
2 差止及び抹消、廃棄の必要性(争点2)について
 前記1(1)エのとおり、被告は、カンバス及びP5との間の業務委託契約に基づき、写真撮影及びウェブサイト等の更新を終え、本件使用写真を掲載しないように広告媒体の再構築を終えているものと認められ、本件写真のデータを全て削除したのであるから、被告において、将来、本件写真をインターネット上に掲載し、自動公衆送信又は送信可能化するおそれがあるとは認められない。
 したがって、原告の被告に対する本件写真の被告のウェブサイトへの掲載、自動公衆送信又は送信可能化の差止及び本件使用写真のデータの抹消、本件写真のデータの廃棄請求には理由がない。
第4 結論
 よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これらをいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第21民事部
 裁判長裁判官 谷有恒
 裁判官 杉浦一輝
 裁判官 峯健一郎


(別紙省略)
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