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【事件名】段ボール生産管理ソフト事件
【年月日】令和3年7月29日
 大阪地裁 平成31年(ワ)第3368号 損害賠償請求事件(本訴)、
 令和元年(ワ)第8944号ライセンス料支払請求反訴事件(反訴)
 (口頭弁論終結日 令和3年5月13日)

判決
本訴原告(反訴被告) コーネットシステム株式会社(以下「原告」という。)
上記訴訟代理人弁護士 近藤剛史
同 前田彩
本訴被告(反訴原告) シープラン株式会社(以下「被告会社」という。)
本訴被告 P1(以下「被告P1」という。)
上記2名訴訟代理人弁護士 張泰敦


主文
1 被告らは、原告に対し、連帯して1490万8300円及びこれに対する被告P1については令和元年5月10日から、被告会社については同月22日から、それぞれ支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
2 原告と被告らの間において、原告が別紙物件目録記載のソフトウェアの著作権を有することを確認する。
3 被告会社の反訴請求を棄却する。
4 訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを6分し、その1を被告会社の負担とし、その余を被告らの連帯負担とする。
5 この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由
第1 請求の趣旨
1 本訴請求
 主文第1項及び第2項に同旨
2 反訴請求
 原告は、被告会社に対し、596万4187円及びこれに対する令和元年10月10日から支払済みまで年6%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
1 本件本訴は、別紙物件目録記載のソフトウェア(以下「本件ソフトウェア」という。)の著作権(以下「本件著作権」という。)が原告に帰属しているにもかかわらず、当時原告代表者であった被告P1が、その任務に違反し、被告会社と共謀して被告会社にライセンス料名目で合計1490万8300円を支払い、原告に同額の損害を負わせたとして、原告が、被告らに対し、共同不法行為(民法719条1項、709条)に基づき、上記額の損害賠償請求及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告P1につき令和元年5月10日、被告会社につき同月22日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下「改正前の民法」という。)所定の年5%の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるとともに、原告が、被告らに対し、原告が本件著作権を有することの確認を求める事案である。
 本件反訴は、被告会社が、原告に対し、被告会社と原告との間の本件ソフトウェアに係るライセンス契約に基づき、未払ライセンス料合計596万4187円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日(令和元年10月10日)から支払済みまで商事法定利率年6%(平成29年法律第45号による改正前の商法514条)の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
2 前提事実(末尾に証拠等を掲げていない事実は当事者間に争いがない。)
(1)当事者等
ア 原告
 原告は、コンピュータソフトウェアの企画、開発、制作及び販売等を行う株式会社である。
原告は、平成17年6月30日、被告P1及びP2を株主として設立されたが、遅くとも平成20年5月頃までには、P3も株主となった。
 また、原告の設立当初は、P2及び被告P1が代表取締役となったが、P2は、平成19年6月22日にいったん取締役を辞任して代表取締役を退任し(同日、取締役会も廃止となった。)、平成29年9月1日、取締役及び代表取締役に就任した。他方、被告P1は、同年8月31日、原告の取締役及び代表取締役を辞任した。P3は、平成23年8月16日に原告の取締役に就任したが、平成25年10月30日にこれを辞任した。
 (以上につき、当事者間に争いがない事実、甲1、57、乙29、44、弁論の全趣旨)
イ 被告会社
 被告会社は、コンピュータソフトウェアの企画、開発、制作及び販売等を行う株式会社である。
 被告会社は、平成19年12月28日、被告P1及びP3を株主として設立された。
 また、被告会社においては、設立当初から被告P1が概ね一貫してその代表取締役を務めている。P3は、平成20年4月頃に被告会社の取締役に就任し、平成23年6月30日に退任した後、平成25年7月21日に取締役に就任し、同年10月30日にこれを辞任した。
 (以上につき、当事者間に争いがない事実、甲2、乙14、32、33、弁論の全趣旨)
(2)本件ソフトウェア
 本件ソフトウェアは、段ボール製造業者向けの生産総合管理システムであるところ(その詳細は別紙物件目録記載のとおり)、UnixをOSとする段ボール生産総合管理システム「UniCAIS」(なお、これと同様のシステムとしてLinuxをOSとする「WinCAIS」と称するシステムもあるが、本件においてはこれらを区別せず、以下では「UniCAIS」という。)につき、WindowsにOSを変更するなどの改変をして創作されたUniCAISの二次的著作物である。
 UniCAISの著作権については、住金プラント株式会社(当時。以下「住金プラント」という。)とP3が共同で有していることを確認する旨の両者による平成18年12月1日付け「段ボールシステムの著作権に関する確約書」(甲9。以下「本件確約書」という。)が存在する。本件確約書には、上記のほか、住金プラントは、P3の任命する一つの組織(個人又は株式会社)とP3が共同で、UniCAISの思想や構造に基づき、システムを開発し、販売することについて、P3及びその任命する組織や販売先に異議を申し立てないこと(4条)などが定められている。
 (上記のほか、争いのない事実、弁論の全趣旨)
(3)本件ソフトウェアに係る原告と被告会社との契約書
ア 本件ソフトウェアに関しては、原告及び被告会社による「2007年12月20日」付け「SeePlanの販売に関する契約書」(甲11。以下「本件販売契約書1」という。また、本件販売契約書1に係る原告と被告会社との契約を「本件販売契約」という。ただし、本件販売契約の効力等については、後記のとおり、当事者間に争いがある。)が存在すると共に、「平成19年12月28日」付けの同一名称の契約書(甲79。以下「本件販売契約書2」という。)が存在する。
イ 本件販売契約書1には、本件著作権が被告会社に帰属すること(前文、1条1項)、被告会社は、原告がシステムの販売に当たり本件ソフトウェアのプログラムを改造することにつき許諾するが、その著作権は被告会社に帰属すること(1条1項)、原告は被告会社からライセンスを購入することにより本件ソフトウェアの販売を行うことができること(同条2項)、被告会社及び原告が「販売したシステム価格の一定率または、一定額のロイヤリティ」(以下「本件ライセンス料」という。)を被告会社が優先的に受け取ること(4条)等が記載されている。
 本件販売契約書1には、契約当事者として原告及び被告会社が表示され、それぞれの会社印が押印されているところ、両社の代表取締役として表示されているのはいずれも被告P1である。
(4)原告から被告会社に対する支払等
ア 原告は、被告会社に対し、本件販売契約に基づくライセンス料名目で、別紙支払一覧表@及びAのとおりの支払を行った(この支払のうち、別紙支払一覧表@記載の各支払を一括して「本件支払@」と、別紙支払一覧表A記載の各支払を一括して「本件支払A」と、それぞれいう。)。
イ 原告は、平成28年6月1日〜令和元年5月の間、本件ソフトウェアの販売により合計7455万2348円の売上を上げた。しかし、原告は、被告会社に対し、上記売上に係る本件ライセンス料を支払っていない。
3 主な争点
 いずれも本訴、反訴に共通するものである。
(1)本件著作権の帰属(争点1)
(2)本件販売契約の成否等(争点2)
(3)本件販売契約の効力(争点3)
ア 利益相反取引該当性(争点3−1)
イ 代表権の濫用の成否(争点3−2)
ウ 原告の株主全員による事後的な同意の有無(争点3−3)
第3 当事者の主張
1 本件著作権の帰属(争点1)
〔原告の主張〕
(1)本件著作権は、次のとおり、原告に帰属する。
ア 本件ソフトウェア開発におけるP3、P2及び被告P1の寄与本件ソフトウェアは、P3が住金プラントと共同で著作権を有するUniCAISを基に、そのOSをUnixからWindowsへ変更する作業を中心として開発されたものであるところ、P3、P2及び被告P1は、原告設立以前の平成16年9月頃から共同で本件ソフトウェアの開発を行い、原告設立後の平成17年12月までにその初期システム(別紙物件目録(イ)記載のもの。以下「本件初期システム」という。)を完成させた。
 本件初期システムの約8割はUniCAISを基にしており、OS変更に伴う移植作業等を行って、P3の指示・監督の下、P2を中心に開発作業が行われた。本件初期システムにおける新規作成部分のうち、P2によるものは約64%、被告P1によるものは約35%である。また、本件初期システムの開発にあたり、P3は全体設計、画面の製作、Helpファイル(オンラインマニュアル)の作成、評価テスト等を行い、P2はシステムコマンド対応(UnixからWindowsに変換するためのコマンドの開発)、排他制御やシステム保守、Windowsの印刷方式への変更、メニュー部分などシステムの根幹部分を開発し、被告P1もその一部の作業を分担した。
 このように、本件初期システムの開発による新規作成部分の創作について、P3、P2及び被告P1は、それぞれ、質的にも量的にも相応に関与し、貢献した。
イ 原告への本件著作権の帰属
(ア)職務著作
 P3、P2及び被告P1は、上記アのとおり、P3の指示・監督の下、本件初期システムの開発作業を行った。
 したがって、本件ソフトウェアは、P3の発意に基づき、同人からの指示に基づき業務に従事するP2及び被告P1によって職務上作成されたものであることから、本件著作権は、P3の職務著作として同人に帰属し、その後、明示又は黙示の合意により、原告に譲渡された。
 又は、P3、P2及び被告P1は、本件ソフトウェア開発作業の開始当初から、その著作権を原告に帰属させることを合意していたことから、設立中の会社の行為として、成立後の原告が本件著作権を原始的に取得した。
(イ)持分譲渡
 P3、P2及び被告P1は、上記アのとおり、それぞれ本件ソフトウェアの開発に創作的に寄与したことから、本件著作権を共有していたところ、原告設立後、明示ないし黙示の合意により、いずれも各人の持分を原告に譲渡した。
ウ 本件ソフトウェアについては、本件初期システム完成後も、P3、P2及び被告P1のほか、原告の従業員であったP4(平成18年2月〜平成25年10月の間、原告に在籍。)及びP5(平成18年4月〜平成25年12月の間、原告に在籍。)が開発作業を行い、平成29年12月までに最新システム(別紙物件目録の(ロ)記載のもの。以下「本件最新システム」という。)が完成した。本件最新システムは、本件初期システムの著作権を有する原告の発意に基づき、上記のとおり、原告の業務に従事する者が、原告の職務上作成したプログラムの著作物であり、作成時における契約、勤務規則その他に別段の定めがないことから、その著作者は原告である。
エ 小括
 以上のとおり、本件著作権は、原告に帰属している。
(2)被告らの主張について
 後記〔被告らの主張〕(2)はいずれも否認する。
〔被告らの主張〕
(1)本件著作権が原告に帰属していることは否認する。原告は、本件ソフトウェアの販売を担当する法人として設立されたものに過ぎない。
(2)本件著作権の帰属
ア 本件ソフトウェアは段ボール業者向け生産管理システムであるところ、その機能のうち、段ボールの貼合及び製函に関する機能が他社製品との差別化を図る部分となり、これらの機能に関するプログラムの開発には開発者の創意工夫を要することから、当該プログラムが本件ソフトウェアの本質的特徴部分となる。
 被告P1は、UnixからWindowへのOSの変更によるUniCAISの改造に当たり、サーバー側で動作するシステムであるUniCAISからクライアント側で動作するシステムへの変更や、処理速度の全体的な高速化のため、データベースへのアクセスに関するプログラムを中心とした処置等を行うと共に、貼合業務の中でも最も重要かつステップ数の多い貼合計画のプログラムにつき、プログラム全体を理解した上で多数の改造を行い、また、製函業務については、データ記録方法をファイル管理からデータベースに変更するという重要な改造のため、多数のソースコードを作成した。
 このように、本件ソフトウェアの本質的特徴部分は全て被告P1が作成したものであるから、本件著作権は、当初、被告P1に帰属した。
 被告P1は、被告会社の設立に伴い、その頃、本件著作権を被告会社に譲渡した。
イ 原告の被告会社に対する本件著作権の譲渡(予備的主張)
 仮に、本件著作権がその発生時には原告に帰属したとしても、被告P1及びP3は、被告会社の設立時から、本件著作権を原告から被告会社に譲渡する意思を有していた。また、後記(2〔被告らの主張〕(1))のとおり被告会社と原告との間で締結された本件販売契約は、被告会社に本件著作権が帰属することを確認する前提として、原告から被告会社に本件著作権を移転させる意思を含む。このように、本件著作権は、被告会社の設立時に、又は遅くとも本件販売契約により原告から被告会社に譲渡されたものであって、その後開発された本件最新プログラムも含め、本件著作権は被告会社に帰属している。
2 本件販売契約の成否等(争点2)
〔被告らの主張〕
(1)本件販売契約の締結
 被告会社と原告は、本件販売契約により、本件販売契約書1記載のとおり、被告会社の設立に合わせて、原告が被告会社に対し本件ライセンス料を支払う旨の合意をした。なお、本件販売契約書1の作成日付は「2007年12月20日」とされているところ、本件販売契約書1の実際の作成日は平成20年12月頃であり、また、被告会社の設立日を誤って把握していたために、上記日付を作成日としたものである。
(2)未払ライセンス料
 原告は、被告会社に対し、平成28年6月1日〜令和元年5月の間の本件ソフトウェアの売上に係る本件ライセンス料を支払っていない(前記第2の2(4)イ)。
 本件販売契約において、ライセンス料は、原告が顧客に販売した際の受注価格の一定率額又は販売した件数に応じた一定額と定められ、具体的な金額は原告及び被告会社の協議に委ねられているところ、上記未払分について上記協議はない。もっとも、別紙「シープラン株式会社の、コーネット株式会社に対するライセンス料支払額一覧表」記載の平成23年6月1日請求分(「請求日」、「販売先顧客」を「2011/6/1」、「マルイチ」とするもの)から最終の支払があった分に係る受注金額総額に対するライセンス料総額の割合に鑑みると、未払ライセンス料は、少なくとも受注金額の8%相当額を下らない。
 そうすると、原告の被告会社に対する未払ライセンス料は、596万4187円(=¥74,552,348×8%)となる。
(3)小括(反訴請求について)
 したがって、被告会社は、原告に対し、本件販売契約に基づき、596万4187円のライセンス料及びこれに対する反訴状送達の日の翌日(令和元年10月10日)から支払済みまで商事法定利率年6%の割合による遅延損害金の支払を求める。
〔原告の主張〕
 上記〔被告らの主張〕(1)は不知ないし争う。同(2)のうち、原告が被告会社の反訴請求に係るライセンス料を支払っていないことは認め、その余は不知ないし争う。同(3)は争う。
3 利益相反取引該当性(争点3−1)
〔原告の主張〕
 本件販売契約は、原告の唯一かつ重要不可欠な財産である本件著作権を無償で被告会社に譲渡すると共に、本件著作権を有する原告が無償かつ無許諾で自由に利用できる本件ソフトウェアについて、何らの権原も有しない被告会社にライセンス料を支払うことを内容とするものであり、原告に損害のみを与え、被告会社に利益のみを与えるものである。
 このような本件販売契約につき、被告P1が原告及び被告会社それぞれの代表取締役として双方を代表して契約を締結することは、利益相反取引(会社法356条1項2号)に当たる。しかるに、被告P1は、本件販売契約の締結につき、原告の株主総会の承認等を得ていない。
 したがって、本件販売契約は無効である。
〔被告らの主張〕
 否認ないし争う。
 原告は、本件販売契約に基づき、本件ソフトウェアの販売等により利益を上げることができるようになった。原告は、その対価として被告会社に販売価格の一部を本件ライセンス料として支払っているが、その金額は販売した本件ソフトウェアの価格の一定割合に止まる。
 このように、本件販売契約は、原告に損害が生じ得ない取引であるから、外形上・形式上利益相反取引に当たらず、株主総会での承認は不要である。
4 代表権の濫用の成否(争点3−2)
〔原告の主張〕
 被告P1は、自ら不当な利益を得る目的で、前記3〔原告の主張〕のとおり、原告に著しい損害を与える本件販売契約を原告の代表者として被告会社と締結したものであり、相手方である被告会社は、原告代表者である被告P1の真意を知り、又は知り得べきであったといえる。
 したがって、本件販売契約は無効である(改正前の民法93条但書類推適用)。
〔被告らの主張〕
 否認ないし争う。
5 原告の株主全員による事後的な同意の有無(争点3−3)
〔被告らの主張〕
(1)本件販売契約が利益相反取引ないし代表権濫用により無効であったとしても、以下の事情からうかがわれるとおり、被告P1以外の原告の株主であるP3及びP2は、本件販売契約について少なくとも事後的に同意したことから、本件販売契約は有効である。
(2)P3について
ア P3は、本件著作権の管理会社として被告会社を設立し、設立と同時に本件著作権を被告会社に帰属させ、販売等を許諾した対価として被告会社が原告からライセンス料の支払を受けることを計画し、遅くとも平成18年7月頃、被告P1に対し、本件著作権の管理会社として被告会社を設立することを提案した。また、P3は、その計画に基づき、被告会社から原告への販売等の許諾に関する契約書案等を自ら作成した。
イ P3は、本件販売契約書1の作成と同じ頃、被告会社との間で、「SeePlanの開発及び販売に関する契約書」及び「ソフトウェア複製及び使用許諾契約書」(以下、両契約書を併せて「P3契約書」といい、P3契約書と本件販売契約書1を併せて「本件各契約書」という。)に署名押印し、被告会社に本件著作権が帰属していることを確認した。
ウ P3は、被告会社から給与を受け取ることを計画し、その原資を捻出するため、被告会社に本件著作権が帰属していることを前提に、原告から被告会社にライセンス料を支払わせることを計画した。
 これに基づき、P3は、被告会社設立直後から被告会社の年度予算を作成し、そのとおりに被告会社から給与の支払を受けた。
 また、P3は、原告の取締役に就任した平成23年8月16日以降も、原告の被告会社に対する本件ライセンス料支払に異議を述べなかった。
エ P3は、平成25年7月12日に行われた被告P1及びP2との話合い(以下「本件会合1」という。)において、本件著作権が被告会社に帰属し、原告から被告会社に本件ライセンス料を支払うことを認めた。
(3)P2について
ア P2は、被告会社の設立時、被告P1及びP3より、被告会社が本件著作権の管理会社であるとの説明を受け、被告会社の設立に同意していた。また、P3、P2及び被告P1は、被告会社設立前後の時期に、原告が被告会社に支払うライセンス料の額について協議し、多数決によりP3及びP2が主張した一定額の方式で様子を見ることに決まった。
イ P2は、平成25年11月4日に送信した被告P1宛てのメールや、平成27年1月4日に送信した弁護士宛てのメールにおいて、本件著作権が被告会社に帰属することを明確に認め、それ以降も、関係者に対し本件著作権が被告会社に帰属することを明確に認めていた。
ウ 原告と被告会社は、決算申告を同じ税理士に依頼していたところ、当該税理士は、被告会社と原告の決算期ごとに上記事務所を訪問して両社の決算申告の報告等をしていた。その上、P2は、平成25年10月以降、原告及び被告会社が当該税理士から決算報告書を受領する際に同席し、当該税理士から被告会社及び原告の貸借対照表と損益計算書の内容について説明を受け、その際、被告会社の売上が原告から受領する本件ライセンス料からなるとの説明を受けていた。
 また、P2は、毎回出席していた原告の株主総会において、原告の業績について決算申告書を基に報告を受けていた。
 さらに、被告会社と原告は事務所を兼用していたところ、被告会社の決算報告書は同所のキャビネットに保管されており、P2を含め従業員であればこれを自由に閲覧することができた。
エ P2は、被告P1との話合いにより、平成26年5月以降、原告からの給与ないし役員報酬額を下げ、その減額分相当額の給与等を被告会社から受け取ることを決め、同月30日より原告から被告会社に対する本件ライセンス料の支払を再開し、同年6月から平成29年3月まで、被告P1と共に、被告会社より上記給与等の支払を受けた。P2は、その原資が原告からの本件ライセンス料以外にないことを知っていたが、その間、本件ライセンス料の支払について異議を述べなかった。また、このような形でP2及び被告P1が被告会社から受領した給与等の総額は1224万円であるところ、本件支払Aの総額1490万8300円のほとんどがこれに充てられた。
オ 原告は、本件本訴において、本件支払@に係る本件ライセンス料の返還請求をしておらず、その支払を了承している。そのため、P2も、原告代表者として本件ライセンス料の支払を了承しているといえる。
〔原告の主張〕
(1)上記〔被告らの主張〕(1)は否認ないし争う。
(2)同(2)のうち、アは否認する。
 同イにつき、P3がP3契約書に署名押印したことは認める。しかし、P3は被告P1に騙されてP3契約書を作成したものであり、P3契約書に係る合意は無効である。
 同ウにつき、被告会社に本件著作権が帰属していることを前提としていた点は否認し、その余は認める。
 同エは否認する。
(3)同(3)のうち、ア及びオは否認する。
 同イにつき、原告指摘に係るメールをP2が送信したことは認め、その余は否認する。
 同ウにつき、被告会社と原告が決算申告を同じ税理士に依頼していたこと、P2が税理士から貸借対照表及び損益計算書を含む原告の決算報告書案の概略(課税利益、納税額等。その内訳等に関する詳細を除く。)について説明を受けていたこと、平成25年10月以降、被告会社の決算報告書を受領する際に同席していたこと、P6税理士に決算申告を依頼するようになってからは、P2が原告の株主総会に出席し、原告の業績の概略について説明を受けていたことは認め、その余は否認する。
エ について、原告から支払われるP2及び被告P1の給与等を減額し、減額分相当額の給与等を被告会社から受け取ることとしたこと、P2及び被告P1が被告会社から平成26年6月から平成29年3月まで上記給与等を受け取ったことは認め、その余は否認する。この方法は、平成25年7月21日に行われたP3、被告P1及びP2の話合い(以下「本件会合2」という。)において、本件ライセンス料名目で原告から被告会社に支払われたものを被告会社から原告に返金する具体的な方法として被告P1が提案したものであり、原告の支払給与支払額が減少することで原告の負担する社会保険料が安くなるメリットもあったことから実行されたものであって、P2は、その原資が本件支払Aによるものであることを認識していなかった。
(4)小括(本訴請求について)
 以上のとおり、被告P1は、原告の代表取締役として、被告会社と無効な本件販売契約を締結した上、これに基づき、被告会社に対し、本件ライセンス料名目で、本件支払Aをした。このような被告P1の行為は、被告会社と通謀して、故意又は重大な過失に基づき、原告の代表取締役としての忠実義務(会社法355条)及び善管注意義務(会社法330条、民法644条)に反して、被告会社に利得を得させるため、原告に本件支払Aの合計額相当額1490万8300円の損害を与えたものである。
 したがって、原告は、被告らに対し、共同不法行為(民法719条1項、709条)に基づき、少なくとも1490万8300円の損害賠償及びこれに対する本件本訴に係る訴状送達の日の翌日から支払済みまで改正前の民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払を求める。
第4 当裁判所の判断
1 事実認定
 前提事実(前記第2の2)、証拠(各項掲記のもの。なお、枝番号のある証拠で枝番号の記載のないものは全ての枝番号を含む。以下同様。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1)本件ソフトウェアの内容及び開発等
ア 本件ソフトウェアは、段ボール製造業者向けの生産総合管理システムであり、段ボール製造業者の生産現場のデータを含む受注、発注、貼合、製函等の各業務に対応し、業務の迅速化及び効率化、工程管理、情報の一元管理等を実現するものである。
 本件ソフトウェアを構成するプログラムの本数ないしソースコードの行数は、以下のとおりである。
・平成17年12月28日時点378本、62万2808行
・平成29年8月31日時点166万0966行
・平成31年3月19日時点662本
 (以上につき、甲7、8、49、70、73、弁論の全趣旨)
イ P3は、昭和61年頃、当時代表取締役を務めていた会社で段ボール業者用のソフトウェアの開発、販売を行い、その後、吉沢工業株式会社(以下「吉沢工業」という。)と共同で同様のシステムを開発し、さらに、平成4年頃、これをベースに、住金プラント(当時の商号は「鹿島プラント工業株式会社」)とUniCAISを共同で開発した。
 本件ソフトウェアは、このようなUniCAISのOSをUnixからWindowsへ変更した上で、更に新たな機能を付加するなどして開発されたソフトウェアである。
 なお、上記OS変更に当たっては、UniCAISのUnix版のソースプログラムをWindows版に機械的に変換するプログラムを使用したが、その変換後のソースコードの行数は53万1230行である。
 (以上につき、甲4、50、68〜70、98、99、弁論の全趣旨)
ウ P3、被告P1及びP2は、平成16年9月頃から、本件ソフトウェアの開発を開始した。
 このうち、P3は、UniCAISのソースコードを提供すると共に、画面制御ファイルやHelpファイルの作成等を行ったが、本件ソフトウェアに係るプログラムのソースコードの作成は行っておらず、本件ソフトウェアの販売先の開拓及びその要望の聴取とそれに基づく要件定義、進捗管理等を中心に行っていた。
 被告P1は、貼合計画を中心とした貼合業務に関するプログラムのソースコードの修正及び追加、製函業務に関するプログラムのデータベース化の設計・修正などを行った(甲5、乙16、19、34、35、弁論の全趣旨)。
 P2は、メニュー画面、印刷方式、最新プログラムの取得・更新機能等に関するプログラムの改変等を行った。
 (以上につき、甲5、48、49、52の3、52の4、52の6、52の10、69〜72、89、93、98、99、乙16〜19、34、35、証人P3)
エ 原告の設立以前においては、本件ソフトウェアの開発につき、P3から被告P1に対して給与名目で毎月90万円の支払が行われ、そのうち40万円が被告P1からP2に対して外注費名目で支払われた。(甲26、27、44、証人P3、被告P1、原告代表者)
オ 久門紙器工業株式会社(以下「久門紙器」という。)は、平成17年4月19日、原告に対し、本件ソフトウェア及びハードウェア等を1410万円(税別)で注文した。納期については、同年5月6日に1次稼働、同年6月20日に2次稼働、同年8月末に3次稼働とされた。また、P3は、肩書として原告の名称を付した平成17年4月20日付け「売買に関する覚書」(甲25)により、初回支払の代金振込先口座として被告P1の個人名義の銀行口座を指定したが、同年10月20日付け「振り込み依頼に関して」と題する文書(甲26)により、原告の設立を受けて原告名義の銀行口座に変更する旨を通知した。
 その後、久門紙器と原告は、平成19年6月29日、本件ソフトウェアに係る保守契約を締結した。
 (以上につき、上記のほか、甲23、31)
カ 日東紙器工業株式会社(以下「日東紙器」という。)は、平成17年6月14日、原告に対し、本件ソフトウェア及びハードウェア等を2500万円(税別)で注文した。納期については、同年6月27日に1次稼働、同年8月22日に2次稼働とされた。
 その後、日東紙器と原告は、平成19年7月2日、本件ソフトウェアに係る保守契約を締結した。
 (以上につき、甲24)
キ 久門紙器及び日東紙器からの受注により、被告P1及びP2は、納品及び検収に向けた対応として、各種業務に関するプログラムの開発ないし修正作業等を行った。このような作業の中で、被告P1は、引き続き貼合業務に関するプログラムのソースコードの修正及び追加等を行った。(甲31、32、48〜50、70、乙34、35)
ク 原告は、久門紙器に対し、平成17年5月8日以前に本件ソフトウェアを納品し、その後判明した不具合等への対応を行った。久門紙器による検収は、同年12月に終了した。
 前記アのとおり、同月28日時点での本件ソフトウェアのソースコードの行数は62万2808行であったところ、このうち、被告P1の新規作成部分は少なくとも1万2251行、P2のそれは少なくとも2万1928行である。
 (以上につき、甲32、48、70、証人P3、原告代表者)
ケ UniCAIS案文も含め、その状況はP3からP1に報告されていた(上記のほか、甲81)。
コ 原告設立後、本件ソフトウェアについては、原告において、P2及び被告P1のほか、P4及びP5の合計4名がソースコードの作成を行い、前記アのとおり、平成29年8月31日時点で、ソースコードの行数は166万0966行になった。そのうち、被告P1、P2、P5、P4が作成したものは、それぞれ少なくとも12万5507行、27万3631行、15万7418行、9万9457行であった。(甲22、70)
(2)原告設立後の原告等の活動
ア 原告設立後、P3、被告P1及びP2は、毎月、原告から給与の支払を受けていた(甲34、62、被告P1)。
イ 原告は、平成18年5月24日付け「段ボール製函業向け総合生産管理システムSeePlan御提案書」と題する書面(甲8)を作成し、本件ソフトウェアの特色を紹介するなどの販促活動を行っていた。
ウ 被告P1は、原告代表者として、平成18年11月6日〜同年12月25日の間、P7弁護士との間で、原告とP3との間で取り交わす予定の共同開発に係る契約書につき、メールで、以下の内容を含むやり取りを行った(甲29、80。「/」は改行部分を示す。以下同じ。)。
・「著作権について/弊社のシステムはP3が持ち込んだ/プログラムをベースに改造を行って商品として再生させました。/会社にしか著作権・販売権がないようにしたいのですが/どのような手続き(書類)が必要でしょうか?」(同年11月6日送信の被告P1のメール。甲29)
・「>御社のケースの場合、著作者であるP3氏が御社に著作権を譲渡したということに/>なるのではないでしょうか。/雛形がありましたら、添付していただけないでしょうか。」(同年11月13日送信の被告P1のメール。甲80の1)
・「雛形を作ってみました。/著作権はP3が持ったままで、弊社が複製・改造を行い、二次的著作物を販売/する、会社が存在する限り、問題なく販売ができる契約書にしたいです。」(同月27日送信の被告P1のメール。甲80の2の1)
 なお、同月27日送信のメールには「共同開発及び使用許諾契約書」と題するファイルが添付されているところ、当該ファイルは「共同開発契約書」及び「ソフトウェア複製及び使用許諾契約書」と題する文書を内容とするもの(甲80の2の2)である。そのうち「共同開発契約書」には、原告とP3とが本件ソフトウェアを共同開発するにあたっての契約内容として、P3が提供した旧システムのプログラムを原告が複製及び改造し、原告の二次的著作物として販売するための非独占的永久使用権を許諾すること、P3「は、本件開発に関わる著作権および所有権、その他一切の知的財産権について」原告「に帰属する」ものとすることなどが記載されている。
 P7弁護士は、同年12月1日、「共同開発及び使用許諾契約書(修正版)」と題するファイルを添付して、同月27日送信の被告P1のメールに対して返信した(甲80の3の1)。当該ファイルにおいては、「共同開発契約書」中の著作権の帰属に関する条項につき、原告及びP3は「本件開発に関わる著作権および所有権、その他一切の知的財産権が」原告「に帰属することを確認する」などとする修正提案が示されている(甲80の3の2)。
エ 原告は、本件ソフトウェアの販売代理店である大興電子通信株式会社(以下「大興電子」という。)との間で、平成19年8月10日付け、同月16日付け、平成20年2月1日付け及び同年6月17日付けの各「一括署名契約書」(甲36〜39)において、いずれも「物品取引契約書」及び「成果物作成委託契約書」の各契約書に個別に記名押印することに代えて「一括署名契約書」に記名押印することにより一括して対象契約書の締結を行った。これらの一括署名契約書に含まれる物品取引契約書記載の「納入場所」はそれぞれ異なるが、原告が大興電子に納入すべき製品にはいずれも本件ソフトウェアが含まれる。
 各一括署名契約書に添付される「物品取引契約書」及び「成果物作成委託契約書」は、いずれも共通の書式(前者につき「D04物品取引契約書Ver.Sep.2006」、後者につき「D01成果物作成委託契約書Ver.Sep.2006」)が使用されているところ、「成果物作成委託契約書」11条には「1.成果物の所有権は、…検収完了をもって乙から甲に移転するものとします。/3.前各項にかかわらず、成果物に関する著作権は乙に帰属し、当該成果物の著作権法に基づく利用の許諾は乙が行うものとします。」との記載が、また、17条には「3.成果物に係る著作権の帰属については、以下のとおりとします。/成果物に関するプログラム…の著作権については、乙に帰属するものとします。」との記載がある(「甲」は大興電子、「乙」は原告を指す。)。
 (以上につき、上記のほか、甲7)
(3)被告会社の設立及び本件各契約書の作成経緯等
ア P3及び被告P1は、平成19年12月28日、両名を株主として被告会社を設立した上で、その設立当初から、被告会社から給与ないし役員報酬の支払を受けていた。
イ 被告P1とP3は、被告会社と原告、及び被告会社とP3との間で、以下のとおり、本件ソフトウェアの開発や販売に関する権利関係等を定めた各契約書の作成の準備を進めた。
(ア)P3は、平成20年3月18日、被告P1に対し、「SeePlanの販売に関する契約書」(乙23の2)及び「SeePlanの共同開発及び使用許諾契約書」(乙23の3)と題するファイルを添付したメール(乙23の1)を送信し、「SeePlanの5販売に関する契約書」(以下「原案@」という。)、「SeePlanの開発及び販売に関する契約書」(以下「原案A」という)及び「ソフトウェア複製及び使用許諾契約書」(以下「原案B」といい、原案@〜原案Bを併せて「本件原案」という。)と題する書面を送付した。
 原案@は被告会社及び原告を当事者とするものであるところ、その前文では被告会社が本件ソフトウェアを「保有する」とされ、また、被告会社が原告に対して本件ソフトウェアの販売を委託した場合、原告は、販売価格の一定率又は一定額のロイヤリティを被告会社に支払うことなどが記載されている。
 原案Aは被告会社とP3を当事者とするものであるところ、本件ソフトウェアの開発に関わる「著作権および所有権、その他一切の知的財産権の取り扱い」については、別途締結される原案Bの取り決めに従うことなどが記載されている。
 原案Bは被告会社とP3を当事者とするものであるところ、UniCASEを改訂して作成される本件ソフトウェアの著作権については、被告会社とP3の両者に帰属することを確認することなどが記載されている。
(イ)被告P1は、同年4月28日、P3に対し、本件原案に修正を加えたファイルを添付したメール(甲82の1)を送信した。その際、原案Bの著作権の帰属につき、本件ソフトウェアの著作権は被告会社に帰属する旨の内容に修正する(甲82の3)と共に、メール本文に以下の記載をした。
 「1.SeePlanの販売に関する契約書/契約には株主総会の承認がいるのではないでしょうか?/2.SeePlanの開発及び販売に関する契約書/P3さんとコーネットの関係で必要だった契約書であり、/シープランが設立された今では必要ないと思います。/3.ソフトウェア複製及び使用許諾契約書/既に設立から3年がたち、顧客が被る不利益を考えても/既成事実として認められてしまうだろうと思っています。」
(ウ)P3は、同年5月10日、税理士に対し、原告と被告会社との間で、本件著作権を被告会社が保有していることを前提として、原告が本件ソフトウェアを販売した場合に被告会社にライセンス料を支払う旨の契約を締結する場合における原告株主総会開催の必要性の有無を問い合わせた(なお、当時、原告の株主はP3、被告P1及びP2であること、被告会社の株主はP3及び被告P1であることも申し添えられている。)。これに対し、当該税理士は、同月12日、株主総会が不要と思われる旨を回答した。P3は、同月13日、この回答を被告P1に転送した。(乙9、44)
ウ P3及び被告P1は、上記イのやり取りを経て、まず、同年7月頃、その作成日をいずれも同年1月31日付けにバックデートさせてP3契約書を作成した。
 また、被告P1は、本件販売契約の当事者とされる原告及び被告会社の双方の代表者として、同年12月頃、その作成日を被告会社設立に先立つ平成19年12月20日付けにバックデートさせて、本件販売契約書1を作成した。(甲10、58、98、被告P1)
 なお、本件販売契約書1に類似する内容の契約書として本件販売契約書2(甲79)が存在するところ、両者の関係について、被告P1は、本件販売契約書2では本件著作権の帰属につき明確でなかったことから、本件販売契約書1を作成した旨供述している。本件会合1において本件販売契約書1が示された際、被告P1が本件販売契約書2の存在等につき全く言及しなかったことなどに鑑みると、そもそもその供述の信用性については慎重に吟味する必要があるものの、仮にこれを前提とすると、本件販売契約書2に基づく契約は本件販売契約書1の作成により改訂されたものと理解されることから、いずれにせよ、本件販売契約書1に基づき本件販売契約の成否及び効力を検討すれば足りる。
エ 本件各契約書の内容
 本件各契約書のうち、本件販売契約書1には、本件著作権が被告会社に帰属すること、原告が本件ソフトウェアのプログラムを改造した場合もその著作権は被告会社に帰属すること、原告は本件ソフトウェアの販売により被告会社に対し本件ライセンス料を支払うことなどが記載されている(前記第2の2(3)イ)。
 他方、P3契約書のうち「SeePlanの開発及び販売に関する契約書」(甲10の1)には原案Aと同趣旨の記載があり、また、「ソフトウェア複製及び使用許諾契約書」(甲10の2)には、原案Bに対する被告P1の修正案(上記イ(イ))と同じく、UniCASE改訂後の本件ソフトウェアの著作権は被告会社に帰属する旨の規定が設けられている。
オ 本件ライセンス料名目の金銭の支払
 原告は、被告会社に対し、本件ライセンス料名目で本件支払@を行ったところ、当該期間中の被告会社の収入は、原告からの本件支払@のみであった(弁論の全趣旨)。
(4)本件会合1及び2におけるやり取り
ア 本件会合1
 本件会合1は、P3、被告P1及びP2が参加して、原告の株主総会として行われた。そこでは、原告の決算を話題とした後、原告の被告会社に対する本件ライセンス料の支払の取扱い及び役員の改選が議題とされた。
 この際、P2は、P3から示された本件販売契約書1(示された契約書が本件販売契約書1であることは、甲58のNo74からうかがわれる。なお、以下では、各人の発言箇所につきNoを示す。)について「見てないです。」(No21)とした上で、その作成経緯等に関するP3及び被告P1のやり取りを経た後、P3の「俺が…すけべ根性でシープランに金貯めて…P1君と一緒に…将来の保険貯めようというのがこれがまず根本の問題やったんやけどな。」との発言(No136)に対し、「そうですよね。…コーネットがうまくいきそうになってから分け前を増やすために私をはみごにして二人でやりだしたんですよね。」(No137)、「ちょっとこれ、…読んだんですけども、…シープランの物やっていうのを認めさせられてるやけれども、これ、誰も文句を言うチャンスがないままなんですよね。」(No139)、「こんな事してええんですか。」(No143)と問い質した。
 これに対し、被告P1が「これは結構平等な契約書と思う」旨答えた(No145)ところ、P2は、「全然平等じゃないですよ。コーネットに言わせると。」(No147)、「こんなん泥棒ですやん。」(No149)、「これ好き勝手に書いて契約書が有るからっていってロイヤリティー払えっていうのはちょっと違うと思いません?」(No160)などと更にP1に問い質した。
 これに対し、被告P1が「だから元々その著作を管理する会社っていうのがあるからの契約書やから、その前提がなかったら。」と答えた(No161)ところ、P2は、「違いますよ。元々あったのはコーネットですよ。」(No162)と反論すると共に、「P1さんが代表で自分が判子押せるから、自分で振り込むことができるから、コーネットのお金を持って行ってただけじゃないですか。」(No168)、「1円でも払うのはまともじゃないんですよ。払えへんのがまともなんです。」(No173)、「ごり押ししてるのはP1さんでしょ。こんなインチキ契約書作って。」(No179)などと発言した。
 また、被告会社の設立に関して、P2は、「それはP1さんが、3人でやっていくんやったら分け前が3人で割らなアカンけども、シープラン作ることによって、二人で、1/2にできるからって言ってコーネットシステムを裏切った結果の、できたものがシープランという会社でしょ?」(No200)、「コーネットシステム作るときには元々…P3さんが…ユニケースを持ってきてそれを3人で改造していきましょうよっていう話で…やってたじゃないですか。」(No202。なお、被告P1は、この発言内容については「そうやで。」などと肯定している。No203)、「何でシープランが出来たんですか。P2が邪魔やからですよ。」(No204)などと発言した。
 もっとも、本件会合1において、P3が、役員の任期満了に伴う改選にあたり被告P1を役員から外すこととして決議したい旨述べたのに対し、被告P1が留任を懇願し、それを受けてP2が態度を明確に示さなかったことから、P3が「もういっぺん総会やろうや。」(No588)などとして、本件会合1は散会となった。
 なお、本件会合1において、P2による本件販売契約ないし本件販売契約書1の存在等を知らない旨の上記発言に対し、被告P1は、これを否定ないし疑義を示す趣旨の発言をしていない。
イ 本件会合2
 本件会合2において、P3は、本件ライセンス料名目で支払われた資金をいったん被告会社が原告に全て返却することを提案した(甲59のNo47。以下、各人の発言箇所につきNoのみを記載する。)。これに対し、被告P1は、必ずしも明確な返答をしなかったものの、被告会社を存続させることを前提に、その収入から税金等の支払に必要な額のみを残し、その余は原告が取るといった形にすることを提案したり(No330、332)、原告から受領する役員報酬を減額し、その減額分相当額を被告会社から「精算していって、合算して償却する」といった趣旨の発言をした(No367、387)。もっとも、後者の発言の意味するところは必ずしも明らかでない。
ウ 被告P1及びP2は、平成26年6月〜平成29年3月の間、被告会社より、被告P1は役員報酬として、P2は給料として、それぞれ毎月18万円の支払を受けた。その合計額は1224万円である(乙15)。
2 本件著作権の帰属(争点1)、本件販売契約の成否(争点2)及びその効力(争点3)について
(1)原告設立時における本件著作権の帰属(争点1)
ア 前記1(1)の各認定事実によれば、まず、本件ソフトウェアは、少なくとも平成17年5月頃の久門紙器への納入(前記1(1)ク)までには著作物として成立したものと認められる。
 また、その時点までの本件ソフトウェアの開発は、P3、被告P1及びP2がそれぞれ一定の役割を分担しつつ進めたものである(前記1(1)ウ、キ、ケ)。本件ソフトウェアは、段ボールの生産に必要な多様な業務に対応すると共に業務の迅速化、情報の一元管理等を実現するという多様な機能を有するものであるところ、既存システムであるUniCAISを基にするとはいえ、プログラムを用いた機械的変換により直ちにOSの変更が完了するとも考えられない(被告P1も、P7弁護士に対し、原告のシステムとP3のシステムとを比較した場合、OSや動作環境が違うためプログラムのソースコードに手を加えないとそのままでは動作しないと説明している。甲80の6)。しかも、本件ソフトウェアの開発に際しては、新たな機能の付加も行われたものである。これらのことに加え、UniCAISのWindows版への変換後のソースコードの行数(前記1(1)イ)及び久門紙器による検収時期頃である平成17年12月28日時点でのプログラムの本数及びソースコードの行数(前記1(1)ア)に鑑みると、質的、量的いずれの側面から見ても、少なくとも実際のプログラム改変等の作業に当たった被告P1及びP2は、それぞれ、本件ソフトウェアの新規作成部分の完成に創作的に寄与したものと認められる。
 そもそも、本件ソフトウェア開発における役割分担に加え、P3、被告P1及びP2の原告設立前後における収入の状況(前記1(1)エ、(2)ア)や原告設立後の原告に対する関与の態様(前記第2の2(1))等に鑑みると、P3、被告P1及びP2は、本件ソフトウェアの製造販売を中心とする事業を共同で展開する一環として、それぞれ本件ソフトウェアの開発に関与したものと理解される。また、開発された本件著作権の帰属に係る三者間の合意の存在を裏付けるに足りる客観的な証拠はない。そうである以上、P3、被告P1及びP2は、本件ソフトウェア開発における実際の作業分担に関わりなく、上記事業の主体として後に設立予定の法人(原告)に本件著作権を帰属させる意思の下に、本件ソフトウェアの開発作業を行ったものと見るのが相当である。このような理解は、被告P1が、原告代表者として、P7弁護士との間で、本件著作権が原告に帰属することを確認する内容の契約書作成に係る相談を重ねていたこと(前記1(2)ウ)や販売代理店との契約書類にも本件著作権が原告に帰属する旨が不動文字により記載されており、この書式が被告会社設立前後を問わず使用されていたこと(同エ)、本件会合1における「ユニケースを持ってきてそれを3人で改造していきましょうよっていう話で…やってたじゃないですか。」などとするP2等の発言内容(前記1(4)ア)とも整合する。
 そうすると、本件ソフトウェアについては、その著作物としての成立時である平成17年5月頃の時点において、UniCAISからの新規作成部分につき被告P1及びP2の著作権が発生したものの、原告設立に伴い、上記三者間の合意に基づき、原告にこれが譲渡されたものと認められる。
イ これに対し、被告らは、本件ソフトウェアにおいては段ボールの貼合及び製函に関する機能が本質的特徴部分であり、当該部分は全て被告P1が作成したなどとして、本件著作権は被告P1に帰属した旨主張する。
 しかし、仮に被告ら主張のとおり本件ソフトウェアの本質的特徴部分が段ボールの貼合及び製函に関する機能であるとしても、本件ソフトウェアはそれ以外にも多様な機能を有するものであり、ソフトウェアとしてはこれらの他の機能も存在してこそ成立し得るものである以上、仮に上記部分の全てを被告P1が作成したとしても、そのことをもって直ちに本件著作権を被告P1が単独で有すると認めることはできない。その他被告らが縷々指摘する点を踏まえても、この点に関する被告らの主張は採用できない。
 なお、原告は、本件ソフトウェアにつき、P3(同人の個人事業)の発意に基づきその業務に従事する者である被告P1及びP2が職務上作成したものであるなどとし、P3を著作者として本件著作権が発生したなどとも主張する。しかし、上記アのとおり、P3、被告P1及びP2は共同で事業を行う関係にあり、形式的にはさておき、P3の業務に被告P1及びP2が従事するという関係にはなかったというべきであるから、この点に関する原告の主張は採用できない。
(2)本件販売契約による本件著作権の移転(争点1)及び原告の本件ライセンス料支払義務の成立(争点2、3)の有無
ア 本件販売契約の成否等(争点1、2)
 本件販売契約書1によれば、被告会社及び原告との間で、いずれも被告P1をそれぞれの代表者として、本件販売契約が締結されたことが認められる。これに反する原告の主張は採用できない。
イ 利益相反取引該当性(争点3−1)
 本件販売契約は、上記のとおり、被告P1が原告及び被告会社の代表者として双方を代表して行ったものであり、「取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引しようとするとき」(会社法356条1項2号)に当たる。実質的に見ても、本件販売契約は、本件著作権の原告から被告会社への譲渡及び原告の被告会社に対する本件ライセンス料支払義務をその内容とするところ、その譲渡対価の有無及び価格やライセンス料の額ないし料率等について、原告と被告会社とでその利益が相反する関係にあることは論を俟たない。
 しかるに、本件販売契約の締結に当たり、被告P1が原告の株主総会において重要な事実を開示し、その承認を受けたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
 したがって、本件販売契約は、適式な手続を履践して締結されたものとはいえず、無効である(会社法356条1項2号)。
 これに対し、被告らは、本件販売契約は原告に損害が生じ得ない取引であり、外形上・形式上利益相反取引に当たらない旨主張する。しかし、上記のとおり、原告又は被告会社のいずれかに一方的に不利な内容となるおそれのある取引であることは明らかであり、この点に関する被告らの主張は採用できない。
ウ 原告の株主全員による事後的な同意の有無(争点3−3)について
(ア)本件販売契約書1を含む本件各契約書の作成は、一貫してP3及び被告P1の間で進められており(前記1(3)イ、ウ)、その過程でP2が関与ないしその内容を了承したことを認めるに足りる具体的な事情はない。
 また、P3及び被告P1が、被告会社設立当初から給与ないし役員報酬の支払を受けており、本件支払@により被告会社が原告から受領した資金がその支払原資に当てられていたことがうかがわれることに鑑みると、被告会社の設立及び本件販売契約は、本件ソフトウェアの販売により原告が上げた収益の一部を、P2を排除してP3及び被告P1が得るための便法として行われたものと見られる。そうである以上、合理的には、このスキームを知ったP2がこれに自ら関与し、又はその内容を了承するとも考え難い。現に、P2は、本件会合1の際、P3から示された本件販売契約書1につき初めて目にするものである旨発言すると共に、当該契約書の記載内容の不当性を繰り返し訴えており、他方、被告P1は、これを否定ないし疑義を示す趣旨の発言をしていない(前記1(4)ア)。
 したがって、本件販売契約の締結につき、P2が事後的にこれにつき同意したと認めることはできない。
(イ)これに対し、被告らは、本件会合1及び2後の事情を縷々指摘して、P2による事後的な同意の存在を主張する。
 まず、平成25年11月4日送信に係る被告P1宛てのメール等において、P2が、本件著作権が被告会社に帰属することを前提としているものとも理解し得る言動を行っていることは認められる(甲22、86、乙3の1、31)。もっとも、これらの言動は、いずれもP3、P4及びP5との間で発生した紛争に対する対応を検討している過程で行われたものであるところ、被告会社は、P3に対する平成25年7月19日付け回答書(甲96)において、P3契約書を根拠として本件ソフトウェアの権利関係は明らかである旨の回答をしている。他方、この紛争に関するP3側の取引先への著作権侵害警告書(平成27年1月〜同年5月に作成されたもの)においては、原告を著作権者とし、原告名義で送付されている(甲19〜21)。また、この過程において、被告P1は、平成27年9月頃、弁護士に対し、本件著作権を有するのは原告である旨を説明している(甲35、乙5、6)。
 そうすると、P2の上記言動は、その時点における方針として、本件著作権の帰属につきP3の関与の下に作成された本件各契約書に基づいて法律的に構成することで、上記紛争の解決に向けて有利に展開させる目的で行われたものとも理解し得るのであって、本件会合1を経てP2が本件販売契約書1の存在を知っていたことを踏まえても、このような言動をもってP2による事後的な同意を認めることはできない。
 税理士による原告及び被告会社の決算に関する報告、説明の際に同席していたことなどについては、そもそもその説明内容その他の具体的状況が明確でないことから、その点をもってP2による事後的な同意を認めることはできない。
 P2が本件会合1及び2の後である平成26年6月〜平成29年3月の間に被告会社から給料を受領していた点についても、本件会合2における被告P1の提案(前記1(4)イ)を受けて実施されたことはうかがわれるものの、その趣旨は必ずしも判然としない。もっとも、上記提案は、本件会合2の冒頭において、P3が本件ライセンス料名目で原告から被告会社に支払われた資金をいったん全て原告に返却することを提案し、これを受けた一連の協議の中で行われたものであることに鑑みると、その返却方法の1つとして被告P1の上記提案が行われたものと理解する余地は十分にあるといえる。また、その点を措くとしても、本件会合2において、支払原資についての発言は具体的には見当たらないことに鑑みると、P2による上記給料の受領は、本件販売契約締結につき事後的に同意したことをうかがわせる事情とは必ずしもいえない。
 その他被告らが縷々指摘する点を踏まえても、この点に関する被告らの主張は採用できない。
(ウ)以上より、少なくともP2が本件販売契約の締結につき事後的に同意したことを認めることはできない。そうである以上、本件販売契約はなお無効であることになる。
エ 小括
 したがって、本件著作権は、原告の設立当初に譲渡を受けたことで原告に帰属し、その後、被告会社に移転したことはない。
 また、原告設立後も、原告において、久門紙器や日東紙器からの受注に対応して本件ソフトウェアの修正等が行われ、その後も、P4及びP5も加わって本件ソフトウェアの開発が継続された(前記1(1)キ、コ)。これにより作成された部分に関しては、原告の発意に基づきその業務に従事する者である被告P1、P2、P4及びP5が職務上作成したプログラムの著作物であり、その作成時における契約等に別段の定めがあるとも認められないから、原告が著作者と認められる。
 他方、本件ライセンス料支払義務についても、本件販売契約が利益相反取引として無効である以上、原告は、被告会社に対し、この義務を負わないこととなる。
3 まとめ
 以上によれば、被告P1が原告の代表取締役として行った原告から被告会社への本件支払Aは、被告P1が原告及び被告会社の双方を代表して締結した本件販売契約に基づくものである以上、被告らの通謀により故意又は重大な過失に基づき行われたものといえると共に、被告P1が原告の代表取締役としての忠実義務及び善管注意義務に反する行為といえる。したがって、原告は、被告らに対し、共同不法行為に基づき、本件支払Aの合計額相当額1490万8300円の損害賠償請求権及びこれに対する不法行為後の日である本件本訴に係る訴状送達の日の翌日から支払済みまで改正前の民法所定の年5%の割合による遅延損害金の支払請求権を有すると認められる。また、原告は、本件著作権を有するものと認められる。
 他方、本件反訴については、本件ライセンス料支払義務を定める本件販売契約が無効である以上、被告会社は、原告に対し、これに基づく本件ライセンス料支払請求権を有しない。
第5 結論
 よって、原告の本訴請求は、いずれも理由があるから、これをいずれも認容し、被告会社の反訴請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

大阪地方裁判所第26民事部
 裁判長裁判官 杉浦正樹
 裁判官 杉浦一輝
 裁判官 布目真利子


別紙 物件目録
段ボール生産総合管理システム(ソフトウェア)「SeePlan(シープラン)」
(イ)「初期システム」
 システム名称 SeePlan(シープラン)
 開発期間 2004年から2005年まで
 対象ハードウェア Windows(Dos/v)パソコン
 OS Windows
 開発言語 C言語、C++言語、Visual BASIC
 データベース ユニファイ社製Unify
 プログラム本数 約400本
 総バイト数 約100MB
 システム対応業務 受注、発注、貼合、製函、在庫、出荷、照会、売上、仕入、販売管理、図面管理
 対応可能端末数 最大50台
 開発者 設立中の会社(コーネットシステム(株))
 バージョン Ver. 1.00

(ロ)「最新システム」
 システム名称 SeePlan(シープラン)
 開発期間 2006年から2017年まで
 対象ハードウェア Windows(Dos/v)パソコン
 OS Windows
 開発言語 C言語、C++言語、Visual BASIC
 データベース IBM社製Db2(旧名称DB2)
 プログラム本数 約640本
 総バイト数 約690MB
 システム対応業務 受注、発注、貼合、製函、在庫、出荷、照会、売上、仕入、販売管理、見積、図面管理、運賃計算
 対応可能端末数 最大100台
 開発者 コーネットシステム株式会社
 バージョン Ver. 3.02

【以下の別紙省略】
line
 
日本ユニ著作権センター
http://jucc.sakura.ne.jp/