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【事件名】ソフトバンクへの発信者情報開示請求事件Q
【年月日】令和3年8月20日
 東京地裁 令和3年(ワ)第6995号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年6月25日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 藤原宏
同 植松大雄
被告 ソフトバンク株式会社
同訴訟代理人弁護士 五十嵐敦
同 大山貴俊
同 谷津瑞季


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の発信者情報を開示せよ。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文同旨
第2 事案の概要
1 本件は、原告が、電気通信事業等を目的とする会社である被告に対し、氏名不詳者によるツイッター上の10件のツイート(以下「本件各ツイート」という。)の投稿が、別紙写真目録記載の写真(以下「本件写真」という。)に係る原告の著作権(送信可能化権)を侵害し、又は、原告の名誉を毀損し、名誉感情、プライバシー権、肖像権を侵害することが明らかであるとして、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「法」という。)4条1項の規定に基づき、発信者情報の開示を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお、本判決を通じ、証拠を摘示する場合には、特に断らない限り、枝番を含むものとする。)
(1)氏名不詳者による本件各ツイート(甲1〜10)
ア 氏名不詳者は、別紙投稿記事目録記載の各投稿日時に、同記載の各投稿内容の本件各ツイート(以下、同目録記載の符号に従い「本件ツイート1」などという。)をした。
イ 本件各ツイートには、いずれも添付画像を含むものであり、本件ツイート1及び5は、本件写真(甲11)の主要部分を含むスクリーンショットの画像を添付したものである(甲1、5)。
(2)発信元IPアドレスに係る仮処分決定
ア 東京地方裁判所は、令和3年3月5日、原告の申立てを相当と認め、ツイッターの運営元に対し、本件各ツイートに係るアカウントのログインの際のタイムスタンプ及びIPアドレスのうち、同年1月1日以降のものを仮に開示するよう命じる仮処分決定をした(甲13)。
イ 原告は、令和3年3月14日頃、前記仮処分決定に係るタイムスタンプ及びIPアドレスの情報の開示を受けたが、当該情報には、別紙IPアドレス目録記載のとおり、被告が保有し、その契約者に割り当てているIPアドレスが含まれていた(甲14、15)。
 なお、別紙IPアドレス目録記載の各IPアドレスは、本件各ツイートに係るアカウントに対し、同記載の各タイムスタンプの日時におけるログイン(以下「本件各ログイン」という。)がされた際、そのログインに係る通信について割り当てられたものである。
(3)接続先IPアドレスに係る原告の調査
 原告訴訟代理人は、令和3年2月7日から同年3月18日まで、ツイッターのアカウントにログインする際に接続するドメインに対応するIPアドレスを調査し、別紙接続先IPアドレス目録記載の12種のIPアドレス(以下「本件接続先IPアドレス」という。)を得た(甲21)。
(4)被告による意見聴取
 被告は、本件訴訟が提起された後、別紙IPアドレス目録記載の情報及び本件接続先IPアドレスから特定された1名の契約者に対し、法4条2項の意見聴取をした。同契約者は、ツイッターのアカウントを開設したことがなく、当該契約に係る端末は社用携帯であるが、これを所有していた社員は、当時、警察に紛失届を提出しており、本件各ツイートをし得ないなどと回答した(乙5)。
3 争点
(1)著作権侵害の明白性(争点1)
(2)名誉毀損等の明白性(争点2)
(3)「発信者情報」該当性(争点3)
(4)「正当な理由」の有無(争点4)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1(著作権侵害の明白性)について
(原告の主張)
 原告は、本件写真の撮影に当たり、あたかも犬がパソコンで仕事をしているかのような印象を与えるため、撮影の方向、背景、構造などを決めて撮影した。本件写真は、創作性ある著作物に当たる。
 原告は、本件写真の著作者であり、著作権者である。しかるに、本件ツイート1及び5は、原告が別のSNSにアップロードしていた本件写真のスクリーンショットを誰でも受信可能な状態にした。
 そして、本件ツイート1及び5におけるスクリーンショット画像のアップロードに関し、何らかの権利制限規定を適用すべき事情もないから、これが原告の著作権(送信化可能権)を侵害したことは明らかである。
(被告の主張)
 本件写真は、犬の後頭部をありふれた構図で撮影した写真にすぎず、創作性が認められるか否かは明らかではないので、本件写真が著作物であることが明らかであるということはできない。
 また、本件写真が原告によって撮影されたものか否かは明らかでなく、原告が、本件写真の著作者であること、原告が本件写真の著作権を保有していることが明らかであるということはできない。
 以上のとおり、本件ツイート3及び5が、原告の指摘するスクリーンショット画像を添付したことによって、原告の著作権(送信可能化権)を侵害したことが明らかであるということはできない。
2 争点2(名誉毀損等の明白性)について
(原告の主張)
(1)同定可能性の有無
ア 本件ツイート1〜10は、以下のとおり、原告を特定し得る以下の情報を含む(さらに、本件各ツイートに係るアカウントの名称は、ローマ字部分が原告の氏名と一致するが、自らを誹謗中傷することはないから、そのローマ字部分も、誹謗中傷の対象を指すと読むのが通常である。)。
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●(省略)●
●(省略)●      
●(省略)●
●(省略)●
●(省略)●        
●(省略)●              
●(省略)●              
●(省略)●          
●(省略)●    
イ 本件ツイート2〜4、6〜10(以下「本件ツイート2等」という。)には、上記アのとおり、原告が別のSNSに掲載していた顔写真(甲22)が付されていた。原告と面識がある者や原告とSNSを閲覧していた者は、これを原告の顔写真と認識し、本件各ツイートによる誹謗中傷の対象であると特定することが可能であった。
 他方、本件ツイート1及び5は、前記顔写真が付されていないが、●(省略)●原告を容易に特定し得た。
ウ このように原告と面識ある者などに特定可能である以上、本件ツイートについて、名誉毀損などが成立する前提としての同定可能性があることは明らかというべきである(最高裁平成12年(受)第1335号同15年3月14日民集57巻3号229頁参照)。
(2)名誉毀損、名誉感情の侵害の有無
ア 本件各ツイートは、●(省略)●原告の社会的評価を著しく低下させる。
そして、同各ツイートの摘示する事実は真実ではなく、これらに公共性・公益性を認めるべき事情もない。
 そうすると、本件各ツイートは、原告の名誉を毀損し、その違法性を阻却する事由はないというべきである。
イ また、前記のような事実を摘示する本件各ツイートは、原告の自尊心を害する侮辱行為である。そして、これが誰もが閲覧することのできるツイッター上に、具体性のある形で繰り返しツイートされており、●(省略)●を記載するなど、情報を拡散する目的が推察されることからすれば、本件各ツイートは、社会通念上許容される限度を超えて、原告の名誉感情を侵害するものに当たるというべきである。
(3)プライバシー権、肖像権の侵害の有無
ア 本件各ツイートの摘示する事実は、私生活上の事実らしく受け取られるおそれがあって、他人に知られたくないと考えられる事柄であり、一般の人々にいまだ知られていないため、プライバシーに関する事実に属する。本件各ツイートは、プライバシー権を侵害するものである。
イ また、本件ツイート2等に付された顔写真は、原告の顔写真である。当該顔写真は、原告が別のSNS上に公開していたものであるが、原告は、他者が原告の名誉を毀損する事実無根の文章とともに原告の顔写真をツイートに掲載することを承諾していない。原告の顔写真を付したツイートは、原告の肖像権を侵害するものである。
ウ なお、本件各ツイートは、同趣旨のツイートを10回も繰り返し、●(省略)●を羅列するなど、これを不特定多数の者に拡散する意図があったと考えられる。すなわち、本件各ツイートは、原告個人に対する執拗な攻撃の意図に基づくものであり、正当な目的や社会的意義を有しない。
 他方、原告は、このような執拗な攻撃によって、本件各ツイートが事実無根であることを勤務先に説明することを強いられ、その削除を弁護士に委任し、また、前記SNSのアカウントを停止せざるを得なくなった。原告の受けた不利益は、投稿者の表現の自由の要請をはるかに上回るものである。
(被告の主張)
(1)同定可能性の有無
●(省略)●という表現が、本件各ツイートの言及する対象の氏名やイニシャルを指すものであるかは明らかではない。また、仮に、これが氏名等であるとして、そのような氏名等を有する人物は、原告以外にも多数存在する。また、本件各ツイートの●(省略)●という部分も抽象的であり、その条件に該当する者が複数存在すると考えられることからすれば、原告以外の人物を指す可能性も考えられる。
 本件ツイート2等に付された原告の顔写真についても、原告は著名人ではないから、一般の閲覧者において、原告を特定することは困難である。当該顔写真は、写真の一部が切れ、あるいは、顔面を詳細に把握することができないものであるから、原告と面識があり又は原告の情報を知る者であっても、原告と認識し得るかどうか疑問がある。
 以上のとおり、一般閲覧者の通常の注意と読み方を基準とすると、本件各ツイートが原告を対象とするものであることが明らかであるということはできない。
(2)名誉毀損、名誉感情の侵害の有無
ア(ア)原告は、本件各ツイートが、原告が、●(省略)●を摘示するものであると主張するが、本件ツイートには、その事実に係る具体的な内容や根拠は全く記載されていない。したがって、本件ツイートは、投稿者の意見又は感想を抽象的に述べるものにすぎず、あるいは、信憑性のないのであることが客観的に明らかであるものであって、原告の社会的評価を低下させるものには当たらない。
 また、原告は、●(省略)●具体的な事実を摘示するものではない。
(イ)本件各ツイートは、●(省略)●公共の利害に関するものであり、公益を図る目的でなされたものではないことが明らかであるということはできない。また、本件各ツイートは、記載内容が真実でないこと、あるいは真実であると信じたことに相当の理由がないことが明らかであるということもできない。
 そうすると、本件各投稿について違法性阻却事由が存在しないと断定することができない。
イ 本件各ツイートは、何ら具体的な事実を摘示せず、単なる投稿者の意見又は感想であって、信憑性を欠くものであることが客観的に明らかであることから、原告の名誉感情を社会通念上受忍すべき限度を超えて侵害するものということもできない。
(3)プライバシー権、肖像権の侵害の有無
ア 本件各ツイートは、その意味する内容が不明確であって、原告に関する具体的な事実を摘示するものではないので、原告の私生活の事実と受け取られる事柄を公表するものとはいえない。
 少なくとも、原告は、●(省略)●未だ他人に知られていない事柄とはいえず、公開を欲しないものとはいえないから、その公表が、プライバシー権侵害を構成することはない。
イ 本件ツイート2等に掲載された顔写真も、それが原告の顔写真であるかが不明である。しかも、当該顔写真は、原告が別のSNSに公開し、何人も閲覧することが可能であったプロフィール写真などを切り抜いたものである。
 そうすると、原告は、自らの顔貌を少なくとも一定の範囲の他者に見られることを受忍していたということができる。当該顔写真を投稿することが社会通念上受忍すべき限度を超える肖像権の侵害及びプライバシー権の侵害に当たるということはできない。
ウ 本件各ツイートが投稿された動機や経緯は明らかではないが、原告の生命・身体に危険を及ぼすなどの実害をもたらすようなものではなく、原告の不利益と投稿者の表現の自由とを比較衡量した場合に、前者が後者に優越することが明らかであるということはできない。仮に、本件各投稿が原告のプライバシー権又は肖像権を侵害するとしても、違法性阻却事由が存在しないとは断定し得ない。
3 争点3(「発信者情報」該当性)について
(原告の主張)
(1)本件接続先IPアドレスが本件各ログインに係る通信を特定するかツイッターにログインするには、別紙接続先IPアドレス目録記載の各ドメインにアクセスする必要があり、これらのドメインに対応するIPアドレスは、本件接続先IPアドレスのいずれかである。したがって、別紙発信者情報目録記載のタイムスタンプ及びIPアドレス並びに本件接続先IPアドレスで特定される通信は、本件各ログインに係る通信である。
(2)本件各ログインをした者が本件各ツイートをした者と一致するか
 ツイッターのアカウントの開設には、氏名、電話番号又はメールアドレスの登録及びパスワードの設定が必要である(甲16)。そして、ツイッターにおいては、複雑なアカウントを設定することが推奨されるなど、厳重なアカウント管理及び保護が図られており(甲17)、SMSによる二要素認証の設定が可能であるなど(甲35)、アカウントの保有者が一人であることが念頭に置かれている。
 このようなツイッターの仕組みに加え、個人のアカウントのパスワードを第三者に教えたり、これを共有したりすることは通常は想定されないことであり、アカウントの乗っ取りがされることなども、例外的な事象というべきであることからすれば、特段の事情がない限り、ツイッターのアカウントにログインした者と当該アカウントからツイートをした者は同一の者であると考えるのが相当である。
 そして、本件ツイートに係るアカウントについて、その共有を疑わせる事情はない。むしろ、当該アカウントに対するログインについては、プロバイダ2社のみが利用され、毎日のように、同じ固定IPアドレスが利用されていたことが認められるのであるから(甲14)、単独の人物が利用していたと推認される。したがって、本件各ログインをした者は、本件各ツイートをした者と同一であると考えるべきである。
(3)本件各ログインに係る情報が「発信者情報」に該当するか
 ツイッターのログインの際に割り当てられたIPアドレスから把握される発信者情報は、これが侵害情報の発信者のものと同一であれば、法4条1項所定の「発信者情報」に該当すると解される。本件各ツイートがされた日時と本件各ログインがされた日時との時間差は、6分19秒から21時間39分54秒の範囲内にあり、いずれも時間的に近接していることからすると、本件各ツイートは本件各ログインに基づいてされた蓋然性が高い。
 したがって、本件各ログインの際の情報は、同条項の「発信者情報」に該当する。
(被告の主張)
(1)本件接続先IPアドレスが本件各ログインに係る通信を特定するか
 原告訴訟代理人が接続先IPアドレスについて行った調査は、当該調査時点の接続先IPアドレスを検索するものにすぎず、それが本件各ログインの際のものと一致するかどうかは明らかでない。したがって、本件接続先IPアドレスから本件各ログインをした際の通信が特定されるものではない。
 実際、原告の主張を前提とする通信から特定された契約者は、被告の意見聴取に対し、そもそも、ツイッターのアカウントを開設していないため、ログインすらしていないと回答しており(乙5)、その特定が誤っている可能性を否定し得ない。
(2)本件各ログインをした者が本件各ツイートをした者と一致するか
 ツイッターにおいては、同一のアカウントを複数の者が管理・運営することなどがあり、パスワードさえ知っていれば、同一のアカウントに複数の者が同時にログインすることも可能なのであるから、本件各ログインをした者が本件各ツイートをした者であるとは推定し得ない。
 原告は、ツイッターに二要素認証が採用されているとして、アカウントの保有者は一人であることが想定されていると主張する。しかし、二要素認証は、ツイッターの原則的な認証方法ではないのであり、本件各ツイートに係るアカウントの保有者が当該認証方法を採用していたかは明らかでない。
(3)本件各ログインに係る情報が「発信者情報」に該当するか
ア 法は、情報の流通によって自己の権利を侵害されたと主張する者に「発信者情報」の開示を請求できる権利を創設した反面、発信者のプライバシーや表現の自由、通信の秘密等に配慮し、その権利行使の要件として権利侵害の明白性等の厳格な要件を定めている。このような法の趣旨や法4条1項の文言に照らすと、開示請求の対象となる「発信者情報」は、開示請求者の権利を侵害したとする情報の発信者についての情報に限られ、非侵害発信についての情報を含まないと解すべきである。
 また、同項の発信者情報を定める省令も、「発信者情報」について、「侵害情報の送信に係る」との限定を付している。同項は、侵害情報そのものの流通に係る者の情報の開示について定めるものと解すべきであり、非侵害発信に係る者の情報が開示されることにより侵害情報の発信者が特定される可能性があるとしても、当該情報は開示請求の対象とならないというべきである。
 そうすると、本件契約者が、本件各ツイートをした可能性があるとしても、本件ログインに係る情報は、同項の開示請求の対象となる「発信者情報」に当たらないというべきである(そして、被告が、「発信者情報」たる本件各ツイート自体の通信を媒介したかが定かでない以上、被告は、同項所定の「開示関係役務提供者」にも該当しない。)。
イ なお、本件各ログインの日時と本件各ツイートの日時とでは、最大で約1週間の開きがあり、本件各ツイートが、本件各ログインに基づいてされた蓋然性が高いということはできない。それぞれのツイートの直前のログ25インに限ってみても、実際のツイートとの間に約8時間から約21時間の開きがあるものがあり、本件各ログインに基づいて対応するツイートがされたかどうかは明らかではない。
4 争点4(「正当な理由」の有無)について
(原告の主張)
 原告は、本件各ツイートの発信者に対し、不法行為を理由とする損害賠償請求をする予定である。したがって、請求の趣旨記載の発信者情報の開示請求について、原告は、法4条1項2号の「正当な理由」を有する。
(被告の主張)
 原告の請求のうち、氏名又は名称及び住所の開示があれば、不法行為に対する損害賠償請求などを行うことは可能である。これに加えて、電子メールアドレス及び電話番号の開示を受けるべき正当な理由は存在しない。
第4 当裁判所の判断
1 争点1(著作権侵害の明白性)について
 本件写真は、衣服を着た犬が机上のパソコンに向かって座る姿を背後から撮ったものであり、あたかも犬が机に向かい、パソコンで仕事をしているかのように見える構図を特徴とするものであるが、証拠(甲11、12、23)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件写真の撮影のタイミングや構図などを様々に工夫し、同写真を撮影したと認めることができる。そうすると、本件写真は、原告が著作権を有する著作物に当たるというべきである。
 本件ツイート1及び5は、本件写真の一部を複製した写真を添付するものであり、これらが本件写真に対する原告の著作権(送信可能化権)を侵害したことは明らかである。
2 争点2(名誉毀損等の明白性)について
 本件ツイート1及び5については、争点1で判断したとおり、原告の著作権を侵害することが明らかであるので、争点2については、本件ツイート2等を対象にして検討する。
(1)同定可能性について
 本件ツイート2等は、いずれも、●(省略)●顔写真の全部又は一部の画像を添付したものであるが、証拠(甲12、22、23)及び弁論の全趣旨によれば、これらの情報及び顔写真はいずれも原告のものであり、●(省略)●原告以外に存在しないものと認められる。
 そうすると、原告と面識を有し、又は、業務上の一定の関係を有する者などが前記の各ツイートを閲覧すれば、そのツイートで言及されている人物が原告であると容易に認識することができるというべきである。
(2)名誉毀損について
ア 本件ツイート2等は、原告が、●(省略)●を摘示するものと理解し得る。これらの記載は事実を摘示するものにほかならないというべきであり、投稿者の意見又は感想の抽象的な叙述にとどまるとの被告の主張は採用し得ない。
イ そして、前記アの各事実は、●(省略)●そうすると、これらのツイートは、原告の社会的評価を低下させるに足りる事実を摘示し、その名誉を毀損するものというべきである。
 これに対し、被告は、本件ツイート2等は、具体的な内容や根拠の記載を欠いており、信憑性のないことが客観的に明らかであると主張するが、これらのツイートを閲覧した一般の閲覧者が、原告をよく知る者による記載であるなどと考え、その内容を真実と信じる可能性は十分にあるというべきであり、その記載に信憑性のないことが客観的に明らかであるとの被告の主張は理由がない。
ウ 被告は、本件ツイート2等に違法性阻却事由がないことが明らかとはいえないと主張するが、これらのツイートは、一個人の行動について、顔写真の全部又は一部を付すなど、その個人を第三者にも特定し得るようにした上で、ほぼ同内容のツイートを繰り返したものであるから、公共の利害に関し、公益を図る目的でなされたものであるといえないことは明らかである。
(3)プライバシー侵害について
 本件ツイート2等が摘示する事実は、私生活上の事実のように受け取られるおそれがあり、まして、●(省略)●他人に知られたくないと考えるのが通常である。したがって、上記各ツイートは、原告のプライバシーを侵害するものということができる。
 これに対し、被告は、原告の不利益と投稿者の表現の自由とを比較衡量し、前者が後者に優越することが明らかであるということはできないと主張するが、上記各ツイートに摘示された事実が真実と受け取られた場合に原告が受ける不利益の大きさに照らすと、投稿者の表現の自由の観点を考慮しても、原告のプライバシー権の侵害に当たる。
(4)小括
 以上によれば、その余の点を検討するまでもなく、本件ツイート2等が少なくとも原告の名誉を毀損し、そのプライバシー権を侵害することは明らかである。
3 争点3(「発信者情報」該当性)について
(1)本件接続先IPアドレスが本件各ログインに係る通信を特定するか
ア 証拠(甲21)及び弁論の全趣旨によれば、原告訴訟代理人は、令和3年2月7日から同年3月18日まで、合計2万回以上にわたり、DNSサーバに問い合わせ、その応答結果からツイッターにログインする際に接続するドメイン名に対応するIPアドレスを取得し、本件接続先IPアドレス12種を得たものであり、その調査方法は合理的なものであると認めることができる。この調査方法は、本件各ツイートの時期における接続先IPアドレス自体を得るものではないが、本件各ツイートの時期から当該調査の時期までに接続先IPアドレスが変更されたことをうかがわせる証拠はないので、上記調査の結果に基づき、ツイッターにログインする際に接続するドメイン名に対応するIPアドレスを推認することができる。
イ そして、本件接続先IPアドレスを前提に特定される被告の契約者が1名のみであることを考慮すれば(前提事実(4))、本件接続先IPアドレスは、本件各ログインをした者に係る通信であると認めるのが相当である。
 これに対し、被告は、当該契約者は、ツイッターのアカウントを開設したことがないと回答している旨を指摘するが、同回答内容を裏付ける客観的な証拠はない。
(2)本件各ログインをした者が本件各ツイートをした者と一致するか
ア 証拠(甲16)及び弁論の全趣旨によれば、ツイッターのアカウントの開設には、氏名、電話番号又はメールアドレスの登録及びパスワードの設定が必要であり、また、実際にツイートをするには、当該アカウントに設定したパスワードでログインをすることが必要であると認められる。このように、ツイッターというサービスは、利用者が、パスワードを入力し、アカウントにログインをしなければ利用し得ないものであることに照らすと、特定のアカウントにログインをする者は、そのアカウントを開設した者と一致する蓋然性が高いというべきである。
イ 本件各ツイートは、ほぼ同一の内容のツイートを繰り返しており、本件各ツイートに係るアカウントが複数人による共用アカウントであることをうかがわせるような内容のツイートをしたと認めるに足りる証拠はない。他方、本件各ツイートに係るアカウントのログインに使用されているIPアドレスをみると、被告の保有するIPアドレスのほかは、もっぱら一種類の固定のIPアドレスが使用されており(甲14)、これによれば、同一人が携帯電話などからのログインと自宅などの固定回線からのログインを使い分けていると理解するのが自然である。
ウ そうすると、本件各ツイートに係るアカウントは、同一人が個人で使用していたと考えられ、本件各ログインをした者は、本件各ツイートをした者に一致すると推認するのが相当である。
(3)本件各ログインに係る情報が「発信者情報」に該当するか
ア 被告は、法4条1項に規定する「発信者情報」は、権利を侵害したとする情報の発信者についての情報に限られると解すべきであるとして、前記の契約者が、本件各ツイートをした可能性があるとしても、これは開示請求の対象となる「発信者情報」に当たらないと主張する。
 しかし、同項は、「権利侵害時の発信者情報」や「権利が侵害された際の発信者情報」と、権利を侵害する行為の際に使用された情報に限定した規定をせず、「権利の侵害に係る発信者情報」と規定している。この「係る」という語が、「関係する」又は「かかわる」との意味を有することに照らすと、同項にいう「権利の侵害に係る発信者情報」とは、開示請求者の権利を侵害したとする情報の発信者についての情報に限らず、権利侵害との結びつきがあり、権利侵害者の特定に資する通信から把握される発信者情報を含むと解するのが相当である。
 また、法4条の趣旨は、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害を受けた者が、情報の発信者のプライバシー、表現の自由、通信の秘密に配慮した厳格な要件の下で、当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者に対して発信者情報の開示を請求することができるものとすることにより、加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図ることにあると解されるところ(最高裁平成21年(受)第1049号同22年4月8日第一小法廷判決・民集64巻3号676頁)、侵害情報そのものの発信時点ではなく、その前後に割り当てられたIPアドレス等から把握される発信者情報であっても、それが当該侵害情報の発信者のものと認められる場合には、当該発信者のプライバシー、通信の秘密等の保護の必要性の程度に比べ、当該侵害情報の被害者の権利の救済を図る必要性がより高いというべきである。
 さらに、ツイッターでは、個々の投稿に係るIPアドレス等のログが保存されていないことがうかがわれるが、被告の前記解釈によれば、権利を侵害されたことは明白であるにもかかわらず、サイト運営者のログの保存方法等によって、発信者情報開示請求の成否が左右されることになり、侵害情報が発信された時点のIPアドレス等が保存されていない場合、被害者は権利行使を断念せざるを得なくなる。同条が、このようにサイト運営者のログの保存方法等によって、被害者の権利救済の可否が左右されることを想定し、これを容認しているとは考え難い。
 そうすると、被告の前記解釈は失当であり、ツイッターなどのログイン型サービスでは、ログインの際のIPアドレス等から把握される発信者情報であっても、それが侵害情報の発信者のものと認められる限り、法4条1項の「発信者情報」に当たると解するのが相当である。
イ 前記(2)のとおり、本件各ログインをした者と本件各ツイートをした者は同一であるから、本件各ログインに係る情報は、ログインの際のIPアドレス等から把握される発信者情報であって、侵害情報の発信者のものと認められるので、法4条1項の「発信者情報」に当たる。
 そして、本件ログインに係る情報は、上記のとおり、法4条1項の開示請求の対象となる「発信者情報」に当たると認められる以上、同情報に係る通信を媒介した被告は、法4条1項所定の「開示関係役務提供者」に該当する。
4 争点4(「正当な理由」の有無)について
 争点1及び2によれば、原告は、本件各ツイートの発信者に対し、不法行為を理由とする損害賠償請求権等を有する。
 被告は、原告が前記の権利を行使するため、電子メールアドレスの開示を受ける必要はないと主張するが、法4条1項に係る総務省令は、電子メールアドレスを侵害情報の発信者の特定に資する情報として規定しており、実際上も、転居などによって、現実の住所が被告の保有するものと異なる可能性も考えられることなどに照らせば、その開示を受ける必要があるというべきである。
 したがって、原告が当該発信者に対してその権利を行使するためには、請求の趣旨記載の発信者情報の開示を受ける必要があり、その開示を受ける「正当な理由」があるというべきである。
5 結論
 よって、原告の請求は理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり判決する(ただし、別紙発信者情報目録記載の発信者情報とは、同記載の契約者のうち、本件接続先IPアドレスのいずれかに対する通信をした契約者に係るものに限るという趣旨に理解する。)。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 佐藤達文
 裁判官 吉野俊太郎
 裁判官 齊藤敦


(別紙写真目録省略)
(別紙投稿記事目録省略)
(別紙IPアドレス目録省略)
(別紙接続先IPアドレス目録省略)
(別紙)発信者情報目録
 別紙IPアドレス目録記載のIPアドレスを、同目録記載の日時(協定世界時)ころに被告から割り当てられていた契約者に関する下記情報
 1 氏名又は名称
 2 住所
 3 電子メールアドレス
 4 電話番号
 (以上)
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日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/