判例全文 line
line
【事件名】ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件O
【年月日】令和3年9月30日
 東京地裁 令和3年(ワ)第17149号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年7月29日)

判決
原告株式会社 ソニー・ミュージックレーベルズ
同訴訟代理人弁護士 笠島祐輝
被告 ソフトバンク株式会社
同訴訟代理人弁護士 金子和弘


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 事案の要旨
 本件は、レコード製作会社である原告が、インターネット接続プロバイダ事業を営む被告に対して、被告の用いる電気通信設備を経由したファイル交換ソフトウェアの使用によって、原告がレコード製作者の権利を有するレコードについての送信可能化権(著作権法96条の2)が侵害されたことが明らかであり、上記のソフトウェアの使用者に対する損害賠償請求等のために必要であるとして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項に基づいて、別紙発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実又は後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)当事者
ア 原告は、レコードを製作の上、これを複製して音楽CD等として発売している株式会社である(弁論の全趣旨)。
イ 被告は、一般利用者に対してインターネット接続プロバイダ事業等を行っている株式会社であり、法2条3号の特定電気通信役務提供者である(弁論の全趣旨)。
(2)原告の送信可能化権
 原告は、甲が歌唱する楽曲を録音したレコード(以下「本件レコード」という。)を製作し、タイトル名を「乙」とする音楽CD(商品番号:(番号は省略))に収録して、令和2年8月5日、これを日本全国で発売した(甲3)。
 原告は、本件レコードについて、レコード製作者としての送信可能化権を有する。
(3)被告は、本件発信者情報を保有している。
3 争点
(1)原告の送信可能化権が侵害されたことが明らかであるか(争点1)
(2)被告は開示関係役務提供者に該当するか(争点2)
(3)本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか(争点3)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1(原告の送信可能化権が侵害されたことが明らかであるか)及び争点2(被告は開示関係役務提供者に該当するか)について
(原告の主張)
 氏名不詳者は、別紙発信者情報目録記載の日時頃、被告のインターネット接続サービスを利用し、同目録記載のインターネットプロトコルアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、ファイル交換ソフトウェアであるBitTorrentを用いて、本件レコードを複製したファイルを、不特定多数の他のBitTorrentの利用者からの求めに応じて自動的に送信し得る状態にした。
 上記の送信可能化行為について、著作隣接権の権利制限事由(著作権法102条。同条1項が準用する同法30条以下を含む。)は存在しないため、上記の行為を行った氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)によって、原告が本件レコードに対して有する送信可能化権が侵害されたことが明らかであり(法4条1項1号)、当該送信可能化権侵害との関係において、被告は開示関係役務提供者に、本件発信者情報は権利侵害に係る発信者情報にそれぞれ該当する(同条1項柱書)。
(被告の主張)
 原告の主張に係る事実はいずれも不知。
 本件発信者の行為によって原告が本件レコードに対して有する送信可能化権が侵害されたことが明らかであるとの主張及び被告が開示関係役務提供者に当たるとの主張はいずれも争う。
(2)争点3(本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)について
(原告の主張)
 原告は、本件レコードについての送信可能化権侵害に基づき、本件発信者に対して損害賠償請求及び差止請求を行う必要があるから、本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由がある(法4条1項2号)。
 被告は、電子メールアドレスの開示を受けるべき正当な理由があるとはいえないと主張するが、被告が保有する本件発信者情報の住所等は正確ではない可能性があり、そのような場合には、電子メールアドレスまで開示されないと本件発信者に対する損害賠償請求等に支障があるから、被告の上記主張には理由がない。
(被告の主張)
 原告の主張に係る事実はいずれも不知。
 本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるとの主張は争う。
 なお、損害賠償請求等を行うには、氏名及び住所の情報があれば十分であり、電子メールアドレスは損害賠償請求等に必要とはいえないから、電子メールアドレスの開示を受けるべき正当な理由があるとはいえない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告の送信可能化権が侵害されたことが明らかであるか)及び争点2(被告は開示関係役務提供者に該当するか)について
(1)証拠(甲1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば、本件発信者が、別紙発信者情報目録記載の日時頃、被告のインターネット接続サービスを利用し、同目録記載のインターネットプロトコルアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し、ファイル交換ソフトウェアであるBitTorrentを用いて、本件レコードを複製したファイルを、不特定多数の他のBitTorrentの利用者からの求めに応じて自動的に送信し得る状態にしたことが認められ、本件全証拠によっても、当該行為について、原告による許諾、著作隣接権の権利制限事由その他の違法性阻却事由の存在をうかがわせる事情は認められない。
(2)以上によれば、本件発信者の前記行為に係る情報の流通によって原告の本件レコードの送信可能化権が侵害されたことが明らかであり、当該送信可能化権侵害との関係において被告は開示関係役務提供者に該当し、かつ、本件発信者情報は、権利侵害に係る発信者情報に該当すると認められる。
2 争点3(本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるか)について
 証拠(甲1、3)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、前記1のとおり自己の送信可能化権を侵害したことが明らかな本件発信者に対して、損害賠償請求及び差止請求を行う意思を有しており、そのためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があると認められるから、自己の権利侵害に係る発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえる。
 被告は、損害賠償請求等を行うには氏名及び住所の情報があれば十分であり、電子メールアドレスの開示を受けるべき正当な理由があるとはいえないと主張する。しかし、法4条1項に基づき定められた、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律第4条第1項の発信者情報を定める省令においては、「氏名又は名称」及び「住所」と同様に侵害情報の特定に資する情報の一つとして「電子メールアドレス」が挙げられている(同省令4号)。実際に、被告が保有する発信者その他侵害情報の送信に係る者の氏名又は住所が虚偽であった場合や同人が転居していた場合等、被告が保有する氏名又は住所に係る情報が正確ではないために氏名及び住所だけでは発信者を十分に特定することができず、発信者の電子メールアドレスが特定に資する場合も想定され得る。これらの点に鑑みると、本件において、原告には電子メールアドレスの開示を受けるべき正当な理由があるというべきであり、被告の上記主張は理由がない。
3 結論
 以上のとおり、本件レコードの送信可能化に係る侵害情報の流通によって原告の権利(送信可能化権)が侵害されたことが明らかであって、本件発信者情報はこの権利侵害に係る発信者情報に該当し、原告には、発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があるといえるから、上記送信可能化に係る通信を媒介した被告は、開示関係役務提供者として、本件発信者情報を開示すべき義務を負う。
 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 小川暁
 裁判官 佐々木亮


(別紙)発信者情報目録
 令和2年(2020年)12月20日20時19分45秒頃に「(インターネットプロトコルアドレスは省略)」というインターネットプロトコルアドレスを使用してインターネットに接続していた者の氏名又は名称、住所及び電子メールアドレス
 以上
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/