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【事件名】NTTぷららへの発信者情報開示請求事件D 【年月日】令和3年10月18日 東京地裁 令和3年(ワ)第3397号 発信者情報開示請求事件 (口頭弁論終結日 令和3年9月1日) 判決 原告 A 同訴訟代理人弁護士 田中圭祐 同 遠藤大介 同 吉永雅洋 同訴訟復代理人弁護士 蓮池純 被告 株式会社NTTぷらら 同訴訟代理人弁護士 松尾翼 同 小杉丈夫 同 西村光治 同 橋慶彦 主文 1 被告は、原告に対し、別紙1発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件は、原告が、電気通信事業を営む被告に対して、被告の電気通信設備を経由してされたインターネット上での別紙3配信動画目録記載の動画の配信(以下「本件配信」といい、本件配信によって配信された動画を「本件動画」という。)によって、本件動画の一部として別紙4著作物目録記載の各投稿(以下、併せて「本件各投稿」という。)の内容が配信されたことで原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことが明らかであり、また、本件動画の一部として原告の人格を攻撃する内容の発言が配信されたことで名誉感情が侵害されたことが明らかであり、別紙1発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)はその侵害に係る発信者情報であって、本件配信をした者(以下「本件発信者」という。)に対する損害賠償等の請求を行うために被告の保有する発信者情報の開示が必要であるとして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づいて、本件発信者情報の開示を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがない事実) (1)被告は、電気通信事業を営む株式会社であり、法2条3号の特定電気通信役務提供者に該当する。 (2)被告は、本件発信者情報を保有している。 3 争点 (1)本件配信によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか(争点1) ア 本件配信によって原告の著作権が侵害されたことが明らかであるか(争点1−1) イ 本件配信によって原告の名誉感情が侵害されたことが明らかであるか(争点1−2) (2)本件発信者情報が本件配信による侵害に係る発信者情報であるといえるか(争点2) (3)開示を求める正当な理由の有無(争点3) 4 争点に関する当事者の主張 (1)争点1(本件配信によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか)について ア 争点1−1(本件配信によって原告の著作権が侵害されたことが明らかであるか)について (原告の主張) (ア)本件各投稿の著作物性 a 本件各投稿がされた状況 原告は、任天堂株式会社が販売するゲームソフト「ポケットモンスターソード」及び「ポケットモンスターシールド」(以下、単に「ポケモン」という)のシングル対戦の攻略を扱ったウェブサイト「ポケモンソルジャー」を運営し、ポケモンに関するゲーム攻略の情報発信等を行うYouTubeチャンネルを運営している。 原告は、上記チャンネルの有料会員向けのオプションとして、チャットサービスを用いたコミュニティサイト「ポケソルサーバー」(以下「本件コミュニティサイト」という)への参加を可能としており、参加した会員は、本件コミュニティサイトにおいて、ポケモンに関する相談や質問をすることができる。 本件各投稿は、いずれも、本件コミュニティサイトにおいて、本件コミュニティサイトの管理者側の者(ユーザー名「B」、「C」、「D」及び「E」)によって投稿されたものである。 b 本件各投稿が言語の著作物に当たること (a)本件各投稿は、単なる事実の羅列ではなく、それぞれの表現者が、ポケモン対戦に関する知識・経験や、それらを踏まえた個々の見解について、情報を取捨選択し、質問者の理解を得られるよう工夫して説明、解説等をするものである。 したがって、本件各投稿は、その説明方法等について各表現者の個性が発揮されているものであるから、創作性(著作権法2条1項1号)が認められ、これが「言語の著作物」(同法10条1項1号)に該当することは明らかである。 (b)被告は、本件各投稿がいずれもゲームデータ上の仕様などの法則について記載したものであるから、著作物性は認められない等と主張するが、本件各投稿は、ゲームデータ上の法則そのものについて記述ないし説明するものではなく、ゲームの攻略法について論述ないし解説するものである。 また、被告は、本件各投稿について、投稿者の個性が反映されていないから創作性が認められないと主張するが、本件各投稿は、事実や機械的な法則を肉付けすることなく淡々と記述する文章ではなく、誰が答えてもそのような表現にならざるを得ないような内容ともいえない。 したがって、本件各投稿は、表現者の考えや気持ちが表れており、表現者の個性が発揮されているものであるから、創作性が認められる。 (イ)原告が本件各投稿の著作権を有すること 原告は、本件各投稿について、投稿を行った者(ユーザー名「B」、「C」、「D」及び「E」)からそれぞれ著作権の譲渡を受けており、本件各投稿について著作権を有する。 (ウ)本件配信によって原告の著作権が侵害されたこと 本件動画は、本件発信者が本件コミュニティサイトに参加の上、グループチャットの状況を閲覧し、その様子を撮影したものであり、本件各投稿をその内容として含むものである。 本件発信者は、本件動画を動画等配信サービス「TwitCasting」(ツイキャス。以下「本件配信サイト」という)上で配信(本件配信)しているが、これは本件動画のインターネット上のサーバへのアップロードを必然的に伴い、当該サーバに本件各投稿を有形的に再製しているため、本件配信は本件各投稿についての原告の複製権(著作権法21条)を侵害するものである。また、本件配信は自動公衆送信に該当し、原告の公衆送信権(著作権法23条1項)を侵害する。 本件コミュニティサイトにおいては、グループチャットの内容を本件コミュニティサイト以外に投稿することは禁じられており、原告は本件発信者に対して、本件各投稿についての利用を個別に許諾することなどは一切行っておらず、上記著作権侵害についての違法性阻却事由は存在しない。 したがって、本件配信が原告の著作権を侵害することは明白である。 (被告の主張) (ア)本件各投稿の著作物性 a 本件各投稿がされた状況について 原告の主張は不知。 b 本件各投稿が言語の著作物に当たることについて 原告の主張は争う。 (a)本件各投稿は単なる法則等の記述にすぎないこと 自然科学上の法則ないし物質の構造、性質等の記述については、原則として著作権保護の対象となるものではなく、この点は、ゲームデータ上の法則も、世の中に存在する客観的な法則についてのものであるから、同様である。 そして、本件各投稿は、いずれもゲームデータ上の仕様などの法則について記載したものであるから、著作物性は認められない。 (b)本件各投稿は「思想又は感情」の「創作的」な表現に当たらないこと 仮に、前記(a)の点に問題がなくても、本件各投稿は、いずれについても、ゲームデータ上でどのような処理がされるか等の単なる事実を記載したものであって、人間の精神活動を表現するものではなく、表現において投稿者の何らかの個性が反映されているものでもない。 したがって、本件各投稿は、いずれも、「思想又は感情」を「創作的」に表現したものに当たらず、著作物性は認められない。 (イ)原告が本件各投稿の著作権を有することについて 原告の主張は否認する。 原告が、本件各投稿について、投稿を行った者から著作権を譲り受けたことが証拠上明らかとはいえない。 (ウ)本件配信によって原告の著作権が侵害されたことについて 本件動画に本件各投稿の内容が含まれることは認めるが、本件配信による原告の著作権侵害の明白性については否認ないし争う。 イ 争点1−2(本件配信によって原告の名誉感情が侵害されたことが明らかであるか)について (原告の主張) (ア)本件発信者は、本件配信において、本件コミュニティサイトについて、 「管理者としておかしいだろ」、「クソだな、こいつら」、「回答一個もなしかよ、人としてどうかっての」といった発言をしている。 (イ)これらの発言は、本件コミュニティサイトを管理する原告について、適切な運営を行っていないなどと述べるものであり、その表現方法としても、原告の人格を攻撃するものであるから、社会通念上許される限度を超えて原告の名誉感情を侵害することは明らかである。 (被告の主張) (ア)本件動画に原告が指摘する発言が含まれることは認める。 (イ)原告が本件コミュニティサイトの管理者であるか明らかでない。 この点を措いても、これらの発言が管理者に向けられたものであるか明白ではなく、また、仮に管理者に対するものであったとしても、個人の感想であり、継続性や執拗性もないから、社会通念上許される限度を超える侮辱行為に当たるかは疑義があり、原告の名誉感情侵害が明らかとはいえない。 (2)争点2(本件発信者情報が本件配信による侵害に係る発信者情報であるといえるか)について (原告の主張) 本件配信は本件配信サイトにおいて行われたものであり、原告は、本件配信サイトを管理するモイ株式会社より、本件配信の際に用いられたIPアドレス等として、別紙2配信情報目録記載の情報の開示を受けた。 これにより、本件配信は被告を経由プロバイダとして行われたことが判明したものであり、本件発信者情報は本件配信による侵害に係る発信者情報である。 (被告の主張) 別紙2配信情報目録記載のIPアドレスが被告の割当てに係るIPアドレスであることは認めるが、その余は不知。 (3)争点3(開示を求める正当な理由の有無)について (原告の主張) 原告は、本件発信者に対して、不法行為に基づく損害賠償等の請求をする予定であり、そのためには本件発信者情報の開示を受ける必要がある。 (被告の主張) 原告の主張は不知。 第3 当裁判所の判断 1 争点1−1(本件配信によって原告の著作権が侵害されたことが明らかであるか)について (1)別紙4著作物目録の番号8の投稿(以下「本件投稿8」という。)の著作物性について ア 証拠(甲1及び2)及び弁論の全趣旨によれば、本件配信は、コンピュータを操作して本件コミュニティサイトを閲覧し、その際のコンピュータ画面の表示と閲覧者の発言を動画として配信するものであり、本件各投稿は、いずれも、上記のようにしてコンピュータ画面に表示されたものが本件動画として配信されたと認められるところ、本件配信による原告の著作権侵害の明白性について検討するに当たっては、事案に鑑み、まず、本件各投稿のうち本件投稿8についての著作権侵害の明白性から検討する。 イ 証拠(甲1、2、5ないし9)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿8は、本件コミュニティサイトのチャットにおいて、「C」とのハンドルネームを使用する人物が投稿したものであり、その内容は、他のチャット参加者からポケモンの対戦において勝算の高い選択肢の選び方について質問がされたことを受けて、別紙4著作物目録の番号8の「内容」欄記載のとおりの回答をしたものと認められる。 上記「内容」欄の記載によれば、本件投稿8は、勝算が高い選択肢を時間内に選べるようになるために、対戦の振り返りをすることが重要である旨を回答するものであるところ、「ここであれされて負けたからこっちが正解だったなあーと言った振り返りではなく、ここで○○される時は××、△△される時は□□(3つ以上の時もあります)が勝ちの選択肢になっている、と相手の選択肢によって自分が勝てる選択肢がそれぞれ思いついていれば十分なので、まずはそこから考えてみてください。」と振り返りの方法の要点を理解しやすく説明し、ポケモンの対戦の具体的なシミュレーション結果を例示するなどして、相当程度の長さを有する文章により、回答内容を表現しているということができる。したがって、本件投稿8は、投稿者の個性が現れた表現として、創作性を備える言語の著作物に該当すると認められる。 被告は、本件投稿8について、ゲームデータ上の仕様などの法則について記述したものであり、「思想又は感情」を「創作的」に表現したものともいえないから、著作物性は認められない旨主張する。しかしながら、本件投稿8の内容は上記のとおりであり、単に、ゲームの仕様といった事実ないし法則、あるいは、ゲームを有利に進めるためのアイデアを記述するにとどまるものではなく、質問に対応する形で、質問者が理解しやすいように工夫して、解決方法についての投稿者の考えを説明したものであるといえる。したがって、本件投稿8は、「思想又は感情」を「表現したもの」であって、かつ、投稿者の個性が現れている「創作的」な表現であるといえるから、被告の上記主張は採用することができない。 (2)原告が本件配信時において本件投稿8の著作権を有していたかについて 証拠(甲5、6、9、12、15及び21)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿8は、本件コミュニティサイトの管理者側の「C」のハンドルネームを使用する者が投稿したものであり、本件投稿8に係る著作権については、同人と本件コミュニティサイトの運営者である原告との合意に基づいて、本件配信に先立ち、原告に対して移転されたものと認められる。 したがって、原告は、本件配信時において、本件投稿8の著作権を有していたものである。 (3)本件配信による本件投稿8に係る著作権侵害の有無について 証拠(甲1、2及び10)及び弁論の全趣旨によれば、本件動画は、本件発信者が本件コミュニティサイトに参加の上、グループチャットの状況を閲覧し、その様子を動画として記録したものであり、本件動画内では、本件投稿8の内容がその画面上に表示されているものと認められ、当該画面表示は言語の著作物である本件投稿8の複製物といえる。 本件発信者は、本件動画を本件配信サイト上で配信したものであるから、本件配信によって、本件投稿8についても、その複製物が本件動画に含まれる形で公衆送信(著作権法23条1項)されたものと認められ、本件全証拠によっても、当該行為について、原告による許諾その他の違法性阻却事由の存在を窺わせる事情は認められない。 したがって、本件配信により少なくとも本件投稿8についての原告の著作権(公衆送信権)が侵害されたことは明白である。 (4)争点1(本件配信によって原告の権利が侵害されたことが明らかであるか) についてのまとめ 以上によれば、本件配信によるその余の権利侵害の明白性について検討するまでもなく、本件配信によって、原告の権利(本件投稿8に係る著作権)が侵害されたことが明白である。 2 争点2(本件発信者情報が本件配信による侵害に係る発信者情報であるといえるか)について 証拠(甲1、3及び14)及び弁論の全趣旨によれば、別紙2配信情報目録記載の情報は、本件配信が開始された時刻とその際に本件発信者が用いたIPアドレスであると認められるから、本件発信者情報は本件配信による侵害に係る発信者情報であると認めるのが相当である。 3 争点3(開示を求める正当な理由の有無)について 弁論の全趣旨によれば、原告は、前記1のとおり自己の公衆送信権を侵害したことが明らかな本件発信者に対して、損害賠償等の請求を行う意思を有しており、そのためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があると認められるから、その開示を受けるべき正当な理由があるといえる。 4 結論 以上のとおり、本件配信による原告の権利侵害が明白であるところ、本件発信者情報は本件配信による権利の侵害に係る発信者情報に該当し、その開示を受けるべき正当な理由もあるといえるから、別紙2配信情報目録記載のIPアドレスの割当てを行い、本件配信に係る通信を媒介したと認められる被告は、開示関係役務提供者(法4条1項)として本件発信者情報を開示すべき義務を負う。 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 國分隆文 裁判官 小川暁 裁判官 矢野紀夫 別紙1 発信者情報目録 別紙2配信情報目録のIPアドレス欄記載のIPアドレスを、同目録の配信開始日時欄記載の日時頃に使用した者に関する情報であって、次に掲げる情報。 @氏名又は名称 A住所 B電子メールアドレス 別紙2 配信情報目録 省略 別紙3 配信動画目録 省略 別紙4 著作物目録 1
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