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【事件名】フリー素材の“CCライセンス”事件
【年月日】令和3年10月12日
 東京地裁 令和3年(ワ)第5285号 著作権侵害差止等請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年8月10日)

判決
原告 X
原告訴訟代理人弁護士 山本隆司
被告 株式会社アゴラ研究所


主文
1 被告は、原告に対し、5万円及びこれに対する平成28年10月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は7分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。
5 原告について、この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告に対し、36万0793円およびこれに対する平成28年10月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 仮執行宣言
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 本件は、原告が、著作者名等を表示すること等を条件に無償での利用を許諾するライセンスを付して自身が撮影した写真を写真共有サイトに投稿したところ、被告が、原告の氏名等を表示せずに自身の運営するウェブサイトに掲載したことについて、不法行為に基づく損害賠償として、複製権及び公衆送信権侵害によるライセンス料相当額、氏名表示権侵害による慰謝料及び弁護士費用並びに不法行為の日以降の日である、平成28年10月30日から支払済みまでの平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠(明示しない限り枝番号を含む。以下同じ。)及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1)ア 原告は、スウェーデン王国の写真家である。(争いなし)
イ 被告は、起業家養成セミナーの運営・開催及びコンルティング等を目的とする旨登記されている株式会社である。(弁論の全趣旨)
(2)原告は、平成26年12月15日、別紙「著作物目録」記載の写真(以下「本件写真」という)を撮影した。本件写真は、日本の一万円紙幣と千円紙幣を表向きや裏向きなどを入り混ぜながら重ねて置き、その状態を上から撮影したものである。本件写真は、構図、レンズ・カメラの選択、アングル、シャッターチャンス、シャッタースピード・絞りの選択、ライティング、構図・トリミング等により、原告の思想・感情を創作的に表現しており、写真の著作物に該当する。原告は、本件写真の著作者、著作権者である。(甲1)
(3)原告は、平成26年12月、本件写真を、写真投稿サイトであるFlickrという名称の写真投稿サイトで公開した。その際、本件写真について、タイトルが「A」(以下「本件タイトル」という。)であること、著作者が「X‘」(以下「本件著作者名」という。)であることが表示されるとともに、著作権者としての一部の権利を留保することを意味する「Somerightsreserved」の文言及びクリエイティブコモンズライセンス(作品を公開する著作者が条件付きで作品の再利用を許可するにあたって容易にその意思を表示できるようにクリエイティブコモンズが策定した条件付き利用許諾の類型。以下、「CCライセンス」ということがある。)で定めている利用許諾条件のうちの一つの利用許諾条件を意味するロゴが表示された。そのロゴをクリック等することにより、本件写真の利用条件が、著作者のクレジット(氏名、作品タイトルなど)を表示し、写真を改変した場合には元の作品と同じCCライセンスで公開することを主な条件として営利目的での二次利用も許可されるというものであること(以下、この内容の利用許諾条件を「BY−SAライセンス」ということがある。)を知ることができた。本件写真がBY−SAライセンスによりその利用が許諾されたものであることは当事者間に争いがない。(甲1、10、弁論の全趣旨)
(4)被告は、平成28年10月30日までに、別紙被告写真目録1及び被告写真目録2の写真(以下、それぞれ「被告写真1」、「被告写真2」といい、両写真を併せて「被告写真」という。)を本件写真に基づいて複製し、それぞれ、上記目録の「複製先:」に続くURL(以下、それぞれ「本件URL1」、「本件URL2」という。)において被告写真1及び被告写真2が表示されるように被告写真を対応するサーバーに記録して、これを送信可能にし、被告写真1及び被告写真2を公衆送信した。その際に、本件タイトル及び本件著作者名が表示される措置は執られず、被告写真1及び被告写真2が公衆送信された際に本件タイトル及び本件著作者名が表示されることはなかった。
 また、被告は、平成28年10月30日までに、自身が運営するウェブサイト「B」((URL記載省略)。以下「本件ウェブサイト」という。)において「C」というタイトルの記事(以下「本件記事」という。)を公開した。被告は、本件ウェブサイトで掲載している記事を紹介するために、本件ウェブサイトのトップページ等で各記事のタイトル等を一覧で表示し、各記事へのリンクを設定しており、これらのタイトルの横には記事に関連し得る画像(アイキャッチ)を表示させている。被告は、本件記事に係るアイキャッチとして被告写真1が表示されるようリンクを設定した。本件記事のタイトルの横に被告写真1がアイキャッチとして表示される際に本件タイトル及び本件著作者名が表示される措置は執られず、本件記事のタイトルの横に被告写真1が表示された際には、本件タイトル及び本件著作者名は表示されなかった。
 被告は、令和3年1月28日には、被告写真1及び2を閲覧等できなくなるようにした。(甲3、弁論の全趣旨)
3 争点
(1)被告に対する損害賠償請求権の存否(争点1)
(原告の主張)
 被告は、被告写真を利用するに当たって、BY−SAライセンスに基づく利用許諾条件である、本件著作者名及び本件タイトルの表示を怠った。被告は利用許諾を受けずに本件写真の複製、公衆送信をしたといえるから、原告の複製権、公衆送信権を侵害している。また、上記のとおり本件著作者名の掲載を怠ったことにより原告の氏名表示権も侵害している。よって、不法行為が成立し、原告の被告に対する損害賠償請求権が発生している。
 CCライセンスは、対象著作物につき、定められた条件に従う限り自由に複製、公衆送信等を行うことを許諾するものであり、同条件に違反すれば利用許諾は受けていないことになり、権利侵害が成立する。
 CCライセンスに係る規定にも、非営利を意味するNCライセンスが付されていない場合には、損害賠償の請求ができなくなるとの記載は一切なく、そのような慣行もない。
 被告は、他人の著作物利用につき、著作権等を侵害しないようにする注意義務があったにもかかわらず、著作権者である原告の許諾を得ようともせず、著作権法上の権利制限規定の適用の有無も検討しなかったのであるから、権利侵害につき少なくとも過失がある。被告は、小さな画像をアイキャッチとして用いたため、クレジットを入れるスペースがなかったから故意、過失がなかったと主張するが、被告には本件写真を利用しないという選択肢もあったのであるから、適切なクレジットを入れなくとも本件写真を使用できることになるわけではない。
(被告の主張)
 本件写真は、無料の写真投稿サイトで公開されたものであり、複製、公衆送信は自由である。本件写真にはBY−SAライセンスが付与されており、原告から個別の利用許諾を得る必要はない。
 CCライセンスは、利用料を支払わずに作品を利用できるようにするためのライセンスであり、ライセンス料の規定はなく、ライセンス料は発生せず、権利者は金銭を請求することはできない。BY−SAライセンスを付した権利者が違反行為に対して請求できるのは利用の差止めのみである。
 原告は、商用利用を禁止するNCライセンスを付さずにBY−SAライセンスを付したのであるから、利用料の請求権を放棄したものである。
 これまでに世界的にもBY−SAライセンスで損害賠償を認めた例はなく、仮に認めると波及効が大きい。
 また、被告写真は、アイキャッチとして利用するために小さな画像で表示されたのであり、クレジットを入れるスペースがなかったのであるから、被告には故意も過失もない。
(2)損害額(争点2)
(原告の主張)
 原告は、自身の写真を営利目的で使用することを許諾する場合、欧米で広く利用されているfotoQuoteソフトの料金表に従ってライセンス料を課しており、同ライセンス料が、著作権法114条3項に基づき、原告の著作権の行使につき受けるべき金銭である。fotoQuoteソフトを用いて、日本語による日本市場向けのウェブ広告(WebAdNationalMarket)、160×100及び1024×683ピクセルの大きさで、5年以内の期間を条件に計算すると、ライセンス料は2405米ドルとなる。同額を令和3年1月28日の1米ドル104.28円のレートで換算すると、ライセンス料は25万0793円となる。
 また、原告は、被告による氏名表示権侵害により、5万円相当の精神的損害を被った。
 弁護士費用相当損害金は上記の合計額の約20%である6万円が相当である。
 よって、損害合計額は36万0793円になる。
(被告の主張)
 原告の主張は争う。原告が主張するfotoQuoteソフトに基づくライセンス料の請求には法的根拠がない。
 被告によるCCライセンス違反は、氏名を表示しなかったことのみである。被告が利用したのは、携帯端末では1×2cm程度の小さなアイキャッチであり、名前を表示するとしても、1mm角程度で表示することになる。これに関する著作権法114条3項所定の額は無に等しい。
 本件ウェブサイトにおいて、アイキャッチはトップページに1日足らず表示されるだけである。これに関する逸失利益は世界標準であるGoogleAdSenseを利用して計算すると133.92円に過ぎない。その後、被告写真を単体で表示させるためには、被告写真目録1及び同目録2記載のURLを直接入力する必要があるが、そのような利用者はいないので、原告の逸失利益は実質的にはゼロである。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(被告に対する損害賠償請求権の存否)について
(1)前提事実のとおり、被告は、平成28年10月30日までに、本件写真を複製し、公衆送信した。また、本件写真を本件著作者名を表示せずに公衆に提示した。
(2)前提事実のとおり、原告は、本件写真にBY−SAライセンスを付してこれを公開した。BY−SAライセンスの内容に照らせば、原告は、本件写真について、著作者の氏名である本件著作者名や作品タイトルである本件タイトルを表示することを条件として、その利用を許諾した。したがって、これらの条件が満たされない場合には、原告は、本件写真の利用を許諾していなかったと認められ、また、本件著作者名を表示しないで本件写真を公衆に提示することを許諾していなかったと認められる。
 本件では、被告写真1及び被告写真2が公衆送信されるに当たり、本件著作者名及び本件タイトルが表示されることはなかったので、被告写真1及び被告写真2の公衆送信について原告の許諾があったということはできず、被告の行為により、原告の公衆送信権が侵害されたと認められる。また、被告写真1及び被告写真2が公衆に提示されるに当たり、本件著作者名が表示されることはなかったので、被告の行為により原告の氏名表示権(著作権法19条)が侵害されたと認められる。
(3)上記のとおり、被告の行為により、少なくとも、原告の公衆送信権及び氏名表示権が侵害されたところ、被告は、本件写真にはBY−SAライセンスが付されていたから損害賠償請求権が発生する余地はないことや、原告がNCライセンスを付与せずにBY−SAライセンスを付与したことにより、損害賠償請求権を放棄したと主張し、クリエイティブ・コモンズ・ジャパンが掲載しているCCライセンスのFAQ(乙1)の4項をその根拠として挙げるなどする。
 CCライセンスのFAQの4項には、「例えば「NC(非営利)」のついた作品を、営利を目的として利用する場合等、作品につけられたCCライセンスの条件を超えた利用をしようとする場合には、別途、著作権者からその利用について許諾を得なければなりませんが、そのとき、著作権者から、許諾の条件として作品の利用料の支払いを求められる場合があります。」と記載されている。同項には、何らかのCCライセンスが付された著作物の利用について、利用料の支払を請求されるのが「NC(非営利)」のついた作品に限られるとは記載されていない。むしろ、同項は、「例えば「NC(非営利)」のついた作品を、営利を目的として利用する場合等、作品につけられたCCライセンスの条件を超えた利用をしようとする場合」として、「例えば」という文言で、「「NC(非営利)」のついた作品を、営利を目的として利用する場合」が「作品につけられたCCライセンスの条件を超えた利用をしようとする場合」の一つの例であることを明示し、また、「「NC(非営利)」のついた作品を、営利を目的として利用する場合」の後の「等」という語句により、CCライセンスにおいて、ライセンスの条件を超えた利用をして著作権者から支払を求められる場合として、NCライセンスが付された作品を営利を目的として利用する場合以外の場合が存在し得ることを前提としているものである。そうすると、同項によって、原告が本件写真の利用に係る損害賠償請求権を放棄していると認めることはできない。
 被告が提出する証拠を精査しても、CCライセンスにおいて、BY−SAライセンスが付された著作物がその条件に違反して利用された場合について、著作権者が損害賠償を請求できないことを定めた規定が存在することや、上記の場合には損害賠償を請求できないことが前提となっていることを認めるに足りる証拠はない。また、BY−SAライセンスが付された著作物について、付した条件に違反して著作物が利用された場合に著作権者が損害賠償請求権を行使することができない慣行があることを裏付けるに足りる証拠はない。(4)被告は、CCライセンスに利用料に関する具体的な定めがないから、損害賠償を請求することはできないと主張するが、原告は、本件において利用料に関する合意を根拠に、契約に基づく損害賠償を請求しているのではなく、不法行為に基づいて損害賠償を請求しているのであるから、上記主張には理由がない。
 また、被告は、アイキャッチのサイズを前提にすると氏名表示をすることはできないから故意、過失がないと主張する。しかし、利用許諾の前提となる条件を守ることが困難なのであれば、使用しないこともできたのであるから、被告の主張は被告の故意、過失を否定する根拠になるとは認められない。BY−SAライセンスの内容等に照らしても、他に被告の過失を否定する根拠となる事実も見当たらず、被告には少なくとも過失があったといえる。
(5)以上によれば、少なくとも、被告の行為は原告の公衆送信権及び氏名表示権を侵害するものである。これらについて被告には少なくとも過失があったと認められ、原告が損害賠償請求権を放棄したり原告に損害賠償請求権が発生しないといえるような事情もないから、原告は、被告に対し、少なくとも被告による公衆送信権、氏名表示権侵害についての損害賠償請求権を有するといえる。
2 争点2(損害額)について
(1)原告は、著作権法114条3項に基づき、ライセンス料相当額を請求しているため検討する。証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 本件ウェブサイトと本件記事(甲3、乙6、弁論の全趣旨)
 本件ウェブサイトは、主として、社会に関する様々な事項に関する記事を掲載するものである。各記事は、本件ウェブサイトのトップページ等で、記事のタイトル、作者及びアイキャッチ(160×100ピクセル)等が、並んで記載されて紹介され、閲覧者は、それらの記事紹介をクリックして記事を閲覧する仕組みになっている。もっとも、検索エンジン等で検索条件に合致した記事を検索、閲覧した場合には、上記ページを見ることなく記事を閲覧することができる。
 本件ウェブサイトのトップページには、最新の記事紹介が並んで掲載される。本件ウェブサイトでは多数の記事が次々と掲載されていく。最新の記事についての記事紹介がトップページの冒頭に掲載されていき(本件記事が掲載された平成28年10月30日だけで、少なくとも17件の記事が掲載され、その翌日の31日にも少なくとも14件の記事が掲載されている。)、トップページに掲載される記事紹介の数は限られているため、各記事の記事紹介がトップページにとどまるのは、一日程度である。
 本件ウェブサイトでは、一定の条件を満たす過去の記事紹介を一覧で表示させることも可能であり、本件記事が掲載された「2016年10月」の記事一覧を表示させると、本件記事の記事紹介を含む、同月に掲載された記事についての記事紹介(アイキャッチを含む)が並んで表示される。
イ 被告写真1及び被告写真2の利用態様(甲3、弁論の全趣旨)
 被告は、本件写真を複製して、本件URL1を入力すると被告写真1が表示されるように被告写真1をサーバーに記録し、本件URL2を入力すると被告写真2が表示されるようサーバーに記録して、被告写真1及び被告写真2を公衆送信した。これらのURLを用いると被告写真のみが表示され、記事等は表示されない。被告写真2(1024×683ピクセル)に対しては、本件ウェブサイトも含めて、リンクは設定されていない。被告写真1(160×100ピクセル)に対しては、本件記事の記事紹介のアイキャッチとして表示されるようにリンクが設定されている。本件記事の本文が掲載されているページにおいては、被告写真1が表示されるようなリンクは設定されていない。
ウ 原告のライセンス実績(甲18、19)
 原告は、本件写真についてライセンス料と引き換えに利用許諾をした実績がある。原告は、ライセンス料を定めるにあたって、fotoQuote(使用目的、写真のサイズ、ライセンス期間等を入力すると、ライセンス料が表示されるソフト)を利用することとし、米国のみでの国内市場向けの宣伝用ウェブサイト、画面の4分の1以下のサイズで3年間利用される条件で同ソフトに提示されるライセンス料1183米ドルに準じて、ライセンス料を1181.83米ドルとした。ただし、原告が本件訴訟に提出した証拠は、上記についての請求書のみであり、上記の利用許諾を求められた経緯、交渉態様等は、不明である。
(2)以上の事実を前提に検討する。
 被告は、前記イのとおり被告写真2を公衆送信したといえるが、被告写真2が表示されるためのリンクが設定されたことはない。本件URL2で表示されるのは被告写真2のみであるところ、本件URL2は、その中に30桁以上の数字及び欧文字の列を含むものであった。このことからすると、インターネットの利用者が直接本件URL2を入力して被告写真2が公衆送信されることはほとんどなく、何らかの目的をもって検索するなどしない限り、被告写真2は公衆送信されず、被告写真2が、令和3年1月28日までの間、公衆送信されたことは非常に少なかったと推認できる。
 被告写真1について、本件URL1で表示されるのは被告写真1のみであるところ、本件URL1は、その中に30桁以上の数字及び欧文字の列を含むものであった。このことからすると、インターネットの利用者が本件URL1を入力して被告写真1が公衆送信されることは非常に少なかったと推認できる。もっとも、被告は、本件記事の記事紹介のアイキャッチとして表示されるように被告写真1に対してリンクを設定していた。そうすると、本件記事の記事紹介のアイキャッチとして表示された場合、被告写真1は公衆送信されたといえ、被告写真1は一定の回数は公衆送信されたことが推認できる。もっとも、被告写真1の画像は、160×100ピクセルというものであって、本件記事の記事紹介のアイキャッチは、その写真自体を鑑賞の対象とするというものではなく、記事を紹介するために記事のタイトルに並んで表示されるものであった。また、本件ウェブサイトにおいては、一定数の複数の記事について、アイキャッチとともに記事紹介が一覧形式で表示されるところ、本件記事の記事紹介はそのうちの一つであった。そして、本件ウェブサイトでは、継続的に複数の記事が追加されて、それらの記事紹介が掲載されるところ、本件記事の公開日には、本件記事の記事紹介が本件ウェブサイトのトップページに掲載され、当該アイキャッチも一定の回数閲覧されたことはうかがえるものの、その後程なく、被告写真1が表示される本件記事についての記事紹介は日々追加される多数の記事の記事紹介によりトップページに掲載されなくなり、本件ウェブサイトにおいてあえて過去記事を検索する読者の目に触れる可能性があるにとどまることになるといえる。なお、検索エンジン等で本件記事について直接検索がされた場合には、アイキャッチは表示されず、本件写真1が公衆送信されることはなかった。
 上記によれば、被告写真は、被告写真1が本件記事の記事紹介のアイキャッチとして表示された場合に公衆送信されたほかは、公衆送信されたことは少なかったと認められること、当該アイキャッチとして表示された場合でも、写真自体を鑑賞対象として掲載するものではなく、ウェブページにおける位置付けは小さく、公衆送信の回数も本件記事の公開後しばらくすると相当に少なかったと推認できることなどの事情がある。これらを考慮すると、被告写真に係る公衆送信権侵害についての著作権法114条3項に基づく損害金は1万円が相当である。
 また、被告は、1で説示したとおり、被告写真を公衆に提示するに当たり、原告が付したCCライセンスで利用許諾の条件そのものである原告が設定した本件写真についての本件著作者名の表示を怠り、原告の氏名表示権を侵害した。これは利用許諾の条件そのものに違反してされた権利侵害であること、他方、実際に被告写真が公衆に提示された機会が本件記事の掲載直後を除くと限られたものであったと推測できることなどの上記に述べた本件の諸事情に照らせば、氏名表示権侵害についての慰謝料は3万円が相当である。
 そして、上記の事情を考慮すると、弁護士費用相当損害金は1万円が相当である。
 なお、仮に、本件につき、被告による複製権侵害が認められたとしても、原告の損害額が上記金額であることは左右されない。
第4 結論
 よって、原告の損害賠償請求には、5万円及び被告写真を氏名表示せずに公衆送信した日以降の日である平成28年10月30日から年5分の割合による遅延損害金を請求する限度で理由がある。
 よって、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 佐伯良子
 裁判官 仲田憲史


(別紙)著作物目録 (記載省略)
(別紙)被告写真目録1 (記載省略)
(別紙)被告写真目録2 (記載省略)
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