判例全文 line
line
【事件名】ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件P
【年月日】令和3年10月19日
 東京地裁 令和3年(ワ)第14939号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年9月7日)

判決
原告 X
同訴訟代理人弁護士 瀧口徹
同 和田美香
被告 ソフトバンク株式会社
同訴訟代理人弁護士 金子和弘


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 本件は、氏名不詳者が写真・動画共有サービスに投稿した原告の著作物である文章及び写真を複製し、インターネット上の匿名ブログサービスに投稿して原告の複製権及び公衆送信権を侵害したところ、同投稿は、被告の電気通信設備を経由して行われており、原告が氏名不詳者に対して損害賠償を請求するためには、上記投稿の発信者に係る情報が必要であるとして、原告が被告に対して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律4条1項に基づき同投稿に係る発信者情報の開示を請求した事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠(明示されない限り枝番号含む)及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1)被告は、電気通信事業等を営む株式会社である。(争いなし)
(2)令和3年3月1日、フェイスブック・インクが管理・運営するインスタグラムと呼ばれる写真・動画を共有するサービスにおいて、X1名義で開設されているアカウント(https://以下省略)に、別紙元投稿記事記載の記事(以下「元投稿記事」という。)及び別紙元投稿写真記載の写真(以下「元投稿写真」という。)が掲載された。元投稿記事は、作成者の意見を創作的に表現した言語の著作物であり、元投稿写真は、構図・アングル等について工夫されるなどした写真の著作物である。(甲4)
(3)氏名不詳者(以下「本件投稿者」という。)は、令和3年3月4日13時51分頃、ロキテクノロジー・インクが管理運営する「5ちゃんねる」という名称のブログサービスにおいて、「【画像あり】フェミニストが腋毛をアピール「ふさふさしてて可愛いよ」」とのタイトルが付されたスレッドに係る最初の投稿記事として、元投稿記事の文章(冒頭の7文字を除いたもの。)及び元投稿写真を複製したものを投稿し(文章の末尾に写真が表示される。以下「本件投稿」といい、写真を含む投稿された記事を「本件投稿記事」という。)、本件投稿記事は公衆送信された。(甲5、6)
(4)本件投稿は、被告を経由プロバイダとして被告の電気通信設備を利用して行われており、被告は、本件投稿者に係る、別紙発信者情報目録記載の各情報を保有している。(甲3、6、弁論の全趣旨)
3 争点及び当事者の主張
(1)元投稿記事及び元投稿写真の著作権者(争点1)
(原告の主張)
 原告は、元投稿記事を起案して自身がX1名義で管理運営するインスタグラムのアカウントに投稿したのであるから、元投稿記事の著作者は原告である。元投稿写真も原告が自ら撮影したものであり、著作者は原告である。
(被告の主張)
 原告の主張は争う。元投稿写真は、一見して自ら撮影した写真に見えない。
(2)権利侵害の明白性(争点2)
(原告の主張)
 本件投稿の文字部分は、原告の著作物たる元投稿記事の冒頭7文字が欠けているほかは、完全に同じ文字列、記号で構成され、写真部分も元投稿写真を複製したものであり、これらはインターネットを通じて不特定人に広く公開されている。原告は、元投稿記事及び元投稿写真につき利用許諾をしたことがないから、本件投稿は原告の複製権及び公衆送信権を侵害するものである。
 また、本件投稿に係るスレッドタイトルと本件投稿記事の間には主従の関係はなく、元投稿記事及び元投稿写真の出所の明示もないから著作権法上の引用の要件も満たさない。
(被告の主張)
 原告の主張は争う。本件投稿者は、スレッドタイトルとして「フェミニストが腋毛をアピール「ふさふさして可愛いよ」」と記載し、「フェミニストが腋毛をアピール」していることを主として紹介するために、従として元投稿記事の文章をそのまま転載しているのであり、また、引用部分の区分も明瞭である。
 本件投稿の文章にはハッシュタグ付きのキーワードが並べてあることから、本件投稿記事の出所は原告が行っているソーシャルネットワークサービスであることが分かる。また、原告は、元投稿記事はハッシュタグを付して拡散させることを意図しており、転載を禁止していないことからも、著作権法上の引用に当たるというべきである。
 よって、本件投稿につき原告に対する権利侵害が明白であるとはいえない。
(3)開示対象(争点3)
(原告の主張)
 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第四条第一項の発信者情報を定める省令(以下「省令」という。)3号、4号によれば、発信者の氏名及び住所のみならず、電話番号及び電子メールアドレスについても、発信者の特定に資する情報として開示請求が認められている。被告が保有する本件投稿者の氏名及び住所も必ずしも正確とは限らないことに照らせば電話番号及び電子メールアドレスの情報についても発信者の特定に資する情報として開示される必要がある。
(被告の主張)
 原告が本件投稿者に対して損害賠償請求及び差止請求を行うに当たって必要な情報は、氏名及び住所が必要かつ十分である。本件のように、アクセスプロバイダが氏名及び住所を保有している場合には、被侵害者に電話番号及び電子メールアドレスにつき開示を受けるべき正当な理由は認められない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(元投稿記事及び元投稿写真の著作権者)について
 原告が元投稿写真を撮影する状況を説明する写真撮影報告書(甲9)と元投稿写真によれば、元投稿写真は、原告がスマートフォンやそのタイマー機能、三脚等を利用して自らの上半身を撮影したものであり、その著作者は原告であることが認められる。
 また、元投稿記事は、元投稿記事の作成者が自らの考えを述べるものであるところ、そこに投稿された元投稿写真に写っている人物が原告であり(甲9)、元投稿写真と元投稿記事が密接に関係していることなどに照らせば、元投稿記事の著作者は原告であると認められる。
 よって、原告の主張には理由がある。
2 争点2(権利侵害の明白性)
 前提事実で認定したとおり、本件投稿者は、元投稿写真及び元投稿記事を複製してブログサービスに投稿して(本件投稿)、公衆送信したことが認められる。これに対し、被告は、本件投稿は著作権法32条の引用に当たるため、原告の権利を侵害するものではないと主張する。
 しかし、本件投稿記事は元投稿記事の一部及び元投稿写真のみからなるものであって、本件投稿記事において、本件投稿者は、自己の作品中に、元投稿記事及び元投稿写真を他人の著作物として区分して批評等の目的のために利用しているものではなく、元投稿記事及び元投稿写真が引用(著作権法32条1項)されたということはできない。
 被告は、スレッドタイトルと本件投稿を一体のものとしてとらえ、スレッドタイトルとの関係で本件投稿が引用であると主張する。しかし、スレッドタイトルはブログサービスにおける特定のスレッドのタイトルである一方、本件投稿は、そのタイトルのスレッドに投稿された一つの投稿であり、スレッドタイトルと本件投稿が直ちに一体のものととらえられるとはいえない。また、仮に本件のスレッドタイトルと本件投稿を一体のものととらえることができる事情が認められ、スレッドタイトルにより本件投稿記事を紹介するものととらえたとしても、スレッドタイトルの内容がごく簡単に事実を述べるものであるのに対し、本件投稿記事は元投稿記事のほぼ全て及び元投稿写真を利用するものであって、元投稿記事等の利用が引用の目的上正当な範囲内のものであるとは認められない。
 被告は、元投稿記事にハッシュタグが付されていることをもって、原告が拡散を意図しており、転載を禁止していないと主張する。しかし、元投稿記事にハッシュタグが付されていることが引用(著作権法32条1項)についての上記判断を左右するものとはいえない。なお、ハッシュタグが付されていることから、原告が、元投稿記事及び元投稿写真をその投稿したサービスにおいて多数の読者に閲覧してもらうことへの希望があることが推認できるとしても、このことをもって、原告が元投稿記事及び元投稿写真を、上記による閲覧とは別に複製、転載することを許容しているとは認められない。
 よって、本件投稿記事につき、著作権法32条1項所定の引用が成立するとはいえず、他に著作権侵害の成立を阻却する事情は認められない。
 以上によれば、本件投稿者は、本件投稿により、原告の著作物である元投稿記事及び元投稿写真を複製して公衆送信し、著作権侵害の成立を阻却する事情は認められず、原告の複製権及び公衆送信権を侵害することが明白であるといえる。
3 争点3(開示対象)
 原告は、本件投稿者に係る発信者情報として、本件投稿者の氏名又は名称、住所、電話番号、電子メールアドレスの開示を求めており、これらは、いずれも発信者の特定に資する情報に当たる。(省令1号、2号、3号、4号)
 被告は、本件投稿者に係る氏名及び住所を開示すれば足りるので、原告にはその余の情報について開示を受けるべき正当な理由はないと主張するが、被告が保有する上記情報が必ずしも現在の本件投稿者に係る正確な情報であるとは限らないことなどからすると、原告には、電話番号、電子メールアドレスについても、開示を受けるべき正当な理由があるというべきである。
 よって、原告の主張には理由がある。
第4 結論
 以上のとおりであって、被告の電気通信設備を経由して投稿された本件投稿は、原告の複製権及び公衆送信権を侵害することが明白であるから、原告には被告が保有する別紙発信者情報目録記載の発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるというべきである。原告の請求には理由があるから、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 佐伯良子
 裁判官 仲田憲史


別紙 発信者情報目録(記載省略)
別紙 元投稿記事(記載省略)
別紙 元投稿写真(記載省略)
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/