判例全文 line
line
【事件名】「文藝春秋」投稿文改変事件(2)
【年月日】令和3年10月7日
 知財高裁 令和3年(ネ)第10034号 損害賠償請求控訴事件
 (原審・さいたま地裁令和2年(ワ)第506号)
 (口頭弁論終結日 令和3年8月5日)

判決
控訴人(一審原告) X
被控訴人(一審被告) 株式会社文藝春秋
同訴訟代理人弁護士 喜田村洋一
同 藤原大輔


主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は、控訴人に対し、10万円及びこれに対する令和元年9月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は、第1、2審を通じ、これを6分し、その1を被控訴人の負担とし、その余を控訴人の負担とする。

事実及び理由
 用語の略称及び略称の意味は、原判決1頁24行目の「本件改変行為」を「本件変更」に、同頁26行目から2頁1行目の「本件頒布行為」を「本件頒布」にそれぞれ改め、また、本判決中で改めるほかは、原判決に従うものとする。また、原判決別紙改変箇所目録の表題を「変更箇所目録」と改めるほか、原判決の引用部分の「別紙」を全て「原判決別紙」に、「原告投稿文」を「控訴人投稿文」に、「被告掲載文」を「被控訴人掲載文」に、「改変箇所目録」を「変更箇所目録」にそれぞれ改める。
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、控訴人に対し、60万円及びこれに対する令和元年9月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
(1)控訴人は、月刊誌「文藝春秋」(本件月刊誌)を発行する被控訴人に対し、原判決別紙控訴人投稿文記載の題号及び文章(本件控訴人投稿文)を投稿したが、被控訴人は、本件控訴人投稿文を、原判決別紙被控訴人掲載文記載の題号及び文章(本件被控訴人掲載文)のとおり変更した上で、本件月刊誌の令和元年10月号(本件掲載紙)に掲載して頒布した。
(2)本件は、控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人が本件控訴人投稿文を上記のとおり変更したこと(本件変更)が控訴人の著作者人格権(同一性保持権)を侵害するとともに、被控訴人が本件掲載紙を頒布したこと(本件頒布。以下、本件変更と併せて「本件変更等」ということがある。)が著作権法113条1項2号に定める行為に該当し著作者人格権を侵害する行為とみなされると主張して、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償として、慰謝料60万円(本件変更について40万円、本件頒布について20万円)及びこれに対する本件掲載紙の発行日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 原審は、不法行為の成立は認めた上で、後に本件月刊誌に謝罪文が掲載されたこと等により損害は既に填補されたとして、控訴人の請求を棄却したことから、控訴人が控訴を提起した。
2 前提事実並びに争点及び争点に関する当事者の主張は、次のとおり改め、後記3のとおり当審における当事者の補充主張を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の1及び2に記載するとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決2頁19行目の「規定600字」を「規定六百字」に、同頁20行目の「投稿された原稿の一部を手直しすることがあります。」を「本欄にかぎらず投稿原稿は返却できませんので、必ずコピーをとってからお送り下さい。また、原稿の一部を手直しすることがあります。」にそれぞれ改め、同頁21行目末尾の次に改行して、次のとおり加える。
 「上記のタイトルや「読者と筆者と編集者」という副題、投稿者の表示の態様その他誌面の構成等のほか、投稿の募集についての上記記載からして、本件投稿欄は、本件月刊誌の読者において、読者と筆者と編集者の三者の意見交換の場を提供する趣旨の投稿欄であってそこに掲載されている投稿者の意見は当該投稿者の意見と相違ないものであることが当然の前提となっていると理解される体裁のものである(甲2、23、24、乙1)。」
(2)原判決3頁4行目の「本件投稿欄」を「本件掲載誌の本件投稿欄」に、同頁6行目の「本件頒布行為」を「本件頒布」に、同頁8行目の「本件月刊誌編集長に対し」から同頁10行目の「本件改変行為は」までを「「文藝春秋編集長殿」宛てに、本件被控訴人掲載文の論調は、本件控訴人投稿文における控訴人の主張と真逆となっているなど、本件変更は」に、同頁23行目の「同年12月号」から同頁26行目の「手紙を」までを「同年12月号において、「10月号当欄にX氏の寄稿を掲載する際、編集上の不手際があり、本来の文意を損ねてしまいました。X氏にお詫び申し上げます」との文章(以下「本件謝罪文」ということがある。)を掲載する旨の手紙(以下「本件手紙」という。)を」にそれぞれ改め、同頁26行目末尾の次に改行して次のとおり加える。
 「なお、控訴人は、上記イの本件月刊誌編集担当者からの電子メールの送信を受けた後、令和元年9月30日、「文藝春秋編集部編集長殿」及び本件月刊誌編集担当者宛てに、しかるべき措置の案又は和解案を提示されたい旨等を記載した電子メールを送信し(甲21)、また、同年10月8日、本件月刊誌編集長に対し、同年9月30日の電子メールに対していまだ回答がないところ、同年10月12日までにしかるべき措置又は和解案を示してほしい旨等を記載した電子メールを送信していた(甲22)もので、本件月刊誌編集長による本件手紙の送付は、それらを受けてのものであった(弁論の全趣旨)。」
(3)原判決4頁10行目の「文言」を「文章」に改め、同頁11行目の末尾の次に改行して次のとおり加える。
 「カ 控訴人は、その後、被控訴人を相手方として、東京簡易裁判所に対し、民事調停の申立てをしたが、これが不調となったことを受けて、令和2年2月7日、川口簡易裁判所に対し、本件訴えを提起し、同訴訟はさいたま地方裁判所に移送された(記録上明らかな事実)。」
(4)原判決4頁13行目の「本件改変行為等」を「本件変更」に、同頁14行目の「本件改変行為等」を「本件変更等」に改める。
(5)原判決4頁16行目の「本件改変行為等」を「本件変更」に、同頁19行目〜20行目の「本件改変行為」を「本件変更」に、同頁21行目の「改変」を「修正」に、同5頁16行目の「改変」を「加除修正」に、同6頁16行目〜17行目の「改変に過ぎない」を「加除修正にすぎない」に、同頁18行目の「本件改変行為」を「本件変更」に、同頁20行目の「改変」を「加除修正」にそれぞれ改める。
(6)原判決7頁1行目の「本件改変行為」を「本件変更」に、同頁6行目の「本件頒布行為」(2箇所)をいずれも「本件頒布」に、同頁9行目の「文法上の誤り」を「文法上の誤り等」にそれぞれ改め、同頁11行目の「かかる原則からすれば、」の次に「原稿の一部を手直しすることがある旨が投稿案内に記載されている場合に、上記の誤り等の訂正を超えて投稿者の承諾なくして」を加える。
(7)原判決8頁9行目の「本件改変行為等」を「本件変更等」に、同頁11行目の「本件改変行為」を「本件変更」に、同頁12行目の「本件頒布行為」を「本件頒布」にそれぞれ改める。
3 当審における当事者の補充主張
(1)本件変更に関する控訴人の同意の有無(争点1)について
(被控訴人の主張)
ア (ア)一般の読者の普通の注意と読み方を基準として本件控訴人投稿文及び本件被控訴人掲載文(以下、併せて「本件各文」ということがある。)の各要旨を全体として比較すると、本件控訴人投稿文に表現された控訴人の思想又は感情に影響を与える改変がされたものとは認められない。
(イ)上記に関し、まず、「遠ざけない」という表現は「適度な距離を保つ」という表現とほぼ同義であるから、本件各文は、いずれも「韓国を遠ざけない外交努力が必要である」との本件論考の記述を紹介する点で一致している。
(ウ)次に、本件控訴人投稿文には、「『韓国を遠ざけない外交努力が必要である』に、そうありたいと思い」という記載があるところ、ここには、本件論考の「韓国を遠ざけない外交努力が必要である」との記述に賛同する旨の控訴人の見解が表明されている。本件控訴人投稿文には、それと同時に、「韓国に誤ったメッセージを送ることになり、かえって外交上混乱をきたし、日本の国益を害する結果になるのではないか」との懸念を拭い去れないとの見解が併せて表明されているもので、控訴人が本件論考の上記記述について明確に否定的な立場をとっているものとは理解できない。
(エ)さらに、本件控訴人投稿文の「韓国とは粛々と付き合うしかない」という結論について、「厳しく接するべき」ことは、明示的にも黙示的にも記載されていない。本件控訴人投稿文は、「韓国との付き合いは、もうご勘弁願いたいというのが大多数の日本人の考えだと思う」とした上で、この大多数の日本人の見解とは異なる見解の本件論考の「韓国を遠ざけない外交努力が必要である」との記述を紹介し、これに対する懸念を表明するなどして、最終的に「韓国とは粛々と付き合うしかない」と結論付けているところ、一般の読者の注意と読み方を基準に上記の文章の流れを理解すると、大多数の日本人は韓国との付き合いはしたくない又は遠ざけたいと考えているかもしれないが、これに対し、控訴人は、韓国とは、無駄な外交努力をせずに、粛々と(静かにひっそり)付き合うしかないという見解を表明しているものと理解される。そして、これは、本件被控訴人掲載文において控訴人の見解として表明されたところと同じである。本件各文は、大多数の日本人の見解の推察、本件論考の記述の紹介、韓国とは粛々と付き合うしかない(辛抱強く、粛々と付き合っていくことが必要なのだと思った)という文章の流れにおいて、一致している。
イ また、個別の箇所についてみても、本件被控訴人掲載文は、本件控訴人投稿文における控訴人の思想又は感情に影響を与え得る主たる内容について改変をしたものではない。この点についての原判決の判断は、次のとおり、誤っている。
(ア)本件変更箇所2及び6について
 上記ア(イ)及び(ウ)のとおり、控訴人が本件論稿の「韓国を遠ざけない外交努力が必要である」との記述について明確に否定的な立場をとっているものとは理解できず、本件変更箇所2及び6が同意の範囲外であるとした原判決は誤っている。
(イ)本件変更箇所3について
 本件各文は、いずれも、本件論考の「韓国を遠ざけない外交努力が必要である」との記述を主たる対象として控訴人の見解を表明する構成のものであり、論評の対象は変更されていない。
(ウ)本件変更箇所4について
 本件各文は、いずれも、大多数の日本人は韓国との付き合いはもうご勘弁願いたいと考えているとの控訴人の見解を表明するものである点で一致している。そのことを踏まえつつ、「韓国とは粛々と付き合うしかない」との最終的な意見を表明することが、主たる控訴人の思想又は感情の内容である。そこで問題としている韓国の対応の内容やその継続期間は、控訴人個人の思想又は感情の内容ではなく大多数の日本人の思想又は感情に係るもので、本件控訴人投稿文の主たる内容を構成するものではない。したがって、問題としている韓国の対応の内容やその継続期間について若干の改変があったとしても、投稿文の月刊誌への掲載という特性に照らし、同意の範囲内のものと認められるべきである。
(エ)本件変更箇所7について
 本件控訴人投稿文の題号は、「韓国との距離感をどうするか」というごく一般的な問題提起を内容とするもので、現状の韓国との距離感について肯定的又は否定的に捉えているといった控訴人の特段の思想又は感情をそこから看取することができる性質のものではない。このことは、本件被控訴人掲載文の題号についても同様である。したがって、そのような性質の題号の改変は、控訴人の思想又は感情に影響を与えるものではなく、同意の範囲外のものではない。
ウ 上記ア及びイに加え、本件月刊誌の読者に対し、投稿された原稿の一部を手直しすることがある旨を周知した上で投稿の募集がされ、控訴人もこれを認識した上で投稿していることを考慮すると、違法な同一性保持権の侵害は認められない。
エ 控訴人の主張について
(ア)控訴人の主張のうち、投稿された原稿の一部を手直しする旨の条件が付されていない場合についていう部分は、原判決がその認定判断の前提としていないことをその前提であるとして論難するものにすぎない。
(イ)本件変更箇所5で切除された控訴人の文章は、韓国との関係性の在り方に関する控訴人の考え方を補足するものにすぎないから、当該文章の切除は、一般読者に対し、控訴人の思想又は感情を真逆に理解させたり誤解させたりするような性質のものではない。
(控訴人の主張)
ア 新聞、雑誌の投稿欄について、一般論として、一部を手直しすることがある旨が投稿案内に示されていない場合には、特に誤字、脱字、用語、内容、文法上の誤り等がない限り、読者の投稿文のとおりに掲載することが原則であり、これは社会通念上も認知されている。仮に、そのような社会通念が確立しているとまではいえないとしても、著作権法20条1項の規定やその解釈等から、上記の原則が認められるところである。なお、出版社は、投稿者に対して優越的な立場にあり、掲載するかどうかの決定権を持っているのであって、嫌なら掲載する必要がないのである。
 上記に関し、紙面上の制約(字数制限)については、投稿案内にも記載されており、それぞれの出版社等において決める事項であるが、字数超過の是非については、過去のその雑誌の運用や投稿文の意義等を基に決められるべきである。
 また、読みやすさや修辞の適正を確保する必要等に基づいて改変をすることは、原則として許されず、改変する場合には投稿者の承諾を得なければならない。一部を手直しすることがある旨記載されている場合であっても、事案ごとに判断されるべきである。
 以上の点に反する原判決の判断は、社会通念又は著作権法等を無視した不当なものである。
イ 本件変更箇所5についての原判決の判断にも誤りがある。
 控訴人は、今も変わらぬ日韓関係の本質を突いているとの思いから福沢諭吉の脱亜論等を取り上げたもので、それは控訴人の重要な主張のバックボーンとなっている。また、脱亜論等は、本件控訴人投稿文の文章全体からみて重要な一部分を構成しており、外せない部分である。したがって、脱亜論等が可分なものであって控訴人の思想又は感情に影響を与えるものでないなどとはいえない。
 この点、被控訴人には、そもそも脱亜論等の記述を掲載するつもりがなかったものと解される。本件控訴人投稿文と主要部分が真逆に改変されている本件被控訴人掲載文については、脱亜論等を加えると、論旨が首尾一貫せず、支離滅裂なものとなってしまうのであり、紙面の制約や字数制限といった理由から脱亜論等が削除されたものではない。また、本件掲載誌の読者からの投稿の掲載文(甲23)や、本件月刊誌の令和元年9月号の同掲載文(甲24)からすると、掲載文の選定に当たり、被控訴人は、字数制限について、かなり柔軟に、弾力的に運用していることが分かるから、ある程度の字数超過は許容範囲内であったというべきである。
(2)本件変更等による損害(争点2)について
(控訴人の主張)
ア 本件各文を比較すると、短い文章であるにもかかわらず、別物と見まがうほどに大幅に改変されている。特に、主要部分の趣旨が真逆のものとなっており、控訴人が否定していることを肯定するなど、改変は極めて悪質である。
 そして、本件変更箇所2及び6においては、人権侵害といってもいいような、控訴人の内心に踏み込んだ改変が行われている。また、外交問題に関心のある者なら当然承知している内容について控訴人が無知であるかのような表現になっており、著しく控訴人の名誉を傷つけるものである。投稿案内では「読者から筆者への反論」を第一に記載してこれを標榜しているにもかかわらず、反論を許さず、投稿文を真逆の趣旨に改変することは、一種の言論への封殺ともいえる行為である。
イ 被控訴人は、改変の内容、範囲等を明確にした上で、あらかじめ控訴人の承諾を得るべきであったのに、それを怠って上記アのような改変をした。この点、本件月刊誌の編集長及び編集者は、編集に携わるプロであり、当然、著作権についても造詣が深いはずであり、被控訴人においても著作権に関する高い知識を有しているはずである。以上のような事情を踏まえると、本件変更が過失でされたとは到底考えられず、故意にされた以外にあり得ない。故意であれば、当然、控訴人の精神的損害も大きくなる。
ウ なお、控訴人は、本件控訴人投稿文の掲載される本件月刊誌が頒布されること自体には同意していたが、本件控訴人投稿文の内容を真逆に改変したものを大手出版社である被控訴人が出版、頒布することなどは想像していなかった。
エ 本件のような悪質かつ徹底的な著作者人格権の侵害について、一片の謝罪文の掲載や謝罪のメール等を根拠として損害の填補を認めることは、著作権法を無視又は軽視した判断であって相当でない。
 この点、著作権法115条に規定する名誉回復等の措置のうち「訂正」は行われていない。また、謝罪広告は、事実関係を明らかにすることを一要素として含むものであるにもかかわらず、それもされていない。本件謝罪文を見ても、読者には、何を言っているのか、また何があったのか分からず、本件控訴人投稿文の内容が本件被控訴人掲載文の内容の真逆であったと思う読者は皆無といってよい。
 また、被控訴人は、控訴人が何度も要求等をしたために、ようやく本件謝罪文を本件月刊誌に掲載したものと思われ、進んで謝罪をしたものではない。控訴人から申し立てた民事調停についても、被控訴人に話し合う余地がなかったため不調に終わったところである。原審における被控訴人の令和2年9月30日付け準備書面の内容からしても、被控訴人は、単にうわべだけの営業上の観点から謝罪をしたにすぎないといわざるを得ない。
 本件謝罪文の掲載やメールによって、控訴人の精神的苦痛は和らいでおらず、自分の意見と真逆の意見が掲載されたことによる大きな精神的苦痛は継続しているのであって、損害の填補は認められない。
(被控訴人の主張)
 控訴人に生じた損害について検討するまでもなく、控訴人の請求を棄却した原判決は結論として正当であり、控訴人の主張にはいずれも理由がない。
第3 当裁判所の判断
 当裁判所は、控訴人の請求は、被控訴人に対して10万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める限度で理由があるものと判断する。その理由は、次のとおりである。
1 争点1(本件変更に関する控訴人の同意の有無)について
 次の(1)のとおり改め、(2)のとおり当審における当事者の補充主張に対する判断を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」(以下、単に「原判決の第3」という。)の1に記載するとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決の訂正
ア 原判決8頁17行目の「本件改変行為等」を「本件変更」に、同頁18行目の「改変」を「投稿文変更」に、同頁23行目の「改変」を「変更」にそれぞれ改め、同頁25行目の「内容とし得るものであること」の次に「や、本件投稿欄が読者と筆者と編集者の三者の意見交換の場を提供する趣旨の投稿欄であってそこに掲載されている投稿者の意見は当該投稿者の意見と相違ないものであることが当然の前提となっていると理解される体裁のものであること」を加え、同9頁2行目冒頭から8行目末尾までを次のとおり改める。
 「上記について、控訴人は、新聞、雑誌の投稿欄は、一般的に、読者の思い、考えを自由に記すものであり、社会通念上、読者の投稿どおり掲載するのが原則であることからすると、原稿の一部を手直しすることがある旨が投稿案内に記載されている場合に、投稿者の承諾なくして新聞、雑誌の編集者が投稿文を手直しすることができるとしても、その範囲は、例えば、より一般的な用語への変更、「てにをは」の類の変更など一定の場合に限定される旨を主張する。しかし、新聞、雑誌には様々なものがあり、それらにおける投稿欄にも様々な趣旨のものがあり、投稿される文章にも様々な種類のものがあってそこにおける思想又は感情の創作的な表現にも様々な態様や程度等があるのであるから、原稿の一部を手直しすることがある旨が投稿案内に記載されている場合における変更についての投稿者の同意の範囲が、控訴人の主張するような場合に直ちに限定されるものとはいえないというべきである。」
イ 原判決9頁9行目の「本件改変行為」を「本件変更」に、同10頁5行目、6行目、8行目、10行目及び14行目の各「原告」をいずれも「投稿者」に、同頁22行目〜23行目の「厳しく接するべきか辛抱強く接するべきか」を「「粛々」の語が「@つつしむさま。A静かにひっそりしたさま。Bひきしまったさま。Cおごそかなさま。」といった意義を有すること(新村出編「広辞苑第七版」岩波書店1394頁)を踏まえ、控え目に、又は気を引き締めて接していくべきか(本件控訴人投稿文)、静かに接していくべきか(本件被控訴人掲載文)」に、同11頁6行目の「改変前後」を「変更前後」に、同頁14行目の「本件各改変箇所」を「本件各変更箇所」に、同頁15行目の「本件改変行為につき、別紙改変箇所目録のとおり」を「本件変更につき、原判決別紙変更箇所目録のとおり」に、同頁17行目の「本件改変箇所1」を「本件変更箇所1」に、同頁18行目の「本件改変箇所1ないし7を併せて「本件各改変箇所」という」を「本件変更箇所1ないし7を併せて「本件各変更箇所」という」に、同頁18行目〜19行目の「本件改変箇所7」を「本件変更箇所7」にそれぞれ改める。
ウ 原判決11頁20行目の「本件改変箇所1」を「本件変更箇所1」に改める。
エ 原判決11頁25行目の「本件改変箇所2」を「本件変更箇所2」に、同12頁1行目の「改変箇所」を「変更箇所」にそれぞれ改める。
オ 原判決12頁8行目の「本件改変箇所3」を「本件変更箇所3」に、同頁9行目の「原告の」から同頁11行目の「ともかくとして」までを「控訴人が本件控訴人投稿文において自らの意見を示すに当たって着目したいと考える本件論考からの引用部分を変更するとともに、新たに引用する部分として、本件論考における「韓国を遠ざけない外交努力が必要である。」という記述の前提として、「振り子」のような外交が行われてきたことや「韓国と適度な距離を保ちつつも、」という文言のある部分を付加することにより、あたかもバランスの取れた距離感が重要な要素であるという点に控訴人が着目しているかのような理解を読者に与えるもので、後に続く控訴人の意見の主旨の改変につながるものにほかならないから」に改める。
カ 原判決12頁13行目の「本件改変箇所4」を「本件変更箇所4」に、同頁15行目〜16行目の「考え方であり自分もそのように思っているとの意見」を「考え方であると思っているとの理解」に、同頁17行目の「戦後のもの」を「戦後から今日に至るまでのもの」に、同頁19行目の「ひいては」から同頁20行目の「いえるから」までを「後に続く自らの意見の前提として控訴人が問題としている事情の根深さに係る理解を変更するとともに、「私もその一人だ。」という文章を加えることにより、大多数の日本人の考えの推察という文章の趣旨を控訴人自身の意見の表明に変更するものであるから」にそれぞれ改める。
キ 原判決12頁23行目の「本件改変箇所5」を「本件変更箇所5」に、同頁25行目の「明示されていることからすると」を「明示されていること等も踏まえると」にそれぞれ改め、同頁26行目の「紙面の制約から」を削除し、同行目の「一般的に」から同13頁3行目末尾までを「それが投稿文に創作的に表現された思想又は感情に影響を与えるものではなく、その他社会通念上投稿者の同意の範囲内の変更であるとはみ難い特段の事情がない限り、同意の範囲内であると考えられる。この点、本件変更箇所5に係る部分は、「今も変わらぬ日韓関係の本質をついている」という控訴人の明示的な意見を含むもので、かつ、本件変更箇所6における「粛々と付き合うしかない」という表現の意味内容の理解につながるものであって、本件控訴人投稿文全体の主旨を補強するものであるということができるものの、当該部分を切除したことのみでは本件控訴人投稿文の主旨が変更されるものではなく、本件論考に対する控訴人の思想又は感情の内容に影響を与えるものとまではいえないことや、当該部分のほとんどが第三者の意見等の引用であることを考慮すると、同切除は、控訴人の同意の範囲内のものであるというべきである。」に改める。
ク 原判決13頁4行目の「本件改変箇所6」を「本件変更箇所6」に改める。
ケ 原判決13頁11行目の「本件改変箇所7」を「本件変更箇所7」に、同行目の「その由来である」から同頁16行目の「その題号は」までを「本件控訴人投稿文の題号は」に、同頁17行目の「これに対し」から同頁23行目の「本件改変箇所7は」までを「これに対し、本件被控訴人掲載文の題号は、前記のとおり同意の範囲外のものであるというべき本件変更箇所3における変更と密接に関連するものであることが明らかである。これらの点を踏まえると、本件変更箇所7は」にそれぞれ改める。
コ 原判決14頁1行目の「本件改変行為」を「本件変更」に、同頁3行目の「本件改変箇所2ないし4、6及び7」を「本件変更箇所2〜4、6及び7」に、同頁5行目の「本件改変行為」を「本件変更」に、同頁6行目〜7行目の「考えられるから」から同頁9行目末尾までを「考えられるところ、以上に述べたところからしてその違いが本件控訴人投稿文における控訴人の意見の主要な部分に関わるものであるというべきことや、編集に携わる者であるという各自の立場等に照らし、本件変更が控訴人の同意の範囲を超えていることについて、両名には故意に準じる程度の重大な過失があったというべきである(なお、本件全証拠をもってしても、故意があったとまでは認めるに足りない。)。」にそれぞれ改める。
サ 原判決14頁10行目冒頭から22行目末尾までを次のとおり改める。
 「以上の諸点からすると、被控訴人による本件変更をしての本件頒布は、本件控訴人投稿文に係る控訴人の著作者人格権を侵害する不法行為に当たる。」
(2)当審における当事者の補充主張に対する判断
ア 被控訴人の主張について
(ア)被控訴人は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準として本件各文の各要旨を全体として比較すると、本件控訴人投稿文に表現された控訴人の思想又は感情に影響を与える改変がされたものとは認められないと主張するが、同主張が採用できないことは、訂正して引用した原判決の第3の1(2)で認定判断したとおりである。この点、被控訴人は、「遠ざけない」という表現は「適度な距離を保つ」という表現とほぼ同義であるから、本件各文は、いずれも「韓国を遠ざけない外交努力が必要である」との本件論考の記述を紹介する点で一致しているとして控訴人の思想又は感情に影響を与える改変ではないと主張するが、本件被控訴人掲載文は、本件控訴人投稿文では記述されていない、本件論考中の「振り子」のような外交が行われてきたことや「韓国と適度な距離を保ちつつも」という部分を引用するものであるとともに、このように変更することによって、あたかもバランスの取れた距離感が重要な要素であるという点に控訴人が着目しているかのような理解を読者に与え、後に続く控訴人の意見の主旨の改変につながるものであって、控訴人の同意の範囲を超える改変がされたものといわざるを得ないものである。また、被控訴人は、本件控訴人投稿文における「『韓国を遠ざけない外交努力が必要である』に、そうありたいと思い」という記載があることをもって、本件論考の「韓国を遠ざけない外交努力が必要である」との記述に賛同する旨の控訴人の見解の表明であると主張するが、「そうありたいと思いつつ、無駄な外交努力に思えてならない」といったその後の本件控訴人投稿文の記載からして、上記の「そうありたいと思い」という記載が、控訴人自身の見解には沿わない願望を示すものにすぎないことは明らかである。その他、被控訴人は、文章の流れからすると、本件控訴人投稿文において表明された控訴人の見解と本件被控訴人掲載文において控訴人の見解として表明されたところが同一であると主張するが、本件控訴人投稿文の文章の流れやそこに客観的に示された控訴人の意見の主旨に反するものであって、同主張は採用できない。
(イ)個別の箇所についての被控訴人の主張も、上記(ア)及び訂正して引用した原判決の第3の1(3)で認定判断したとおり、いずれも採用することができない。
(ウ)被控訴人は、原稿の一部を手直しすることがある旨を控訴人が認識した上で投稿したことについても指摘するが、当該事情により認められる控訴人の同意が一定の範囲に限定されたものと解すべきことは、訂正して引用した原判決の第3の1(1)で認定判断したとおりであって、本件変更がその範囲を超えるものであることは、同(2)及び(3)で認定したとおりである。
イ 控訴人の主張について
 本件変更箇所5について、控訴人は、今も変わらぬ日韓関係の本質を突いているとの思いから取り上げたもので、それは控訴人の重要な主張のバックボーンとなっており、当該箇所は、本件控訴人投稿文の文章全体からみて重要な一部分を構成しており、外せない部分であるから、可分なものであって控訴人の思想又は感情に影響を与えるものでないなどとはいえないと主張するが、訂正して引用した原判決の第3の1(3)キのとおり、本件変更箇所5についてみると、本件控訴人投稿文全体の主旨を補強するものであると認められるものの、当該部分を切除したことのみでは同主旨が変更されるものではなく、同切除は、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすると、創作的に表現された思想又は感情に影響を与えるものとまではいえず、同意の範囲内の変更ということができる。
 なお、新聞、雑誌の投稿欄への投稿文の手直しの限度に係る一般論や、それを踏まえた上での投稿案内に投稿文の一部を手直しすることがある旨記載されている場合における手直しの範囲についての控訴人の主張については、読みやすさや修辞の適正を確保する必要等に基づく変更を含め、訂正して引用した原判決の第3の1(1)で認定判断したとおりである。
2 争点2(本件変更等による損害)について
 本件変更の内容及びそれによる本件控訴人投稿文の変更が控訴人の意見の主要な部分に関わるものであって、その主旨を変更するものであったこと、被控訴人には故意に準じる程度の重大な過失があったというべきこと、本件被控訴人掲載文が控訴人の氏名、年齢、職業、居住都道府県名という相応に個人の特定に関わる事項とともに本件掲載誌に掲載され頒布されたこと、本件投稿欄が読者との間で意見交換の場を提供する趣旨のものと理解される体裁のものであることなどの一方で、控訴人からの要請を受けて、本件月刊誌の編集担当者及び編集長が控訴人に対しメールや手紙で謝罪を表明するなどし(甲4、5)、本件掲載誌に掲載された本件被控訴人掲載文の内容が控訴人による投稿文の本来の文意と異なるものであった旨の本件謝罪文が本件掲載誌(令和元年10月号)の約2箇月後に発行された本件月刊誌の同年12月号に掲載されたこと、本件被控訴人掲載文の分量(甲2、23)、その他本件で顕れた一切の事情を考慮すると、控訴人は、被控訴人に対し、本件変更をしての本件頒布について、慰謝料として10万円を請求し得るものと認めるのが相当である(本件変更と本件頒布について、格別に慰謝料を算定すべきものとはいえない。)。
 なお、上記に関し、本件控訴人投稿文における控訴人の意見の主旨について触れることのない本件謝罪文の掲載によって、控訴人の同一性保持権の侵害による損害が大きく回復されたものとはいえない。また、控訴人は、本件控訴人投稿文が掲載された本件月刊誌が頒布されること自体には同意していたが、全体として本件控訴人投稿文の主旨と異なる内容の本件被控訴人掲載文が控訴人作成名義で本件月刊誌に掲載されて頒布されることまで同意していたとは認められない。上記1のとおり、被控訴人が控訴人の同意の範囲を超えて本件変更をして控訴人の意見として本件被控訴人掲載文を本件掲載誌に掲載して頒布した本件において、そもそも控訴人が本件控訴人投稿文を本件月刊誌にそのまま掲載させる権利を有していたものではないといった事情を過度に重視することも相当ではない。
第4 結論
 よって、控訴人の本訴請求は、10万円及びこれに対する控訴人の請求に係る本件変更の後で本件頒布の日である令和元年9月10日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余は理由がないところ、これと異なり、控訴人の本訴請求を全部棄却した原判決は失当であるから、上記の限度で原判決を変更することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第2部
 裁判長裁判官 本多知成
 裁判官 中島朋宏
 裁判官 勝又来未子
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/