判例全文 line
line
【事件名】プロバイダ各社への発信者情報開示請求事件
【年月日】令和3年10月26日
 東京地裁 令和3年(ワ)第8702号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年9月14日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 政平亨史
同 矢部陽一
被告 ソフトバンク株式会社(以下「被告ソフトバンク」という。)
同訴訟代理人弁護士 正田琢也
同 五十嵐敦
同 小塩康祐
被告 GMOインターネット株式会社(以下「被告GMO」という。)
同訴訟代理人弁護士 松井将征
同 川ア友紀
同 八木優大
被告 株式会社ジェイコム埼玉・東日本(以下「被告ジェイコム」という。)
同訴訟代理人弁護士 増原陽子
同 藤平真吾
同 荒木泉子
被告 ビッグローブ株式会社(以下「被告ビッグローブ」という。)
同訴訟代理人弁護士 橋利昌
同 平出晋一
同 太田絢子


主文
1 被告ソフトバンクは、原告に対し、別紙発信者情報目録1記載の各情報を開示せよ。
2 被告GMOは、原告に対し、別紙発信者情報目録2記載の各情報を開示せよ。
3 被告ジェイコムは、原告に対し、別紙発信者情報目録3記載の各情報を開示せよ。
4 被告ビッグローブは、原告に対し、別紙発信者情報目録4記載の各情報を開示せよ。
5 訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文と同旨
第2 事案の概要
 本件は、原告が、被告らのインターネット接続サービスを介してインターネット上のウェブサイトに投稿された別紙投稿記事目録記載の各記事(以下「本件各記事」といい、同目録記載順に、「本件記事1」などという。)に貼付された各画像(以下「本件各画像」といい、本件各記事にそれぞれ貼付された画像を「本件画像1」などという。)は、原告が著作権を有する動画の一部を複製したものであり、原告の同動画に係る複製権及び公衆送信権を侵害するものであることが明らかであるとして、経由プロバイダである被告らに対し特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録1ないし4の各発信者情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は、当事者間に争いがないか弁論の全趣旨により容易に認められる事実。なお、枝番号の記載を省略したものは、枝番号を含む(以下同じ)。)
(1)当事者
ア 原告は、平成31年11月まで「B」という屋号のキャバクラ店において勤務していた者である(甲3〜6)。
イ 被告らは、いずれも、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社である。
(2)本件各画像の投稿等
 氏名不詳者により、別紙投稿記事目録1ないし5の「投稿日時」欄記載の各日時において、インターネット上のウェブサイトである「ホストラブ関東」(以下「本件サイト」という。)に本件各画像を含む本件各記事が投稿された(甲1)。
(3)発信者情報の保有
ア 被告ソフトバンクは、本件記事1及び本件記事3に係る別紙発信者情報目録1記載の発信者情報を保有している。
イ 被告GMOは、本件記事2に係る別紙発信者情報目録2記載の発信者情報を保有している。
ウ 被告ジェイコムは、本件記事4に係る別紙発信者情報目録3記載の発信者情報を保有している。
エ 被告ビッグローブは、本件記事5に係る別紙発信者情報目録4記載の発信者情報を保有している。
2 争点
(1)本件各画像の投稿により原告の権利が侵害されたことが明らかであるといえるか
ア 本件各画像の元となっている各動画の著作物性及び原告の著作権の有無(争点1)
イ 複製権及び公衆送信権侵害の有無(争点2)
ウ 引用の抗弁の成否(争点3)
(2)原告に発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点4)
3 争点に対する当事者の主張
(1)争点1(本件各画像の元となっている各動画の著作物性及び原告の著作権の有無)
〔原告の主張〕
 本件サイトに投稿されている本件各画像の元となっている動画は、次のとおり、いずれも著作物性が認められ、いずれも原告が著作権(複製権・公衆送信権)を有している。
ア 本件画像1の元となっている動画
 本件画像1は、原告が管理運営しているユーチューブのチャンネル(以下「原告チャンネル」という。)にアップロードした動画(以下「本件動画1」という。)が、スクリーンショット機能を用いて複製されたものである。
 しかして、本件動画1は、原告が制作したユーチューブ動画(以下「本件元動画」という。)に動画編集業者がテロップ付け等をしたものである。そして、本件元動画は、著作物性が認められ、これを制作した原告が著作権を有している。また、本件動画1も、著作物性が認められるところ、これは本件元動画を単に複製したものであるから、原告が著作権を有しており、そうでないとしても、本件動画1を翻案したもの(本件元動画の二次的著作物)であるから、やはり原告は著作権を有している。
イ 本件画像2の元となっている動画
 本件画像2は、原告が管理しているインスタグラム(以下「原告インスタグラム」という。)の投稿機能の1つであるいわゆるインスタストーリーにアップロードした動画(以下「本件動画2」という。)が、スクリーンショット機能を用いて複製されたものである。
 しかして、本件動画2は、原告のスマートフォンで原告の運転手が撮影したものであるが、原告が被写体である原告の配置、ポーズ、アングル、動き、撮影の流れ(全体のストーリー)等を決め、それを当該運転手に対して指示した上で撮影されたものに、インスタストーリー機能を使って文字入れ加工等を施したものである。
 そうすると、本件動画2は、著作物性が認められるところ、原告の思想等を創作的に映画の効果に類似する視聴覚的効果を生じさせる方法で表現したものであるから、映画の著作物に当たる。そして、原告がその全体的形成に創作的に寄与しているから、原告がその著作者であって、原告にその著作権が帰属している。
ウ 本件画像3の元となっている動画
 本件画像3は、原告が原告インスタグラムのインスタストーリーにアップロードした動画(以下「本件動画3」という。)が、スクリーンショット機能を用いて複製されたものである。
 しかして、本件動画3は、原告のスマートフォンで原告の夫が撮影したものであるが、原告が被写体である原告の配置、ポーズ、アングル、動き、撮影の流れ(全体のストーリー)等を決め、それを同人に対して指示した上で撮影されたものに、インスタストーリー機能を使って文字入れ加工等を施したものである。
 そうすると、本件動画3は、著作物性が認められるところ、原告の思想等を創作的に映画の効果に類似する視聴覚的効果を生じさせる方法で表現したものであるから、映画の著作物に当たる。そして、原告がその全体的形成に創作的に寄与しているから、原告がその著作者であって、原告にその著作権が帰属している。
エ 本件画像4の元となっている動画
 本件画像4は、原告が原告インスタグラムのインスタストーリーにアップロードした動画(以下「本件動画4」という。)が、スクリーンショット機能を用いて複製されたものである。
 しかして、本件動画4は、原告が、そのスマートフォンで、本件動画1にインスタストーリー機能を用いて文字入れ加工等を施したものである。
 そうすると、本件動画4は、著作物性が認められるところ、原告の思想等を創作的に映画の効果に類似する視聴覚的効果を生じさせる方法で表現したものであるから、映画の著作物に当たる。そして、原告がその全体的形成に創作的に寄与しているから、原告がその著作者であって、原告にその著作権が帰属している。
オ 本件画像5の元となっている動画
 本件画像5は、原告が原告インスタグラムのインスタストーリーにアップロードした動画(以下「本件動画5」という。)が、スクリーンショット機能を用いて複製されたものである。
 しかして、本件動画5は、原告の夫のスマートフォンで原告の経営するバーの店長が撮影したものであるが、原告が被写体である原告の配置、ポーズ、アングル、動き、撮影の流れ(全体のストーリー)等を決め、それを同人に対して指示した上で撮影されたものに、インスタストーリー機能を使って文字入れ加工等を施したものである。
 そうすると、本件動画5は、著作物性が認められるところ、原告の思想等を創作的に映画の効果に類似する視聴覚的効果を生じさせる方法で表現したものであるから、映画の著作物に当たる。そして、原告がその全体的形成に創作的に寄与しているから、原告がその著作者であって、原告にその著作権が帰属している。
〔被告ソフトバンクの主張〕
 本件動画1には、創作性が認められず、そもそも著作物に当たらない。仮に、本件元動画や本件動画1に著作物性があるとしても、原告が本件元動画や本件動画1の制作過程に創作的に寄与したかどうかは不明であり、原告がその著作権を有しているとはいえない。
 本件画像3についても、原告が全体形成に創作的に寄与したかどうかは不明であって、原告がその著作権を有しているとはいえない。
〔被告GMOの主張〕
 本件画像2は、食事をする女性を正面から撮影したに過ぎず、著作者の個性が表れたものとはえいず、創作性がなく、そもそも著作物に当たらない。また、原告が本件動画2の創作過程に関与したかどうかも不明であり、原告にその著作権が帰属するとはいえない。
〔被告ジェイコムの主張〕
 本件動画4につき、原告が被写体の位置、ポーズ、調光、撮影の流れ等を考えて撮影したかどうかは不明であり、原告が本件動画4の著作者であり著作権者であるとはいえないし、本件動画4は、本件元動画に対して動画編集業者がテロップ付け等を行ったものであることからしても、本件動画4の著作権が原告に帰属しているかどうか明らかではない。
〔被告ビッグローブの主張〕
 本件動画5は、原告ではなく、原告の夫又は運転手が撮影したものである以上、原告にその著作権がないことは明らかである。
(2)争点2(複製権及び公衆送信権侵害の有無)
〔原告の主張〕
 本件各画像は、原告チャンネル又は原告インスタグラムにアップしていた本件動画1ないし5を複製し、本件サイトにアップロードして送信可能化したものである。
 原告は本件元動画及び本件動画1ないし5の利用を許諾したことがないことからすれば、本件各画像は、それぞれ本件元動画及び本件動画1ないし5に係る原告の複製権及び公衆送信権を侵害したものであることが明らかである。
〔被告ソフトバンクの主張〕
 本件画像1及び本件画像3につき、原告の本件元動画、本件動画1及び本件動画3に係る複製権が侵害されたとの主張は争う。
 本件画像1及び本件画像3において、その元となっているという本件元動画、本件動画1及び本件動画3の表現形式が全く再現されておらず、一般人が通常の注意力をもってみた場合に、本件画像1や本件画像3が本件元動画、本件動画1及び本件動画3の複製であるとはいえない。
〔被告GMOの主張〕
 争う。
 本件画像2をダウンロードして、自らのパソコンに保管する行為自体は、特定電気通信による情報の流通とはいえないし、その複製が被告の特定電気通信設備を用いて行われたとはいえない。
〔被告ジェイコムの主張〕
 争う。
〔被告ビッグローブの主張〕
 争う。
(3)争点3(引用の抗弁の成否)
〔被告ソフトバンクの主張〕
 本件画像1が貼付されている本件記事1は、インターネット上に掲載されている別の記事において原告がキャバクラ店で仕事を始めたきっかけについて話している内容と本件動画1で述べている内容が異なり、原告の発言が変遷していることから、その点を指摘・批判する目的で、当該変遷部分に関連して投稿されたものであるから、本件記事1において示された投稿者の意見と本件画像1には密接な関連性がある。そして、本件画像1は、本件画像1の引用目的との関係で、本件記事1において示されている意見を補足するために、必要かつ最小限の範囲内の画像として本件動画1の一部をキャプチャしたものであるし、本件画像1を引用することにより、閲覧者において本件記事1の内容を理解しやすくすることは明らかである。したがって、本件画像1の引用は、公正な慣行に合致し、その目的上正当な範囲内で行われるものであるから、「引用」(著作権法32条1項)に当たる。
〔被告ジェイコムの主張〕
 本件画像4が貼付されている本件記事4は、本件画像4の直後に「これ鼻の下何センチ?」とのコメントがあるところ、本件画像4は、当該コメントに係る引用である。
 上記コメントは、原告の容貌について言及する趣旨のものであるが、原告は、依然〈ママ〉から「C」という愛称でキャバクラ店において稼働し、現在は、会社の代表取締役として積極的にテレビに出演したり、インスタグラムやユーチューブ等への動画配信を行うなどして、約30万人ものフォロワーを擁しているとのことであるし、上記会社は美容サロン等を経営し、自身の容貌をテレビやインターネットで広く公開していることからすると、原告はその容姿について言及されることも一定程度感受すべきであって、上記コメントが原告に対して何ら肯定的評価も否定的評価も伴わない価値中立的な表現にとどまっていることをも考慮すると、原告の容貌に言及する趣旨で本件画像4を引用したことについては、目的の正当性が認められる。また、原告の容貌を言及する目的で論評する以上、「C」として活動している原告の容貌を具体的に引用しない限り、容貌に対する論評を行うことはできない上、本件記事4に貼付されているのは、本件動画4の一場面に過ぎない本件画像4の1枚のみであり、その利用態様も最小限である。加えて、本件画像4の元となっている本動画4は、原告が出版した書籍の案内を行う目的で、原告インスタグラムに投稿されたものであるというのであるから、第三者に広く引用される可能性を初めから内包していたというべきであるし、本件動画4は、世界中で誰でも閲覧可能なものであるから、本件記事4において本件画像4が利用されたことによって、原告に何らかの経済的損失が生じるようなこともない。このように、本件記事4による本件画像4の利用については、利用の目的及び利用の方法・態様はいずれも正当であり、本件動画4の種類や性質、本件動画4の著作権者としての原告に及ぼす影響の観点からして、引用の正当性が認められる。
〔被告ビッグローブの主張〕
 本件画像5が貼付された本件記事5は、本件画像5の下に「投稿の水着写真との脚の長さの違い」という文章が付されているところ、本件記事5の投稿者は、原告が投稿した「水着の写真」はソフトウェアで脚を長くみせるような加工等を行ったものであると推測した上で、本件動画5の原告の写真と原告が他で投稿した水着写真の脚の長さを比べると、その長さに違いがあるとの投稿者の判断、意見、感想等を本件記事5の上記文章で表現したものと考えられる。したがって、本件記事5の中核部分は、投稿された水着写真は、本件画像5に比べて、何らかの加工等がされているという投稿者の判断、意見、感想にある。そして、原告は、もともと日本一のキャバ嬢などとして報道、出版物に取り上げられ、その後も、原告チャンネルや原告インスタグラムにおいて、多くの読者、フォロワー等を有しており、自署を出版し、テレビのバラエティ番組にも出演するような有名人であり、そのような原告に対する判断、意見、感想は、表現の自由として、社会公共的な価値を有する。そうした自己の意見の表明において、必要最小限、副次的に、その根拠の一つとなる動画の一部を画像として掲載することは、著作物の引用として、公正な慣行に合致する。
 したがって、本件記事5における本件画像5の利用は、正当な引用に当たる。
〔原告の主張〕
 本件各画像は、次のとおり、いずれも適法な引用に当たらない。
ア 本件画像1
 本件記事1の投稿者において、本件元動画又は本件動画1上の原告の生い立ちに関する話題について何らかの意見があるとしても、当該意見と本件記事1に貼付された本件画像1との関連性は不明である。仮に、投稿者において意見を述べるとしても、ことさら本件動画1の一部を複製して本件記事1に貼付する必要はなく、むしろ、本件元動画がアップロードされているURLを指摘すれば足り、むしろ、その方が閲覧者にとっても検証しやすくなる。また、本件元動画において、原告は、キャバクラ店で働き始めたきっかけについて、詳細な経緯を含めて話しているにもかかわらず、重要な部分に何ら触れることなく、単に一部の場面を抽出して引用することは恣意的といわざるを得ない。
 これらからすれば、本件記事1における本件画像1の引用の方法及び態様が、引用目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるとはいえないし、本件画像1を引用して利用することが公正な慣行に合致するともいえず、適法な引用に当たらない。
イ 本件画像4
 本件記事4は、本件画像4と共に「これ鼻の下何センチ」とのコメントが付されており、「鼻」という単語は、インターネット上において、原告に対する誹謗中傷・揶揄・嘲笑等の文脈で用いられていることからすると、本件記事4における本件画像4の引用の方法及び態様が、引用目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるとはいえないし、本件画像4を引用して利用することが公正な慣行に合致するともいえず、適法な引用に当たらない。
ウ 本件画像5
 本件記事5は、本件画像5と共に「投稿の水着写真との脚の長さの違い」とのコメントが付されており、当該コメントは、原告の脚の長さを誹謗中傷・揶揄・嘲笑するに過ぎない内容である。そうすると、本件記事5における本件画像5の引用の方法及び態様が、引用目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであると認めることはできないし、本件画像5を引用して利用することが公正な慣行に合致するともいえず、適法な引用に当たらない。
(4)争点4(原告に発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)
〔原告の主張〕
 原告は、本件各記事の投稿者に対して、原告の権利が違法に侵害されたことを理由に、損害賠償請求等を行う予定であるから、本件各記事の投稿者の氏名又は名称等の開示を受ける必要がある。
 したがって、原告には、被告らに対して本件各記事にかかる発信者情報の開示を受ける正当な理由がある。
〔被告らの主張〕
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件各動画の著作物性及び原告の著作権の有無)について
(1)認定事実(当事者間に争いのない事実、掲記した証拠(枝番のあるものは、特に明示しない限りそれらを含む。)及び弁論の全趣旨により認められる事実)
ア 原告は、平成31年11月に退職するまで、名古屋市内のキャバクラ店において「C」の愛称でキャバクラ店の従業員として稼働し、現在は、東京都内でバー等を経営している(甲6、8)。
 原告は、原告チャンネル及び原告インスタグラム上に自身が写った写真、動画等を投稿している(甲4、5、8、10)。
イ 原告は、令和2年10月20日、自宅において、原告が保有するデジタルカメラを利用して、原告書籍を紹介する内容の本件元動画を制作した(甲8、9の1)。本件元動画では、原告書籍の内容の紹介として、原告書籍の概要、原告の生い立ち、原告がキャバクラ店で働くこととなった経緯やその当時の原告の思いなどが原告により語られている。本件元動画制作後、原告は、本件元動画にテロップ入れ等の加工をするよう業者に発注し、テロップ、効果音等が付された本件動画1が制作され、原告は同月24日、本件動画1を原告チャンネルにアップロードした(甲8、9の3、10)。
 原告は、同月26日、本件動画1の一部を切り取って編集した本件動画4に文字入れ等の加工を施し、原告インスタグラムのインスタストーリーにアップロードした。
ウ 原告は、原告が写る本件動画2、3及び5を原告インスタグラムのインスタストーリー上にアップロードした。本件動画2、3及び5の制作過程等は次のとおりである。
(ア)原告は、令和2年12月1日、飲食店において、原告の運転手に対して原告がサンドイッチを食べている様子を原告のスマートフォンで撮影するように指示し、同人において本件動画2が撮影された。原告は、撮影に際し、自身の配置、ポーズ、アングル、撮影の流れ等を決めてそれを同人に指示し、同人はその指示に従って本件動画2を撮影し、原告において、本件動画2に文字入れ等の加工を施した(甲8、10、11、13)。
(イ)原告は、同年11月18日、原告が代表者を務める会社のオフィスにおいて、原告の夫に対して原告が原告書籍にサインをしている様子を原告のスマートフォンで撮影するように指示し、同人において本件動画3が撮影された。原告は、撮影に際し、自身の配置、ポーズ、アングル、動き、撮影の流れ等を決めてそれを同人に指示し、同人はその指示に従って本件動画3を撮影し、原告において、本件動画3に文字入れ等の加工を施した(甲8、10、16、17)。
(ウ)原告は、同年10月17日、原告が経営するバーの店内において、その店長に対し、スポーツジムに寄った後の原告の全身を原告の夫のスマートフォンで撮影するように指示し、同人において本件動画5が撮影された。原告は、撮影に際し、原告の服装や容姿がわかるよう、自身の配置、ポーズ、アングル、撮影の流れ等を決めて同人に指示し、同人はその指示に従って本件動画5を撮影し、原告において、本件動画5に文字入れ等の加工を施した(甲8、10、20、21)。
エ 氏名不詳者により、別紙投稿記事目録記載1ないし5の各「投稿日時」において、次のとおりの内容の本件各記事が本件サイトに投稿された。本件各画像の大きさは、いずれも、本件各記事の囲み枠の過半を占めている。
(ア)本件記事1には、本件動画1のうち、「実家を取り戻したかったんだよね」というテロップが表示されている場面を切り出した本件画像1が貼付され、その下に「うん変わったよ本の宣伝のYouTubeで言っていたw色々と変わるよねw七分半あたりかな」とのコメントが付されている(甲1の1)。
(イ)本件記事2には、本件動画2のうち、「食べた瞬間思わず美味しすぎて笑えてもーた(笑)」とのテロップが表示されている場面を切り出した本件画像2が貼付され、その下に「食べた瞬間思わず美味しすぎて歯茎出た」とのコメントが付されている(甲1の2)。
(ウ)本件記事3には、本件動画3のうち、原告が原告書籍が山積みにされた机の前に座ってサインをしている場面を切り出した本件画像3が貼付され、その下に「豚のせいにしてるけど絶対裏ではグル。本買わせるように夫婦でしっかり話し合ってるくせに悪質すぎ。」とのコメントが付されている(甲1の3)。
(エ)本件記事4は、本件動画4のうち、「努力してる」とのテロップが表示されている場面を切り出した本件画像4が貼付され、その下には「これ鼻の下何センチ?」とのコメントが付されている(甲1の4)。
(オ)本件記事5は、本件動画5のうち、原告の全身が写されている場面を切り出した本件画像5が貼付され、その下には「投稿の水着写真との脚の長さの違い」とのコメントが付されている(甲1の5)。
(2)上記認定事実を前提に、本件各動画の著作物性及び原告への著作権の帰属の有無を検討する。
ア 本件元動画
 本件元動画は、原告書籍の出版を広告する目的で、原告書籍の著者である原告自身が、原告の生い立ちを含めた原告がキャバクラ店の従業員として働くこととなった経緯、キャバクラ店で働いていた当時の思いなどを語りながら、原告書籍の概要を紹介し、原告において、原告の表情等が表れるように、撮影場所、原告の位置やアングル、ポーズ等を決めて撮影したことが認められる。このように、本件元動画は、原告書籍の概要や原告書籍に対する原告の思いなどが臨場感を持って伝わるように、ストーリーや撮影方法に工夫を凝らして制作されたものであって、原告の個性の発揮によりその思想又は感情を創作的に表現したものであり、著作物性が認められる。
 しかして、本件元動画は、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、原告のデジタルカメラのメモリ等に電磁的に記録されて固定されたものと認められるから、映画の著作物(著作権法2条3項)に該当すると認められる。
 そして、映画の著作物の著作者は、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者であるところ(同法16条)、前記認定のとおり、原告が本件元動画のストーリー、被写体、アングル、ポーズ等を決め、原告において原告書籍の内容等を語り、撮影したものであるから、本件元動画の全体的形成に創作的に寄与した者は、原告であるといえ、原告がその著作者として、著作権(複製権・公衆送信権)を有していると認められる。
イ 本件動画1
 本件動画1は、原告の発言の内容を強調するために、上記の本件元動画を動画編集業者において複製したものにテロップ、効果音等の加工を施して制作されたものであるから、本件動画1も、本件元動画と同様に、著作物性を有し、映画の著作物に該当すると認められる。
 また、上記テロップ等は動画編集業者において付したものであるが、テロップは原告が本件元動画で発言している内容を視覚的に明らかにしたものに過ぎず、また、効果音も聴覚的な加工を部分的に施したに過ぎないものであるから、上記アにおいて認定した本件元動画に係る原告の創作的関与の態様を踏まえると、本件動画1の全体的形成に創作的に寄与した者は、飽くまで原告であるといえ、原告がその著作者として、著作権(複製権・公衆送信権)を有していると認められる。
ウ 本件動画2
 本件動画2は、原告の運転手が原告のスマートフォンを使用して原告が食事をしている場面を撮影した動画であるところ、原告が同人に対して原告の配置、ポーズ、アングル、動き、撮影の流れ等の本件動画2の制作に必要な条件を決定・指示して制作したことが認められる。このように、本件動画2は、原告の食事の様子や美味しいと感じた食事の内容を、臨場感を持って伝えられるように、原告の動きや撮影の流れ等を工夫して制作したものであるから、原告の個性の発揮によりその思想や感情を創作的に表現したものであるといえ、著作物性が認められる。
 しかして、本件動画2は、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、原告のスマートフォンに記録されて固定されたものと認められるから、映画の著作物に該当すると認められる。
 そして、原告が本件動画2における原告の動きや撮影の流れ等を決定し、その決定したところに従って原告の運転手において撮影したものであるから、本件動画2の全体的形成に創作的に寄与した者は、原告であるといえ、原告がその著作者として、著作権(複製権・公衆送信権)を有していると認められる。
エ 本件動画3
 本件動画3は、原告の夫が原告のスマートフォンで原告が原告書籍にサインをしている様子を撮影した動画であるところ、原告が同人に対して原告の配置、ポーズ、アングル、動き、撮影の流れ等の本件動画3の制作に必要な条件を決定・指示して制作したことが認められる。このように、本件動画3は、原告が原告のオフィスにおいて、原告書籍にサインをしている様子を撮影し、原告書籍の売れ行きや原告書籍に対する原告の思いが伝わるように、被写体である原告や原告書籍の配置、アングル、撮影の流れ等を工夫して制作したものであるから、原告の個性の発揮によりその思想や感情を創作的に表現したものであるといえ、著作物性が認められる。
 しかして、本件動画3は、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、原告のスマートフォンに記録されて固定されたものであることが認められるから、映画の著作物に該当すると認められる。
 そして、原告が本件動画3における原告の動きや位置、原告書籍の配置、アングル、撮影の流れ等を決定し、その決定したところに従って原告の夫において撮影したのであるから、本件動画3の全体的形成に創作的に寄与した者は、原告であるといえ、原告がその著作者として、著作権(複製権・公衆送信権)を有していると認められる。
オ 本件動画4
 本件動画4は、原告が、本件チャンネルにアップロードした本件動画1の適宜の部分を抽出して編集した一部を原告インスタグラム上にアップロードした動画であるから、本件動画1と同様、著作物性が認められ、また、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚的効果を生じさせる方法で表現され、スマートフォンに電磁的に記録されて固定されたものと認められるから、映画の著作物に該当すると認められる。
 そして、本件動画4は本件動画1を元にして原告が制作しているものであるから、本件動画4の全体的形成に創作的に寄与した者も、原告であるといえ、原告がその著作者として、著作権(複製権・公衆送信権)を有していると認められる。
カ 本件動画5
 本件動画5は、原告が経営するバーの店長が原告の夫のスマートフォンで原告経営するバーでの原告の全身を撮影した動画であるところ、原告が同人に対して原告の配置、ポーズ、アングル、動き、撮影の流れ等の本件動画5の制作に必要な条件を決定・指示して制作したことが認められる。このように、本件動画5は、原告が経営するバーの店内で原告の全身を撮影し、原告が通うジムでの服装や原告の容姿を伝えられるように、原告の動き、アングル、撮影の流れ等を工夫して制作したものであるから、原告の個性の発揮によりその思想や感情を創作的に表現したものであるといえ、著作物性が認められる。
 しかして、本件動画5は、映画の効果に類似する視覚的又は視聴覚効果を生じさせる方法で表現されたものと認められ、その映像は原告の夫のスマートフォンに記録されて固定されたものであることが認められるから、映画の著作物に該当すると認められる。
 そして、原告が本件動画5における原告の動き、アングル、撮影の流れ等を決定し、その決定したところに従って上記店長において撮影したものであるから、本件動画5の全体的形成に創作的に寄与したのは原告であるといえ、原告がその著作者として、著作権(複製権・公衆送信権)を有していると認められる。
(3)これに対し、被告らは縷々主張し、本件元動画、本件各動画の著作物性や、原告への著作権の帰属を否定するが、そのいずれを慎重に検討しても、上記説示を左右するに足りるものはない。
2 争点2(複製権及び公衆送信権侵害の有無)について
(1)本件サイトに投稿された本件各記事に貼付されている本件各画像と本件各動画とを対比すると、本件各画像は、本件各動画の一場面と同一のものであることが認められる。
 このように、本件各画像は、本件各動画と同一のものであるから、本件各記事の各投稿者は、それぞれ、被告らが提供するインターネット接続サービスを利用して本件各動画を含む本件各記事を本件サイト上で作成、投稿することにより、本件各動画を有形的に再製するとともに、インターネットを通じて本件各記事にアクセスした不特定又は多数の者に、本件各画像を含む本件各記事を閲覧できる状態に置いたと認められる。これは、著作物の複製・公衆送信行為に当たる。しかして、本件全証拠によっても、原告が本件各記事の各投稿者に対して、本件各動画の利用を許諾したことをうかがわせる事実は見当たらない。
 そうすると、本件各記事が本件サイトに投稿されたことにより、本件各画像について原告が有する著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたというべきである。
(2)これに対し、被告らは縷々主張するが、そのいずれを慎重に検討しても、上記説示を左右するに足りるものはない。
3 争点3(引用の抗弁の成否)について
(1)被告ソフトバンク、被告ジェイコム及び被告ビッグローブは、本件記事1、4及び5は、本件動画1、4及び5を適用に引用したものであるから、原告の権利を侵害したことが明らかであるとはいえない旨主張している。
 ここで、引用による利用が適法とされるためには、著作権法32条1項に規定する要件を満たすことが必要であるから、当該引用の方法や態様が、報道、批評、研究等の引用目的との関係で、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであること、かつ、引用して利用することが公正な慣行に合致することを要するものと解するのが相当である。
(2)上記観点から、本件各記事について検討する。
ア 本件記事1についてみるに、前記認定事実(1(1)エ)によれば、本件記事1は、原告が原告の生い立ちを語りながら原告書籍を宣伝する本件動画1のうち「実家を取り戻したかったんだよね」とのテロップが表示されている場面を切り出した本件画像1を貼付した上で、「うん変わったよ本の宣伝のYouTubeで言っていたw色々と変わるよねw七分半あたりかな」とのコメントが付されているものの、かかるコメントの趣旨は明確とはいえない。仮に、かかるコメントの趣旨が原告の発言内容が変遷している旨の指摘・批判をするとともに、本件記事1の投稿者の感想等を述べる点にあるとしても、そのような批判、感想等を述べるために、本件画像1を掲載する必要性が高いとも認められず、引用目的との関係で権衡がとれているものとも評価できない。加えて、本件画像1は本件記事1の囲み枠の過半を占めており、独立して鑑賞の対象となり得る程度の大きさであるのに対し、上記コメントは短文の比較的小さな文字で掲載されていること、本件画像1の出典を示していないことからすると、その引用の方法及び態様が、引用目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるということはできないし、公正な慣行に合致すると認めるに足りる証拠もない。
イ 次に、本件記事4は、本件記事1と同様に、原告がその生い立ちを語りながら原告書籍を宣伝する本件動画4のうち「努力してる」とのテロップが表示されている場面を切り出した本件画像4を貼付した上で、「これ鼻の下何センチ?」とのコメントが付されている。かかるコメントは、原告の容姿について何らかの感想を述べる意図であるとも考えられなくはないが、上記コメントと本件画像4との関連性は全く不明といわざるを得ず、原告の容姿に関する感想を述べるに際して、本件画像4を掲載する必要性は乏しく、引用目的との関係で権衡がとれているものとは評価できない。加えて、本件画像4は本件記事4の囲み枠のほぼ全体を占め、上記コメントは短文の比較的小さな文字で掲載されていること、本件画像4の出典についての記載がないことからすると、その引用の方法及び態様が、引用目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるということはできないし、公正な慣行に合致すると認めるに足りる証拠はない。
ウ 本件記事5についてみるに、原告の全身を撮影して原告が通うジムでの服装を紹介する場面を切り出した本件画像5を貼付した上で、「投稿の水着写真との脚の長さの違い」とのコメントが付されている。かかるコメントは、原告の脚の長さに言及するものであるものの、その趣旨が明確とはいえず、仮に、原告の容姿に関する何らかの感想を述べるものであると解したとしても、そのような感想を述べるために、本件画像5を掲載する必要性が高いともいえず、引用目的との関係で権衡がとれているものとは評価できない。加えて、本件画像5も、本件画像4と同様に、本件記事5の囲み枠の大半を占め、上記コメントは短文かつ比較的小さな文字で掲載されていることをも考慮すると、その引用の方法及び態様が、引用目的との関係で社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるということができず、かつ、公正な慣行に合致すると認めるに足りる証拠はない。
エ 本件記事2及び3についても、本件画像2及び3を貼付するについて、当該貼付(引用)の方法や態様が、当該引用目的との関係で、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであること、かつ、引用して利用することが公正な慣行に合致することを示す事実を具体的に認めるに足りる証拠はない。
(3)以上によれば、本件各記事に本件各画像をそれぞれ貼付して本件各動画を利用したことについては、適法な引用に当たるとはいえないというべきであるから、被告らの上記主張は、理由がない。
(4)よって、被告らが提供するインターネット接続サービスを利用した本件各記事の投稿により、原告が有する本件各動画の複製権及び送信可能化権が侵害されたことが明らかであるといえ、本件各発信者情報は各権利侵害に係る発信者情報に該当し、被告らはいずれも、開示関係役務提供者(プロバイダ責任制限法4条1項)に当たるものといえる。
4 争点4(原告に発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)
 上記のとおり、本件各画像が付された本件各記事が投稿されたことにより、原告の本件各動画の複製権及び公衆送信権が侵害されたものであることが認められ、原告は、本件各記事の各投稿者に対して損害賠償請求等をする予定であるとことが認められるから、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求はいずれも理由があるから、これらを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 田中孝一
 裁判官 小口五大
 裁判官 鈴木美智子


別紙 投稿記事目録 省略

別紙 発信者情報目録1
(関係経由プロバイダ:被告ソフトバンク株式会社)
 別紙投稿記事目録記載1及び3の各投稿元アイ・ピー・アドレスを同目録記載の各投稿日時頃に使用して同目録記載の各URLに接続した者に関する以下の情報(但し、別紙投稿記事目録記載3の記事については、以下の3及び4を除く。)
1 氏名又は名称
2 住所
3 電話番号
4 電子メールアドレス
 以上

別紙 発信者情報目録2
(関係経由プロバイダ:被告GMOインターネット株式会社)
 別紙投稿記事目録記載2の投稿元アイ・ピー・アドレスを同目録記載の投稿日時頃に使用して同目録記載のURLに接続した者に関する以下の情報
1 氏名又は名称
2 住所
3 電話番号
4 電子メールアドレス
 以上

別紙 発信者情報目録3
(関係経由プロバイダ:被告株式会社ジェイコム埼玉・東日本)
 別紙投稿記事目録記載4の投稿元アイ・ピー・アドレスを同目録記載の投稿日時頃に使用して同目録記載のURLに接続した者に関する以下の情報
1 氏名又は名称
2 住所
3 電話番号
4 電子メールアドレス
 以上

別紙 発信者情報目録4
(関係経由プロバイダ:被告ビッグローブ株式会社)
 別紙投稿記事目録記載5の投稿元アイ・ピー・アドレスを同目録記載の投稿日時頃に使用して同目録記載のURLに接続した者に関する以下の情報
1 氏名又は名称
2 住所
3 電話番号
4 電子メールアドレス
 以上
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/