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【事件名】NTTドコモへの発信者情報開示請求事件D
【年月日】令和3年10月15日
 東京地裁 令和3年(ワ)第12332号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年9月17日)

判決
原告 X
同訴訟代理人弁護士 井上拓
同 山岡裕明
同 町田力
同 千葉哲也
被告 株式会社NTTドコモ
同訴訟代理人弁護士 横山経通
同 上田雅大
同 南谷健太
同 渡邉峻
同 平田憲人
同 二神拓也
同 藏田彩香


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、別紙著作物目録記載の画像(以下「本件イラスト画像」という。)の著作権者であると主張する原告が、ツイッター(インターネットを利用してツイートと呼ばれる140文字以内のメッセージ等を投稿することができる情報ネットワーク)のウェブサイトに別紙投稿記事目録記載の各投稿(以下、当該各投稿を「本件投稿1」ないし「本件投稿6」といい、併せて「本件各投稿」という。)をされた行為(以下、本件各投稿をした者を「本件投稿者」という。)により、本件イラスト画像に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)、名誉権及び名誉感情を侵害されたとして、被告に対し、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実をいう。なお、証拠を摘示する場合には、特に記載のない限り、枝番を含むものとする。)
(1)当事者
ア 原告は、「X1X´(X)」というアカウント名のツイッターのアカウントを有する医師であり、本件イラスト画像の著作権者である。当該アカウントのプロフィール画像には、本件イラスト画像が使用されている。(甲2)
イ 被告は、電気通信事業を目的とする株式会社であり、プロバイダ責任制限法2条3号の特定電気通信役務提供者に該当する。
(2)本件各投稿
 本件投稿者は、ツイッターにおいて、「尻穴まで洗う救急医Baka」というアカウント名のアカウント(以下「本件アカウント」という。)を開設し、本件イラスト画像をプロフィール画像(以下、当該画像を単に「プロフィール画像」という。)に設定した上(本件投稿1)、令和2年12月28日から令和3年1月16日までの間、本件投稿2ないし6をした(甲3ないし8)。
(3)ツイッター社からのIPアドレスの開示
ア 原告は、ツイッターインク社(以下「ツイッター社」という。)を相手方として、令和2年12月1日正午(日本標準時)以降仮処分決定が相手方に送達された日の正午時点までに本件アカウントにログインがあった際のIPアドレス及びタイムスタンプ(ただし、ツイッター社が保有するものに限る。)の開示を求めて、仮の開示を求める仮処分命令を東京地方裁判所に申し立てた。
 これに対し、同裁判所は、令和3年2月15日、原告の申立てを認容する旨の仮処分決定をした。(甲9)
イ ツイッター社は、令和3年3月8日頃、上記仮処分決定に基づき、原告に対し、令和2年12月23日から令和3年1月27日までの間に本件アカウントにログインがあった際のIPアドレス及びタイムスタンプを開示した。
 なお、別紙IPアドレス目録記載の接続元IPアドレス及びタイムスタンプ(ログイン日時)は、ツイッター社から開示されたIPアドレス及びタイムスタンプの一部である(以下、上記IPアドレスを「本件IPアドレス」といい、上記タイムスタンプと併せて「本件IPアドレス等」という。)。(甲10、18)
ウ 本件IPアドレスは、被告が保有するものである(甲11)。
(4)ツイッターの仕組み
 ツイッターを利用するには、まず、氏名、電話番号又はメールアドレスの登録及びパスワードの設定をしてアカウントを作成する必要があり、また、自己のアカウントで投稿するには、当該アカウントにログインする必要がある(弁論の全趣旨)。
3 争点
(1)プロバイダ責任制限法4条1項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」該当性(争点1)
(2)権利侵害の明白性(争点2)
ア 本件各投稿による著作権侵害の明白性(争点2−1)
イ 本件投稿2ないし6による名誉感情侵害の明白性(争点2−2)
ウ 本件投稿4による名誉権侵害の明白性(争点2−3)
(3)正当な理由の有無(争点3)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(プロバイダ責任制限法4条1項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」該当性)
(原告の主張)
 プロバイダ責任制限法4条1項は、「権利の侵害に係る発信者情報」と規定し、権利侵害と発信者情報の関係につき、やや幅のある表現ぶりを採用していることからすると、「権利の侵害に係る発信者情報」とは、侵害情報が発信された際に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報に限定されることなく、権利侵害との結びつきがあり又は権利侵害者の特定に資する通信から把握される発信者情報を含むものと解すべきである。
 そして、同項の趣旨は、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシーや表現の自由等に配慮した厳格な要件の下で、特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解される。そうすると、侵害情報そのものの送信時点ではなく、その前後に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報であっても、それが当該侵害情報の発信者のものと認められる場合には、当該発信者のプライバシー、通信の秘密等の保護の必要性の程度に比べ、被害者の権利の救済を図るため、開示される必要性がより高いというべきである。
 のみならず、ツイッターは、アカウント及びパスワードを入力してログインをしなければ利用できないサービスであること、本件アカウントは本件イラスト画像をプロフィール画像に使用して原告に対する誹謗中傷を繰り返すものであり、原告に悪意のある特定の個人によって開設・投稿されたものであること、ツイッター社から開示された期間においても毎日本件アカウントへのログインがされていること、現に令和2年12月26日から令和3年1月17日までの間に合計97回、本件アカウントへのログインが行われているところ、そのうち96回は被告が保有するIPアドレスによるものであること、以上の事実によれば、別紙IPアドレス目録記載の各IPアドレス及び各タイムスタンプにより特定されるツイッターへのログイン(以下、これらのログインを「本件各ログイン」という。)をした者と本件投稿者とは、同一人物である。
 以上によれば、侵害情報の送信の前後に割り当てられたIPアドレスから把握される発信者情報であっても、それが侵害情報の発信者のものと認められる場合には、「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するというべきであるから、本件発信者情報は、「権利の侵害に係る発信者情報」に当たる。
(被告の主張)
 原告は、本件各投稿そのものが行われた際の通信ではなく、本件各ログインが行われた際の通信に係る発信者情報の開示を求めている。しかしながら、そのような通信記録は権利侵害情報を投稿した通信そのものではなく、「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するものではない。
 仮に、一般論として、ログイン情報が「当該権利の侵害に係る発信者情報」に含まれる余地があるとしても、本件各ログインは、いずれも本件各投稿が行われた日時から数時間、場合によっては数日離れたものが大半を占めており、特に、本件投稿1に関しては、投稿日時が「2020年12月」と年月の記載しかなく、日時が全く明らかではない。
 そうすると、これらの情報が侵害情報に「係る」情報に該当するとはいい難く、本件発信者情報は「当該権利の侵害に係る発信者情報」に該当するものとはいえない。
2 争点2−1(本件各投稿による著作権侵害の明白性)
(原告の主張)
 本件イラスト画像は、原告が制作を依頼したクリエーターが原告の肖像写真を基礎に創作性的表現を加えて作成したものであり、著作物であることは明らかである。
 そして、原告は、上記クリエーターから、本件イラスト画像の納品と共に当該著作権を譲り受けたから、原告が本件イラスト画像の著作権者である。それにもかかわらず、本件投稿者は、本件各投稿に際して、原告の承諾なく本件イラスト画像と全く同一の画像をツイッター上に投稿したのであるから、当該行為が本件イラスト画像に係る原告の複製権及び公衆送信権を侵害することが明らかである。
(被告の主張)
 本件イラスト画像は、原告の肖像写真をイラスト化したものであるところ、既存の肖像写真にはない創作的表現が付加されているかは明らかではないため、本件各投稿が本件イラスト画像に係る原告の著作権を侵害するかについては疑義がある。なお、原告がクリエーターから著作権を譲り受けたことを裏付ける証拠は提出されていない。
 また、本件投稿2ないし6については、本件投稿者が投稿をしたのは別紙投稿記事目録記載の各投稿内容のみであって、本件イラスト画像は、プロフィール画像として、ツイッターの仕様上自動で表示されるものであるから、本件投稿者により本件イラスト画像が公衆送信されたということはできない。
 そして、本件投稿2ないし6におけるプロフィール画像は、本件イラスト画像をサムネイルとして表示しているものであり、そのサムネイルは、非常に小さく縮小表示されており解像度も粗いことからすれば、仮に本件イラスト画像が著作物であるとしても、当該サムネイルから、本件イラスト画像の著作物としての本質的特徴部分を直接感得することはできないから、本件イラスト画像を複製又は公衆送信したものとはいえない。
3 争点2−2(本件投稿2ないし6による名誉感情侵害の明白性)
(原告の主張)
 本件投稿2ないし6は、原告のアカウント名をもじったアカウント名を使用し、本件イラスト画像をプロフィール画像に設定して投稿されている以上、その内容は、原告を対象とするものであることは明らかである。
 そして、本件投稿2ないし6は、投稿者の単なる意見・感想ではなく、品性に欠ける卑猥な表現で原告を馬鹿にするものであって、原告の人格・人間性を殊更に否定するものであるから、社会通念上許される限度を超えて原告を侮辱するものである。
(被告の主張)
 本件投稿2ないし6には原告の氏名は記載されていないから、一般人の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件投稿2ないし6の内容が原告を対象とするものであるとはいい難い。
 そして、本件投稿2ないし6は、抽象的に投稿者の意見・感想を述べるものであり、一般人の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件投稿2ないし6の内容が直ちに原告の社会的評価を低下させるとはいい難い。
4 争点2−3(本件投稿4による名誉権侵害の明白性)
(原告の主張)
 本件投稿4は、「感染対策は恐らく大勢に影響を与えないでしょう。何故、インフルエンザは特段の追加的対策なくして収束したのか説明できますか!?貴女が何をしようが、しまいが関係ありません」という記載は、医師であり公衆衛生の専門家でもある原告になりすまして、科学的根拠のない新型コロナウイルスに関する医療情報を流布するものであり、一般の閲覧者をして、原告がそのような科学的根拠のない医療情報を流布する医師であるとの印象を与え、原告の社会的評価を低下させるものであり、原告の名誉権を侵害するものである。
(被告の主張)
 本件投稿4には原告の氏名は記載されていないから、一般人の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件投稿4の内容が原告を対象とするものであるとはいい難い。また、本件投稿4は、インフルエンザ等の感染症対策が記載されているにすぎず、一般人の普通の注意と読み方を基準とすれば、本件投稿4の内容が直ちに原告の社会的評価を低下させるともいい難い。
5 争点3(正当な理由の有無)について
(原告の主張)
 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条1項の発信者情報を定める省令(以下、単に「省令」という。)は、開示請求の対象とすべき情報の範囲として、氏名又は名称、住所と、電子メールアドレス及び電話番号を並列して掲げており、これらが択一的な関係にあるとは解されない。実質的にも、登録された住所が誤っていた場合には、電子メールや電話番号が唯一の連絡手段となる可能性もあるし、訴訟の提起に先立って電子メールや電話番号を利用して裁判外で任意の履行請求をしたりすることも考えられる。そうすると、本件投稿者に対する損害賠償請求権を行使するには、電子メールアドレス及び電話番号を含め、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があるから、原告には、被告から本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある。
(被告の主張)
 発信者情報開示請求が認められるためには、プロバイダ責任制限法4条1項2号に規定する「当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとき」という要件を充足する必要があるところ、氏名又は名称及び住所の開示を受けることができる場合には、それだけで損害賠償請求権の行使が可能であるといえるから、電子メールアドレス及び電話番号の各情報まで開示する必要はない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(プロバイダ責任制限法4条1項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」該当性)について
(1)認定事実
 前記前提事実、証拠(後掲証拠のほか、甲20)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア ツイッターの利用者がツイート等の投稿を行うには、事前にアカウントを登録した上、ユーザー名、パスワード等を入力し、当該アカウントにログインすることが必要である。そのため、上記アカウントの使用者は、基本的にはアカウントにログインした者となる。
イ 本件アカウントは、ユーザー名を「尻穴まで洗う救急医Baka」とするものであり、「X1X´」というアカウント名を使用する原告を揶揄するものといえるから、本件各投稿は、特定の個人が特定の意思を持って継続的に投稿したものであると認められる(甲3〜8)。
ウ ツイッター社により開示された本件IPアドレス等の使用期間(令和2年12月23日から令和3年1月27日まで)においても、本件アカウントは、昼夜を問わず頻繁にログインされるなど、継続的に使用されており、上記期間のほとんどのログインが、被告保有に係るIPアドレスによるものである(甲10、18)。
(2)「権利の侵害に係る発信者情報」該当性
 上記認定事実によれば、本件アカウントにログインした者が本件各投稿をすることによって、下記2において説示するとおり、原告の権利を侵害したものと認めるのが相当である。そうすると、ログインに関する本件発信者情報は、上記侵害の行為をした発信者を特定する情報であるといえるから、「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するものと認めるのが相当である。
 これに対し、被告は、本件発信者情報が本件アカウントにログインした者の情報にすぎず、本件各投稿を行った本件発信者の情報ではないことからすると、本件発信者情報は「権利の侵害に係る発信者情報」に該当しないと主張する。
 しかしながら、本件発信者情報は本件各投稿を行った本件発信者の情報であるといえることは、上記において説示したとおりであり、被告の主張は、その前提を欠く。のみならず、プロバイダ責任制限法4条の趣旨は、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにある(最高裁平成21年(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁参照)。そうすると、アカウントにログインした者が、権利の侵害に係る情報を送信したものと認められる場合には、侵害情報の送信時点ではなく、アカウントにログインした時点における発信者情報であっても、「権利の侵害に係る発信者情報」に該当するものと認めるのが相当である。そうすると、被告の主張は、上記判断を左右するに至らない。
 したがって、被告の主張は、採用することができない。
2 争点2(権利侵害の明白性)について
(1)争点2−1(本件各投稿による著作権侵害の明白性)について
ア 認定事実
 証拠(甲3ないし8、甲20)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件投稿者に本件イラスト画像の使用を許諾したことはないこと、本件イラスト画像は、本件投稿1に使用されているほか、本件投稿2ないし6にも各投稿の冒頭部分に使用されていること、本件イラスト画像は、原告の肖像写真をクリエーターに依頼してイラストにしたものであるところ、原告は、クリエーターから本件イラスト画像の著作権を譲渡されたこと、本件イラスト画像は、肖像写真を全体的にデフォルメした上、背景色や肌の色を修正して、肖像写真からうかがわれる人物の特徴を更に強調して具体的に表現していること、以上の事実が認められる。
 上記認定事実によれば、本件イラスト画像は、原告の肖像写真からうかがわれる人物の特徴を更に強調して具体的に表現していることからすると、それ自体の創作的表現部分を認めるのが相当である。そうすると、本件各投稿は、本件イラスト画像に係る創作的表現部分を有形的に再生し又は公衆送信するものであるから、本件イラスト画像に係る複製権及び公衆送信権が侵害されたことは明らかである。
イ これに対し、被告は、@原告は本件イラスト画像の著作権者とはいえない、A本件イラスト画像には肖像写真以外の創作的表現部分はない、Bプロフィール画像は、投稿に伴い自動的に表示されるものであり、本件投稿者により公衆送信されたものではない、C本件投稿2ないし6におけるプロフィール画像はサイズが小さく、解像度も粗いことから、プロフィール画像からは本件イラスト画像の本質的特徴部分を感得することができないなどと主張する。しかしながら、@については、前記認定事実によれば、原告は、クリエーターから本件イラスト画像の著作権を譲渡されたことが認められ、被告の主張は、前提を欠く。そして、A及びCについては、本件イラスト画像自体にも創作的表現部分があるものと認めるのが相当であることは、上記において説示したとおりである。また、証拠(甲2ないし8)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿2ないし6におけるプロフィール画像によっても本件イラスト画像の上記創作的表現部分が有形的に再製されたものと認めるのが相当である。そうすると、被告の主張は、上記判断を左右するに至らない。
 さらに、Bについては、ツイッターの利用者は、ツイッターの仕様上、投稿に伴い自らのプロフィール画像が表示されることは当然認識しているものというべきであるから、本件投稿者は、上記認識の下において敢えて本件イラスト画像を公衆送信したものと認めるのが相当であって、その責を免れるものではない。
 したがって、被告の主張は、いずれも採用することができない。
(2)争点2−2(本件投稿2ないし6による名誉感情侵害の明白性)について
ア 認定事実
 前記前提事実、証拠(後掲証拠のほか、甲20)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア)本件投稿2ないし6は、原告のアカウント名を揶揄した「尻穴まで洗う救急医Baka」というアカウント名を使用する本件アカウントにおいて、各投稿の冒頭部分において本件イラスト画像をプロフィール画像として表示するものである(甲3ないし8)。
(イ)本件投稿2は、新型コロナウイルス感染症対策に関する私見を述べた原告の投稿に対し、第三者が「この1年間で「高みの見物」を極めた男」という投稿したことを受け、本件アカウントにおいて、同投稿を引用し、原告について「この人のキモさを表現することは不可能です。」とツイートするものである(甲4)。
(ウ)本件投稿3は、本件アカウントにおいて、「こちらのアイコンは、尻穴と尿道を同時に攻め、恍惚の表情を浮かべているわたくしを示しています。」とツイートするものである(甲5)。
(エ)本件投稿4は、本件アカウントにおいて、「イケメン尻穴tweet」とツイートするものである(甲6)。
(オ)本件投稿5は、本件アカウントにおいて、「バカ女うけする池麺アイコン救急医」というものである(甲7)。
(カ)本件投稿6は、本件アカウントにおいて、「この@Baka以下省略というアカウントは、X´先生@以下省略のなりすましでは?」という投稿に対する返信として、「当方は尻穴まで丁寧に洗い、恍惚の表情を浮かべているに過ぎません。」とツイートするものである(甲8)。
イ 名誉感情侵害の明白性
 ある者の名誉感情を損なう行為は、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であるといえる場合に、上記の者の人格的価値を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である(最高裁平成21年(受)第609号同22年4月13日第三小法廷判決・民集64巻3号758頁参照)。
 これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件投稿2ないし6は、いずれも冒頭部分に本件イラスト画像をプロフィール画像とし、アカウント名を「尻穴まで洗う救急医Baka」として、「X1X´」というアカウント名を使用する原告を明らかに揶揄するものである。
 そうすると、本件投稿2ないし6に原告の氏名が記載されていないとしても、いずれも原告を対象とするものであることは明らかである。そして、前記認定事実によれば、本件投稿2ないし6の内容は、卑猥な表現を用いて原告を揶揄するものであることからすると、意見ないし論評としての域を逸脱するものであって、明らかに人格攻撃に及ぶものであるといえる。そうすると、本件投稿2ないし6をする行為が、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることは明らかである。
 したがって、本件投稿2ないし6をする行為は、原告の名誉感情を侵害するものとして、不法行為法上違法となることが明らかであるといえる。
(3)争点2−3(本件投稿4による名誉権侵害の明白性)
ア 認定事実
 証拠(甲6)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿4は、本件イラスト画像をプロフィール画像として利用するとともに、原告のアカウント名を揶揄した「尻穴まで洗う救急医Baka」というアカウント名を使用する本件アカウントにおいて、「イケメン尻穴tweet」、「感染対策は恐らく大勢に影響を与えないでしょう。何故、インフルエンザは特段の追加的対策なくして収束したのか説明できますか!?」とツイートするものであることが認められる(甲6)。
イ 名誉権侵害の明白性
 新聞記事等の報道の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであり(新聞報道に関する最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)、ツイッターにおいてツイートされた内容が人の社会的評価を低下させるか否かについても、同様に、一般の閲覧者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきである。
 これを本件についてみると、上記認定事実によれば、本件投稿4は、本件イラスト画像をプロフィール画像として利用するとともに、原告のアカウント名を揶揄した「尻穴まで洗う救急医Baka」というアカウント名を使用する本件アカウントにおいて、ツイートされたものであることが認められることからすると、一般の利用者の普通の注意と読み方とを基準とすれば、本件アカウントが原告のなりすましであって、原告とは別人によるものであることは明らかであるといえる。
 そうすると、一般の閲覧者において、本件投稿4が原告本人のツイートであると理解されるおそれはないということができるから、本件投稿4は、原告の社会的名誉自体を毀損するものとまで認めることはできない。
ウ これに対し、原告は、本件投稿4につき、原告が科学的根拠のない医療情報を流布する医師であるとの印象を一般の閲覧者に与えるものであるから、原告の社会的評価を低下させ、名誉毀損に当たる旨主張する。しかしながら、上記において説示したとおり、本件アカウントが原告のなりすましであることは明らかであるから、本件投稿4が本人のツイートであると理解されるおそれはなく、原告自身の社会的評価を低下させるものとはいえない。
 したがって、原告の主張は、採用することができない。
(4)その他
 当事者双方提出に係る証拠及び弁論の全趣旨によっても、侵害行為の違法性を阻却する事由が存在することをうかがわせる事情を認めることはできない。
 その他に、当事者双方提出に係る準備書面及び証拠を改めて検討しても、原告及び被告の主張は、前記判断を左右するものとはいえない。原告及び被告の主張は、いずれも採用することができない。
3 争点3(正当な理由の有無)について
 弁論の全趣旨によれば、原告は、本件投稿者に対し、損害賠償等を請求することを予定していることが認められる。そうすると、上記2において説示したところを踏まえると、原告には本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるものといえる。したがって、原告は、被告に対し、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求めることができる。
 これに対し、被告は、氏名又は名称及び住所の開示のほかに、メールアドレスや電話番号の各情報の開示は不要であるから、少なくとも当該開示については正当な理由がない旨主張する。しかしながら、省令は、上記各情報も侵害情報の発信者の特定に資する情報として規定しているほか(第3号及び4号)、実質的にも損害賠償請求権を行使する際に電話番号や電子メールアドレスが開示されていれば、当該請求権の行使が円滑となるといえるから、被告の主張は、上記判断を左右するに至らない。
 したがって、被告の主張は、採用することができない。
4 結論
 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 中島基至
 裁判官 吉野太郎
 裁判官 小田誉太郎


(別紙)発信者情報目録
 別紙IPアドレス目録記載の各ログイン日時に同目録記載の接続元IPアドレスを割り当てられた電気通信設備から同目録記載の接続先IPアドレスのいずれかに対して通信を行った電気通信設備の同各日時における契約者に関する情報であって、次に掲げるもの。
@ 氏名又は名称
A 住所
B 電話番号
C 電子メールアドレス

(別紙)著作物目録
●(画像は省略)●

(別紙)投稿記事目録

閲覧用URL https://以下省略
投稿日時 2020年12月
投稿画像 (画像は省略)

閲覧用URL https://twitter.com/Baka以下省略
投稿日時 2020年12月28日午後7時59分
投稿内容 返信先:@A(URLは省略)さん
この人のキモさを表現することは不可能です

閲覧用URL https://twitter.com/Baka以下省略
投稿日時 2020年12月28日午後9時42分
投稿内容 返信先:@A(URLは省略)さん,@B(URLは省略)さん
こちらのアイコンは、尻穴と尿道を同時に攻め、恍惚の表情を浮かべているわたくしを示しています。
その様な性癖ご趣味があると主張されている方が他にいらっしゃられるとは到底思えませんが,,

閲覧用URL https://twitter.com/Baka以下省略
投稿日時 2021年1月8日午前11時45分
投稿内容 全国の痴事を震撼させるイケメン尻穴tweetで誠に恐縮ですが,感染対策は恐らく大勢に影響を与えないでしょう。
何故,インフルエンザは特段の追加的対策なくして収束したのか説明できますか!?

貴女が何をしようが,しまいが関係ありません

閲覧用URL https://twitter.com/Baka以下省略
投稿日時 2021年1月10日午後4時04分
投稿内容 医学ポエマー炎上 医療関係者をヨイショして記者してきたが,科学的,社会的に中身がなく,市民からも猛反発を喰らふ,ゆゆしき有り様
コロナ脳業界は、エロ医師うけする熟女痴事,バカ女うけする池麺アイコン救急医の2強時代突入か

閲覧用URL https://twitter.com/Baka以下省略
投稿日時 2021年1月16日午後11時03分
投稿内容 当方は尻穴まで丁寧に洗い,恍惚の表情を浮かべているに過ぎません
X´だかNandaka知りませんが同様の主張をされていらっしゃるのですか?具体的事実に基づかない関係性を見いださないでください
迷惑なのでブロックします

【引用ツイート】
C(URLは省略)・1月16日
この@Baka 以下省略 というアカウントは、X´先生@ 以下省略 のなりすましでは?通報しました。

(別紙)アドレス目録
●(IPアドレス目録は省略)●
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/