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【事件名】ソネットへの発信者情報開示請求事件J
【年月日】令和3年10月14日
 東京地裁 令和3年(ワ)第16415号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年9月2日)

判決
原告 株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ
原告 エイベックス・エンタテインメント株式会社
上記2名訴訟代理人弁護士 林幸平
同 笠島祐輝
同 尋木浩司
同 前田哲男
同 福田祐実
被告 ソニーネットワークコミュニケーションズ株式会社
同訴訟代理人弁護士 田野口瑛
同 横山経通


主文
1 被告は、原告株式会社ソニー・ミュージックレーベルズに対し、別紙発信者情報目録記載1の各情報を開示せよ。
2 被告は、原告エイベックス・エンタテインメント株式会社に対し、別紙発信者情報目録記載2の各情報を開示せよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
 本件は、レコード製作会社である原告らが、電気通信事業等を営む被告に対し、氏名不詳者が、被告の提供するインターネット接続サービスを経由したファイル交換ソフトウェアの使用によって、原告らがレコード製作者の権利を有するレコードの送信可能化権(著作権法96条の2)を侵害されたことが明らかである旨を主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づき、別紙発信者情報目録記載1及び2の各情報(以下「本件各発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
1 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記した証拠(枝番のあるものはそれらを含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
 原告らは、いずれも、レコードを製作してこれを複製してCD等として販売している株式会社である。
 被告は、インターネット接続プロバイダ事業等を目的とする株式会社である。
(2)原告らのレコードに係る送信可能化権
ア 原告株式会社ソニー・ミュージックレーベルズ(以下「原告ソニー」という。)は、実演家Aが歌唱する楽曲を録音したレコードを製作し、令和2年11月25日、「LOSTINPARADISEfeat.B」との名称の商業用音楽CD(以下「本件レコード1」という。)を日本全国で発売した(甲3)。
 原告ソニーは、本件レコード1について、レコード製作者としての送信可能化権を有する。
イ 原告エイベックス・エンタテインメント株式会社(以下「原告エイベックス」という。)は、実演家Cが歌唱する楽曲を録音したレコードを製作し、令和2年9月30日、「仮面ライダーゼロワン主題歌&挿入歌ベストソングコレクション」との名称の商業用音楽CD(以下「本件レコード2」といい、本件レコード1と併せて「本件各レコード」という。)を日本全国で発売した(甲7)。
 原告エイベックスは、本件レコード2について、レコード製作者としての送信可能化権を有する。
(3)本件各レコードを複製したファイルのインターネット上での公開
ア 原告ソニーは、令和3年3月頃、BitTorrentネットワークを介して公開されるファイルの流通量等を監視するためのシステムである「P2PFINDER」(以下「本件システム」という。)を提供している株式会社Dの担当者から、本件システムを使用して調査した結果、本件レコード1を複製したファイルがBitTorrentネットワークを介して公開されていること、上記ファイルの公開は、別紙発信者情報目録記載1の日時頃に同記載のインターネットプロトコルアドレス(以下「IPアドレス」という。)を使用してインターネットに接続してされたことが判明したとの報告を受けた(甲2、3)。
イ 原告エイベックスは、同月頃、本件システムを提供している上記会社の担当者から、本件システムを使用して調査した結果、本件レコード2を複製したファイルがBitTorrentネットワークを介して公開されていること、上記ファイルの公開は、別紙発信者情報目録記載2の日時頃に同記載のIPアドレスを使用してインターネットに接続してされたことが判明したとの報告を受けた(甲6、7)。
(4)被告による本件各発信者情報の保有
 被告は、本件各発信者情報を保有している。
2 争点
(1)原告らの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるといえるか(争点1)
(2)被告は本件各発信者情報に関して開示関係役務提供者に当たるか(争点2)
(3)原告らに発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点3)
3 争点に対する当事者の主張
(1)争点1(原告らの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるといえるか)及び争点2(被告は本件各発信者情報に関して開示関係役務提供者に当たるか)
〔原告らの主張〕
 氏名不詳者らは、それぞれ、別紙発信者情報目録記載1及び2の各日時頃、被告が提供するインターネット接続サービスを利用して、被告から同目録1及び2の各IPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、ファイル交換ソフトウェアであるBitTorrentを用いて、本件各レコードにつき、これらを複製したファイルを、不特定多数の者がダウンロードし得る状態とし、もって、原告らがそれぞれ有する本件各レコードについて有する送信可能化権を侵害した。
 上記各送信可能化行為について、著作隣接権の権利制限事由(著作権法102条。同条1項が準用する同法30条以下を含む。)は存在しないため、原告らがそれぞれ本件各レコードについて有する送信可能化権が侵害されたことは明らかであり、被告は、本件各レコードの送信可能化権侵害との関係において、開示関係役務提供者(法4条1項)に当たる。
〔被告の主張〕
 争う。
 原告らは、本件システムを利用した調査結果を受けて別紙発信者情報目録記載1及び2の各IPアドレスを特定しているが、本件システムの技術的な信用性には疑義がある。
 したがって、別紙発信者情報目録記載1及び2のIPアドレスによるインターネットの接続によって、原告らの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるとはいえず、被告が開示関係役務提供者に当たるとはいえない。
(2)争点3(原告らに発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)
〔原告らの主張〕
 原告らは、それぞれ、本件各レコードについて有する送信可能化権に基づき、氏名不詳者に対して損害賠償請求及び差止請求を行う必要があるところ、氏名不詳者の氏名、住所等が不明であるため、本件各発信者情報の開示を求めるものであり、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当理由がある。
〔被告の主張〕
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告らの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるといえるか)及び2(被告は本件各発信者情報に関して開示関係役務提供者に当たるか)について
(1)証拠(甲2、3、6、7)及び弁論の全趣旨によれば、氏名不詳者が、別紙発信者情報目録記載1及び2の各日時頃、被告のインターネット接続サービスを利用し、同目録記載1及び2の各IPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、ファイル交換ソフトウェアであるBitTorrentを用いて、本件各レコードを複製したファイルを不特定多数の者からの求めに応じて自動的に送信し得る状態に置いたことが認められ、本件全証拠をみても、原告らにより本件各レコードの使用許諾がされたことや著作隣接権の権利制限事由その他の違法性阻却事由の存在をうかがわせる事実は認められない。
 被告は、本件システムの技術的信用性に疑義があると主張するが、証拠(甲9)によれば、本件システムは、専門的有識者を含んだ構成員で構成されているプロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会の発信者情報開示関係ワーキンググループ技術部会による認定審査を受けていることが認められる上、本件全証拠をみても、本件システムの技術的信用性を疑わせる事情は見当たらず、被告の上記主張は採用することができない。
(2)以上によれば、被告が提供するインターネット接続サービスを利用した氏名不詳者による上記各行為により、原告らが有する本件各レコードの送信可能化権が侵害されたことが明らかであるといえ、本件各発信者情報は各権利侵害に係る発信者情報に該当し、被告は、開示関係役務提供者に当たるものといえる。
2 争点3(原告らに発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)について
 原告らが氏名不詳者に対して本件各レコードに係る送信可能化権侵害を理由とする損害賠償請求又は差止請求等をするためには、本件各発信者情報の開示が必要であると認められる。
 したがって、原告らには、本件各発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があると認められる。
第4 結論
 よって、原告らの請求は、いずれも理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 田中孝一
 裁判官 小口五大
 裁判官 鈴木美智子


(別紙)発信者情報目録
1 令和2年(2020年)12月23日8時53分2秒ころに「27.94.142.214」というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名(または名称)、住所及び電子メールアドレス
2 令和2年(2020年)12月23日4時30分4秒ころに「113.153.226.144」というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名(または名称)、住所及び電子メールアドレス
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