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【事件名】朝日ネットへの発信者情報開示請求事件C
【年月日】令和3年7月20日
 東京地裁 令和3年(ワ)第7035号 発信者情報開示請求事件
 (口頭弁論終結日 令和3年5月25日)

判決
原告 A
同訴訟代理人弁護士 藤原宏
同 植松大雄
被告株式会社 朝日ネット
同訴訟代理人弁護士 福本悟


主文
1 被告は、原告に対し、別紙発信者情報目録記載の各情報を開示せよ。
2 訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由
第1 請求
 主文と同旨
第2 事案の概要
 本件は、原告が、氏名不詳者が被告のインターネット接続サービスを介してインターネット上のウェブサイトに投稿した別紙投稿記事目録記載の各記事(以下「本件各投稿記事」といい、同目録記載順に「本件投稿記事1」などという。)は、原告が著作権を有する別紙写真目録の写真(以下「本件写真」という。)に係る送信可能化権を侵害し、また、原告の名誉やプライバシー・肖像権を侵害するものであることが明らかであると主張して、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(以下「プロバイダ責任制限法」という。)4条1項の開示関係役務提供者である被告に対し、同項に基づき、その保有する発信者情報の開示を求める事案である。
1 前提事実(証拠等を掲げた事実以外は、当事者間に争いがない。)
(1)当事者
ア 原告は、会社員である個人である。
イ 被告は、インターネット接続サービスの提供を含む電気通信事業を営む株式会社であり、プロバイダ責任制限法4条1項の開示関係役務提供者に当たる。
(2)原告による写真の撮影等
 原告は、令和2年8月20日、自宅において、本件写真を撮影し、同年9月11日にインターネット上の写真・動画共有サイトであるインスタグラムに本件写真をアップロードした(甲11、23)。
(3)ツイッター上の各投稿
 氏名不詳者により、別紙投稿記事目録1〜10の各「投稿日時」欄記載の各日時において、ツイッターインクが提供しているツイート(tweet)と称される短文の投稿ができる「Twitter」(ツイッター)上に本件各投稿記事が投稿された(甲1〜10)。
2 争点
(1)本件各ツイートによる原告の権利侵害の明白性
ア 本件写真の著作物性の有無(争点1−1)
イ 送信可能化権の侵害の有無(争点1−2)
ウ 名誉毀損の成否(争点1−3)
エ 名誉感情の侵害の有無(争点1−4)
オ プライバシー及び肖像権侵害の有無(争点1−5)
(2)発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無(争点2)
3 争点に対する当事者の主張
(1)争点1−1(本件写真の著作物性の有無)
〔原告の主張〕
 原告は、家で犬がパソコンで仕事をしているような印象を与えるため、犬の目線の高さ付近から、ディスプレイ、キーボード、デスク、英語のある絵等を背景にして、ディスプレイに対面している犬を背後から撮影し、本件写真を制作した。このように、原告は、撮影の方向、構図等を決めて撮影しており、本件写真は、撮影者である原告の思想及び感情を創作的に表現したものといえ、著作物性が認められる。
〔被告の主張〕
 本件写真は、誰が撮影しても同じように撮影することができ、本件写真に加工や修正が加えられた形跡もなく、本件写真には著作物性が認められない。
(2)争点1−2(送信可能化権の侵害の有無)
〔原告の主張〕
 本件投稿記事1及び5は、原告が本件写真を投稿したインスタグラムのウェブページを、スクリーンショット機能を用いて複製し、ツイッター上に投稿するものである。これにより、本件写真は、ツイッター上のサーバに配置され、誰でも受信可能な状態に置かれたのであるから、原告の本件写真に係る送信可能化権が侵害されたことは明らかである。
〔被告の主張〕
 そもそも本件写真に原告の著作権は認められず、送信可能化権が侵害されているとはいえない。
(3)争点1−3(名誉毀損の成否)
〔原告の主張〕
 本件各投稿記事に係るアカウント名及び本件各投稿記事中に原告の氏名(ローマ字表記のもの)が含まれていること並びに本件各投稿記事(本件投稿記事1を除く。)に含まれる顔写真(以下「本件顔写真」という。)は全て原告のものであることから、本件各投稿記事は、原告に関するものであることが分かる。また、本件投稿記事1及び5には、本件顔写真が含まれていないものの、原告と面識のある者や原告の勤め先や取引先であれば、勤務している会社、所属部門、取引先、年齢及び性別によって、本件投稿記事1及び5が原告に関する記事であることが優に特定される。
 そして、本件各投稿記事は、●(省略)●これらの事実は、いずれも強い非難を浴びる行為であり、原告の社会的評価を低下させるものである。
 上記各事実は、いずれも真実ではなく、本件各投稿記事には公益性及び公共性存せず、違法性阻却事由はないのであるから、本件各投稿記事につき、原告に対する名誉毀損が成立することは明らかである。
〔被告の主張〕
 本件各投稿記事内には、原告の姓をローマ字表記した文字列の記載と、人間の顔写真が掲載されているが、これらをもって、原告を指すかどうかは明らかではなく、一般の読者の注意と読み方をして、原告と結びつけられるとは断定できない。また、本件各投稿記事によれば、ある特定の会社の特定の部門で、特定の取引先担当の●(省略)●男性のことであることは分かるが、これによって、直ちに原告に関する記事であるとは断定できないというべきである。
 加えて、本件各投稿記事の投稿の趣旨は、●(省略)●投稿者の意見ないし論評が記載されているものであり、本件各投稿記事に具体的事実の摘示はない。また、●(省略)●本件各投稿記事に公益性がないとは言い切れない。
(4)争点1−4(名誉感情の侵害の有無)
〔原告の主張〕
 本件各投稿記事が名誉毀損に当たらないとしても、投稿内容からすれば、原告の自尊心をひどく傷付けるものであって、精神的苦痛を与える侮辱行為であることは明らかである。そして、本件各投稿記事は、誰でも閲覧可能なツイッターで、ある程度具体性のある話を何度も繰り返して投稿されていること、●(省略)●となるキーワード、ハッシュタグを記載するなどして、情報の拡散を目的としていることが推察されることからしても、社会通念上許容される限度を超えて原告の名誉感情を侵害するものであることが明らかである。
〔被告の主張〕
 本件各投稿記事において触れられている●(省略)●受忍を求められる程度のものであって、本件各投稿記事が社会通念上許容される限度を超えるものとはいえない。
(5)争点1−5(プライバシー及び肖像権侵害の有無)
〔原告の主張〕
 本件各投稿記事において記載された各事実は、私生活上の事実らしく受け取られるおそれがあり、他人に知られたくないと考えられる事柄であって、一般の人々にいまだ知られていない事柄であるから、プライバシーに関する事項に属する。したがって、本件各投稿記事は、原告のプライバシーを侵害することは明らかである。
 原告は、従前、一部の者に公開しているフェイスブックや一般に公開するインスタグラムのアカウントを有しており、本件各投稿記事に利用された本件顔写真を掲載していたが、社会的評価を著しく低下させたり、事実無根の文章と併せて公表されたりすることについて承諾することはあり得ず、本件各投稿記事に掲載された写真は、原告の肖像権を侵害することが明らかである。
〔被告の主張〕
 本件各投稿記事に含まれている、●(省略)●という内容は、一般的であり、いつ、どこで、誰と、何をしたのかという原告の私生活に具体的に踏み込んだ内容とはなっておらず、プライバシーを侵害するとはいえない。
 また、本件各投稿記事に掲載されている本件顔写真は、原告自身がインスタグラムに掲載したものであり、原告は、一般に原告の顔写真が見られるような状態に置いているのであるから、肖像権侵害はない。
(6)争点2(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)
〔原告の主張〕
 原告は、本件各投稿記事を投稿した者に対し、不法行為に基づく損害賠償請求をする予定であるところ、この権利を行使するためには、本件各投稿記事について被告が保有する別紙発信者情報目録記載の各情報の開示を受ける必要がある。
〔被告の主張〕
 争う。
第3 当裁判所の判断
1 争点1−1(本件写真の著作物性の有無)について
 前記第2の1の前提事実、証拠(甲11、23)及び弁論の全趣旨によれば、本件写真は、原告が、犬が自宅で仕事をしているかのような印象を与えるために、パソコンのディスプレイ、キーボード、マウス、ライト等を配置したデスク及その背景に英語が記載されたポスターを掲示した自宅内において、服を着せた犬をディスプレイやポスターに対面して座らせ、これらの組合せを被写体として選択し、中でも、犬の背中を構図のほぼ中心に添え、カメラアングル等にも意を用い、適切なシャッターチャンスを捉えて撮影したことが認められる。
 そうすると、原告が撮影した本件写真は、撮影場所の選択、被写体の選択及び配置、構図、カメラのアングルの設定、シャッターチャンスの捕捉等の点において、撮影した原告の個性が現れているものと認められ、著作物性が認められる。
 そして、原告は、このような本件写真を創作した者であって、その著作者であるから、本件写真の著作権を有しているものといえる。
2 争点1−2(送信可能化権の侵害の有無)
 前記1のとおり、原告は、本件写真の著作権を有し、その公衆送信権を有しているところ、原告のインスタグラム上にアップロードされていた本件写真が、氏名不詳者により、当該インスタグラムのページをスクリーンショット機能を用いて複製され、本件投稿記事1及び5において掲載されたものである。
 このように、本件投稿記事1及び5により、本件写真がツイッター上のサーバに配置され、公衆が閲覧し得る状態に置かれたものであるから、本件写真に係る原告の送信可能化権が侵害されたことは明らかである。
3 争点1−3及び1−4(名誉毀損の成否及び名誉感情の侵害の有無)
(1)本件各投稿記事の同定可能性
ア 証拠(甲1〜10)及び弁論の全趣旨によれば、本件各投稿記事は、いずれも、ツイッター上に投稿されたものであるところ、ツイッターのユーザ名は、原告の姓をローマ字表記したものと同一であり、そのアカウントも原告の姓をローマ字表記したものと同一の文字列を有するものであること、記事の内容は、原告の●(省略)●を含み、本件投稿記事2〜4、6〜10は原告の顔写真を含んでいることが認められる。
イ 上記のように、ツイッターのユーザ名やアカウントの文字列に加え、原告の●(省略)●が記載されており、また、原告の顔写真が掲載されていることに照らせば、本件各投稿記事は、いずれも、一般閲覧者の普通の注意と読み方に照らし、原告を対象とするものと認識されるものであるといえる。
 したがって、本件各投稿記事は、いずれも、原告に関する記事であることが認められる。
(2)名誉毀損の成否
ア 投稿記事が、原告の名誉を毀損するか否かは、一般閲覧者の普通の注意と読み方に基づいて判断すべきであるところ、証拠(甲1〜10)によれば、本件各投稿記事には、いずれも、●(省略)●それぞれ摘示されている。
 しかして、今日、●(省略)●いずれも原告の社会的評価を低下させるものであると認められる。
イ 本件各投稿記事に含まれる上記の各事実について、これが真実であることをうかがわせる証拠は見当たらない。
 また、本件各投稿記事は、●(省略)●に係るものではある。しかしながら、証拠(甲1〜10)によれば、本件各投稿記事内には、●(省略)●このような投稿態様や、前記アで認定した本件各投稿記事の内容等からして、本件各投稿記事は、原告の社会的評価を低下せしめ、これを拡散することを意図したものといえ、専ら公益を図る目的でされたものと認めることはできない。
ウ よって、本件各投稿記事は、原告の名誉を侵害するものであることが明らかであると認められる。
(3)名誉感情の侵害の成否
 前記(1)ア及びイで認定した本件各投稿記事の内容及び投稿態様からすると、本件各投稿記事は、それぞれ社会通念上許容される程度を超え、法的に許されない侮辱行為といえるから、原告の名誉感情を侵害することが明らかであると認められる。
4 争点1−5(プライバシー及び肖像権の侵害の有無)
(1)プライバシー侵害
 前記のように、本件各投稿記事は、いずれも、原告を対象とするものであることが認められるところ、これらの各記事中には、原告が●(省略)●などの事実が記載されている。しかして、これらの事実は、私生活上の事実又は私生活上の事実と受け取られるおそれのある事柄であり、一般人の感受性を基準にすると、通常、これを公開することを欲しないものであり、かつ、一般に知られていない事柄であると認められる。
 そうすると、原告には、これらの事柄をみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益が認められるところ、本件各投稿記事は、原告に係る上記の事柄をみだりに公開し、これによって原告に不快、不安等の念を覚えさせたものというべきである。そして、本件各投稿記事の態様、内容等に照らし、これが社会通念上受忍すべき限度を超えていることは明らかである。
 以上によれば、本件各投稿記事は、原告のプライバシーを侵害するものであることが明らかである。
(2)肖像権侵害
ア 人の氏名、肖像等(以下、併せて「肖像等」という。)は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、これをみだりに利用されない権利を有すると解されるところ(最高裁判所平成24年2月2日第一小法廷判決・民集66巻2号89頁参照)、人の肖像等を無断で使用する行為が不法行為法上違法となるか否かは、対象者の社会的地位、使用の目的、態様及び必要性等を総合考慮し、対象者の人格的利益の侵害が社会生活上の受忍限度を超えるものかどうかにより判断すべきである。
イ しかして、証拠(甲2〜4、6〜10、12、22、23)及び弁論の全趣旨によれば、本件投稿記事2〜4及び6〜10には、本件顔写真が掲載されていることが認められるが、原告は、会社に勤める一般の個人であり、その肖像権を使用されることを受忍しなければならないような地位や立場にはない。また、本件各投稿記事は、前記3(1)アで認定したとおりの内容や投稿態様であり、原告の顔写真を用いて、これを閲覧する者をして、原告が●(省略)●原告を貶める目的でされたものといわざるを得ない。そうすると、本件顔写真の掲載については、その使用の目的に正当性が認められず、また、掲載の必要性も認められない。
 被告は、原告は、本件顔写真を自身のフェイスブック等のSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)に掲載して公表していたのであるから、本件顔写真が一般に使用されたり、公開されたりすることを認めていたものといえ、肖像権侵害は成立しないと主張する。しかしながら、通常、自己の顔写真を自己を貶める目的でされる記事と併せて使用することを承諾するとはいえず、本件においても、原告が、本件各投稿記事に本件顔写真を掲載することを承諾していたことをうかがわせる事実は認められず、被告の上記主張は採用できない。
 よって、本件投稿記事2〜4及び6〜10は、原告の肖像権を侵害することが明らかであると認められる。
5 争点2(発信者情報の開示を受けるべき正当な理由の有無)
 原告が、本件各投稿記事を投稿した者に対して不法行為に基づく損害賠償請求訴訟を提起するためには、別紙発信者情報目録記載の情報の開示が必要であることはその内容に照らし明らかであるから、原告の発信者情報開示請求には正当な理由が認められる。
第4 結論
 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用については民事訴訟法61条を適用することとして、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第47部
 裁判長裁判官 田中孝一
 裁判官 小口五大
 裁判官 鈴木美智子


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