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【事件名】ヘアースタイルの写真無断掲載事件
【年月日】令和3年8月27日
 東京地裁 令和2年(ワ)第29009号 損害賠償等請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年7月9日)

判決
原告 株式会社PRIZE
同訴訟代理人弁護士 大澤一隆
被告 Y


主文
1 被告は、原告に対し、196万円及びこれに対する令和3年7月1日から支払済みで年3分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告に対し、別紙広告サイトの赤枠で囲まれた写真を削除せよ。
3 被告は、原告に対し、令和3年7月1日から前項の写真の削除済みまで1か月3万円の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告の負担とする。
5 この判決は、第1項、第3項及び第4項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、インターネット上で美容室の広告サイト用のヘアースタイル写真の利用サービスを提供する原告が、同サービスの利用登録をした被告に対し、被告が、上記サービスの利用契約に反し、登録店舗以外の店舗の広告サイトにヘアースタイル写真を掲載した上、同契約解除後も、広告サイト(登録店舗のものを含む。)にヘアースタイル写真を掲載し続け、ヘアースタイル写真に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害しているとして、上記サービスの利用契約又は著作権に基づき、別紙広告サイトの赤枠で囲まれた写真の削除を求めるとともに、登録手数料相当損害金1万円及び令和3年6月までの利用料相当損害金195万円の合計196万円及びこれに対する不法行為後の日である同年7月1日から支払済みまで民法所定の年3分の割合による遅延損害金並びに同日以降の1か月3万円の割合による利用料相当損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお、本判決を通じ、証拠を摘示する場合には、特に断らない限り、枝番を含むものとする。)
(1)原告の提供するサービス
 原告は、美容室の広告サイトに掲載するヘアースタイル写真の利用サービスの事業を営む株式会社である。
 原告は、インターネット上で、美容室専門のレンタル・販売サイト「Hot−style」(以下「原告レンタルサイト」という。)を運営し、同サイトに登録したユーザーに対し、原告に著作権の帰属する写真(以下「本件著作物」という。甲11、22、29、33、39)を含むヘアースタイル写真のデータを提供している。(甲1、2、19)
(2)原告レンタルサイトの利用規約
 原告レンタルサイトの利用規約(甲3。以下「本件規約」という。)には、以下の条項がある。
 「第1条(利用規約)
 本サービスの利用者(以下「ユーザー」といいます。)は、本規約全ての条項に同意し、本サービスを利用するものとします。また、本サービスを利用した場合、本規約に同意したものとみなします。
第2条(ユーザー登録)
1 ユーザー登録を希望する者(以下「登録希望者」といいます。)は、本規約に同意の上、当社所定の方法によりユーザー登録の申込みを行うものとします。
2 登録希望者は、前項の申込みを当社が承諾し、所定の利用料金等のお支払いが確認された後、ユーザー宛にID、パスワードを通知いたします。通知が到達したとき、ユーザーとなります。
3 (省略)
4 ユーザーは、1店舗につき1ユーザーとして登録するものとし、店舗が異なる場合には店舗毎にパスワードを必要とし、店舗毎に利用料金、登録費用を支払うものとします。
第3条(ID等)
1 ユーザーは、当社から付与される本サービスを利用する為に必要となるID及びパスワード(以下「ID等」といいます。)を利用して当サイトにログインするものとし、ID等は不正利用防止のため自らの責任において厳に保管管理するものとします。
2 ユーザーは、自己の帰責事由により、自らの管理するID等が第三者に不正利用されること等により当社に損害を与えた場合、その損害を賠償するものとします。
3 ユーザーは、理由の如何を問わず、ユーザーたる地位及びID等を第三者に譲渡又は貸与できないものとします。
第6条(退会)
1 当社は、ユーザーが次の各号に該当する場合、予め告知することなくユーザーの資格を停止し、又は強制的に退会させ、本サービスの利用を制限し、利用をお断りすることができるものとします。
(1)〜(3)(省略)
(4)本規約に違反した場合
(5)所定の申込書等を期間内に当社に返送しない場合
(以下略)
第8条(使用条件)
1 本著作物は、ユーザーの運営する美容院理容院ヘアサロン等の美容所理容所に関連した宣伝及び広告を目的として、インターネットを利用した次の各号の範囲で使用することができます。
(1)ユーザーの各種広告(電磁媒体のみ)への掲載
(2)ユーザーのホームページへの掲載
(3)ユーザーのブログSNSサービス短文投稿サイト等への掲載
(以下略)
第9条(禁止事項)
1 本サービスを利用するにあたり、ユーザーは、次の各号に定める行為、そのおそれのある行為をしないものとします。
(1)前条第1項の目的以外に本著作物を利用すること
(2)前条第1項各号の範囲を越えて本著作物を利用すること
(3)、(4)(省略)
(5)本著作物の使用を第三者に許諾し又は再販売等すること
(6)その他、前各号に準ずること
2 ユーザーは、前項に違反した場合、損害賠償の責任を負うことに同意します。
3 登録ユーザー店舗以外で、弊社のサービスを無断で使用している事が発覚した場合は、最初の店舗登録日まで遡って、店舗毎に料金が発生し請求が出来る事とします。
第11条(利用料金)
1 本サービス及び本著作物使用の対価(以下「利用料金」といいます。)は、1年契約で月額30、000円(税抜)とします。また、ユーザーは初回ユーザー登録費用として別途10、000円(税抜)を支払うものとします。
2 ユーザーは、前項の費用を当社所定の手続きにより自動口座振替サービスを利用して支払うものとします。
3 ユーザーは、前項のサービスが開始されるまでの間及び前項のサービスにより利用料金が徴収できなかった場合、所定の期日までに当社指定の銀行口座に振込みにて利用料金を支払うものとします。なお、振込手数料はユーザーの負担とします。
4(省略)
5 ユーザーは、1店舗につき1ユーザーとして登録するものとし、店舗が異なる場合には、店舗毎に利用料金、登録費用を支払うものとします。
第14条(退会後の本著作物の取扱い)
1 ユーザーは、第6条により退会となった日又は契約期間の満了日(以下併せて「退会日」といいます。)後、本著作物の使用を中止し、第8条第1項各号にて掲載した本著作物を削除しなければならないものとします。(以下略)」
(3)原告と被告との間の著作物利用契約の締結等
ア 被告は、令和元年7月23日、原告レンタルサイト上の申込みフォームを利用して、本件規約に同意の上、登録店舗を「A」(以下「A」という。)、その「代表者」を被告として、ユーザー登録の申込みをし、同年9月27日、原告との間で、初回ユーザー登録費用及び月額利用料を以下のとおり定めて、原告レンタルサイトで提供されるヘアースタイル写真の利用契約(以下「本件契約」という。)を締結した。(甲4の1〜14、甲5、18)
(ア)初回ユーザー登録費用通常1万円のところ、キャンペーンにより0円
(イ)月額利用料通常3万円のところ、キャンペーンにより2万円
イ 被告は、令和元年9月27日、原告から、会員ページにログインするためのID等の発行を受け、その後、これらのID等を美容室の他のスタッフと共有した。(甲4の14、弁論の全趣旨)
ウ 被告は、原告から口座振替依頼書を令和元年10月10日までに送付するよう求められていたにもかかわらず、同依頼書を送付せず、本件規約11条2項に定める自動口座振替サービス利用のために必要な手続を完了させなかった。(甲4の12、14〜18)
(4)本件著作物の掲載
 被告及び美容室の他のスタッフは、ログイン用ID等を使って原告レンタルサイトの会員ページにログインして本件著作物を複製し、A及びその系列店である「B」(以下「B」という。)、「C」(以下「C」という。)、「D」(以下「D」という。)の合計4店舗(以下、総称して「本件各店舗」という。)の広告サイトに、以下の期間中、本件著作物をアップロードした。
ア A 令和元年10月から令和3年1月まで(甲12、34、弁論の全趣旨)
イ B 令和元年10月から現在まで(甲13、20、25、27、30、31、34、35、37)
ウ C 令和元年10月から令和3年6月まで(甲14、21、26、28、32、34、36)
エ D 令和元年10月から令和3年1月まで(甲15、34、弁論の全趣旨)
(5)本件契約の終了
 原告は、令和元年12月27日到達の同月25日付け内容証明郵便(甲9)により、被告に対し、被告が、自動口座振替サービス利用のための手続を完了させず、また、登録店舗でないB、Cで本件著作物を無断利用したことは、本件規約に違反するとして、本件規約6条1項4号、5号に基づき、本件契約の解除の意思表示をした。
 原告は、その際、Bの登録手数料相当損害金1万円、利用料相当損害金(11月分、12月分)6万円、Cの登録手数料相当損害金1万円、利用料相当損害金(12月分)3万円及び弁護士費用等5万円の合計16万円の支払を求め、被告は、令和2年1月、原告に対し、上記16万円を支払った。
3 争点
(1)著作権侵害の成否等(争点1)
(2)損害額(争点2)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(著作権侵害の成否等)について
〔原告の主張〕
 本件契約の対象となる店舗はAのみであったが、被告は、他の3店舗の広告サイトに本件著作物を無断で使用し、本件規約11条5項に違反するとともに、原告の著作権(公衆送信権)を侵害した。
 また、本件規約14条1項は、契約期間の満了日後、本件著作物の使用を中止し、掲載した著作物を削除しなければならないと規定するところ、被告は、本件契約が令和元年12月27日に本件規約11条5項に違反することなどを理由として解除された後も、Aについて令和3年1月まで、Bについて現在まで、Cについて同年6月まで及びDについて同年1月まで、本件著作物を本件各店舗の広告サイトに掲載し、本件規約14条1項に違反するとともに、原告の著作権(公衆送信権)を侵害した(なお、原告レンタルサイト上の本件著作物と被告の掲載した写真との対比は、訴え変更申立書兼第3準備書面の原告著作物目録及び被告写真目録記載のとおりである。)。
 したがって、被告は、原告に対し、利用料相当損害金等の支払義務を負うとともに、本件規約14条1項及び著作権に基づき、現在もなお掲載中のBの広告サイト上の写真(別紙広告サイトの赤枠で囲まれた写真)を削除する義務を負う。
〔被告の主張〕
 原告の主張は争う。
 被告は、本件著作物を使用していた本件各店舗の経営者ではなく、また、本件著作物を掲載していた広告サイトやテナントの契約者でもない。原告レンタルサイトの登録手続は被告がしたものの、契約締結後に各店舗スタッフとログイン用ID等を共有していたため、誰がどのような写真を掲載したのか不明である。
 また、被告は、原告から、1か月2万円の利用料により、全店舗の広告サイトで本件著作物の掲載が可能とのキャンペーンプランの提示を受け、本件契約の申込みをしたのであるから、本件契約の解除前の本件著作物の掲載が不法行為を構成することはない。
2 争点2(損害額)について
〔原告の主張〕
(1)原告が被告の著作権侵害行為により被った損害額(令和3年6月までの確定分)は、以下のとおり、合計196万円である(甲34)。
ア A
 利用料相当損害金(令和2年1月から令和3年1月まで)39万円(3万円×13か月)
イ B
 利用料相当損害金(令和2年1月から令和3年6月まで)54万円(3万円×18か月)
ウ C
 利用料相当損害金(令和2年1月から令和3年6月まで)54万円(3万円×18か月)
エ D
(ア)利用料相当損害金(令和元年10月から令和3年1月まで)48万円(3万円×16か月)
(イ)登録手数料相当損害金1万円
(2)被告は、令和3年7月以降も、Bの広告サイトにおいて、本件著作物の一部の写真の掲載を続けているので、原告は、被告に対し、同写真が削除されるまでの間、1か月3万円の割合による利用料相当損害金の支払を請求することができる。
〔被告の主張〕
 争う。
 上記1〔被告の主張〕のとおり、被告は、1か月2万円(全店舗分)の利用料により、全店舗の広告サイトで本件著作物の掲載が可能との認識で、本件契約の申込みをしたのであるから、本件契約解除後に原告に損害が生じるとしても、その額は、1か月2万円の割合にとどまる。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(著作権侵害の成否等)について
(1)ア本件契約に適用される本件規約11条2項は、本件著作物の利用料を原告所定の手続により自動口座振替サービスを利用して支払うものとすると規定し、また、同条5項は、ユーザーは1店舗につき1ユーザーとして登録し、店舗が異なる場合には、店舗毎に利用料金、登録費用を支払うものとすると規定している。そして、同規約6条1項4号、5号は、本件規約に違反した場合又は所定の申込書等を期間内に原告に返送しない場合、予め告知することなくユーザーを強制的に退会させることができると規定している。
 前記前提事実(3)ウ及び(4)のとおり、被告は、本件規約11条2項に定める自動口座振替サービスの利用に必要な口座振替依頼書を原告に送付せず、また、ログイン用ID等をスタッフと共有するなどして、本件契約の対象外の店舗の広告サイトに本件著作物を掲載した。これらの行為は、本件規約に違反する行為であるので、同規約6条1項4号、5号に基づき本件契約を解除する旨の原告の意思表示は有効であり、本件契約は令和元年12月27日をもって解除された。
イ 本件規約14条1項は、ユーザーは、契約期間の満了日後、本件著作物の使用を中止するとともに、掲載した同著作物を削除しなければならないと規定するところ、前記前提事実(4)のとおり、被告は、本件契約の解除後も、Aについて令和3年1月まで、Bについて現在まで、Cについて同年6月まで及びDについて同年1月まで、本件各店舗の広告サイトに本件著作物を掲載している。被告の同行為は、本件規約の上記条項に違反するとともに、原告の著作権(公衆送信権)侵害を構成する。
ウ また、被告は、令和3年7月以降もBの広告サイトにおいて本件著作物の一部の写真の掲載を続けているので、被告は、原告に対し、本件規約14条1項に基づき、同写真を削除する義務を負う。
(2)ア これに対し、被告は、本件著作物を使用していた本件各店舗の経営者ではなく、本件著作物を掲載していた広告サイトやテナントの契約者でもないと主張する。
 しかし、被告は、Aの代表者として本件契約を締結した当事者であり、原告から付与されたログイン用ID等を保管・管理すべき義務を負っていたところ(本件規約3条1項)、本件各店舗の広告サイトと契約して本件著作物を掲載したのが被告自身ではなく、本件各店舗のスタッフであったとしても、被告が同スタッフにログイン用ID等を開示し、本件著作物へのアクセスを可能にしている以上、被告は著作権侵害の責任を免れないというべきである。
イ また、被告は、原告から、1か月2万円の利用料により、全店舗の広告サイトで本件著作物の掲載が可能とのキャンペーンプランの提示を受け、本件契約の申込みをしたとも主張する。
 しかし、本件契約に適用される本件規約11条5項には「ユーザーは、1店舗につき1ユーザーとして登録するものとし、店舗が異なる場合には、店舗毎に利用料金、登録費用を支払うものとします。」との規定が置かれている上、本件契約の締結に際しての原告の担当者と被告とのやり取り(甲4の1〜18)においても、複数店舗の掲載を前提とする記載はない。
 したがって、被告主張に係る事実を認めることはできない。
2 争点2(損害額)について
(1)本件規約には利用料を1か月3万円、登録手数料を1万円とする規定(11条1項)が存在することに照らすと、本件著作物の無断使用による利用料相当額は1か月当たり3万円と認めるのが相当であるところ、原告は、被告の著作権侵害行為により、以下のとおり、合計196万円の損害(令和3年6月までの確定分)を被ったものと認められる。
ア A
 利用料相当損害金39万円(3万円×13か月)
イ B
 利用料相当損害金54万円(3万円×18か月)
ウ C
 利用料相当損害金54万円(3万円×18か月)
エ D
(ア)利用料相当損害金48万円(3万円×16か月)
(イ)登録手数料相当損害金1万円
(ウ)合計49万円
(2)また、Bの広告サイトには、現在においても、本件著作物の一部の写真が掲載されているので、原告は、被告に対し、令和3年7月1日から同写真が削除されるまでの間、1か月3万円の割合による利用料相当損害金の支払を求めることができる。
第5 結論
 よって、原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容し、主文第2項に係る仮執行宣言は相当でないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 佐藤達文
 裁判官 吉野俊太郎
 裁判官 齊藤敦


(別紙)省略
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