判例全文 line
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【事件名】BitTorrent“アダルト動画”事件
【年月日】令和3年8月27日
 東京地裁 令和2年(ワ)第1573号 債務不存在確認請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年7月8日)

判決
原告 X1(以下「原告X1」という。)
原告 X2(以下「原告X2」という。)
原告 X3(以下「原告X3」という。)
原告 X4(以下「原告X4」という。)
原告 X5(以下「原告X5」という。)
原告 X6(以下「原告X6」という。)
原告 X7(以下「原告X7」という。)
原告 X8(以下「原告X8」という。)
原告 X9(以下「原告X9」という。)
原告 X10(以下「原告X10」という。)
原告 X11(以下「原告X11」という。)
原告ら訴訟代理人弁護士 笹浪靖史
同 伊藤敦
同訴訟復代理人弁護士 吉田佑介
同 大谷匠
同 関根健太
被告株式会社 WILL
同訴訟代理人弁護士 戸田泉
同 角地山宗行
同 籠屋恵嗣


主文
1 原告X1の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は3万6932円を超えては存在しないことを確認する。
2 原告X2の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は5万9660円を超えては存在しないことを確認する。
3 原告X3の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は3万9367円を超えては存在しないことを確認する。
4 原告X4の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は9万4345円を超えては存在しないことを確認する。
5 原告X5の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
6 原告X6の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は2万8190円を超えては存在しないことを確認する。
7 原告X7の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は8万9835円を超えては存在しないことを確認する。
8 原告X8の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は1万6726円を超えては存在しないことを確認する。
9 原告X9の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は6万1445円を超えては存在しないことを確認する。
10 原告X10の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は5万9738円を超えては存在しないことを確認する。
11 原告X11の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
12 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
13 訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 原告X1の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
2 原告X2の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
3 原告X3の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
4 原告X4の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
5 原告X5の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
6 原告X6の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
7 原告X7の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
8 原告X8の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
9 原告X9の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
10 原告X10の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
11 原告X11の被告に対する別紙著作物目録記載の著作物の著作権侵害に基づく損害賠償債務は存在しないことを確認する。
第2 事案の概要
1 原告らは、いずれも、BitTorrentと呼ばれるファイル共有ソフトを利用していたところ、別紙著作物目録記載のアダルト動画(以下「本件著作物」という。)の著作権者である被告から、原告らが本件著作物の動画ファイルをBitTorrentにアップロードしたことにより、本件著作物に係る被告の著作権が侵害されたとして、損害賠償請求を受けた。
 本件は、以上の事実関係をもとに、原告らが、それぞれ、被告に対し、本件著作物に係る著作権侵害に基づく損害賠償債務が存在しないことの確認を求める債務不存在確認請求訴訟である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実。なお、本判決を通じ、証拠を摘示する場合には、特に断らない限り、枝番を含むものとする。)
(1)当事者
ア 原告らは、BitTorrentを利用していた者である。
イ 被告は、映画、ビデオの映像制作、編集業務、販売等を目的とする株式会社である。
(2)被告による本件著作物の販売
ア 被告は、本件著作物の著作権者である。(弁論の全趣旨)
イ 被告は、本件著作物をDVD(販売価格4378円)及びBlu−ray(販売価格5478円)の各媒体で販売しているほか、合同会社DMM.com(以下「DMM」という。)のウェブサイトにおいて、ダウンロード及びストリーミング形式で、通常版(販売価格980円)及びHD版(販売価格1270円)を販売している。(乙1、7)
(3)BitTorrentの仕組みBitTorrentは、いわゆるP2P形式のファイル共有ソフト(プロトコル)であり、その概要や使用の手順は、次のとおりである。
ア 概要及び意義
(ア)BitTorrentでは、特定のファイルを配布する場合、まず、当該ファイルを小さなデータ(ピース)に細分化し、分割された個々のデータ(ピース)をBitTorrentネットワーク上のユーザー(ピア)に分散して共有させる。当該ファイルのダウンロードを希望するユーザーは、ネットワークに参加して自らピアとなり、ピースをダウンロードするとともに、多数存在する他のユーザー(ピア)との間でお互いが保有するピースを授受することを通じ、分割された全てのピースをダウンロードした上で、それらを完全なファイルに復元することで、当該ファイルを取得することができる。
(イ)完全な状態のファイルを持つユーザーは、「シーダー」と呼ばれる。目的のファイルにつきダウンロードが完了する前のユーザーは「リーチャー」と呼ばれるが、ダウンロードが完了し、完全な状態のファイルを保有すると、当該ユーザーはシーダーとなり、今度は、リーチャーからの求めに応じて、当該ファイルをアップロードしてリーチャーに提供することになる。
 また、リーチャーは、目的のファイル全体のダウンロードが完了する前であっても、既に所持しているファイルの一部(ピース)を、他のリーチャーと共有するためにアップロードする。すなわち、リーチャーは、目的のファイルをダウンロードすると同時に、他のリーチャーに当該ファイルの一部を送信することが可能な状態に置く仕組みとなっている。
(ウ)BitTorrentは、このようなユーザー相互間のデータの授受を通じて、ファイルを保管するためのサーバを必要とすることなく、大容量のファイルを高速で共有することを可能とするものである。
(以上につき、甲4、乙5の2〔2頁〕、弁論の全趣旨)
イ 利用の手順
(ア)BitTorrentを使用するには、ファイルをダウンロードするための「クライアントソフト」を自己の端末にインストールした上で、「インデックスサイト」と呼ばれるウェブサイトにアクセスして、目的のファイルの所在等についての情報が記載された「トレントファイル」を取得する。トレントファイルには、目的のファイル本体のデータは含まれないが、分割されたファイル(ピース)全てのハッシュとともに、ピースを完全な状態のファイルに再構築するための情報や、「トラッカーサイト」のアドレスが記録されている。トレントファイルは、いわば、細分化されたピースを復元するための設計図のような役割を果たす。
(イ)ユーザーが入手したトレントファイルを自己の端末内のクライアントソフトに読み込むと、同端末は、トラッカーサイトと通信を行い、目的のファイルを保有している他のユーザーのIPアドレスを取得し、それらのユーザーと接続した上で、当該ファイルのダウンロードを開始する。トラッカーサイトは、シーダーやリーチャーを相互に接続し、ファイルの配布を実際に行うためのウェブサイトである。
(ウ)ユーザーは、ダウンロードした当該ファイルについて、自動的にピアとしてトラッカーサイトに登録される仕組みとなっている。これにより、自らがダウンロードしたファイル(ピース)に関しては、他のピアからの要求があれば、当該ピースを提供しなければならないため、ダウンロードと同時にアップロードが可能な状態に置かれることになる。
(エ)ユーザーは、分割されたファイル(ピース)を複数のピアから取得するが、BitTorrentクライアントは、トレントファイルに記録された各ピースのハッシュや、再構築に必要なデータに基づき、各ピースを完全な状態のファイルに復元する。これにより、それまではリーチャーであった当該ユーザーは、以後はシーダーとして機能することになる。
(オ)ユーザーが特定のファイルについてダウンロードしたデータ容量とアップロードしたデータ容量の比率を「共有比」という。
(以上につき、乙5、6、弁論の全趣旨)
ウ アップロードの終期
 BitTorrentは、インターネットを通じてデータの授受を行うものであるため、自己の端末がオフライン状態にあるか、通信相手が存在しない状態であれば、ファイルのアップロードは行われない。また、オンライン状態であっても、ソフトウェアを起動していなければアップロードは行われないほか、BitTorrent上や端末の記録媒体からファイルを削除すれば、以後、当該ファイルがアップロードされることはない。
(甲11、12、乙5、弁論の全趣旨)
エ 匿名性
 BitTorrentネットワークには匿名性はないため、ユーザーがトラッカーにアクセスすると、そのIPアドレスはトラッカーサイトの管理者に把握される。(乙5の2〔4頁〕)
(4)被告による原告らの特定に至る経緯
ア 被告における内部調査
 被告は、平成30年6月1日から同月15日にかけて、内部調査を行ったところ、次の各ハッシュにより特定される本件著作物の動画ファイルの一部(ピース)につき、BitTorrentを利用してアップロード及びダウンロードを行っている者のIPアドレスを特定した(乙11)。
(ア)ハッシュ(ハッシュタグは省略)により特定されるファイル(以下「本件ファイル1」という。)について
IPアドレス:(IPアドレスは省略)(以下「IP1@」という。)
(IPアドレスは省略)(以下「IP1A」という。)
(IPアドレスは省略)(以下「IP1B」という。)
(IPアドレスは省略)(以下「IP1C」という。)
(イ)ハッシュ(ハッシュタグは省略)により特定されるファイル(以下「本件ファイル2」という。)について
 IPアドレス:(IPアドレスは省略)(以下「IP2@」という。)
(IPアドレスは省略)(以下「IP2A」という。)
(IPアドレスは省略)(以下「IP2B」という。)
(ウ)ハッシュ(ハッシュタグは省略)により特定されるファイル(以下「本件ファイル3」といい、本件ファイル1〜3の一部又は全部を「本件各ファイル」という。)について
 IPアドレス:(IPアドレスは省略)(以下「IP3@」という。)
(IPアドレスは省略)(以下「IP3A」という。)
イ プロバイダに対する発信者情報の開示請求
 被告は、平成30年8月末から同年9月頃にかけて、次のプロバイダ各社(以下、これらのプロバイダの一部又は全部を「プロバイダ各社」という。)に対し、上記ア記載のIPアドレス等につき、その発信者情報の開示を請求した(ただし、下記(カ)及び(キ)については、照会したIPアドレスは不明である。)。
(ア)株式会社TOKAIコミュニケーションズ(乙12の1)IPアドレス:IP1@
(イ)NTTコミュニケーションズ株式会社(乙12の2)IPアドレス:IP1A、IP2@
(ウ)ソフトバンク株式会社(乙12の3)IPアドレス:IP1B、IP1C、IP2A
(エ)ニフティ株式会社(乙12の4)IPアドレス:IP2B、IP3@
(オ)株式会社朝日ネット(乙12の5)IPアドレス:IP3A
(カ)株式会社ジェイコム東京
(キ)株式会社ジェイコムイースト
ウ プロバイダ各社による発信者情報の開示
 プロバイダ各社は、別紙「原告らの状況一覧」の「意見照会書が届いた時期」記載の年月日の頃に、次のとおり、それぞれ契約関係にある原告らに対し、意見照会書を送付し、発信者情報の開示についての同意を取得した上で、平成30年10月から11月にかけて、被告に対し、その氏名等を開示した。
(ア)株式会社TOKAIコミュニケーションズ(乙13の1)原告X1(IPアドレス:IP1@)
(イ)NTTコミュニケーションズ株式会社(乙13の2)原告X2(IPアドレス:IP1A)原告X4(IPアドレス:IP2@)
(ウ)ソフトバンク株式会社(乙13の3)原告X3(IPアドレス:IP1B、IP1C)A8(IPアドレス:IP2A)
(エ)ニフティ株式会社(乙13の6・7)原告X7(IPアドレス:IP2B)原告X9(IPアドレス:IP3@)
(オ)株式会社朝日ネット(乙13の8)原告X10(IPアドレス:IP3A)
(カ)株式会社ジェイコム東京(乙13の4)原告X5(IPアドレスは不明)
(キ)株式会社ジェイコムイースト(乙13の5・9)原告X6及び原告X11(IPアドレスはいずれも不明)
エ 被告による損害賠償請求
 被告は、令和元年10月1日付けで、原告らに対し、本件著作物に係る著作権侵害を理由に、それぞれ、下記の損害額の支払を求める内容の通知書を送付した(乙14)。
(ア)原告X1、原告X2、原告X3(本件ファイル1について)
 損害額4805万7808円(=販売価格5378円×ダウンロード回数8936回)
(イ)原告X4、原告X5、原告X6、原告X7、原告X8(本件ファイル2について)
 損害額1944万6848円(=販売価格5378円×ダウンロード回数3616回)
(ウ)原告X9、原告X10(本件ファイル3について)
 損害額1億6287万7008円(=販売価格4298円×ダウンロード回数3万7896回)
(エ)原告X11(本件ファイル1及び2について)
 損害額6750万4656円(=販売価格5378円×ダウンロード回数1万2552回)
3 争点
(1)著作権侵害について
ア 著作権侵害の有無(争点1−1)
イ 共同不法行為性(争点1−2)
(2)損害について
ア 共同不法行為に基づく損害の範囲(争点2−1)
イ 減免責の可否(争点2−2)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1−1(著作権侵害の有無)
(被告の主張)
 原告らは、BitTorrentを通じて本件著作物の動画ファイルをダウンロードする際に、他のユーザーの求めに応じて当該ファイル(本件各ファイル)をアップロードしている。これは、本件著作物に係る被告の複製権及び頒布権を侵害するとともに、インターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態に本件著作物を置く行為であるから、本件著作物に係る被告の送信可能権を侵害するものである。
(原告らの主張)
(1)アップロード行為の不存在
 原告X6及び原告X10において、本件著作物のデータをアップロードしたことは認める。
 その余の原告については、データが残っていないため、本件著作物のデータをダウンロード及びアップロードした事実につき不知であるが、被告らはこの点につき立証をしていないから、その余の原告については、被告に対する権利侵害があったということはできない。
(2)複製権の侵害がないこと
ア 著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいい、著作物の一部分であっても、著作物としての価値があると評価し得るものであれば複製権が及ぶとされる。しかしながら、BitTorrentによるファイルの送受信は、ファイルを細かく断片化して行われるものであり、仮に原告らがBitTorrentの利用を通じて本件著作物のピースを他者に送信していたとしても、個々のピースそれ自体には著作物として価値はないから、原告らの行為によって、本件著作物が有形的に再製されたということはできない。
イ 複製行為の主体については、複製の対象、方法、複製への関与の内容、程度等の諸要素を考慮して判断される必要がある。BitTorrentにおいては、ファイルを送信する側は、自らがファイルをアップロードしていることを認識していないことも多い上に、原告らがファイルを送信しなくとも、無数に存在するその他のピアによるアップロードを通じて、ユーザーはファイル全体をダウンロードすることが可能であることからすれば、仮に複製権侵害があったとしても、その主体は、本件各ファイルのアップロードをした原告らではなく、ダウンロードをした側のユーザーであると考えることが実態に沿う。
(3)頒布権の侵害がないこと
 頒布権は、複製物の公衆への譲渡を規制する権利であるところ、前記のとおり、本件では複製物が再製されていない以上、頒布権侵害が成立する余地はない。
(4)送信可能化権の侵害がないこと
 本件著作物を最初に送信可能な状態に置いたのは原告らではなく、原告らは、ユーザー間における本件著作物のピースの授受を中継した可能性があるにすぎない。実際に原告らが中継したピースの具体的な内容は明らかでなく、ダウンロードを開始した直後に何らかの事情でダウンロードが停止し、結果的に1ビット程度の微細なデータしか送信可能化されなかった可能性もあることを考慮すれば、原告らが本件著作物を送信可能な状態に置いたと評価することは相当ではない。
2 争点1−2(共同不法行為性)
(被告の主張)
 自らの行為が他者の行為と相まって権利・法益侵害若しくは損害が発生すること、又は発生する可能性があることを認識しつつ、あえてその行為をする場合には、当該権利・法益侵害又は損害の発生につき意思的関与が存在することになるから、行為者間には民法719条1項前段の共同不法行為が成立する。
 原告らは、各自のダウンロード及びアップロード行為が他のユーザーのダウンロード及びアップロード行為と相まって本件著作物に係る著作権を侵害することを認識しつつ、ダウンロード及びアップロード行為に及んだものであるから、上記の意思的関与が存在し、原告らには民法719条1項前段の共同不法行為が成立する。
(原告らの主張)
(1)BitTorrentのユーザーは、各自の独立した意思と責任に基づきファイルのダウンロードを行っており、その結果、1回のダウンロードにより1つの複製行為が生じるのであるから、同一のハッシュのファイルが複数のユーザーによって複数回ダウンロードされた場合には、それぞれ独立した複製権侵害行為が複数存在するにすぎない。
 したがって、本件は、複数の不法行為が集合したものとみるべきであり、特定のハッシュのファイルに関し、複数回のダウンロードが行われているからといって、全体を一つの不法行為と捉えて民法719条を適用することは相当ではない。
(2)民法719条1項前段は、共同行為者の行為によって結果の全部又は少なくとも主要な部分が惹起されたことを前提に、当該結果の全てを負わせる規定であるところ、本件においては、仮に原告らが本件著作物のピースにつきダウンロード及びアップロードをしていたとしても、最初にシーダーとなったわけではない。原告X6や原告X10の共有比は、それぞれ0.28や1.151であり、本件著作物1本程度のデータ量をアップロードしたにすぎないことからすれば、ごく軽微な行為をしたにすぎない。被告の主張するような数千件単位のダウンロードという結果の全部又は主要な部分を惹起したということはできないので、民法719条1項前段を適用する前提を欠く。
2 争点2−1(共同不法行為に基づく損害の範囲)
(被告の主張)
(1)相当因果関係の範囲
 共同不法行為において加害者が連帯して賠償すべき損害の範囲は、共同不法行為と相当因果関係に立つ全損害である。
 本件において、原告らは、最初のシーダーが本件著作物の動画ファイルをアップロードして以降、多数のユーザーが連綿と行ってきた同ファイルのダウンロード及びアップロード行為に参加し、全体として、BitTorrentネットワーク内で同ファイルを共有するという共同行為に及んだものである。このような共同行為は、社会的にも実質的にも密接な関連を持つ一体の行為であり、権利侵害も当該最初のアップロード以降継続して生じているから、原告らは、自らがBitTorrentの利用を開始する以前に行われた他のユーザーによるアップロード行為により生じた損害についても責任を負う。
(2)ダウンロード回数
ア 令和2年4月2日当時のダウンロード回数(主位的主張)
(ア)原告らのアップロード行為により、本来、DVD又はBlu−rayを購入しなければ本件著作物を鑑賞することのできない者が、無償で本件著作物の動画ファイルをダウンロードし、鑑賞することが可能となった。
 令和2年4月2日時点での本件各ファイルのダウンロード回数は、別紙「損害額一覧表(被告主張)」記載1−1の「ダウンロード回数」欄記載のとおりである。被告には、ダウンロード1回につき、DVD・Blu−rayの販売価格相当額の損害が生じるところ、総額としては、上記のダウンロード回数に同「DVD/ブルーレイ価格」欄記載の販売価格(ファイルにより異なる。)を乗じた額の損害が生じている。個々の原告ごとの具体的な金額は、同「損害額」欄記載のとおりである。
(イ)DVDやBlu−rayの販売価格ではなく、ダウンロード及びストリーミングの販売価格が損害の基礎となる場合には、別紙「損害額一覧表(被告主張)」1−2の「損害額」欄記載の各金額が損害となる。
イ ダウンロード回数増加分(予備的主張)
 被告が原告らに対し前記前提事実(4)エ記載の令和元年10月1日付け通知書を送付した時点から令和3年5月18日の時点(乙8〜10)までの間に、本件各ファイルにつき、それぞれ、ダウンロード回数が501回、232回、910回増加している。これらの増加分に係るダウンロードについては、原告ら自身がBitTorrentの利用を開始した後に行われたものであるから、原告らは、少なくともこれらによって生じた損害については賠償すべき責任を負う。
 上記の考え方に基づき、ダウンロード1回につき、DVD又はBlu−rayの販売価格相当額の損害が生じるとした場合には、別紙「損害額一覧表(被告主張)」2−1の「損害額」欄記載の各損害が生じており、ダウンロード及びストリーミング形式での販売価格相当額の損害が生じているとした場合には、同2−2の「損害額」欄記載の各損害が生じることになる。
ウ 原告らの主張に対する反論
 原告らは、乙2〜4記載のコンプリート数と甲10記載のコンプリート数が大幅に異なることを根拠に、乙2〜4記載のコンプリート数の正確性を争うが、コンプリート数が一致しないのは、各トラッカーサイトがコンプリート数を表示するに当たって参照するトラッカーサーバーが異なることが原因であり、何ら不自然なことではない。
(原告らの主張)
(1)相当因果関係の範囲
ア 被告は、原告らに共同不法行為が成立することを前提に、原告らが関与する以前のダウンロードや、原告らが関与を終えた後のダウンロードも含め、本件各ファイルを用いた全ての複製行為につき賠償責任を負う旨主張するが、原告らがBitTorrentを通じてファイル共有を行う前に複製されたファイルにより生じた権利侵害については、原告らによるアップロード行為との間に因果関係は存在しない。同様に、原告らがアップロード行為を終了した以降の複製行為についても、原告らが責任を負う余地はない。
イ BitTorrentを利用して本件著作物をダウンロードした者の中には、有料であればダウンロードしなかったものが相当数含まれているはずであり、ダウンロードの回数分だけ被告の販売機会が失われる関係にはない以上、因果関係を欠く。
ウ BitTorrentを通じたダウンロードと被告からの購入とでは、その需要者の範囲、流通網及び販売方法が全く異なる。すなわち、BitTorrentのユーザーは、アダルト動画の愛好者にとどまらないから、興味本位で本件著作物の動画ファイルをダウンロードしたにすぎない者も少なくないのに対し、本件著作物はその内容に照らし、需要者の範囲は限定されている上に、販売形態もアダルト作品の販売店や販売サイトに限られている。そうすると、BitTorrentで本件著作物の動画ファイルが流通したからといって、直ちに本件著作物に係る被告の売上げが下がる関係にはない。
(2)ダウンロード回数について
ア 被告は、乙2〜4の記載を根拠として、令和2年4月2日当時のダウンロード回数を主張しているが、乙2〜4は作成者のみならず、サイトの運営団体の詳細や「Completed」数の具体的な計測方法が不明であり、その記載内容の正確性は客観的に担保されていない。他の同種のサイドの多くでは、ダウンロード数までは明らかでない上に、ダウンロード数が表示されたサイト(甲10)においても、本件各ファイルのコンプリート数は乙2〜4とは大幅に異なることからすれば、乙2〜4記載の数値に信用性はない。
イ BitTorrentは、一度参加すると永久にファイルを送信し続けるという仕組みのものではなく、通信相手が存在しない状態になった場合や、ユーザーがBitTorrentを起動させていない場合、対象となるファイルがBitTorrent上から削除された場合等には、ファイルが送信されることはない。自分がファイルをダウンロードしない場合にはあえてBitTorrentを起動させておく理由はない以上、ユーザーが他者にファイルを送信するのは、当該ファイルを自分がダウンロードしている最中に限られるはずである。
ウ 実際にも、原告らは、別紙「原告らの状況一覧表」記載の「ソフトウェアの状況」欄記載の時期に、自己の端末からBitTorrentを削除しており、以後行われた本件各ファイルのダウンロードについては、責任を負う余地はない。
 原告らの多くが、同欄記載のとおり、プロバイダ各社からの意見照会書を受領した直後にBitTorrentを削除しているのは、意見照会書が届いた際に、何か不都合なことが生じたと直感し、半ば反射的に関連する証拠を削除してしまうためである。原告ら代理人も、上記別紙の「法律相談日」に行った法律相談において、原告らに違法性を説明し今後利用することがないよう必ず指導している。
(3)販売価格について
ア 本件において被告が損害と捉えているのは、本来有償で販売されている本件著作物の動画ファイルが、BitTorrentを通じて無償でダウンロードされてしまうことである以上、損害額を算定するに当たっては、DVDやBlu−rayの販売価格ではなく、ダウンロード及びストリーミング購入する際の販売単価を基礎とすべきである。
 したがって、損害額算定の基礎となる販売価格は、本件各ファイルのダウンロード1回につき、980円(通常版)又は1270円(HD版)となる。
イ 本件著作物の販売単価は常に変動しており、平成30年9月7日時点では、ダウンロードとストリーミングのセット販売価格は880円(通常版)又は1170円(HD版)であった(甲13)。原告らが本件著作物の動画ファイルをアップロードした時期は不明である以上、同時期における販売単価も不明であるところ、損害額の算定に当たっては、このような事情も考慮されるべきである。
ウ 被告は、DMMの運営するサイトにおいて、本件著作物につき、ダウンロード及びストリーミング形式での販売を行っている。被告は、別件訴訟において、同サイトにおけるコンテンツの売上総額の38%が被告の配信コンテンツ料であると主張していたことに照らせば、本件においても、被告自身の売上げは販売価格の38%にとどまると考えるべきである。
3 争点2−2(減免責の可否)について
(原告らの主張)
(1)民法719条1項前段の不法行為の成立が認められる場合であっても、その関連共同性については、事案ごとに強弱があるところ、これまでの裁判例によれば、関連共同性が弱い場合には減免責が認められている。本件では、以下のとおり、原告らの間の関連共同性は微弱であることからすれば、100%に近い大幅な減免責が認められるべきである。
ア 原告らは、本件著作物のシーダーではなく、専ら無料で動画をダウンロードしたいというだけの末端のユーザーにすぎないため、積極的に複製物を作成しようという意思は希薄である。客観的にみても、原告らは、BitTorrentネットワークにおける本件著作物の流通に、ごく軽微な寄与をしたにすぎない。
イ 原告らは、他のユーザーとの面識も持たないから、主観的な結び付きも希薄である。
ウ 原告らは、他者のダウンロード行為により金銭的な利益を得ておらず、経済的な結合関係も存在しない。
(2)本件著作物のファイルサイズについて、乙2では8.8ギガバイト、乙3では7.0ギガバイト及び乙4では2.3ギガバイトと記載されており、それぞれそのサイズが異なっていることから、それぞれ本件著作物の一部しか複製されていない可能性が高い。したがって、損害額も応分に減額されるべきである。
(被告の主張)
 寄与度に基づく減免責が認められるのは民法719条1項後段の共同不法行為に限られ、同項前段に基づくいわゆる加害行為一体型の共同不法行為に関しては、単なる寄与度の低さを理由に連帯を否定することは認められていない。原告らの主張する事情は加害者間における求償の場面で考慮されるにすぎない。
第3 当裁判所の判断
1 争点1−1及び1−2(著作権侵害及び共同不法行為性)について
(1)原告らによる本件各ファイルのダウンロード
ア 原告X1、原告X2、原告X3、原告X4、原告X7、原告X8、原告X9及び原告X10について
 本件各ファイルは、いずれも本件著作物の動画ファイルの一部(ピース)であることが認められるところ(甲10、乙2〜4、8〜10)、前記前提事実によれば、@被告は、内部調査により、BitTorrentを通じて本件各ファイルの送受信を行っている者のIPアドレスを把握したこと、Aこれに基づき、被告は、プロバイダ各社に対して、当該IPアドレスに係る発信者情報の開示請求を行ったこと、Bその結果、プロバイダ各社から、本件ファイル1についてのIPアドレスに係る契約者として原告X1、原告X2及び原告X3の氏名の開示を、本件ファイル2についてのIPアドレスに係る契約者として原告X4、原告X7及びA8の氏名の開示を、本件ファイル3についてのIPアドレスに係る契約者として原告X9及び原告X10の氏名の開示をそれぞれ受けたことが認められる。
 これらの事実によれば、原告X1、原告X2及び原告X3が本件ファイル1を、原告X4、原告X8及び原告X7が本件ファイル2を、原告X9及び原告X10が本件ファイル3を、それぞれBitTorrentを通じて、ダウンロードしたとの事実を認めることができる(なお、原告X8について、プロバイダ契約の名義人はA8であるが、弁論の全趣旨に照らせば、契約回線を実際に使用していたのは原告X8であったと認めることができる。)。
イ 原告X6について
 原告X6がBitTorrentを通じて本件著作物の動画ファイルをダウンロードしたことは当事者間に争いがないところ、前記前提事実及び弁論の全趣旨を総合すれば、原告X6が本件ファイル2をダウンロードした事実を認めることができる。
ウ 原告X5、原告X11について
 原告X5及び原告X11は、記録が残っていないとして、本件著作物の動画ファイルをダウンロードした事実自体を争っているところ、前記前提事実によれば、被告は、平成30年11月頃、プロバイダから原告X5及び原告X11の氏名につき発信者情報の開示を受けたとの事実が認められ、これによれば、被告は、上記開示請求に先立ち、被告の著作権を侵害するファイルの送受信が行われたIPアドレスとして、原告X5及び原告X11のIPアドレスを把握していたものと推認される。
 しかし、原告X5及び原告X11はBitTorrentを通じて本件著作物以外の多数のファイルをダウンロードしていたものと認められ(乙15の5・11)、本件全証拠によっても、被告が把握した原告X5及び原告X11のIPアドレスに係るハッシュは明らかではないので、原告X5及び原告X11がBitTorrentを通じて本件著作物の動画ファイルの一部をダウンロードしたと認めることはできない。
(2)権利侵害について
ア 以上のとおり、原告X1、原告X2及び原告X3は本件ファイル1を、原告X4、原告X6、原告X7及び原告X8は本件ファイル2を、原告X9及び原告X10は本件ファイル3を、それぞれ、BitTorrentを通じてダウンロードしたものと認められる(以下、ダウンロードを行ったと認められる上記各原告を「原告X1ら」という。)。
 そして、前記前提事実2(3)のとおり、BitTorrentは、リーチャーが、目的のファイル全体のダウンロードが完了する前であっても、既に所持しているファイルの一部(ピース)を、他のリーチャーと共有するためにアップロード可能な状態に置く仕組みとなっていることに照らすと、原告X1らは、ダウンロードしたファイルを同時にアップロード可能な状態に置いたものと認められる。
イ 前記前提事実のとおり、BitTorrentは、特定のファイルをピースに細分化し、これをBitTorrentネットワーク上のユーザー間で
相互に共有及び授受することを通じ、分割された全てのファイル(ピース)をダウンロードし、完全なファイルに復元して、当該ファイルを取得することを可能にする仕組みであるということができる。
 これを本件に即していうと、原告X1らが個々の送受信によりダウンロードし又はアップロード可能な状態に置いたのは本件著作物の動画ファイルの一部(ピース)であったとしても、BitTorrentに参加する他のユーザーからその余のピースをダウンロードすることにより完全なファイルを取得し、また、自己がアップロード可能な状態に置いた動画ファイルの一部(ピース)と、他のユーザーがアップロード可能な状態に置いたその余のピースとが相まって、原告X1ら以外のユーザーが完全なファイルをダウンロードすることにより取得することを可能にしたものということができる。そして、原告X1らは、BitTorrentを利用するに際し、その仕組みを当然認識・理解して、これを利用したものと認めるのが相当である。
 以上によれば、原告X1らは、BitTorrentの本質的な特徴、すなわち動画ファイルを分割したピースをユーザー間で共有し、これをインターネットを通じて相互にアップロード可能な状態に置くことにより、ネットワークを通じて一体的かつ継続的に完全なファイルを取得することが可能になることを十分に理解した上で、これを利用し、他のユーザーと共同して、本件著作物の完全なファイルを送信可能化したと評価することができる。
 したがって、原告X1らは、いずれも、他のユーザーとの共同不法行為により、本件著作物に係る被告の送信可能化権を侵害したものと認められる。
ウ(ア)これに対し、原告らは、アップロード可能な状態に置いたファイルが全体のごく一部であり、個々のピースは著作物として価値があるものではないから、原告らの行為は著作権侵害に当たらないと主張するが、上記イで判示したとおり、原告X1らによる行為は、他のユーザーと共同して本件著作物を送信可能化したものと評価できるから、原告らの主張は採用することができない。
(イ)原告らは、ファイルを送信する側は、自らがファイルをアップロード可能な状態に置いていることを認識していないことも多いと指摘するが、原告X1らは、BitTorrentを利用するに当たって、前記前提事実(3)イ記載のような手続を踏み、各種ファイルやソフトウェアを入手している以上、BitTorrentの基本的な仕組みを理解していると推認されるのであって、とりわけ、BitTorrentにおいて、ユーザーがダウンロードしたファイル(ピース)について同時にアップロード可能な状態に置かれることは、その特徴的な点であるから、これを利用した原告X1らがこの点を認識していなかったとは考え難い。
(ウ)原告らは、送信可能化権侵害の主張に関し、ユーザー間における本件著作物に係るファイルの一部(ピース)の授受を中継した可能性やダウンロードを開始した直後に何らかの事情でダウンロードが停止した可能性があり、原告らが本件著作物を送信可能な状態に置いたと評価することはできないと主張する。
 しかし、BitTorrentにおいて、ユーザーがダウンロードしたファイル(ピース)について同時にアップロード可能な状態に置かれることは、前記判示のとおりであり、原告X1らがこれを中継したにすぎないということはできず、また、本件各ファイルのダウンロードの開始直後にダウンロードが停止したことをうかがわせる証拠もない。
(エ)原告らは、シーダーとして本件著作物の動画ファイルの配布を行ったものではなく、原告X6や原告X10の共有比に照らしても、被告の主張するダウンロード総数の全部や主要な部分を惹起したということはできないので、民法719条1項前段を適用する前提を欠くと主張する。
 しかしながら、そもそも、民法719条1項前段は、個々の行為者が結果の一部しか惹起していない場合であっても、個々の行為を全体としてみた場合に一つの加害行為が存在していると評価される場合に、個々の行為者につき結果の全部につき賠償責任を負わせる規定であるから、仮に個々の原告がアップロード可能な状態に置いたデータの量が少なく、結果に対する寄与が少なかったとしても、そのことは、原告X1らの共同不法行為責任を否定する事情にはならないというべきである。
エ 以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告X1らが本件各ファイルをアップロード可能な状態に置いた行為は、本件著作物に係る被告の送信可能化権を侵害することになる。
2 争点2−1(共同不法行為に基づく損害の範囲)について
(1)被告は、本件著作物の侵害は、本件各ファイルの最初のアップロード以降継続しており、社会的にも実質的にも密接な関連を持つ一体の行為であることなどを理由として、原告らがBitTorrentを利用する以前に生じた損害も含め、令和2年4月2日当時のダウンロード回数について、原告らは賠償義務を負う旨主張する。
 しかしながら、民法719条1項前段に基づき共同不法行為責任を負う場合であっても、自らが本件各ファイルをダウンロードし又はアップロード可能な状態に置く前に他の参加者が行い、既に損害が発生しているダウンロード行為についてまで責任を負うと解すべき根拠は存在しないから、被告の上記主張は採用することはできない。
 また、被告は、BitTorrentにアップロードされたファイルは、サーバからの削除という概念がないため、永遠に違法なダウンロードが可能であるとして、現在に至るまで損害は拡大している旨主張する。
 しかし、前記前提事実(3)ウのとおり、BitTorrentは、ソフトウェアを起動していなければアップロードは行われないほか、BitTorrent上や端末の記録媒体からファイルを削除すれば、以後、当該ファイルがアップロードされることはないものと認められる。
 そうすると、原告X1らがBitTorrentを通じて自ら本件各ファイルを他のユーザーに送信することができる間に限り、不法行為が継続していると解すべきであり、その間に行われた本件各ファイルのダウンロードにより生じた損害については、原告X1らの送信可能化権侵害と相当因果関係のある損害に当たるというべきである。他方、端末の記録媒体から本件各ファイルを削除するなどして、BitTorrentを通じて本件各ファイルの送受信ができなくなった場合には、原告X1らがそれ以降に行われた本件各ファイルのダウンロード行為について責任を負うことはないというべきである。
(2)アップロードの始期について
ア 以上を前提に検討するに、証拠(甲6)によれば、原告X6については、遅くとも平成30年6月4日までには本件ファイル2をアップロード可能な状態に置いていたことが認められる。
イ 原告X1、原告X2、原告X3、原告X4、原告X7、原告X8、原告X9及び原告X10については、BitTorrentを通じて本件各ファイルのダウンロードを開始した時期は明らかではないものの、証拠(乙11)によれば、遅くとも、それぞれ次の各年月日において本件各ファイルをアップロード可能な状態に置いていたことが認められる。
(ア)原告X1平成30年6月12日
(イ)原告X2平成30年6月4日
(ウ)原告X3平成30年6月2日
(エ)原告X4平成30年6月4日
(オ)原告X7平成30年6月12日
(カ)原告X8平成30年6月13日
(キ)原告X9平成30年6月2日
(ク)原告X10平成30年6月9日
(3)アップロードの終期について
ア 乙14及び弁論の全趣旨によれば、原告X1らは、それぞれ、別紙「損害額一覧表」の「終期」欄記載の各年月日に原告ら代理人に相談をしたことが認められるところ、同原告らは既にプロバイダ各社からの意見照会を受け、著作権者から損害賠償請求を受ける可能性があることを認識していた上、上記相談の際に、原告ら代理人からBitTorrentの利用を直ちに停止すべき旨の助言を受けたものと推認することができるから、同原告らは、それぞれ、遅くとも同日にはBitTorrentの利用を停止し、もって、本件各ファイルにつきアップロード可能な状態を終了したものと認めるのが相当である。
イ これに対し、原告らは、プロバイダ各社からの意見照会を受けた時点で、直感的にBitTorrentの利用を停止した旨主張するが、プロバイダ各社から意見照会を受けたからといって、直ちにBitTorrentの利用停止という行動に及ぶとは限らず、実際のところ、原告X6は、平成30年10月19日に受領したものの、少なくとも同年11月頃までBitTorrentソフトウェアを端末にインストールしていたことがうかがわれる(甲6)。そうすると、プロバイダ各社からの意見照会を受けた時点でBitTorrentの利用を停止したと認めることはできない。
ウ 以上によれば、原告X1らは、それぞれ、別紙「損害額一覧表」の「期間」欄記載の期間中に他のユーザーが本件各ファイルをダウンロードしたことにより生じた損害の限度で、賠償義務を負うことになる。
(4)ダウンロード数
ア 本件全証拠によっても、上記各期間中に本件各ファイルがダウンロードされた正確な回数は明らかではない。他方で、証拠(乙2〜4、8〜10)によれば、令和元年10月1日から令和3年5月18日までの595日間において、本件ファイル1については501、本件ファイル2については232、本件ファイル3については910、それぞれダウンロード数が増加していることが認められるところ、各原告につき、同期間の本件各ファイルのダウンロード数の増加率に、前記(2)・(3)において認定したダウンロードの始期から終期までの日数(別紙「損害額一覧表」の「日数」欄記載のとおり)を乗じる方法によりダウンロード数を算定するのが相当である。
 この計算方法に基づき算定されたダウンロード数は、別紙「損害額一覧表」の「期間中のダウンロード数」欄記載のとおりである。
 なお、原告らは、乙2〜4記載のコンプリート数(ダウンロード数)と甲10記載のコンプリート数が大幅に異なることを根拠に、乙2〜4記載のコンプリート数に依拠することは相当ではないと主張するが、コンプリート数が一致しないのは、参照するトラッカーサーバーが異なることが原因であると考えられ、上記乙2〜4のコンプリート数に特に不自然・不合理な点はない以上、上記各証拠に記載されたコンプリート数に基づいてダウンロード数を計算することが相当である。
(5)基礎とすべき販売価格
ア 原告X1らが本件各ファイルをBitTorrentにアップロード可能な状態に置いたことにより、BitTorrentのユーザーにおいて、本件著作物を購入することなく、無料でダウンロードすることが可能となったことが認められる。これにより、被告は、本件各ファイルが1回ダウンロードされるごとに、本件著作物を1回ダウンロード・ストリーミング販売する機会を失ったということができるから、本件著作物ダウンロード及びストリーミング形式の販売価格(通常版980円、HD版1270円)を基礎に損害を算定するのが相当である。
 そして、被告は、DMMのウェブサイトにおいて本件著作物のダウンロード・ストリーミング販売を行っているところ、被告の売上げは上記の販売価格の38%であると認められるので(弁論の全趣旨)、本件各ファイルが1回ダウンロードされる都度、被告は、通常版につき372円(=980×0.38)、HD版につき482円(=1270×0.38)の損害を被ったものということができる。
イ 本件ファイル3は通常版の動画ファイルのピースであるのに対し、本件ファイル1及び2はHD版の動画ファイルのピースであることが認められるので(弁論の全趣旨)、別紙「損害額一覧表」の「価格」欄記載のとおり、原告X1、原告X2、原告X3、原告X4、原告X6、原告X7及び原告X8については482円、原告X9及び原告X10については372円を基礎として、損害額を計算することが相当である。
ウ 本件各ファイルをダウンロードしたユーザーの中には有料であれば本件著作物を購入しなかったものも存在するという原告らの指摘や、BitTorrentのユーザーと本件著作物の需要者等が異なるという原告らの指摘も、前記認定を左右するものということはできない。
(6)以上によれば、原告X1らが被告に対して負うべき損害賠償の額は、それぞれ、別紙「損害額一覧表」の「損害額」欄記載のとおりとなる(なお、同別紙「D期間中のダウンロード数」は計算結果を小数第2位まで表示したものであり、「損害額」欄は小数第1位で切り捨てたものである。)。
3 争点2−2(減免責の可否)について
 原告らは、原告らにおいて複製物を作成しようという意思が希薄であり、客観的にも本件著作物の流通に軽微な寄与をしたにすぎないことや、原告らとユーザーとの間の主観的・経済的な結び付きが存在しないことからすれば、関連共同性は微弱であるとして、損害額につき大幅な減免責が認められるべきである旨主張するが、原告らの指摘するような事情をもって、前記認定の損害額を減免責すべき事情に当たるということはできない。
4 結論
 よって、原告らの請求は、主文の限度で理由があるので、その限度で認容し、その余は理由がないので棄却し、訴訟費用については民訴法64条但書を適用してその全部を被告に負担させることとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 佐藤達文
 裁判官 吉野俊太郎
 裁判官 小田誉太郎


(別紙)著作物目録
作品タイトル:グラビアアイドル究極進化!1年で開発された神BODY!大痙攣イキまくり乱交解禁スペシャル!高橋しょう子
品番:MIDE-465
掲載のURL:https://以下省略
収録時間:240分
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日本ユニ著作権センター
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