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【事件名】著作権の相続事件
【年月日】令和3年8月10日
 東京地裁 令和元年(ワ)第30126号 著作権共有持分等確認請求事件(本訴)、
 令和2年(ワ)第22364号 不当利得返還請求事件(反訴)
 (口頭弁論終結日 令和3年6月3日)

判決
本訴原告・反訴被告 A(以下「原告」という。)
上記訴訟代理人弁護士 飯田圭
同 山本飛翔
本訴被告・反訴原告 B(以下「被告B」という。)
本訴被告・反訴原告 C(以下「被告C」という。)
亡本訴被告E訴訟承継人・反訴原告 D(以下「被告D」といい、被告B、被告C及び被告Dを併せて「被告ら」という。)
上記3名訴訟代理人弁護士 中吉章一郎


主文
1 原告と被告らとの間において、別紙著作物目録記載の著作物について、原告が4分の1の割合による著作権の共有持分を有することを確認する。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 原告は、被告らに対し、各3万9682円を支払え。
4 原告は、被告らに対し、各13万5401円を支払え。
5 被告らのその余の請求をいずれも棄却する。
6 訴訟費用は、本訴、反訴を通じ、これを5分し、その2を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
7 この判決は、第3項及び第4項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求
1 本訴
(1)原告と被告らとの間において、別紙著作物目録記載の著作物について、原告が4分の1の割合による著作権の共有持分を有することを確認する。
(2)原告と被告らとの間において、別紙著作物目録記載の著作物について、原告が共有著作権の行使の代表者の地位にあることを確認する。
2 反訴
(1)原告は、被告らに対し、各39万9018円を支払え。
(2)原告は、被告らに対し、各35万1619円を支払え。
(3)仮執行宣言
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 本件は、F(筆名G。以下「G」という。)の著作物である別紙著作物目録記載の著作物に係る著作権(以下「本件著作権」という。)につき、Gの子のH(以下「H」という)が著作権の利用許諾等の管理をし、Hの死後はその子である原告がこれを引き継いだところ、原告と本件著作権を共有する、Gの子でありHのきょうだいである訴訟承継前亡本訴被告E(以下「E」という。)、被告B及び被告C(以下、E、被告B及び被告Cを併せて「Eら」という。)との間で、本件著作権の収益の分配方法等で紛争になったとして、本訴は、原告が、被告らに対して、原告が本件著作権の共有持分を有すること及び本件著作権につき著作権法65条4項、64条3項所定の共有著作権の行使の代表者の地位にあることの確認を請求する事案であり、反訴は、本件著作権に係る収益を管理していたH又はHの死亡後に事実上収益を管理していた原告において経費として計上して収受した金員のうちの一部には理由がなくその収益の一部につき、法律上の原因なく収受したとして、被告らが、Hを相続した原告に対し、不当利得(ただし、「第1請求」の経費に係るもの、同平成31年度分から令和2年度分の経費に係るもの)の返還を請求する事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認められる事実)
(1)Eら及びHは、Gとその妻である亡I(以下「I」という。)の間の子であり、Eが長男、Hが次男、被告Bが三男、被告Cが長女である。被告Dは、Eの子である。原告はHとJの間の子である。
 Gは昭和62年に死亡し、Iは平成9年に死亡し、Hは平成28年8月24日に死亡し、Eは令和2年1月18日に死亡した。
 Hは、平成28年4月21日、公正証書遺言(鹿児島地方法務局平成28年第112号)により、全財産を原告に相続させる旨の遺言をした。また、被告Dは、Eの唯一の相続人である。(甲2、46、弁論の全趣旨)
(2)本件著作権は、原告及び被告らの4名で、各4分の1の割合で準共有されている。(争いなし)
(3)本件著作権は、Gの死後、Iにより管理されていたが、Iの死後は、当時、本件著作権を準共有していたEらの委託を受けてHが共有著作権の行使の代表者として利用許諾等の管理を行い、Hは、本件著作権管理に係る経費を控除した上で(ただし、正当な経費の額については、後記のとおり争いがある。)、受領した著作権料をEらに分配してきた。(争いなし)
(4)Hの死亡後は、主として、原告が、本件著作物の利用許諾等の管理を行い(ただし、これが正当な権限に基づくものであったか否かについては後記のとおり争いがある。)、受領した著作権料につき、当時原告と本件著作権を準共有していたEら(ただし、Eの死亡後はEに代えて被告D)に対して、令和2年度分まで、著作権料を分配してきた。(甲71〜73、233〜238、弁論の全趣旨)
3 争点
(1)本件著作権につき、原告が4分の1の割合による共有持分を有することの確認を求める請求に確認の利益があるか(争点1)
(2)原告が、現在、著作権法65条4項、64条3項所定の共有著作権の行使の代表者の地位にあるといえるか(争点2)
(3)不当利得返還請求(争点3)
ア Hが本件著作権に係る収益分配に当たり控除できる金員(争点3−1)
イ 原告が本件著作権に係る収益分配に当たり控除できる金員(争点3−2)
ウ H又は原告の利得額、因果関係のある損失(争点3−3)
4 争点に対する当事者の主張
(1)本件著作権につき、原告が4分の1の割合による共有持分を有することの確認を求める請求に確認の利益があるか(争点1)
(原告の主張)
 原告は、本訴提起前にEらと交渉した際、Eらの代理人弁護士から、原告は、Eらの存命中は本件著作権の共有持分を取得することはなく、実質無権利者であるとの通知を受けた。被告らが本訴において請求を認諾しないことからも、確認の利益が認められる。
(被告らの主張)
 原告及び被告らが本件著作権を各4分の1の割合で共有していることについては当事者間に争いがないので、確認の利益を欠く。
(2)原告が、現在、著作権法65条4項、64条3項所定の共有著作権の行使の代表者の地位にあるといえるか(争点2)
(原告の主張)
ア H及びEらは、生前、「遺族会代表Hが相続できぬ状態になった時は、代表相続人としてAはHの全ての権利を相続する。」との記載を含む「G著作権に関わる覚え書」と題する書面(甲1。以下「本件覚え書」という。)を作成した。当時、Hが本件著作権に係る共有著作権の行使の代表者として「遺族会代表」の名の下、本件著作権の管理を行っていたことに加え、原告が、Hと共に本件著作権の管理に携わっていたこと、原告が大学院で児童文学を専攻し、学芸員資格を取得して実際に学芸員として勤務するなど管理者としての適性を有していたこと、他方でEらが本件著作権を管理することが困難だったことを考慮すると、上記本件覚え書の記載は、Hの死亡を停止条件として原告を本件著作権の行使の代表者に選任することを合意する趣旨を含むものであると解するべきである。このことは、原告が本件著作権を管理することに対してEらが異議を述べなかったことからも裏付けられる。
 原告は、Hの死後、Eらに対して、本件著作権に係る共有著作権の行使の代表者として活動していくことを示し、適宜相談もしつつ、実際に代表者として活動してきたことから、本件合意に係る黙示の受益の意思表示をしたといえるから、原告は、著作権法65条4項、64条3項所定の共有著作権の行使の代表者の地位にある。
イ 被告らは、仮に原告がEらとの合意により同地位に就いたとしても、既に同合意を解除する旨の意思表示がされている旨主張するが、本訴前のEらからの通知は事務管理を終了させるという本件法律関係とは無関係の地位の終了を通知するものである。また、共有著作権の行使の代表者の地位に係る合意は、事務手数料に加え、原則として包括的かつ無制限に代表権を行使できるという非金銭的かつ重大な利益を含むものであるから解除できない(民法538条)。仮に解除できるとしても受任者に利益のある継続的契約の解除であり、やむを得ない事由があるときに限られると解するべきであり、そのような事由はないから、被告らの主張には理由がない。また、解除を主張することは権利の濫用に当たる。
(被告らの主張)
 Hの死亡を停止条件として原告を本件著作権の行使の代表者に選任することは法的にあり得ない。
 本件覚え書は、Eらが、Hから手紙で押印を依頼されて押印して返送したものであるが、H及びEらの死後の相続等に関する覚書文書にすぎず、法的には無効である。原告が指摘する記載のうち、「相続できぬ状態になった時」、「Hの全ての権利」は意味が不明である。共有著作権の管理に関してEらがHに委任していた地位はHの一身専属の地位であり、Hの死亡によって消滅するものである。
 本件著作権の管理に専門知識は必要がない。
 原告は、Eらに本件著作権の管理に関して相談したことも報告したこともなく、原告は事実上管理を行っていたにすぎない。
 また、Eらは、原告による事実上の管理をそのまま放置できないので、平成30年3月13日付の書面(甲36)、同年9月27日付書面及び同月28日付書面(甲40、41)をもって事務管理の終了を通知した。また、仮に契約が残存していたとしても、令和2年8月18日に原告に到達した同日付け準備書面(被告ら第4)をもって委任契約解除の意思表示が到達し、委任契約は解除された。
(3)Hが本件著作権に係る収益分配に当たり控除できる金員(争点3−1)
(被告らの主張)
 Eらは、Iが死亡した後、平成9年頃、Hに対して本件著作権の管理を委任したが、その際、Hとの間で、Hが管理手数料の名目で、報酬及び経費として総収入の5%を取得し、その余を、Hを含めた共有著作権者らで等分に分配する合意をした。したがって、Hは、収益を4等分するのに先立って、前記5%の管理手数料を控除することは許されていたものの、それ以外の金員を控除することは許されていなかった。本件著作権の管理に係る経費は限られるので、上記5%の中で十分にまかなえるものであった。
 Hからは、前記5%を超える経費が差し引かれた報告書が届いたことはあったものの、Hとの関係を思い、争いを避けるため、H存命中はとがめだてをしなかったに過ぎない。
(原告の主張)
 Hが取得することについて合意が成立していた年間総収入額の5%の金員に経費が含まれていたとの主張は否認する。これを裏付ける証拠はなく、本件覚え書でも、第5項で「遺族代表には事務手数料として年間総収入額の5%を支払う事。」との記載があるが、経費を含む旨の記載はない。合意した事務手数料は報酬に当たり、経費は含まないと解すべきであり、民法650条により、著作権料の分配前に経費の控除が認められるべきである。
(4)原告が本件著作権に係る収益分配に当たり控除できる金員(争点3−2)
(被告らの主張)
(3)で主張したとおり、Eらは、Hに対しては、著作権の管理を委託していたものの、その委任契約はHの死亡に伴い終了した。従って、原告には本件著作権の管理につきEらとの合意に基づく権限はなかった。原告は、本件覚え書により、権限を取得したと主張しているが、これに理由がないことは、(2)で主張したとおりである。
 原告は、事務管理として本件著作権に係る著作権を徴収していたに過ぎないから、控除できるのは、事務管理のための必要費に限られる。
(原告の主張)
 原告は、(2)で主張したとおり、本件覚え書及び黙示の受益の意思表示により著作権法65条4項、64条3項所定の共有著作権の行使の代表者の地位を取得しており、これは、報酬、経理の取り扱いについてもEらがHに対して著作権料の管理を委任していたのと同じ条件で委任する趣旨を含むものである。よって、原告は、(3)で主張したとおり、収益を4等分するのに先立って、総収入の5%の管理手数料に加え、必要な経費を控除することができる。
(5)H又は原告の利得額、因果関係のある損失(争点3−3)
(被告らの主張)
 H又は原告は、H又は原告が委託していた税理士作成の明細書によれば、「地代家賃」「旅費交通費」「通信費」「接待交際費」「支払手数料」、「雑費」(平成29年以降は総収入の5%を「管理手数料」の名目も追加されている)の名目で経費を計上し、収益を4等分する前にこれらの金員を控除している(なお、平成28年以前は、費目は明示されていないものの、Hの取り分が総収入の5%分多く計算されている)。
 平成27年度分から平成30年度分について、少なくとも別紙利得計算表1記載の名目で控除していた費目については、(3)、(4)で主張したとおり、H又は原告にはこれらの費用を清算する理由がなく、これらの金員に係る自身の取り分4分の1を超える金員については不当利得に当たり、Hを相続した原告は、被告らに対してこれらの金員の4分の1ずつを返還すべきである。平成27年度の費用には、原告によるロシア旅行の費用も含まれており、同費用は控除が許されるものではない。
 よって、平成27年度分から平成30年度分に経費として計上された別紙利得計算表1の各年度欄の各費目に係る金員それぞれに被告らの取り分である4分の1を乗じた額を合計した、39万9018円ずつが、各被告らが原告に請求できる不当利得額となる(なお、Eの請求権は、相続により被告Dが取得した。)
 また、平成31年度分から令和2年度分についても、事務管理に必要な「通信費」及び共益費たる税理士報酬に当たる「支払手数料」を除いた、別紙利得計算表2記載の名目で控除した費目については、(4)で主張したとおり、原告にはこれを取得する理由がなく、原告自身の取り分である4分の1を超える金員については不当利得に当たり、被告らに4分の1ずつを返還すべきである。
 よって、別紙利得計算表2の平成31年度及び令和2年度のそれぞれの年度の費目の合計ごとに4分の1を乗じた額の合計額である35万1619円ずつが、各被告らが原告に請求できる不当利得額となる(なお、Eの請求権は、相続により被告Dが取得した。)
(原告の主張)
 H又は原告が5%の管理手数料に加えて本件著作権管理のために必要な費用を分配金から控除することができることは(3)、(4)で主張したとおりである。被告らが指摘する費用は、税理士の承認を得た上で控除しており、必要経費として認められるべきである。
 被告らが指摘する平成27年のロシア旅行については、ロシアでのGの顕彰活動のために必要な費用であり、経費として認められるべきである。
第3 当裁判所の判断
1 争点1(本件著作権につき、原告が4分の1の割合による共有持分を有することの確認を求める請求に確認の利益があるか)について
 H死亡後本訴提起前に原告とEらとの間で弁護士間のやり取りがされたところ(後記2(1)カ、キ)、平成30年3月13日付けで、Eらの弁護士から、原告に対し、原告が本件著作権の共有持分を有することを否定する文書が送付された(甲36)。Eらと原告との間で、少なくとも、当時、原告が本件著作物の共有持分を有するか否かにつき紛争になっていたことが認められる。弁護士を介した交渉においても原告の共有持分が否定されていたという経緯に照らせば、本訴において被告らが原告の権利を認める主張をするに至ったことを考慮しても、未だ確認の利益は失われていないと解するのが相当である。よって、確認の利益に係る原告の主張には理由がある。
 そして、前提事実のとおり、原告と被告らは、本件著作権をそれぞれ4分の1の割合で準共有しているから(前提事実(2))、本訴の請求の趣旨の請求には理由がある。
2 争点2(原告が、現在、著作権法65条4項、64条3項所定の共有著作権の行使の代表者の地位にあるといえるか)について
(1)証拠(各項の末尾に掲記する。)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
ア Gの死後、Iが本件著作権の利用許諾等の管理を行っていたが、Iの死後は、Eらの委託を受けて、GやIと同居していたHが、著作権法65条4項、64条3項所定の共有著作権の行使の代表者となり、単独で本件著作権の利用許諾等を行っていた。その際、HはG遺族会代表という肩書を使用することがあった。(弁論の全趣旨)
イ Hは、Iが死亡し、Hが本件著作権の管理を開始してから数年後、本件覚え書の文案を作成した。被告Bは、J宅を訪ねた際にJから求められて本件覚え書の被告Bの名下等に被告Bの印章を押捺した。また、被告Cは、郵便で本件覚書の送付を受け、電話でJと連絡をするなどし、被告Cの名下に被告Cの印章を押捺した。また、HやEも本件覚え書のそれぞれの名下に自己の印章を押捺した。
 上記のような押印を経て作成された本件覚え書はHの自宅の金庫で保管された。本件覚え書が作成された際に、その内容について、当事者間で特段の話し合いや説明がされたとは認められないし、Hが死亡した後にどのように共有著作権を行使していくのかが、H及びEらの間で紛争になっていたという事情はなかったことが認められる。
 Hは、その生前、本件覚え書の存在やその保管場所を原告に告げたことはなかった。(甲1、乙19、24、原告本人、被告C本人)
ウ(ア)本件覚え書の表題は「G著作権に関わる覚え書」というものであり、以下の内容が記載されている。
「G著作権に付いて現在はスムースに運営されているが、今後いろいろの問題点が起きると思われるので、ここに覚え書を交わす事と致します。
1、現在実子四人で相続しているが、この四人の者が死亡又は相続出来ぬ状態になった時は、各家族の長男か長女が代表相続人となる。
イ)遺族会代表Hが相続できぬ状態になった時は、代表相続人としてAはHの全ての権利を相続する。
ロ)Eが相続出来ぬ状態になった時は、DがE家の代表相続人となる。
ハ)Bが相続出来ぬ状態になった時は、KがB家の代表相続人となる。
ニ)Cが相続出来ぬ状態になった時は、LがC家の代表相続人となる。
2、著作権・出版権その他貸し出された物に付いては(軽微な物)遺族代表に権限を与える
 代表者は出来るだけ皆の意見を聞く。
3、著作権料は毎年一回12月に締めて四人で分ける。端数は次年度に回す。(経理処理後)
4、1のイ・ロ・ハ・ニの相続人が相続出来なくなった時はその相続人の長男が長女が代表相続人となる。もしこの相続人も居ないときは、各々の家で一人の代表相続人を決める。
5、遺族代表には事務手数料として年間総収入額の5%を支払う事。」
(イ)上記(ア)の記載の後に「遺族会代表H」の記名押印に続き、Eら3名の記名押印がされている。(甲1)
エ Hは、平成27年6月30日、財産全部を原告の子(Hの孫)に包括して遺贈する公正証書遺言をしていたが、平成28年4月21日、同遺言を撤回し、財産全部(不動産、預貯金債権等のすべての金融資産、現金及び家財道具等の動産を含むその他一切の財産)を原告に相続させる公正証書遺言をした。同遺言には、付言事項として、「この遺言を作成するにあたり、次のことを付言しておきます。これまで児童文学を学んできた長女Aは、父Gのことも深く研究し、広めようと活動してくれています。この活動をこのまま継続して欲しいと考えています。そのために、私の後のG遺族会の代表をAに引き継いで貰いたいと考えています。そのような思いを込めて、私の財産を全てAに遺すことにしました。どうか、親族のみんなが、私の気持ちを理解し、尊重してくれることを望みます。」などと記載されていた。この付言は、公証人から、公正証書遺言には資産についてしか書けず、法律的な拘束がない自分の思いを書くことでいいかと確認されて、Hがそれを確認し、記載されたものである。(甲46、243、原告本人)
オ 遅くともHが病気のために体を動かすのが難しくなった後は、原告が事実上本件著作権の管理を引き継ぎ、平成28年8月24日のHの死亡後も、1年ごとのEらに対する本件著作権に係る収益の分配も含めて、現在まで管理を継続している。(甲71〜73、233〜238)
カ 被告Bは、平成28年12月9日付で、原告に対し、H死亡後の本件著作権の管理方針として、Eが代表者となり、種々の問題については共有者で話し合い、原告はHの後を継いで著作権の許諾と著作権料の管理を行い、報酬として5%と地代家賃、通信費のみを取得するという方針を提案するとともに、タクシー券は認めない、交際費も一切認めないタクシー代を支出する場合には用件等を明示すること、無駄な経費を使わないようにすることなどについても守ること等を前提としている旨を記載した書面を送付した。
 被告Bは、平成29年7月15日には、原告に対し、著作権管理業務は、Eの子である被告Dがふさわしいと思う旨を記載した書面を送付し、同年9月22日には、E、被告B及び被告Cは、本件著作物を公益社団法人日本文芸家協会(以下「協会」という。)に委託したいと思う旨を記載した書面を送付した。
 遅くとも平成29年11月17日には、原告は、本件訴訟代理人弁護士に依頼して本件著作権の管理方針等について交渉をするようになった。同日、原告代理人は、Eらに対し、本件著作物の著作権行使の代表者は、Hの下で実際に本件著作権の管理業務に従事していた原告とすることを受け入れるのであれば、本件著作物の著作権の管理を協会に委託することを前向きに検討することなどが記載された書面を送付した。
 Eらは、平成29年11月21日付けで、原告代理人に対し、原告を代表者にすることには同意できず、Eら3名は代表をEにしたい旨が記載された書面を送付した。
 平成30年1月30日には、Eらも本件訴訟代理人弁護士に依頼して交渉するようになり、Eらは、平成30年3月13日、原告に対して、原告が行っている本件著作権の管理につき、事務管理を終了する旨の通知をした。(甲25〜36)
キ その後も両代理人間で書面のやり取りをしていたが、原告は、平成30年11月12日頃までに、金庫で本件覚え書を発見した(原告はそれまでその存在を知らされていなかった。)。原告は、同日付けで、Eらに対し、本件覚え書によって、原告が共有著作権行使の代表者の地位に就くことについては、合意が成立している旨通知した。(甲2、42、原告本人)
ク 原告は、令和元年11月8日、本訴を提起した。令和2年1月18日にEが死亡して唯一の相続人である被告Dが訴訟を承継した。
 被告らは、令和2年8月18日に原告に到達した同日付け準備書面をもって、原告が仮にEらがHに委任した地位を相続していたとしても、これを全て解除する旨の意思表示をした。(顕著な事実)
(2)原告は、本件覚え書第1項の「遺族会代表Hが相続出来ぬ状態になった時は、代表相続人としてAは、Hの全ての権利を相続する。」との記載により、HとEらの間で、Hの死亡後、原告を共有著作権行使の代表者とする旨の第三者のためにする契約が締結されたと主張するため、この点について検討する。
 本件覚え書の記載等は(1)ウで認定したとおりであり、第1項は、柱書で、現在Gの4人の実子が権利を相続しているが、その権利は各家族の長男又は長女を代表相続人とすると記載した上で、続けて、同項のイ)からニ)において、当時著作権を共有していた各きょうだいの長子の名称を明示して代表相続人とする旨記載されている。そうすると、第1項の規定は、それらの記載から、本件著作権の共有持分権を次に相続する者をあらかじめ特定の1人に定めておくこと、すなわち、各持分が複数の相続人によって相続されたり、相続人間で誰が著作権を相続するかで争いになって著作権行使に係る関係者が現在以上に多数人になったりすることを防止することに主眼があると自然に理解することができるものである。ここで、Hは本件覚え書で「遺族会代表」と記載されており、また、当時、Hが共有著作権行使の代表者であった、原告はこれらからHとEらの間で上記のとおりの第三者のための契約が締結されたと主張する。しかし、本件覚え書には、H死亡後の共有著作権行使の代表者を誰とするかや、Hが他の持分権者と異なる「権利」を有することが明示的に記載されていない。これらに柱書を併せれば、第1項は、本件著作権の共有持分権を次に相続する者をあらかじめ特定の1人に定めておくことを定めたものであり、第1項イ)は、H死亡後の共有著作権行使の代表者についての記載ではなく、現在「遺族会代表」であるHが有する本件著作権の共有持分権について定めたものであると解釈することもできる。
 そこで、H死亡後の共有著作権行使の代表者に関する本件覚え書の記載の内容が必ずしも一義的に明らかとはいえず不明確であるといえるから、関係する事情をみると、本件覚え書作成当時、当事者間で特段の話合いや説明がされたとは認められないし、Hが死亡した後にどのように共有著作権を行使していくのかが、H及びEらの間で紛争になっていたという事情はなかったことが認められる。なお、本件覚え書の冒頭には、「今後いろいろの問題点が起きると思われるので」との記載はあるものの、どのようなことをHが「問題点」と想定していたのか、Eらとの間でその問題点が共有されていたのかについて手がかりとなる証拠はなく、この記載がHとEらとの間で当時Hの後任について議論されていたことを推認させる事情に当たるということはできない。少なくともEらは、本件覚え書が作成された時点で、仮にHがHの後任について定めようとしていたとしても、そのことを認識する契機があったとは認められない。このような状況に照らすと、本件覚え書の上記のような記載について、原告が主張するような趣旨を少なくともEらが読み取ることは事実上不可能なものであったといえる。
 また、仮にHが自身の死亡後の著作権行使の代表者を原告とすることについて、あらかじめEらとの間で合意しておく必要があると考えて本件覚え書を作成したというのであれば、本件覚え書を作成した時点で原告にこれを説明した上で、その存在や保管場所を原告に知らせなかったことは不可解といえる。そして、Hが平成27年6月30日にした公正証書遺言の付言事項の記載は、H死亡後の本件著作権の著作権行使の代表者がいまだ定まっていないことを前提として、原告がその代表者となることを希望するというHの意思をEらに対して尊重してほしいとの思いを述べたと理解できるものであり、H死亡後の本件著作権の著作権行使の代表者がEらとHとの間で既に本件覚え書により決まっていたというのであれば、本件覚え書に触れられても不思議でないにもかかわらず、本件覚え書への言及はない。
 他方、EらがH死亡後に原告が共有著作権行使の代表者の地位を得ることを前提とした行動をとったことがあったとは認められない。前記認定のとおり、Eらは、Hの死後、約3か月後には、Eを代表者とすることを述べるなどして、原告と以後の著作権の管理方針について交渉を始めた。
 本件覚え書の第1項は、その記載から著作権行使に係る関係者が現在以上に多数人になったりすることを防止することに主眼があると自然に理解することができることに併せ、以上の事情を総合的に考慮すると、同項イ)は、HとEらとの間で、Hの死亡後に原告を共有著作権行使の代表者とすることを記載したものとは解釈されず、本件覚え書によって原告主張の合意が成立したとは認められず、また、他に原告主張の合意を認めるに足りる証拠はない。
 なお、原告は、本件著作権の管理に当たっては、普及活動が重要で、また、共有著作権行使の代表者として、原告がふさわしく、被告らには務まらない事情等を主張する。しかし、既に説示したとおり、本件覚え書作成当時、Hの後任を誰にするのかが、HとEの間で議論になっていたことをうかがわせる事情はないのであるから、当時客観的に誰がHの後任としてふさわしかったのかが原告主張の合意の成否を左右する事情に当たるとはいえない。
 よって、本訴の請求の趣旨についての原告の請求には理由がない。
3 争点3−1(Hが本件著作権に係る収益分配に当たり控除できる金員)について
(1)証拠(各項の末尾に掲記する。)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
ア Hは、平成9年にIが死亡したのち、Eらから、本件著作権の利用許諾等の管理、著作権料の分配等の委託を受けた。Iの死後、数年後に取り交わされた本件覚え書の第5項には、「遺族代表には事務手数料として年間総収入額の5%を支払う事。」との記載がある。(甲1、被告C本人)
イ Hは、本件著作権の管理に係る費用について出納帳で管理していた。(甲74、215)
ウ Hは、遅くとも平成20年以降は、1年ごとの本件著作権に係る著作権料の分配にあたり、その算定等を税理士に委託していた。税理士は、分配額を算定するに当たって、まず、収入総額の5%をHへの報酬として控除した。そして、Hが計上した経費につき控除の対象になるか否かという観点から検討し、控除対象として認められるものについてのみ、上記5%の控除後の残額から控除し、その残額を4等分して、それぞれをEらへの分配金とした。Hの分配金はEらへの分配金に上記5%の金員を加算した額になっていた。
 税理士は、毎年、分配金計算の明細書を作成し、Eらは、分配金の支払を受けるのと同じ頃に同明細書も受領していた。同明細書には、収入金の総額やその内訳のほか、「地代家賃」、「旅費交通費」、「通信費」、「接待交際費」、「消耗品費」、「支払手数料」、「雑費」という項目とそれぞれの項目合計額が記載され、収入金からそれらの経費が控除された上で、各人の最終的な取得額が算定されたことが記載されていた。Hの報酬(手数料)については独立した項目としては記載されていなかったが、Hの取得額がEらのそれぞれの取得額より高額であることは同明細書において各人の取得額が同じ行に記載されていることからも明らかであり、同明細書には収入金の総額も明示されているため、その差額が経費控除前の総収入の5%であることは容易に計算できた。(甲70、123〜129)
エ Eらは、Hの生前に分配金の算定方法に異議を述べたことはなかった。(被告B本人、被告C本人)
オ 原告は、平成27年秋、ロシアのカザン市で行われる国際女性フォーラムに参加した薩露交流促進協議会のサポートとして同行し、その時、カザン市での文科省主催の夕食会では文科省副大臣へのG作品贈呈式が行われたことなどを理由に、同旅行は、ロシアでのGの顕彰活動に当たるとして、その時の旅費の一部16万円を本件著作権管理に係る経費として計上した。Eらは、その後、同ロシア旅行を経費に計上することを問題視するようになった。(甲2、19、原告本人)
(2)Eらは、Hとの間で、Hが管理手数料の名目で、報酬及び経費として総収入の5%を取得し、その余を、Hを含めた共有著作権者らで等分に分配する合意をしており、総収入の5%に加えて経費を控除することは許されていなかったと主張するため、以下、この点について検討する。
 被告Bは、本人尋問において、上記主張に沿う内容の供述をしているものの、その主張する事実を直接裏付ける客観的な証拠はない。本件覚え書には、事務手数料として年間総収入の5%をHに支払う旨の記載があるものの、経費の取り扱いや、経費と事務手数料との関係の記載はない。
 他方、Hは、遅くとも平成20年以降は、収入総額の5%のほかに税理士が是認した経費を控除した上で、分配金を計算し、その過程が記載された明細書をEらに送付し、Eらは、そのような分配金の計算方法について異議を述べたことはなかった。
 これらによれば、HとEらとの間では、分配金の計算にあたっては、Hの報酬(手数料)である総収入の5%を控除し、さらに、本件著作権の管理に係る経費を控除した上で、残額につき4等分することで合意が成立していたと認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
4 争点3−2(原告が本件著作権に係る収益分配に当たり控除できる金員)について
 原告を本件著作物の著作権行使の代表者とすることにつき、HとEらとの間で合意が成立していたとは認められないことは2で説示したとおりであるところ、同様の理由により、原告とEらとの間で、本件覚え書をもって、原告が本件著作権の利用許諾及び著作権料の分配を担当すること及び管理方針について合意が成立していたとは認められない。
 また、被告Bは、平成28年12月9日付で、原告に対し、H死亡後の本件著作権の管理方針として、Eが代表者となることを前提として、原告はHの後を継いで著作権の許諾と著作権料の管理を行い、報酬として5%と地代家賃、通信費のみを取得するという方針を提案したが、原告は、その提案を受け入れず(前記2(1)カ)、H死亡後の本件著作権の管理について、当事者間に何らかの合意が成立したとは認められない。そうすると、原告が、Hの死後、本件著作権の管理として行ってきた本件著作権に係る著作権料の受領、分配は、いずれも事務管理(民法697条以下)として行ってきたというべきである。よって、原告が著作権料の分配にあたって控除することが正当化される費用等は、事務管理を前提としたものに限られることになる。
5 争点3−3(H又は原告の利得額、因果関係のある損失)について
 証拠(甲70〜73、234、237)及び弁論の全趣旨によれば、別紙利得計算書1の「平成27年」から「平成30年」欄に係る金額及び別紙利得計算書2の「平成31年」及び「令和2年」欄に係る金額につき、H又は原告が、各費目に応じた費用等を支出したとして、これらに係る清算金名目で(ただし、別紙利得計算書2の「管理手数料」については報酬として)、同額の金員を取得したことが認められる。以下、Hが死亡するまでとその後に分けて、H又は原告の金員の取得が被告らの損失と因果関係のある利得といえるかについて検討する。
(1)Hが死亡するまでについて
 前記3のとおり、Hが死亡した平成28年8月24日までの間は、HとEらとの間では、分配金を4等分するのに先立って、Hが、5%の報酬(手数料)に加え、本件著作権に係る経費も控除して分配することが認められていた。そして、従前から、HがG作品の普及活動のために一定の費用を支出してきたことが認められ(甲2、74、133、原告本人)、3で認定したとおり、Hは、「地代家賃」、「旅費交通費」、「通信費」、「接待交際費」、「支払手数料」及び「雑費」の名目で、遅くとも平成20年以降は税理士が是認した経費(Hが経費として計上したものの、税理士がこれを認めないものもあった(原告本人)。)についてこれを控除して、分配金をEらに分配し、その明細をEらに送付してきたが、Eらはこれに異議を述べたことはなかったこと(なお、Eらは、H死亡後の平成29年2月19日には、税理士に対して「先生に経理の事は一切お願い致しますので宜しくお願い致します。」などと記載された書面を送付した。甲26)及び本件訴訟において、被告らがHの存命中の個別の経費について、基本的にはその不適格性について具体的な主張立証をしないこと(ロシア旅行に係る支出については後記のとおり)に照らせば、Hが存命していた、平成27年度及び平成28年度のうちの同年8月24日までに計上された経費については、上記H及びEらが合意した経費の範囲を逸脱する支出であると認めるに足りる証拠はないというべきである。
 なお、「減価償却費」については、平成26年に購入したパソコンに係るものであり、Hの死後、平成29年度分まで計上されている(甲70〜72)が、その支出自体はHとEらとの間の契約関係に基づくものであるといえるから、平成29年度分まで含めて、その清算は法律上の原因のないものであるとはいえない。
 被告らは、平成27年の原告のロシア旅行に伴う支出(モスクワまでの旅費、モスクワでの1泊分の宿泊費及びビザ代金の合計16万円。甲2、19)について不当な支出である旨主張する。しかし、同旅行において、原告は、ロシアのカザン市で行われる国際女性フォーラムに参加した薩露交流促進協議会のサポートとして同行し(モスクワからカザン市までの旅費及び宿泊費はロシア政府が支給した。)、カザン市での文科省主催の夕食会では文科省副大臣へのG作品贈呈式が行われ、副大臣にG作品が日本の教科書に65年間も採用され続けている日本を代表する児童文学作家であり、ロシア文学の影響も受けていることなどを宣伝してきたなどが認められ(甲2、16〜18)、同旅行がGの顕彰活動としての側面も有していたことは否定できない。前記のとおり、従前から、HがG作品の普及活動のために一定の費用を支出してきたことが認められ、Hが委任していた税理士もこれを経費として支出することを是認した。これらによれば、ロシア旅行で計上された費用が比較的多額であることや、全旅程に占めるG作品の普及活動に係る割合が多くないことなどを考慮しても、上記HとEらの間で合意した経費の範囲を逸脱する、法律上の原因のないものであるとまでは認めるに足りる証拠はない。
(2)Hが死亡した後について
 4で説示したとおり、原告とEら(Eの死亡後は被告D)との間には、本件著作権の管理について何らかの合意が成立したとは認められない。したがって、原告が行ってきた本件著作権の利用許諾、利用方法についての問い合わせに対する対応、著作権料の受領、分配、著作権利用者の維持、獲得のための事務等は、いずれも事務管理によるものであると評価せざるを得ない。そうすると、原告が費用償還できるのは、有益費に限られる(民法702条1項。なお、その範囲は契約関係を前提にしないものであり、原告にはHの存命中のような広範な裁量は認められない。)。他方で、Hの死亡後のEらによる本件著作権の管理方針についての原告に対する要求によれば、ロシア旅行やタクシー代等、著作権管理と関連性が薄いと感じられる支出や贅沢費の支出については、異論を述べていたものの、地代家賃や通信費といった、一定の費用については支出を許容しており(甲25、45等。本訴においても、H及び原告が計上していた費目のうち、通信費及び税理士費用については返還を求めないことを明示している。)、著作権の管理に関連性の高い費用を支出すること自体についてはEらの意に反していたとは認められない。そこで、以上を前提に、原告がHの死亡後に支出して費用として計上してきた各費目につき(それぞれの費目ごとの合計額は、別紙利得計算表1及び同2の「原告支出費用合計」欄記載のとおり。ただし、平成28年分(12月締め)については、Hが死亡したのが8月24日だったため、支出の3分の1がH死亡後の支出にあたることを前提に3分の1を乗じた上で加算している。なお、「減価償却費」については、前記のとおりHが支出し、不当利得に当たらないと認められるため、「原告支出費用合計」欄においては0としている。また、「管理手数料」は原告が支出した金員ではないが、便宜上、合計額を同じ欄に記載している。)、有益費に当たり、これらの費用に係る清算が法律上の原因のない利得にあたるといえるか否か、損失との因果関係が認められるか否かについて検討する。
ア「地代家賃」について
 原告が計上した「地代家賃」は、原告宅の来客用の駐車場代金であることが認められる(甲133)。来客の頻度は必ずしも多くはないものの、原告宅は鹿児島市文化課作成の「G旧宅案内」の看板でも案内がされ、本件著作権の利用希望者、Gのファンや報道関係者、研究者等が訪れていることが認められ(甲133、原告本人)、近隣に代替できる駐車場もないこと(原告本人)などを考慮すると、同支出は、本件著作権の利用の維持に寄与する有益費と評価することができる。よって、原告による同費用の清算は、法律上の原因のない利得であるとまでは認めることができない。
イ「旅費交通費」について
 甲133号証及び原告本人尋問の結果によれば、同費目には主として原告のガソリン代が計上されていることが認められるところ、G記念館での打ち合わせや、著作権管理に係る郵便局等への用事、関係者の送迎のために車を利用していることが認められ、これらを目的とする支出は有益費にあたるといえる。しかし、原告本人尋問の結果、一部原告が私的に車を利用した分も含まれていることが認められる。
 他に、平成29年度の同費目には航空券代等も含まれているが、原告の本人尋問の結果等を考慮すると、本件著作権の管理に不要な支出であることを認めるに足りる証拠はない。
 これらの事情を総合的に考慮すると、少なくとも、同費目の内、20%についての清算は、法律上の原因のない利得であることが認められ、被告らの損失との因果関係も認められる。
 そうすると、被告らの損失と因果関係のある利得は、別紙利得計算表1及び同2「旅費交通費」欄に対応する「原告支出費用合計」欄の額に20%を乗じ、被告ら1人分の額とするために4分の1を乗じた別紙利得計算表1及び同2の「利得額(1人分)」欄記載のとおりとなる。
ウ「接待交際費」
 原告は、同費目に係る支出につき、来客時のお茶代、著作権関係でお世話になった方へのお礼等である旨説明しており(甲250)、必要最低限度のものは有益費であると認められる。しかし、その額は、年によっては最低限度のお茶代に見合わない額になっており、支出費目の中には、来客時にうなぎ屋、豚しゃぶ店を訪れたもの等も散見される(甲238、原告本人)。これらの支出は、著作権管理に関連性が全くないとまではいえないものの、契約関係を前提としない被告らとの間においてまで有益費に当たると認めることは困難である。接待交際費については、総費用の内、少なくともその70%についての清算は、法律上の原因のない利得と認めるのが相当であり、被告らの損失との因果関係も認められる。
 そうすると、被告らの損失と因果関係のある利得は別紙利得計算表1及び同2「接待交際費」欄に対応する「原告支出費用合計」欄の額に70%を乗じ、被告ら1人分の額とするために4分の1を乗じた「利得額(1人分)」欄記載のとおりとなる。
エ「消耗品費」
 同費目に係る支出は、主として紙、トナー、インク等、著作権管理のために必要な事務用品のための支出であると認められる(甲133、250)ため、有益費にあたるといえ、同費用の清算が法律上の原因のない利得と認めるに足りる証拠はない。
オ「雑費」
 振込手数料等に支出していると認められ(甲72、73)、有益費に当たり、同費目に係る費用の清算が法律上の原因のない利得であると認めるに足りる証拠はない。
カ「管理手数料」
 同費目は、HがEらと5%の管理手数料を収受することにつき合意したのと同様の契約関係が原告との間にも成立したことを前提に、原告が収受してきた年間総収入の5%の金員である(弁論の全趣旨)。なお、Eらにも送付されていた明細書には、平成29年度分から「管理手数料」の欄が明記されていた(甲72、73、234、237)。
 これまでに説示してきたとおり、原告とEら(Eの死亡後は被告D)との間に、本件覚え書を前提にした契約関係が成立したとはいえず、その他、報酬に関して何らかの契約が締結されたことを認めるに足りる証拠はない。
 しかし、仮に原告が本件著作権の管理を放棄すれば、原告及び被告らの間で合意が整わず著作権の管理が放置される事態になるか、原告及び被告らの合意に基づき被告らのいずれか又は第三者が管理を引き継ぐことになる。原告と被告らとの間で合意が整わず、本件著作権が全く管理されなくなってしまった場合には、多額の損失が生じることが想像に難くない。そして、原告による本件著作権の管理のうち、原告と被告らの間で大きく方針を違えている顕彰活動を除いた部分に限ってもかなりの手間が必要なものであるところ、これまでの本件著作権管理の経緯に照らせば、被告らが無償で本件著作権の管理を引き継ぐことが当然に認められるとはいえないし、被告らがその管理を引き継いだ場合には相応の負担が生じたといえる。また、仮に原告以外の者に管理を委ねた場合には、一定の委託報酬(なお、日本文芸家協会においては諸経費に加えて8%から10%。甲15、28、29)が発生したことも想定される。原告が本件著作権の管理を手放さなかった等の経緯に因るところは大きいものの、被告らは、少なくとも結果的には、Hの死亡後、本件著作権の管理に直接の貢献はしていない。
 他方で、本件著作権を管理団体に委託することによって原告が計上している税理士費用(年間4万円程度)が不要になることや、著作権管理団体では本件著作権以外の著作権とまとめて管理されることにより必要な経費(なお、原告は、上記費目、税理士費用に加えて通信費を計上している。)が原告による管理に比べて少なくなることが見込まれる。また、原告による管理は、飽くまで、事務管理によるものであり、共有者間の合意に基づくものではなく、合意による報酬の根拠はない。
 これらの事情を総合的に考慮すると、法律上の原因のない原告の利得と因果関係のある被告らの損失は、原告が取得した「管理手数料」の50%を超えるものであると認めるに足りる証拠はない。
(3)そうすると、被告ら一人当たりの不当利得の額は、別紙利得計算表2の「管理手数料」欄記載の額の合計額に50%を乗じ、被告ら1人分の額とするために4分の1を乗じ、「利得額(1人分)」欄記載のとおりとなる。
 そうすると、Hによる著作権管理については法律上の原因のない利得があるとはいえず、原告による著作権管理について、原告の不当利得は、平成28年度分から平成30年度分については、被告ら1人につき、別紙利得計算表1の「利得額(1人分)」欄の合計額である3万9682円、平成31年度分から令和2年度分については、被告1人につき、別紙利得計算表2の「利得額(1人分)」欄の合計額である13万5401円となる。
第4 結論
 よって、原告の本訴請求のうち、原告が本件著作権の4分の1の共有持分を有していることの確認を求める請求には理由があるものの、その余の請求には理由がなく、反訴請求については、原告又はHによる平成28年度分から平成30年度分の経費計上に係る不当利得返還請求権には、被告らがそれぞれ、3万9682円を請求する限度で、平成31年度分から令和2年度分の経費計上に係る不当利得返還請求権には、被告らがそれぞれ、13万5401円を請求する限度で理由があるので、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第46部
 裁判長裁判官 柴田義明
 裁判官 棚井啓
 裁判官 仲田憲史


別紙 著作物目録 (記載省略)

別紙 利得計算表1
平成27年 平成28年 平成29年 平成30年 原告支出費用合計 利得割合(%) 合計利得額 利得額(1人分)
地代家賃 84,000 84,000 84,000 84,000 196,000 0 0 0
減価償却費 44,950 44,950 44,949 0 0 0 0 0
旅費交通費 241,670 3,097 72,636 42,765 116,433 20 23,286 5,821
接待交際費 290,575 195,302 75,639 52,756 193,495 70 135,446 33,861
消耗品費 0 26,958 39,352 36,558 84,896 0 0 0
雑費 29,130 15,248 924 2,600 8,606 0 0 0
合計 690,325 369,555 317,500 218,679 599,430   158,732 39,682
 「原告支出費用合計」は、平成28年欄の額の3分の1と平成29年、平成30年欄の額の合計額(「減価償却費」は除く)を記載

別紙 利得計算表2
平成31年 令和2年 原告支出費用合計 利得割合(%) 合計利得額 利得額(1人分)
地代家賃 84,000 84,000 168,000 0 0 0
旅費交通費 36,782 38,803 75,585 20 15,117 3,779
接待交際費 20,317 73,311 93,628 70 65,539 16,384
消耗品費 90,743 33,434 124,177 0 0 0
雑費 18,580 4,600 23,180 0 0 0
管理手数料 275,609 646,300 921,909 50 460,954 115,238
合計 526,031 880,448 1,406,479 541,610 135,401
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