判例全文 line
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【事件名】女子プロレス“コスチューム”事件
【年月日】令和3年8月20日
 東京地裁 令和3年(ワ)第2322号 不法行為による損害賠償請求等事件
 (口頭弁論終結日 令和3年6月25日)

判決
原告株式会社 ネクストリビューション(以下「原告会社」という。)
原告 X1(以下「原告X1」という。)
原告 X2(以下「原告X2」という。)
被告 Y
同訴訟代理人弁護士 東條岳


主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由
第1 請求
1 被告は、原告会社に対し、266万4000円を支払え。
2 被告は、原告X1に対し、50万円を支払え。
3 被告は、原告X2に対し、50万円を支払え。
4 仮執行宣言
第2 事案の概要
1 本件は、
(1)原告会社が、被告が原告会社の著作物であるコスチュームのデザイン画を無断で使用して、全く同じデザインのプロレスのコスチュームを制作したことが原告会社の著作権を侵害すると主張して、被告に対し、民法709条に基づき、損害賠償金216万4000円の支払を求めるとともに、
(2)原告らが、被告が実際にはコスチュームの代金につき立替払いをしていないにもかかわらず、立て替えたかのように装い、原告らから11万5000円を騙し取ろうとするとともに、期限までに同代金を支払わない場合には、秋元康氏の弁護士に依頼して提訴するなどと述べて同代金の支払を強要して脅迫したことが不法行為に当たると主張し、被告に対し、民法709条に基づき、各自、損害賠償金50万円の支払を求める事案である。
2 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実。なお、本判決を通じ、証拠を摘示する場合には、特に断らない限り、枝番を含むものとする。)
(1)当事者
ア 原告会社は、芸能関係の興行やマネジメント事業を行う株式会社であり、アイドル団体「スターダム★アイドルズ」(以下「「スターダム★アイドルズ」という。」を運営している。(弁論の全趣旨)
イ 原告X1は、原告会社の代表取締役の地位にある者である。
ウ 原告X2は、原告会社との間の請負契約に基づき、「スターダム★アイドルズ」のマネジメント業務等を行っている者である。(弁論の全趣旨)
エ 被告は、女子プロレスラーであり、令和元年8月31日まで「スターダム★アイドルズ」にアイドルとして所属していたほか、令和3年3月末まで、株式会社太田プロダクション(以下「太田プロ」という。)にも所属していた。(弁論の全趣旨)
(2)本件コスチュームの制作に至る経緯
ア 「スターダム★アイドルズ」は、女子プロレス団体を運営する株式会社スターダム(以下「スターダム」という。)と提携し、アイドルがプロレスを行うことを内容とする興業を行っていた。(弁論の全趣旨)
イ 被告は、平成30年9月頃、「スターダム★アイドルズ」の公開オーディションに応募し、同年11月に後楽園ホールでアイドルとしてデビューした。その後、被告は、スターダムと契約し、令和元年8月10日に後楽園でプロレスラーとしてデビューすることが内定した。(乙2、3、弁論の全趣旨)
ウ 令和元年8月10日のデビューが内定したことを受け、被告は、同年7月6日、原告X1に対し、コスチュームの制作について相談をした。原告X1は、被告に対し、衣装制作会社としてマヂソン社を提案するとともに、A(以下「A」という。)にデザイン画の作成を依頼することを提案した。(乙1)
エ これを受けて、被告は、令和元年7月6日、Aに対し、上記デビューに当たって必要なコスチュームのデザイン画の作成を依頼したところ、Aは、同日中に、被告の要望も採り入れつつ、別紙「本件デザイン画」記載のデザイン画(以下「本件デザイン画」という。)を作成した。被告は、同日、Aに対し、本件デザイン画を使ってコスチュームを作成することにつき許可を求めたところ、Aは本件デザイン画の使用を快諾した。(乙2、弁論の全趣旨)
オ 被告は、同日、原告X1に対し、本件デザイン画のデータを送信したところ、原告X1は、被告に対し、「Yらしくて、アイドルらしくて、いいよ。」、「コスチューム代、俺が出そうか?」、「Yが考える予算で足りないところを俺が出す!そのかわり、絶対にクオリティは下げないで。約束して。コスチュームは人気を左右する。クオリティは重要。」などのメッセージを送信した。(乙1)
カ 被告は、令和元年7月20日、衣装制作会社であるマヂソン社に対し、本件デザイン画を示した上で、コスチュームの作成を依頼した。マヂソン社は、同年8月頃、別紙「本件コスチューム」記載のコスチューム(以下「本件コスチューム」という。)を制作し、被告に納入した。(甲1、18、乙3、弁論の全趣旨)
(3)本件コスチュームの完成後のやりとり
ア 被告は、令和元年8月8日、原告X1に対し、完成した本件コスチュームを着用した自分の写真を送信したが、これに対し、原告X1が特段の異議を述べることはなかった。その後、被告と原告X1は、同月15日、17日、18日、20日、24日、26日及び29日に、LINEを通じてやり取りを行ったが、その際にも、原告X1が本件コスチュームの使用についての特段の異議を述べることはなかった。被告は、令和元年8月10日から令和2年6月頃まで、本件コスチュームを着用して活動していた。(甲18、乙1、弁論の全趣旨)
イ 被告は、令和元年8月24日、本件コスチューム代金の負担に関し、原告X1に対し、「コスチュームの件ですが、今回は、そういう風にお話を話してくださっていて、作成を進めていたので、お言葉に甘えさせて頂きたいです。」とのメッセージを送信したが、原告X1からは、特段の返信はなかった。(乙2)
ウ 被告は、令和元年9月8日、マヂソン社の担当者に対し、本件コスチュームの代金が原告会社から振り込まれたかどうかを確認したところ、原告会社からの支払はない旨の回答を得た。被告は、やむなく、同年10月3日、同担当者に対し、コスチューム代金を自己に請求するよう申し入れ、同担当者と協議の上、10月末と11月末の2回払いで支払うこととなった。(乙3)
エ 被告は、令和元年10月3日、原告X2が管理する「スターダム★アイドルズ」のツイッターアカウントに対し、次の内容の2通のダイレクトメッセージ(以下、併せて「本件メッセージ」という。)を送信した。
(ア)1通目のメッセージ(一部を抜粋。以下「本件メッセージ1」という。)
 「@アイドルズの未払いの分を【10月10日までに】太田プロまでにお願い致します。
  Aコスチューム代金は立て替えたので、【明日までにここに振り込んでください。】¥115、000(中略)期限内に両方が振り込まれない場合は、太田プロ専属の弁護士と秋元康氏の専属の弁護士が、X1さんとX2さんに法的措置を取るとマネージャーが言っていました。」
(イ)2通目のメッセージ(一部を抜粋。以下「本件メッセージ2」という。)
 「言った通り、給料に関しては振り込まなければ太田プロ専属の弁護士が動きます。コスチュームの件は私とX1さんとの約束です。(中略)私が立て替えますので、自分の口座に振り込んで下さい。よろしくお願い致します。そちらの件も期日までに振り込まれなければ、今までのラインの証拠や、録音してある音声と共に全部マネージャーと、社長通して太田プロ専属の弁護士と、秋元康氏の専属の弁護士に伝えさせて頂きます。」(以上につき、甲2、4、弁論の全趣旨)
オ 原告会社は、令和元年11月20日付けの「事実調査のお願い」と題する通知書(甲4)を被告及び太田プロ等に送付し、被告が本件コスチュームの代金を立替払いしたとの事実の有無について照会した。同通知書には、本件コスチューム代金の負担に関し、「被告からコスチューム作成費用についての相談を受け、スターダムエンターテインメントで支払うとの結論に至った。被告には衣装制作会社を紹介し、予算に関係なく納得のゆくコスチュームを作るように伝えた。その後、令和元年8月に被告がスターダムアイドルズを脱退するとの申し出があったが、本件コスチュームの代金はこちらで負担する旨を伝えたところ、その翌日、被告からコスチューム代金についてはお言葉に甘えさせていただきますとの連絡を受け取った。ところが、スターダムエンターテインメントと原告X1及び同X2との間の契約が解除され、上記代金を支払うことができなくなった。」旨の説明がされている。
カ 本件コスチューム代金の支払
 被告は、マヂソン社に対し、本件コスチューム代金として、令和元年10月22日に5万円、同年11月25日に6万5000円の合計11万5000円を支払った。そして、原告X1は、令和2年1月10日、マヂソン社に連絡して、その旨を確認した。(甲19、乙3)
3 争点
(1)被告は、本件デザイン画に係る原告会社の著作権を侵害したか。(争点1)
ア 本件デザイン画の著作物性(争点1−1)
イ 本件デザイン画は原告会社の職務著作に当たるか(争点1−2)
ウ 本件コスチュームは本件デザイン画の複製物・翻案物に当たるか(争点1−3)
エ 本件デザイン画等の使用についての原告会社の承諾の有無(争点1−4)
(2)本件メッセージの送信による不法行為の成否(争点2)
(3)損害(争点3)
ア 著作権侵害に基づく損害(争点3−1)
イ 不法行為に基づく損害(争点3−2)
第3 争点に関する当事者の主張
1 争点1−1(本件デザイン画の著作物性)
(原告会社の主張)
 本件デザイン画は、単なる型紙ではなく、衣装のデザイン画として作成されたものである。Aは、本件デザイン画を完成させるまでに数日間を要し、かつ、少なくとも3回は、被告の指示を受けてデザイン画を描き替えていることからも明らかなように、本件デザイン画は、Aの美的思考と感情を取り入れた芸術作品と評価されるべきであり、著作物性が認められる。
(被告の主張)
 本件デザイン画は、本件コスチュームの制作を検討するために作成されたものであり、実用品であるところ、実用品が著作物として保護されるためには、表現媒体となる当該実用品の実用的な機能とは無関係な部分において、創作者の美的な思想・感情を鑑賞させるに足りる表現が存在していることが必要になる。
 本件デザイン画において、実用的な機能と関係しない部分としては、背中のレースアップやリボンのデザイン、装飾にレースを使用したデザイン、スカート部分に三色の生地を使い、重ね合わせたいわゆるレイヤードスカートのデザインが挙げられるが、これらはいずれもありふれたものであり、創作性は認められないから、本件デザイン画には著作物性は認められない。
2 争点1−2(本件デザイン画は原告会社の職務著作に当たるか)
(原告会社の主張)
 原告X1は、被告からの相談を受け、本件デザイン画の原型となる色について、スターダムの「ストーリー」に合う色を被告に提案した。Aは、同提案に基づき本件デザイン画を作成した以上、本件デザイン画は原告会社の発意に基づくものである。
 本件デザイン画は、原告会社の職務に従事するAが、その職務命令に基づき、職務上作成したものである。作成時における原告会社とAとの間の契約や勤務規則その他には、職務著作について別段の定めは存在しない。
 本件デザイン画に原告会社の著作物であることを識別するためのコピーライト等のマークを入れなかったのは、被告との間に信義則に伴う信頼関係があったことなどによる。
 以上によれば、本件デザイン画は原告会社による職務著作に当たるため、その著作権は原告会社に帰属する。
(被告の主張)
 そもそも、Aが原告会社の業務に従事する者であるかは明らかではない上、本件デザイン画は、被告が、友人であるAに直接コスチューム制作に関する助言を依頼したものである。原告X1は、被告の相談に乗り、Aを紹介したにすぎず、Aに対する依頼やその後の連絡も被告自身が直接行っており、原告会社が主体的に本件デザイン画を制作したという事情はうかがわれない。
 そして、本件デザイン画には、原告会社の著作によるものであることが識別できるような記載は何ら存在しない。
 したがって、本件デザイン画は、原告会社の発意に基づくものであるということはできず、職務著作の要件を満たさない。
3 争点1−3(本件コスチュームは本件デザイン画の複製物・翻案物に当たるか)(原告会社の主張)
 原告会社は、被告が本件デザイン画を「検討の過程における利用」(著作権法30条の3)の範囲内で参考にしてコスチュームを制作することは承諾していたものの、被告が実際に制作したコスチュームのデザインは、本件デザイン画に類似するものであるから、本件デザイン画に係る原告会社の著作権を侵害する。
(被告の主張)
 本件デザイン画と本件コスチュームとの間には、@本件コスチュームではブーツの膝の部分がピンクの縁取りで、白く斜めにデザインされているが、本件デザイン画ではピンク色にデザインされている点、A本件コスチュームでは、ブーツの上端にピンクの装飾が施されているが、本件デザイン画はそのような装飾がない点、B本件デザイン画では、上腕部にピンクのラインがあるが、本件コスチュームはそのようなラインがない点、C本件コスチュームの胴体部分には、レースと緑色の生地との間に金色のラインが施されているが、本件デザイン画はそのようなラインはない点、Dレイヤードスカートの前部分の長さが異なる点、E本件デザイン画の背中部分には大きなリボンが装飾されているが、本件コスチュームでは、レースアップの結び目程度のものしか付けられていない点などの相違点が存在するから、本件コスチュームは本件デザイン画の本質的特徴を直接感得し得ない。
 したがって、本件コスチュームは本件デザイン画の複製物・翻案物には当たらない。
4 争点1−4(本件デザイン画等の使用についての原告会社の承諾の有無)
(被告の主張)
 原告X1は、令和元年8月8日の時点で、本件コスチュームが完成したことを認識していたが、同月10日以降、同月中に合計9日間にわたって被告とLINEで連絡を取り合い、その中で本件コスチュームの話が出ていたにもかかわらず、本件コスチュームの使用を禁止するような発言を一切していない。このような経緯からすれば、被告が本件デザイン画及び本件コスチュームを使用することについて、原告会社が黙示的に承諾をしていたことは明らかである。
(原告会社の主張)
 本件デザイン画及び本件コスチュームの使用につき原告会社は承諾をしていない。原告会社が本件コスチュームについて認識したのは令和元年8月8日であり、その2日後には被告のスターダムでのデビューが控えていたため、被告に対して使用の中止を求めることができなかったにすぎない。
5 争点2(不法行為の成否)
(原告らの主張)
 被告による本件メッセージの送信は、以下のとおり、原告らに対する不法行為を構成する。
(1)被告は、実際にはマヂソン社に対し、本件コスチューム代金を支払っていなかったにもかかわらず、本件メッセージにおいて、「コスチューム代金は立て替えたので」などと、あたかも代金を支払済みであるかのように装い、原告らから同代金11万5000円を騙し取ろうとしたものであり、このような被告の行為は不法行為を構成する。
(2)被告は、本件メッセージにおいて、原告らがプロレス業界や芸能界と取引関係にあることを利用して、芸能界において影響力のある秋元康氏の名前を語って支払を強要したものであり、このような被告の脅迫的な行為は不法行為を構成する。
(被告の主張)
 次のとおり、本件メッセージの送信は不法行為に当たらない。
(1)本件メッセージ2の「私が立て替えますので」との記載は、被告が本件コスチュームの代金を立て替える意思を有することの表明であり、これを踏まえて、本件メッセージの全体を通して読めば、本件メッセージ1の「コスチューム代金は立て替えたので」という記載は、「コスチューム代金は私が立て替えることにしたので」という意味であることは明確である。それゆえ、被告は虚偽など述べていない。
 仮に原告らの主張するように、本件メッセージが「既に代金を立替え済みである」ことを前提に、本件コスチュームの代金の支払を求めるものであったとしても、原告X1は、その後、実際にまだ代金が支払われていないことをマヂソン社に確認していること(甲4)からすれば、原告らは錯誤に陥っていない。
(2)被告は、本件コスチューム代金に関し、原告X1において代金を負担するつもりであると認識し、マヂソン社からも、同社と原告X1が協議をした結果、代金は原告会社に請求することになったという話を聞いていた。しかるに、原告X1がマヂソン社に対する代金の支払をしないため、被告は、今後も支払が行われないようであれば、当時の所属事務所である太田プロに相談し、弁護士を立ててもらうしかないと考え、本件メッセージを送信したものである。秋元康氏の名前を出したのは、太田プロに依頼すれば、同人が依頼するような優秀な弁護士が債権回収を行ってくれると考えたためであるが、どのような弁護士の名前を出そうと、当該弁護士の依頼人である秋元康氏らが原告らに対して何らかの不利益な取扱いに及ぶなどというのは原告らの勝手な思い込みにすぎず、秋元康氏やその弁護士に言及することは、不法行為を構成するような言動には当たらない。
 実際にも、原告X1又は原告X2は、本件メッセージに対し、「お手数ですが、相手の弁護士の方のご連絡を教えて頂くか、こちらの弁護士の連絡先をお伝えします。」と返信しており、何ら畏怖している様子はみられない。
6 争点3―1(著作権侵害による損害)
(原告会社の主張)
 原告会社は、被告の著作権侵害行為により、以下のとおり、合計216万4000円の損害を受けた。
(1)ポートレート販売及びツーショット撮影56万4000円
 被告は、本件コスチュームを着用して、現在までに合計47の興行を行っているが、ポートレート販売及びファンとのツーショット撮影により、1回の興行当たり6万円の売上げを計上していると考えられる。
 そのうち被告に支払われる配当は20%であると推測されるから、被告は、これまでに、56万4000円(=6万円×0.2×47)の利益を得ているところ、同額が著作権法114条2項により推定される損害の額となる。
(2)グッズ販売及びメディアへの出演160万円
 被告は、本件コスチュームを着用した状態での被告のグッズを販売したり、本件コスチュームを着用した状態でテレビや雑誌等に出演したりしている。これについては、正確な販売数量を把握することは困難であり、損害額は算定不能であるから、160万円となる。
(被告の主張)
 争う。
7 争点3−2(不法行為に基づく損害)
(原告らの主張)
 原告らは、被告の不法行為により、以下のとおり、各自50万円の損害を受けた。
(1)原告会社の損害
 被告の詐欺行為により、原告会社は、長年取引のあったマヂソン社との関係が悪化したため、信用回復のための対応を余儀なくされた。同対応に費やした労力を金銭に換算すると、50万円を下らない。
(2)原告X1及び原告X2の損害
 被告の脅迫的な発言により、原告X1及び原告X2は、いずれも精神的な苦痛を被ったが、これを金銭的に評価すると、慰謝料の額は一人当たり50万円を下らない。
(被告の主張)
 争う。
第4 当裁判所の判断
1 争点1−4(本件デザイン画等の使用についての原告会社の承諾の有無)について
 事案に鑑み、まず、争点1−4について検討する。
(1)ア 前記前提事実によれば、原告X1は、令和元年7月6日、プロレスラーとしてのデビューに当たって必要となるコスチュームの制作について被告から相談を受け、衣装制作会社及びデザイナーを紹介するとともに、被告から送信を受けた本件デザイン画のデータについて、「アイドルらしくて、いいよ。」、「コスチューム代、俺が出そうか?」、「絶対にクオリティは下げないで。」などのコメントをしているとの事実が認められる。これによれば、原告X1は、本件コスチュームの制作に積極的に協力し、その代金の負担まで申し出ているのであり、完成したデザイン画及びそれに基づいて制作される本件コスチュームの著作権の使用について特段の制限や条件を付したことをうかがわせる事実は存在しない。
イ 同様に、原告X1は、令和元年8月8日、被告から、完成した本件コスチュームを着用した写真の送付を受けたが、これ対して特段の異議を述べることはなく、被告のデビュー後も、被告とLINEを通じてやり取りを行っているが、その際に、本件デザイン画や本件コスチュームの使用について特段の異議を述べたとの事実も認められない。
ウ このように、原告X1は、被告が令和元年8月10日にプロレスラーとしてデビューすることを認識した上で、本件デザイン画や同デザイン画をベースとしてコスチュームを制作することを認識し、同日の前に実際に制作されたコスチュームのデザインを確認していながら、その使用についてデビューの前後を通じ何ら異議を述べていないのであるから、仮に原告会社が本件デザイン画及び本件コスチュームの著作権を有するとしても、被告に対してその使用を許諾していたものというべきである。
(2)ア これに対し、原告会社は、本件デザイン画につき、著作権法30条の3にいう「検討の過程における利用」において必要と認められる限度で使用することは承諾していたが、当該限度を超えて、本件デザイン画と同一又は類似のコスチュームを使用することは承諾していなかった旨主張する。
 しかし、原告X1は、被告が完成した本件デザイン画を使用して本件コスチュームを制作し、これを着用して活動することを認識した上で、同デザイン画の使用に関して何らの制限や条件を付していなかったと認められることは前記判示のとおりである。
 したがって、「検討の過程における利用」のみを許諾していたとの原告会社の主張は採用し得ない。
イ 原告会社は、原告X1が令和元年8月8日に本件コスチュームの写真を確認した際に異議を述べなかったのは、2日後に被告のデビューが控えていたためである旨主張する。
 しかし、原告X1は、令和元年8月8日より以前の段階から、本件デザイン画に基づいて本件コスチュームを制作していることを認識していたと認められ、デビュー後の被告とのやりとりにおいても、本件デザイン画及び本件コスチュームの使用について何ら異議を述べていないのであるから、原告X1が本件コスチュームの写真を確認したのが被告のデビューの2日前であったとしても、同事実は、原告会社が本件デザイン画及び本件コスチュームの使用について承諾していたとの結論を左右しない。
 したがって、原告会社の上記主張は採用し得ない。
(3)以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、著作権侵害に係る原告会社の請求は理由がない。
2 争点2(不法行為の成否)について
(1)原告らは、被告が、マヂソン社に対し本件コスチューム代金を支払っていなかったにもかかわらず、本件メッセージにおいて、代金を支払ったかのように装い、原告らから11万5000円を騙し取ろうとしたことが詐欺行為に当たる旨主張する。
 しかし、前記前提事実によれば、原告X1は、本件コスチュームの代金を原告会社が負担する旨の申し出を行い、被告はその申し出を受けたものの、原告会社からの同代金の支払がなされないことから、マヂソン社に対して同代金を自ら分割払いすることを約した上で、本件メッセージを原告会社に送信し、同代金を自らに支払うように請求したものと認められる。被告のかかる請求は正当な権利行使の範囲を超えるものではなく、不法行為を構成しない。
 これに対し、原告らは、被告が本件コスチューム代金を既に支払ったかのような本件メッセージの記載は虚偽であると主張するが、前記のとおり、原告会社は同代金を負担する旨の意思を表明していた上、被告は本件メッセージの送信時点でマヂソン社に対して同代金を支払うことを約束していたことに照らすと、被告には原告らを欺罔して同代金相当額を詐取する意思は認められず、他に被告に詐取の意思があったことをうかがわせる事情は存在しない。原告らの指摘する本件メッセージ送信時点における同代金の支払の有無は不法行為の成否に影響を及ぼす事実ではなく、上記結論を左右しない。
 したがって、本件メッセージの送信が詐欺行為に当たるとの原告らの主張は理由がない。
(2)原告らは、本件メッセージに関し、被告が秋元康氏の弁護士に言及するなどして支払を強要したことが脅迫行為として不法行為を構成すると主張する。
 しかし、代金の支払期限内に支払がない場合に弁護士が法的措置を取る旨の記載は、不法行為を構成する「支払の強要」や「脅迫」には該当せず、このことは、言及された弁護士が著名人の顧問弁護士である場合も同様である。そして、これらの弁護士において原告らに対する法的措置の検討が実際にはされていなかったとしても、当該事実は、本件メッセージが「支払の強要」や「脅迫」に該当しないとの上記結論を左右しない。
 したがって、本件メッセージの送信が脅迫行為等に当たるとの原告らの主張は理由がない。
(3)以上によれば、本件メッセージの送信が原告らに対する不法行為を構成するということはできない。
3 結論
 以上の次第で、その余の点につき判断するまでもなく、原告らの請求にはいずれも理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部
 裁判長裁判官 佐藤達文
 裁判官 吉野俊太郎
 裁判官 小田誉太郎


(別紙)本件デザイン画(省略)
(別紙)本件コスチューム(省略)
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