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【事件名】GMOインターネットへの発信者情報開示請求事件C
【年月日】令和3年9月3日
 東京地裁 令和3年(ワ)第6718号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年7月12日)

判決
原告株式会社 トップ・トレンド
同訴訟代理人弁護士 寺尾幸治
被告 GMOインターネット株式会社
同訴訟代理人弁護士 川ア友紀
同 八木優大
同 松井将征


主文
1 被告は、原告に対し、別紙1発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、インターネットの接続に関する業務等を行う被告に対し、氏名不詳者(以下「本件発信者」という。)が、被告が管理するサーバーコンピュータによりインターネット上に開設された、別紙1発信者情報目録記載のURLで特定されるウェブページ(以下「本件ウェブページ」という。)に別紙2発信者掲載画像目録記載の画像(以下「本件画像」という。)を掲載したことにより、別紙3原告画像目録記載の画像(以下「原告画像」という。)に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことが明らかであり、本件発信者に対する本件画像の消去請求権及び損害賠償請求権の行使のため、被告が保有する別紙1発信者情報目録記載の各情報(以下「本件発信者情報」という。)の開示を受けるべき正当な理由があると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)ア 原告は、インターネットを利用した競艇の予想情報の提供を主たる業とする株式会社である。
イ 被告は、インターネットの接続に関する業務等を主たる業とする株式会社である。
(2)原告は、競艇の予想情報を提供することを目的とするウェブサイト(http://以下省略。以下「原告ウェブサイト」という。)を開設し、かつて、原告ウェブサイト内に原告画像を掲載していた(甲1、2)。
(3)本件発信者は、被告のホスティングサービスを利用して、別紙1発信者情報目録記載の名称のウェブサイト(https://以下省略。以下「本件ウェブサイト」という。)を開設し、本件ウェブサイト内の本件ウェブページに、本件画像を掲載した(甲3、4、乙1)。
 本件画像は、原告画像のうち、8名の人物が写った写真(以下「原告写真」という。)を含む部分(以下「原告画像一部」という。)と同一である(甲2、4)。
(4)被告は、本件ウェブページへの本件画像の掲載に係る開示関係役務提供者に当たり、本件発信者情報を保有する。
3 争点
(1)権利侵害の明白性(争点1)
ア 原告画像一部の著作物性の有無(争点1−1)
イ 原告画像の著作権の帰属(争点1−2)
ウ 適法な引用の成否(争点1−3)
(2)本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無(争点2)
4 争点に関する当事者の主張
(1)争点1−1(原告画像一部の著作物性の有無)について
(原告の主張)
 原告画像一部は、原告が考案した「徹底!当日主義!!徹底!現場主義!!」及び「「勝てる!」「獲れる!」」というキャッチコピー、説明文、原告写真等によって構成される。
 このように、原告画像一部は、個性的なキャッチコピーや写真、文言等が個性的に配列又は配置され、配色され、組み合わされて、思想又は感情が創作的に表現されたものであるから、著作物というべきである。
 また、少なくとも原告写真は、被写体の選択、構図等において、撮影者の思想又は感情が創作的に表現された写真の著作物であり、原告写真を含む原告画像一部は、全体として一定の個性が発揮されているといえるから、著作物というべきである。
(被告の主張)
 争う。
 特に、原告画像一部に記載されているキャッチコピーはごく短いものであり、これを創作した者の個性が現れているとはいえず、また、原告画像一部におけるキャッチコピーや写真等の配列及び配色は、一般のウェブサイトにおいてもあり得る形式であり、ありふれた表現といえるから、創作的な表現であるとはいえない。
 したがって、原告画像一部は、著作権法による保護の対象となる著作物とはいえない。
(2)争点1−2(原告画像の著作権の帰属)
(原告の主張)
 原告ウェブサイト内に掲載された原告画像は、日本情報コンサルタンツ株式会社が原告の考案した「徹底!当日主義!!徹底!現場主義!!」及び「「勝てる!」「獲れる!」」というキャッチコピー、説明文等を基に制作し、これに株式会社オフィスキューブが撮影した原告写真を組み合わせたものであり、原告は、両社から、これらの成果物に係る著作権を譲り受けた。
 したがって、原告画像の著作権は、原告に帰属する。
(被告の主張)
 不知。
(3)争点1−3(適法な引用の成否)について
(原告の主張)
 本件発信者は、原告を批評する目的で、本件ウェブページに本件画像を掲載したと考えられるが、批評の対象となる原告ウェブサイトを特定する必要があるとしても、原告ウェブサイトの名称やURLを記載すれば足り、これに加えて、原告画像を複製して掲載する必要性が高いとはいえないから、本件ウェブページに本件画像を掲載した行為は、引用についての公正な慣行に合致するものではなく、引用の目的上正当な範囲内で行われたものでもない。
 したがって、本件ウェブページへの本件画像の掲載は、「引用」(著作権法32条1項)には当たらない。
(被告の主張)
 本件ウェブページは、原告に対する口コミ、評価及び体験談が中心であり、原告画像を複製した本件画像は、本件ウェブページの上部に原告の名称等を付して掲載され、本件ウェブページ全体の表示割合のごく一部を構成するにすぎないから、引用している本件ウェブページと引用されている原告画像とを明瞭に区別して認識することができる。また、本件ウェブページには、本件画像の大きさと比較して、大量の情報が掲載されており、原告ウェブサイトを紹介するために本件画像が掲載されていることは明らかであるから、分量的にも内容的にも、原告に対する口コミ、評価及び体験談が主であり、本件画像が従である。
 本件ウェブサイトの目的は、原告ウェブサイトのようないわゆる競艇予想サイトを批評するためのものであると考えられるところ、このような目的からすると、原告ウェブサイトがどのような形式のウェブサイトであるかを掲載すること自体が、批評の前提として重要な要素であり、原告画像を引用する必要性が認められる。そして、本件画像の下には、「運営会社詳細」として、原告に関する情報が記載されており、引用元も記載されているといえる。
 したがって、本件ウェブページに本件画像を掲載したことは、引用して利用する方法や態様が公正な慣行に合致したものであり、かつ、引用の目的上正当な範囲内で行われたものであるといえるから、「引用」(著作権法32条1項)に該当し、原告の著作権を侵害しない。
(4)争点2(本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について
(原告の主張)
 原告は、本件発信者に対し、原告画像に係る原告の著作権が侵害されたことを理由として、本件画像の消去請求及び不法行為に基づく損害賠償請求をすることを準備している。そのためには、本件発信者の氏名や住所等の情報が必要であるから、本件発信者情報の開示を求める正当な理由がある。
(被告の主張)
 不知。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(権利侵害の明白性)について
(1)争点1−1(原告画像一部の著作物性の有無)について
 証拠(甲2、4、6)によれば、原告画像一部は、最上部に、原告の会社名とともに「競艇予想のプロ集団」等と記載され、その直下に、原告画像一部の横幅全体にわたって原告写真が配置されており、原告写真は、机を囲んで着席し、会議中の様相を呈したスーツ姿の男女8名が、一斉にカメラの方向に顔及び視線を向けた状況を写したものであり、株式会社オフィスキューブのカメラマンがこれを撮影したことが認められる。
 上記認定事実によれば、原告写真は、撮影時間帯、被写体の組合せ、選択及び配置、構図並びに撮影方法を工夫し、シャッターチャンスを捉えて撮影されたものであり、撮影者の思想又は感情が創作的に表現された「写真の著作物」(著作権法10条1項8号)に該当するというべきである。そして、原告写真は、原告画像一部の上下中央に位置し、原告画像一部の中で相当程度の大きさを占めていることからすると、原告画像一部は、少なくとも上記のとおり著作物性が認められる原告写真を含むという意味において、著作物性を有すると認めるのが相当である。
(2)争点1−2(原告画像の著作権の帰属)
 証拠(甲6)及び弁論の全趣旨によれば、原告画像は、日本情報コンサルタンツ株式会社が原告の考案したキャッチフレーズ等を基に作成し、株式会社オフィスキューブのカメラマンが同社の職務上撮影した原告写真を組み合わせたものであり、原告は、両社から、これらの成果物に係る著作権を譲り受けたことが認められる。
 したがって、原告画像の著作権は、原告に帰属する。
(3)争点1−3(適法な引用の成否)について
ア 証拠(甲3、4、乙1)によれば、本件ウェブサイトは、各種競艇予想サイトについて、予想が当たるか否かを比較したり、これらを利用した者等から批評の投稿を募り、この投稿を競艇予想サイトごとに掲載したりするウェブサイトであること、本件ウェブページは、本件ウェブサイトのうち、原告及び原告ウェブサイトを批評することを目的とするウェブページであること、本件ウェブページの上部に本件画像が掲載され、「皆様からのTOPTREND(トップトレンド)の情報提供をお待ちしております。」との記載に続いて、「運営会社詳細」として、原告ウェブサイト名並びに原告の商号、運営者、電話番号及び住所が記載されているが、本件発信者自身の原告又は原告ウェブサイトに対する批評は記載されていないこと、上記「運営会社詳細」の記載の更に下には、多数人から投稿された原告又は原告ウェブサイトに関する批評が順次記載され、それらの投稿は、原告の予想やビジネスモデルの適否に関するものがほとんどであり、他方で、最上段には「これが競艇のプロ集団のやるですか」、中段には「写っている人間が金持ってそうに見えないってところ(笑)」、最下段には「ガッツリ顔出してるけど、ここのサイトはどんな感じなんかね?」といった投稿も存在すること、記載された投稿を全て除くと、本件画像は本件ウェブページのうちかなりの大きさを占めていることが認められる。
イ 他人の著作物を引用した利用が許されるためには、その方法や態様が、報道、批評、研究等の引用目的との関係で、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであり、かつ、引用して利用することが公正な慣行に合致することが必要であるというべきである。
 前記アの認定事実によれば、本件ウェブページは、主として、第三者から投稿された原告又は原告ウェブサイトに関する批評を掲載するためのウェブページであり、本件発信者自身は、原告の商号や運営者等の情報を記載したものの、原告又は原告ウェブサイトに関する批評を全く記載しておらず、ましてや本件画像に関する意見は何も記載していないということができる。また、本件発信者は、原告に関する情報の提供を呼び掛けてはいるが、本件画像に関する意見を求めたものではなく、実際に投稿された批評を見ても、原告の予想やビジネスモデルの適否に関するものがほとんどであり、むしろ、本件画像を単に揶揄するようなものも含まれている。これらの事情に鑑みると、本件ウェブページにおいて、批評の対象である原告ウェブサイトを示すために、本件画像を掲載する必要性は乏しいといわざるを得ない。
 さらに、前記アのとおり、第三者からの投稿を除くと、本件画像は、本件ウェブページにおいてかなりの大きさを占めており、また、本件ウェブページを子細に検討しても、その出典が明確に記載されているとは認められない。
 以上によれば、本件ウェブページにおいて本件画像を掲載することによる原告画像を利用した行為は、その方法や態様からして、原告又は原告ウェブサイトを批評する投稿を募り、これを掲載するという目的との関係で、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるとはいえないし、引用して利用することが公正な慣行に合致するともいえないから、適法な引用(著作権法32条1項)には該当しない。
ウ これに対して、被告は、@本件ウェブページは原告に対する口コミ等が中心であり、本件画像は本件ウェブページ全体の表示割合のごく一部を構成するにすぎないから、本件ウェブページと本件画像とを明瞭に区別して認識することができる上、分量的にも内容的にも、原告に対する口コミ等が主であり、本件画像は従であること、A本件ウェブページは競艇予想サイトを批評することを目的とするところ、原告ウェブサイトがどのようなものかを掲載することはその重要な要素であり、「運営会社詳細」として引用元も記載されていることからすると、本件発信者が本件ウェブページに本件画像を掲載することにより原告画像を引用したことは適法な引用であると主張する。
 しかし、上記@について、前記前提事実(3)、前記1(1)及び前記アによれば、本件ウェブページにおける最上段の投稿には本件画像の最上部にある「競艇予想のプロ集団」というフレーズに類似した「競艇のプロ集団」との記載があり、中段の投稿には「写っている人間」との、最下段の投稿には「ガッツリ顔出してるけど」との各記載があることからすると、本件ウェブページの投稿は、いずれも本件画像が掲載されていることを前提としたものであり、本件発信者が本件画像を本件ウェブページに掲載した時点で、第三者からの投稿はなかったと推認するのが相当である。そうすると、前記アのとおり、本件ウェブページには本件発信者自身の原告又は原告ウェブサイトに関する批評は記載されておらず、本件画像が掲載された時点において、本件画像は本件ウェブページにおいてかなりの大きさを占めていたものであるから、本件画像が分量的にも内容的にも従たる役割しか果たしていなかったとはいえない。
 また、上記Aについて、前記アの認定事実によれば、本件ウェブページは、競艇の予想が当たるか否かという観点から、原告又は原告ウェブサイトを批評することを目的としたものであることは明らかであり、本件画像はそのような批評の対象となるものとはいえないから、本件画像を掲載する必要性があったとはいえない。本件画像を見れば、原告ウェブサイトにおける画像であろうことは推測できるが、URLの記載はないし、いつの時点のものかも明らかではないから、引用元が明確かつ正確に記載されたとはいえない(前記前提事実(2)のとおり、原告画像一部は、かつての原告ウェブサイトの一部分を切り取ったものである。)。
 したがって、被告の上記各主張はいずれも採用することができない。
(4)小括
 前記前提事実(3)並びに前記(1)及び(2)のとおり、本件発信者は、被告のホスティングサービスを利用して、本件ウェブページに著作物性を有する原告画像一部と同一の本件画像を掲載することにより、原告画像を有形的に再製し、不特定又は多数の者が、インターネットを通じて本件ウェブページにアクセスし、本件画像を閲覧したと認められる。そして、前記(3)のとおり、本件画像の掲載は原告画像を適法に引用するものとは認められず、他に違法性阻却事由は存在しない。
 したがって、原告画像に係る原告の著作権(複製権及び公衆送信権)が侵害されたことは明白であるというべきである。
2 争点2(本件発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)について
 証拠(甲6)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件発信者に対し、原告画像に係る原告の著作権が侵害されたことについて、本件画像の消去請求及び不法行為に基づく損害賠償請求をする意思を有しており、そのためには、被告が保有する本件発信者情報の開示を受ける必要があるものと認められる。
 したがって、原告には、本件発信者情報の「開示を受けるべき正当な理由がある」(プロバイダ責任制限法4条1項2号)と認められる。
第4 結論
 以上によれば、原告の請求は理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第29部
 裁判長裁判官 國分隆文
 裁判官 小川暁
 裁判官 矢野紀夫


(別紙1)発信者情報目録
 被告が管理するサーバーコンピューターにおいて、下記ウェブページを開設する者に関する情報であって、次に掲げるもの
 1 氏名又は名称
 2 住所
 3 電子メールアドレス
 記
 名称 「元サクラ経験者が語る!競艇予想サイトの裏側」
 URL https://以下省略

(別紙2)発信者掲載画像目録 省略
(別紙3)原告画像目録 省略
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